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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163291
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】層状掃気式エンジン用マフラ
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20221019BHJP
   F01N 1/02 20060101ALI20221019BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20221019BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20221019BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
F01N3/24 J
F01N1/02 N
F01N3/28 301A
F01N3/28 301C
F01N3/28 301U
F02B25/04
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068140
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】虎見 健太
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 邦淑
(72)【発明者】
【氏名】桐原 直之
【テーマコード(参考)】
3G004
3G091
4D148
【Fターム(参考)】
3G004AA07
3G004CA04
3G004DA08
3G004GA06
3G091AA07
3G091AA15
3G091AB02
3G091AB03
3G091AB04
3G091BA01
3G091GA06
3G091HA05
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AB09
4D148BA30Y
4D148BA31Y
4D148BB02
4D148CA10
4D148CC10
4D148DA03
4D148DA20
(57)【要約】
【課題】既存のマフラ本体及び円柱状触媒に大きな改造や寸法変更を伴うことなく、円柱状触媒において排気ガスが流れないセル数を可及的に少なくし得て、円柱状触媒に排気ガスが偏り無く流されるようにでき、もって、所望する排気ガス浄化率を得ることができて、THC排出量を効果的に抑えることのできる費用対効果に優れた層状掃気式エンジン用マフラを提供する。
【解決手段】導入口16から前室R1内に導入されて隔壁板13に衝突して反転したガス流が円柱状触媒20における上端部に位置するセルを極力跳び越えないように、導入口16から隔壁板13までの距離A、前室R1の前壁面11aから円柱状触媒20の前端面20aまでの距離D、及び隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離T(触媒20の前室R1内への突出長)のうちの少なくとも一つが所定範囲内に設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状掃気式エンジンから排気ガスが導入導出されるマフラ本体と、
該マフラ本体内において、前記排気ガスを導入するための導入口がその上半部に設けられた前室と該前室より下流側の後室とに気密的に仕切るとともに前記排気ガスの導入方向に対して垂直に配設された隔壁板と、
その軸線を前記隔壁板に直交させかつ前記前室と前記後室とに跨るように、前記隔壁板の概ね下半分に取着された排気ガス浄化用の円柱状触媒と、を備える層状掃気式エンジン用マフラであって、
前記円柱状触媒は、前記前室と前記後室とを連通する直線状通路部を持つセルが格子状に多数設けられたモノリス型の触媒とされ、
前記導入口から前記前室内に導入されて前記隔壁板に衝突して反転したガス流が前記円柱状触媒における上端部に位置するセルを極力跳び越えないように、前記導入口から前記隔壁板までの距離A、前記前室の前壁面から前記円柱状触媒の前端面までの距離D、及び前記隔壁板から前記円柱状触媒の前端面までの距離Tのうちの少なくとも一つが所定範囲内に設定されていることを特徴とする層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項2】
前記反転したガス流の一部が前記円柱状触媒の外周に設けられた円筒状シェルの外周面に案内されながら該円柱状触媒における上端部に位置するセルにも流れ込むようにされていることを特徴とする請求項1に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項3】
前記円柱状触媒は、前記排気ガス中に含まれる少なくとも未燃焼燃料成分を酸化燃焼させ得る酸化触媒、酸化還元触媒、又は三元触媒で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項4】
