(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163436
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】多孔質体形成用組成物、多孔質体及び多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20221019BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20221019BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20221019BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20221019BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221019BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20221019BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20221019BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CFF
C08J9/26 CFG
B29C45/00
C08J3/20 CES
C08L1/02
C08L101/00
C08L77/00
C08L75/04
C08L29/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068359
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】510229474
【氏名又は名称】株式会社エー・ジー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100199808
【弁理士】
【氏名又は名称】川端 昌代
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】230116643
【弁護士】
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】和田 博
(72)【発明者】
【氏名】野中 敬三
【テーマコード(参考)】
4F070
4F074
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA53
4F070AA54
4F070AB03
4F070AB11
4F070AB13
4F070AC36
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4F070AC80
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4J002AA063
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4J002FA042
4J002FA062
4J002FD012
4J002FD325
4J002FD326
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】耐変形性及び復元性に優れる多孔質体を形成できる多孔質体形成用組成物、多孔質体及び多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーと、無水マレイン酸変性ポリマーと、熱可塑性エラストマーと、気孔形成材と、水溶性熱可塑性ポリマーとを含有し、上記熱可塑性エラストマーのショアD硬度が20°以上50°以下であり、上記セルロースナノファイバー及び上記無水マレイン酸変性ポリマーが上記熱可塑性エラストマー相中に分散している多孔質体形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーと、
無水マレイン酸変性ポリマーと、
熱可塑性エラストマーと、
気孔形成材と、
水溶性熱可塑性ポリマーと
を含有し、
上記熱可塑性エラストマーのショアD硬度が20°以上50°以下であり、
上記セルロースナノファイバー及び上記無水マレイン酸変性ポリマーが上記熱可塑性エラストマー相中に分散している多孔質体形成用組成物。
【請求項2】
上記セルロースナノファイバーの平均繊維幅が5nm以上300nm以下である請求項1に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項3】
上記熱可塑性エラストマーがウレタン系熱可塑性エラストマー又はナイロン系熱可塑性エラストマーである請求項1又は請求項2に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項4】
上記気孔形成材がペンタエリスリトール粒子である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項5】
上記水溶性熱可塑性ポリマーがポリビニルアルコールである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多孔質体形成用組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多孔質体形成用組成物により形成される多孔質体。
【請求項7】
非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーの水分散体とラテックス状態の無水マレイン酸変性ポリマーとを混合する工程と、
上記混合工程により得られた混合物から水を除去する工程と、
上記除去工程により得られた乾燥物に熱可塑性エラストマーを添加し、110℃以上の温度で混練する工程と、
上記混練工程により得られた混練物に気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを添加し、上記気孔形成材が溶融しない温度で混練し、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多孔質体形成用組成物を調製する工程と、
上記調製工程により得られた多孔質体形成用組成物を成形する工程と、
上記成形工程により得られた成形体を溶出溶媒に浸漬し、上記気孔形成材及び上記水溶性熱可塑性ポリマーを溶出させる工程と
を備える多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体形成用組成物、多孔質体及び多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク等の液体を内蔵し、放出することができる連続気孔多孔質体が知られている。連続気孔多孔質体の多くは、エラストマーに気孔形成材を混練し、成形後に、エラストマーは溶解せず気孔形成材は溶解する液体に浸漬し、気孔形成材を溶出することにより製造される。
