IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特開-玉軸受 図1
  • 特開-玉軸受 図2
  • 特開-玉軸受 図3
  • 特開-玉軸受 図4
  • 特開-玉軸受 図5
  • 特開-玉軸受 図6
  • 特開-玉軸受 図7
  • 特開-玉軸受 図8
  • 特開-玉軸受 図9
  • 特開-玉軸受 図10
  • 特開-玉軸受 図11
  • 特開-玉軸受 図12
  • 特開-玉軸受 図13
  • 特開-玉軸受 図14
  • 特開-玉軸受 図15
  • 特開-玉軸受 図16
  • 特開-玉軸受 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163421
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20221019BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20221019BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068339
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】堀田 滋
(72)【発明者】
【氏名】村田 收
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 みちる
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 高晃
(72)【発明者】
【氏名】立石 佳男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 賢一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】西村 駒次
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA14
3J701CA15
3J701CA17
3J701FA32
3J701FA33
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB13
3J701XB18
3J701XB19
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる転がり軸受を提供する。
【解決手段】内周面に21a外側軌道が形成された外輪21と、外周面に内側軌道22aが形成された内輪22と、外側軌道21aと内側軌道22aとの間に配置された複数の転動体23と、転動体23を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケット24が形成された円環状の保持器25と、を備えた玉軸受であって、ポケット24の周方向の少なくとも一方の側には、周方向に向かって凹んだ単数又は複数の溝24aが形成されており、ポケット24に転動体23を保持した状態において、溝24aによって保持器25と転動体23との間に隙間が設けられている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外側軌道が形成された外輪と、外周面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器と、を備え、中心軸を中心に前記外輪と前記内輪が相対的に回転可能な玉軸受であって、
前記ポケットの前記周方向の少なくとも一方の側には、前記周方向に向かって凹んだ単数又は複数の溝が形成されており、
前記ポケットに前記転動体を保持した状態において、前記溝によって前記保持器と前記転動体との間に隙間が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記中心軸の方向に沿って前記溝が設けられた範囲は、前記中心軸の方向に沿った前記外側軌道の幅及び前記内側軌道の幅のいずれか広い方の幅以上であることを特徴とする玉軸受。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の玉軸受であって、
前記ポケットには、前記転動体の表面形状に対応した表面形状を有する転動体保持部が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項4】
請求項3に記載の玉軸受であって、
前記転動体保持部の前記中心軸の方向の幅が1mm以上であることを特徴とする玉軸受。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の玉軸受であって、
前記溝は、複数本形成されており、
前記中心軸の方向に隣り合う前記溝間の間隔は、前記転動体が前記外側軌道又は前記内側軌道と接触する接触楕円の長半径の0.5倍以下であり、
前記溝の頂部の前記中心軸の方向の幅が前記長半径の0.25倍以下であることを特徴とする玉軸受。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の玉軸受であって、
前記溝の前記周方向の深さは、前記転動体と前記ポケットの弾性変形量を示す接触深さ又は前記ポケットの内面の算術平均粗さのいずれか大きい方の5倍以上であって、前記周方向に隣り合う前記ポケット間の距離の0.25倍以下であることを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円環状の保持器に転動体を転動可能に保持するポケットの径方向に見た形状が、半楕円形状の周方向両端部と、周方向に延びる直線で2つの周方向両端部をつなぐ周方向中央部とで構成された形状となっている玉軸受が開示されている。また、特許文献2には、円環状の保持器で転動体を転動可能に保持するポケットの内面に、周方向で対向する一対の円弧状内面と、軸方向で対向する一対の円弧状内面とに4分割する4本の径方向溝が設けられている玉軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-185315号公報
