(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163608
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】保守支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20221019BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068631
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】馮 益祥
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】故障が発生する前に機械の異常を検知して顧客に通知すると共に、当該異常に起因した故障を修理するための対策部品の在庫切れを防ぐことにより、その後の故障による機械の非稼働時間を短縮する保守支援システムを提供する。
【解決手段】保守支援システム1において、機械10の異常を検出した場合に、異常に起因する故障を修理するための対策部品およびその必要数量を推定するとともに、異常の内容ならびに対策部品の識別情報及び必要数量を顧客30に通知し、対策部品の在庫予測数が受注予測数を下回る場合に、対策部品の在庫数を増やすための情報を生成する制御装置100aを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバを有し、機械の保守作業を支援するための保守支援システムにおいて、
前記サーバは、
演算機能を有する制御装置と、
前記制御装置の演算処理に必要なデータを記憶する記憶装置と、
前記機械と前記制御装置との通信を可能とする通信装置とを備え、
前記制御装置は、
前記機械に搭載されたセンサで計測したデータを含む稼働データを前記通信装置を介して受信し、前記記憶装置に記憶させ、
前記稼働データに基づいて前記機械の異常を検出し、
前記異常を検出した場合に、前記機械で使用される部品のうち前記異常に起因する故障を修理するための対策部品およびその必要数量を推定するとともに、
前記異常の内容ならびに前記対策部品の識別情報および前記必要数量を前記通信装置を介して前記機械の顧客に通知し、
前記対策部品の在庫数の予測値である在庫予測数を算出し、
前記異常を通知した後に、前記通信装置を介して前記顧客により入力された前記対策部品の購入数を受信し、前記対策部品の購入履歴として前記記憶装置に記憶させ、
前記購入履歴に基づいて前記対策部品の受注数の予測値である受注予測数を算出し、
前記在庫予測数が前記受注予測数を下回る場合に、前記対策部品の在庫を増やすための情報を生成する ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記制御装置は、
前記稼働データに基づいて前記機械の健全性を示す指標値を算出し、
前記指標値が所定の範囲内にある場合は、前記機械が正常であると判定し、
前記指標値が前記所定の範囲外にある場合は、前記機械に異常があると判定する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記記憶装置は、前記機械の故障・修理履歴を記憶しており、
前記制御装置は、前記異常を検出した場合に、前記故障・修理履歴に基づいて前記対策部品および前記必要数量を推定する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記記憶装置は、前記対策部品の在庫数と、前記機械の保守計画と、前記対策部品の生産計画および入荷計画とを記憶しており、
前記制御装置は、前記対策部品の在庫数と、前記機械の保守計画と、前記対策部品の生産計画および入荷計画とに基づいて前記在庫予測数を算出する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項5】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記記憶装置は、前記対策部品の生産計画および入荷計画を含む部品生産データと、前記対策部品の発送方式および発送にかかる時間を含む部品調達データと、前記対策部品を扱う営業所・代理店の住所、前記対策部品の配送手段、および前記対策部品の調達履歴を含む営業所・代理店データとを記憶しており、
前記制御装置は、前記異常を検出した場合に、前記部品生産データ、前記部品調達データ、および前記営業所・代理店データに基づいて、前記顧客が前記対策部品を発注してから前記対策部品が前記顧客が指定した場所に到着するまでの時間の予測値である予測調達時間を算出し、前記予測調達時間を前記通信装置を介して前記顧客に通知する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記制御装置は、
前記異常を検出した場合に、前記対策部品の識別情報および前記必要数量に加えて、前記対策部品の価格および前記異常に対応するための点検・保守手順を前記顧客に通知し、
