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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163592
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20221019BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20221019BHJP
   G01N 29/04 20060101ALN20221019BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/44
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068608
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】青山 吾朗
(72)【発明者】
【氏名】新間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
(72)【発明者】
【氏名】大城戸 忍
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB01
2G047AC01
2G047BA03
2G047BB01
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC07
2G047BC18
2G047GA14
2G047GF16
2G047GG20
2G047GG28
2G047GG30
2G047GG33
2G047GG47
(57)【要約】
【課題】垂直探触子の直下以外の位置に対しても減肉や欠陥の有無の検査を可能とする検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】配管減肉検査装置1の信号処理器300は、垂直探触子10,11のうちの1つの垂直探触子10により配管100の内面に対して垂直に超音波を送信する際に、垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射され、配管100の内面および表面で反射を繰り返して伝播する音波(拡散波21)を超音波を送信したものとは別の垂直探触子11で受信して、当該別の垂直探触子11で受信した音波(拡散波21)を解析処理することで、垂直探触子10の直下以外の部分を検査する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の非破壊検査に用いられる検査装置であって、
前記検査対象物の表面に対して垂直に取り付けられた超音波を送受信する複数の探触子と、
信号線と、
信号処理器と、を備え、
前記信号処理器は、前記探触子のうちの1つの探触子により前記検査対象物の内面に対して垂直に超音波を送信する際に、垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射され、前記検査対象物の内面および表面で反射を繰り返して伝播する音波を超音波を送信したものとは別の前記探触子で受信して、当該別の前記探触子で受信した前記音波を解析処理する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置において、
前記信号処理器は、予め欠陥がない条件において前記別の前記探触子で受信した前記音波の波形を記憶する記憶部を有している
ことを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検査装置において、
前記信号処理器は、前記検査対象物に減肉が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、前記波形の極大値が出現する時間軸方向の位置の変化として検知する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項2に記載の検査装置において、
前記信号処理器は、前記検査対象物に欠陥が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、前記波形の振幅の変化として検知する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の検査装置において、
複数の前記探触子は、前記検査対象物の表面に固定されている
ことを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の検査装置において、
複数の前記探触子は、格子状に規則的に配置されている
ことを特徴とする検査装置。
【請求項7】
請求項1に記載の検査装置において、
複数の前記探触子に接続されており、無線で信号を送受信する巻線を更に備えた
ことを特徴とする検査装置。
【請求項8】
検査対象物を破壊せずに検査する検査方法であって、