【0003】
特許文献1には、不溶性で、ポリマーと反応しない粒径2~450μmの乾燥粒状個体(気孔形成材)をポリマー物質と2.5:1~10:1の乾燥粒状個体:ポリマー物質の質量比で混合し、個体及びポリマー物質を予備可塑化して個体/ポリマー複合物を形成させ、該複合物を注型、押出成形、射出工程、又はスクリュートランスファー成形し、これに製品表面上に一層緻密な表皮部分を形成し、個体が溶解する溶剤を製品に添加する工程からなる多孔性製品の製法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、粒状気孔形成材と水溶性高分子とを、前記水溶性高分子の少なくとも一部が溶融し、前記粒状気孔形成材が溶融しない温度で混練することによって、粒状混練物を形成させる第1混練工程と、前記粒状混練物と、非水溶性熱可塑性高分子とを、前記非水溶性熱可塑性高分子の少なくとも一部が溶融し、前記粒状混練物が溶融しない温度で混練する第2混練工程と、前記第2混練工程によって得られた混練物を、前記非水溶性熱可塑性高分子の少なくとも一部が溶融し、前記粒状混練物が溶融しない温度で、所定の形状に成形する成形工程と、前記成形工程によって得られた充実成形体を水に接触させることによって、前記充実成形体から前記粒状混練物を水中に溶出させる溶出工程を備える多孔体の製造方法が開示されている。
【0005】
このような連続気孔多孔質体は、通気性及びクッション性に優れるので、靴のインソール(中敷き)に使用することが考えられる。また、連続気孔多孔質体は足裏のアーチを保つアーチサポートインソールとして使用できる。アーチサポートインソールは足の裏のアーチを支え、足裏を安定させ、足裏全体に均等に圧力がかかるようにし、圧力の偏りによる負荷が原因となる痛みを和らげる。足の裏全体に均等な圧力がかかるようになることで、姿勢の改善につながり、腰痛や肩こりなどの原因となる体の歪みを整えるといった効果が期待されている。
【0006】
インソールには、歩いているときは体重の約1.2倍、走っているときには約3倍、ジャンプして着地したときには約6倍の圧力がかかる。軟質の熱可塑性エラストマーを材質とする多孔質体を用いた場合、クッション性は良くなるが、変形量が大きいために、繰り返し使用により永久変形してしまい、インソールとしての効果が低下してしまうという問題がある。
【0007】
スポーツシューズの分野では、軽量化が望まれており、軽量化の手段として発泡体が使用されている。連続気孔多孔質体は独立気泡の発泡体に比較して、同じ密度下の弾性率(硬度)は低くなってしまうので、軽量化には不利である(気泡がポリマー壁に包まれた独立気泡の方が圧縮に対する抵抗は大きい。)。弾性率(硬度)をアップするためには、ポリマーの弾性率を高くする必要があるが、ゴム弾性(反発弾性)が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55-115433号公報
【特許文献2】特開2011-161639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、軟質の熱可塑性エラストマーを用いた連続気孔多孔質体はクッション性には優れるが、変形量が大きく、永久変形しやすいという問題があるのに対し、硬質の熱可塑性エラストマーや樹脂を用いた連続気孔多孔質体は、ゴム弾性に乏しく、大きな荷重がかかった場合に永久変形してしまうという問題があり、変形量が小さく、永久変形しにくい(以下、「耐変形性及び復元性に優れる」ともいう)連続気孔多孔質体が求められている。
【0010】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、耐変形性及び復元性に優れる多孔質体を形成できる多孔質体形成用組成物、多孔質体及び多孔質体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた発明は、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーと、無水マレイン酸変性ポリマーと、熱可塑性エラストマーと、気孔形成材と、水溶性熱可塑性ポリマーとを含有し、上記熱可塑性エラストマーのショアD硬度が20°以上50°以下であり、上記セルロースナノファイバー及び上記無水マレイン酸変性ポリマーが上記熱可塑性エラストマー相中に分散している多孔質体形成用組成物である。
【0012】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、上述の当該多孔質体形成用組成物により形成される多孔質体である。
【0013】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーの水分散体とラテックス状態の無水マレイン酸変性ポリマーとを混合する工程と、上記混合工程により得られた混合物から水を除去する工程と、上記除去工程により得られた乾燥物に熱可塑性エラストマーを添加し、110℃以上の温度で混練する工程と、上記混練工程により得られた混練物に気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを添加し、上記気孔形成材が溶融しない温度で混練し、上述の当該多孔質体形成用組成物を調製する工程と、上記調製工程により得られた多孔質体形成用組成物を成形する工程と、上記成形工程により得られた成形体を溶出溶媒に浸漬し、上記気孔形成材及び上記水溶性熱可塑性ポリマーを溶出させる工程を備える多孔質体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔質体形成用組成物及び多孔質体の製造方法によれば、耐変形性及び復元性に優れる多孔質体を形成することができる。本発明の多孔質体は耐変形性及び復元性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1並びに比較例1、2及び7の多孔質体の応力-ひずみ曲線(S-S曲線)である。
【
図2】
図2は、実施例2及び3並びに比較例3~5の多孔質体の応力-ひずみ曲線(S-S曲線)である。
【
図3】
図3は、実施例4及び比較例6の多孔質体の応力-ひずみ曲線(S-S曲線)である。
【
図4】
図4は、5%伸張応力(σ5)と圧縮永久歪みとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の多孔質体形成用組成物、多孔質体及び多孔質体の製造方法について詳説する。
【0017】
<多孔質体形成用組成物>
当該多孔質体形成用組成物は、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバー(以下、単に「セルロースナノファイバー」又は「CNF」ともいう)と、無水マレイン酸変性ポリマーと、熱可塑性エラストマーと、気孔形成材と、水溶性熱可塑性ポリマーとを含有する。当該多孔質体形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲においてその他の成分を含有していてもよい。