前記通信装置を介して前記異常に対する前記顧客の対応情報を受信した場合に、前記対応情報を前記記憶装置に記憶させる
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項7】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記記憶装置は、前記機械の機種および生産年代を含む基本データと、前記稼働データと、前記機械の保守計画データと、前記異常に起因する故障モードと、前記機械の顧客データと、前記対策部品の部品調達データと、前記購入履歴を含む部品受注履歴データとを記憶しており、
前記制御装置は、教師あり機械学習モデルを用いて、前記稼働データ、前記保守計画データ、前記故障モード、前記顧客データ、前記部品調達データ、および前記部品受注履歴データを含む入力データを基に前記受注予測数を算出する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項8】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記記憶装置は、前記対策部品の生産計画および入荷計画を記憶しており、
前記制御装置は、前記受注予測数が前記在庫予測数を上回る場合に、前記対策部品の在庫を増やすための情報として、前記対策部品の生産時期または入荷時期を前倒しするための前記生産計画または前記入荷計画の変更情報を生成する
ことを特徴とする保守支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械に対する適切な保守作業を支援する保守支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械や風車など長時間に亘って運転し続ける機械においては、顧客(機械のオーナー、ユーザー、代理店または営業所)の収益が最大になるように稼働率の向上が重要である。そのため、故障が起きる前に適切かつ迅速な部品交換や修理を実施できる、または、故障が起きても迅速に機械を修理して再稼働できるようなシステムが望まれる。それを実現するために、機械の状態を常時監視しながら適切な保守作業を支援する仕組みが必要である。以下、機械に対する適切な保守作業を支援するシステムを「保守支援システム」と呼ぶ。
【0003】
機械の状態監視では、機械に装備しているセンサなどを使って、機械の稼働情報、および温度や加速度等の物理量を一定の頻度で収集し、収集したデータを分析処理することにより、機械の状態を監視し、正常/異常の判断を行う。最も単純なのは、物理量に閾値を設定して機械の状態を推定する手法である。近年では、人工知能技術の一分野である機械学習技術を活用して、過去に収集した機械の稼動データを学習(「トレーニング」とも呼ぶ)して、現在の状態を推定、判断する異常診断手法も開発されている。また、物理量の値と寿命低下率との関係性を求めて、それに基づいて機械の余寿命を推定する方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、故障リスクの推定値に基づいて、機械または部品の保守・運用シナリオを策定する方法が提案されている。
【0005】
さらに、機械の保守または修理に必要な部品に関しても適切な在庫水準に保たれていることが要望され、特許文献3に開示されているように、故障検知の結果から保守部品の需要を推定し、それに基づいて部品の在庫を調整する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-181169号公報
【特許文献2】特開2019-113883号公報
【特許文献3】国際公開第2013/145203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、故障による機械の非稼働時間を最小化にするため、状態監視システムで機械の異常を検知し、その異常を早期に解消することが要望されている。そして、例えば1つのコア部品の在庫切れ、または輸送に時間を要するといった事象が発生すると、部品調達の期間によっては、機械が長期間に亘って休止しなければならない恐れがある。このような観点から、機械の保守または修理に必要な部品が迅速に調達できることが要望されている。
【0008】
この課題に対して、部品の利用者側(顧客側)と、部品の提供者側(メーカー側)の両面から解決する必要がある。
【0009】
部品の利用者側(顧客側)では、状態監視システムで得られた異常検知の結果を早期に受け取り、機械の保守または修理に関する準備に着手することが求められる。そのため、検知された異常の内容のみならず、保守または修理に必要な部品およびその調達時間に関する情報を顧客に通知し、保守点検のレコメンデーションをすることが重要である。特許文献2に開示されている技術では、機械の稼働データから機械の健全性指標を算出し、この健全性指標に基づいて保守シナリオを策定する方法が開示されている。しかしながら、機械の修理に必要な対策部品の在庫状況や部品の調達時間に関しては考慮されていないので、部品調達の長期化による機械停止時間増加が懸念される。
