(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163467
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】紫外光照射装置、紫外光照射装置の使用方法、及び紫外光の照射方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20221019BHJP
H01J 65/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
A61L2/10
H01J65/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068405
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
(72)【発明者】
【氏名】久野 彰裕
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 繁樹
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA28
4C058BB06
4C058KK02
4C058KK32
4C058KK33
(57)【要約】
【課題】人体に対する安全性を確保しつつ、微生物を効果的に不活化できる紫外光照射装置、及び当該紫外光照射装置の使用方法を提供する。
【解決手段】本発明の紫外光照射装置は、主たる発光波長が190nm~235nmの紫外光を放射する光源と、前記光源を収容する筐体と、前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、前記取出し部に、190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、前記取出し部に、前記光学フィルタの前記紫外光の出射側に配置される、前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
190nm~235nmの紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記取出し部に、前記光学フィルタの前記紫外光の出射側に配置される、前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備えることを特徴とする紫外光照射装置。
【請求項2】
前記拡散部材は前記光学フィルタと接して配置されることを特徴とする、請求項1に記載の紫外光照射装置。
【請求項3】
前記拡散部材は拡散シートであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【請求項4】
前記拡散シートは、PTFEを主成分とすることを特徴とする、請求項3に記載の紫外光照射装置。
【請求項5】
前記拡散シートを前記取出し部の周囲で固定する固定部を備えることを特徴とする、請求項3に記載の紫外光照射装置。
【請求項6】
前記拡散部材は前記光学フィルタに成膜された拡散膜であることを特徴とする、請求項2に記載の紫外光照射装置。
【請求項7】
前記拡散膜は、シリカ又はアルミナを主成分とすることを特徴とする、請求項6に記載の紫外光照射装置。
【請求項8】
前記拡散部材は前記光学フィルタと前記紫外光を透過する透過板とに挟まれて配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【請求項9】
前記拡散部材の厚みが1mm未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【請求項10】
前記拡散部材の厚みが0.5mm未満であることを特徴とする、請求項9に記載の紫外光照射装置。
【請求項11】
前記光源はエキシマランプであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の紫外光照射装置を、出射される紫外光の少なくとも一部が有人空間に向けて照射されるように配置し、前記紫外光照射装置に前記紫外光を放射させる、紫外光照射装置の使用方法。
【請求項13】
190nm~235nmの紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、を備え、
前記筐体は、前記光学フィルタの前記紫外光の出射側に前記紫外光を拡散させる拡散部材を取り付けるための取付部を有することを特徴とする、
紫外光照射装置。
【請求項14】
190nm~235nmの紫外光を放射する光源より紫外光を放射し、
190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタで、前記光源より放射された前記紫外光を選択的に透過させて、
前記光学フィルタの出射側に配置された拡散部材で、前記光学フィルタからの出射光を拡散させる、
ことを特徴とする、紫外光の照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外光照射装置、紫外光照射装置の使用方法、及び紫外光の照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、真菌及びウイルス等の微生物は、波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことが知られている。そのため、微生物の存在する物体表面や空間に向けて、波長254nm付近に高い発光スペクトルを示す紫外光を照射し、微生物を不活化させる技術が、従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、紫外光を出射する殺菌ランプを調理場等に取り付けて、調理場の殺菌を行うことが記載されている。また、特許文献2には、室内に浮遊する細菌やウイルスに紫外光を照射して殺菌することが記載されている。
【0004】
加えて、特許文献1や特許文献2に記載の紫外光照射装置は、人体に有害な紫外光を使用している。そのため、紫外光が人体に向かわないように、出射する紫外光に指向性を持たせるなどの対策をとっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63-187221号公報
