IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ GSアライアンス株式会社の特許一覧 ▶ 冨士色素株式会社の特許一覧

特開2022-163571生分解性ネイルチップ、ネイルカラーおよびネイル除光液
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163571
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】生分解性ネイルチップ、ネイルカラーおよびネイル除光液
(51)【国際特許分類】
   A45D 31/00 20060101AFI20221019BHJP
   A45D 29/18 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20221019BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221019BHJP
   C08L 1/12 20060101ALI20221019BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221019BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
A45D31/00 ZBP
A45D29/18
C08L101/12
C08L1/02
C08K7/02
C08L1/12
C08K3/013
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068581
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
(72)【発明者】
【氏名】森 麻衣子
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AB021
4J002AB041
4J002BE021
4J002CF031
4J002CF181
4J002CF191
4J002DA026
4J002DE076
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE236
4J002DG046
4J002DH046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FD026
4J002FD167
4J002FD177
4J002FD207
4J002GB00
4J200BA12
4J200BA14
4J200BA18
4J200BA19
4J200BA25
4J200BA37
4J200BA38
4J200DA22
4J200DA24
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】環境負荷を考慮して、生分解性プラスチックを主体としつつ、特に、強度および指先への装着感に優れた生分解性ネイルチップを提供する。
【解決手段】生分解性プラスチックとして、ポリ乳酸、酢酸セルロースなどのバイオマス原料に、セルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程、膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程、およびパルプを、酸またはアルカリで化学処理に付してセルロースナノファイバーを得る工程を含む製造方法により製造されたセルロースナノファイバーを配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリ乳酸、デンプン系生分解性樹脂、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンアジペートとテレフタレートとのコポリマー、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、および酢酸セルロールからなる群から選択される生分解性ポリマー、ならびにセルロースナノファイバーを含む生分解性樹脂組成物からなるネイルチップ。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、セルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程;膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程;およびパルプを化学処理してセルロースナノファイバーを得る工程を、この順序で含む製造方法により製造されたセルロースナノファイバーである、請求項1に記載のネイルチップ。
【請求項3】
さらに、滑剤、可塑剤、離型剤、流動性向上剤からなる群から選択される添加剤を含む、請求項1または2に記載のネイルチップ。
【請求項4】
可塑剤が、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチルから選択されるフタル酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニルから選択されるアジピン酸エステル;トリメリット酸トリオクチルから選択されるトリメリット酸エステル;二塩基酸(アジピン酸、セバチン酸、またはフタル酸)とグリコール類(1,2-プロパンジオール、またはブタンジオール)のポリエステル;リン酸トリクレシルから選択されるリン酸エステル;アセチルクエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチルから選択されるクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油から選択されるエポキシ化植物油;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルから選択されるジカルボン酸のモノまたはジエステル;安息香酸エステルから選択される芳香族カルボン酸のエステル;ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、動物脂肪酸メチル、牛脂脂肪酸メチル、植物性脂肪酸メチル、大豆脂肪酸メチル、亜麻仁油脂肪酸メチルから選択される脂肪酸メチルエステル;ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、動物脂肪酸ブチル、牛脂脂肪酸ブチル、植物性脂肪酸、大豆脂肪酸ブチル、亜麻仁油脂肪酸ブチルから選択される脂肪酸ブチルエステルのいずれかである、請求項1~3いずれかに記載のネイルチップ。