【特許文献1】特開2009-14205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される玉軸受は、保持器のポケットを非円形形状としたものであるが、周方向両端部を半楕円形状とすることで軸受回転時の接触面圧を下げることが目的であるため、軸受回転時には半楕円形状の周方向両端部で保持器と転動体が接触した状態となり、転動体の自転によって転動体の表面のオイルが保持器で掻き落されてしまう。また、特許文献2に開示されている玉軸受は、保持器のポケットに径方向溝が形成されているものの、軸受回転時には円弧状となっているポケットの周方向端部に転動体が接触するため、転動体の自転によって転動体の表面のオイルが保持器で掻き落されてしまう。更に、玉軸受を高速で回転させることによって、転動体が外輪や内輪の軌道面に転がり接触する転動面へのオイルの流入が極めて少なくなれば、転動面における油量不足を抑制できなくなる可能性がある。
【0005】
そこで、高速で回転する玉軸受の内部の潤滑状態を可視化できる試験機を製作し、従来技術の玉軸受を高速で回転させた場合の玉軸受内部の潤滑状態を観察した。評価試験に用いた玉軸受1は、型式6808に相当する形状で、外輪2のみ石英製とした可視化軸受である。玉軸受1の全体の構成を図9及び図10に示す。図9及び図10に示すように、玉軸受1は、透明な石英製の外輪2と、鋼材製の内輪3と、転動体である鋼球4と、鋼球4を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器5とを備える。
【0006】
保持器5の形状を、図11図12及び図13に示す。なお、保持器5の形状を明確に示すために、図12では、保持器5のみの断面と鋼球4を示している。保持器5には、鋼球4を転動可能に保持するポケット6が軸方向一方側に形成されており、ポケット6は片側が開放した形状となっている。そして、保持器5の軸方向他方側の側面7は平坦となっている。なお、保持器の側面7には、軸方向に貫通する油通穴は形成されていない。
【0007】
評価試験に用いた試験機の概略を図14に示す。水平方向に延びる回転軸8は2つの軸支持軸受9によって回転可能に支持され、モータ10によって回転される。回転軸8は玉軸受1の内輪3の内側に挿入されて固定されており、内輪3は回転軸8と一体となって回転する。玉軸受1の外輪2はハウジング11の内部に固定されている。玉軸受1の上方にはカメラ12が配置され、ハウジング11には玉軸受1の上方に観察用穴13が形成されているため、カメラ12は外輪2の最頂部を上方から撮影することができる。
【0008】
給油ノズル14は外輪2の最頂部と内輪3の間にオイルを供給し、玉軸受1より下方でハウジング11内に貯まったオイルは、オイルポンプ15によって回収されて循環する。オイルには、市販のATF(Automatic Transmission Fluid)であるトヨタオートフルードWSに蛍光剤であるクマリン-6を混入させたものを用いて、蛍光法によって油量分布を観察した。励起光には、波長405nmのLEDフラッシュ照明を用いた。
【0009】
図15は玉軸受1の上面図である。外輪2が透明な石英製であるため、玉軸受1を上方から見ると、内輪3の軌道面3aや鋼球4の位置も確認することができる。図13の破線で囲まれた領域がカメラ12による観察領域である。観察領域は視野23.6mm×17.7mmである。LEDフラッシュ照明の1回発光あたりの時間を3μsecとして、その発光をカメラ12のフレームノート40fpsに合わせて照射することで、回転している玉軸受1の内部のオイル分布を観察した。玉軸受1への供給油量を100ml/minで一定として、玉軸受1に上方から付与したラジアル荷重も300Nで一定として、軸回転速度を約2000rpmと約20000rpmに変えて観察した。
【0010】
転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に図16及び図17に示す。図16が軸回転速度を約2000rpm(厳密には1910rpm)とした場合の観察結果であり、図17が軸回転速度を約20000rpm(厳密には20200rpm)とした場合の観察結果である。図16及び図17は、鋼球4の位置を実線で、鋼球4の中心線を一点鎖線で、保持器5の位置を二点鎖線で記載している。鋼球4は、図16及び図17の右側に向かって公転している。図16及び図17には、給油ノズル14も描かれている。図16及び図17では、オイルが多く存在する領域ほど濃い灰色で示しており、白い部分にはオイルがほとんど存在していなかったことを示す。
【0011】
図16に示すように、軸回転速度が約2000rpmの低回転条件では、鋼球4の出口側(図14における鋼球4より左側)の付近を除いて全般的にオイルが充満していた。鋼球4の出口側ではオイルの少ない領域が認められているが、これは鋼球4の公転によって、オイルが排除されていることや、キャビテーションの発生によるものと推察される。
【0012】
