IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 橋本電子工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-穿刺針の抜け検知装置 図1
  • 特開-穿刺針の抜け検知装置 図2
  • 特開-穿刺針の抜け検知装置 図3
  • 特開-穿刺針の抜け検知装置 図4
  • 特開-穿刺針の抜け検知装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163502
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】穿刺針の抜け検知装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/168 20060101AFI20221019BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
A61M5/168 512
A61M1/36 145
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068476
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】392035189
【氏名又は名称】橋本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正敏
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌寛
(72)【発明者】
【氏名】楢井 昭久
【テーマコード(参考)】
4C066
4C077
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066FF04
4C066QQ65
4C066QQ77
4C066QQ82
4C077AA05
4C077BB01
4C077DD20
4C077HH03
4C077HH21
4C077KK17
4C077KK25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡素な構成により誤検出を減らした穿刺針の抜け検知を実現する。
【解決手段】穿刺針2を人体1に固定する粘着テープ5にサーミスタ6が固定される。粘着テープ5が引き剥がされる時、サーミスタ6の検出温度が被点滴者の体温近傍から室温近傍まで低下するため、安全確実に穿刺針2の抜けを検出することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部が患者の皮膚の所定部位に穿刺された穿刺針の近傍に配置されて前記皮膚から受熱する感温素子と、
この感温素子が検出する温度情報に基づいて前記穿刺針の抜けを判定する判定回路と、
を備える穿刺針の抜け検知装置。
【請求項2】
前記感温素子は、前記穿刺針を前記皮膚に固定するための針固定用テープに固着される請求項1記載の穿刺針の抜け検知装置。
【請求項3】
前記感温素子は、サーミスタからなる請求項1記載の穿刺針の抜け検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺針の抜けを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体への薬液注入、人体からの体液排出、及び人体への体液のリターンなどの医療行為において、カテーテルや点滴用注射針のような穿刺針が用いられる。穿刺針の先端部は人体のたとえば血管などに刺入され、穿刺針の基端部は可撓性チューブに接続される。穿刺針を人体に固定するために種々の方法が採用される。たとえば穿刺針は絆創膏などの粘着テープにより人体の皮膚に貼着される。
【0003】
たとえば、血液の透析療法などにおいて、この種の穿刺針は長時間使用されるが、各種要因により穿刺針が人体から抜け落ちる事故が深刻な問題となっている。このため、種々の穿刺針抜け検出技術が提案されてる。
【0004】
特許文献1及び2は、一対の電極を含む漏液検出テープを点滴部位近傍に貼り付ける。穿刺針の抜けによる漏液は電極間の電気抵抗値を低下させる。このため、電極間抵抗値の検出により穿刺針の抜けが検出される。しかし、この電極間抵抗値は汗や尿などにより変化するため、特許文献1及び2の抜け検出技術は汗や尿などによる誤検出を回避することが課題となっている。また、一般に、箔状に形成された一対の電極は広い面積をもち、かつ、感触が悪かった。
【0005】
