(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163577
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用イオン伝導層
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20221019BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221019BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221019BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20221019BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20221019BHJP
H01M 50/42 20210101ALN20221019BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01G11/84
H01G11/52
H01M50/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068590
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】上村 茂久
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5E078CA06
5E078CA12
5E078CA20
5H021BB12
5H021EE06
5H021HH01
5H021HH03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM11
5H029AM16
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050EA23
(57)【要約】
【課題】一態様において、高いイオン伝導性を有する蓄電デバイス用イオン伝導層を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、蓄電デバイスの正極と負極の間に配置されるイオン伝導層であって、前記イオン伝導層はアクリル系ポリマーを含有し、前記アクリル系ポリマーは、下記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A)及び下記式(II)で表される化合物由来の構成単位(B)を含む、蓄電デバイス用イオン伝導層に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの正極と負極の間に配置されるイオン伝導層であって、
前記イオン伝導層はアクリル系ポリマーを含有し、
前記アクリル系ポリマーは、下記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A)及び下記式(II)で表される化合物由来の構成単位(B)を含む蓄電デバイス用イオン伝導層。
【化1】
式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基を示す。R
2は、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。X
1は、-O-又は-NH-を示す。
【化2】
式(II)中、R
3は、水素原子又はメチル基を示し、X
2は、-O-又は-N(R
5)-を示す。X
2が-O-のとき、R
4は、アルキレンオキサイドを有する構造(ただし、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は2~50である)、又は、-R
6N
+(R
7)(R
8)(R
9)・Y
-の構造を有する。R
6は、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、R
7、R
8、R
9は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。Y
-は、アニオンを示す。X
2が-N(R
5)-のとき、R
4及びR
5は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。
【請求項2】
前記アクリル系ポリマーの全構成単位中の、構成単位(A)の含有量が50質量%以上、構成単位(B)の含有量が0.5質量%以上である、請求項1に記載の蓄電デバイス用イオン伝導層。
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーは、架橋性モノマー由来の構成単位(C)をさらに含み、
前記構成単位(C)の含有量は、構成単位(C)以外の構成単位の合計モル数に対して、0.001モル%以上5モル%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用イオン伝導層。
【請求項4】
前記架橋性モノマーが、多官能(メタ)アクリレート及びN-メチロールアミド基含有モノマーから選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の蓄電デバイス用イオン伝導層。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかで規定されるアクリル系ポリマーを含むイオン伝導層を形成することを含む、イオン伝導性を向上する方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のイオン伝導層を含有する、蓄電デバイス用部材。
【請求項7】
蓄電デバイス用部材が、イオン伝導層を有する電解質層、イオン伝導層を有する電極、及び、少なくとも一方の面にイオン伝導層を有するセパレーターから選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の蓄電デバイス用部材。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の蓄電デバイス用部材を有する、蓄電デバイス。
【請求項9】
蓄電デバイス用イオン伝導層を形成するための方法であって、
アクリル系ポリマー組成物を含有するスラリーを基材表面に塗布する工程と、
塗布したスラリーを乾燥してイオン伝導層を形成する工程と、を含み、
前記アクリル系ポリマー組成物はアクリル系ポリマーの粒子を含有し、
前記アクリル系ポリマーは、下記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A)及び下記式(II)で表される化合物由来の構成単位(B)を含む、イオン伝導層形成方法。
【化3】
式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基を示す。R
2は、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。X
1は、-O-又は-NH-を示す。
【化4】
式(II)中、R
3は、水素原子又はメチル基を示し、X
2は、-O-又は-N(R
5)-を示す。X
2が-O-のとき、R
4は、アルキレンオキサイドを有する構造(ただし、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は2~50である)、又は、-R
6N
+(R
7)(R
8)(R
9)・Y
-の構造を有する。R
6は、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、R
7、R
8、R
9は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。Y
-は、アニオンを示す。X
2が-N(R
5)-のとき、R
4及びR
5は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。
【請求項10】
イオン伝導層の厚さが1μm以上500μm以下である、請求項9に記載のイオン伝導層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイス用イオン伝導層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンの普及や自動車市場でのゼロエミッション規制、さらには自然エネルギー活用の拡大などにより、蓄電デバイスの需要は大きくなってきている。そのため、蓄電デバイスには、小型、軽量、大容量化が望まれ、自動車等においてはさらに高出力、高エネルギー密度を求める声が大きくなっている。このような要求において、リチウムイオン二次電池やアルカリイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ、全固体電池などの蓄電デバイスの開発が進められている。
【0003】