【0018】
当該多孔質体形成用組成物では、無水マレイン酸変性ポリマーがCNFの水酸基と反応又は水酸基に吸着しているので、CNF及び無水マレイン酸変性ポリマーが熱可塑性エラストマー相中に分散している。つまり、CNFは熱可塑性エラストマー相に偏在して解繊・分散されており、水溶性熱可塑性ポリマー相には殆ど存在しない。これにより、耐変形性及び復元性に優れる多孔質体を形成することができる。
【0019】
また、当該多孔質体形成用組成物では、水溶性熱可塑性ポリマーが気孔形成材の熱可塑性エラストマー中への分散安定剤として作用し、気孔形成材の表面に水溶性熱可塑性ポリマーが吸着する形で熱可塑性エラストマー中に気孔形成材が安定に分散されていると考えられる。
【0020】
当該多孔質体形成用組成物を用いることにより、連続気孔を有する多孔質体(以下、「連続気孔多孔質体」ともいう)を形成することができる。多孔質体については後述する。
【0021】
当該多孔質体形成用組成物は、後述する当該多孔質体の製造方法における混合工程、除去工程、混練工程及び調製工程を備える方法により調製することができる。
【0022】
得られた多孔質体成形用組成物はインジェクション成形、トランスファー成形、押出成形、プレス成型(圧縮成形)等の成型手段により、所望の形状に加工される。
【0023】
以下、当該多孔質体形成用組成物が含有する各成分について説明する。
【0024】
[セルロースナノファイバー]
当該多孔質体形成用組成物が含有するセルロースナノファイバーは、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーである。化学変性されたセルロースナノファイバーとしては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル等のN-オキシル化合物を触媒として酸化反応させて得られるセルロースナノファイバー(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)やセルロースナノファイバーをリン酸エステル化したアニオン変性セルロースナノファイバー等が存在するが、当該多孔質体形成用組成物が含有するセルロースナノファイバーはこのような化学変性や化学修飾がなされたものではない。
【0025】
例えば、TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、セルロースにおけるグルコース環の第1級のヒドロキシ基が選択的に酸化されてカルボキシ基となり、ナトリウム塩等の形態で存在しており、セルロースナノファイバーの表面に残存するヒドロキシ基としては第2級のヒドロキシ基のみである。この場合、第2級のヒドロキシ基と無水マレイン酸変性ポリマーにおける無水マレイン酸基との反応は、カルボキシ基のナトリウム塩の立体障害等の影響により起こりにくいと考えられる。したがって、当該多孔質体形成用組成物では、セルロースナノファイバーとして非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーを用いることにより、第1級のヒドロキシ基が化学変性されていないため、ヒドロキシ基と無水マレイン酸基との反応が起こりやすくなる。
【0026】
セルロースナノファイバーとしては、機械解繊されたものであることが好ましい。セルロースナノファイバーの解繊方法としては、上記の機械解繊の他、化学解繊が存在する。化学解繊されたセルロースナノファイバーは、通常、平均繊維幅が3~4nm程度と細いため、例えばポリマーラテックスと混合した場合の分散体の流動性を確保するために、セルロースナノファイバーの濃度を1%程度に設定する必要がある。この場合、最終的に99%の水を除去する必要があることから、生産性の確保や加工時のエネルギー消費が大きいという点で不都合を生じる。また、化学解繊されたセルロースナノファイバーは、機械解繊されたセルロースナノファイバーよりも加熱により変色しやすいとう不都合もある。機械解繊されたセルロースナノファイバーである場合には、上述のような化学解繊されたセルロースナノファイバーの抱える不都合がないため好ましい。
【0027】
機械解繊されたセルロースナノファイバーは、例えば水分散された木材パルプ等の植物繊維を高速ジェットミル、高速ホモジナイザー、ボールミル粉砕、押出機等による混練などの機械的手段により解繊することで得ることができる。
【0028】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅としては、無水マレイン酸変性ポリマーとセルロースナノファイバーとの質量比や無水マレイン酸変性ポリマーとして無水マレイン酸変性ポリマーラテックスを用いる場合の粒子径等に応じて適宜選択することができる。上記繊維幅の下限としては、5nmが好ましく、20nmがより好ましい。上記平均繊維幅が上記下限未満であると、無水マレイン酸変性ポリマーをCNFが覆った場合のCNFの層の厚みが複数層のCNF層で形成され、層間でCNFが凝集してしまうおそれがある。上記平均繊維幅の上限としては、300nmが好ましく、100nmがより好ましい。上記平均繊維幅が上記上限を超えると、インジェクション成形時にCNFが溶融組成物の流れ方向に配向し易く、特性の異方性が大きくなるおそれがある。なお、本明細書において、セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、原子間力顕微鏡で測定した値である。
【0029】
当該多孔質体形成用組成物におけるセルロースナノファイバーの含有量の下限としては、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。上記含有量が上記下限未満であると、弾性率の補強効果が小さくなりすぎるおそれがある。上記含有量の上限としては、15質量部が好ましく、10質量部がより好ましい。上記含有量が上記上限を超えると、当該多孔質体形成用組成物の溶融粘度が上昇して、当該多孔質体形成用組成物の混練や成形(インジェクション成形)に支障をきたすおそれがある。なお、上記セルロースナノファイバーの含有量は、固形分状態の質量部数を意味する。本明細書において「固形分状態」とは、溶媒(水)を除いた状態を意味する。
【0030】
[無水マレイン酸変性ポリマー]
当該多孔質体形成用組成物が含有する無水マレイン酸変性ポリマーは、ベースポリマーを無水マレイン酸で変性したポリマーである。ベースポリマーを無水マレイン酸で変性することにより導入される無水マレイン酸基は、セルロースナノファイバー表面のヒドロキシ基と反応して、セルロースナノファイバーとポリマーとの相互作用を強固にする。セルロースナノファイバーの表面と化学結合することにより、セルロースナノファイバーを熱可塑性エラストマー中にミクロ(あるいはナノ)分散させることができる。
【0031】