【特許文献2】特開2017-018442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、細菌、真菌及びウイルス等の微生物は、特に、人体の表面(例えば、皮膚や髪の毛)や、人が頻繁に接触する物体表面(例えば、家具や事務機器)、又は人体近傍の空間に多い。
【0007】
人体に有害な紫外光を照射することの危険性から、従来の紫外光照射装置では、人体の表面、人が頻繁に接触する物体表面、及び人体近傍の空間など、微生物を最も不活化させるべき肝心の場所に向けて、紫外光を照射することができなかった。よって、従来の紫外光照射装置は、微生物の不活化に限界があった。
【0008】
本発明は、人体に対する安全性を確保しつつ、微生物を効果的に不活化できる紫外光照射装置、及び当該紫外光照射装置の使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
紫外光は全ての波長帯域において人体に対する有害性を示すわけではない。240nm以上のUVC波はヒト細胞に対する有害性が報告されているが、それよりも波長帯が短い紫外光は、ヒト細胞に対する貫通力が小さくなるため、人体に対する有害性が極めて低くなる。そこで、本発明者は、人体に対する有害性を抑制しつつ、微生物を不活化するため、主たる発光波長が190nm~235nmの紫外光を使用することに着眼した。
【0010】
本発明の紫外光照射装置は、190nm~235nmの紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
前記取出し部に、190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、
前記取出し部に、前記光学フィルタの前記紫外光の出射側に配置される、前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備える。
【0011】
この紫外光照射装置は、人体に対して有害とされる240nm以上の波長帯域の紫外光が抑制されているため、拡散部材を使用して紫外光の配光角を拡大できる。その結果、微生物を不活化させたい場所(人体の表面、人が頻繁に接触する物体表面、人体近傍の空間、または人が不在の空間を含む)に対して、広範囲にムラなく(ムラを小さく)紫外光を照射できる。よって、人体に対する安全性を確保しつつ、微生物を効果的に不活化できる。
【0012】
本明細書において、微生物とは、原核生物である細菌類、及び真核生物であるカビ等の真菌類など細胞構造を有する原生生物全般と、細胞構造を有しないゲノムとしてDNA又はRNAの核酸を有するウイルスと、を含むものである。
【0013】
本明細書において、不活化とは、原生生物の場合、細胞内のDNAもしくは酵素(タンパク質)又は細胞膜を破壊すること等により死滅させること、又は細胞の増殖機能を取り除くことのいずれかを指す。不活化とは、ウイルスの場合、DNA又はRNAを破壊することにより、細胞への感染力を失わせることを指す。ウイルスは、人又は動物の口又は鼻から、呼気、唾、咳又はくしゃみとして飛散する飛沫、又はエアロゾルに含まれ、空間を浮遊し、家具、床及び壁等の物体、並びに人体の表面に付着する。
【0014】
光源が放射する紫外光は、主たる発光波長が190nm~235nmであっても構わない。本明細書において「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。例えばKrCl、KrBr、ArFを含む発光ガスが封入されているエキシマランプなどのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ光強度を示す光源においては、通常は、相対照度が最も高い波長(主たるピーク波長)をもって、主たる発光波長として構わない。
【0015】
さらに、前記紫外光照射装置は、190nm以上かつ235nm以下の波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタをさらに備えるから、人体に対して影響を及ぼすおそれのある、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を透過させないことで、人体に対する安全性が向上する。
さらに、人体に対する安全性をより高めるため、光学フィルタは、波長200nm以上230nm以下の紫外光を透過し、230nm~280nmの紫外光を実質的に透過させないこととしてもよい。
【0016】
前記拡散部材は前記光学フィルタと接して配置されても構わない。詳細は後述するが、これにより、拡散部材から筐体内部まで戻る戻り光を抑制し、光の照射効率が向上する。さらに、薄い拡散部材の支持が容易である。
【0017】
前記拡散部材は拡散シートであっても構わない。
【0018】
前記拡散シートは、PTFEを主成分としても構わない。
【0019】
前記拡散シートを前記取出し部の周囲で固定する固定部を備えても構わない。前記拡散シートの外周を挟持して位置を固定する固定部を備えても構わない。
【0020】
前記拡散部材は前記光学フィルタに成膜された拡散膜であっても構わない。
【0021】
前記拡散膜は、シリカ又はアルミナを主成分としても構わない。
【0022】
前記拡散部材は前記光学フィルタと前記紫外光を透過する透過板とに挟まれて配置されても構わない。
【0023】
前記拡散部材の厚みが1mm未満であっても構わない。
【0024】
前記拡散部材の厚みが0.5mm未満であっても構わない。
【0025】
前記光源はエキシマランプであっても構わない。
【0026】
本発明の紫外光照射装置の使用方法は、上記の紫外光照射装置を、出射される紫外光の少なくとも一部が有人空間に向けて照射されるように配置し、前記紫外光照射装置に前記紫外光を放射させる。
【0027】
本発明の紫外光照射装置は、主たる発光波長が190nm~235nmの紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
前記取出し部に、190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタと、を備え、
前記筐体は、前記取出し部に、前記光学フィルタの前記紫外光の出射側に前記紫外光を拡散させる拡散部材を取り付けるための取付部を有する。
【0028】
本発明の紫外光の照射方法は、
190nm~235nmの紫外光を放射する光源より紫外光を放射し、
190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタで、前記光源より放射された前記紫外光を選択的に透過させて、