図17に示すように、軸回転速度が約20000rpmの高回転条件では、鋼球4及び保持器5の公転軌道部にはオイルが充満しておらず、オイルは公転軌道部の軸方向外側と境界付近に分布していた。これは高速では鋼球4の公転や保持器5の回転によってオイルが排除される速さがオイルの流入速度に対して過度に増大していることや、鋼球4の公転速度の増大に伴い、鋼球4の出口側(図17における鋼球4より左側)のキャビテーション領域が拡大していることの両者に起因するものと考えられる。なお、鋼球4の入口側(図17における鋼球4より右側)では、三角状にオイルの多い部分が存在していた。これは保持器5のU字状のポケット6の開口部において、内輪3側からオイルが供給されているものと考えられる。ただし、いずれにしても、低速度条件と比較して、高速度条件では、鋼球4の入口側や、外輪2との転がり面となる鋼球4の頂点部分のオイルが少なくなっており、油量不足が生じているものと判断される。摩擦トルク低減の観点では、転動面の油量が少ないほど良好な傾向であるが、摩耗や焼き付き防止の観点では、過度な油量不足を抑制することが必要となる。
【0013】
このように、玉軸受1の内部の油量分布観察の結果、高速回転時には、高速回転する鋼球4や保持器5によってオイルがかき分けられると共に、それらの公転軌道部にオイルが流入する量が極めて少ないことが判明した。この場合、短時間の使用では、特許文献1に開示されている方策による保油性の向上で焼き付きや摩耗を抑制できるとしても、長時間にわたる使用条件では、いずれオイルが枯渇するため、焼き付きや摩耗を抑制できなくなるものと考えられる。したがって、高速回転の玉軸受で長時間の使用にわたって焼き付きや摩耗を抑制するには、鋼球4の入口側へのオイル流入を促進する必要がある。
【0014】
そこで、本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る玉軸受は、内周面に外側軌道が形成された外輪と、外周面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器と、を備え、中心軸を中心に前記外輪と前記内輪が相対的に回転可能な玉軸受であって、前記ポケットの前記周方向の少なくとも一方の側には、前記周方向に向かって凹んだ単数又は複数の溝が形成されており、前記ポケットに前記転動体を保持した状態において、前記溝によって前記保持器と前記転動体との間に隙間が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明は、周方向に向かって凹んだ溝がポケットの周方向の少なくとも一方の側に形成されているため、溝が形成された部分では、転動体の自転によって転動体の表面のオイルが保持器に掻き落されずに、溝を通って径方向反対側の外輪又は内輪と転動球との接触点まで到達することができるため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる転がり軸受を提供することができる。
【0017】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記中心軸の方向に沿って前記溝が設けられた範囲は、前記中心軸の方向に沿った前記外側軌道の幅及び前記内側軌道の幅のいずれか広い方の幅以上であってもよい。
【0018】
この態様によれば、転動体の自転によって転動体の表面のオイルが保持器に掻き落されずに、溝を通って径方向反対側の外輪又は内輪と転動球との接触点まで到達することができるため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記ポケットには、前記転動体の表面形状に対応した表面形状を有する転動体保持部が設けられていてもよい。
【0020】
この態様によれば、転動体保持部を設けることにより、ポケットが確実に転動球を保持しつつ、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0021】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記転動体保持部の前記中心軸の方向の幅が1mm以上であってもよい。
【0022】
この態様によれば、転動体保持部の軸方向の幅を適切な値とすることによって、ポケットが確実に転動球を保持することができる。
【0023】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記溝は、複数本形成されており、前記中心軸の方向に隣り合う前記溝間の間隔は、前記転動体が前記外側軌道又は前記内側軌道と接触する接触楕円の長半径の0.5倍以下であり、前記溝の頂部の前記中心軸の方向の幅が前記長半径の0.25倍以下であってもよい。
【0024】
この態様によれば、溝の軸方向の幅と溝間の間隔を適切な値とすることによって、保持器と転動球との間をオイルが通過し易くなるため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0025】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記溝の前記周方向の深さは、前記転動体と前記ポケットの弾性変形量を示す接触深さ又は前記ポケットの内面の算術平均粗さのいずれか大きい方の5倍以上であって、前記周方向に隣り合う前記ポケット間の距離の0.25倍以下であってもよい。
【0026】
この態様によれば、溝の深さを適切な値とすることによって、保持器と転動球との間をオイルが通過し易くなるため、ポケットが確実に転動球を保持することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1の実施形態の玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
図2図1におけるD-D線断面図である。
図3】保持器の図1に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す図である。
図4図3に転動体を追加した図と、その図におけるE-E線断面図である。
図5図4におけるF-F線断面図である。
図6】転動体と保持器の接触による弾性変形を示した図である。