超音波を送受信する複数の探触子を前記検査対象物の表面に対して垂直に取り付け、
前記探触子のうちの1つの探触子により前記検査対象物の内面に対して垂直に超音波を送信する際に、垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射され、前記検査対象物の内面および表面で反射を繰り返して伝播する音波を超音波を送信したものとは別の前記探触子で受信して、当該別の前記探触子で受信した前記音波を解析処理する工程を前記探触子を変えて繰り返す
ことを特徴とする検査方法。
【請求項9】
請求項8に記載の検査方法において、
欠陥がない条件において前記別の前記探触子で受信した前記音波の波形を予め記憶しておき、
前記検査対象物に減肉が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、前記波形の極大値が出現する時間軸方向の位置の変化として検知する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項10】
請求項8に記載の検査方法において、
欠陥がない条件において前記別の前記探触子で受信した前記音波の波形を予め記憶しておき、
前記検査対象物に欠陥が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、前記波形の振幅の変化として検知する
ことを特徴とする検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントや火力プラント等における配管等の構造物に生じる減肉や欠陥の有無の検査を行う検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査部位に補強板などの障害物があっても、積層体の層間剥離を簡便且つ明瞭に検出可能で、広い検査範囲も短時間に検査可能な剥離検査方法および剥離検査装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1には、「複数の部材が積層した積層体の一側に配置したセンサから超音波を入射させると共に積層体内を伝搬した超音波を受信し、受信した超音波を評価することにより層間剥離の有無を検査する積層体の剥離検査方法であって、センサは、超音波を積層体に所定の屈折角で入射させる送信探触子と、複数の部材の界面での反射を繰り返して伝搬した伝搬波を受信する受信探触子と、送信探触子と受信探触子とを所定の間隔をおいて保持する探触子保持手段を備え、送信探触子および受信探触子を設定した探触子間隔で探触子保持手段により積層体の健全部に配置して、健全部を伝搬した伝搬波を受信し、受信した伝搬波のエコー高さが所定値以上で検知される検知長さを基準検知長さとして求め、送信探触子および受信探触子を設定した探触子間隔と同一間隔で探触子保持手段により積層体の検査対象部を挟んで配置して、検査対象部を伝搬した伝搬波を受信し、受信した伝搬波のエコー高さが所定値以上で検知される検知長さを計測し、計測した検知長さと基準検知長さを比較することにより検査対象部における層間剥離の有無を検査する」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6182236号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波等を利用する非破壊検査は、対象物の劣化の有無等をそのままの状態で検査できるほか、検査に要するコストが低く、適用が容易等の理由から、幅広い分野で活用されている。例えば、原子力プラントや火力プラント等では、定期検査において、超音波によるき裂検査や肉厚検査が行われ、配管や容器等の健全性が確認されている。
【0006】
超音波による検査では、検査対象となる箇所に超音波探触子を接触させる必要があるが、原子力プラントや火力プラントなどの配管や容器の大半は保温材で覆われている。このため、検査に先立って保温材を解体し、また検査終了後に保温材を再施工することが必要となる。
【0007】
また、検査対象箇所が高所の場合には、保温材の解体、施工に加え、足場の組み立ても必要となる。特に原子力プラントでは、定期検査の対象となる配管や容器が多数存在することから、検査を完了させるための労力と時間も必然的に多く必要となっている。
【0008】
上述の特許文献1には、検査部位に補強板などの障害物があっても、広い検査範囲も短時間に検査可能な剥離検査方法が記載されている。しかし特許文献1では、探触子を走査させる使用方法が想定されており、配管や容器の検査を行うためには、保温材の解体が必須である。
【0009】
このように、原子力プラントや火力プラント等で超音波等による非破壊検査を行うには、検査対象となる配管や容器の保温材を解体し、また検査終了後に保温材を再施工することが必要となる。
【0010】
これに対し、保温材の解体を不要とし、プラント運転中の検査を可能とするために、超音波を送受信する探触子を検査対象物に固定する方法があるが、特に垂直探傷の場合には、あらかじめ探触子を設置した箇所以外の場所を検査することは困難であり、より精度の高い検査を行うためには更なる改善が必要である。
