(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163391
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】駆動伝達機構の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20221019BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 N
F16H57/04 Z
F16H57/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068269
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】末永 淳史
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB01
3J063AC11
3J063BA11
3J063BA20
3J063BB14
3J063CA01
3J063CA07
3J063XD03
3J063XD17
3J063XD32
3J063XD49
3J063XD62
3J063XD72
3J063XD74
3J063XE15
3J063XE16
3J063XE38
3J063XJ01
(57)【要約】
【課題】車両の状態に応じて必要な箇所への潤滑オイルの供給量を適正にでき、駆動伝達機構の長寿命化にも寄与する駆動伝達機構の潤滑構造を提供する。
【解決手段】駆動伝達機構の潤滑構造2は、パーキング機構6と、オイルを掻き上げるファイナルギヤ10と、オイルガター12と、パーキング機構6の動作に連動してファイナルギヤ10の軸方向に移動し、パーキング機構6の回転軸4のロックがなされる部位ARに向けてオイルを案内するオイルガイド部14と、パーキング機構6の動作に連動してファイナルギヤ10の軸方向に移動し、非パーキングポジションでオイルを受け止めてオイルガター12へ案内するオイル受け止め部16とを有している。オイルガイド部14とオイル受け止め部16はディテントプレート34の回動に伴って軸方向に移動するオイル案内ユニット20として一体に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動伝達機構の回転軸をロックするパーキングポジションと前記回転軸のロックが解除された非パーキングポジションとに設定されるパーキング機構と、
前記回転軸の回転が伝達されて回転し、ケース内に貯留されたオイルを掻き上げるギヤと、前記ギヤによって掻き上げられたオイルを前記パーキング機構とは異なる箇所へ供給するオイル供給部材と、を有する駆動伝達機構の潤滑構造であって、
前記パーキング機構の動作に連動して前記ギヤの軸方向に移動し、前記パーキングポジションに移行する際に、前記パーキング機構で前記回転軸のロックがなされる部位に向けて前記ギヤによって掻き上げられたオイルを案内するオイルガイド部と、
前記パーキング機構の動作に連動して前記ギヤの軸方向に移動し、前記非パーキングポジションで前記ギヤによって掻き上げられたオイルを受け止めて前記オイル供給部材へ案内するオイル受け止め部と、を有し、
前記オイルガイド部と前記オイル受け止め部は、前記ギヤの軸方向において互いに異なる位置に配置されていることを特徴とする駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項2】
前記オイルガイド部と前記オイル受け止め部とが一体に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項3】
前記オイルガイド部と前記オイル受け止め部とが、前記オイル供給部材の前記ギヤの回転方向前方に位置し、前記回転軸のロックがなされる部位が、前記オイル供給部材よりも前記ギヤの回転方向後方に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項4】
前記回転軸のロックがなされる部位が前記オイルガイド部よりも上方に位置し、前記オイルガイド部は前記後方に向かって上方に高くなる勾配を有していることを特徴とする請求項3に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項5】
前記非パーキングポジションでは、前記ギヤの歯面と前記オイルガイド部の一部が前記軸方向で重なるとともに、前記ギヤの歯面と前記オイル受け止め部の一部が前記軸方向で重なることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項6】
前記オイル供給部材は、前記ケースに固定されているとともに、前記オイル受け止め部で受け止められたオイルが流入するオイル流入口を有し、
前記オイル受け止め部の前記軸方向の移動により前記オイル流入口の開口度が変化するように構成したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項7】