このような蓄電デバイスは、一般的に金属箔上に活物質等を含む合材層が塗布された電極を備えており、電極間にはイオンの移動を行う電解質が充填されている。この電解質には目的に応じて液体、半固体、固体が使用され、液体の場合は金属イオンを含有する溶媒を使用し、半固体の場合は前記液体を内包したゲルを使用し、固体の場合はイオン伝導性を有する固体を使用することが知られている。主に電解質に液体や半固体を使用する蓄電池の場合、電極間の短絡を防止する観点で電極間にセパレーターを備えている。一方、固体電解質を使用する蓄電池の場合は、固体電解質のみでは剥落しやすいため剥落防止の観点で固体電解質と樹脂の混合膜を使用することが知られている。
【0004】
また、パウチ型電池は可動域が大きいため、電極のズレ、セパレーターのズレが発生し耐久性を低下させる原因にもなっており、ズレを防止する観点で接着層が設けられている。また、正極や負極の表面には、局所的な反応による金属の析出や電解質の変性による高いイオン抵抗性の固着膜の生成を抑制する観点から表面保護膜が設けられることも知られている。
【0005】
例えば、セパレーターの接着層や電極表面保護膜が提案されている(特許文献1及び2)。
特許文献1には、重合体A及び溶媒を含む電気化学素子機能層用組成物であって、前記重合体Aが、アルキレンオキサイド構造含有単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する、電気化学素子機能層用組成物が開示されている。同文献の実施例では、重合体Aとして、メトキシポリエチレングリコールアクリレート由来の構成単位と2-エチルヘキシルアクリレート由来の構成単位とを有する重合体、エトキシジエチレングリコールアクリレート由来の構成単位と2-エチルヘキシルアクリレート由来の構成単位とを有する重合体、メトキシポリエチレングリコールアクリレート由来の構成単位とステアリルアクリレート由来の構成単位とを有する重合体が用いられている。
特許文献2には、CH2=C-C=O構造単位を有し、-O-又は-NH-結合を有する特定構造の化合物からなる構成単位A、並びに、CH2=C-C=O構造単位を有し、-OM結合(Mは水素原子又はカチオン)を有する特定構造の化合物、CH2=C-C=O構造単位を有し、-O-又は-NH-結合基を介して、特定構造の官能基が結合した化合物、及び不飽和二塩基酸から選ばれる少なくとも1種の化合物由来の構成単位Bを含有するポリマー粒子からなる蓄電デバイス電極用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2019/044912号
【特許文献2】特開2018-32623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、昨今の小型化、高容量化、高出力化の要求に応える上で、電解質、セパレーター、固体電解質混合膜、接着層、表面保護層などに使用される樹脂のイオン伝導性を向上させることが必要であり、より高いイオン伝導性を有する樹脂層の提案が求められている。樹脂層のイオン伝導性を向上することにより、例えば樹脂層で耐久性を向上しつつ電池の内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0008】
特許文献1に開示される重合体Aや特許文献2に開示されるポリマー粒子を用いて作製された樹脂層についてイオン伝導性のさらなる向上が求められる。また、特許文献2に開示されるポリマー粒子はイオン伝導層を有するセパレーターには、密着性の点からサイクル耐久性の向上という課題が見出された。
【0009】
本開示は、一態様において、高いイオン伝導性を有し、かつサイクル耐久性が高い電極やセパレーターが得られる蓄電デバイス用イオン伝導層を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、一態様において、蓄電デバイスの正極と負極の間に配置されるイオン伝導層であって、前記イオン伝導層はアクリル系ポリマーを含有し、前記アクリル系ポリマーは、下記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A)及び下記式(II)で表される化合物由来の構成単位(B)を含む、蓄電デバイス用イオン伝導層に関する。
【化1】
式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基を示す。R
2は、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。X
1は、-O-又は-NH-を示す。
【化2】
式(II)中、R
3は、水素原子又はメチル基を示し、X
2は、-O-又は-N(R
5)-を示す。X
2が-O-のとき、R
4は、アルキレンオキサイドを有する構造(ただし、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は2~50である)、又は、-R
6N
+(R
7)(R
8)(R
9)・Y
-の構造を有する。R
6は、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、R
7、R
8、R
9は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。Y
-は、アニオンを示す。X
2が-N(R
5)-のとき、R
4及びR
5は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示のアクリル系ポリマーを含むイオン伝導層を形成することを含む、イオン伝導性を向上する方法に関する。
【0012】
本開示は、一態様において、本開示のイオン伝導層を含有する、蓄電デバイス用部材に関する。
【0013】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用部材を有する、蓄電デバイスに関する。
【0014】
本開示は、一態様において、蓄電デバイス用イオン伝導層を形成するための方法であって、アクリル系ポリマー組成物を含有するスラリーを基材表面に塗布する工程と、塗布したスラリーを乾燥してイオン伝導層を形成する工程と、を含み、前記アクリル系ポリマー組成物はアクリル系ポリマーの粒子を含有し、前記アクリル系ポリマーは、下記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A)及び下記式(II)で表される化合物由来の構成単位(B)を含む、イオン伝導層形成方法に関する。
【化3】
式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基を示す。R
2は、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。X
1は、-O-又は-NH-を示す。
【化4】
式(II)中、R
3は、水素原子又はメチル基を示し、X
2は、-O-又は-N(R
5)-を示す。X
2が-O-のとき、R
4は、アルキレンオキサイドを有する構造(ただし、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は2~50である)、又は、-R
6N
+(R
7)(R
8)(R
9)・Y
-の構造を有する。R
6は、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、R
7、R
8、R
9は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。Y
-は、アニオンを示す。X
2が-N(R
5)-のとき、R
4及びR
5は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、高いイオン伝導性を有する蓄電デバイス用イオン伝導層を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
[蓄電デバイス用イオン伝導層]
本開示は、一態様において、蓄電デバイス用イオン伝導層を所定のアクリル系ポリマーで形成することにより、イオン伝導性を向上できるという知見に基づく。
【0018】
すなわち、本開示は、一態様において、蓄電デバイスの正極と負極の間に配置されるイオン伝導層であって、前記イオン伝導層はアクリル系ポリマー(以下、「本開示のアクリル系ポリマー」ともいう)を含有し、前記アクリル系ポリマーは、前記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A)及び前記式(II)で表される化合物由来の構成単位(B)を含む、蓄電デバイス用イオン伝導層(以下、「本開示のイオン伝導層」ともいう)に関する。
【0019】
本開示によれば、高いイオン伝導性を有する蓄電デバイス用イオン伝導層を提供できる。本開示のイオン伝導層を、蓄電デバイスの電解質、セパレーター、固体電解質混合膜、電極とセパレーター等の接着層、表面保護層等に使用することで、電池特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。
【0020】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のことが推定される。