【請求項5】
前記生分解性ポリマーが酢酸セルロースであって、前記可塑剤がクエン酸トリエチルである、請求項4に記載のネイルチップ。
【請求項6】
前記生分解性樹脂組成物が、さらに、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、長石、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、カオリンクレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、ゼオライト、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、グラファイト、フェライトまたはそれらの組合せを含有する、請求項1~5いずれかに記載のネイルチップ。
【請求項7】
セラック樹脂、ロジン樹脂および酢酸セルロースからなる群から選択されるバイオマス由来樹脂を含む、生分解性ネイルカラー。
【請求項8】
バイオエタノール、バイオブタノール、乳酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択されるバイオマス由来溶媒を含む、ネイル除光液。
【請求項9】
請求項1~6いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなるネイルチップ、請求項7に記載の生分解性ネイルカラーを含む、生分解性ネイルケアセット。
【請求項10】
さらに、請求項8のネイル除光液を含む、請求項9に記載の生分解性ネイルケアセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂にセルロースナノファイバーを配合することにより、強度および生分解性が促進された生分解性複合材料を用いて作製されたネイルチップに関する。すなわち、本発明は、生分解性のネイルチップを提供する。また、生分解性ネイルチップに装飾を施すための生分解性ネイルカラーおよびネイル除光液も提供する。
【背景技術】
【0002】
自分の手や足の爪(自爪)に装飾を施すネイルアートが流行している。(メタ)アクリル系樹脂や、(メタ)アクリルを有するウレタン系樹脂等の合成樹脂を含む、化学重合性樹脂組成物(スカルプチュア)または光重合性樹脂組成物ジェル)を用いて自爪に直接人工爪を形成することができるが、高度な造形技術が必要であり、爪への負担も大きい。近年、自爪に樹脂製の人工爪(ネイルチップ)を取り付け、その上に、彩色したり、ストーンやラメを貼り付けたり、装飾を施す手法が一般的になってきた。ネイルチップを用いることで、サロンで専門家によってネイルアートを施してもらうだけではなく、自分でネイルアートを行う人も増えている。したがって、近年、ネイルチップの需要が高まっている。
【0003】
ネイルチップは合成樹脂(プラスチック)で形成されているため、需要の高まりと共に廃棄量の増大を考慮すると、環境への負荷が懸念される。
【0004】
プラスチックゴミによる環境汚染を防止するために、世界中で、プラスチックの使用量の減量(Reduce)、再使用(Reuse)および再資源化(Recycle)の「3R運動」が進められている。再使用および再資源化のために、プラスチックの分別回収が行われている。回収されたプラスチックゴミは中国や東南アジアに輸出していたが、これらの国々がプラスチック廃棄物の輸入を禁止したことで、日本国内でプラスチック廃棄物が滞留している。近年、特に、海洋ゴミへの関心が高まっている。プラスチックゴミが海洋に流れ込むと、そのまま漂流しているだけではなく、長距離、長時間漂っているうちに微細化して1mmに満たないマイクロプラスチックとなり、それが生態系を破壊するという大きな問題を生み出している。回収したプラスチックゴミを埋め立て処分したものの、洪水により河川へ流入し、海まで流されることもあり、2010年の推計では、日本において、陸上から海洋に流出したプラスチックゴミの発生量は2~6万t/年であった(非特許文献1)。
プラスチックの使用量を減量することが解決策として強力であるが、現代の社会において使用量をゼロにすることはできず、理想通りにはいかない。
【0005】
それゆえ、様々な生分解性プラスチックが開発されてきた。生分解性プラスチックは、微生物などによって分解し、最終的に二酸化炭素と水になるという性質を有している。生分解性プラスチックの例として、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンアジペートとテレフタレートとのコポリマー、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼインがあり、デンプン由来の生分解性プラスチックも開発されている(非特許文献2など)。
【0006】
生分解性プラスチックは環境汚染を低減するものとして期待されるが、強度が低いという欠点を有する。そこで、生分解性を損なわずに強度を上げるために、植物由来のバイオマスを混合した複合材料の研究が進んでいる(特許文献1および2など)。さらに、バイオマス/生分解性樹脂複合材料の強度を向上させるために、バイオマスと生分解性樹脂との界面における異相の界面における相溶性を改善する試みも行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-160034号公報
【特許文献2】特開2002-069303号公報
【特許文献3】特開2018-100312号公報