特許文献3乃至6は、穿刺針の抜けにより生じる漏血を、点滴部位近傍の電極対間のインピーダンス変化に基づいて検出する。しかし、穿刺針の抜けによる漏血が生じない又は少ない事例では、抜け検出ができないという問題があった。
【0006】
特許文献7及び8は、たとえば穿刺針に固定された固定部材と皮膚との接触の有無を電気的に検出することにより、穿刺針の抜けを検知する。この技術は、本質的に固定部材に設けられた電極と皮膚との接触の有無による電極のインピーダンス変化を検出する。しかしながら、たとえば電極が濡れている時、電極が皮膚から外れても、電極のインピーダンス増加は不十分となり、誤動作が発生する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公昭64-5242号公報
【特許文献2】実開平5-79468号公報
【特許文献3】特開2006-55588号公報
【特許文献4】特開2017-42302号公報
【特許文献5】特開2019-58669号公報
【特許文献6】特開2014-151096号公報
【特許文献7】特開2006-110119号公報
【特許文献8】特開2007-20801号公報
【発明の概要】
【0008】
上記説明されたように、従来の穿刺針抜け検知技術は、穿刺針近傍に配置された電極のインピーダンス変化により、電極と皮膚との接触性の状態を判定している。しかし、汗や血液や尿などの電解液が穿刺針近傍に存在する場合、抜けによる電極インピーダンスの増加を判別できない可能性が生じた。この問題は特に、穿刺針が抜けにより血管から多量の血液が漏出する場合や、穿刺針を鼠径部に刺入する場合に失禁などにより穿刺針近傍に尿漏れが生じる場合に問題となる。他方、穿刺針の抜けによる漏血を穿刺針近傍の電極により検出するケースでは、この漏血が少ない時に、穿刺針の抜けを検知できないという問題が発生する。
【0009】
本発明者らは、従来の穿刺針抜け検出技術が穿刺針近傍の電極に関連するインピーダンス変化により抜け検出を行うために生じることに着目した。そこで、穿刺針抜け検出を穿刺針近傍の電極を用いることなく実行すれば、上記問題点を解決できることに気がついた。
【0010】
上記問題を解決するためになされた本発明は、穿刺針の抜けを簡素かつ確実に検出可能な穿刺針の抜け検知装置を提供することをその目的としている。本明細書で言う穿刺針は、いわゆる先端が針状に形成されたカテーテルや点滴用注射針を含む。
【0011】
本発明の穿刺針の抜け検知装置は、穿刺針の抜けが生じる時、穿刺針を被点滴者の皮膚に固定するための針固定用テープがこの皮膚から外されることが多いという点に着目してなされた。なお、針固定用テープとしては、絆創膏などの粘着テープの使用が一般的である。
【0012】
言い換えれば、この種の抜け事故において、穿刺針を皮膚に固定するための針固定用テープはそのままであり、穿刺針だけが皮膚から抜去される事例はほとんど発生しない。被点滴者がかゆみなどによりあるいは無意識に針固定用テープを皮膚から引き剥がすことにより、穿刺針が皮膚から外れる事例がほとんどである。
【0013】
したがって、この針固定用テープが皮膚から引き剥がされたか否かを検出できれば、穿刺針の抜けを実質的に検知できることが理解される。
【0014】
本発明では、先端部が皮膚内に刺設された状態にて穿刺針を皮膚表面に固定する針固定用テープにたとえばサーミスタのような感温素子が配置される。もし被点滴者の好ましくない行動などにより針固定用テープが皮膚から外れると、感温素子が皮膚から受け取る受熱量は減少することになる。その結果、感温素子の温度の低下を検出することにより、穿刺針の抜けが検知される。
【0015】
本発明は、被験者の体温がほぼ一定であり、その恒常性が高いこと、並びに、空調が行われているという前提下において室内温度は一般に体温よりも所定値だけ低いことを利用する。たとえば、穿刺針の抜けが生じない場合、感温素子の検出温度は被点滴者の体温に近い値となる。
【0016】
これに対して、たとえば穿刺針を固定する固定用テープが皮膚から引き剥がされると、感温素子の検出温度は短期間内に室温と体温との中間温度まで所定の傾斜率で低下する。
【0017】
したがって、感温素子の出力信号を判定する判定回路は、体温付近からの感温素子の検出温度の低下量やその低下速度などに基づいて、穿刺針の抜けを判定することができる。
【0018】
感温素子の配置位置は重要である。針固定テープが剥がれる時、感温素子は皮膚から実質的に離れることが望ましい。一例において、感温素子は、穿刺針を固定するための針固定用テープの上に固定される。たとえば、感温素子は感温素子固定用テープにより針固定用テープ上に固定されることができる。