前記光学フィルタの出射側に配置された拡散部材で、前記光学フィルタからの出射光を拡散させる。
【発明の効果】
【0029】
微生物を効果的に不活化できる紫外光照射装置、及び当該紫外光照射装置の使用方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図2】紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図3】紫外光照射装置から光源と電極ブロックのみを取り出して示す斜視図である。
【
図4】紫外光照射装置の、XZ平面における断面模式図である。
【
図5】拡散部材による出射光の配光角の拡大作用について説明する図である。
【
図6】発光ガスにKrClが含まれるエキシマランプの発光スペクトルの一例である。
【
図7】光学フィルタの透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図8】光学フィルタに対する紫外光の入射角を説明するための模式的な図面である。
【
図10A】第一例の拡散部材を有する紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図11】拡散部材を固定する固定部の変形例を示す図である。
【
図12A】第二例の拡散部材を有する紫外光照射装置の断面模式図である。
【
図12B】光学フィルタ上に成膜された拡散膜を有する紫外光照射装置の断面模式図である。
【
図13】紫外光照射装置の第二実施形態を説明する図である。
【
図14】光学レンズを備えた紫外光照射装置の断面模式図である。
【
図15】反射部を備えた紫外光照射装置の断面模式図である。
【
図16】拡散部材の作用を計測するための計測設備を模式的に示す図である。
【
図17】回転角の変化に対する相対照度を表すグラフである。
【
図18】PTFEシートの厚みを横軸に、相対照度を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
紫外光照射装置の各実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0032】
以下において、各図面は、適宜、XYZ座標系を参照しながら説明される。XYZ座標系は、放射される紫外光の光軸上の光線が進行する方向を+X方向とし、X方向に直交する平面をYZ平面としている。なお、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0033】
<第一実施形態>
[紫外光照射装置の概要]
図1、
図2及び
図3を参照しながら、本発明の紫外光照射装置の第一実施形態を説明する。
図1及び
図2は、紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
図3は、紫外光照射装置から光源と電極ブロックのみを取り出して示す図である。
【0034】
本実施形態の紫外光照射装置10は、紫外光を放射するエキシマランプ3(
図2又は
図3参照)と、エキシマランプ3を収容する筐体2と、エキシマランプ3より放射された紫外光を、筐体2の外へ+X方向に取り出す取出し部4と、紫外光を拡散させる拡散部材5と、後述する光学フィルタ6と、を有する。
図1及び
図2において、矢印L1は、エキシマランプ3より出射する紫外光の光軸と、光軸上の光線の進行方向を示す。
【0035】
本実施形態において、筐体2は、中央に取出し部4である開口を有する第一枠2aと、開口を有さない第二枠2bと、から構成され、第二枠2bと第一枠2aとが嵌め合わされて、筐体2に囲まれた内部空間が形成される。この内部空間には、エキシマランプ3と、エキシマランプ3に電力を供給する二つの電極ブロック(9a,9b)とが配置されている。
【0036】
二つの電極ブロック(9a,9b)は、第二枠2bの内部空間に接する面に固定されている(
図2、
図3参照)。第二枠2bの外側に接する面には、二つの接続端子(8a,8b)が設けられる。二つの接続端子(8a,8b)は、それぞれ、第二枠2bを挟んで電極ブロック(9a,9b)と導通している。二つの接続端子(8a,8b)には、それぞれ、外部電源(不図示)より給電される給電線(7a,7b)が接続される。なお、二つの電極ブロック(9a,9b)は、導電性の材料(例えば、Al、Al合金、ステンレスなど)から構成される。
【0037】
[光源]
図3を参照しながら、エキシマランプ3の一実施形態を説明する。本実施形態では、エキシマランプ3として、Z方向に離間して配置された3本のエキシマランプ3(3a,3b,3c)を備える。二つの電極ブロック(9a,9b)は、それぞれのエキシマランプ3(3a,3b,3c)の発光管の外表面に接触する。これによりエキシマランプ3は給電され、点灯する。
【0038】
本実施形態において、エキシマランプ3は、発光管の内部にKrClを含む発光ガスが封入されたKrClエキシマランプを使用している。そのため、エキシマランプ3は、主たるピーク波長が190nm~235nmである紫外光を放射する。特に、KrClエキシマランプは、主たるピーク波長が222nm近傍の紫外光を出射する。
【0039】
エキシマランプ3は、KrClエキシマランプに限らない。例えば、発光管の内部にKrBrを含む発光ガスが封入された、KrBrエキシマランプを使用しても構わない。KrBrエキシマランプは、主たるピーク波長が207nm近傍の紫外光を出射する。
【0040】
エキシマランプ3(3a,3b,3c)の発光管の大きさは、管軸方向(Y方向)の長さが15mm以上、200mm以下であり、外径が2mm以上、16mm以下であるとよい。
【0041】
[拡散部材の概要]
図4は、紫外光照射装置10の、XZ平面における断面模式図である。本実施形態の紫外光照射装置10では、取出し部4を構成する開口に、紫外光を拡散させる拡散部材5と光学フィルタ6とが配置されている。なお、「取出し部に配置」とは、拡散部材5又は光学フィルタ6が光取出し面に対して完全に一体化されて配置されている場合の他、拡散部材5又は光学フィルタ6が光取出し面に対してX方向に微小な距離(例えば数mm~十数mm)だけ離間した位置に配置されている場合を含む。
【0042】
エキシマランプ3(3a,3b,3c)から放射された光は、光学フィルタ6において特定の波長帯域について遮断される。光学フィルタ6の詳細は後述する。光学フィルタ6から出射した光線束F1は拡散部材5で拡散され、光の拡がる角度、すなわち配光角、が大きくなる。