前記円柱状触媒を前記隔壁板に直交する方向の任意の位置にて固定可能とする円形挿通穴を持つ触媒取着部が前記隔壁板の概ね下半分に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項5】
前記円柱状触媒は、前記触媒取着部に溶接により気密的に取着されていることを特徴とする請求項4に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項6】
前記前室の容積が前記層状掃気式エンジンの排気量の4~6倍に設定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項7】
前記導入口から前記隔壁板までの距離Aが21.5mm以上、前記前室の前壁面から前記円柱状触媒の前端面までの距離Dが5mm以上、前記隔壁板から前記円柱状触媒の前端面までの距離Tが7mm以上、前記導入口の下端から前記円柱状触媒の上端までの距離Hが9mm以上、の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項8】
前記導入口から前記隔壁板までの距離Aが25~30mm、前記前室の前壁面から前記円柱状触媒の前端面までの距離Dが5~20mm、前記隔壁板から前記円柱状触媒の前端面までの距離Tが7~16mm、前記導入口の下端から前記円柱状触媒の上端までの距離Hが9~20mm、の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【請求項9】
前記層状掃気式エンジンの排気量が20~40cc、前記円柱状触媒の直径Cが25~50mm、その長さLが15~35mmの範囲内であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の層状掃気式エンジン用マフラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈払機、チェンソー、パワーブロワー等の携帯型動力作業機に好適な層状掃気式エンジンに用いられる、排気ガス浄化用の触媒を内蔵したマフラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、掃気時に燃焼室に混合気が供給されるのに先立って掃気用空気(先行空気等とも称される)を吹き出させて燃焼ガスの掃気を行うようにされた層状掃気式の2サイクル(ストローク)エンジン(以下、層状掃気式エンジンと称する)はよく知られている。かかる層状掃気式エンジンでは、従来の一般的な2サイクルエンジンに比して未燃焼混合気の吹き抜け量が低減され、THC(HC成分の総排出量、全炭化水素とも称される)等の有害物質の排出を抑制できる(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
上記層状掃気式エンジンにおいて、排気ガス浄化性能をより一層高めるべく、排気系に配備されるマフラに排気ガス浄化用のモノリス型の円柱状触媒を内蔵させたものがある(特許文献2、3参照)。
【0004】
かかるモノリス型の円柱状触媒を内蔵した層状掃気式エンジン用マフラの一例を図6の概略構成図を参照して簡単に説明する。
【0005】
図示例のマフラ4は、前室R1を画成する、片面が開口した角皿状の前室パネル11と、後室R2を画成する、片面が開口した角皿状の後室パネル12とからなる箱形容器状のマフラ本体10を備える。マフラ本体10には、その内部を前室R1と後室R2とに気密的に仕切る隔壁板13が前室パネル11と後室パネル12とに挟まれるようにして配設されている。
【0006】
前室R1の前壁面11aの上半部には、層状掃気式エンジンのシリンダ8に設けられた排気ポート9から排気ガスを導入するための導入口16が設けられている。隔壁板13は排気ガスの導入方向に対して垂直に配設されている。
【0007】
隔壁板13の概ね下半分には、排気ガス浄化用のモノリス型の円柱状触媒20がその軸線を隔壁板13に直交させかつ前室R1と後室R2とに跨るように取着されている。
【0008】
前記円柱状触媒20は、排気ガス中に含まれる未燃焼燃料成分等のTHCを酸化燃焼させ得る酸化触媒であり、前室R1と後室R2とを連通する直線状通路部24aを持つセル24が格子状に多数設けられた金属製又はセラミック製の担体22を有し、この担体22の内部(各セル24)には、白金とロジウム等、白金族の酸化触媒材料がコーティングされ、また、その外周には金属製の円筒状シェル23が外嵌固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6591606号明細書
【特許文献2】米国特許第6647713号明細書
【特許文献3】特開2020-63700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記マフラに内蔵される円柱状触媒は、角柱状触媒に比べて製造が容易である反面、縦横寸法が同じ場合は断面積が小さくなるので排気ガス浄化率が低くなるというデメリットがある。
【0011】
これを補うためには、円柱状触媒に偏り無く排気ガスを流すことが重要となる。