前記パーキングポジションでは、前記オイル流入口と前記オイルガイド部とが前記軸方向で重なって前記オイル流入口が塞がれ、
前記非パーキングポジションでは、前記オイル流入口と前記オイルガイド部及び前記オイル受け止め部とが前記軸方向で重なることを特徴とする請求項6に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項8】
前記パーキング機構は、
前記回転軸に固定されたパーキングギヤと、
該パーキングギヤに係合する爪部を有するパーキングポールと、
該パーキングポールをパーキングポジションと非パーキングポジションとに揺動させる回動部材と、を備え、
前記オイルガイド部と前記オイル受け止め部とが前記回動部材の回動に伴って前記軸方向に移動することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項9】
前記ギヤはディファレンシャル装置のファイナルギヤであり、
前記回動部材の回動により前記ディファレンシャル装置に集中的にオイルを供給するためのディファレンシャル潤滑ポジションを設定可能であり、
前記ディファレンシャル潤滑ポジションでは、前記オイル受け止め部と前記ギヤの歯面との前記軸方向で重なる幅が前記非パーキングポジションで重なる幅よりも大きいことを特徴とする請求項8に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項10】
前記ディファレンシャル装置の負荷状態を検知する負荷検知手段と、
前記回動部材を回動させるアクチュエータと、
前記負荷検知手段からの検知情報に基づいて前記アクチュエータを制御する制御部と、を有し、
前記負荷検知手段で所定値を超える負荷が検知された場合、前記制御部は前記回動部材を前記ディファレンシャル潤滑ポジションに回動させるように前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項9に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【請求項11】
前記負荷検知手段が、左右の駆動輪の差回転を検知するセンサを有していることを特徴とする請求項10に記載の駆動伝達機構の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動伝達機構の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される駆動伝達機構の潤滑構造として、特許文献1には、ケースの底部に貯留されたオイルを、ディファレンシャル装置のケース外面に固定されたファイナルギヤの回転を利用して掻き上げ、掻き上げられたオイルをバッフルプレートに相当するケースリブで止めて下方に落下させ、落下するオイルをオイルリードリブで案内し、案内されたオイルをオイルガイドプレートで集めてディファレンシャル装置やドライブシャフト等の潤滑対象に供給する潤滑構造が記載されている。すなわち、この潤滑構造は、掻き上げられたオイルをバッフルプレートで受け止めてケース上方へのオイル飛散を抑制し、効率的に潤滑対象に供給しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば走行中にパーキングポジションへのシフト操作がなされた場合には、パーキングギヤの歯間凹部にパーキングポールの爪部が係合するまでパーキングギヤとパーキングポールとが接触する叩き現象が生じ易い。このような場合にはパーキングギヤの摩耗を抑制するために大量の潤滑オイルが必要となる。また、氷上スピン等で車輪が空転してディファレンシャル装置の負荷が高いときは、ディファレンシャル装置やドライブシャフトの軸受へ大量の潤滑オイルが必要となる。一方、通常走行中で駆動力の負荷が低いときは、ディファレンシャル装置やドライブシャフトの軸受への潤滑オイルの供給量は少量で問題がない。このように、車両の状態(走行中やパーキングシフトへの移行中など)の違いによって駆動伝達機構内の摩耗が生じ得る箇所への最適な潤滑オイルの供給量は異なり、必要以上の潤滑オイルの供給は却って摩擦増加の要因となる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の潤滑構造は、掻き上げられた潤滑オイルをバッフルプレートで止めて集め、潤滑対象に案内する構成であるため、各潤滑対象への潤滑オイルの供給はほぼ一定である。すなわち、車両の状態に拘わらず固定配分となっている。