(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163560
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】ミシンの糸通し装置および該装置を備えるミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 87/02 20060101AFI20221019BHJP
【FI】
D05B87/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068566
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100186358
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100191145
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 整博
(72)【発明者】
【氏名】番場 善孝
(72)【発明者】
【氏名】三藤 智郎
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150CE23
3B150FJ01
3B150FJ04
3B150JA19
(57)【要約】
【課題】 高さ位置の異なる複数の針に対応するミシンの糸通し装置を提供すること。
【解決手段】 上下動する針棒4に対して平行で上下動および回転可能な糸通し軸10と、前記糸通し軸を降下および回転させる操作レバー20と、前記糸通し軸の下端に設け、糸通しフック31を有する糸通し先端部30と、前記針棒に設けられ、前記糸通し軸の降下停止位置を規定する糸通しストッパ6と、を備え、前記操作レバーの作動により降下して前記糸通し先端部が前記降下停止位置で回転し前記糸通しフックを前記針棒に設けられた複数の針1のうちの一つの針の針孔2に挿通させるミシンNの糸通し装置Bであって、前記糸通し先端部は、前記糸通し軸に対して上下動する摺動体40と、前記摺動体に対してスライド可能な位置決め体50と、前記位置決め体のスライドに応じて前記摺動体を前記糸通し軸に対して上下動させる連動機構13,54と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下動する針棒に対して平行で上下動および回転可能な糸通し軸と、前記糸通し軸を降下および回転させる操作レバーと、前記糸通し軸の下端に設け、糸通しフックを有する糸通し先端部と、前記針棒に設けられ、前記糸通し軸の降下停止位置を規定する糸通しストッパと、を備え、前記操作レバーの作動により降下して前記糸通し先端部が前記降下停止位置で回転し前記糸通しフックを前記針棒に設けられた複数の針のうちの一つの針の針孔に挿通させるミシンの糸通し装置であって、
前記糸通し先端部は、前記糸通し軸に対して上下動する摺動体と、前記摺動体に対してスライド可能な位置決め体と、前記位置決め体のスライドに応じて前記摺動体を前記糸通し軸に対して上下動させる連動機構と、を備えることを特徴とするミシンの糸通し装置。
【請求項2】
前記連動機構は、前記糸通し軸に設けた基準ピンと、前記位置決め体に設け、前記基準ピンが摺接する溝カムと、を備えることを特徴とする請求項1に記載のミシンの糸通し装置。
【請求項3】
前記摺動体は、前記位置決め体のスライド位置を規定する切替えレバーと、前記切替えレバーによる前記位置決め体のスライド位置を保持する切替えばねと、を備え、
前記位置決め体は、前記切替えばねと係合するノッチを有する切替えカムを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のミシンの糸通し装置。
【請求項4】
前記摺動体は、前記位置決め体のスライド距離を調節する偏心ピンを備えることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のミシンの糸通し装置。
【請求項5】
前記請求項1~4のいずれかに記載の糸通し装置を備えるミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの針の針孔に糸を通す糸通し装置、特に複数の針を備えたミシンにおいて、それぞれの針に糸を通す複数針に対応した糸通し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から糸通し装置を備えたミシンは、知られている。
一般的な糸通し装置は、糸を捕捉するための糸通しフックを備え、ミシンの針駆動装置の近傍に設けられ、糸通し時に、操作レバーが下げられることで糸通し装置が降下し、位置決め部材が針駆動装置と接触することで、上下動する針駆動装置に対し相対的な高さ位置が規定され、糸通しフックが針先端の針孔を挿通する。