【0012】
また、上記層状掃気式エンジンにおいては、マフラ内に掃気用空気、未燃焼混合気、燃焼ガスの順に導入されるので、これらのガスを均一に混合して触媒へと流すことで、空気中の酸素を触媒で有効に活用し得る。
【0013】
ところが、隔壁板13及び円柱状触媒20の前後方向(排気ガス導入方向)の位置を異にするマフラを多数個用意して、各マフラについてマフラ内及び円柱状触媒内のガス流動、流速をコンピュータシミュレーション、並びに、高速度カメラとPIV(粒子画像流速測定法)により可視化して解析したところ、次のような解決すべき課題が存在することが明らかとなった。
【0014】
すなわち、図6に示される如くのマフラ4においては、層状掃気式エンジンのシリンダ8に設けられた排気ポート9からの、燃焼ガス、掃気用空気、及び未燃焼混合気の吹き抜け分を含んだ排気ガスは、導入口16を介して前室R1内に真っ直ぐに導入されて隔壁板13に勢いよく衝突して反転し、拡散してミキシングされる。しかし、マフラ4の各部の寸法如何によっては、反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流は、図6において白抜き矢印で示されているように、円柱状触媒20における上端部に位置する複数列のセル部分を跳び越えて(ショートカットして)しまう。
【0015】
詳しくは、図6に示されるマフラ4を模擬した図7に示される如くの解析用モデル4Mにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速が濃淡で可視化されて示されているように、反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流は、円柱状触媒20における上端部に位置する複数列のセル24部分を跳び越えてしまい、このガス流が跳び越えてしまう複数列のセル24部分(白色部分)にはガスがほとんど流れず、したがって、このセル24部分では酸化燃焼による排気ガスの浄化が行われない。よって、当該触媒20によっては所望する排気ガス浄化率が得られず、THC排出量を充分には抑えられないという課題があった。
【0016】
ここで、触媒の排気ガス浄化率を高める方策としては、触媒の容積を大きくすることでマフラ内のガス流速を低下させ、ガスが全体に充満するように構成することが最も一般的である。しかし、触媒の容積を大きくすると、重量やコストも増大し、さらには、触媒を内蔵するマフラ自体の改造や大型化を招く可能性もあり、費用対効果の面で良策ではない。一方、単純に触媒を小型化していくと、図6に基づき前述したように、隔壁板に勢いよく衝突したガス流が、触媒の一部分にのみ到達するような、局所的な流れを形成してしまう。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、既存のマフラ本体及び円柱状触媒に大きな改造や寸法変更を伴うことなく、円柱状触媒において排気ガスが流れないセル数を可及的に少なくし得て、円柱状触媒に排気ガスが偏り無く流されるようにでき、もって、所望する排気ガス浄化率を得ることができて、THC排出量を効果的に抑えることのできる費用対効果に優れた層状掃気式エンジン用マフラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成すべく、本発明の発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
【0019】
すなわち、図6図7を用いて説明した如くの、隔壁板13に勢いよく衝突して反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流が円柱状触媒20における上端部に位置する複数列のセル24部分を跳び越えてしまうような現象は、導入口16から隔壁板13までの距離A、前室R1の前壁面11aから円柱状触媒20の前端面20aまでの距離D、及び隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離T(触媒20の前室R1内への突出長)のうちの少なくとも一つを所定範囲内に設定することによって生じないようにできることを見出した。
【0020】
本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラは、上記知見及びそれに基づく考察に立脚してなされたもので、基本的には、層状掃気式エンジンから排気ガスが導入導出されるマフラ本体と、該マフラ本体内において、前記排気ガスを導入するための導入口がその上半部に設けられた前室と該前室より下流側の後室とに気密的に仕切るとともに前記排気ガスの導入方向に対して垂直に配設された隔壁板と、その軸線を前記隔壁板に直交させかつ前記前室と前記後室とに跨るように、前記隔壁板の概ね下半分に取着された排気ガス浄化用の円柱状触媒と、を備え、前記円柱状触媒は、前記前室と前記後室とを連通する直線状通路部を持つセルが格子状に多数設けられたモノリス型の触媒とされ、前記導入口から前記前室内に導入されて前記隔壁板に衝突して反転したガス流が前記円柱状触媒における上端部に位置するセルを極力跳び越えないように、前記導入口から前記隔壁板までの距離A、前記前室の前壁面から前記円柱状触媒の前端面までの距離D、及び前記隔壁板から前記円柱状触媒の前端面までの距離Tのうちの少なくとも一つが所定範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0021】