図7】第2の実施形態の玉軸受の保持器の図1に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す図と、その図におけるG-G線断面図である。
図8】軸方向に隣り合う溝が保持器の径方向端部で繋がっている場合の溝の形状を示す図である。
図9】内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた玉軸受の側面図である。
図10図9におけるA-A線断面図である。
図11】評価試験に用いた玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
図12】保持器の図11におけるB-B線断面を示す図である。
図13図11におけるC-C線断面図である。
図14】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた試験機の概略を示す図である。
図15】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験における観察領域を示す図である。
図16】軸回転速度を約2000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
図17】軸回転速度を約20000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しながら、第1の実施形態の玉軸受20について説明する。図1は玉軸受20の側面の一部を拡大して示した図であり、図2図1におけるD-D線断面図である。図1及び図2に示すように、玉軸受20は、外輪21、内輪22、転動体23及び保持器25を備える。外輪21及び内輪22は、円環状の部材である。外輪21の内周面には、転動体23の表面に沿うような形状の外側軌道21aが形成される。内輪22の外周面には、転動体23の表面に沿うような形状の内側軌道22aが形成される。外輪21の外側軌道21a及び内輪22の内側軌道22aは、円環状の玉軸受20の周方向に沿って所定の間隔で設けられる。転動体23は、外輪21の外側軌道21aと内輪22の内側軌道22aとで形成される空間内に転動可能な状態で保持される。また、保持器25は、外輪21と内輪22との間に配置され、複数の転動体23を周方向に所定の間隔を空けて転動可能に保持する。玉軸受20は、外輪21と内輪22との間で転動体23が転動することによって、外輪21及び内輪22の中心軸を回転軸(以下、単に軸と示す)として外輪21と内輪22とが相対的に回転可能な構成とされている。
【0030】
図3に、保持器25の図1に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す。図3に示すように、保持器25には、転動体23を転動可能に保持するポケット24が形成されている。ポケット24の軸方向一方側には、内面が転動体23の表面に対応する球面形状とされ、転動体23に対して嵌め合い構造を有する転動体保持部24bが設けられる。また、ポケット24の軸方向他方側には、内面が転動体23の表面に対応する球面形状とされ、転動体23に対して嵌め合い構造を有する爪状の転動体保持部24cが設けられる。
【0031】
ポケット24の周方向両側には、周方向へ向かって凹んだ溝24aがそれぞれ形成されている。溝24aは保持器25の径方向に保持器25を貫通している。
【0032】
図4は、図3に転動体23を追加した図を左側に示し、その左側の図のE-E線断面図を右側に示している。図5は、図4の左側の図のF-F線断面を示す図である。図4に示すように、保持器25のポケット24に転動体23を保持した状態において、溝24aによって転動体23と保持器25との間に深さD1の隙間が設けられる。図4において斜線で示した接触楕円23aは、転動体23が外側軌道21a及び内側軌道22aと接触する領域を示す。図4の右側の図では、接触楕円23aに対応する部分を太実線で描いている。
【0033】
図5に示すように、例えば、外輪21を固定した状態で、矢印A1が示すように内輪22を時計回りの方向に回転させると、内輪22に摺接する転動体23は矢印A2が示すように反時計回りの方向に自転しながら、矢印A3が示すように時計回りの方向に公転する。ポケット24に溝24aが形成されているため、外輪21と転動体23との接触点から転動体23の表面に巻き上げられたオイルは、保持器25の縁等によって掻き落されず、矢印A4に示すように、溝24aを通って径方向反対側の内輪22と転動体23との接触点まで到達することができる。同様に、内輪22と転動体23との接触点から転動体23の表面に巻き上げられたオイルは、保持器25の縁等によって掻き落されず、矢印A5に示すように、溝24aを通って径方向反対側の外輪21と転動体23との接触点まで到達することができる。そのため、玉軸受20が高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0034】
なお、本実施の形態における玉軸受20では、保持器25のポケット24の周方向両側に溝24aを設けた構成としたが、いずれか一方に溝24aを設けた構成としてもある程度の効果は得ることができる。
【0035】
ここで、玉軸受20の軸方向に沿って溝24aが設けられた範囲W1は、外輪21に設けられた外側軌道21aの幅W2以上とすることが好適である。また、玉軸受20の軸方向に沿った溝24aの範囲W1は、内輪22に設けられた内側軌道22aの幅W3以上とすることが好適である。すなわち、溝24aの範囲W1は、外側軌道21aの幅W2及び内側軌道22aの幅W3のいずれか広い方以上とすることが好適である。これにより、図5の矢印A4に示した外輪21から内輪22へ向かう軌道や矢印A5に示した内輪22から外輪21へ向かう軌道において、転動体23の表面に巻き上げられたオイルは、保持器25の縁等によって掻き落されずに効果的に溝24aを通ることができる。ただし、保持器25の機械的な強度や保持器25による転動体23の保持能力を高めるためには、溝24aの範囲W1は外側軌道21aの幅W2及び内側軌道22aの幅W3と略等しくすることが好適である。