一般にリチウムイオンバッテリー内で使用されるポリマー(SBR,PVDF等)は電池内でリチウムイオンの動きを阻害し、抵抗源となっていると考えられる。しかし、本開示のイオン伝導層に含まれる本開示のアクリル系ポリマーは、電解液との親和性が高く、ポリマーを含有するイオン伝導層中に電解液を含むことができ、リチウムイオンはイオン伝導層中の電解液の中を素早く移動できるため、抵抗を低減できると考えられる。その結果、容量維持率やサイクル耐久性等の電池特性が優れると考えられる。また、本開示のアクリル系ポリマーは構成単位(B)を有することによりエマルションの安定性が向上する上、イオン伝導層が電極やセパレーターの密着性を高める作用があると考えられ、結果的に蓄電デバイスの耐久性が向上し、サイクル特性の向上を実現できると考えられる。
但し、これらは推定であって、本開示はこれらメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0021】
本開示のイオン伝導層は、正極と負極の間でイオンの授受を行う蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイスの正極と負極の間に配置されるイオン伝導層である。本開示のイオン伝導層は、一又は複数の実施形態において、電極の保護や接着、あるいは蓄電デバイスの安全性や耐久性などを目的としたイオン伝導可能な樹脂含有層である。本開示のイオン伝導層は、正極と負極の間であればいずれの場所に配置されてもよい。本開示のイオン伝導層が配置される場所としては、例えば、負極表面(負極保護層など)、電解質層、セパレーター表面(接着層など)、セパレーター自体、正極表面(正極保護層など)が挙げられる。これらのうち少なくとも1つの場所に本開示のイオン伝導層が配置されることにより、蓄電デバイスの電池特性を向上させることができる。
【0022】
本開示のイオン伝導層は、一又は複数の実施形態において、本開示のアクリル系ポリマーで形成されている。本開示のイオン伝導層は、一又は複数の実施形態において、イオンを透過する作用により高いイオン伝導性を有する。そのため、本開示のイオン伝導層は、例えば、後述の測定方法において高いイオン伝導性を示し、蓄電デバイスのイオン抵抗を低減する効果が発現すると考えられる。したがって、本開示は、一態様において、本開示のアクリル系ポリマーを含むイオン伝導層を形成することを含む、イオン伝導性を向上する方法に関する。イオン伝導層の形成方法については後述する。
【0023】
[アクリル系ポリマー]
本開示のイオン伝導層は、本開示のアクリル系ポリマーを含む。本開示のイオン伝導層中の本開示のアクリル系ポリマーの含有量は、蓄電デバイスの性能および製造の観点から、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、5質量%以上がより更に好ましく、そして、100質量%以下が好ましい。
また、本開示のイオン伝導層は、本開示のアクリル系ポリマー以外のポリマーを含むことができるが、本開示のイオン伝導層のポリマー中の本開示のアクリル系ポリマーの含有量は、蓄電デバイスの性能および製造の観点から、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、そして、100質量%以下が好ましい。本開示のアクリル系ポリマー以外のポリマーとしては、本開示のアクリル系ポリマー以外のアクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー等が挙げられる。
【0024】
本開示のアクリル系ポリマーは、後述する構成単位(A)及び構成単位(B)を含むものである。構成単位(A)及び(B)はそれぞれ、後述する化合物の単官能モノマー由来の構成単位である。単官能モノマーとは、不飽和結合を1個有するモノマーをいう。
本開示のアクリル系ポリマーは、一又は複数の実施形態において、後述する構成単位(C)をさらに含有することができる。
本開示のアクリル系ポリマーとしては、一又は複数の実施形態において、後述する構成単位(A)と後述する構成単位(B)とを含む共重合体、及び、後述する構成単位(A)と後述する構成単位(B)と後述する構成単位(C)とを含む共重合体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。アクリル系ポリマーは、1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0025】
<構成単位(A)>
構成単位(A)は、下記式(I)で表される化合物(以下、「モノマー(A)」ともいう)由来の構成単位である。モノマー(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【化5】
【0026】
式(I)中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、合成容易性の観点から、水素原子が好ましい。R2は、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、金属イオン及び電解液への親和性の観点から、炭素数1以上4以下の直鎖のアルキル基が好ましい。X1は、-O-又は-NH-を示し、合成容易性の観点から、-O-が好ましい。
【0027】
モノマー(A)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルプロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキルエステル(メタ)アクリレート;メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の単官能(メタ)アクリルアミド;から選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。これらの中でも、金属イオンおよび電解液への親和性の観点から、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート(EA)及びブチルアクリレート(BA)から選ばれる1種又は2種以上の組合せが好ましく、エチルアクリレート(EA)がより好ましい。本開示において、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート又はアクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドとは、メタクリルアミド又はアクリルアミドを意味する。
【0028】
本開示のアクリル系ポリマーの全構成単位中の構成単位(A)の含有量は、電解液への親和性の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が更に好ましい。そして、本開示のアクリル系ポリマーの全構成単位中の構成単位(A)の含有量は、金属イオンへの親和性の観点から、99質量%以下が好ましい。構成単位(A)の含有量は、公知の分析方法又は分析装置によって求めることができる。構成単位(A)が2種以上のモノマー(A)由来の構成単位からなる場合、構成単位(A)の含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0029】
<構成単位(B)>
構成単位(B)は、下記式(II)で表される化合物(以下、「モノマー(B)」ともいう)由来の構成単位である。モノマー(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【化6】
【0030】
式(II)中、R3は、水素原子又はメチル基を示し、X2は、-O-又は-N(R5)-を示す。
X2が-O-のとき、R4は、アルキレンオキサイドを有する構造(ただし、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は2~50である)、又は、-R6N+(R7)(R8)(R9)・Y-の構造を有する。R6は、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、R7、R8、R9は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。Y-は、アニオンを示す。Y-は、アニオンを示す。アニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン等のハロゲン化物イオン;硫酸イオン;リン酸イオン;等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドを有する構造は、一又は複数の実施形態において、-(AO)m-R10(ただし、AOはアルキレンオキサイド基を示し、mはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、2~50を示し、R10は水素原子又は炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)である。アルキレンオキサイド基としては、例えば、エチレンオキサイド基、及び/又はプロピレンオキサイド基が挙げられる。mは、電解液との親和性及びポリマーの分散安定性の観点から、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、6以上が更に好ましく、9以上が更に好ましく、そして、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下が更に好ましく、25以下が更に好ましい。