上記ベースポリマーとしては特に制限されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ポリプロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0032】
ベースポリマーを無水マレイン酸で変性する方法としては特に制限されず、常法に従って行うことができる。例えば、ベースポリマーと無水マレイン酸とを混合し、少量のパーオキサイドの存在下で加熱することにより、無水マレイン酸をベースポリマーにグラフト重合する方法や、ベースポリマーの重合時に少量の無水マレイン酸を共存させて共重合する方法等が挙げられる。
【0033】
無水マレイン酸変性ポリマーとしては、ラテックス由来のポリマー(以下、「無水マレイン酸変性ポリマーラテックス」ともいう)であることが好ましい。無水マレイン酸変性ポリマーがラテックス由来のポリマーである場合、無水マレイン酸変性ポリマーとセルロースナノファイバーとを均質に混合することができる。その結果、CNF同士の凝集を抑制することができ、当該多孔質体形成用組成物においてCNFを高度に解繊・分散させることができる。なお、本明細書において「ラテックス由来」とは、当該多孔質体形成用組成物の調製の際に当該多孔質体形成用組成物における無水マレイン酸変性ポリマーを与える成分として、ラテックス状態の無水マレイン酸変性ポリマーを用いることを意味する。
【0034】
ラテックス状態の無水マレイン酸変性ポリマーを得る方法としては特に制限されず、常法に従って行うことができる。例えば無水マレイン酸変性ポリマーが可溶な溶剤に溶解し、必要に応じて乳化剤の存在下で水と高速攪拌することにより乳化した後、溶剤を除去する方法や、ベースポリマーを構成するモノマーを無水マレイン酸存在下で乳化重合する方法等が挙げられる。
【0035】
無水マレイン酸変性ポリマーがラテックス由来のポリマーである場合、無水マレイン酸変性ポリマーは粒子の形態で存在する。この粒子の平均粒子径の下限としては、50nmが好ましい。上記平均粒子径が上記下限未満であると、ラテックスの調製が困難となり、乳化安定性を確保するために界面活性剤等の乳化安定剤を多量に添加する必要が生じるおそれがある。上記平均粒子径の上限としては、300nmが好ましい。上記平均粒子径が上記上限を超えると、ラテックスポリマー粒子の表面積が小さくさり、粒子の表面にCNFが多層に存在することになり、層間でCNFが凝集してしまうおそれがある。なお、本明細書において、無水マレイン酸変性ポリマーの粒子の平均粒子径は、動的光散乱法粒子径測定装置(マルバーン・パナリティカル社の「Malvern Nano-ZS」)で測定したZ平均粒子径である。
【0036】
無水マレイン酸変性ポリマーの融点としては、150℃未満であることが好ましく、110℃未満であることがより好ましい。無水マレイン酸変性ポリマーの融点が上記範囲を超えると、得られたCNF/無水マレイン酸変性ポリマー混合物と熱可塑性エラストマーとを混練する場合の混練温度を高くする必要があり、CNFに過剰な熱履歴を与え、CNFの分解や変色等を招くおそれがある。なお、本明細書において、無水マレイン酸変性ポリマーの融点はDSC法で測定した値である。
【0037】
無水マレイン酸変性ポリマーにおける無水マレイン酸基の含有量の上限としては、0.7mmol/gが好ましく、0.4mmol/gがより好ましい。無水マレイン酸基の含有量が上記上限を超えると、無水マレイン酸変性ポリマーの極性が高くなりすぎて熱可塑性エラストマーとの相溶性が低下するおそれがある。上記含有量の下限としては、0.05mmol/gが好ましく、0.1mmol/gがより好ましい。無水マレイン酸基の含有量が上記下限未満であると、無水マレイン酸変性ポリマーの配合量を多くする必要が生じ、多孔質体の強度特性(破断強度、破断伸び)を損なうおそれがある。
【0038】
なお、無水マレイン酸変性ポリマーのベースポリマーの種類や無水マレイン酸変性ポリマー中の無水マレイン酸基の含有量(酸価)により、熱可塑性エラストマーとの相溶性が変化するので、無水マレイン酸変性ポリマーは熱可塑性エラストマー成分との相溶性を考慮して選択することが好ましい。例えば、熱可塑性エラストマー成分としてオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いる場合には、無水マレイン酸変性ポリマーとして無水マレイン酸変性ポリオレフィンを用いることが好ましい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンでも、無水マレイン酸基の含有量の多いものを選択すれば、ナイロン系やウレタン系熱可塑性エラストマーを用いる場合でも相溶性の問題を生じることがない。
【0039】
無水マレイン酸変性ポリマーの含有量の下限としては、セルロースナノファイバー100質量部に対して、30質量部が好ましく、50質量部がより好ましい。上記含有量が上記下限未満であると、セルロースナノファイバーの熱可塑性エラストマーへの分散・解繊が不十分となるおそれがある。上記含有量の上限としては、300質量部が好ましく、250質量部がより好ましい。上記含有量が上記上限を超えると、熱可塑性エラストマーに対する無水マレイン酸変性ポリマーの添加量が多くなり、多孔質体の強度特性(破断強度、破断伸び)を損なうおそれがある。
【0040】
[熱可塑性エラストマー]
当該多孔質体形成用組成物において用いる熱可塑性エラストマーとしては後述するショアD硬度を満足する限りにおいて特に制限されず、例えばオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。得られる多孔質体の吸水性を向上させる観点から、ウレタン系熱可塑性エラストマー又はナイロン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0041】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、PPやPE等のポリオレフィンをハードセグメントとし、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)などのゴム成分をソフトセグメントとする熱可塑性エラストマーである。またオレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィンとゴム成分のブレンドタイプ、それらの動的架橋タイプ、及び共重合タイプの3タイプに大別できる。共重合タイプはエチレン、プロピレン及び1-ブテンから主モノマーとコモノマーをそれぞれ選択して組み合わせることにより、軟質から硬質のオレフィン系熱可塑性エラストマーを得ることができる。オレフィン系熱可塑性エラストマーはパーオキサイドを架橋剤として配合することより、成形後架橋することができる。
【0042】
ウレタン系熱可塑性エラストマー及びナイロン系熱可塑性エラストマーは、いわゆるハードセグメントとソフトセグメントとから構成され、このセグメントの比率を変えることによって硬度が調整される。ハードセグメントが多いとエラストマーの硬度や弾性率(モデュラス)が大きくなり、極性も高くなり、水との接触角が小さくなり、多孔質体となった場合の水滴吸収性が良好となる。また、ハードセグメントが多くなると、高硬度にはなるが、樹脂の性質が勝るようになるので、圧縮永久歪みは大きくなる。