【0043】
図5を参照しながら、拡散部材5の作用である、出射光の配光角の拡大について説明する。
図5において、仮に拡散部材を有していない場合、紫外光照射装置10から紫外光の光線束F2が、光軸(矢印L1)を中心に配光角θ2で出射される。拡散部材5を有している場合、紫外光の光線束F1が配光角θ1で出射される。拡散部材5を有している場合の配光角θ1は、拡散部材を有していない場合の配光角θ2よりも大きくなる。配光角(θ1,θ2)は、光軸を中心に拡がる光線束(F1,F2)の、光軸から最も離れた最外側の対向する光線同士のなす角として定義される。なお、光線束(F1,F2)は、中心である光軸の回りに拡がっており、光軸L1上の光線の輝度に対して1/2以上の輝度を有する光線の束として定義される。
【0044】
紫外光照射装置10は、拡散部材5で出射光の配向角を拡大させることにより、広い範囲に亘って紫外光を照射できる。これにより、微生物を不活化させたい領域を、少数の紫外光照射装置でカバーできるようになり、コスト効果に優れる。
【0045】
次に、拡散部材5のもう一つの作用である、出射光のムラの抑制について説明する。ムラがない(又は、ムラが小さい)ことは、局所的に弱い光を受ける領域が減少するため、不活化効果の小さい領域が減少する。さらに、局所的に強い光を受ける領域が減少するため、より高いレベルでの安全性を確保しつつ、紫外光の照射量の上限の制約を受けにくくする。これについて以下に詳述する。
【0046】
人を含む環境に対する紫外光照射は、その照射量を抑えることが求められる場合がある。例えば、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)、又はJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)では、人体への1日(8時間)あたりの紫外光照射量が、波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)以下となるように、規定されている。
【0047】
上述したように、本発明で使用される出射光の波長は、人体に対する有害性が極めて低い波長であるが、さらに安全性を高めるためには、上述したTLVの規定を満たすように紫外光の照射量を設定することが望ましい。
【0048】
出射光のムラが大きいことは、局所的に強い光を受ける領域と局所的に弱い光を受ける領域との強度差が大きいことを表す。上述したTLVの規定を満たすように紫外光の照射量を設定する場合、局所的に強い光を受ける領域に合わせて照射量の上限を設定することが望ましい。そうすると、紫外光の照射量の上限の制約を受けやすくなり、特に、局所的に弱い光を受ける領域に対しての紫外光の照射量は必要以上に制限されてしまう。
【0049】
反対に、出射光のムラが小さくなると、領域ごとの光の強度差が小さくなって、紫外光照射量の上限の制約を受けにくくなる。よって、紫外光照射装置10は、拡散部材5で出射光のムラを抑制することにより、より高いレベルでの安全性を確保しつつ、紫外光照射量の上限の制約を受けにくくする。
【0050】
さらに高いレベルでの安全性を確保するために、拡散部材5によって紫外光の局所的な最大照度(最も強度の高い光が照射される局所領域での照度)を抑制しても構わない。例えば、拡散部材5の光放射面における紫外光の局所的な最大照度を3mW/cm2以下、さらには、1mW/cm2以下に抑制するように、拡散部材の材質、厚み、形状等を選定又は調整してもよい。
【0051】
拡散部材5は、紫外光の照射によって微生物を不活化させる観点から、波長190nm~235nmの紫外光に対して透過性を示すものが用いられる。拡散部材5は、190nm~235nmを除く波長の紫外光の透過を抑制するものでも構わない。
【0052】
拡散部材5は、紫外光のみならず、可視光に対して拡散効果を有していてもよい。本発明に記載の紫外光照射装置10は、多様な場所や設備に適用が想定される。仮に、紫外光照射装置10の内部のエキシマランプ3や電極ブロック等が明瞭に識別されると、周囲の景観や設備外観を損なわせるおそれがある。しかしながら、可視光に対して拡散効果を有する拡散部材を取出し部4に配置すると、紫外光照射装置10の内部のエキシマランプ3を視認できなくするか、鮮明に見えなくすることを可能にし、周囲の景観や設備外観と調和させつつ、微生物の不活化を行うことができる。
【0053】
以上で拡散部材の概要について示した。拡散部材の具体例については後述する。
【0054】
[光学フィルタ]
光学フィルタ6は、特定の波長帯域の紫外光を遮断する、すなわち、実質的に透過しない、バンドパスフィルタとして機能する。例えば、KrClエキシマランプの場合、
図6に示すように、放射される紫外光のスペクトルには、ほぼ主たるピーク波長である222nm近傍に光出力が集中している一方で、人体に影響を及ぼすおそれのある、波長240nm以上かつ280nm以下の波長帯域の紫外光についても、わずかながら光出力が認められる。本実施形態では、取出し部4を構成する領域に光学フィルタ6を設けることで、波長240nm以上280nm以下の紫外光を実質的に透過しないようにする。これにより、人体に影響を及ぼすおそれのある波長帯域の紫外光が筐体の外に漏洩することを確実に抑えることで、光照射装置の人体に対する安全性がさらに向上する。
【0055】
光学フィルタ6は、特定の波長帯域の紫外光を遮断するバンドパスフィルタとして機能する態様であればよく、配置場所や形態が限定されるものではない。例えば、光源に接するよう形成されていても良く、光源と離間して形成されていても良い。
【0056】
本明細書において、「紫外光を実質的に透過しない」とは、主光線方向において、特定波長帯域におけるピーク波長の紫外光強度に対して、少なくとも5%以下の紫外光強度に抑制されることを意味する。本発明では、光学フィルタを用いることで240nm以上300nm以下の紫外光の強度が、ピーク波長の強度に対して5%以下に遮光される。なお、光学フィルタで遮光させたい波長帯域の光について、光学フィルタを透過した紫外光の強度が、ピーク波長の強度に対して2%以下、まで抑制されると好ましい。光学フィルタを透過した紫外光の強度が、ピーク波長の強度に対して1%以下、まで抑制されると、さらに好ましい。
【0057】