【特許文献4】特開2008-001728号公報
【特許文献5】特開2010-235679号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. R. Jambeck et al., "Plastic waste inputs from land into the ocean; Science 13 Feb. 2015, p.768
【非特許文献2】Du, Yicheng et al., Fabrication and characterization of fully biodegradable natural fiber-reinforced poly(lactic acid) composites, Composite Pat B: Engineering, v.56, pp. 717-723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、環境負荷を考慮して、生分解性プラスチックを主体としつつ、特に、強度および指先への装着感に優れた生分解性ネイルチップを提供することを課題とする。併せて、生分解性ネイルチップに装飾を施すためのネイルカラーおよびネイル除光液を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、ポリ乳酸(PLA)系、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系、デンプン系や酢酸セルロースなどの生分解性プラスチックを主体とし、前記生分解性プラスチックの生分解性を損なわずに強度を上げるための素材として、セルロースナノファイバーを含む生分解性樹脂組成物を用いて、ネイルチップ(人工爪)を製造する。
【0011】
上記したポリ乳酸(PLA)系、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系、デンプン系などの生分解性樹脂は、芋、穀物、サトウキビ、トウモロコシなど可食性のバイオマス原料から製造される。
【0012】
また、非可食性バイオマス原料を用いた樹脂として、古くから、酢酸セルロースが知られている。酢酸セルロースは、天然高分子であるセルロースを酢酸でエステル化することにより得られる半合成の高分子である。酢酸セルロース自体は熱可塑性を持たないので、樹脂として用いるためには可塑剤を添加して可塑化する必要がある。酢酸セルロースの可塑剤として、主に、相溶性の高いジオクチルフタレート(DOP)やトリアセチンが用いられている。
【0013】
生分解性プラスチックの生分解性を損なわずに強度を上げるための素材としてセルロースナノファイバー (CNF)が注目されている。CNFは高弾性、軽量、低い伸縮率、高いガスバリア性などの優れた物理特性を有している。また、自然界に大量に存在するバイオマスであるセルロースを原料として製造されるCNFは、いわゆるカーボンニュートラルな材料であり、たとえ燃焼させても地球上の二酸化炭素を増加させることはなく、生産・廃棄における環境負荷が小さい。優れた特性を有するCNFを製造する方法としては、一般的に、木材チップを酸化剤などにより化学処理してセルロース繊維にした後、ホモミキサーなどの機械的処理により微細化する方法が知られている(特許文献4および特許文献5)。
【0014】
しかしながら、これら従来の方法により製造したCNFでは、樹脂等に添加して得られる複合材料の強度が十分でないという問題があった。本発明者は、木材チップなどのセルロース原料を、そのまま直接水熱処理した後に、化学処理して得られたCNFが、樹脂材料との複合材料の特性を向上することを見出した。この方法によれば、CNFを製造するための原料として、新たな木材のみならず廃材や、稲穂、くず、すすきなどの草本、古紙などを用いることで、今まで廃棄されていたセルロース素材を有効活用することができる。
【0015】
そこで、本発明において、すでに本発明者らが開発したCNFを用いることとした。本発明に用いることができるCNFは、広葉樹、針葉樹、竹などの木本類、稲穂、くず、すすきなどの草本類、紙などのセルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程、膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程、およびパルプを、酸またはアルカリで化学処理に付してセルロースナノファイバーを得る工程を含むCNFの製造方法により製造されたものである。
【0016】
上記生分解性プラスチックに本発明者らが開発したCNFを添加した生分解性樹脂組成物を用いて製造したネイルチップは、強度が十分であり、かつ、自爪に装着した際に、厚ぼったさや重さを感じさせなかった。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるネイルチップは、生分解性樹脂組成物を用いて製造されているので、廃棄による環境負荷が小さく、かつ、実用的である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、第1の局面において、少なくとも、ポリ乳酸(PLA)、デンプン系生分解性樹脂、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンアジペートとテレフタレートとのコポリマー、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、および酢酸セルロールからなる群から選択される生分解性ポリマー、ならびにセルロースナノファイバーを含む生分解性樹脂組成物からなるネイルチップを提供する。
【0019】