【0043】
ウレタン系熱可塑性エラストマーを構成するソフトセグメントとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコ-ル、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。これらの中でも、耐加水分解性に優れるポリエーテルグリコール又はポリカーボネートジオールが好ましい。ハードセグメントとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等とジオールとが反応して得られるポリウレタンなどが挙げられる。
【0044】
ナイロン系熱可塑性エラストマーを構成するソフトセグメントとしては、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリエチレングリコ-ル(PEG)等が挙げられる。より柔軟性や弾性に優れたエラストマーを得る観点からは、PTMGが好ましい。ハードセグメントとして、例えばナイロン11、ナイロン12、ナイロン6等が挙げられる。融点の低いエラストマーを得る観点からは、ナイロン12又はナイロン11が好ましい。PTMGをソフトセグメントとし、ナイロン12をハードセグメントとしたナイロン系エラストマーとしては、ショアD硬度25~75のグレードが市販されている。
【0045】
熱可塑性エラストマーのショアD硬度の下限は、20°である。ショアD硬度が上記下限未満であると、軟質すぎて、CNFで補強しても大きな弾性率を得られなくなる。また、ウレタン系熱可塑性エラストマー又はナイロン系熱可塑性エラストマーでは、低硬度になると、ポリマーとして疎水性となるので水滴吸収性が低下してしまうおそれがある。ショアD硬度の上限としては、50°であり、45°が好ましい。ショアD硬度が上記上限を超えると、圧縮永久歪みが大きくなる。つまり、本発明では、ショアD硬度が20°以上50°以下の熱可塑性エラストマーを用い、これをCNFで補強することで、耐変形性及び復元性に優れる多孔質体を形成することができる。なお、本明細書において、ショアD硬度は、ISO868に準拠して測定された圧接後15秒経過後の硬度である。
【0046】
[気孔形成材]
気孔形成材としては、当該多孔質体形成用組成物の製造や成形過程における熱可塑性エラストマーの溶融加工温度以上の融点を有し、少なくとも大多数が溶融せず、固体状態を保持するものが好ましい。気孔形成材としては、当該多孔質体形成用組成物に含有される熱可塑性エラストマーには溶解せず、水系溶媒に溶解される粒子状物、又は水系溶媒が添加されると流動性を有する状態とされる粒子状物を用いることができ、例えば無機微粒子、有機微粒子等が挙げられる。
【0047】
無機微粒子としては、例えば炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属塩、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0048】
有機微粒子としては、例えば澱粉類(コーンスターチ、コムギ澱粉、ジャガイモ澱粉等)、糖類(ペンタエリスリトール、テトラメチロールメタン、ペンタグリセリン、ヘキシトール、グリシトール、ペプチトール等)などが挙げられる。
【0049】
気孔形成材としては、有機微粒子が好ましく、糖類がより好ましく、ペンタエリスリトールがさらに好ましい。気孔形成材がペンタエリスリトールである場合、温水への溶解性が良く、溶出溶媒への酸やアルカリなどの添加が不要で融点が適切に高く、熱可塑性エラストマー中への分散性に優れ、多量の添加が可能であるため、好ましい。
【0050】
気孔形成材の平均粒子径の下限は3μmが好ましく、5μmがさらに好ましい。上記下限未満であると、当該多孔質体形成用組成物の溶融粘度が高くなって、成形性に支障をきたすおそれがある。気孔形成材の平均粒子径の上限は200μmが好ましく、170μm以下がさらに好ましい。上記上限を超えると、粒子間の接触確率が減り、溶出後の連続気孔性が悪化し、永久変形が大きくなるおそれがある。本明細書において、気孔形成材の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用い、湿式法で測定したメディアン径をいう。
【0051】
多孔質体に液体の吸収性を要求される場合には、気孔形成材の平均粒子径の上限としては、25μmが好ましい。また、平均粒子径の下限としては、5μmが好ましい。平均粒子径が25μmを超えると、水滴の吸収性が低下するおそれがある。また、平均粒子径が5μm未満であると、材料組成の均一性が低下するおそれがあり、また、得られる多孔質体の孔径が小さくなり、顔料インク等を含浸して使用するような場合には、目詰まり等の不具合を招くおそれがある。
【0052】
気孔形成材として、1種又は2種以上を用いることができる。多孔質体に液体吸収性を要求される場合には、気孔形成材2種以上用いるとき、ブレンドした粉末の平均粒子径が25μm以下となるように、ブレンド比を調整することが好ましい。
【0053】
[水溶性熱可塑性ポリマー]
水溶性熱可塑性ポリマーは熱可塑性エラストマーへの気孔形成材の分散性を助け、成形時の流動性を改善し、気孔形成材と共に溶出され、多孔質体の安定的な製造に寄与する成分である。水溶性熱可塑性ポリマーは水により溶出され、固体の気孔形成材が溶出して抜け出す道筋を作ると考えられるが、気孔形成材の溶出速度を速める働きもする。
【0054】
水溶性熱可塑性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)等を使用出来る。これらの中でも、界面活性効果を有し、水への溶解性に優れる部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
【0055】
部分けん化ポリビニルアルコールとしては、熱安定性に優れる熱溶融成形用のポリビニルアルコールが好ましい。熱溶融成形用のポリビニルアルコールの融点は160~180℃である。
【0056】
部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度の下限としては、65モル%が好ましく、70モル%がより好ましい。けん化度の上限としては、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましい。
【0057】
部分けん化ポリビニルアルコールの重合度の下限としては、500が好ましく、700がより好ましい。上記重合度の上限としては、1500が好ましく、1200がより好ましい。
【0058】