その後、挿通した糸通しフックに糸を引っ掛け、操作レバーを復帰させることで、糸通しフックが糸を捕捉したまま針孔から後退し、糸が針孔を挿通する。
【0003】
このとき、針が1本であれば以上の動作で糸通しは終了となるが、複数の針を備えるミシンにおいては、他の針にも糸通しする必要があり、複数の針は、横方向こそ一定間隔で並んでいるものの、ミシンの構造上の理由や縫目形成上の理由により
図2に示すように、針孔の高さは、それぞれ異なっていることがある。
したがって、複数針に対応した糸通し装置は、横方向はもちろんのこと、高さ方向も異なる複数の針孔位置に対し正確に糸通しフックを通すことが求められる。
【0004】
このため、複数針に対応した糸通し装置は、種々提案されている。
例えば、糸通し装置と針駆動装置との位置決めを行う位置決め部材が多段形状となっていることで、針駆動装置に対する糸通し装置全体の左右方向および上下方向の相対位置を複数規定することが可能となり複数針に糸通し対応可能としたミシンの糸通し装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の糸通し装置のように、糸通し装置全体を針駆動装置に対して左右方向および上下方向の相対位置を複数規定可能にすることは、装置の複雑化・大型化を招くことから、糸通しフックを含む糸通し装置の一部分だけが糸通し装置に対してスライドもしくは回転することで高さの異なる2本の針に糸通しを行う糸通し装置も提案されている(特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-295743号公報
【特許文献2】特開平5-7683号公報
【特許文献3】特開平10-99581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2および3に記載の糸通し装置は、装置の簡略化・小型化を実現させることができるというメリットがあるが、適用できる針の本数やその位置関係に制限を受けてしまうという問題があった。
例えば、特許文献2に記載の糸通し装置は、糸通しフックを含む糸通し装置の一部分が糸通し装置に対して直線状にスライドするという構造上、高さの異なる3本以上の針には対応できない。
【0008】
また、特許文献3に記載の糸通し装置は、糸通しフックを含む糸通し装置の一部分が糸通し装置に対して回転するため、理論上は3本までの針に対応することが可能であるが、回転の際の回転中心(
図2の円弧Eに対する中心O)は、針の位置関係により決まってしまうため、必ずしも糸通し装置の移動経路上にあるわけではなく、糸通し装置の回転中心と中心Oとを一致させることは、技術的に困難である。加えて、回転に伴い糸通しフックの角度が変化してしまうことを考慮すると、この構造で実際に3本の針全てにおいて、確実に糸通しさせることは、技術的に困難である。
【0009】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、任意の高さに取着された任意の本数の針に対応する糸通し装置および該装置を備えるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するため、ミシンの糸通し装置として、上下動する針棒に対して平行で上下動および回転可能な糸通し軸と、前記糸通し軸を降下および回転させる操作レバーと、前記糸通し軸の下端に設け、糸通しフックを有する糸通し先端部と、前記針棒に設けられ、前記糸通し軸の降下停止位置を規定する糸通しストッパと、を備え、前記操作レバーの作動により降下して前記糸通し先端部が前記降下停止位置で回転し前記糸通しフックを前記針棒に設けられた複数の針のうちの一つの針の針孔に挿通させるミシンの糸通し装置であって、前記糸通し先端部は、前記糸通し軸に対して上下動する摺動体と、前記摺動体に対してスライド可能な位置決め体と、前記位置決め体のスライドに応じて前記摺動体を前記糸通し軸に対して上下動させる連動機構と、を備えることを特徴とする構成を採用する。
【0011】
本発明のミシンの糸通し装置の実施形態として、前記連動機構は、前記糸通し軸に設けた基準ピンと、前記位置決め体に設け、前記基準ピンが摺接する溝カムと、を備えることを特徴とする構成を採用し、また、前記摺動体は、前記位置決め体のスライド位置を規定する切替えレバーと、前記切替えレバーによる前記位置決め体のスライド位置を保持する切替えばねと、を備え、前記位置決め体は、前記切替えばねと係合するノッチを有する切替えカムを備えることを特徴とする構成を採用し、また、前記摺動体は、前記位置決め体のスライド距離を調節する偏心ピンを備えることを特徴とする構成を採用する。