【0036】
図6に、転動体23と保持器25の接触による弾性変形を示す。弾性変形前の転動体23の位置を破線で示し、弾性変形後の転動体23の位置を実線で示している。図6に示すように、玉軸受20の外輪21又は内輪22を回転させて、転動体23を図6の右側へ向かって公転させると、転動体23とポケット24の接触深さ(弾性変形量)dが周方向に発生する。ここで、図6に示すように、周方向に隣り合うポケット24間の距離をD2とする。図4に示す溝24aの深さD1は、周方向に隣り合うポケット24間の距離D2の0.25倍以下とすることが好適である。また、溝24aの深さD1は、ポケット24の内面の算術平均粗さ又は弾性変形量dのいずれか大きい方の5倍以上とすることが好適である。
【0037】
また、保持器25において転動体23を保持するポケット24を構成する転動体保持部24bの軸方向の幅D3は1mm以上とすることが好適である。また、保持器25において転動体23を保持するポケット24を構成する転動体保持部24cの軸方向の幅D4は1mm以上とすることが好適である。このように転動体保持部24bの軸方向の幅D3及び転動体保持部24cの軸方向の幅D4を1mm以上とすることによって、保持器25のポケット24によって転動体23を確実に保持することができる。
【0038】
<第2の実施形態>
次に、図面を参照しながら、第2の実施形態の玉軸受30について説明する。玉軸受30は、保持器35のポケット34の周方向両側に、それぞれ複数の溝34aが形成されている点を除いて、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成を有している。そのため、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図7は、玉軸受30の保持器35の図1に描かれた領域を径方向外側から見た形状を示す図を左側に示し、その左側の図のG-G線断面図を右側に示している。図7に示すように、保持器35には、転動体23を転動可能に保持するポケット34が形成されている。ポケット34の軸方向一方側には、内面が転動体23の表面に対応する球面形状とされ、転動体23に対して嵌め合い構造を有する転動体保持部24bが設けられる。ポケット34の軸方向他方側には、内面が転動体23の表面に対応する球面形状とされ、転動体23に対して嵌め合い構造を有する爪状の転動体保持部24cが設けられる。
【0040】
ポケット34の周方向両側には、周方向へ向かって凹んだ溝34aが複数形成される。本実施の形態では、溝34aをそれぞれ5本ずつ形成した例を示している。溝34aは、いずれも保持器35の径方向に保持器35を貫通している。
【0041】
ポケット34に溝34aを設けることによって、外輪21と転動体23との接触点から転動体23の表面に巻き上げられたオイルは、溝34aが設けられた部分では、保持器35に掻き落されず、溝34aを通って径方向反対側の内輪22と転動体23との接触点まで到達することができる。同様に、内輪22と転動体23との接触点から転動体23の表面に巻き上げられたオイルは、溝34aが設けられた部分では、保持器35に掻き落されず、溝34aを通って径方向反対側の外輪21と転動体23との接触点まで到達することができる。そのため、玉軸受30が高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0042】
なお、本実施の形態における玉軸受30では、保持器35のポケット34の周方向両側に溝34aを設けた構成としたが、いずれか一方に溝34aを設けた構成としてもある程度の効果は得ることができる。
【0043】
玉軸受30の軸方向に沿って溝34aが設けられた範囲W4は、外輪21に設けられた外側軌道21aの幅W5以上とすることが好適である。また、玉軸受30の軸方向に沿った溝34aの範囲W4は、内輪22に設けられた内側軌道22aの幅W6以上とすることが好適である。なお、溝34aの形状は、図7に示す形状に限らず、図8に示すように、軸方向に隣り合う溝34aが保持器35の径方向両端部で繋がっていてもよい。
【0044】
軸方向に隣り合う溝34a間の間隔Iは、図4に示す接触楕円23aの長半径Sの0.5倍以下とすることが好適である。また、溝34aの頂部の軸方向の幅D5は、接触楕円23aの長半径Sの0.25倍以下とすることが好適である。
【0045】
また、玉軸受30でも、第1の実施形態の玉軸受20と同様に、溝34aの深さD6は、ポケット24の内面の算術平均粗さ又は弾性変形量dのいずれか大きい方の5倍以上であって、図6に示す距離D2の0.25倍以下とすることが好適である。更に、玉軸受30でも、転動体保持部24bの軸方向の幅D7及び転動体保持部24cの軸方向の幅D8は、いずれも1mm以上とすることが好適である。
【符号の説明】
【0046】
1 玉軸受、2 外輪、3 内輪、3a 軌道面、4 鋼球、5 保持器、6 ポケット、7 側面、8 回転軸、9 軸支持軸受、10 モータ、11 ハウジング、12 カメラ、13 観察用穴、14 給油ノズル、15 オイルポンプ、20,30 玉軸受、21 外輪、21a 外側軌道、22 内輪、22a 内側軌道、23 転動体、23a 接触楕円、24,34 ポケット、24a,34a 溝、24b,24c 転動体保持部、25,35 保持器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17