当該多孔質体形成用組成物における水溶性熱可塑性ポリマーの含有量は、気孔形成材の粒子径、当該多孔質体形成用組成物中の気孔形成材の容積分率等に応じて適宜調整することができる。例えば、気孔形成材として平均粒子径が8μmのペンタエリスリトール粒子を、水溶性熱可塑性ポリマーとしてPVA用いる場合、ペンタエリスリトール粒子とPVAの合計含有量に対するPVAの含有量は5質量%~15質量%が望ましい。PVAの比率が5質量%未満であると、ペンタエリスリトール粒子の熱可塑性エラストマー中への分散が悪くなるおそれがある。15質量%を越えると、熱可塑性エラストマー中で相分離したPVAが大きな固まりとなって析出し、多孔質体の気孔構造が緻密ではなくなってしまうおそれがある。
【0059】
[その他の成分]
当該多孔質体形成用組成物が含有するその他の成分としては、例えば無機充填剤、顔料等の微粒子、滑剤、離型剤、熱安定性を向上するための酸化防止剤、老化防止剤、光劣化を抑制するための光安定剤、耐加水分解性を付与するための加水分解抑制剤、抗菌・防カビ剤等が挙げられる。当該多孔質体形成用組成物は、1種又は2種以上のその他の成分を含有することができる。
【0060】
微粒子は、熱可塑性エラストマーとの親和性が高く、気孔形成材と水溶性熱可塑性ポリマーの溶出時に溶出されないよう、熱可塑性ポリマー相に分散され、偏在していることが好ましい。当該多孔質体形成用組成物における微粒子の含有量は、当該多孔質体形成用組成物の加工性(溶融時の流動性)を損なわない範囲において適宜調整することができる。
【0061】
滑剤は、樹脂を加工する際の樹脂と機械との間の摩擦の低減や、樹脂粒子同士の摩擦を低減することを目的として添加されるものであり、樹脂と機械との摩擦を低減する滑剤を外部滑剤、樹脂粒子同士の摩擦を低減する滑剤を内部滑剤と呼ぶ。滑剤としては、例えば炭化水素系(流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックスなど)、脂肪酸系、高級アルコール系(ステアリン酸やステアリルアルコールなど)、脂肪族アミド系(ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドの脂肪酸アミドと、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドのアルキレン脂肪酸アミドに大別できる)、金属石鹸系(ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなど)、エステル系(ステアリン酸モノグリセリドやステアリルステアレート、硬化油など)等が挙げられる。
【0062】
離型剤としては、例えばシリコンオイル、シリコン系離型剤、フッ素系離型剤等が挙げられる。当該多孔質体形成用組成物における離型剤の含有量としては、熱可塑性エラストマー100質量部に対して0~0.5質量部以下とすることが好ましい。含有量が多すぎると、その他の成分が多孔質体を構成する熱可塑性エラストマー表面にブルームして、表面張力を下げ、水滴吸収性が損なわれるおそれがある。
【0063】
<多孔質体>
当該多孔質体は、上述の当該多孔質体形成用組成物から形成される。具体的な製造方法については後述する。
【0064】
当該多孔質体は、連続気孔を有する多孔質体である。当該多孔質体の気孔率の下限としては、55%が好ましく、60%がより好ましい。上記気孔率の上限としては、75%が好ましい。上記気孔率を上記範囲とすることにより、良好な吸水性を発揮することができるとともに、実用的に十分な強度を確保できる。なお、本明細書において、気孔率とは、多孔質体の厚み及び縦横幅の寸法を測定して体積を求め、質量を測定し、下記式により算出される値である。
気孔率={(多孔質体の体積)-(多孔質体の質量/熱可塑性エラストマー相の比重)}/(多孔質体の体積)×100
ここで、熱可塑性エラストマー相とは、熱可塑性エラストマー、無水マレイン酸変性ポリマー、及びセルロースナノファイバーからなる相である。
【0065】
当該多孔質体は、セルロースナノファイバーで補強された熱可塑性エラストマーを含有する多孔質体であり、ハードセグメント量を多くして硬質化した熱可塑性エラストマーを含有する多孔質体と比較して、同じ弾性率下の圧縮永久歪みが小さい多孔質体であり、より耐久性に優れる多孔質体である。
【0066】
当該多孔質体は、耐変形性及び復元性に優れることから、例えばアーチサポートインソールとして好適に用いることができる。当該多孔質体から形成されるアーチサポートインソールは、耐久性、通気性及びクッション性に優れる。
【0067】
また、当該多孔質体は、耐変形性及び復元性に優れるだけでなく、良好な吸水性を示すことから、例えばペン先(筆ペンやリキッドアイライナー等のペン先)として好適に用いることができる。当該多孔質体から形成されるペン先は、液体インク吸収性に優れ、腰が強いが復元性に優れ、永久変形しにくいペン先である。
【0068】
<多孔質体の製造方法>
当該多孔質体の製造方法は、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーの水分散体とラテックス状態の無水マレイン酸変性ポリマーとを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう)と、上記混合工程により得られた混合物から水を除去する工程(以下、「除去工程」ともいう)と、上記除去工程により得られた乾燥物に熱可塑性エラストマーを添加し、110℃以上の温度で混練する工程(以下、「混練工程」ともいう)と、上記混練工程により得られた混練物に気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを添加し、気孔形成材が溶融しない温度で混練し、上述の当該多孔質体形成用組成物を調製する工程(以下、「調製工程」ともいう)と、上記調製工程により得られた多孔質体形成用組成物を成形する工程(以下、「成形工程」ともいう)と、上記成形工程により得られた成形体を溶出溶媒に浸漬し、気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを溶出させる工程(以下、「溶出工程」ともいう)を備える。
【0069】
当該多孔質体の製造方法によれば、耐変形性及び復元性に優れる多孔質体を製造することができる。
【0070】
以下、当該多孔質体の製造方法が備える各工程について詳説する。
【0071】
[混合工程]
本工程では、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーの水分散体とラテックス状態の無水マレイン酸変性ポリマーとを混合する。非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバー並びに無水マレイン酸変性ポリマーについては、上述の<多孔質体形成用組成物>の項において説明している。
【0072】