X2が-N(R5)-のとき、R4及びR5は同一又は異なり、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。
【0031】
本開示のアクリル系ポリマーの全構成単位中の構成単位(B)の含有量は、ポリマーの分散安定性の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上より好ましく、2質量%以上が更に好ましく、そして、電解液との親和性の観点から、50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が更に好ましい。構成単位(B)の含有量は、公知の分析方法又は分析装置によって求めることができる。構成単位(B)が2種以上のモノマー(B)由来の構成単位からなる場合、構成単位(B)の含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0032】
本開示のアクリル系ポリマー中の構成単位(B)の含有量に対する構成単位(A)の含有量の比(A/B)は、分散安定性の観点から、99以下が好ましく、75以下がより好ましく、50以下が更に好ましく、そして、電解液への親和性の観点から、1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましく、10以上がより更に好ましい。
【0033】
<構成単位(C)>
本開示のアクリル系ポリマーは、イオン伝導性及びポリマーの分散安定性の観点から、さらに構成単位(C)を含有することが好ましい。
構成単位(C)は、架橋性モノマー(以下、「モノマー(C)」ともいう)由来の構成単位である。架橋性モノマーは、一又は複数の実施形態において、2以上の官能基を有するモノマーであり、官能基としては、二重結合、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
モノマー(C)としては、多官能(メタ)アクリレート(以下、「モノマー(C1)」ともいう)、及び、N-メチロールアミド基含有モノマー(以下、「モノマー(C2)」ともいう)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。モノマー(C)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、2価以上のアルコールと2以上の(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。
【0034】
モノマー(C1)としては、例えば、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0035】
前記式(III)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、合成の容易性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましい。X3及びX4はそれぞれ独立に、合成の容易性及び電解液への親和性の観点から、-O-又は-NH-が好ましい。nは、合成の容易性及び電解液への親和性の観点から、1以上20以下の整数が好ましい。
【0036】
上記式(III)で表される化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
その他のモノマー(C1)としては、例えば、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
N-メチロールアミド基含有モノマーであるモノマー(C2)としては、N-メチロールアクリルアミド及びN-メチロールメタクリルアミドから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0039】
本開示のアクリル系ポリマーが構成単位(C)を含む場合、本開示のアクリル系ポリマーの構成単位(C)の含有量は、合成の容易性及び電解液への親和性の観点から、構成単位(C)以外の構成単位の合計モル数に対して、0.001モル%以上が好ましく、0.01モル%以上がより好ましく、0.05モル%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、1モル%以下が更に好ましい。構成単位(C)が2種以上のモノマー(C)由来の構成単位からなる場合、構成単位(C)の含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0040】
本開示のアクリル系ポリマーは、本開示の効果を損なわない範囲で、前記構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位としては、モノマー(A)、(B)及び(C)と共重合可能なモノマー由来の構成単位であればよい。モノマー(A)、(B)及び(C)と共重合可能なモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、メチルスチレン、炭素数4以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、芳香族含有(メタ)アクリレート、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、アルケニル基含有モノマー等が挙げられる。モノマー(A)、(B)及び(C)と共重合可能なモノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0041】
本開示のアクリル系ポリマーの全構成単位中の構成単位(A)及び(B)の合計含有量は、金属イオンおよび電解液への親和性の観点から、50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上がより更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
【0042】
<アクリル系ポリマーの製造方法>
本開示のアクリル系ポリマーは、例えば、モノマー(A)及びモノマー(B)、並びに必要に応じてモノマー(C)を共重合させることによって製造できる。すなわち、本開示は、一態様において、モノマー(A)及びモノマー(B)、並びに必要に応じてモノマー(C)を含むモノマー混合物を重合させる重合工程を含む。重合法としては、例えば、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の公知の重合法が挙げられ、ポリマーの製造容易性の観点から、乳化重合法が好ましい。
【0043】
本開示において、アクリル系ポリマーの全構成単位中の構成単位(A)の含有量は、重合に用いるモノマー全量に対する、モノマー(A)の使用量の比と見なすことができる。ポリマー粒子の全構成単位中の構成単位(B)の含有量は、重合に用いるモノマー全量に対する、モノマー(B)の使用量の比と見なすことができる。構成単位(B)に対する構成単位(A)の含有量の比(A/B)は、重合に用いるモノマー全量における、モノマー(B)の使用量に対するモノマー(A)の使用量の比と見なすことができる。ポリマー粒子の全構成単位中の構成単位(A)及び構成単位(B)の合計含有量は、重合に用いるモノマー全量に対する、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計使用量の比と見なすことができる。ポリマー粒子中の構成単位(C)の含有量は、重合に用いるモノマー(C)以外のモノマーの合計モル数に対する(例えば、ポリマー粒子が構成単位(A)~(C)を含む場合、モノマー(A)及び(B)の合計モル数に対する)、モノマー(C)の使用量の比と見なすことができる。
【0044】
乳化重合法としては、乳化剤を使用する公知の方法及び乳化剤を実質的に使用しない方法、いわゆる、ソープフリー乳化重合法が挙げられ、電池性能の観点から、ソープフリー乳化重合法が好ましい。本開示のアクリル系ポリマーとしては、例えば、モノマー(A)及びモノマー(B)、並びに必要に応じてモノマー(C)を含有するモノマー混合物を乳化重合、好ましくはソープフリー乳化重合させてなるポリマーが挙げられる。
【0045】
乳化重合に用いられる乳化剤量は、結着性低下を抑制する観点から、乳化重合に用いられるモノマー全量に対して、0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が更に好ましく、実質的に0質量%がより更に好ましい。本開示において、乳化重合に用いられる乳化剤量は、前記重合工程における界面活性剤の使用量とすることができる。一又は複数の実施形態において、本開示のアクリル系ポリマーは、モノマー(A)及びモノマー(B)を含むモノマー混合物を乳化重合させてなり、本開示のイオン伝導層に含まれる乳化剤量は、アクリル系ポリマーに対して、0質量%以上0.05質量%以下が好ましく、0質量%以上0.02質量%以下がより好ましく、0質量%以上0.01質量%以下が更に好ましく、実質的に0質量%が更に好ましい。