【0019】
他例において、感温素子は、穿刺針を固定するための針固定用テープと皮膚との間に配置されることができる。その他、針固定用テープは感温素子固定用テープを兼ねることができる。
【0020】
感温素子は、たとえばサーミスタのような温度により電気抵抗が変化する素子でもよく、その他、ペルチエ素子やゼーベック素子のような種々の熱電素子を採用することができる。
【0021】
好適な態様において、判定回路は、感温素子の検出温度が所定の判定開始しきい値を超える時に判定動作を開始する。この判定開始しきい値は体温から所定値だけ低い値とされる。たとえば、この判定開始しきい値は32℃とされる。
【0022】
好適な態様において、判定回路は、感温素子の検出温度が所定の剥がれしきい値を下回る時に穿刺針が抜けたと判定する。この剥がれしきい値は、たとえば32℃とされる。また、判定回路は、感温素子の検出温度の低下速度に基づいて剥がれを判定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は第1実施例の穿刺針の抜け検知装置の一部を示す模式図である。
図2図2は第1実施例の穿刺針の抜け検知装置の他部を示す模式図である。
図3図3は第1実施例の穿刺針の抜け検知装置を示す回路図である。
図4図4図3に示すマイクロコンピュータの動作を示すフローチャートである。
図5図5は第2実施例の穿刺針の抜け検知装置の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の好適な実施形態が以下に説明される。ただし、本発明はこの実施形態に限定解釈されるべきものではない。第1実施例は穿刺針としての点滴用注射針の抜けを検出する装置の例を示し、第2実施例は穿刺針としてのカテーテルの抜けを検出する血液透析装置の例を示す。
【0025】
(第1実施例)
図1は、第1実施例の穿刺針の抜け検知装置の一部を示す模式図である。被点滴者の上腕部1に穿刺針2の先端部が刺入されている。穿刺針2の基端部は、液タンク3を通じて可撓性チューブ4の先端部に連結されている。穿刺針2、液タンク3及び可撓性チューブ4は、粘着テープ5により、上腕部1に固定されている。
【0026】
さらに、図略の粘着テープにより、サーミスタ6が粘着テープ5に固定されている。サーミスタ6は穿刺針2の近傍に配置されることが好適である。なお、サーミスタ6は、粘着テープ5と上腕部1の表面との間に配置されてもよい。
【0027】
粘着テープ5は、粘着剤が塗布された透明樹脂シートからなるが、穿刺針2を目的箇所に固定可能であれば、他の素材に代替することも可能である。さらに、サーミスタ6と穿刺針2とを一体化することも可能である。たとえば、サーミスタ6は、液タンク3と上腕部1との間に配置されることができる。サーミスタ2の両端は信号線対7を通じて図2に示されるコントローラ8に温度信号を送る。この実施例では、信号線対7は可撓性チューブ4に沿って延設されている。信号線対7は可撓性チューブ4にクリップなどで固定されることが好適である。
【0028】
図2は、この穿刺針の抜け検知装置の他部を示す模式図である。キャスタ付きホルダ9は、キャスタ付きの基部91、この基部91から立設されたポール92、ポールの上端部から横に張り出した一対のアーム93及び94からなる。薬液収容容器3はアーム93に掛けられている。可撓性チューブ4の途中に点滴量調節部が介設されているが、本発明の要旨ではないため図示は省略されている。コントローラ8は、キャスタ付きホルダ9のアーム94に掛けられている。信号線対7はコントローラ8の下部から延設されている。
【0029】
図3は、この穿刺針の抜け検知装置の回路図である。コントローラ8は、負荷抵抗素子10、判定回路11及びバッテリ16を含む。バッテリ16は、直列接続された負荷抵抗素子10及びサーミスタ6に電源電圧を印加する。負荷抵抗素子10及びサーミスタ6の接続点の電位である信号電圧Vsは増幅回路12で増幅された後、A/Dコンバータ13でデジタル温度信号に変換される。このデジタル温度信号はマイクロコンピュータ14に入力される。マイクロコンピュータ14は穿刺針2の抜けを検出した時、ブザー15を鳴らして警告を発する。
【0030】