【0011】
本発明の目的は、垂直探触子の直下以外の位置に対しても減肉や欠陥の有無の検査を可能とする検査装置および検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、検査対象物の非破壊検査に用いられる検査装置であって、前記検査対象物の表面に対して垂直に取り付けられた超音波を送受信する複数の探触子と、信号線と、信号処理器と、を備え、前記信号処理器は、前記探触子のうちの1つの探触子により前記検査対象物の内面に対して垂直に超音波を送信する際に、垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射され、前記検査対象物の内面および表面で反射を繰り返して伝播する音波を超音波を送信したものとは別の前記探触子で受信して、当該別の前記探触子で受信した前記音波を解析処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、垂直探触子の直下以外の位置に対しても減肉や欠陥の有無の検査が可能となる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施例における配管減肉検査装置の探触子配置を示す上面図。
図2】第1実施例の配管減肉検査装置の全様を示す概略断面図。
図3】第1実施例の配管減肉検査装置での信号処理器の機能を示すブロック図。
図4】円形音源の指向特性の一例を示したグラフ図。
図5】第1実施例の配管減肉検査装置での超音波波形収集装置で検出される多重反射波形の一例を示すグラフ。
図6】第1実施例の配管減肉検査装置の全様を示す概略軸方向断面図。
図7】本発明の第2実施例に係る配管減肉検査装置の全様を示す上面図。
図8】第2実施例に係る配管減肉検査装置の全様を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の検査装置および検査方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
以下の実施例では、検査装置として、配管の減肉や欠陥の検査を行うための配管減肉検査装置を例に示すが、本発明の検査装置および検査方法はこれに限定されず、多種多様な構造物の検査に適用することができる。
【0017】
<第1実施例>
本発明の検査装置および検査方法の第1実施例について図1乃至図6を用いて説明する。
【0018】
最初に、配管減肉検査装置の全体構成について図1および図2を用いて説明する。図1は、本実施例の配管減肉検査装置の概要を示す上面図である。図2は配管減肉検査装置の全様を示す概略断面図である。
【0019】
配管減肉検査装置1は、配管100の非破壊検査に用いられる装置であり、本実施例では、配管100の減肉の有無や欠陥の有無を検査するために用いられる。
【0020】
図1に示すように、配管減肉検査装置1では、複数の垂直探触子10,11が、検査対象となる配管100の表面に対して格子状に規則的に配置されている。
【0021】
ここで、垂直探触子10と垂直探触子11は同じ構造からなる、超音波を送受信する機器である。しかし、本実施例では、配管減肉検査装置1を使用する中でのある特定のタイミングでは役割が異なるため、符号を区別して表示しているものである。
【0022】
垂直探触子10,11は、プラントの運転中も常時使用できるようにするため、耐熱性を有し、音波を透過することが可能な接着剤などで配管100の表面に対して垂直に固定されている。
【0023】
図1では、縦方向、横方向に対して三行、三列に九個の垂直探触子10,11が図示されているが、配管100の検査対象となる領域の大きさに応じて、垂直探触子10,11の数は増減されて配置されるものであり、三行×三列に限定されるものではない。
【0024】
また、検査対象となる配管100は、プラントの系統における使用箇所に応じてその口径や厚さは様々であり、図1に破線で示した格子は、特定の長さに限定されるものではなく、配管100の口径や厚さに適した寸法に適宜変更されて使用される。
【0025】
垂直探触子10,11の配置に関する指針としては、例えば『日本機械学会 発電用原子力設備規格 沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格(2006年度版)』などがある。この規格では、測定ピッチおよび下流側直管部測定長さについて、「配管口径 125A以下 測定ピッチ 円周方向 4点以上、軸方向2Dまたは100mmの小さい方 配管口径 125Aを超えるもの 円周方向 8点以上、軸方向100mm」との記載がある。
【0026】
従って、図1に示す格子の寸法は、上記規格を満たすように、例えば20mm幅、50mm幅などで設定することができるが、様々な検査対象の規格に応じて適宜変更可能である。
【0027】
複数の垂直探触子10,11は、検査対象となる配管100に対して、それぞれの中心軸が、配管100の表面とほぼ垂直となるように固定されている。
【0028】