【0010】
一方、部品の提供者側(メーカー側)では、欠品が無いように対策部品の在庫を調整することが望まれる。特に、特殊で代替が利かない部品や調達リードタイムが長い部品の在庫を適切に持たずに欠品となった場合、顧客の注文が受けてから部品の生産が始まるので、部品の調達に時間がかかり、機械の稼働率が低下する恐れがある。部品の在庫切れを防ぐためには、機械の保守計画のみならず、異常が生じた場合の顧客の部品購入予定を含めた部品需要予測が必要である。特許文献3に開示されている技術では、故障確率から保守部品の需要を推定し、それに基づいて部品の在庫を調整する方法が提案されている。ただし、これは前記の部品提供者側(メーカー側)のみによる対策方法であるため、部品の利用者側(顧客側)の部品購入予定については考慮されておらず、部品需要予測の精度が低下してしまう恐れがある。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、故障が発生する前に機械の異常を検知して顧客に通知すると共に、当該異常に起因した故障を修理するための対策部品の在庫切れを防ぐことにより、その後の故障による機械の非稼働時間を短縮することが可能な保守支援システムを提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、サーバを有し、機械の保守作業を支援するための保守支援システムにおいて、前記サーバは、演算機能を有する制御装置と、前記制御装置の演算処理に必要なデータを記憶する記憶装置と、前記機械と前記制御装置との通信を可能とする通信装置とを備え、前記制御装置は、前記機械に搭載されたセンサで計測したデータを含む稼働データを前記通信装置を介して受信し、前記記憶装置に記憶させ、前記稼働データに基づいて前記機械の異常を検出し、前記異常を検出した場合に、前記機械で使用される部品のうち前記異常に起因する故障を修理するための対策部品およびその必要数量を推定するとともに、前記異常の内容ならびに前記対策部品の識別情報および必要数量を前記通信装置を介して前記機械の顧客に通知し、前記対策部品の在庫数の予測値である在庫予測数を算出し、前記異常を通知した後、前記通信装置を介して前記顧客により入力された前記対策部品の購入数を受信し、前記対策部品の購入履歴として前記記憶装置に記憶させ、前記購入履歴に基づいて前記対策部品の需要数の予測値である受注予測数を算出し、前記在庫予測数が前記受注予測数を下回る場合に、前記対策部品の在庫を増やすための情報を生成するものとする。
【0013】
以上のように構成した本発明によれば、故障が発生する前に機械の異常を検知して顧客に通知すると共に、当該異常に起因する故障を修正するための対策部品の在庫切れを防ぐことにより、その後の故障による機械の非稼働時間を短縮することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、故障が発生する前に機械の異常を検知して顧客に通知すると共に、当該異常に起因する故障を修正するための対策部品の在庫切れを防ぐことにより、その後の故障による機械の非稼働時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施例における保守支援システムの物理的な構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施例における制御装置の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施例における記憶装置のデータ構成を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施例における機械の異常度の推移および閾値の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施例における故障・修理履歴データベースのデータ構造の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施例における対策部品データベースのデータ構造の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施例における部品在庫推定部の演算結果の一例を示す図である。
【
図8】本発明の第1の実施例における部品調達時間予測部の処理手順の一例を示す図である。
【
図9】本発明の第1の実施例における部品調達時間予測部の演算結果の一例を示す図である。
【
図10】本発明の第1の実施例におけるアラーム送信部が顧客に送信した情報のモニタ表示の一例を示す図である。
【
図11】本発明の第1の実施例における部品需要予測部の構成の一例を示す図である。
【
図12】本発明の第2の実施例における保守支援システムの物理的な構成を示す図である。
【