好ましい態様では、前記反転したガス流の一部が前記円柱状触媒の外周に設けられた円筒状シェルの外周面に案内されながら該円柱状触媒における上端部に位置するセルにも流れ込むようにされる。
【0022】
他の好ましい態様では、前記円柱状触媒は、前記排気ガス中に含まれる少なくとも未燃焼燃料成分を酸化燃焼させ得る酸化触媒、酸化還元触媒、又は三元触媒で構成される。
【0023】
他の好ましい態様では、前記円柱状触媒を前記隔壁板に直交する方向の任意の位置にて固定可能とする円形挿通穴を持つ触媒取着部が前記隔壁板の概ね下半分に設けられる。
【0024】
他の好ましい態様では、前記円柱状触媒は、前記触媒取着部に溶接により気密的に取着される。
【0025】
別の好ましい態様では、前記前室の容積が前記層状掃気式エンジンの排気量の4~6倍に設定される。
【0026】
別の好ましい態様では、前記導入口から前記隔壁板までの距離Aが21.5mm以上、前記前室の前壁面から前記円柱状触媒の前端面までの距離Dが5mm以上、前記隔壁板から前記円柱状触媒の前端面までの距離Tが7mm以上、前記導入口の下端から前記円柱状触媒の上端までの距離Hが9mm以上、の範囲内に設定される。
【0027】
別の好ましい態様では、前記導入口から前記隔壁板までの距離Aが25~30mm、前記前室の前壁面から前記円柱状触媒の前端面までの距離Dが5~20mm、前記隔壁板から前記円柱状触媒の前端面までの距離Tが7~16mm、前記導入口の下端から前記円柱状触媒の上端までの距離Hが9~20mm、の範囲内に設定される。
【0028】
別の好ましい態様では、前記層状掃気式エンジンの排気量が20~40cc、前記円柱状触媒の直径Cが25~50mm、その長さLが15~35mmの範囲内である。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラでは、既存のマフラにおけるマフラ本体の外形寸法、導入口の位置、円柱状触媒の直径と長さ、及び円柱状触媒のマフラ本体内での高さ方向の位置を変更しないで、導入口から隔壁板までの距離A、前室の前壁面から円柱状触媒の前端面までの距離D、及び隔壁板から円柱状触媒の前端面までの距離T(触媒の前室内への突出長)のうちの少なくとも一つを所定範囲内に設定することによって、導入口から前室内に導入されて隔壁板に衝突して反転した排気ガスが円柱状触媒における上端部に位置するセルを極力跳び越えないようにされる。
【0030】
そのため、隔壁板に衝突して反転したガス流の一部は、円柱状触媒の外周に設けられた円筒状シェルの外周面に案内されながら該円柱状触媒における上端部に位置するセルにも流れ込むようにされ、これによって、円柱状触媒において排気ガスが流れないセル数を可及的に少なくし得て、円柱状触媒に排気ガスが偏り無く流されるようにでき、その結果、所望する排気ガス浄化率を得ることができて、THC排出量を効果的に抑えることができる。
【0031】
しかも、本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラは、円柱状触媒を含む既存のマフラ部品をそのまま用いて、事前に行われるコンピュータを用いた解析実験結果等に基づき、例えば、隔壁板から円柱状触媒の前端面までの距離T、言い換えれば、触媒の前室内への突出長(隔壁板に対する触媒の軸方向の位置)を調節するだけで、上記のような作用効果が得られるので、費用対効果に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラの一実施形態(実施例1)を示す概略断面図。
図2図1に示されるマフラを模擬した解析用モデルにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速を濃淡で可視化して示す図。
図3】本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラの一実施形態(実施例2)を示す概略断面図。
図4図3に示されるマフラを模擬した解析用モデルにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速を濃淡で可視化して示す図。
図5】本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラの一実施形態(実施例3)を示す概略断面図。
図6図1等に示されるマフラに対する既存比較品(比較例)のマフラを示す概略断面図。
図7図6に示されるマフラを模擬した解析用モデルにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速を濃淡で可視化して示す図。
図8】縦軸に触媒を通らないガスの比率をとり、横軸に隔壁板の基準位置からの距離をとって、隔壁板及び円柱状触媒の位置を変更した場合の触媒を通らないガスの比率を示すグラフ。