各垂直探触子10,11それぞれには信号線200が接続され、それぞれの信号線200は信号処理器300へと接続されている。
【0029】
図3は、信号処理器300の機能を示すブロック図である。図3に示すように、各垂直探触子10,11に接続された信号線200は、まず信号処理器300内の切り替えスイッチ310に接続される。
【0030】
切り替えスイッチ310は出口側に二つの回路を有しており、一方はパルサーレシーバー330に接続される。もう一方は、複数の入力を1つの回路に接続するマルチプレクサ320を介して、増幅器340に接続される。増幅器340の出力は、超音波波形収集装置350、波形記憶装置360、波形演算装置370などに接続される。
【0031】
本発明による配管減肉検査装置の動作を図1乃至図3を用いて説明する。
【0032】
図1に示した中央に設置された垂直探触子10は、図3に示す切り替えスイッチ310により、パルサーレシーバー330に接続されている。パルサーレシーバー330からは、垂直探触子10に対してパルス状の電圧が印加される。これにより、垂直探触子10からは、図2の配管100の水平方向中央付近の矢印記号で示すように、配管100の内面に向かってパルス状の音波20が放射される。
【0033】
配管100内部の音速は、その材質や検査時の温度等から具体的な値を知ることができるので、配管100の内面で反射された音波が受信されるまでの時間を計測することにより、垂直探触子10を設置した箇所の配管100の厚さを計測することができる。この厚さの計測結果を、過去の計測結果と比較することで、配管100に減肉が発生しているか否かを正確に把握することができる。
【0034】
ここで、垂直探触子10によって配管100の底面に垂直な方向の音波20が生成される際には、垂直方向以外に、円錐状の方向にも音波が放射される。図4は、円形音源の指向特性の一例を示したグラフである。
【0035】
図4に示すグラフ中、垂直探触子10の垂直方向である0°方向の指向係数を0[dB]としたとき、角度が大きくなるに従って指向係数が減少する様子が示されている。
【0036】
更に、図4に示すように、垂直探触子10からは、配管100の底面に垂直な方向の音波20だけでなく、垂直探触子10と配管100とを結ぶ垂線に対して斜めの方向(約30度方向や約60度方向)に対しても、指向係数に応じた音波が放射されている。本明細書中では、簡単のために垂線に対して斜めの方向に対して放射される音波を拡散波21と呼称することにする。
【0037】
拡散波21の放射は、水平面において特定の方向に限定されるものではないので、図1の波状の矢印で示すように、垂直探触子10から四方に伝播する。このため、垂直探触子10から放射された拡散波21は、垂直探触子10の周辺に設置されている垂直探触子11で検出できる。
【0038】
拡散波21が配管100内部を伝播する様子は、図2に示されている。いろいろな角度で放射された拡散波21は、配管100内面と配管100外面との間で反射を繰り返す、いわゆる多重反射により垂直探触子11に到達する。図2では、配管100の内部での反射回数が一回から四回までの伝播経路を示している。図2では省略しているが、さらに多数回反射を繰り返して伝播する拡散波21も存在する。
【0039】
本実施例では、この拡散波21を利用するものとする。具体的には、信号処理器300は、垂直探触子10,11のうちの1つの垂直探触子10により配管100の内面に対して垂直に超音波を送信する際に、垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射され、配管100の内面および表面で反射を繰り返して伝播する音波(拡散波21)を超音波を送信したものとは別の垂直探触子11で受信して、当該別の垂直探触子11で受信した音波(拡散波21)を解析処理することで、垂直探触子10の直下以外の部分を検査する。以下、次に、図3を用いて信号処理器300の動作について説明する。
【0040】
信号処理器300は、配管100の厚さを正確に計測するため、垂直探傷として使用する垂直探触子10を順次切り替える機能を有している。垂直探傷を行う際は、垂直探触子10は切り替えスイッチ310によりパルサーレシーバー330に接続される。
【0041】
その他の垂直探触子11のうち、垂直探触子10から放出される拡散波21を受信することが望まれる垂直探触子11は、順次、マルチプレクサ320によって増幅器340、超音波波形収集装置350に接続される。拡散波21を受信することが望まれる垂直探触子11は、例えば超音波を発信する垂直探触子10の周囲に配置される垂直探触子11、図1であれば8個の垂直探触子11とするが、更に周囲の垂直探触子としてもよいし、縦横に隣接する垂直探触子に限定してもよい。
【0042】
超音波波形収集装置350で得られた拡散波21の波形は、必要に応じて波形記憶装置360に保存される。
【0043】