光学フィルタ6には、屈折率の異なる複数の誘電体多層膜を含んで構成されることがある。誘電体多層膜層として、例えば、HfO2層及びSiO2層が交互に積層されたもの、並びに、SiO2層及びAl2O3層が交互に積層されたものがある。HfO2層及びSiO2層が交互に積層された誘電体多層膜層は、SiO2層及びAl2O3層が交互に積層された誘電多層膜層よりも、同じ波長選択特性を得るための層数を少なくすることができるため、選択した紫外光の透過率を高めることができる。
【0058】
上記のとおり、光学フィルタ6には、屈折率の異なる複数の誘電体多層膜で構成されることがあるが、誘電体多層膜で構成される光学フィルタ6は、紫外光の入射角に応じて、透過率が不可避的に変化してしまう。
【0059】
図7は、光学フィルタ6の透過スペクトルの一例を、紫外光が光学フィルタ6に対して入射するときの入射角別に示すグラフである。このグラフの例は、光学フィルタ6は、エキシマランプ3の発光ガスがKrClを含む場合、すなわち、エキシマランプ3が主たるピーク波長222nmの紫外光を発する場合を想定して設計されている。グラフ内の各曲線は、波長を異ならせながら、光学フィルタ6に対して入射した光の強度と、光学フィルタ6から出射された光の強度の比率をプロットして得られる。入射角は、
図8に示すように、光学フィルタ6の入射面に対する法線6Nと、光学フィルタ6の入射面に入射される紫外光L2との角度θ3で定義される。
【0060】
光学フィルタ6は、
図7のグラフから、入射角(角度θ3)の小さい光成分を透過しやすい一方で、入射角の大きい光成分を透過しにくいことがわかる。入射角の大きい光成分は光学フィルタ6に進入せず反射される。その結果、光学フィルタ6からの出射光は、光学フィルタ6への入射光に比べて、入射角の小さい光成分の比率が高まり、配光角が小さくなる。別の言い方をすれば、光学フィルタ6は、光の配光角を小さくする。
【0061】
このような事情から、上述した拡散部材5は、配光角を小さくする光学フィルタ6を使用する場合に、特に顕著な効果が得られる。つまり、光学フィルタ6を使用して配光角が小さくなった場合においても、拡散部材5を光学フィルタ6の後段に配置(つまり、光学フィルタ6を、エキシマランプ3と拡散部材5との間に配置)すると、紫外光照射装置10は、大きな配光角を得ることができる。
【0062】
拡散部材5と光学フィルタ6とを組み合わせて使用する場合のさらなる効果として、光学フィルタ6における、拡散部材5の戻り光の反射作用がある。
図9を参照しながらこれを説明する。
図9は、
図4におけるP1領域の拡大図である。拡散部材5の点P2に入射する光L4の拡散効果を微視的にみると、光L4は、点P2において、様々な方向に拡散する。
【0063】
点P2で屈折し+X方向に進む光FLは、紫外光照射装置10より出射されるのに対し、点P2で拡散し-X方向に進む光(B0,B1)は、紫外光照射装置10の筐体内部へ戻ろうとする戻り光となる。
【0064】
しかしながら、上述したように、光学フィルタ6は、入射角の小さい光成分を透過しやすい一方で、入射角の大きい光成分を反射する性質を有する。そのため、点P2からの戻り光のうち、多くの光B1は、光学フィルタ6に対して入射角が大きく、+X方向に進む光に変化する。筐体内部まで戻る戻り光は、光学フィルタ6に対して入射角の小さい、僅かな光B0のみになる。よって、筐体内部まで戻る戻り光を抑制し、光の出射効率が向上する。
【0065】
以上より、拡散部材5は、波長選択のために配置した光学フィルタ6の、配光角を拡大する効果を得るために設けるものであるが、光学フィルタ6を見れば、拡散部材5を設けたことにより発生する戻り光を抑制するという効果も得られる。拡散部材5と光学フィルタ6とを組み合わせて使用すると、この異なる二つの効果を同時に得られる。
【0066】
拡散部材5が光学フィルタ6に接して配置されている場合には、拡散部材5が光学フィルタ6から離して配置されている場合に比べて、拡散部材5からの戻り光の光学フィルタ6に対する入射角を大きくできる。よって、拡散部材5が光学フィルタ6に接して配置することにより、戻り光を抑制し、光の出射効率がより向上する。
【0067】
[拡散部材の具体例]
図10A及び
図10Bを参照しながら、拡散部材5の第一例を説明する。
図10Aは紫外光照射装置10の外観を模式的に示す斜視図であり、
図10Bは紫外光照射装置10の、XZ平面における断面模式図である。紫外光照射装置10において、拡散部材5は拡散シート5sを含んで構成される。紫外光照射装置10は、拡散シート5sを固定する固定部13を有する。
【0068】
拡散シート5sについて、本実施形態では、主にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を主成分とする拡散シート(以下、「PTFEシート」ということがある。)が使用されている。PTFEは、その分子構造自体が、光拡散性を示す結晶性を呈するため、拡散部材として好適である。なお、主成分とは、当該拡散シートの中で最も多い成分を指す。主成分が、拡散シートの中で90質量%以上を占めてもよく、拡散シートの中で95質量%以上を占めてもよい。
【0069】
PTFEシートの製造方法には、PTFEの微粒子をシート状に焼結させる方法や、PTFEの微粒子を押し固めた母材を引き延ばしてシート状にする方法などがある。とりわけ、PTFEの微粒子をシート状に焼結させる方法でPTFEシートを製造した場合には、微粒子間に多くの隙間が形成された多孔質構造を呈し、当該多孔質構造が特に多くの光を拡散させるため、光拡散特性に特に優れている。また、PTFEの微粒子をシート状に焼結させるとき、PTFEの結晶性は焼結温度によって異なる。焼結温度が高いとPTFEシートの結晶度が高まり、拡散性がより高まる。
【0070】
PTFE以外の拡散シートの材料として、PFAもしくはPVDFのような他のフッ素系樹脂、又は、ポリカーボネート、ポリエチレンもしくはPET等の樹脂を主とする材料を使用しても構わない。拡散シートの厚みは、1mm未満であると好ましく、0.5mm未満であるとさらに好ましい。
【0071】
固定部13は、取出し部4の周囲を囲む枠形状を呈する。拡散シート5sは、光学フィルタ6と固定部13とに挟まれて固定される。光学フィルタ6は、第一枠2aの内壁面から突出した突出部25によってX方向に支持される。このように拡散シート5sを固定すると、拡散シート5sは光学フィルタ6と接して配置され、拡散シート5sが薄い場合でも拡散シート5sを容易に支持できる。枠形状の固定部13は、紫外光透過性材料で構成されても構わないし、紫外光非透過性材料(例えば、金属又は樹脂等)で構成されても構わない。
