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特開2022-163324プラスチックシンチレータおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163324
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】プラスチックシンチレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/203 20060101AFI20221019BHJP
   C01G 29/00 20060101ALI20221019BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G01T1/203
C01G29/00
C09K11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068191
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(72)【発明者】
【氏名】戸田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】岸本 俊二
【テーマコード(参考)】
2G188
4G048
【Fターム(参考)】
2G188BB02
2G188BB04
2G188CC10
4G048AA02
4G048AA08
4G048AB04
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE08
(57)【要約】
【課題】本発明は、高時間分解能で、高計数率かつ高検出効率のプラスチックシンチレータを提供することを目的とする。
【解決手段】プラスチックと、有機蛍光化合物と、金属酸化物粒子とを含有するプラスチックシンチレータであって、前記金属酸化物粒子が水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子である、プラスチックシンチレータ。前記プラスチックが、芳香族ビニルの少なくとも一つと(メタ)アクリレートの少なくとも一つとの重合体である、請求項1記載のプラスチックシンチレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックと、有機蛍光化合物と、金属酸化物粒子とを含有するプラスチックシンチレータであって、
前記金属酸化物粒子が水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子である、プラスチックシンチレータ。
【請求項2】
前記プラスチックが、芳香族ビニルの少なくとも一つと(メタ)アクリレートの少なくとも一つとの重合体である、請求項1記載のプラスチックシンチレータ。
【請求項3】
前記水酸基不含有カルボン酸が、炭素数が3以上22以下の脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸である、請求項1または2記載のプラスチックシンチレータ。
【請求項4】
前記水酸基含有カルボン酸が、炭素数が6以上22以下の水酸基含有脂肪族モノカルボン酸である、請求項1から3のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータ。
【請求項5】
プラスチックシンチレータ全量に対して、前記酸化ビスマスナノ粒子の金属酸化物としての含有量が5質量%以上70質量%以下である、請求項1から4のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータ。
【請求項6】
前記有機蛍光化合物が、2-(4-ビフェニリル)-5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)、p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)、ベンゾフェノン、および4,4’’’-ビス(2-ブチルオクチルオキシ)-p-クアテルフェニル(BIBUQ)から選ばれる少なくとも1つである、請求項1から5のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータ。
【請求項7】
重合性モノマーと、
有機蛍光化合物と、
水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸によって表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子と、
を混合して分散体を得る第1の工程、
および、その得られた分散体中の前記重合性モノマーを重合させる第2の工程、
を含む、請求項1から6のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータの製造方法。
【請求項8】
前記重合性モノマーが、芳香族ビニルの少なくとも一つおよび(メタ)アクリレートの少なくとも一つを含有する、請求項7記載のプラスチックシンチレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出に用いるプラスチックシンチレータ、特に、金属酸化物を含有するプラスチックシンチレータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にα線、β線等の荷電粒子である放射線は、物質を通過する際にその物質中の原子又は分子を電離、励起又は解離し、エネルギーを失う。物質に伝達されたエネルギーはさらに熱運動エネルギーもしくは電磁波として放出される。この物質が蛍光を発する物質等である場合、そのエネルギーの多くの部分が可視領域の光として放出され、この現象をシンチレーション、放出される光をシンチレーション光という。
【0003】
X線、γ線、中性子線等の電荷を有しない放射線の場合も、これらの放射線が物質と相互作用する際に放出される二次的な荷電粒子により同様のシンチレーションが起こるため、これを利用して放射線を検出できる。
【0004】
以上のようなシンチレーションを起こす物質を一般にシンチレータと総称し、素粒子物理学、物質生命科学等の学術分野や医療、産業といった幅広い分野で放射線検出器に用いられている。陽電子断層撮像装置(PET)や陽電子消滅寿命測定装置等に用いられる放射線検出器に用いるシンチレータにおいては、消滅γ線の発生位置を正確に判別して精度の高い画像をえるために、高い時間分解能、および検出効率をもつことが求められている。
【0005】
シンチレータには、無機シンチレータと有機シンチレータとがある。
無機シンチレータは、実効原子番号が大きいことから一般に検出効率が高く、発光量が大きいという利点を有しているが、多くの無機シンチレータは発光の減衰時間が長いために達成できる時間分解能及び計数率が低いという問題がある。また、減衰時間が短い発光成分の割合が低い、あるいは潮解性や自身に含まれる放射性核種に起因するバックグラウンドの上昇などの問題点を有している。