混合方法としては特に制限されず、公知の混合方法を採用できる。中でも、非化学変性及び非修飾のセルロースナノファイバーと無水マレイン酸変性ポリマーとを均一に混合できる方法が好ましく、このような混合方法としては、例えば高粘度液体用攪拌機、自転公転式ミキサー、ペイント混練用の3本ロールミル等が挙げられる。混合が不均一であると、後述する除去工程においてCNF同士が凝集してダマとなり、CNF及び無水マレイン酸変性ポリマーが熱可塑性エラストマー相中に均一に分散できないおそれがある。混合時のCNF水分散体のCNF濃度は、水を添加することにより適宜調整できる。
【0073】
[除去工程]
本工程では、上記混合工程により得られた混合物から水を除去する。本工程により、乾燥物が得られる。混合物の乾燥は、例えば温風乾燥機、真空乾燥機、スプレードライ等で行うことができる。
【0074】
[混練工程]
本工程では、上記除去工程により得られた乾燥物に熱可塑性エラストマーを添加し、110℃以上の温度で混練する。熱可塑性エラストマーは、上述の<多孔質体形成用組成物>の項において説明している。
【0075】
混練温度は、セルロースナノファイバー表面の水酸基と無水マレイン酸基が反応出来る温度以上の温度である。混練温度の下限としては、110℃であり、130℃が好ましい。混練温度の上限としては、200℃以下が好ましい。混練温度が上記上限を超えると、セルロースナノファイバーが分解して(黄色や褐色に)着色するおそれがある。
【0076】
混練方法としては特に制限されず、通常の樹脂やゴムの混練手段により行うことができる。例えば、1軸又は2軸の押出混練装置、2本ロール(加熱可能)、ニーダー等を用いた混練方法が挙げられる。本工程と後述の調製工程とはそれぞれ独立に行われてもよい。2軸混練装置を用いる場合、本工程と後述の調製工程を連続で行ってもよい。
【0077】
本工程は、連続気孔多孔質体の安定形成に重要である。上記除去工程で得られた乾燥物と気孔形成材と水溶性熱可塑性ポリマーを一度に熱可塑性エラストマー中に投入し、混練すると、乾燥物中のセルロースナノファイバーは水溶性熱可塑性ポリマー相に偏在し、熱可塑性エラストマー中へ分散されず、熱可塑性エラストマーの補強に寄与しなくなる。本工程のように、乾燥物と熱可塑性エラストマーとを予め混練することにより、無水マレイン酸変性ポリマーとCNFとの結合又は相互作用が熱可塑性エラストマー相中でなされるため、CNFは熱可塑性エラストマー中に安定に分散する。このような安定な分散系に気孔形成材と水溶性熱可塑性ポリマーを後から投入して混練することで、CNFは熱可塑性エラストマー相中に存在し、気孔形成材が水溶性熱可塑性ポリマーを介して分散された形態となった多孔質体形成用組成物を得ることができる。
【0078】
本工程においては、熱可塑性エラストマーは、最終の多孔質体形成用組成物中の全熱可塑性エラストマー量を使用して混練が行われても良いし、全熱可塑性エラストマー量の一部を用いてマスターバッチを得る形で行ない、最終的混練段階に残りの熱可塑性エラストマーを追加し、混練しても良い。
【0079】
[調製工程]
本工程では、上記混練工程により得られた混練物に気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを添加し、気孔形成材が溶融しない温度で混練し、上述の当該多孔質体形成用組成物を調製する。本工程により、上述の当該多孔質体形成用組成物が調製される。気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーは、上述の<多孔質体形成用組成物>の項において説明している。
【0080】
混練温度の下限としては、気孔形成材が溶融しない温度かつ熱可塑性エラストマー及び水溶性熱可塑性ポリマーの融点以上の温度であればよく、用いる気孔形成材、熱可塑性エラストマー及び水溶性熱可塑性ポリマーの種類に応じて適宜決定することができる。例えば、水溶性熱可塑性ポリマーとしてポリビニルアルコールを用いる場合、混練温度の下限は、165℃とすることができる。混練温度の上限としては、200℃以下が好ましい。混練温度が上記上限を超えると、セルロースナノファイバーが分解して(黄色や褐色に)着色するおそれがある。
【0081】
[成形工程]
本工程では、上記調製工程により得られた多孔質体形成用組成物を成形する。本工程により、多孔質体形成用組成物の成形体が得られる。成形方法としては、例えばインジェクション成形、トランスファー成形、押出成形、プレス成型(圧縮成形)等が挙げられる。この場合の成型温度は、少なくとも熱可塑性エラストマーの融点以上の温度で行うことが好ましい。
【0082】
[溶出工程]
本工程では、上記成形工程により得られた成形体を溶出溶媒に浸漬し、気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを溶出させる。本工程により、成形体から気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーが溶出し、連続気孔の多孔質体が得られる。本工程の後、適宜乾燥等を行ってもよい。
【0083】
本工程において用いる溶出溶媒としては、成形体から気孔形成材及び水溶性熱可塑性ポリマーを溶出できる溶媒であれば特に制限されず、水であることが好ましく、温水であることがより好ましい。温水を用いる場合、その温度の下限としては、40℃が好ましく、60℃がより好ましい。上記温度の上限としては、100℃であり、90℃が好ましい。上記下限に満たない場合、溶出速度が遅く、溶出に時間がかかるおそれがある。
【0084】
溶出時間は、多孔質体の厚みや大きさ、形状、溶出成分の比率、エラストマーの種類等に応じて適宜決定することができる。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
実施例及び比較例で用いた材料を下記表1に示す。
【0087】
【0088】
上記表1中、熱可塑性エラストマーのショアD硬度はISO868に準拠して測定した圧接後15秒経過後の硬度であり、ペンタエリスリトール微粉末のメディアン径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所の「LA-920」)を用い、湿式法で測定した値であり、融点はDSCで測定した値である。その他の特性値は、各メーカーの想定値である。
【0089】
<CNF及び無水マレイン酸変性ポリマーの混合及び乾燥物の調製>
下記表2で示す配合表に基づき、各成分を1Lのビーカーに計量した。へらを用いて予備混合後、自転公転ミキサー((株)シンキーの「泡取り連太郎」)を用いて攪拌し、均一に混合して混合物1及び混合物2を得た。得られた混合物1及び混合物2をそれぞれ300×230×50mmのトレイに入れ、40℃のオーブン中で96時間乾燥し、さらに70℃で減圧乾燥して揮発分を完全に除去し、乾燥物1及び乾燥物2を得た。下記表3に乾燥物1及び乾燥物2の組成を示す。下記表2及び下記表3において、各成分の配合量の単位は質量部であり、「-」は該当する成分を使用していないことを示す。
【0090】
【0091】
【0092】
<多孔質体形成用組成物の調製>