【0072】
拡散シート5sの固定に接着剤を使用しても構わない。ただし、紫外光に晒される位置に接着剤を使用すると、紫外光により接着剤が劣化する問題が生じるおそれがある。接着剤を使用せずに、固定部13を使用して拡散シート5sを挟んで固定する場合には、このような問題が生じない。
【0073】
図11は、拡散部材を固定する固定部の変形例を示す。
図11に示す固定部23は、紫外光を透過する透過板である。拡散シート5sは、透過板である固定部23と光学フィルタ6とに挟まれて固定される。透過板には、例えば、石英ガラスが使用される。さらなる変形例として、拡散シート5sを覆う網状部材を使用して、拡散シート5sを固定しても構わない。網状部材には、紫外光非透過性材料(例えば、金属又は樹脂等)を使用できる。
図11では、固定部23は、取出し部4を覆うように設けられている。
【0074】
図12Aを参照しながら、拡散部材5の第二例を説明する。
図12Aは、説明のために、紫外光照射装置10を筐体2と拡散部材5とに分離した状態で示しているが、実際には、拡散部材5は筐体2aに接して、又は、筐体2aの近傍に配置される。紫外光照射装置10は、拡散膜5bを含んで構成される拡散部材5を有する。
図12Aでは、拡散膜5bは、基材である石英ガラス15の一主面に成膜される。紫外光照射装置10は、拡散膜5bの成膜された石英ガラス15ごと、筐体2に取り付けてなる。石英ガラス15を筐体2に取り付けるとき、拡散膜5bと光学フィルタ6とは離間していても構わないし、接していても構わない。
【0075】
拡散膜5bは、例えば、シリカ又はアルミナを主成分とする材料である。拡散膜の厚みは、1mm未満であると好ましく、0.5mm未満であるとさらに好ましい。
【0076】
シリカの拡散膜を例に、拡散膜5bの成膜方法の一例を説明する。石英ガラス15の表面に、大気中で加熱溶融したシリカの破砕粉を吹き付ける(溶射法)。シリカの破砕粉は、例えば、100nm~100μmの粒径の略球状の微粒子である。微粒子を接合する接合剤を、微粒子と共に吹き付けても構わない。他の成膜法、例えば、加熱しないスプレー塗布、浸漬塗布又はスピン塗布など、を使用しても構わない。
【0077】
図12Bは、拡散膜5bを含んで構成される拡散部材5の変形例である。当該変形例では、拡散膜5bを光学フィルタ6上に直接成膜している。
【0078】
[使用方法]
本発明に係る紫外光照射装置の使用態様としては、出射される紫外光が有人空間に向けて照射されるように配置し、紫外光照射装置に紫外光を照射させることができる。有人空間とは、実際に人がいるか否かは問わず、人が立ち入ることのできる空間を意味する。有人空間には、例えば、住宅、事業所、学校、病院もしくは劇場などの建物内の空間、又は、例えば、自動車、バス、電車もしくは飛行機などの乗り物内の空間を含む。取出し部4が有人空間を向くように、紫外光照射装置10を、有人空間に面する天井、壁、柱又は床等に配置する。そして、紫外光照射装置10を点灯させて、有人空間に向けて紫外光を照射する。
【0079】
この使用方法は、従来のように、人体を避けて紫外光を照射する必要が無く、微生物を最も不活化させるべき肝心の場所である、人体の表面(皮膚等)、人が頻繁に接触する物体表面、又は人体近傍の空間を含む、有人空間全体にムラなく(ムラを小さく)紫外光を照射できる。そのため、微生物の不活化を効果的に行うことができる。
【0080】
上記紫外光照射装置を、蛍光灯やLED等の照明設備に内蔵させても構わない。照明設備に内蔵させる場合、紫外光照射装置で使用される上記拡散部材を、照明設備で使用される可視光用の拡散部材と共用しても構わない。
【0081】
<第二実施形態>
図13を参照しながら、本発明の紫外光照射装置の第二実施形態を説明する。以下に説明する以外の事項は第一実施形態と同様に実施できる。第二実施形態の紫外光照射装置60は、エキシマランプ3(3a,3b,3c)と、筐体2と、エキシマランプ3より放射された紫外光を筐体2の外へ取り出す取出し部4と、取出し部4に、190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nm以下の波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタ6と、を備える。
【0082】
本実施形態の紫外光照射装置60は拡散部材5を備えていない。拡散部材5を紫外光照射装置60に後付けできるように、筐体2が拡散部材5を取り付けるための取付け部51を有する。本実施形態において、取付け部51はねじ孔であり、拡散部材5を挟んで、ねじ52をねじ孔に嵌合することで、拡散部材5を紫外光照射装置60に取付ける。この拡散部材5の取付け部51の態様は一例であり、他に、フックや面ファスナー等の様々な態様を適用できる。拡散部材5を後付けにすることで、拡散部材5が劣化したときに、拡散部材5のみを交換できる。
【0083】
以上で、紫外光照射装置及び紫外光照射装置を使用方法の実施形態を説明したが、本発明は上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えることができる。
【0084】
例えば、光源としてエキシマランプ3を使用する例を説明したが、光源としてLD又はLEDで構成される固体光源を使用しても構わない。
【0085】
例えば、主たる発光波長が190nm~230nmである紫外光を放射する光源を使用しても構わない。主たる発光波長の上限が230nmである紫外光は、主たる発光波長の上限が235nmである紫外光よりも、人体に対する安全性がさらに高まる。
【0086】
例えば、主たる発光波長が200nm~230nmである紫外光を放射する光源を使用しても構わない。主たる発光波長の下限が200nmである紫外光は、主たる発光波長の下限が190nmである紫外光よりも、大気中の酸素を分解してオゾンを生成する能力が低い。オゾンの濃度が高い気体は人体に対する有害性を示すため、オゾンの発生を抑制することにより、人体に対する安全性がさらに高まる。また、上述の波長帯域は、主たる発光波長でなくても構わない。
【0087】
例えば、光学フィルタとして、200nm~230nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nmの波長帯域の紫外光に加えて、200nm未満の波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタを使用しても構わない。200nm未満の波長帯域の紫外光を実質的に透過させないようにすることで、オゾンの発生を抑制し、人体に対する安全性がさらに高まる。