このような固定配分方式では潤滑オイルの供給量は、高負荷に合わせて設定されるため、例えば上記の通常走行中では供給過多による摩擦増加を招来する虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、車両の状態に応じて必要な箇所への潤滑オイルの供給量を適正にでき、駆動伝達機構の長寿命化にも寄与する駆動伝達機構の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る駆動伝達機構の潤滑構造(2)は、駆動伝達機構の回転軸(4)をロックするパーキングポジション(PP)と回転軸(4)のロックが解除された非パーキングポジション(UP)とに設定されるパーキング機構(6)と、回転軸(4)からの回転が伝達されて回転し、ケース内に貯留されたオイル(OL)を掻き上げるギヤ(10)と、ギヤ(10)によって掻き上げられたオイル(OL)をパーキング機構(6)とは異なる箇所へ供給するオイル供給部材(12)と、を有する駆動伝達機構の潤滑構造であって、パーキング機構(6)の動作に連動してギヤ(10)の軸方向に移動し、パーキングポジション(PP)に移行する際に、パーキング機構(6)で回転軸(4)のロックがなされる部位(AR)に向けてギヤ(10)によって掻き上げられたオイル(OL)を案内するオイルガイド部(14)と、パーキング機構(6)の動作に連動してギヤ(10)の軸方向(X方向)に移動し、非パーキングポジション(UP)でギヤ(10)によって掻き上げられたオイル(OL)を受け止めてオイル供給部材(12)へ案内するオイル受け止め部(16)と、を有し、オイルガイド部(14)とオイル受け止め部(16)はギヤ(10)の軸方向(X方向)において互いに異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る駆動伝達機構の潤滑構造によれば、車両の状態(走行中やパーキングシフトへの移行中など)の違いに応じて潤滑オイルの供給量を最適化でき、駆動伝達機構の長寿命化、ひいては車両の長寿命化にも寄与できる。
【0009】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、オイルガイド部(14)とオイル受け止め部(16)とが一体に構成されていることが好ましい。これによれば、オイルガイド部とオイル受け止め部の構成及びこれらを移動させる機構の簡易化を図ることができる。
【0010】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、オイルガイド部(14)とオイル受け止め部(16)とが、オイル供給部材(12)のギヤ(10)の回転方向前方に位置し、パーキング機構(6)の回転軸(4)のロックがなされる部位(AR)が、オイル供給部材(12)よりもギヤ(10)の回転方向後方に位置することが好ましい。これによれば、ギヤの回転による遠心力を利用して潤滑オイルを効率的に案内することができる。
【0011】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、回転軸(4)のロックがなされる部位(AR)がオイルガイド部(14)よりも上方に位置し、オイルガイド部(14)は後方に向かって上方に高くなる勾配を有していることが好ましい。これによれば、ギヤの回転による遠心力を利用して潤滑オイルを回転軸のロックがなされる部位に容易に飛ばすことができる。
【0012】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、非パーキングポジション(UP)では、ギヤ(10)の歯面(10a)とオイルガイド部(14)の一部が軸方向(X方向)で重なるとともに、ギヤ(10)の歯面(10a)とオイル受け止め部(16)の一部が軸方向(X方向)で重なることが好ましい。これによれば、異なる箇所への潤滑オイルの最適な供給を同時に行うことができる。
【0013】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、オイル供給部材(12)がケースに固定されているとともに、オイル受け止め部(16)で受け止められたオイル(OL)が流入するオイル流入口(12e)を有し、オイル受け止め部(16)の軸方向(X方向)の移動によりオイル流入口(12e)の開口度が変化するように構成することが好ましい。これによれば、オイル受け止め部の移動構成のみで潤滑オイルの供給量の最適化を図ることができる。
【0014】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、パーキングポジション(PP)ではオイル流入口(12e)とオイルガイド部(14)とが軸方向(X方向)で重なってオイル流入口(12e)が塞がれ、非パーキングポジション(UP)ではオイル流入口(12e)とオイルガイド部(14)及びオイル受け止め部(16)とが軸方向(X方向)で重なることが好ましい。これによれば、潤滑が不要な箇所へ潤滑オイルが供給される無駄を防止できるとともに、潤滑が必要な箇所への潤滑オイルの供給量の最適化を図ることができる。