マイクロコンピュータ14の基本動作が図4に示すフローチャートを参照して説明される。まず、ステップS100にてデジタル温度信号Tを読み込み、次に、ステップS102にてデジタル温度信号Tが所定のしきい値温度に相当するしきい値電圧Tth以上であるか否かを判定する。次に、デジタル温度信号Tがしきい値電圧Tth以上でなければ、穿刺針2の抜けが発生したと見做してブザー15を鳴動させる。図3に示される電源スイッチ17は、サーミスタ6が適切にセットされた後、オンされる。なお、このオン直後において、人体からサーミスタ6への加温がまだ不十分であり、ブザー15が鳴動する可能性がある。このため、マイクロコンピュータ14はスイッチ17のオンにより起動されてから所定時間はブザー15を鳴動させないようにすることが好ましい。
【0031】
上記説明されたこの実施例の穿刺針の抜け検知装置の利点が以下に説明される。この抜け検知装置は、粘着テープにより穿刺針2とともに被点滴者の上腕部に固定されたサーミスタをその要部とする。
【0032】
この種の点滴作業において、意識や知的水準に問題を内包する被点滴者に点滴処置を行わねばならないケースがある。この種の被点滴者は、たとえば無意識のうちに穿刺針2を固定するためのテープ5を取り外そうとする場合があり、これが穿刺針2の抜け事故の原因となることがわかっている。
【0033】
この実施例の抜け検知装置は、穿刺針2の抜けが生じる時、穿刺針2を固定するための部材である粘着テープ5が人体表面から引き剥がされる点に着目したものである。言い換えれば、穿刺針2を人体に固定するための固定部材としての粘着テープ5が人体表面から引き剥がされたか否かを判別すれば、ほぼ穿刺針2の抜け事故発生の有無を判定することができるわけである。
【0034】
さらに、本発明者らは、粘着テープ5が人体表面から引き剥がされる時、粘着テープ5の温度が低下することに着目した、すなわち、穿刺針2を固定するための粘着テープ5にサーミスタ6を固定することにより、粘着テープ5の温度を検出することができるため、検出温度の低下を判定することにより粘着テープ5の剥がれを検出することができる。
【0035】
この実施例の穿刺針の抜け検知装置は、点滴液又は血液の漏出を検出する従来装置と比べて、汗や尿などによる誤検出を防止できる。
【0036】
その他の態様が説明される。公知のRFID技術を利用してサーミスタ6への給電及び信号電圧のワイヤレス送信を行うことは可能である。したがって、この態様によれば、信号線対7を省略することができる。
【0037】
上記実施例では、穿刺針2は上腕部1に刺入されたが、鼠径部や頸部など他の部位に設けてもよいことは当然である。上記実施例では、病院の中央監視装置との連携を意図してデジタル信号処理を行ったが、信号処理を簡素化するためにアナログ回路を通じて穿刺針の抜け警報のみを発報してもよい。
【0038】
(第2実施例)
図5は、第2実施例の穿刺針の抜け検知装置の一部を示す模式図である。透析患者の上腕部1に穿刺針21及び22の先端部がそれぞれ刺入されている。
【0039】
穿刺針21の基端部は可撓性チューブ41の先端部に連結され、穿刺針22の基端部は可撓性チューブ42の先端部に連結されている。可撓性チューブ41及び42は透析装置100に接続されている。穿刺針21は粘着テープ51により上腕部1に固定され、穿刺針22は粘着テープ52により上腕部1に固定されている。透析装置100内の血液ポンプは、穿刺針21から吸い込んだ血液を透析した後、穿刺針22から上腕部1の血管に戻す。
【0040】
粘着テープ51上にはサーミスタ61が固着され、粘着テープ52上にはサーミスタ62が固着されている。サーミスタ61は穿刺針21の近傍に配置され、サーミスタ62は穿刺針22の近傍に配置されている。
【0041】
サーミスタ61はケーブル71を通じて図略のコントローラに接続され、サーミスタ62はケーブル72を通じて図略のコントローラに接続されている。このコントローラの回路構成は本質的に第1実施例のコントローラ8と同じであるため、回路構成及びその動作の説明は省略される。
【0042】
この実施例の穿刺針の抜け検知装置の利点が以下に説明される。この抜け検知装置は、粘着テープにより穿刺針とともに患者の上腕部に固定されたサーミスタをその要部とする。血液透析用のカテーテルは点滴用注射針よりも大型となるため、大量の血液がカテーテルが抜けた時に漏出する場合がある。このため、電極インピーダンスの増加に基づいてカテーテルの抜けを検出する場合、電解液である血液が電極インピーダンスの増加を妨害する可能性がある。
【0043】
この実施例の抜け検知装置は、穿刺針を保持する絆創膏などの粘着テープの剥がれをこの粘着テープに固着されたサーミスタの温度変化により検出する。したがって、この実施例によれば穿刺針近傍の電極のインピーダンス変化により穿刺針の抜けを検出しない。このため、電極が血液や尿などにより相当程度濡れたとしても誤判定が生じることがない。
図1
図2
図3
図4
図5