さらに、本発明のミシンとして、前記糸通し装置を備えることを特徴とする構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のミシンの糸通し装置は、前記構成を採用することにより、手動により切替えレバーを操作することで、糸通し装置の糸通し先端部に設けられた糸通しフックが糸通し軸に対して左右方向および上下方向に任意の量、相対移動するため、高さ位置の異なる複数の針を備えるミシンであっても、それぞれの針の針孔に糸通しすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る糸通し装置を備えるミシンの概要図である。
【
図3】本発明の実施例に係る針駆動装置および糸通し装置の構造を示す概要図である。
【
図4】本発明の実施例に係る糸通し装置の糸通し先端部の内部構造を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施例に係る糸通し装置の糸通し軸(基準ピン)に対する糸通しフックの位置決めの説明図で、(a)は針孔2Lに位置決めした状態図、(b)は針孔2Mに位置決めした状態図、(c)は針孔2Rに位置決めした状態図ある。
【
図6】本発明の実施例に係る糸通し装置の動作を説明する概要図で、(a)は待機状態を示す正面図、(b)は糸通し状態を示す正面図である。
【0014】
次に、本発明の実施形態に係るミシンの糸通し装置について、実施例に示した図面を参照して説明する。
以下の説明では、
図1でみて、縦方向を「上下」、横方向を「左右」とし、紙面に垂直な方向を「前後」とする。
【実施例0015】
図1において、AはミシンNのヘッド部に設けられ、3本の針1を針止め3により固定した針棒4を上下動する針駆動装置、Bは前記針駆動装置Aの針1(1L、1M、1R)の針孔2(2L、2M、2R、
図2参照)に、糸コマK(KL、KM、KR)から供給される糸T(TL、TM、TR)をそれぞれ通す糸通し装置である。
糸通し装置Bは、針棒4に対して平行な糸通し軸10と、ミシンNのヘッド部から露出し、糸通し軸10を降下する操作レバー20と、糸通し軸10の下端に設けられる糸通し先端部30と、を備えている。
【0016】
図2に示すように、本実施例では、針駆動装置Aの針1は、等しいピッチ(間隔)D(LM)およびD(MR)で、左から右へ1L、1Mおよび1Rの3本設けられ、前記3本の針1の針孔2L、2Mおよび2Rは、2L-2M間の高さh1と、2M-2R間の高さh2とが異なる。
【0017】
このように、針孔2の高さは、ミシンNの機構や針1の動作に連動した糸Tによって縫い目が確実に形成できるように決定されるため、高さh1と高さh2は、同じではない。
このため、それぞれの針孔2L、2Mおよび2Rを中心Oからの円弧Eで結ぶことはできるが、針孔2Mの高さは、針孔2Lと針孔2Rとを結ぶ直線Sと上下位置の差δがあるため、水平からの角度がθの直線Sで結ぶことはできない。
なお、本実施例では、針1は、針孔2の高さが異なる3本の針1L、1Mおよび1Rを例に説明しているが、高さの異なる4本以上の針であっても構わない。
【0018】
図3に示すように、針駆動装置Aは、1L、1Mおよび1Rの3本の針1が針止め3により固定される針棒4と、針棒4に接続され、図示しない針上下駆動機構により上下に駆動される針棒抱き5と、針棒4に固定され、後述する糸通し装置Bに設けられる糸通し軸10の降下停止位置を規定する糸通しストッパ6と、を備えており、糸通しストッパ6には、上方から凹設されたストッパ溝7が形成されている。
【0019】
図3に示すように、糸通し装置Bは、針棒4に対して平行で上下動および回転可能に、糸通し軸支持板15に支持される糸通し軸10と、糸通し軸支持板15に沿って上下動可能に支持され、糸通し軸10を降下および回転させる操作レバー20と、糸通し軸10の下端に設け、糸通しフック31を有する糸通し先端部30と、を備えている。
糸通し軸10は、糸通しストッパ6のストッパ溝7下端に当接可能なストッパピン11が中程に設けられている。
【0020】
糸通し軸支持板15は、ミシンNの機枠に固定され、背面板16の上下方向に糸通し軸孔溝17が穿設され、上端には、上部軸受け18が設けられ、下端には、下部軸受け19が設けられている。
糸通し軸10は、糸通し軸支持板15の上部軸受け18および下部軸受け19に挿通され、ストッパピン11は、後側が糸通し軸支持板15の糸通し軸孔溝17に挿通されており、糸通し軸10のストッパピン11と下部軸受け19との間には、糸通し戻しばね12が配置され、ストッパピン11を上方に付勢して、糸通し軸孔溝17の上端に当接するようにしている。
【0021】