【0015】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、パーキング機構(6)が、回転軸(4)に固定されたパーキングギヤ(22)と、該パーキングギヤ(22)に係合する爪部(26a)を有するパーキングポール(26)と、該パーキングポール(26)をパーキングポジション(PP)と非パーキングポジション(UP)とに揺動させる回動部材(34)と、を備え、オイルガイド部(14)とオイル受け止め部(16)とが回動部材(34)の回動に伴って軸方向(X方向)に移動することが好ましい。これによれば、既存の構成を利用してオイルガイド部とオイル受け止め部とを移動させることができ、構成の簡易化と低コスト化を図ることができる。
【0016】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、ギヤ(10)がディファレンシャル装置(8)のファイナルギヤであり、回動部材(34)の回動によりディファレンシャル装置(8)に集中的にオイルを供給するためのディファレンシャル潤滑ポジション(DP)を設定可能であり、ディファレンシャル潤滑ポジション(DP)では、オイル受け止め部(16)とギヤ(10)の歯面(10a)との軸方向(X方向)で重なる幅(D4)が非パーキングポジション(UP)で重なる幅(D3)よりも大きいことが好ましい。これによれば、氷上スピン等で車輪が空転してディファレンシャル装置の負荷が高くなった場合でもディファレンシャル装置へ集中的に潤滑オイルを供給でき、デフケースの摩耗や焼き付きを防止できる。
【0017】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、ディファレンシャル装置(8)の負荷状態を検知する負荷検知手段(50L、50R)と、回動部材(34)を回動させるアクチュエータ(38)と、負荷検知手段(50L、50R)からの検知情報に基づいてアクチュエータ(38)を制御する制御部(40)と、を有し、負荷検知手段(50L、50R)で所定値を超える負荷が検知された場合、制御部(40)は回動部材(34)をディファレンシャル潤滑ポジション(DP)に回動させるようにアクチュエータ(38)を制御することが好ましい。これによれば、ドライバーの意識の有無に拘わらずディファレンシャル装置の負荷による不具合を防止できる。
【0018】
また、上記の駆動伝達機構の潤滑構造では、負荷検知手段が、左右の駆動輪の差回転を検知する車輪センサ(50L、50R)を有していることが好ましい。これによれば、簡単な構成でディファレンシャル装置の負荷状態を判断できる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の図面参照番号を参考のために示すものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車の状態に応じて必要な箇所への潤滑オイルの供給量を適正にでき、駆動伝達機構の長寿命化にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る駆動伝達機構の潤滑構造の構成を示す斜視図である。
【
図2】駆動伝達機構の潤滑構造におけるオイルガター及びディファレンシャル装置の斜視図である。
【
図3】駆動伝達機構の潤滑構造におけるオイル受け止め部の位置での概要縦断面図である。
【
図4】駆動伝達機構の潤滑構造における制御ブロック図である。
【
図5】潤滑オイルの供給動作を説明するための図で、パーキングポジションに移行している途中の概要平面展開図である。
【
図6】潤滑オイルの供給動作を説明するための図で、パーキングポジションへの移行完了状態の概要平面展開図である。
【
図7】パーキングポジションへの移行完了状態の概要斜視図である。
【
図8】潤滑オイルの供給動作を説明するための図で、非パーキングポジションでの概要平面展開図である。
【
図9】潤滑オイルの供給動作を説明するための図で、非パーキングポジションでの概要斜視図である。
【
図10】潤滑オイルの供給動作を説明するための図で、ディファレンシャル潤滑ポジションでの概要平面展開図である。
【
図11】潤滑オイルの供給動作を説明するための図で、ディファレンシャル潤滑ポジションでの概要斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る駆動伝達機構の潤滑構造(以下、潤滑構造と略す)2は、車両が備える駆動伝達機構の回転軸4をロックするパーキングポジションと回転軸4のロックが解除された非パーキングポジションとに設定されるパーキング機構6と、回転軸4の回転が伝達されて回転し、不図示のケース内に貯留された潤滑オイルOL(
図3参照)を掻き上げるギヤとしてのディファレンシャル装置8のファイナルギヤ10と、ファイナルギヤ10によって掻き上げられた潤滑オイルOLをパーキング機構6とは異なる箇所であるディファレンシャル装置8の内部や不図示のドライブシャフトの軸受46へ供給するオイル供給部材としてのオイルガター12と、を有している。なお、この駆動伝達機構の潤滑構造2を有する駆動伝達機構1は、後述するシフト操作子の操作による信号に応じてシフトレンジが切り換わるように構成したシフトバイワイヤ式の構成を有している。