特に、本発明による配管減肉検査装置1の設置段階においては、配管の減肉の進展にともなう音波の波形の変化を把握するために、予め欠陥がない条件(初期状態)の波形として、必要なすべての音波20(垂直探触子10により受信される音波)に加えて、拡散波21(別の垂直探触子11で受信される音波)それぞれを波形記憶装置360に記録しておく。
【0044】
図5は、超音波波形収集装置350で検出される拡散波21の波形の一例を示すグラフである。図5中、丸印で示した点は配管100の内面で複数回反射して周辺の垂直探触子11で検出された拡散波21の極大値である。
【0045】
図5に示すように、多重反射は、配管100の内面で1回、2回、3回など、順次反射回数が増えるほど、周辺の垂直探触子11へ到達する伝播経路が長くなる。
【0046】
より具体的には、垂直探触子10と垂直探触子11の間隔をL、配管100の厚さをt、配管100の内面での反射回数をnとしたとき、多重反射による伝播経路の距離d(n)は、d(n)=2√{(L/2)+(nt)}として計算される。
【0047】
すなわち、反射回数nが増加するほど伝播経路の距離d(n)が長くなるため、反射回数nが多い拡散波21ほど垂直探触子11では遅れて検出されるようになる。
【0048】
したがって、図5中に丸印で示した拡散波21の極大値は、時間軸方向の右側ほど反射回数nが多い拡散波21であることを示している。拡散波21の極大値における振幅は、拡散波21が放射された角度に応じた指向係数によって増減するほか、多重反射を繰り返すことによる減衰の影響により変化する。
【0049】
垂直探触子10と垂直探触子11の間の部分において、配管100が腐食により厚さが薄くなったり、傷などが生じた場合には、多重反射により伝播する音波に変化が生じる。
【0050】
単純に配管100の厚さが薄くなった場合には、多重反射の伝播経路が減少するため、図5の丸印で示された極大値が時間軸方向の小さい方向(グラフの左側)へ移動する。
【0051】
したがって、信号処理器300は、初期段階に取得した波形と極大値の時間軸方向の位置を比較して、配管100に減肉が発生している場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、波形の極大値が出現する時間軸方向の位置の変化として検知する。これにより、垂直探触子10直下の厚さだけでなく、垂直探触子10と垂直探触子11との間の部分における配管100の厚さの変化を検出することができる。
【0052】
また、配管100の内面にひび割れなどの欠陥が生じた場合には、欠陥により音波の伝播が阻害されるなどにより、周辺の垂直探触子11で検出される音波の強度、すなわち拡散波21の振幅が減少する。
【0053】
したがって、信号処理器300は、初期段階に取得した波形と波形の振幅を比較して、配管100に欠陥が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、波形の振幅の変化として検知する。これにより、垂直探触子10と垂直探触子11との間に生じた配管100内の欠陥も検出することができる。
【0054】
本実施例における配管減肉検査装置1においては、配管100の厚さの変化や欠陥の検知に関しては、図1の破線で示した、垂直探触子10,11を結ぶ経路上の感度が高いが、図1の8つの垂直探触子11の外側に配置された垂直探触子を利用することで、図1の破線以外の部分に関しても検査範囲を広げることができる。
【0055】
また、図1の破線部分に関しても、順次、両端の垂直探触子11が垂直探触子10に設定されて垂直探傷の音波20を送信して、先に垂直探触子10として機能した垂直探触子が垂直探触子11として機能することになるので、少なくとも格子それぞれの辺に対して二回以上検査が行われるため、配管100の厚さの変化や欠陥の検出精度を高くすることができる。
【0056】
なお、多重反射を繰り替えす回数が多いほど、周辺の垂直探触子11に拡散波21が到達するまでの経路長が長くなり、拡散波21の到達に要する時間は長くなるので、超音波波形収集装置350は、パルサーレシーバー330に比べて長時間の波形を記録できる機能を有することが望ましい。
【0057】
図6は、垂直探触子10,11が配管100に設置された状態を示す、配管100の軸方向の断面図である。ただし、配管100は円周方向の一部のみを表示している。
【0058】
図6に示すように、垂直探触子10が垂直探傷を行う場合には、円周方向に対しても、垂直方向の音波20だけでなく、周辺方向に拡散波21が放射され、配管の内面と表面との間で多重反射を繰り返すことで、垂直探触子11に拡散波21が伝播する。これにより、垂直探触子10と垂直探触子11の間の部分においても、同様の方法により、減肉や欠陥を検出することができる。
【0059】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0060】