【0006】
このような無機シンチレータとしては、例えば、NaI(Tl)シンチレータやBaF2シンチレータ、LaBr3(Ce)などが挙げられる。NaI(Tl)シンチレータは発光量が比較的大きいものの、発光の減衰時間が約230nsと大きいために時間分解能が悪い。BaF2シンチレータは、減衰時間が0.6nsである短寿命成分が含まれているものの、減衰時間が620nsである長寿命成分が全発光量に対して75%程度と多く含まれているため、やはり高計数率測定等に用いることは困難である。LaBr3(Ce)シンチレータは、減衰時間が約20nsと比較的短寿命であるが、結晶中には放射性核種の138Laと、不純物として混入する227Ac系列核種とが存在しており、これらの自己放射能に起因するバックグラウンドが存在するというデメリットがある。
【0007】
他方、有機シンチレータとしては、ポリスチレン、ポリビニルトルエン等の高分子ポリマーに有機発光化合物を溶解した、いわゆるプラスチックシンチレータが代表的なものとして挙げられる。
例えば、非特許文献1には、いくつかのプラスチックシンチレータが記載されている。これらのプラスチックシンチレータは前記無機シンチレータと比較して発光の減衰時間が短いために、良好な時間分解能および高い計数率を達成することができるという利点を有しているが、シンチレータを構成する原子(C、H、O、N)の原子番号が小さく、X線やγ線とシンチレータ中の電子との電磁相互作用が起こる確率が低いために検出効率が低いという問題点を有していた。
【0008】
そこで、X線やγ線に対する検出効率を上げるために、ポリビニルトルエンに重金属である鉛を1.5~5質量%充填したプラスチックシンチレータ(EJ-256、ELJEN TECHNOEOGY社)が市販されている。しかしながら、充填量が少ないために大きな検出効率の上昇は見込めず、また、鉛は有害金属であるため使用は避けられることが望ましい。
【0009】
これらの問題点を改良するためいくつかの検討がなされている。例えば、特許文献1のプラスチックシンチレータは、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理された酸化ジルコニウムナノ粒子または酸化ハフニウムナノ粒子を含むが、これらがプラスチックシンチレータの基材であるプラスチックに高濃度で分散できるため、高時間分解能で、かつ高計数率と高検出効率とを達成できるとしている。
【0010】
ところで、X線やγ線を検出する場合に起こる電磁相互作用は電子との反応であるため、一つの原子が有する電子数に等しい原子番号Zに依存する。とくにX線領域で主たる反応である光電効果の場合、その反応断面積τにはτ∝Zという関係がある。したがってプラスチックシンチレータに原子番号の大きな重元素を添加することはプラスチックシンチレータの検出効率を高めるための有効な方法の一つである。
【0011】
そこで、原子番号がより大きな原子であるビスマスの酸化物を用いたプラスチックシンチレータ、例えば、フェニルプロピオン酸で表面処理された酸化ビスマス粒子(非特許文献2)や、溶媒蒸発法による酸化ビスマス粒子(非特許文献3)を含有するプラスチックシンチレータが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】シンチレータを用いる放射線計測 小林正明著 2014年10月
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics,57巻,052203、2018年
【非特許文献3】Radiation Measurements, 135巻,106361、2020年
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許6810941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献2および3のプラスチックシンチレータは、酸化ビスマスの含有量を上げることで検出効率を上げることができたとしているが、その含有濃度はせいぜい10~20質量%であり、分散性が悪く透明性にも問題があるため、シンチレータの厚みも1mm以下に薄くせざるを得ず、酸化ビスマスの含有量を上げるにしたがって発光量もEJ-256と比較して大きく低下するために、実用的な検出効率と発光量を達成できたといえるものではなかった。
【0015】
そこで、本発明は、高時間分解能で、高計数率かつ高検出効率のプラスチックシンチレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意検討した結果、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理した酸化ビスマスナノ粒子が、プラスチックシンチレータの基材であるプラスチックに高濃度で分散できること、その結果、高時間分解能で、高計数率と高検出効率とを達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)プラスチックと、有機蛍光化合物と、金属酸化物粒子とを含有するプラスチックシンチレータであって、
前記金属酸化物粒子が水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子である、
プラスチックシンチレータ、
(2)前記プラスチックが、芳香族ビニルの少なくとも一つと(メタ)アクリレートの少なくとも一つとの重合体である、(1)記載のプラスチックシンチレータ、
(3)前記水酸基不含有カルボン酸が、炭素数が3以上22以下の脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸である、(1)または(2)記載のプラスチックシンチレータ、
(4)前記水酸基含有カルボン酸が、炭素数が6以上22以下の水酸基含有脂肪族モノカルボン酸である、(1)から(3)のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータ、
(5)プラスチックシンチレータ全量に対して、前記酸化ビスマスナノ粒子の金属酸化物としての含有量が5質量%以上70質量%以下である、(1)から(4)のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータ、
(6)前記有機蛍光化合物が、2-(4-ビフェニリル)-5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)、p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)、ベンゾフェノン、および4,4’’’-ビス(2-ブチルオクチルオキシ)-p-クアテルフェニル(BIBUQ)から選ばれる少なくとも1つである、(1)から(5)のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータ、