【0046】
本開示のイオン伝導層は、上記アクリル系ポリマー以外に任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、接着剤、樹脂改質剤、金属塩、無機酸化物、固体電解質等が挙げられる。
【0047】
金属塩は、電池の支持電解質に使用されるアルカリ金属塩が好ましく、リチウムイオン電池で使用するリチウム塩がより好ましい。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi等が挙げられる。
【0048】
無機酸化物は、本開示の効果を損なわない範囲で、蓄電デバイスの安全性や強度を付与する目的で使用することができる。無機酸化物としては、例えば、アルミナ( 酸化アルミニウム)、マグネシア( 酸化マグネシウム)、酸化カルシウム、チタニア( 酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、タルク、珪石等が挙げられる。
【0049】
固体電解質はイオン伝導性(例えばリチウムイオン伝導性)を有する無機化合物を用いることができる。固体電解質としては、種類は特に制限されず、無機固体電解質および有機固体電解質をいずれも使用できるが、難燃性の観点から無機固体電解質であることが好ましい。無機固体電解質としては公知の材料を使用でき、たとえば、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質等が挙げられる。酸化物系固体電解質は、全述した無機酸化物を兼ねてもよい。
【0050】
本開示のイオン伝導層内を伝導するイオンは、金属イオンが好ましく、アルカリ金属イオンがより好ましく、リチウムイオンが更に好ましい。
【0051】
本開示のイオン伝導層は、蓄電デバイス内において、有機溶媒を保持していることが好ましい。前記有機溶媒は、イオンを可溶化する溶媒であることが好ましく、電解液であることがより好ましい。例えば、環状カーボネート類:エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびこれらの誘導体、鎖状カーボネート類:ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、およびこれらの誘導体、脂肪族カルボン酸エステル類:ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、およびこれらの誘導体、γ-ラクトン類:γ-ブチロラクトン、およびこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類およびγ-ラクトン類が好ましく、環状カーボネート類および鎖状カーボネート類がより好ましく、EC、PC、DMC、DEC、EMCが更に好ましい。有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
蓄電デバイス内でイオン伝導層に保持される有機溶媒の量は、イオン伝導性の観点から、イオン伝導層に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、10質量%以上がより更に好ましく、50質量%以上が特に好ましい。そして、電池の耐久性の観点から、10000質量%以下が好ましく、5000質量%以下がより好ましく、2000質量%以下が更に好ましく、1000質量%以下がより更に好ましく、500質量%以下が特に好ましい。
【0052】
[アクリル系ポリマー組成物]
本開示は、一態様において、本開示のアクリル系ポリマーを含む、イオン伝導層を形成するためのアクリル系ポリマー組成物(以下、「本開示のアクリル系ポリマー組成物」ともいう)に関する。
【0053】
本開示のアクリル系ポリマー組成物に含まれるアクリル系ポリマーの形態は粒子であることが好ましい。本開示のアクリル系ポリマー組成物中の本開示のアクリル系ポリマーの含有量は、ポリマーの製造および蓄電デバイスの性能の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。
【0054】
本開示のアクリル系ポリマー組成物は、一又は複数の実施形態において、極性媒体を含む。極性媒体は、アクリル系ポリマーを溶解又は分散できる液体であればよい。極性媒体としては、アクリル系ポリマーの製造と分散安定性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフランおよびジオキサンから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒、これら有機溶媒と水を含有する水性媒体、又は水が好ましく、水性媒体及び水がより好ましく、水が更に好ましい。水としては、イオン交換水等が挙げられる。
【0055】
[イオン伝導層の形成方法]
本開示のイオン伝導層を形成するための方法としては、一又は複数の実施形態において、本開示のアクリル系ポリマー組成物を含有するスラリー(以下、「本開示のイオン伝導層用スラリー」ともいう)を基材(例えば、セパレーター、電極、剥離フィルムなど)表面に塗布する工程(塗布工程)と、塗布したスラリーを乾燥してイオン伝導層を形成する工程(乾燥工程)と、を含む、イオン伝導層形成方法(以下、「本開示のイオン伝導層形成方法」ともいう)が挙げられる。
【0056】
本開示のイオン伝導層用スラリーに含まれるアクリル系ポリマーは粒子形状を有する。アクリル系ポリマーの粒子の平均粒子径は、電解液への親和性及び生産性の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましく、そして、生産性およびスラリーの安定性の観点から、1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.6μm以下が更に好ましく、0.5μm以下が更に好ましく、0.45μm以下が更に好ましい。本開示において、平均粒径は、レーザー回折散乱法によって測定される体積平均粒径(D50)であり、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において、累積体積が50%となる点の粒子径を意味する。体積平均粒径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0057】
本開示のイオン伝導層用スラリーに含まれるアクリル系ポリマーの形態としては、粉体であってもよいし、ポリマー粒子を媒体に分散させたポリマー粒子分散体(ポリマー分散液ともいう)であってもよい。前記媒体は、乳化重合で使用する媒体であってよく、好ましくは極性媒体であり、より好ましくは水性媒体であり、更に好ましくは水である。本開示のイオン伝導層用スラリーとしては、一又は複数の実施形態において、本開示のアクリル系ポリマーを媒体に分散させたポリマー分散液をそのまま使用してもよい。
【0058】
本開示のイオン伝導層用スラリー中のアクリル系ポリマーの含有量は、蓄電デバイス製造の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。
【0059】
本開示のイオン伝導層用スラリーは、本開示の効果を損なわない範囲で、上述した本開示のイオン伝導層の任意成分(接着剤、樹脂改質剤、金属塩、無機酸化物、固体電解質等)のほか、増粘剤、消泡剤、中和剤等をさらに含有してもよい。
増粘剤としては、例えば、増粘多糖類、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。中でも、ポリマー粒子のバインダー作用をアシストする観点から、カルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
【0060】
本開示のイオン伝導層用スラリーの製造方法は、一又は複数の実施形態において、モノマー(A)及びモノマー(B)、並びに必要に応じてモノマー(C)を含むモノマー混合物を重合させてポリマー粒子を得る重合工程を含むことができる。本開示のスラリーの製造方法の重合工程における、重合方法、重合に用いうる各成分の種類及びその使用量については、上述したアクリル系ポリマーの製造方法の重合工程と同様とすることができる。
【0061】
本開示のイオン伝導層形成方法における塗工工程において、本開示のイオン伝導層用スラリーの塗工法としては、特に限定はされず、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ダイコーター法、およびハケ塗り法等の方法が挙げられる。
【0062】
本開示のイオン伝導層形成方法における乾燥工程において、乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5~30分であり、乾燥温度は通常40~180℃である。
【0063】