上述した本発明の第1実施例の配管減肉検査装置1は、配管100の非破壊検査に用いられる装置であり、配管100の表面に対して垂直に取り付けられた超音波を送受信する複数の垂直探触子10,11と、信号線200と、信号処理器300と、を備え、信号処理器300は、垂直探触子10,11のうちの1つの垂直探触子10により配管100の内面に対して垂直に超音波を送信する際に、垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射され、配管100の内面および表面で反射を繰り返して伝播する音波(拡散波21)を超音波を送信したものとは別の垂直探触子11で受信して、当該別の垂直探触子11で受信した音波(拡散波21)を解析処理するものである。
【0061】
このように、複数の垂直探触子10,11のうちの1つが真下に音波20を放射して測定対象の厚さを計測する際に、副次的に発生する側方への音波(拡散波21)の多重反射を隣接する垂直探触子11で受信することを異なる垂直探触子10,11で繰り返すことによって、配管100や容器等の健全性を確認する際に、測定対象に取り付けた垂直探触子10の直下の厚さの変化が測定できるだけでなく、各々の垂直探触子10,11の間の区間に関しても厚さの変化や欠陥の有無を把握することができる。
【0062】
従って、垂直探触子を予め検査対象物に複数配置しておくだけで検査対象物の減肉や欠陥の有無を検査でき、探触子の操作が必要でなくなることから、配管100や容器の検査を行うための保温材の解体等が不要となる。そのため、原子力プラントや火力プラント等が運転中であっても配管等の検査が可能となるとともに、いわゆるオンライン検査のために所定の位置に固定された複数の探触子を活用し、より広い範囲の検査を実現することができるようになる。
【0063】
また、信号処理器300は、予め欠陥がない条件において別の垂直探触子11で受信した音波(拡散波21)の波形を記憶する波形記憶装置360を有しているため、減肉や欠陥の有無を速やかに判別することができるようになる。
【0064】
更に、信号処理器300は、配管100に減肉が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、波形の極大値が出現する時間軸方向の位置の変化として検知することや、信号処理器300は、配管100に欠陥が発生した場合に生ずる音波の伝播経路の減少を、波形の振幅の変化として検知することにより、高い精度で減肉や欠陥の有無の検査が可能となる。
【0065】
また、複数の垂直探触子10,11は、配管100の表面に固定されていることで、保温材の除去が不要であり、また運転中の検査やオンラインでの検査を実現することができる。
【0066】
更に、複数の垂直探触子10,11は、格子状に規則的に配置されていることにより、規格に基づいた確実な検査が可能となる。
【0067】
<第2実施例>
本発明の第2実施例の減肉検査装置および減肉検査方法について図7および図8を用いて説明する。図7は、本発明の第2実施例に係る配管減肉検査装置の全様を示す上面図、図8は、概略断面図である。
【0068】
図7および図8に示すように、本実施例の配管減肉検査装置1Aは、垂直探触子10、垂直探触子11それぞれには無線で信号を送受信する送受信コイル400が取り付けられている。
【0069】
垂直探触子10、垂直探触子11および送受信コイル400は、図8に示すように、配管100を覆う保温材110の内側に設置される。垂直探触子10、垂直探触子11と信号処理器300との間で信号の送受信は、保温材110の外側にも送受信コイル400を配置し、保温材の内側と外側で送受信コイル400を結合させることで行うことができる。
【0070】
その他の構成・動作は前述した第1実施例の減肉検査装置および減肉検査方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0071】
本発明の第2実施例の減肉検査装置および減肉検査方法においても、前述した第1実施例の減肉検査装置および減肉検査方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0072】
また、複数の垂直探触子10,11に接続されており、無線で信号を送受信する送受信コイル400を更に備えたことにより、保温材110を撤去することなく、高い精度で配管100の厚さや欠陥の有無等に関する検査を実施することができる。
【0073】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0074】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0075】
1,1A…配管減肉検査装置(検査装置)
10,11…垂直探触子
20…音波(垂直方向に放射される音波)
21…拡散波(垂直方向とは異なる方向に円錐状に放射される音波)
100…配管(検査対象物)
110…保温材
200…信号線
300…信号処理器
310…切り替えスイッチ
320…マルチプレクサ
330…パルサーレシーバー
340…増幅器
350…超音波波形収集装置
360…波形記憶装置(記憶部)
370…波形演算装置
400…送受信コイル(巻線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8