【0088】
例えば、筐体2内に、光源により放射された光を反射させる反射部材を配置しても構わない。反射部材を配置することにより、光源から筐体2の内壁へ向かう光を少なくして、取出し部4へ向かう光を増やし、紫外光照射装置10から出射される光の照度を高める。
【0089】
拡散部材5又は光学フィルタ6は、取出し部4を構成する筐体2の開口に配置されるのみならず、筐体2の外側に位置するように配置しても構わない。
【0090】
[光出射効率の改善]
上記の実施形態に対する改良例として、光出射効率の改善がある。斯かる改善として、例えば、反射部材の例として、電極ブロック(9a,9b)に、紫外光に対する反射性を示す材料を成膜してもよく、上記電極ブロック(9a,9b)自体を紫外光に対する反射性を示す材料で構成してもよい。電極ブロック(9a,9b)の表面が反射性を示すと、電極ブロック(9a,9b)は、紫外光を取出し部4へ指向させる反射部としても機能する。また、詳細は後述するが、電極ブロック(9a,9b)とは別体の、より多くの光を取出し部4へ指向させるための反射部を設けても構わない。
【0091】
上述したように、光学フィルタ6には、屈折率の異なる複数の誘電体多層膜で構成されることがあるが、誘電体多層膜で構成される光学フィルタ6は、紫外光の入射角に応じて、透過率や反射率が変化してしまう。例えば、
図7のグラフに示すように、入射角の小さい光成分を透過しやすい一方で、入射角の大きい光成分を透過しにくいことがわかる。ここでの入射角は、
図8に示すように、光学フィルタ6の入射面に対する法線6Nと、光学フィルタ6の入射面に入射される紫外光L2との角度θ3で定義される。
【0092】
このような事情から、光学フィルタ6に対して比較的大きな入射角(例えば30°以上)で入射された紫外光の場合、光学フィルタ6の透過率が悪くなり、光学フィルタ6からの光の出射効率が一定程度低下してしまう。また、光学フィルタ6で反射した反射光の一部が筐体(ケーシング)2に照射されて、筐体2が劣化するおそれがある。そのため、光源から放射された紫外光は、光学フィルタ6に入射される際の入射角が小さくなるよう、光線を制御することが望ましい。これは、光源と光学フィルタ6が離間して配置されている場合に、特に望まれる。
【0093】
そこで、紫外光照射装置は、光源から放射される紫外光の指向性を高め、光学フィルタ6に対して入射角が小さい光成分を増加させる光学要素を備えることが望ましい。これにより、光学フィルタ6に対して入射角の大きい光成分を減少させ、入射角の小さい光成分を増加させることで、光学フィルタ6からの光の出射効率を高めることができる。上述の光学要素には、光源から放射される紫外光の指向性を高め、光学フィルタ6に対して入射角を小さく制御できる、光学レンズ、光学フィルム、及び反射部等を用いることができる。
【0094】
[光学要素]
図14を参照しながら、光学要素の一実施形態を説明する。
図14は、光学要素11として光学レンズ11aを用いた場合の紫外光照射装置70の断面模式図が示されている。光学レンズ11aは、光源から放射された紫外光の発散角を小さくする集光レンズである。集光レンズにより発散角の小さくなった紫外光が、光学フィルタに入射させやすくなる。
【0095】
光学レンズ11aは、光源(ここでは、エキシマランプ3)と光学フィルタ6の間に配置されている。光学レンズ11aは、光源から放射された紫外光の発散角を小さくするものであればよく、形状は特に限定されるものではない。また、
図14では、XZ平面に沿う断面に表れる入射角を小さく制御することが示されているが、XY平面に沿う断面に表れる入射角を小さく制御するものでもよい。また、XZ平面に沿う断面と、XY平面に沿う断面との両方に表れる入射角を小さく制御するものであってもよい。
【0096】
図15を参照しながら、光学要素の他の実施形態を説明する。
図15は、光学要素11として反射部11bを用いた場合の紫外光照射装置80の断面模式図が示されている。紫外光照射装置80は、電極ブロック(9a、9b)の少なくとも一方において、その近傍に、光学要素7として反射部11bが設けられる。
図15では、反射部11bが電極ブロック9bに設けられる例を示している。
【0097】
反射部11bは、光学フィルタ6が設けられた取出し部4に対して傾斜する平面状、又は、曲面状の反射面11b1を備えてもよい。反射面11b1は光学フィルタ6に向かって開口幅が広がる形状となる。
図15では、反射部11bは、光学フィルタ6に向かって先細りとなるテーパ形状の反射部11bが設けられており、テーパ側面に反射面11b1が設けられている。反射面11b1は曲面状であるが、平面状に形成されていてもよい。
【0098】
反射部11bは、光取り出し面に対して傾斜する平面状または曲面状の反射面11b1を有することで、光源(ここではエキシマランプ3)から照射された紫外光の一部は、反射面11b1で反射されて進行方向が変換される。詳述すると、光源から所定の発散角を有して放射された紫外光のうち、大きい発散角を有して進行した紫外光は、反射面11b1で反射されて進行方向が変換される。反射面11b1は、光学フィルタ6に対して傾斜した平面又は曲面で構成されるため、反射面11b1で反射された後、光学フィルタに入射される際の入射角が減少する。これにより、光学フィルタ6に対して入射角の大きい光成分を減少させ、入射角の小さい光成分を増加させることで、光学フィルタ6からの光の出射効率を高めることができる。特に反射面11b1は、放物面状の曲面形状とすることで、光源からの発散角をより指向させることができ、光学フィルタ6の出射効率を高めることができる。
【0099】
図15において、反射部11bは電極ブロックと別体で構成されているが、反射部11bと電極ブロックとが一体に形成されていても良い。この場合、電極ブロック(9a、9b)の少なくとも何れかにおいて、反射部11bが形成される。
【0100】