下記表4に実施例1~4と比較例1~7の多孔体形成用組成物の配合組成を示す。乾燥物1及び乾燥物2は上記表3に示す組成であるので、15質量部は、無水マレイン酸変性ポリマー10質量部とセルロースナノファイバー5質量部からなる。また、下記表4には、熱可塑性エラストマーと乾燥物とを混練した時の温度(第一混練温度)、ペンタエリスリトール微粉末と部分けん化ポリビニルアルコールとを混練した時の温度(第二混練温度)、及び溶出時の水温を示した。
【0093】
[実施例1~4の多孔質体形成用組成物の調製]
下記表4に示す量の熱可塑性エラストマーと上記調製した乾燥物とを計量し、3インチのゴム用2本ロールのロール表面温度を下記表4に示す第一混練温度に設定し、混練を行った。熱可塑性エラストマーと乾燥物とが均一に混練されるまで混練を行い、ロールから取り外して冷却した。次いで、ロール温度を下記表4に示す第二混練温度に設定し、熱可塑性エラストマーと乾燥物との混練物を投入して溶融させてロールに巻き付かせた後、あらかじめ所定量に計量しておいた部分けん化ポリビニルアルコールとペンタエリスリトール微粉末とを順次投入し、混練を行った。均一な混練が出来たことを確認し、ロールから取り外し、混練を完了し、実施例1~4の多孔質体形成用組成物を得た。
【0094】
[比較例1~6の多孔質体形成用組成物の調製]
下記表4に示す量の熱可塑性エラストマーと部分けん化ポリビニルアルコールとペンタエリスリトール微粉末を計量した。3インチのゴム用2本ロールのロール表面温度を下記表4に示す第二混練温度に設定し、熱可塑性エラストマーをロールに投入して巻き付かせた後、部分けん化ポリビニルアルコールを投入し、溶融させ、均一化した後、ペンタエリスリトール微粉末を投入して混練した。均一に混練後、ロールから取り外し、比較例1~6の多孔質体形成用組成物を得た。
【0095】
[比較例7の多孔質体形成用組成物の調製]
混練方法を以下に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例7の多孔質体形成用組成物を得た。下記表4に示す量の熱可塑性エラストマーと部分けん化ポリビニルアルコールとペンタエリスリトール微粉末を計量した。3インチのゴム用2本ロールのロール表面温度を下記表4に示す第一の混練温度に設定し、熱可塑性エラストマーと部分けん化ポリビニルアルコールとペンタエリスリトール微粉末とを一度に投入し、均一になるまで混練を行った。次いで、ロール温度を下記表4に示す第二の混練温度に設定し、あらかじめ計量しておいた乾燥物1を投入し、混練を行ない、比較例7の多孔質体形成用組成物を得た。
【0096】
<多孔質体の製造>
[実施例1~4及び比較例1~7の多孔質体の製造]
上記得られた多孔質体形成用組成物を用い、以下の方法で多孔質体を調製した。上記多孔質体形成用組成物の混練物をプレス成形して2mmと3mmのシートを成形した。シート成形は、10mm厚の金属板-テフロン(登録商標)シート-2mm又は3mm耳枠(枠内に混練物を置く)-テフロン(登録商標)シート-10mm厚金属板をセットし、プレスの熱盤に挟んでプレス成形した。なお、成形前に、金属板はあらかじめ、プレスの熱盤に挟んで余熱しておいた。プレス熱盤の温度は165℃に設定して行った。プレス時間は5分とした。プレス後、金属板を取り出し、テフロン(登録商標)シート-「2mm又は3mm耳枠+プレス成形物」-テフロン(登録商標)シートを金属板から取りだし、低温の金属板に挟んで冷却した。冷却後、テフロン(登録商標)シートを剥がし、耳枠から取り外して、成形体を得た。
【0097】
次いで、得られた成形体を5Lの温水浴中に浸漬し、緩やかに攪拌しながら、下記表4に示す水温でペンタエリスリトールとポリビニルアルコールの溶出を行った。なお、温水としてイオン交換水を用いた。溶出中は5回水を交換した。溶出は、実施例1並びに比較例2及び7は48時間行い、実施例2~4並びに比較例1及び3~6は23時間行なった。溶出後、試料は60℃の熱風オーブンで24時間乾燥して、実施例1~4及び比較例1~7の多孔質体を得た。下記表4中、「-」は該当する成分を使用していないことを示す。
【0098】
【0099】
<評価>
得られた多孔質体について、下記の方法に従って、気孔率、引張特性、圧縮永久歪み及び水滴吸収時間を評価した。結果を下記表5に示す。
【0100】
[気孔率]
多孔質体の厚み、縦横幅の寸法を測定して体積を求め、質量を測定し、下記式により気孔率を算出した。
気孔率={(多孔質体の体積)-(多孔体の質量/熱可塑性エラストマー相の比重)}/(多孔質体の体積)×100
ここで、熱可塑性エラストマー相の比重ρは下式で計算される。
ρ=(W1+W2)/(W1/ρ1+W2/ρ2)
ここで、W1及びW2は、それぞれ上記表4に示す熱可塑性エラストマーの質量部数及び乾燥物(CNF及び無水マレイン酸変性ポリマー)の質量部数であり、ρ1及びρ2は、それぞれ熱可塑性エラストマー及び乾燥物の比重(CNF及び無水マレイン酸変性ポリマーの質量部数と比重からの計算値であり表4に示した値)である。
【0101】
[引張特性]
縦100mm×横100mm×厚さ2mmの多孔質体シートから8号ダンベル形状に打ち抜き、引張試験用の試料とした。引張試験は、オートグラフ((株)島津製作所の「SHIMADZU AUTOGRAPH AGS-X」)を用い、引張試験スピード350mm/分で行った。それぞれ3本の測定を行い、引張強度値がメディアン値を示す試料のS-S曲線のデータを用いた。
図1~
図3にS-S曲線を示す。S-S曲線より、5%伸張時応力(σ5)、10%伸張時応力(σ10)、20%伸張時応力(σ20)、50%伸張時応力(σ50)、引張強度(Tb)及び破断伸度(Eb)を読み取り、引張試験データとした。
【0102】
[圧縮永久歪み]
縦100mm×横100mm×厚み3mmの多孔質体シートから直径10mmφの円盤を打ち抜き、これを圧縮永久歪み測定用試料とした。このシートを圧縮永久歪み測定用治具にセットし、圧縮率が30%となるように圧縮した。試料の厚みに応じ、スペーサーで圧縮厚みを調整した。圧縮後、23±2℃、相対湿度50~65%の室内で24時間放置後、治具から解放し、10分以内にダイヤルゲージで厚みを測定した。以下の式に従って、圧縮永久歪みを計算した。
図4に、50%伸張時応力(σ50)と圧縮永久歪みとの関係を示す。
圧縮永久歪み:(To-T)/(To-T1)×100
ここで、Toは圧縮前の厚みであり、T1は圧縮時の試料厚みであり、Tは圧縮解放後の試料厚みである。
【0103】
[水滴吸収時間]
乾燥され、1日大気中に放置された多孔質体の表面にハンディーピペッターを用いて、0.02ccの水滴を滴下した直後から水滴が完全に多孔質体に吸収されるまでの時間を、ストップウォッチを用いて計測した。水としては蒸留水を用いた。2枚のシートの裏と表についてそれぞれ3回測定し、2×3×2=12点のデータを平均して、水滴吸収時間とした。
【0104】
【0105】
表5及び
図1~
図4の結果から、実施例1~4の多孔質体は、比較例1~7の多孔質体と比較して、耐変形性及び復元性に優れることが明らかとなった。さらに、実施例1~4の多孔質体は、良好な吸水性を示すことも明らかとなった。