(7)重合性モノマーと、
有機蛍光化合物と、
水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸によって表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子と、
を混合して分散体を得る第1の工程、
および、その得られた分散体中の前記重合性モノマーを重合させる第2の工程、
を含む、(1)から(6)のいずれか一つに記載のプラスチックシンチレータの製造方法、
(8)前記重合性モノマーが、芳香族ビニルの少なくとも一つおよび(メタ)アクリレートの少なくとも一つを含有する、(7)記載のプラスチックシンチレータの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプラスチックシンチレータは、金属酸化物粒子として、分散性に優れた水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理された酸化ビスマスナノ粒子を用い、かつ、基材となるプラスチックも透明で、これらの金属酸化物粒子および有機蛍光化合物との分散性に優れるため、これらの金属酸化物粒子を高濃度で含有させることができ、高濃度でも透明性に優れる。そのため発光量を保ちながらX線に対する検出効率を上げることができる。十分な大きさで速い発光によるパルス信号を使えば、高い計数率と高い時間分解能が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更、実施の形態が可能である。
【0020】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0021】
本発明のプラスチックシンチレータは、プラスチックと、有機蛍光化合物と、金属酸化物粒子とを含有するプラスチックシンチレータであって、前記金属酸化物粒子が水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子である。
【0022】
前記プラスチックは、芳香族ビニルの少なくとも一つと(メタ)アクリレートの少なくとも一つとの重合体である。
【0023】
前記芳香族ビニルは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル基を有する芳香族化合物が例示できる。
【0024】
前記(メタ)アクリレートは、単官能(メタ)アクリレートであっても、多官能(メタ)アクリレートでもよく、特に選ぶものではないが、ベンゼン環等の芳香環をもつ(メタ)アクリレートおよびカルボン酸を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一つが好ましく用いられる。
【0025】
前記したベンゼン環等の芳香環をもつ(メタ)アクリレートは、前記プラスチック中の芳香族ビニルに由来した部分との相溶性向上に寄与するものと考えられ、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0026】
また、前記したカルボン酸を有する(メタ)アクリレートは、金属酸化物粒子の分散性向上に寄与すると考えられ、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸等が例示される。
【0027】
前記重合体中の前記芳香族ビニルと前記(メタ)アクリレートとの配合比率は、表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子の配合量にもよるが、前記芳香族ビニルを100質量部としたとき前記(メタ)アクリレートが2~20質量部が好ましい。(メタ)アクリレートが2質量部未満では表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子の分散性が低下し、20質量部を超えると発光量が低下するためシンチレータとして使用可能なレベルに到らない。
【0028】
なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」はアクリレートとメタクリレートの両者を示すものとして使用される。
【0029】
前記有機蛍光化合物としては、p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)、ベンゾフェノン、4,4’’’-ビス(2-ブチルオクチルオキシ)-p-クアテルフェニル(BIBUQ)等が例示され、その少なくとも1種が使用できる。
前記有機蛍光化合物の含有量は、得られるプラスチックシンチレータに対して0.05質量%以上10質量%以下が好ましい。有機蛍光化合物の含有量が0.05質量%未満では十分な発光量が得られず、有機蛍光化合物の含有量が10質量%を超えると、濃度消光などによりかえって発光量が低下する。
【0030】
本発明で用いる金属酸化物粒子は、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸とで表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子である。
【0031】
前記水酸基不含有カルボン酸としては、脂肪族および芳香族のモノカルボン酸が挙げられ、脂肪族であれば、飽和、不飽和を問わず、枝分かれまたはフェニル基等の芳香族置換基を有してもよい炭素数が3から22のモノカルボン酸であり、好ましくは3から8である。3未満では金属酸化物粒子表面に十分な疎水性を付与できないためプラスチックやモノマーとの分散性が低下し、22を越えると表面がべたつく傾向となるうえ、分子量が大きいため表面処理量が増えて酸化ビスマスナノ粒子の実効成分の低下をもたらす。
脂肪族モノカルボン酸としては、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘネイコサン酸、ドコサン酸等の飽和モノカルボン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、魚油を鹸化分解して得られる脂肪酸等の不飽和脂肪酸およびそれらの幾何異性体、並びに、3-フェニルプロピオン酸、桂皮酸等が例示される。また、水酸基不含有芳香族モノカルボン酸は、芳香環にカルボン酸残基が直接結合しているモノカルボン酸で、安息香酸、トルイル酸等が例示される。
【0032】
前記水酸基含有カルボン酸としては、飽和、不飽和を問わず、枝分かれまたはフェニル基等の芳香族置換基を有してもよい炭素数が6から22の水酸基含有脂肪族モノカルボン酸が好ましく、具体的には、メバロン酸、パントイン酸、2-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、2-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等が例示される。
【0033】