本発明に用いることができるセルロースナノファイバーは、セルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程;膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程;およびパルプを化学処理してセルロースナノファイバー(CNF)を得る工程を、この順序で含む製造方法により製造されたセルロースナノファイバーである。上記セルロース原料の例としては、天然セルロースを取り出せる物質であればいずれのものであってもよく、例えば、針葉樹、広葉樹および竹などからなる群から選択される木本類もしくは稲穂、くず、すすきなどからなる群から選択される草本類、さらには紙類を含む。これらのセルロース原料は、新規の材料でなくても、前記した木本類、草木類の使用済みの廃材、古紙でもよい。このようなセルロース原料は、取り扱いのため適当な大きさにしてから工程に付す。本発明において、工程に付す際のセルロース原料の大きさは、好ましくは0.5×0.5 cm~2.0×2.0 cm、より好ましくは0.7×0.7 cm~1.5×1.5 cm、最も好ましくは0.8×0.8 cm~1.2×1.2 cmの範囲である。前記範囲よりも大きな原料であれば、破砕してチップやパウダー形態の粉砕物にする。
【0020】
本発明によるCNFの製造方法の水熱処理工程において、セルロース原料をそのまま水に浸漬し、高温、高圧条件の亜臨界から超臨界状態に付す。より詳しくは、水に浸漬したチップ等の水熱処理を、1~300気圧下で400℃以下の、好ましくは2~250気圧下で5~200℃の、より好ましくは25~100気圧下で100~380℃の、最も好ましくは25~100気圧下で150~250℃の範囲内の亜臨界または超臨界状態で60~180分間行う。これらの水熱処理により、セルロース原料は柔らかく膨潤した粉砕物になる。
【0021】
従来のCNFの製造方法では木材チップ等のセルロース原料を最初に硫酸などで化学処理し、その後、ソルボサーマル処理していたが、本発明の製造方法では、木材チップなどある程度の大きさを有するセルロース原料をまず水熱処理し、その後、酸やアルカリを用いて化学処理するところに特徴がある。本発明の製造方法により製造したCNFは樹脂と混合した場合に、複合材料の物性を高める。
【0022】
ソルボサーマル処理とは、水熱処理において用いる水に代えて有機溶媒を用いる処理であり、このような有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、N-メチルピロリドンのようなピロリドン系溶剤、酢酸ブチルのようなアセテート系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル系溶剤、メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤、トルエン、キシレンのような芳香族溶剤、パラフィンなどの炭化水素系溶剤などの溶媒を挙げることができる。
【0023】
つぎに、得られた膨潤セルロース原料を解砕工程に付して、繊維をほぐしてパルプ化する。この解砕工程には、ボールミル、ディスクミル、湿式カッターミル、圧力式ホモジナイザーなどを用いることができる。この解砕工程によりセルロース原料は0.05~0.5 mmの繊維状のパルプとなる。
【0024】
最後に、解砕して得られたパルプを化学処理する。化学処理としては、例えば、酸処理、アルカリ処理、またはこれらの組み合わせが挙げられる。酸処理には、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸などの酸を用いることができる。また、アルカリ処理には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、次亜塩素酸などを用いることができる。化学処理により、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エステル基、スルホ基、ケトン基、アセチル基などの官能基をセルロース表面に持たせ、樹脂中での分散状態を良好にすることができる。
【0025】
また、水熱処理に付す前に、セルロース原料にリグニンを加えることもできる。リグニンを加えることにより、生成されるCNFの表面が疎水化される(疎水化CNF)。疎水化CNFと樹脂とを混合して生成する複合材料では、リグニンを加えない非疎水化CNFの複合材料と比べて引張強度が高くなるのでより好ましい。セルロース原料とリグニンの混合比はセルロース原料/リグニン(重量比)=0.5~2、好ましくは0.7~1.5、より好ましくは0.8~1.2ぐらいが好ましい。
【0026】
本発明の第1の局面において、さらに、本発明の目的を損なわない限り、射出成形用の樹脂組成物に添加することができる様々な添加物を添加することができる。本発明の生分解性樹脂組成物には、添加物として、滑剤、可塑剤、離型剤、流動性向上剤などおよびそれらの組合せを添加することができる。
【0027】
本発明に用いることができる滑剤の例として、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル;流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックスなどの炭化水素;ステアリン酸やステアリルアルコールなどの脂肪酸および高級アルコール;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドの脂肪酸アミドと、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドのアルキレン脂肪酸アミドなどの脂肪族アミド;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石けん;ステアリン酸モノグリセリドやステアリルステアレートなどのエステル系アルコールの脂肪酸エステルを包含する。なかでも、環境負荷低減の観点から、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸やステアリルアルコール、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの天然物由来成分が挙げられる。
【0028】