【0023】
潤滑構造2は更に、パーキング機構6の動作に連動してファイナルギヤ10の軸方向(矢印X方向)に移動し、パーキングポジションに移行する際に、パーキング機構6の回転軸4のロックがなされる部位ARに向けてファイナルギヤ10によって掻き上げられた潤滑オイルOLを案内するオイルガイド部14と、パーキング機構6の動作に連動してファイナルギヤ10の軸方向に移動し、非パーキングポジションでファイナルギヤ10によって掻き上げられた潤滑オイルOLを受け止めてオイルガター12へ案内するオイル受け止め部16と、を有している。オイルガイド部14とオイル受け止め部16はファイナルギヤ10の軸方向でずれて配置されている(軸方向で互いが異なる位置に配置されている)。オイルガイド部14とオイル受け止め部16は、不図示のケースに軸18を介してX1、X2方向に移動可能に支持されたオイル案内ユニット20として一体に構成されており、オイル案内ユニット20はファイナルギヤ10の上端近傍に配置されている。パーキング機構6による回転軸4のロックがなされる部位とは、パーキングギヤ22とパーキングポール26とが係合する部位である。
【0024】
パーキング機構6は、回転軸4に固定されるパーキングギヤ22と、不図示のケースに支持されたポール軸24に回動自在設けられ、パーキングギヤ22の歯間凹部22aに係合する爪部26aを有するパーキングポール26と、ポール軸24に設けられ、パーキングポール26を爪部26aがパーキングギヤ22の歯間凹部22aから外れる方向に付勢するバネ(付勢手段)28と、パーキングギヤ22に対するパーキングポール26の係脱を行う円錐状のカム30を一体に備えたパーキングロッド32と、パーキングロッド32をパーキングギヤ22に対するパーキングポール26の係合がなされる方向(X1方向)と係合が解除される方向(X2方向)に移動させる回動部材としてのディテントプレート34と、ディテントプレート34を回転軸54周りに回動させるアクチュエータ38と、後述するシフト操作子の操作による切り替え信号に基づいてアクチュエータ38を制御する制御部40等を有している。
図1において、符号42はパーキングロッド32をX2方向に付勢する戻しバネを、44はディテントプレート34の下端に自由端が当接する板バネ44を示している。
【0025】
図2に示すように、オイルガター12は、空洞状のガター本体部12aと、不図示のケースに固定するための左右の支軸12bと、ガター本体部12aに連通して左右の軸受46に潤滑オイルOLを供給する供給路12cと、ガター本体部12aに連通してディファレンシャル装置8の内部に潤滑オイルOLを供給する供給路12dとを有している。ガター本体部12aのファイナルギヤ10の回転方向上流側である前方側には、ファイナルギヤ10の軸方向の幅Wと略同一の幅を有するオイル流入口12eが形成されている。
【0026】
図3に示すように、オイルガイド部14とオイル受け止め部16とが、オイルガター12のファイナルギヤ10の回転方向前方に位置し、パーキング機構6の回転軸4のロックがなされる部位ARが、オイルガター12よりもファイナルギヤ10の回転方向後方に位置する。また、ロックがなされる部位ARがオイルガイド部14よりも上方に位置し、オイルガイド部14は後方に向かって、すなわちロックがなされる部位ARに向かって上方に高くなる勾配を有している。換言すれば、オイルガイド部14は、ファイナルギヤ10の回転によって掻き上げられた潤滑オイルOLを一点鎖線で示すように上向きの角度に変えてロックがなされる部位ARへ向けて導くジャンプ台の機能を呈する。一方、オイル受け止め部16は、ファイナルギヤ10の回転によって掻き上げられた潤滑オイルOLを受け止める庇部16aを有しており、受け止められた潤滑オイルOLは、実線で示すように、オイル流入口12eからからガター本体部12a内に案内され、さらに供給路12c、12dに案内される。
【0027】
図4に示すように、制御部40には、シフトレバー又はスイッチなどの操作子であるシフト操作子48と、左駆動輪に設けられた車輪センサ50Lと、右駆動輪に設けられた車輪センサ50R等から信号が入力される。制御部40は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/Oインターフェース等を含むマイクロコンピュータである。シフト操作子48は、車両のドライバーの操作による変速指令(シフトレンジの切り換え指令)を入力するための操作子である。シフト操作子48は、Pレンジ481と、Nレンジ482と、Dレンジ483と、Rレンジ484の各レンジを有している。これらのレンジを有するシフト操作子48は、例えば運転席の近傍に配置され、シフトレバー又はシフトノブ、あるいは押圧式のボタンスイッチなどとして構成されている。
【0028】