前記水酸基不含有カルボン酸は、酸化ビスマスナノ粒子表面に疎水性を与えることによりモノマーまたはその重合体中での分散安定性に寄与するものと考えられる。また、前記水酸基含有脂肪族カルボン酸は、詳細は不明であるが、その水酸基が、酸化ビスマスナノ粒子とモノマーまたはその重合体との間で、カルボニル基もしくはカルボキシル基との水素結合により分散安定化に寄与しているものと考えられる。
【0034】
なお、本発明で用いられる酸化ビスマスナノ粒子は、結晶形を選ばないが、酸化ビスマスナノ粒子粉末が黄色く着色するとプラスチックシンチレータの発光量が大きく低下するので、白色粉末として得られることが好ましい。
【0035】
本発明の酸化ビスマスナノ粒子はそれぞれが水酸基不含有カルボン酸と水酸基含有カルボン酸とで表面処理されていれば、その製造方法について、特に選ぶものではないが、例えば、トリフェニルビスムチンと、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸とを混合し、その得られた混合物について80~140℃での反応に供して製造される。
【0036】
本発明のプラスチックシンチレータは、プラスチックが熱可塑性である場合は、そのプラスチックと、前記有機蛍光化合物と、前記した水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸によって表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子と、を混練して製造することもできるが、この酸化ビスマスナノ粒子を高濃度で含んでも透明性が高いプラスチックシンチレータとするには、重合性モノマーと、前記有機蛍光化合物と、前記した水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸によって表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子と、を混合分散させてから、その得られた分散体中の前記重合性モノマーを重合させて製造するのが好ましい。
【0037】
前記重合性モノマーは、芳香族ビニルの少なくとも一つと(メタ)アクリレートの少なくとも一つとを含む。
【0038】
前記芳香族ビニルは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル基を有する芳香族化合物が例示できる。
【0039】
前記(メタ)アクリレートは、単官能(メタ)アクリレートであっても、多官能(メタ)アクリレートでもよく、特に選ぶものではないが、ベンゼン環等の芳香環をもつ(メタ)アクリレートおよびカルボン酸を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一つが好ましく用いられる。
【0040】
前記したベンゼン環等の芳香環をもつ(メタ)アクリレートとしては、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0041】
また、前記したカルボン酸を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸等が例示される。
【0042】
本発明のプラスチックシンチレータは、前記重合性モノマーと、前記有機蛍光化合物と、前記した水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸によって表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子と、を混合分散させた後、ラジカル発生剤の存在下で加熱するか、重合開始剤の存在下で活性エネルギー線照射することによって重合させ、製造できる。
【0043】
このようにして得られたプラスチックシンチレータは、酸化ビスマスナノ粒子を高濃度に含有しても透明性が高く、発光量を保ちながらX線に対する高い検出効率を達成できる。
【0044】
なお、本発明において、透明性が高いとは、印刷物の上にプラスチックシンチレータの試験片をおいてその印刷物を認識できる程度をいい、具体的には可視光(380~780nm)の平均透過率で60%以上である。
【実施例0045】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに
限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は質量部、%は質量%を意味する。
【0046】
(合成例1:酸化ビスマスナノ粒子の合成)
プロピオン酸26.9g、リシノール酸26.9gの混合溶液にトリフェニルビスムチン46.3gを添加し、得られた混合物を窒素雰囲気下で100℃、5時間の撹拌を行い、透明溶液を得た。室温まで冷却後、3Lのアセトンに、得られた透明溶液を添加、ポアサイズ0.2μmフィルタで濾過し、得られた白色物を60℃で一昼夜真空乾燥を行い、33.6gのカルボン酸で表面処理された酸化ビスマス粉末を得た。カルボン酸の表面処理量は、PerkinElmer社製の熱質量測定装置TGA8000により、窒素雰囲気下40℃/分の速度で800℃まで昇温した質量減少率から35.48%で、結晶子径はXRDより5.4nmであった。
【0047】
本発明において酸化ビスマスナノ粒子の平均粒子径は、X線回折装置(株式会社リガク製、全自動多目的X線回折装置 SmartLab)を用い、測定条件を、X線管電圧40kV、X線管電電流30mA、走査範囲2θは10.0-65.0°とし、X線回折測定の2θ=32.67°付近の(200)面による回折強度からその半価幅βを求め、下記数1のScherrer式において、Scherrer定数Kを0.9、X線管球の波長λを1.54059として結晶子径Dを求め、その値とした。
【0048】
(数1)
D=K ・λ/(β・cosθ)
【0049】
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子を用いて以下の実施例1~8のプラスチックシンチレータを製造した。
【0050】
(実施例1)
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子1.1部、スチレンモノマー9.1部、3-フェノキシベンジルアクリレート0.2部、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート0.2部および2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール0.3部をバイアルに添加、超音波分散させ、この混合液が透明になってから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.08部加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを10%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0051】
(実施例2)