図13】本発明の第3の実施例における保守支援システムの物理的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る保守支援システムについて、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例0017】
図1は、本発明の第1の実施例における保守支援システムの物理的な構成を示す図である。保守支援システム1は、機械10の状態を監視して機械10の保守作業を支援するシステムであり、サーバ100と記憶装置200とを備える。サーバ100は、制御装置100aと通信装置100bとを有する。なお、
図1において、機械10として油圧ショベルを例示しているが、機械10は建設機械に限られない。
【0018】
制御装置100aは、電源、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力装置等を備える1台または複数台のコンピューターで構成される。制御装置100aは、通信装置100bを介して、LAN(Local Area Network)やインターネット等で構成されたネットワーク20に接続されている。
【0019】
記憶装置200は、例えば1つまたは複数のハードディスクで構成される。記憶装置200はサーバ100内に設置してもよいし、ネットワーク20介してサーバ100と接続してもよい。記憶装置200は、制御装置100aの処理に係わるデータを、電子ファイル形式またはリレーショナル・データベースなどのデータベース形式で記憶している。本実施例では、データベース形式で記憶しているものとする。
【0020】
機械10は、複数のサブユニットまたは部品から構成されており、圧力や温度等を計測する各種のセンサ11と、制御装置12と、通信装置13とを備える。制御装置12は、センサ11で計測した圧力や温度等の情報(稼働データ)を通信装置13を介して保守支援システム1に送信する。
【0021】
その他、機械10の顧客30、および機械10に使用される部品を保管する部品倉庫40がネットワーク20接続されている。部品倉庫40は、部品生産者50における部品の生産、および部品生産者50から部品倉庫40への部品の入荷を管理する。
【0022】
図2に、制御装置100aの機能ブロック図を示す。
図2において、制御装置100aは、機械状態分析部101と、対策部品推定部102と、部品在庫推定部103と、部品調達時間予測部104と、アラーム送信部105と、アラーム対応記憶部106と、部品需要予測部107と、部品在庫調整部108とを有する。
【0023】
図3に、記憶装置200のデータ構成を示す。記憶装置200は、機械稼働データベース201、故障・修理履歴データベース202、部品生産データベース203、部品調達データベース204、営業所・代理店データベース205、アラーム対応データベース206、対策部品データベース207、保守計画データベース208、部品在庫データベース209、および部品受注履歴データベース210を記憶している。なお、各図中、データベースを「DB」と表記している。
【0024】
機械状態分析部101は、通信装置100bを介して機械10の稼働データを取得し、機械稼働データベース201に保存する。機械状態分析部101は、データマイニングまたは機械学習、余寿命診断等のアルゴリズムを用いて、機械10の稼働データから機械10の健全性を示す指標値(健全性指標)を算出する。本実施例では、異常検知アルゴリズムを用いた場合の状態分析方法について説明する。
【0025】
異常検知アルゴリズムでは、機械10の稼働データから「特徴量」と呼ばれる物理量を定義し、正常な機械10で得られた特徴量の分布を正常モデルとして作成する。特徴量は、例えば機械10の稼働データから抽出した複数の物理量の組合せであり、ベクトル形式で記述することができる。以下、ベクトル形式で記述した複数の特徴量の組合せを特徴量ベクトルと称す。特徴量ベクトルに対応する正常モデルは、正常な機械10で得られた特徴量ベクトルの平均(以下、平均ベクトル)および分散で記述することができる。機械10の異常度は、新たに得られた特徴量ベクトルが平均ベクトルからどの程度乖離しているかで測定することができる。例えばマハラノビス・タグチ法という統計的アルゴリズムによれば、機械10の異常度を以下の式で計算することができる。
【0026】
【0027】
ここで、aは異常度であり、xは新たに得られた特徴量ベクトルであり、μは平均ベクトルであり、σは正常な機械10で得られた特徴量ベクトルxの標準偏差(分散の平方根)である。式(1)の左辺の分子は、新たな特徴量ベクトルxから平均ベクトルμまでの距離の二乗を示し、右辺の分母は、平均ベクトルμの算出に用いた特徴量ベクトルxの分散を示す。
【0028】
異常度aを機械10の健全性指標として用いることにより、機械10の状態を分析することができる。良く利用される分析手法としては、異常度aに対して閾値を設定し、異常度aが閾値以上である場合に機械10に異常があると判定し、閾値未満である場合に機械10が正常であると判定するものがある。異常度aの閾値は、異常度aとその後の故障の発生有無との関係に基づいて決定することができる。