Pレンジは駐車レンジ、Nレンジは中立レンジ、Dレンジは前進走行レンジ、Rレンジは後進走行レンジである。PレンジとNレンジは回転軸4の回転伝達が遮断された非走行レンジである。シフト操作子48でPレンジの指令がなされ、パーキングギヤ22の歯間凹部22aにパーキングロッド32の爪部26aが係合し、回転軸4がロックされた状態がパーキングポジションであり、回転軸4のロックが解除された状態、すなわちパーキングロッド32に対するパーキングロッド32の係合が解除された状態が非パーキングポジションである。
【0029】
次に、潤滑構造2における潤滑オイルOLの供給動作について説明する。なお、
図5、
図6、
図8、
図10では、位置関係を分り易くするために構成を平面的に展開して表示し、さらに
図5ではパーキングギヤ22とパーキングポール26の係合部の角度を
図3とは90°変えて平面的に表示している。また、
図7、
図9、
図11では、パーキング機構6のパーキングロッド32や板バネ44など一部構成部品の図示を省略し、また、パーキングギヤ22に対するパーキングポール26を部分的な図示としている。
【0030】
[パーキングポジションに移行する際の動作]
図5に示すように、ディテントプレート34は長孔34aを有し、回転軸54周りに回動自在に支持されている。長孔34aにはオイル案内ユニット20の軸18に一体に形成された円柱状の凸部18aが係合している。扇状に拡がるディテントプレート34の下端には、板バネ44の先端部44aが弾性力で収まる窪み34b、34c、34dが形成されている。窪み34bはパーキングポジションPPに、窪み34cは非パーキングポジションUPに、窪み34dは後述するディファレンシャル潤滑ポジションDPにそれぞれ対応している。
【0031】
車両が走行している状態からドライバーがシフト操作子48の操作でPレンジ481を選択すると、制御部40はPレンジの指令信号を受けてアクチュエータ38を駆動し、例えば非パーキングポジションUPに設定されているディテントプレート34を、
図5に示すように、矢印L方向に回動してパーキングポジションPPに設定する。シフト操作子48の操作でPレンジ481が選択された時点が「パーキングポジションに移行する際」の始期であり、実質的には前段ポジション(ここでは非パーキングポジションUP)におけるパーキングギヤ22とパーキングポール26の係合が外れた時点からパーキングポジションPPへの移行が始まる。
図5はパーキングポジションPPへの途中の状態を示しており、ディテントプレート34の回動に伴うオイル案内ユニット20のX1方向への移動により、ファイナルギヤ10の歯面10aとオイルガイド部14とが軸方向で重なる幅D1が徐々に増加する。ファイナルギヤ10の回転により掻き上げられた潤滑オイルOLはオイルガイド部14でロックがなされる部位ARへ向けて供給される。ロックがなされる部位ARへの潤滑オイルOLの供給量は幅D1の大きさに比例する。
【0032】
図6及び
図7は、パーキングギヤ22の歯間凹部22aにパーキングロッド32の爪部26aが係合した、パーキングポジションPPへのシフト完了の状態を示しており、この状態では回転軸4がロックされて回転伝達が遮断されるため、ファイナルギヤ10の回転が止まり、潤滑オイルOLの供給はなされない。パーキングポジションPPへのシフト完了時点が「パーキングポジションに移行する際」の終期である。シフト操作子48の操作でPレンジ481を選択されてからパーキングポジションPPへのシフト完了となるまでの間に、オイルガイド部14はディテントプレート34の回動に伴って、すなわちパーキング機構6の動作に連動して、ファイナルギヤ10の軸方向(X1方向)に移動し、パーキングポジションPPへのシフト完了となる位置で、
図6及び
図7に示すように、オイルガター12のオイル流入口12eを完全に覆う位置に設定される。ファイナルギヤ10の歯面10aとオイルガイド部14とが軸方向で重なる幅はD2となり、ファイナルギヤ10の歯面10aの幅Wと略一致する。パーキングポジションPPへ移行するまでの間、潤滑オイルOLはオイルガイド部14でロックがなされる部位ARへ向けて供給され続ける。供給量はパーキングポジションPPへのシフト完了直前で最大となる。これにより、パーキングギヤ22とパーキングポール26とが接触して叩き現象が生じてもこれに必要な潤滑オイルOLを供給することができる。潤滑オイルOLを示す破線矢印の大小は、供給量の多少に対応している。
【0033】
オイルガイド部14の移動に伴って、すなわちパーキング機構6の動作に連動してオイル受け止め部16もX1方向に移動するが、パーキングポジションPPではオイルガター12のオイル流入口12eとは軸方向で重ならず、オイルガター12への潤滑オイルOLの供給はなされない。パーキングポジションでは駆動力の負荷が入らないため、ディファレンシャル装置8や軸受46への積極的な潤滑は必要ない。
【0034】
[非パーキングポジションでの動作]
Pレンジにある状態からシフト操作子48の操作でDレンジ483が選択されると、制御部40はDレンジの指令信号を受けてアクチュエータ38を駆動し、ディテントプレート34を