図9】マフラ寸法パラメータとして、導入口から隔壁板までの距離Aと前室の前壁面から円柱状触媒の前端面までの距離Dとをそれぞれ変更した場合の、触媒を通らないガスの比率を示す表。
図10】縦軸に触媒の前室内への突出長T(A-D)をとり、横軸に導入口から隔壁板までの距離Aをとって、触媒を通らないガスの比率を3段階の領域に分けて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0034】
図1図3図5は、本発明に係る層状掃気式エンジン用マフラ1、2、3の一実施形態(実施例1、2、3)を示す概略断面図、図6は、既存比較品(比較例)のマフラ4を示す概略断面図である。
【0035】
また、図2図4図7は、それぞれ前記マフラ1、2、4を模擬した解析用モデル1M、2M、4Mにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速を濃淡で可視化して示す図である。図2図4図7では、濃い部分がガスの流速が速い、薄い部分がガスの流速が遅い(ガスが流れていない)ことを示している。
【0036】
図1に示される実施例1のマフラ1、図3に示される実施例2のマフラ2、及び図5に示される実施例3のマフラ3は、前述した図6に示される比較例のマフラ4と基本構成は同じであるので、マフラ1、2、3についてはマフラ4の各部に対応する部分には共通の符号が付されている。
【0037】
マフラ1、2、3、4は、層状掃気式エンジンから排気ガスが導入導出される箱形容器状のマフラ本体10を備え、このマフラ本体10内の前後に、隔壁板13により気密的に仕切られた前室R1と後室R2とが設けられている。
【0038】
前室R1の上半部には、層状掃気式エンジンのシリンダ8に設けられた排気ポート9から排気ガスを導入するための導入口16が設けられている。隔壁板13は排気ガスの導入方向に対して垂直に配設されている。前室R1より下流側の後室R2の下部には、円柱状触媒20による浄化後の排気ガスを導出するための導出口17が設けられている。
【0039】
隔壁板13の概ね下半分には、排気ガス浄化用のモノリス型の円柱状触媒20がその軸線を隔壁板13に直交させかつ前室R1と後室R2とに跨るように取着されている。
【0040】
前記円柱状触媒20は、排気ガス中に含まれる未燃焼燃料成分等のTHCを酸化燃焼させ得る酸化触媒であり、前室R1と後室R2とを連通する直線状通路部24aを持つセル24が格子状に多数設けられた金属製又はセラミック製の担体22を有し、この担体22の内部(各セル24)には、白金とロジウム等、白金族の酸化触媒材料がコーティングされ、また、その外周には金属製の円筒状シェル23が外嵌固定されている。なお、前記円柱状触媒20は、酸化還元触媒、三元触媒等で構成してもよい。
【0041】
隔壁板13の概ね下半分には、円柱状触媒20を隔壁板13に直交する方向(触媒20の軸方向)の任意の位置にて固定可能とする円形挿通穴14aを持つ触媒取着部14が設けられている。円柱状触媒20は、前記触媒取着部14に、溶接、接着、ろう付け等の手法により気密的に取着されている。
【0042】
マフラ1、2、3、4が用いられる層状掃気式エンジンは、排気量が30cc程度(例えば20~40cc、特に28~32cc程度)であり、マフラ1、2、3、4における前室R1の容積は、排気量の4~6倍とされる(これについての詳細説明が必要なら、特許文献3を参照されたい。)
【0043】
ここで、前述した如くに、本発明の発明者等は、図6図7を用いて説明した如くの、隔壁板13に衝突して反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流が円柱状触媒20における上端部(外周部)に位置する複数列のセル24部分を跳び越えてしまうような現象は、導入口16から隔壁板13までの距離A、前室R1の前壁面11aから円柱状触媒20の前端面20aまでの距離D、及び隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離T(触媒20の前室R1内への突出長)のうちの少なくとも一つを所定範囲内に設定することによって生じないようにできることを見出している。
【0044】
詳細には、図8に、縦軸に触媒20を通らないガスの比率をとり、横軸に隔壁板13の基準位置からの距離をとって、隔壁板13及び円柱状触媒20の前後方向の位置の変更による触媒を通らないガスの比率の変化を示す。
【0045】
上記隔壁板13の基準位置とは、実施例2のマフラ2(図3)における隔壁板13の前後方向の位置のことであり、円柱状触媒20の前後方向中央の位置のことである。図6に示される比較例のマフラ4は、隔壁板13が前記基準位置から導入口16側(前方ないし風上側)へ7mm移動している。図5に示される実施例3のマフラ3は、隔壁板13が前記基準位置から導入口16側(前方ないし風上側)へ3.5mm移動している。また、図1に示される実施例1のマフラ1は、隔壁板13が前記基準位置から後方ないし風下側へ5mm移動している。
【0046】