操作レバー20は、糸通し軸支持板15の背面板16が上下方向に挿通され、図示しないが、前後に分割される支持板スライド孔21と、糸通し軸10が上下方向に挿通される軸孔22と、支持板スライド孔21を横切るように形成され、ストッパピン11と係合する糸通し軸回転カム23と、
図1に示すように、ミシンNのヘッド部から露出する摘み24と、を備えている。
【0022】
図3および4に示すように、糸通し先端部30は、糸通し軸10に対して上下動し、図示しないが、前後に分割される摺動体40と、摺動体40に対して針1が並ぶ方向に沿ってスライド可能な位置決め体50と、を備え、位置決め体50には、フック腕55を介して糸通しフック31が設けられている。
摺動体40は、基準ピンスライド長孔45を備え、糸通し軸10の下部に固定された基準ピン13に対して摺動する。糸通し軸10には、摺動体40を下方に付勢するために、加圧ばね33が糸通し軸10に固定されたE型止め輪32と摺動体40の間に設けられている。
【0023】
摺動体40は、位置決め体50のスライド位置を規定する切替えレバー41を備え、切替えレバー41は、摺動体40に枢着された支点ピン42を中心に揺動される作用ピン43を有し、作用ピン43は、位置決め体50に開口された作用ピンスライド長孔51に係合することにより、切替えレバー41が矢印方向へ操作されると、位置決め体50は、摺動体40に対して水平からの角度がθの直線S方向にスライドされる。
図1および3に示すように、摺動体40(糸通し先端部30)の表面には、3本の針1L、1Mおよび1Rに対応するように、切替えレバー41の切替え位置として、「L」、「M」および「R」の表示がなされている。
【0024】
位置決め体50は、スライド方向に沿って3本の針1のピッチD(LM)およびD(MR)と等しい間隔で3個のノッチ(谷部)53が形成された切替えカム52を備え、切替えカム52のノッチ53が摺動体40に設けられた切替えばね44と係合することにより、位置決め体50は、切替えレバー41による3本の針1L、1Mおよび1Rに対応するスライド位置を保持される。
【0025】
さらに、位置決め体50は、切替えレバー41による3本の針1L、1Mおよび1Rに対応するスライド位置に応じて摺動体40を糸通し軸10に対して上下動させる連動機構として、糸通し軸10に固定された基準ピン13と、基準ピン13が摺接する溝カム54と、を備えている。
溝カム54は、針孔2L、2Mおよび2Rの高さに相当する3段のカム面であるL面54a、M面54bおよびR面54cを有する階段状に形成されている。
なお、加圧ばね33による摺動体40の付勢は、基準ピン13と溝カム54とのガタつきを防止するもので、省略することができる。
【0026】
本実施例においては、切替えカム52のノッチ53の間隔Dα(LM)およびDα(MR)は、実際の針1のピッチD(LM)およびD(MR)よりも長く設定されており、偏心ピンであるL調節ピン46およびR調節ピン47を回転させることにより、位置決め体50のスライド距離であるD(LM)およびD(MR)を調節することができ、針1のピッチのばらつきに対応することができる。
【0027】
次に、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
本実施例の糸通し装置Bを使用して3本の針1の針孔2L、2M、2Rにそれぞれ糸TL、TM、TRを通すには、
図1および
図6(a)に示す待機状態において、まず、切替えレバー41を手動で摺動体40の表面に表示された「L」の位置に合わせる。
すると、
図5(a)に示すように、位置決め体50は、左端がL調節ピン46に当接し、切替えカム52の右側のノッチ53が摺動体40に設けられた切替えばね44と係合するとともに、基準ピン13が溝カム54のL面54aに摺接することにより、位置決め体50は、針1Lの針孔2Lの位置(L位置)に糸通しフック31が対応するようにスライド位置が規定される。
【0028】
次に、
図6(a)に示す状態から、ミシンNのヘッド部から露出する操作レバー20の摘み24を押下げると、糸通し軸10が下降し、
図3に示すストッパピン11が糸通しストッパ6のストッパ溝7の下端に接触することで、針駆動装置Aと糸通し装置Bの上下位置が規定される。
また、ストッパピン11は、糸通し軸孔溝17および糸通し軸回転カム23にも挿通されており、ストッパピン11がストッパ溝7の下端に接触後、さらに操作レバー20の摘み24を押下げると、糸通し軸回転カム23と係合したストッパピン11により糸通し軸10が
図3に示す矢印方向に回転し、
図6(b)に示すように、糸通しフック31が針1Lの針孔2Lに挿通される。
【0029】
このとき、ストッパピン11は、糸通しストッパ6のストッパ溝7の下端に係止され、糸通しフック31は、針孔2Lへの挿通状態が維持される。