図8及び
図9に示す矢印R方向に回動して非パーキングポジションUPに設定する。非パーキングポジションUPでは、ファイナルギヤ10の歯面10aとオイルガイド部14の一部が軸方向で重なるとともに、ファイナルギヤ10ギヤの歯面10aとオイル受け止め部16の一部が軸方向で重なる。
【0035】
オイルガイド部14の一部で案内される潤滑オイルOL1は、回転するパーキングギヤ22や回転体のない空間へ向けて案内される。また、通常走行中で駆動負荷が低いときはディファレンシャル装置8や軸受46への潤滑オイルOLの供給は少量で問題がないため、オイルガター12のオイル流入口12eとオイル受け止め部16との重なり、すなわちオイル流入口12eの開口度は小さく、本実施形態では1/2~1/3程度としている。このように、非パーキングポジションUPではオイル流入口12eとオイルガイド部14及びオイル受け止め部16とが軸方向で重なる。オイル流入口12eの開口度はオイル受け止め部16の軸方向の移動により変化する。符号OL2はオイル受け止め部16を介してオイル流入口12eに案内される潤滑オイルOLを示している。
【0036】
[ディファレンシャル潤滑ポジションでの動作]
図10及び
図11は、ディテントプレート34が非パーキングポジションUPよりも更に矢印R方向に回動されてディファレンシャル潤滑ポジションDPに設定された状態を示している。ディファレンシャル潤滑ポジションDPは、ディファレンシャル装置8に集中的にオイルを供給するためのポジションであり、シフト操作子48の操作によらず制御部40の判断により自動的に設定されるポジションである。氷上スピン等で車輪が空転してディファレンシャル装置8の負荷が高いときはディファレンシャル装置8や軸受46へ大量の潤滑オイルが必要となる。
【0037】
図4に示すように、制御部40にはディファレンシャル装置8の負荷状態を検知する負荷検知手段としての左右の駆動輪の回転差を検知する車輪センサ50L、50Rから信号が入力される。制御部40は入力された信号に基づいてディファレンシャル装置8の負荷状態を判断する。タイヤが滑っているときは、ほとんどの場合左右の駆動輪に差回転が生じており、ディファレンシャル装置8のケース内でサイドギヤ及びピニオンギヤが回転する。そのため、左右の駆動輪の差回転が大きい状態が長時間継続すると、デフケースが摩耗して焼き付く虞がある。制御部40は車輪センサ50L、50Rからの回転数の信号に基づいて左右の駆動輪の差回転数を算出し、ディファレンシャル装置8に所定値を超える負荷が掛かると判断した場合、ディテントプレート34をディファレンシャル潤滑ポジションDPに回動させるようにアクチュエータ38を制御する。
【0038】
ディファレンシャル潤滑ポジションDPでは、
図10及び
図11に示すように、オイル受け止め部16とファイナルギヤ10の歯面10aとの軸方向で重なる幅D4が非パーキングポジションUPでの重なる幅D3よりも大きくなる。すなわち、ファイナルギヤ10の歯面10aの幅Wと同一となり、オイル流入口12eは全開状態となる。ここではディファレンシャル潤滑ポジションDPを1箇所とし、オイル流入口12eが全開となるようにしたが、ディファレンシャル潤滑ポジションDPを複数段の構成とし、駆動伝達機構の構成や機種の違い等によりオイル流入口12eの開口度を複数段で変化させるようにしてもよい。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態ではシフトバイワイヤ方式の駆動伝達機構での実施を例示したが、パーキング機構の動作が車両の運転者によるシフト操作子の操作に連動する機械的な連結構造を備える構成を採用し、パーキングポジションと非パーキングポジションへの設定がシフト操作子の操作に連動して機械的な構造による動力伝達で行われるような構成であてもよ。また、上記実施形態では、オイルガイド部14とオイル受け止め部16とを一体構成としたが、これらを別部材として、個別に移動させる構成としてもよい。また、オイルガイド部14とオイル受け止め部16とをオイルガター12と一体に構成して軸方向に移動させる構成としてもよい。また、回転軸4は駆動伝達機構における入力軸または出力軸のいずれかであってよい。
【符号の説明】
【0040】
2 駆動伝達機構の潤滑構造
4 回転軸
6 パーキング機構
10 ファイナルギヤ
10a 歯面
12 オイルガター
12e オイル流入口
14 オイルガイド部
16 オイル受け止め部
20 オイル案内ユニット
22 パーキングギヤ
26 パーキングポール
26a 爪部
34 ディテントプレート(回動部材)
38 アクチュエータ
40 制御部
50L、50R 車輪センサ(負荷検知手段)
AR 回転軸のロックがなされる部位
DP ディファレンシャル潤滑ポジション
OL 潤滑オイル
PP パーキングポジション
UP 非パーキングポジション
X(X1、X2) 軸方向