本発明に用いることができる生分解性ポリマーの可塑剤の例として、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチルなどから選択されるフタル酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニルなどから選択されるアジピン酸エステル;トリメリット酸トリオクチルなどから選択されるトリメリット酸エステル;二塩基酸(アジピン酸、セバチン酸、またはフタル酸など)とグリコール類(1,2-プロパンジオール、またはブタンジオールなど)のポリエステル;リン酸トリクレシルなどから選択されるリン酸エステル;アセチルクエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチルなどから選択されるクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などから選択されるエポキシ化植物油;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルなどから選択されるジカルボン酸のモノまたはジエステル;安息香酸エステルなどから選択される芳香族カルボン酸のエステル;ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、動物脂肪酸メチル、牛脂脂肪酸メチル、植物性脂肪酸メチル、大豆脂肪酸メチル、亜麻仁油脂肪酸メチルなどから選択される脂肪酸メチルエステル;ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、動物脂肪酸ブチル、牛脂脂肪酸ブチル、植物性脂肪酸、大豆脂肪酸ブチル、亜麻仁油脂肪酸ブチルなどから選択される脂肪酸ブチルエステルを包含する。なかでも、環境負荷低減の観点から、リン酸トリクレシル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、セバシン酸エステルなどの天然物由来成分が挙げられる。
【0029】
特に、生分解性ポリマーとして酢酸セルロースを用いる場合、その可塑剤の例として、ロジン、ロジンエステル、ロジングリセリンエステルなどのロジン系可塑剤、非置換または置換のC1~10アルコールと酢酸、乳酸、フタル酸、クエン酸またはリン酸とのエステル系可塑剤、トリアセチン、ジアセチン、グリセリン、ポリグリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどのグリセリン系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ソルビトール、ショ糖脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルなどの糖アルコール系可塑剤からなる群から選択される可塑剤を用いることが好ましい。
【0030】
本発明に用いることができる離型剤の例として、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、高級アルコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0031】
その他、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、亜鉛などの炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末などの無機材料フィラーも、滑剤、離型剤、流動性向上剤としての効果がある。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、長石、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、カオリンクレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、ゼオライト、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、グラファイト、フェライト等が挙げられる。
【0032】
本発明による生分解性樹脂組成物を射出成形などの成形技術を用いて成形し、硬化させることによってネイルチップを製造することができる。
【0033】
本発明は、第2の局面において、セラック樹脂、ロジン樹脂および酢酸セルロースからなる群から選択されるバイオマス由来樹脂を含む、生分解性ネイルカラーを提供する。
本発明による生分解性ネイルカラーは、本発明によるネイルチップを彩色するために有用であり、ネイルチップを彩色するために、通常使用されている染料、顔料などを添加することができ、ラメ入りやホログラム入りにすることもできる。また、染料や顔料などで着色せずにクリアタイプとすれば、トップコートとして用いることができる。
さらに、本発明による生分解性ネイルカラーは、マニキュアとして、自爪に彩色するために用いることもできる。
【0034】
本発明による生分解性ネイルカラーは、バイオエタノール、バイオブタノール、乳酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択されるバイオマス由来溶媒を含むことができる。
本発明による生分解性ネイルカラーにおいて、自爪やネイルチップへの塗布が容易になり、乾燥ムラも解消される観点から、バイオマス由来溶媒中、バイオエタノールまたはバイオブタノールのいずれかのバイオアルコールの含有量が60~80(w/w%)であることが好ましい。
【0035】
本発明は、第3の局面において、バイオエタノール、バイオブタノール、乳酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択されるバイオマス由来溶媒を含む、ネイル除光液を提供する。
本発明によるネイル除光液は、上記生分解性ネイルカラーを除去するために有用である。
【0036】
本発明は、第4の局面において、本発明による生分解性樹脂組成物からなるネイルチップ、本発明による生分解性ネイルカラーを含む、生分解性ネイルケアセットを提供する。本発明の生分解性ネイルケアセットは、さらに、本発明のネイル除光液を含むことができる。