本開示のイオン伝導層の形成は、一又は複数の実施形態において、アクリル系ポリマーを含有する膜を作製することにより行われる。アクリル系ポリマーを含有する膜の作製方法としては、上述した本開示のイオン伝導層形成方法が挙げられる。その他のアクリル系ポリマーを含有する膜の作製方法としては、例えば、アクリル系ポリマーを含む溶液又は分散液(スラリー)を基材であるセパレーターや電極等に塗布又は浸漬し、これを乾燥する方法、あるいは、アクリル系ポリマーを含む溶液又はスラリーを基材である剥離フィルム上に塗布、乾燥、成膜し、得られた膜を所定の場所に転写する方法が挙げられる。
【0064】
本開示のイオン伝導層の厚さは、目的に応じて設定することができ、蓄電デバイスの製造の容易性と電池特性の観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、70μm以下が更に好ましく、50μm以下が更に好ましい。
【0065】
[蓄電デバイス用部材]
本開示のイオン伝導層は、一又は複数の実施形態において、電解質、セパレーター、電極の表面保護層、固体電解質混合膜、樹脂層等の蓄電デバイス用部材に使用することができる。
すなわち、本開示は、一態様において、本開示のイオン伝導層を含有する、蓄電デバイス用部材(以下、「本開示の蓄電デバイス用部材」ともいう)に関する。本開示の蓄電デバイス用部材は、一又は複数の実施形態において、本開示のイオン伝導層を有する電解質層、本開示のイオン伝導層を有する電極、及び、本開示のイオン伝導層を有するセパレーターから選ばれる少なくとも1種である。
【0066】
本開示のイオン伝導層を有するセパレーター(以下、「本開示のイオン伝導層付セパレーター」ともいう)は、一又は複数の実施形態において、セパレーターの片面もしくは両面に、本開示のイオン伝導層を形成することにより得ることができる。
本開示のイオン伝導層付セパレーターの製造方法は、例えば、上述した本開示のイオン伝導層形成方法と同様にすることができる。
前記セパレーターは、多孔性を有するフィルムであり、多孔性ポリオレフィンフィルム、多孔性ポリオレフィンテレフタレートフィルム、多孔性ポリイミドフィルム、多孔性ポリエステルフィルム、多孔性セルロースフィルム、多孔性テフロン(登録商標)フィルム、不織布、紙等が挙げられる。
【0067】
本開示のイオン伝導層を有する電極(以下、「本開示のイオン伝導層付電極」ともいう)は、一又は複数の実施形態において、電極の表面に本開示のイオン伝導層を形成することにより得ることができる。電極は、蓄電デバイスにおける正極および負極であり、通常は、集電体と呼ばれる金属箔上の片面あるいは両面に電極活物質層が形成されてなる。両面に電極活物質層が形成されてなる電極(両面電極)は、両面ともに正極であってもよいし、両面ともに負極であってもよいし、一方の面が正極、他方の面が負極(バイポーラー電極)であってよい。電極活物質層は、活物質とバインダーと必要に応じて導電材等の成分を含有するものであり、イオン伝導層を有する電極とは、電極活物質層の表面に本開示のイオン伝導層を設けた電極である。
両面が正極又は負極である場合、両面のうち少なくともいずれか1面に本開示のイオン伝導層を有していてよい。
バイポーラー電極の場合、負極面と正極面のうち少なくともいずれか1面に本開示のイオン伝導層を有していてよい。
本開示のイオン伝導層付電極の製造方法としては、例えば、上述した本開示のイオン伝導層形成方法と同様にすることができる。
【0068】
[蓄電デバイス]
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用部材を有する蓄電デバイス(以下、「本開示の蓄電デバイス」ともいう)に関する。
本開示の蓄電デバイスは、一又は複数の実施形態において、少なくとも1つの正極と、少なくとも1つの負極と、必要に応じてバイポーラー電極とを有する蓄電デバイスであって、前記正極、負極、及びバイポーラー電極から選ばれる少なくとも1つが本開示のイオン伝導層を有する蓄電デバイスであってもよい。
【0069】
本開示の蓄電デバイスは、一又は複数の実施形態において、バイポーラー型電池であってよい。本開示のバイポーラー型電池は、一又は複数の実施形態において、少なくとも1面に正極活物質層を有する正極と、少なくとも1面に負極活物質層を有する負極が最外層に設けられ、前記正極と前記負極の間に、少なくとも1以上のバイポーラー電極が、セパレーターや電解質を介して正極の対面が負極となるように積層されており、正極と負極が電池内で直列に配置されている電池であり、電池内で対面する正極の負極の間の少なくとも1つの場所に本開示のイオン伝導層が形成されているバイポーラー型電池である。
【0070】
一又は複数の実施形態において、本開示の蓄電デバイス内におけるイオン伝導層中に電解液を保持することができる。電解液としては、例えば、環状および鎖状カーボネート類から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0071】
本開示の蓄電デバイス内におけるイオン伝導層の厚さは、蓄電デバイスの耐久性と電池特性の観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、70μm以下が更に好ましく、50μm以下が更に好ましい。
【実施例0072】
以下、実施例により本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0073】
1.ポリマー分散液の調製(実施例1~11及び比較例1~4)
表1に示す実施例1~11及び比較例1~4のポリマー分散液の調製には、下記原料を用いた。表1及び以下の実施例に用いた原料の略号は次の通りである。
【0074】
<モノマー(A)>(下記R1、R2及びX1は、式(I)中の記号を意味する)
MMA:メチルメタクリレート(和光純薬工業製)(R1:CH3、R2:CH3、X1:O)
EA:エチルアクリレート(和光純薬工業製)(R1:H、R2:C2H5、X1:O)
BA:ブチルアクリレート(和光純薬工業製)(R1:H、R2:C4H9、X1:O)
<モノマー(B)>(下記R3、R4及びX2は、式(II)中の記号を意味する)
M-90G(新中村化学製)(R3:CH3、X2:O、R4:(CH2CH2O)9CH3)
M-230G(新中村化学製)(R3:CH3、X2:O、R4:(CH2CH2O)23CH3)
AM-230G(新中村化学製)(R3:H、X2:O、R4:(CH2CH2O)23CH3)
DMAA:ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業製):(R3:H、X2:N(CH3)、R4:CH3)
QDM:メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(花王製):(R3:CH3、X2:O、R4:C2H4N+(CH2)3Cl―)
<モノマー(C)>(下記R11、R12、X3及びX4は、式(III)中の記号を意味する)
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート(和光純薬工業製)(R11及びR12:CH3、X3及びX4:O)
<モノマー(D)>
2-EHA:2エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業製)
<ポリマー>
SBR:スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン製、「BM-400B」、固形分40質量%)
PVDF-HFP:ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(Sigma-Aldrich製、average Mw ~455,000, average Mn ~110,000, pellets)
<重合開始剤>
APS:過硫酸アンモニウム(Sigma-Aldrich製)
V-50:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業製)
<溶媒>
NMP:N-メチルピロリドン(和光純薬工業製)
【0075】
(実施例1のアクリル系ポリマー分散液)
モノマー(A)としてEA 196g、モノマー(B)としてM-90G 4g、モノマー(C)としてEGDMA 3.90g[モノマー(A)及び(B)の合計モル数に対して1モル%]、並びにイオン交換水 340gを、内容量1Lのガラス製4つ口セパラブルフラスコに入れ、窒素雰囲気下で一定時間(0.5時間)攪拌した。そして、フラスコ内の反応溶液を70℃付近まで昇温した後、イオン交換水 10gにAPS 1gを溶解した重合開始剤溶液をフラスコ内に添加し、フラスコ内の反応溶液を70~75℃付近で6時間保持することで重合・熟成し、アクリル系ポリマー分散液を得た。その後、フラスコ内のアクリル系ポリマー分散液を室温まで冷却後、200メッシュ濾布を用いて凝集物を除去し、濃度が30質量%になるようにイオン交換水で希釈し、実施例1のアクリル系ポリマー分散液を得た。実施例1のアクリル系ポリマー分散液の調製に用いた各成分の量及び種類を表1~3に示す。さらに、前記凝集物の量により確認した実施例1のポリマー分散液の安定性(エマルション安定性)、および、実施例1のポリマー粒子の平均粒径の測定結果を表1~3に示す。
【0076】
(実施例2~5、7~11、比較例1~2のアクリル系ポリマー分散液)