マフラ1、2、3、4で使用される円柱状触媒20は、直径Cが約30mm、その長さLが約21mmの前述したモノリス型の触媒である。
【0047】
上記触媒20を通らないガスの比率とは、触媒20においてガスの流れていない部分の比率であり、ここでは、中心断面で見たときのガスの流れていないセル数を全セル数で除して算出した比率である。
【0048】
マフラ1、2、3、4においては、円柱状触媒20の、マフラ本体全体に対する位置は同じ(D=14.5mmで固定)で、隔壁板13の前後方向の位置のみが異なる。なお、図8において、線上にプロットされている点は、円柱状触媒20の位置を固定し、隔壁板13の前後方向の位置のみを変更した場合の円柱状触媒20を通らないガスの比率である。また、図8において、プロットされている点の隣に番号が表記されている点は、隔壁板13の前後方向の位置に加えて円柱状触媒20の前後方向の位置も変更している。図8における番号は、基本的に図9における番号に対応している。
【0049】
隔壁板13が前記基準位置から導入口16側(前方ないし風上側)へ7mm移動した(つまり、T=3.5mm)図6に示される比較例のマフラ4では、図7に示される如くの解析用モデル4Mにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速が濃淡で可視化されて示されているように、反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流は、円柱状触媒20における上端部に位置する複数列のセル24部分を跳び越えてしまい、このガス流が跳び越えてしまう複数列のセル24、24、・・・部分(白色部分)はガスがほとんど流れない。よって、触媒20を通らないガスの比率は20%程度となっており、さらに、触媒20内の流速差も大きいので、このマフラ4はNGである。
【0050】
また、隔壁板13が前記基準位置から導入口16側(前方ないし風上側)へ3.5mm移動した(つまり、T=7.0mm)図5に示される実施例3のマフラ3では、解析用モデルは示されていないが、反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流は、円柱状触媒20における上端部に位置する1列程度のセル24部分を跳び越えているが、触媒20を通らないガスの比率は14%程度であり、許容範囲(OK)である。
【0051】
また、隔壁板13が前記基準位置にある(つまり、T=10.5mm)図3に示される実施例2のマフラ2では、マフラ2を模擬した図4に示される如くの解析用モデル2Mにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速が濃淡で可視化されて示されているように、反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流は、円柱状触媒20における上端部に位置する1列弱程度のセル24部分を跳び越えているが、触媒20を通らないガスの比率は6%強であり、このマフラ2は良品である。
【0052】
また、隔壁板13が前記基準位置から後方ないし風下側へ5mm移動した(つまり、T=15.5mm)図1に示される実施例1のマフラ1では、マフラ1を模擬した図2に示される如くの解析用モデル1Mにおいてマフラ内(A)及び円柱状触媒内(B)のガス流動、流速が濃淡で可視化されて示されているように、隔壁板13に衝突して反転したガス流の一部が円柱状触媒20の円筒状シェル23の(前室R1側又は導入口16側の)外周面に案内されながら該円柱状触媒20における上端部に位置するセル24にも流れ込む。よって、触媒20を通らないガスの比率はほぼ0%であり、さらに、触媒20内の流速差も小さいので、このマフラ1は優良品である。
【0053】
なお、触媒20を通らないガスの比率は、7%未満(実施例1、2)になることが好ましいが、7~14%の範囲内(実施例3)であれば許容範囲(OK)とし、14%を超えるとNGとしている。
【0054】
なお、導入口16の下端から円柱状触媒20の上端までの距離Hについては9mm以上確保しておくことが好ましいことが分かっている。
【0055】
図9は、マフラ寸法パラメータとして、導入口16から隔壁板13までの距離Aと前室R1の前壁面11aから触媒20の前端面20aまでの距離Dとをそれぞれ変更した場合の、触媒20を通らないガスの比率を示す表である。前述のように、図9の番号は図8の番号に対応している。
【0056】
図9において、番号17(A=18.0mm、D=2.0mm)のサンプルがNGとなっているのは、前室R1の前壁面11aから触媒20の前端面20aまでの距離Dが極端に狭くなっており、触媒20の外周付近へガスが流れ難くなり、触媒20の中心にガスの流れが集中して、触媒20内のガスの流れが全体的に不均一になってしまったためである。そのため、前室R1の前壁面11aから触媒20の前端面20aまでの距離Dは、5mm以上確保する必要があることが分かる(OK品である番号13、18のサンプルを併せて参照)。
【0057】