【実施例0037】
調製例1
[ポリ乳酸を用いたネイルチップの製造]
木材チップ(1.0x1.0 cm)1 kgとN-メチルピロリドン10 Lとを混合してオートクレーブ(200℃、25気圧)中で2時間ソルボサーマル処理した。得られた木材粉砕物を次亜塩素酸10%の水溶液中90℃で1時間熱処理を施して、ソルボサーマル処理/化学処理したCNFを調製した。
ポリ乳酸(PLA; Natureworks社製)2000 gに対して、上記で製造したCNF 40 gを配合して、二軸押出機により混合して、2重量%のCNFを含有する生分解性樹脂組成物を調製した。
【0038】
上記生分解性樹脂組成物を型締力50 tの射出成型機を用いて、190℃でネイルチップを射出成形した。
厚さ0.25 mmおよび0.5 mmで成形することができた。
【0039】
調製例2
[酢酸セルロースを用いたネイルチップの製造]
酢酸セルロース10 kgにクエン酸トリエチル4 kgを添加したものを二軸押出機によって混錬して、セルロース系熱可塑性樹脂を調製した。
上記で調製したセルロース系熱可塑性樹脂2000 gに対して、上記で製造したCNF 40 gを配合して、二軸押出機により混合して、2重量%のCNFを含有する生分解性樹脂組成物を調製した。
【0040】
上記生分解性樹脂組成物を型締力50 tの射出成型機を用いて、190℃でネイルチップを射出成形した。
厚さ0.35 mmおよび0.5 mmで成形することができた。
【0041】
調製例3
[ネイルカラーの調製]
二酸化チタン180 g、セラック44 g、バイオエタノール38 gを0.5 mm径のジルコニアビーズとともに、ビーズミル分散機を用いて60分間分散して、白色の天然バイオマス生分解性ネイルカラーAを作成した。
次に、バイオエタノール30.4 gと乳酸エチル7.6 gを混合して得られた混合溶媒:80/20(w/w%)とした以外は、上記と同様にして白色の天然バイオマス生分解性ネイルカラーBを作成した。
さらに、バイオエタノール22.8 gと乳酸エチル15.2 gを混合して得られた混合溶媒:60/40(w/w%)とした以外は、上記と同様にして白色の天然バイオマス生分解性ネイルカラーCを作成した。
【0042】
調製例4
[ネイル除光液の調製]
バイオエタノール80 gおよび乳酸エチル20 gを混合して、ネイル除光液を調製した。
【0043】
特性評価
(1)ネイルチップの加工性
調製例1で調製したポリ乳酸を含有する生分解性樹脂組成物はメルトマスフローレート (MFR)が高く(24-25 g/10分)、0.25 mm厚の薄いネイルチップを成形することができた。MFRは、JIS K6760で定められた押出し型プラストメータを用い、JIS K 7210の規定に従って、2.16kgの荷重下、190℃にて測定した。
0.25m厚のネイルチップは、自爪の形に沿わせて曲げると割れ易かった。0.5 mm厚のネイルチップは、割れることがなかった。
一方、調製例2で調製した酢酸セルロースを含有する生分解性樹脂組成物はメルトマスフローレート (MFR)が低く(7-9 g/10分)、0.25 mm厚のネイルチップの成形は困難であったが、0.35 mm厚以上のネイルチップを形成することができた。
(2)装着感
市販のネイルチップ(ABS製)と比較して、調製例1で調製したポリ乳酸を含有する生分解性樹脂組成物は、少し硬さや重さを感じるが問題なく装着できた。また、調製例2で調製した酢酸セルロースを含有する生分解性樹脂組成物は、軽快感があり、厚ぼったさも感じられず、装着性が良好であった。
(3)ネイルチップへの装飾性
(a)市販のネイルカラーによる装飾性
市販のネイルカラーを用いて彩色した場合、調製例1または2で調製したポリ乳酸または酢酸セルロースを含有する生分解性樹脂組成物で製造したネイルチップは、市販のネイルチップ(ABS製)と比較して、装飾性は同等であった。
本発明のネイルチップは、市販のネイルカラーを用いて彩色することが可能であることが確認された。
(b)本発明によるネイルカラーによる装飾性
調製例3で調製した生分解性ネイルカラーA(バイオエタノール100w/w%)を用いて、自爪または市販のネイルチップ(ABS製)を彩色した場合、塗布が困難で、乾燥ムラがひどかった。調製例3で調製した生分解性ネイルカラーB(バイオエタノール80w/w%)を用いて、自爪または市販のネイルチップ(ABS製)を彩色した場合、塗布が容易であり、かつ、乾燥時間も短くて、乾燥ムラもなく問題がなかった。調製例3で調製した生分解性ネイルカラーC(バイオエタノール60w/w%)を用いて、自爪または市販のネイルチップ(ABS製)を彩色した場合、塗布が容易であり、かつ、乾燥時間が長くなったが、乾燥ムラもなく問題がなかった。
調製例3で調製した生分解性ネイルカラーBまたはCのいずれを用いて彩色した場合でも、調製例1または2で調製したポリ乳酸または酢酸セルロースを含有する生分解性樹脂組成物で製造したネイルチップは、市販のネイルチップ(ABS製)と比較して、装飾性は同等であった。
よって、本発明による生分解性ネイルカラーにおいて、バイオマス由来溶媒中、バイオエタノールまたはバイオブタノールのいずれかのバイオアルコールの含有量が60~80(w/w%)であれば、自爪やネイルチップへの塗布が容易になり、乾燥ムラも解消されることが確認された。
(4)ネイル除光液による生分解性ネイルカラーの除去
調製例2で製造した酢酸セルロースを用いたネイルチップに本発明による生分解性ネイルカラーBおよびCを塗布し、乾燥して得られた乾燥膜は、調製例4で調製したネイル除光液を用いて問題なく除去することができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、全て天然由来の素材のみで作成されたネイルチップが従来と同等の装着感を示した。さらに、ネイルカラーおよびネイル除光液も天然由来成分から構成されているので、プラスチックゴミによる環境負荷を大幅に低減することができた。