表1~3に示す構成単位となるようモノマー種を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5、7~11及び比較例1~2のアクリル系ポリマー分散液を得た。ここで得たアクリル系ポリマー分散液の調製に用いた各成分の量及び種類を表1~3に示す。
【0077】
(実施例6のアクリル系ポリマー分散液)
表1~3に示す構成単位となるようモノマー種を変更したこと、およびAPSをV-50に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例6のアクリル系ポリマー分散液を得た。ここで得たアクリル系ポリマー分散液の調製に用いた各成分の量及び種類を表1~3に示す。
【0078】
(比較例3のポリマー分散液)
比較例3のポリマー分散液としては、SBRを用いた。
【0079】
(比較例4のポリマー分散液)
比較例4のポリマーとしては、PVDF-HFPを用いた。比較例4のポリマー分散液はPVDF-HEPをNMPで10質量%に溶解させたものを使用した。
【0080】
[ポリマー粒子の平均粒径の測定]
ポリマー粒子の平均粒径は、レーザー回折法の粒径測定器(堀場製作所製LA-920)を用いて、室温下、機器の所定の光量範囲になるまで分散媒(水)で希釈し、測定した。結果を表1~3に示した。なお、測定しなかったポリマーは、表中で「-」と示した。
【0081】
[ポリマー分散液の固形分濃度の測定]
ポリマー分散液の固形分濃度は、105℃で24時間乾燥し重量減量を測定することにより算出した。結果を表1~3に示した。
【0082】
[イオン伝導性の測定]
アルミ箔上にポリマーの分散液を、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗工し、40℃で8時間乾燥させた。直径16mmに打ち抜き後、更に50℃減圧下で更に8時間乾燥し、イオン伝導度測定用フィルム(イオン伝導層)を得た。
前記イオン伝導度測定用フィルムを2極式コインセル(宝泉株式会社「HSフラットセル」)上に載置した。次いで非水電解液として濃度1MのLiPF6溶液(溶媒:EC/DEC混合溶媒(体積比3/7))を注液し、セルを封止し、イオン伝導度測定用セルを組み立てた。
上記工程で得たイオン伝導度測定用セルをソーラトロン社製のインピーダンスゲインアナライザー(FRA)「1260A」を用いて、交流インピーダンス(10mV、周波数0.05Hz~100KHz)の測定を行った。得られたコールコールプロットの円弧幅より抵抗値を算出し、そこからイオン伝導度(mS/cm)を算出した。結果を表1~3に示した。イオン伝導度が大きいほど、イオン伝導層として優れると判断できる。
【0083】
[エマルション安定性]
前記アクリル系ポリマー分散液の製造における凝集物除去工程において200メッシュ濾布上に残留した凝集物および反応容器内に付着した凝集物を回収し、105℃で24時間乾燥して全凝集物の乾燥重量を算出し、得られたポリマー(固形分)に対して、0.5%未満であればA、0.5以上1.5%未満であればB、1.5%以上であればCとして表1~3に示した。
【0084】
2.実施例1~11及び比較例1~4のポリマー分散液を用いた蓄電デバイスの作製
蓄電デバイスの一種であるリチウムイオン二次電池を以下のようにして作製した。
【0085】
[負極の作製]
負極ペーストに用いた材料は以下の通りである。
・負極活物質:グラファイト、昭和電工製、「AF-C」
・負極導電材:カーボンファイバー、昭和電工製、「VGCF-H」
・負極バインダー:SBR
・負極増粘剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ダイセル製、「#2200」
【0086】
まず、負極活物質 288g、負極導電材 3g及び負極増粘剤 3gを混合した後、最終固形分濃度が50~55質量%となるのに必要な量の蒸留水を徐々に加えてディスパーを用いて混練した。そして、混練物に負極バインダーをポリマー固形分として6gを加え、さらにディスパーで混練を行った。その後、撹拌脱泡機(シンキー社製「あわとり練太郎」)で脱泡を行い、150メッシュ濾布で粗大粒子を除去し、負極ペーストを得た。得られた負極ペーストを集電体である銅箔上に乾燥後80g/m2となるように厚さを調節してバーコーターで塗工した。塗膜は、送風乾燥器を用いて80℃で5分乾燥し、さらに150℃で10分乾燥した。その後、ロールプレスにより電極密度を1.3~1.4g/cm3に調整し、ドライルームにて1晩以上放置し、負極合材層を有する負極を作製した。
【0087】
[イオン伝導層付負極Aの作製]
実施例1~5、7~10及び比較例1~3のポリマー分散液に、1.5質量%CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム、ダイセル製、#2200)水溶液を、ポリマー分散液/CMC水溶液の固形分質量比が9/1となるように混合した後、全固形分濃度が10質量%となるようイオン交換水で希釈し、イオン伝導層用スラリーを得た。
実施例6、比較例4のポリマー分散液はそのままイオン伝導層用スラリーとして使用した。
前記負極の合材層表面に前記イオン伝導層用スラリーを、乾燥後の厚さが20μmになるようにアプリケーターで塗工し、60℃で10分乾燥させ、さらにドライルームにて1晩以上放置し、イオン伝導層を有する負極A(表1)を得た。
【0088】
[イオン伝導層付セパレーターAの作製]
実施例1~4、7~11および比較例1~3で得られたポリマー分散液に、1.5質量%CMC水溶液を、ポリマー分散液/CMC水溶液の固形分質量比が9/1となるように混合した後、全固形分濃度が10質量%となるようイオン交換水で希釈し、イオン伝導層用スラリーを得た。
実施例6、比較例4のポリマー分散液はそのままイオン伝導層用スラリーとして使用した。
セパレーター(多孔性ポリエチレン)の片面に前記イオン伝導層用スラリーを、乾燥後の厚さが20μmになるようにアプリケーターで塗工し、60℃で10分乾燥させ、さらにドライルームにて1晩以上放置し、イオン伝導層を有するセパレーターA(表2)を得た。
【0089】
[イオン伝導層付セパレーターBの作製]
実施例1~5、7~10および比較例1~3で得られたポリマー分散液に、1.5質量%CMC水溶液、およびアルミナフィラー(Alfer Aesar製 酸化アルミニウム、alpha-phase,99%, metal basis)を、ポリマー分散液/CMC水溶液/アルミナフィラーの固形分質量比が9/1/90となるように混合した後、全固形分濃度が40質量%となるようイオン交換水で希釈し、イオン伝導層用スラリーを得た。
実施例6のポリマー分散液はアルミナフィラーを固形分質量比10/90となるように混合した後、全固形分濃度が40質量%となるようにイオン交換水で希釈し、イオン伝導層用スラリーを得た。
比較例4のポリマー分散液はアルミナフィラーを固形分質量比10/90となるように混合した後、全固形分濃度が40質量%となるようにNMPで希釈し、イオン伝導層用スラリーを得た。
セパレーター(多孔性ポリエチレン)の片面に前記イオン伝導層用スラリーを、乾燥後の厚さが20μmになるようにアプリケーターで塗工し、60℃で10分乾燥させ、さらにドライルームにて1晩以上放置し、イオン伝導層を有するセパレーターB(表3)を得た。
【0090】
〔イオン伝導層の平均厚さ〕
イオン伝導層を付与する前の負極の平均厚さと、上記の方法で得た負極Aの平均厚さとの差をイオン伝導接着層の平均厚さ(イオン伝導層の設定平均厚さ)とした。平均厚さは、高精度膜厚計(東精エンジニアリング)を用いて測定し、5点測定した平均値とした。結果を表1~3に示した。
【0091】
[イオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池評価セルの作製]
端子取り付け部分を残して、イオン伝導層付負極Aを45mm×45mmに、リチウム箔を40mm×40mmに打ち抜き、それぞれ端子を取り付けた。50mm×50mmに打ち抜いたセパレーターを負極の活物質層側に重ね、更に前記リチウム箔を重ねた。それらをアルミ包材ラミネートフィルムに挟んで、端子側の辺を除く3辺を熱融着により閉じた。
端子側の開口部より下記電解液を注入し、内部を真空状態にして端子側も熱融着してセルを密閉し、リチウムイオン二次電池を作製した。電解液には、濃度1MのLiPF6溶液(溶媒:EC/DEC混合溶媒(体積比3/7))に炭酸ビニレン(VC)を1質量%添加したものを用いた。
以上のようにして、イオン伝導層の場所が負極活物質層の表面のみである、イオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池評価セルを作製した。
なお、比較例4のポリマー分散液を用いたイオン伝導層付負極Aは、打ち抜きの際にイオン伝導層が剥がれたため評価できなかった。
【0092】
[イオン伝導層付セパレーターAを有するリチウムイオン二次電池評価セルの作製]
イオン伝導層付負極Aを前記負極とし、セパレーターを前記イオン伝導層付セパレーターAとし、セパレーターAのイオン伝導層を有しない面を負極合材層に重ねたこと以外は、前記イオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池評価セルと同様にして、イオン伝導層の場所がセパレーターの片面のみである、イオン伝導層付セパレーターAを有するリチウムイオン二次電池評価セルを作製した。