また、図10は、縦軸に触媒20の前室R1内への突出長T(A-D)をとり、横軸に導入口16から隔壁板13までの距離Aをとって、触媒20を通らないガスの比率を3段階の領域に分けて示す図である。
【0058】
上述の説明より、触媒20の前室R1内への突出長T(A-D)は7mm以上確保する必要があるため、この条件の下で好ましい導入口16から隔壁板13までの距離Aの範囲としては、25mm以上である。ただし、触媒20の前室R1内への突出長T(A-D)がある程度確保できていれば、導入口16から隔壁板13までの距離Aが25mm未満であっても(例えば実施例3の21.5mm以上であれば)、触媒20を通らないガスの比率が7~14%の許容範囲(OK)を満たし得る。
【0059】
上記の図8図9図10に示される解析実験結果等から、エンジンの排気量が30cc程度(例えば20~40cc、特に28~32cc程度)で、円柱状触媒20は、直径Cが25~50mm、その長さLが15~35mmの前述したモノリス型の既存品である場合、導入口16から隔壁板13までの距離Aを21.5mm以上、前室R1の前壁面11aから円柱状触媒20の前端面20aまでの距離Dを5mm以上、隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離Tが7mm以上、導入口16の下端から円柱状触媒20の上端までの距離Hを9mm以上、の範囲内に設定することが望ましい。また、マフラの全体寸法等も考慮すると、導入口16から隔壁板13までの距離Aを25~30mm、前室R1の前壁面11aから円柱状触媒20の前端面20aまでの距離Dを5~20mm、隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離Tが7~16mm、導入口16の下端から円柱状触媒20の上端までの距離Hを9~20mm、の範囲内に設定することが好ましい。こうすれば、隔壁板13に勢いよく衝突して反転したガス流のうちの円柱状触媒20の上方のガス流が円柱状触媒20における上端部(外周部)に位置する複数列のセル部分を跳び越えてしまうような現象を生じなくすることができ、触媒20を通らないガスの比率を14%程度以下とすることができる。
【0060】
以上の説明から理解されるように、本実施形態の層状掃気式エンジン用マフラ1では、既存のマフラにおけるマフラ本体の外形寸法、導入口の位置、円柱状触媒の直径と長さ、及び円柱状触媒のマフラ本体内での高さ方向の位置を変更しないで、導入口16から隔壁板13までの距離A、前室R1の前壁面11aから円柱状触媒20の前端面20aまでの距離D、及び隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離T(触媒20の前室R1内への突出長)のうちの少なくとも一つを所定範囲内に設定することによって、導入口16から前室R1内に導入されて隔壁板13に衝突して反転した排気ガスが円柱状触媒20における上端部に位置するセル24を極力跳び越えないようにされる。このように、円柱状触媒周辺構造のみを特定することで、マフラを大型化することなく触媒の反応を効率化でき、層状掃気式エンジンを含めた作業機全体のコンパクト性にも貢献できる。
【0061】
そのため、隔壁板13に衝突して反転したガス流の一部は、円柱状触媒20の外周に設けられた円筒状シェル23の外周面に案内されながら該円柱状触媒20における上端部に位置するセル24にも流れ込むようにされ、これによって、円柱状触媒20において排気ガスが流れないセル数を可及的に少なくし得て、円柱状触媒20に排気ガスが偏り無く流されるようにでき、その結果、所望する排気ガス浄化率を得ることができて、THC排出量を効果的に抑えることができる。
【0062】
しかも、本実施形態の層状掃気式エンジン用マフラ1は、円柱状触媒20を含む既存のマフラ部品をそのまま用いて、事前に行われるコンピュータを用いた解析実験結果等に基づき、例えば、隔壁板13から円柱状触媒20の前端面20aまでの距離T、言い換えれば、触媒20の前室R1内への突出長(隔壁板13に対する触媒20の軸方向の位置)を調節するだけで、上記のような作用効果が得られるので、費用対効果に優れたものとなる。
【0063】
なお、上記実施形態では、排気量が30cc程度の層状掃気式エンジンに用いられるマフラについて説明したが、本発明に係るマフラは、排気量が30cc程度以外の層状掃気式エンジンにも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1、2、3、4 層状掃気式エンジン用マフラ
8 シリンダ
9 排気ポート
10 マフラ本体
11 前室パネル
11a 前壁面
12 後室パネル
13 隔壁板
14 触媒取着部
14a 円形挿通穴
16 導入口
17 導出口
20 円柱状触媒
20a 前端面
22 担体
23 円筒状シェル
24 セル
24a 直線状通路部
R1 前室
R2 後室
A 導入口から隔壁板までの距離
D 前室の前壁面から円柱状触媒の前端面までの距離
T 隔壁板から円柱状触媒の前端面までの距離
H 導入口の下端から円柱状触媒の上端までの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10