酸化ビスマスナノ粒子を2.5部としたほかは実施例1と同様にして、酸化ビスマスを20%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0052】
(実施例3)
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子4.3部、スチレンモノマー8.6部、3-フェノキシベンジルアクリレート0.5部、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート0.5部および2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール0.3部をバイアルに添加、超音波分散させ、この混合液が透明になってから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.08部加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを30%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0053】
(実施例4)
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子6.7部、スチレンモノマー8.1部、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート1.4部、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール0.3部をバイアルに添加、超音波分散させ、この混合液が透明になってから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.08部加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを40%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0054】
(実施例5)
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子1.1部、ビニルトルエンモノマー9.1部、3-フェノキシベンジルアクリレート0.2部、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート0.2部および2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール0.3部をバイアルに添加、超音波分散させ、この混合液が透明になってから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.08部加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを10%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0055】
(実施例6)
酸化ビスマスナノ粒子を2.5部としたほかは実施例5と同様にして、酸化ビスマスを20%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0056】
(実施例7)
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子4.3部、ビニルトルエンモノマー8.6部、3-フェノキシベンジルアクリレート0.5部、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート0.5部および2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール0.3部をバイアルに添加、超音波分散させ、この混合液が透明になってから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.08部加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを30%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0057】
(実施例8)
合成例1の酸化ビスマスナノ粒子6.7部、ビニルトルエンモノマー8.1部、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート1.4部、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール0.3部をバイアルに添加、超音波分散させ、この混合液が透明になってから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.08部加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを40%含有するプラスチックシンチレータを得た。
【0058】
各実施例で得られたプラスチックシンチレータを直径8mm、高さ3mmの円柱に成形して評価用サンプルとした。
【0059】
(比較例1)
鉛を5%含有する直径8mm、高さ3mmに成型したプラスチックシンチレータ(EJ-256、ELJEN TECHNOEOGY)を比較例1(発光量評価の基準)とした。
【0060】
各実施例および比較例で得られたプラスチックシンチレータについて、以下の方法により可視光(380~780nm)の平均光透過率、発光量および検出効率を求め、その結果を表1にまとめた。
【0061】
(平均光透過率)
実施例1~8の評価用サンプルについて、紫外可視近赤外分光光度計(UH4150、日立ハイテクサイエンス社製)を使用して可視光に相当する380~780nmの光透過率を0.5nm毎に測定し、それを相加平均して求めた。
【0062】
(発光量)
各実施例の評価用サンプルに67.4keVのX線を照射した際のシンチレーション光を光電子増倍管(商品名:R7400P、製造社:浜松ホトニクス)により検出し、電荷感応型前置増幅器(商品名:2005、製造社:Canberra)により増幅して得られた検出信号波高スペクトルから、実施例毎のピーク位置のチャンネル数(ピークチャンネル数)を求めた。
比較例1のシンチレータについて上記と同様にピークチャンネル数を求め、これを基準ピークチャンネル数とした。
この基準ピークチャンネル数に対する各実施例のピークチャンネル数の割合を求め、これを入射X線のエネルギー当たりの発光量(光子/MeV)とした。
【0063】
(検出効率)
前記発光量の測定と同様の条件で、厚さ5mmのNaI(Tl)シンチレータ(商品名:SP-10、製造社:応用光研工業株式会社)の測定を行い、得られた検出信号波高スペクトルの面積を100としたときの各実施例の検出信号波高スペクトルの面積を求めた。この値は検出された全イベント数に相当するので、この値を検出効率(%)とした。
【0064】
【表1】