電極ブロック(9a、9b)および反射部11bは、190nm~235nmの紫外光に対して反射性を示す材料(例えば、Al、Al合金、ステンレス等)で構成されることが好ましい。これにより、光源(ここではエキシマランプ3)から放射された紫外光を、電極ブロック(9a、9b)と、反射部11bとで反射できるため、光の出射効率を向上させることができる。例えば、各電極ブロック(9a,9b)は、それぞれのエキシマランプ3(3a,3b,3c)の発光管の外表面に接触する曲面状の第一面と、光取り出し面に対して傾斜する曲面状の第二面とが連なる形状としてもよく、エキシマランプ3から放射される紫外光は、第一面および第二面で反射される。つまり、発光管の外表面と接触する第一面において給電が行われると共に、第一面および第二面において紫外光が反射され、光学フィルタ6に対して入射角の小さい光成分を増加させることができる。第一面と第二面は、それぞれ異なる曲面形状で構成される
【0101】
図14および
図15は、筐体2の内部において光学要素11が設けられたものである。光源から放射される紫外光が、光学要素11を介して光学フィルタ6に入射され、光学フィルタ6に対する紫外光の入射角が小さい光成分が増加される。
【0102】
光学フィルタ6への入射角を小さくすることによる光出射効率の改善という点において、拡散部材は紫外光照射装置にとって任意の構成であるため、
図14及び
図15では拡散部材を図示していない。しかしながら、
図14及び
図15に示された紫外光照射装置(70,80)においても、光学フィルタ6から出射された紫外光を拡散させる拡散部材を、さらに設けても良い。これにより、光学フィルタ6からの光の出射効率を高めるとともに、拡散部材によって紫外光の配光角を拡大することができる。
【実施例0103】
上記実施形態で示した紫外光照射装置10について、拡散部材5を使用することによる配光角の拡大効果を確認した。紫外光照射装置10の詳細は後述する。
図16に、紫外光照射装置10の配光角を計測するための計測設備40を示す。計測設備40は、紫外光照射装置10、紫外光照射装置10を載置するための回転ステージ30、及び照度計31を含む。なお、照度計31には、浜松ホトニクス社製 UV POWER METOR C8026を使用している。
【0104】
計測設備40は、回転ステージ30、回転ステージ30に載置された紫外光照射装置10、及び、紫外光照射装置10から距離d1:1000(mm)離れた位置に配置された照度計31を含む。紫外光照射装置10の光軸L1上に照度計31が位置するように、紫外光照射装置10が照度計31に対向配置されるときの、回転ステージ30の位置を初期位置P0とする。回転ステージ30は、初期位置P0から、
図16に示す回転方向Rに回転させる。
図16では、初期位置P0の回転ステージ30及び紫外光照射装置10を点線で示し、回転方向Rに所定時間回転させた後の回転ステージ30及び紫外光照射装置10を実線で示す。
【0105】
紫外光照射装置10の光軸L1と、紫外光照射装置10から照度計31に入射する光線L3との間になす角θ4は、回転角を表す。回転角θ4が0度(deg)である初期位置P0から回転角θ4を大きくして(回転ステージ30を回転させて)、回転角θ4が90度(deg)になるまで、紫外光照射装置10から紫外光照射装置を照射しつつ照度計31で照度を測定した。
【0106】
測定した照度結果に基づいて相対照度を求めた。相対照度は、任意の回転角における照度測定値を、回転角0度(deg)における照度測定値で除して求められる。つまり、相対照度とは、光軸方向に進行する光線の照度を1としたときの、任意の角度に進行する光線の照度の相対値である。回転角の変化に対する相対照度を表すグラフを、
図17に示した。
【0107】
図17には3つの曲線が示されている。C1曲線は、紫外光照射装置C1の計測結果に基づく相対照度を表す。紫外光照射装置C1は、光学フィルタ6を備えるが、拡散部材5を備えていない。
C2曲線は、紫外光照射装置C2の計測結果に基づく相対照度を表す。紫外光照射装置C2は、190nm~235nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~280nm以下の波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタ6と、を備え、PTFEシート(厚みは0.1mm)からなる拡散部材5とを備える。なお、ここで使用したPTFEシートは、ニチアス社製の「ナフロンPTFEシート」である(シートの厚みは0.1mm)。
C3曲線は、計算によって求められた理想的な完全拡散の配向分布曲線である。斯かる計算はそれぞれの回転角における余弦値によって求められる。
【0108】
C1曲線とC3曲線との比較から、光学フィルタ6を備えることにより、相対照度の角度範囲が、理想的な完全拡散の配向分布曲線から狭くなることがわかる。しかしながら、C2曲線とのさらなる比較から、拡散部材5を設けることにより、完全拡散に近い理想的な配向分布曲線となることが分かる。
【0109】
配光角は、相対照度が0.50となる回転角の2倍で求められる。
図17から、紫外光照射装置C1の配光角は58度(29×2)、紫外光照射装置C2の配光角は108度(54×2)となる。拡散部材5を設けることで、配光角が大きく拡大したことが確認される。
【0110】
上述の結果は拡散部材5にPTFEシートを使用した場合のものであるが、PTFEシート以外の拡散シート、及び拡散膜を拡散部材5に使用した場合においても、PTFEシートと同様に、配光角が拡大される。
【0111】
厚みを異ならせたPTFEシートを拡散部材5として使用した紫外光照射装置の相対全光束を
図18に示す。
図18は、PTFEシートの厚みを横軸に、相対全光束を縦軸にとったグラフである。相対全光束は、拡散部材がないときの紫外光照射装置から出射される全光束に対する、各シート厚みを有する紫外光照射装置から出射される全光束の比によって求められる。全光束とは、光源から全ての方向に放射される光束の和を表し、
図16に示した計測設備40を使用した各回転角における照度測定値から計算により概算値を求めることができる。
【0112】
図18より、PTFEシートが厚くなるほど相対全光束が低下する。これは、PTFEシートが厚くなるほど、紫外光が減衰することを表している。PTFEシートが1mm未満のとき、相対全光束が0.2以上になり、好ましい。PTFEシートが0.5mm未満のとき、相対全光束が0.4以上になり、より好ましい。PTFEシートが0.2mm未満のとき、相対全光束が0.6を超えて、さらに好ましい。なお、PTFEシートの厚みを薄くしても、完全拡散に近い配光分布曲線は殆ど損なわれなかった。PTFEシートの厚みを0.05mmとした場合でも、
図17のC2曲線に近い配光分布曲線が得られた。