なお、比較例4のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付セパレーターAは、打ち抜きの際にイオン伝導層が剥がれたため評価できなかった。
【0093】
[イオン伝導層付セパレーターBを有するリチウムイオン二次電池評価セルの作製]
イオン伝導層付セパレーターAをイオン伝導層付セパレーターBとしたこと以外は、前記イオン伝導層付セパレーターAを有するリチウムイオン二次電池評価セルと同様にして、イオン伝導層の場所がセパレーターの片面のみである、イオン伝導層付セパレーターBを有するリチウムイオン二次電池評価セルを作製した。
なお、比較例4のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付セパレーターBは、打ち抜きの際にイオン伝導層が剥がれたため評価できなかった。
【0094】
<容量維持率>
作製したリチウムイオン二次電池(イオン伝導層付負極A、イオン伝導層付セパレーターA、又は、イオン伝導層付セパレーターBを有するリチウムイオン二次電池)評価セルを用いて、25℃の環境下で、電圧0Vまで電流値0.2Cで定電流充電した後、0V一定で0.05Cになるまで定電圧充電(CC/CV)し、続いて電流値0.2Cで、電圧3.0Vまで定電流放電した。この充放電を3回繰り返してコンディショニングを完了したのち、以下の電池評価を行った。
温度25℃の環境下で、電圧0Vまで、0.2Cの定電流充電を実施し、このときの充電容量をC0と定義した。その後、同様に0.2Cの定電流にてCC-CV充電し、電流値0.2Cで、電圧3.0Vまで定電流放電したのち、3.0Cの定電流にて0Vまで充電を実施し、このときの充電容量をC1と定義した。そして、レート特性として、C=(C1/C0)×100(%)で示される容量維持率(%)を求めた。この容量維持率Cの値は大きいほど電池特性に優れることを示す。結果を表1~3に示した。
【0095】
<サイクル耐久性>
実施例1~10及び比較例1~4のイオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池評価セルを用いて、前記コンディショニングを完了した後、25℃の環境下で、電圧0Vまで電流値0.2Cで定電流充電した後、0V固定で0.05Cになるまで定電圧充電した。放電は、電流値0.2Cで、電圧3.0Vまで定電流放電した。この充放電を1サイクルとして100サイクル繰り返した。サイクル耐久性は、1サイクル目の充電容量C0に対する100サイクル後の充電容量C100の比(サイクル容量維持率)として求めた。結果を表1に示した。表1において、容量維持率が80%以上はA、60%以上がB、60%未満はCと表記した。
【0096】
【0097】
表1に示すように、実施例1~10のポリマー分散液を用いたイオン伝導層は、比較例1~4に比べて、イオン伝導性に優れていることがわかった。イオン伝導性が優れていると電池の内部抵抗の増加を抑制することができる。
表1に示すように、実施例1~10のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池は、比較例1~4のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率が同等又は低下が抑制されており、電池特性が向上していることがわかった
さらに、実施例1~10のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付負極Aを有するリチウムイオン二次電池は、比較例1~4に比べて、サイクル耐久性が同等又は優れていることがわかった。
【0098】
【0099】
表2に示すように、実施例1~4、6~11のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付セパレーターAを有するリチウムイオン二次電池は、比較例1~4のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付セパレーターAを有するリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率の低下が抑制されており、電池特性が向上していることがわかった。
【0100】
【0101】
表3に示すように、実施例1~10のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付セパレーターBを有するリチウムイオン二次電池は、比較例1~4のポリマー分散液を用いて作製したイオン伝導層付セパレーターBを有するリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率の低下が抑制されており、電池特性が向上していることがわかった。
【0102】
[バイポーラー型電池の作製例]
実施例1のポリマー分散液を用いて
図1に示すバイポーラー型電池を以下の方法により作製した。
【0103】
(正極の作製)
正極ペーストに用いた材料の略号は次の通りである。
・正極活物質:NMC111(日本化学工業製)、組成:LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(D50:6.5μm、BET比表面積:0.7m2/g)
・正極導電材:アセチレンブラック(電気化学工業製、品名:デンカブラックHS-100)
・正極バインダー:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(クレハ製、L#7208;8%NMP溶液)
【0104】
まず、正極活物質 282g、正極導電材 9g、及び正極バインダー 9gを、非水系溶媒としてNMPを用いて混合し、正極ペーストを調整した。ここで、正極活物質、正極導電材及び正極バインダーの質量比率は94:3:3(固形分換算)とした。上記混合には、ディスパーを用いた混練を行った。作製した正極ペーストを集電体であるアルミ箔上に乾燥後125g/m2となるように厚さを調節してバーコーターで塗工した。塗膜は、送風乾燥器を用いて100℃で5分乾燥し、さらに150℃で10分乾燥した。その後、ロールプレスにより電極密度を2.8~3.2g/cm3に調整し、ドライルームにて1晩以上放置し、正極合材層を有する正極を作製した。
【0105】
(イオン伝導層を有する負極及びバイポーラー電極の作製)
前記リチウムイオン電池の負極と同様の方法により、負極を作製した。
前記リチウムイオン電池の作製に用いた負極ペーストと同様の方法により得た負極ペーストを集電体であるステンレス箔の片面に乾燥後80g/m2となるように厚さを調節してバーコーターで塗工した。塗膜は、送風乾燥器を用いて80℃で5分乾燥し、さらに150℃で10分乾燥した。次に、前記正極ペーストを前記箔の他面に乾燥後125g/m2となるように厚さを調節してバーコーターで塗工した。塗膜は、送風乾燥器を用いて100℃で5分乾燥し、バイポーラー電極を得た。
実施例1のポリマー分散液に、酸化物系固体電解質(オハラ製,Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2、商品名LICGC粉末)を、固形分重量比10/90となるように混合した後、全固形分濃度が30質量%となるようエタノールで希釈し均一混合して、イオン伝導層用スラリーを得た。
前記負極およびバイポーラー型電極の負極上に、上記のイオン伝導層用スラリーを、乾燥後の厚さが40μmになるように塗工し、60℃で10分乾燥させ、さらにドライルームにて1晩以上放置し、イオン伝導層Cを有する負極Cおよびバイポーラー型電極Cを得た。
【0106】
(バイポーラー型電池の作製)
端子取り付け部分を残して、前記負極Cおよび正極を40mm×40mmに打ち抜き、それぞれ端子を取り付けた。バイポーラー型電極Cを40mm×40mmに2枚打ち抜き、最外層を負極Cおよび正極とし、その間に2枚のバイポーラー型電極Cを、全て負極と正極で向き合うように重ね、積層電極を作製した。層間に残留する空隙をなくすために真空下で積層電極をプレスした後、電解液に8時間浸漬して電解液を十分に電極及びイオン伝導層に含侵させ、取り出した積層電極の表面をふき取り、アルミ包材ラミネートフィルムに挟んで、端子側の辺を除く3辺を熱融着により閉じた。内部を真空状態にして端子側も熱融着してセルを密閉し、
図1に示すバイポーラー型のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液には、濃度1MのLiPF
6溶液(溶媒:EC/DEC混合溶媒(体積比3/7))に炭酸ビニレン(VC)を1質量%添加したものを用いた。
以上説明したとおり、高いイオン伝導性を有する本開示のイオン伝導層は、リチウムイオン電池を始め、リチウムイオンキャパシタやその他の蓄電デバイスにおいて有用である。
1 負極集電体、2 負極活物質、3 イオン伝導層C、4 正極活物質、5 バイポーラー型電極集電体、6 正極集電体、7 負極C、8 正極、9 バイポーラー型電極C、10 集電タブ、11 アルミ包材ラミネートフィルム、12 積層部分