その後、挿通した状態の糸通しフック31に手動で糸TLを掛け、操作レバー20の摘み24を上昇復帰させることで、糸通しフック31が糸TLを捕捉したまま針孔2Lを後退しながら上昇した後、糸TLが糸通しフック31から外れることで糸通しを完了することができる。
なお、操作レバー20を作動させることにより、糸通し軸10を下降させた後、糸通し軸10を回転させることにより、糸通しフック31を針1の針孔2に挿通させ、その状態を維持する機構の詳細については、特開2011-240051号に開示されている。
【0030】
次に、切替えレバー41を手動で右方向に操作し、表示「M」の位置に合わせると、
図5(b)に示すように、位置決め体50は、左端がL調節ピン46から離れ、直線Sに沿って右方向へスライドし、切替えカム52の中央のノッチ53が摺動体40に設けられた切替えばね44と係合するとともに、基準ピン13が溝カム54のM面54bに摺接することにより、位置決め体50は、針1Mの針孔2Mの位置(M位置)に糸通しフック31が対応するようにスライド位置が規定される。
【0031】
このとき、切替えレバー41によって位置決め体50のスライド位置がL位置からM位置に切替わると、基準ピン13と摺接する溝カム54のカム面形状がL面からM面に切替わり、カム面形状に応じた所定の差δだけ、糸通し軸10に対する糸通し先端部30の相対位置が変化する。
すなわち、糸通し先端部30は、摺動体40に対する位置決め体50のスライドに連動して、溝カム54のカム面形状により摺動体40に対する基準ピン13の上下位置が変化し、その変化が糸通し先端部30と糸通し軸10との上下位置の差δを発生させている。
その後、針1Lの針孔2Lへの糸通しと同様に、操作レバー20の摘み24を作動させることにより、針1Mの針孔2Mへ糸TMの糸通しを完了することができる。
【0032】
最後に、切替えレバー41を手動でさらに右方向に操作し、表示「R」の位置に合わせると、
図5(c)に示すように、位置決め体50は、直線Sに沿って右方向へスライドして右端がR調節ピン47に当接し、切替えカム52の左側のノッチ53が摺動体40に設けられた切替えばね44と係合するとともに、基準ピン13が溝カム54のR面54cに摺接することにより、位置決め体50は、針1Rの針孔2Rの位置(R位置)に糸通しフック31が対応するようにスライド位置が規定される。
【0033】
このとき、切替えレバー41によって位置決め体50のスライド位置がM位置からR位置に切替わると、基準ピン13と摺接する溝カム54のカム面形状がM面からR面に切替わり、糸通し軸10に対する糸通し先端部30の相対位置は、L位置と同じ位置に戻る。
その後、従前と同様に操作レバー20の摘み24を押下げることにより、針1Rの針孔2Rへ糸TRの糸通しを完了することができる。
【0034】
以上のように、摺動体40に対する位置決め体50の直線S方向運動と溝カム54のカム面形状による変位が合成されることで、糸通しフック31は、針孔2L、2Mおよび2Rを通過する任意の軌跡上を移動することが可能となる。
言い方を変えると、ストッパピン11による針駆動装置Aと糸通し装置Bとの上下位置が複数規定されていなくとも、同様の効果を簡便な構造で実現することができ、糸通し作業の利便性および確実性とミシンNにおける糸通し装置Bの小型化を両立させることが可能となる。
【0035】
以上、説明したように、本実施例の糸通し装置Bは、手動で操作レバー20を作動させることにより、糸通し先端部30を下降させ、糸通しフック31をそれぞれの針1の針孔2に挿通させ、その後、手動で挿通した糸通しフック31に糸Tを掛け、操作レバー20を上昇復帰させることで、糸通しフック31が糸Tを捕捉したまま針孔2を後退し、その後、糸Tが糸通しフック31から外れることで糸通しを完了することができる。
そして、手動で切替えレバー41を操作することにより、糸通しフック31を設けた位置決め体50が摺動体40に対し、左右方向および上下方向に任意の量、相対移動するため、高さ位置の異なる3本の針1を取付けたミシンNであっても、それぞれの針1の針孔2に糸通しすることができる。
【0036】
なお、本実施例の糸通し装置Bにおいて、操作レバー20、切替えレバー41を手動で操作していたが、別途モータやソレノイド等を設けることによって電動駆動させても良い。
【0037】
また、本実施例の糸通し装置Bにおける位置決め体50のスライド角度θは、針孔2Lと針孔2Rを結ぶ直線Sと水平との角度であったが、例えば、針孔2Rを通過しない直線との角度であっても良い。
本発明は、ミシンの糸通し装置において、手動により切替えレバーを操作することで、糸通し装置の糸通し先端部に設けられた糸通しフックが糸通し軸に対して左右方向および上下方向に任意の量、相対移動するため、特に高さ位置の異なる複数の針を備えるミシンに適用する糸通し装置として有利なものである。