【0029】
図4に、機械10の異常度aの推移および閾値の一例を示す。異常度aと閾値を用いて、機械10の異常を判定するアルゴリズムを、次のような擬似コードで記述することができる。
【0030】
【0031】
対策部品推定部102は、機械10の状態分析で異常が検出された場合、当該異常に起因する故障を修理するために必要な部品(対策部品)のリスト(対策部品リスト)を出力する。対策部品は、故障・修理履歴データベース202の情報から推定することが可能である。故障形態(故障モード)の例として、バッテリーの劣化、ツースの損傷などがある。
【0032】
図5に、故障・修理履歴データベース202のデータ構造の一例を示す。故障・修理履歴データベース202は、故障事例(ケース)、分析時の健全性指標(異常度a)、分析時から故障までの日数、故障モード、修理時に交換された部品のリスト(交換部品リスト)等を記憶している。
図5において、ケース1では、分析時の健全性指標が「A1」であり、分析時点から故障に至るまでの日数が15日であり、故障モードは「M1」であり、交換部品リストは「PL1」である。ケース2では、分析時の健全性指標が「A2」であり、分析時点から故障に至るまでの日数が7日であり、故障モードは「M2」であり、交換部品リストは「PL2」である。ケースnでは、分析時の健全性指標が「An」であり、分析時点から故障に至るまでの日数が28日であり、故障モードは「Mn」であり、交換部品リストは「PLn」である。
【0033】
図6に、対策部品データベース207のデータ構造の一例を示す。対策部品データベース207は、故障モード毎に、対策部品の部品番号、名称、および必要数量を記憶している。
図6に示す例では、故障モードMAの対応には、5個の圧力センサ(部品番号:PAAA-000)と3個のフィルタ(部品番号:PAAA-001)が必要であり、故障モードMXの対応には、20個のネジ(部品番号:PXXX-003)が必要となる。
【0034】
部品在庫推定部103は、対策部品推定部102で推定される各対策部品について、在庫数の時系列変化を算出する。部品在庫推定部103の入力データとしては、部品在庫データベース209、機械10の保守計画データベース208、および部品生産データベース203の情報が使われる。部品在庫データベース209には、部品倉庫40が扱う各部品の在庫数、部品の属性(部品番号、名称、重量、価格等)、過去の売上実績等の情報が含まれる。保守計画データベース208には、部品倉庫40と部品供給の関係にある全ての機械10について、現在および今後の保守計画と保守に使われる部品のリスト等の情報が含まれる。部品生産データベース203には、部品倉庫40が扱う各部品の生産計画および入荷計画等の情報が含まれる。
【0035】
ある部品Aについて、推定開始日(日付Day0)における在庫数をNA0とした場合、日付Daynにおける在庫予測数NADaynは以下の式で求められる。
【0036】
【0037】
ここで、IN_A_iは日付Dayiにおける部品Aの入荷予定数であり、生産計画から推定することができる。OUT_A_iは日付Dayiにおける部品Aの出荷予定数であり、保守計画データベース208の情報および部品需要予測から推定することができる。
【0038】
図7に、部品在庫推定部103の演算結果の一例を示す。
図7において、部品在庫推定部103の演算結果は、推定開始日(日付Day
0)から日付Day
nまでの部品Aの入荷予定数、出荷予定数、および在庫予測数の推移を表している。
【0039】
部品調達時間予測部104は、対策部品が発注されてから当該対策部品が顧客指定の場所(機械の現場または代理店・営業所、または機械の修理を手掛ける組織)に到着するまでの時間(調達時間)の予測値(予測調達時間)を算出する。過去の実績データが豊富な場合は、ニューラルネットワーク等の機械学習アルゴリズムを用いることで高精度な予測調達時間を算出することが可能となる。また、部品調達時間予測部104は、予測調達時間に応じた調達可能時期の目安(例えば、「約1週間後」、「約1ヶ月後」等)を顧客30に通知してもよい。これにより、顧客30は対策部品の調達可能時期を把握できるため、機械10の稼働計画を事前に見直すことが可能となる。
【0040】
図8に、本実施例における部品調達時間予測部104の処理手順の一例を示す。以下、各ステップを順に説明する。
【0041】
ステップS401:部品在庫データベース209を参照し、発注日における対策部品の在庫数を確認する。
【0042】
ステップS402:対策部品の在庫数が発注数以上であるか否か(対策部品の在庫が有るか否か)を判定する。対策部品の在庫数が発注数以上である(Yes)と判定した場合は、ステップS404を実行する。対策部品の在庫数が発注数未満である(No)と判定した場合は、ステップS403を実行してから、ステップS404を実行する。
【0043】
ステップS403:部品生産データベース203の情報(対策部品の生産計画および入荷計画)に基づいて、対策部品の生産が開始されてから当該対策部品が部品倉庫に入荷するまでの時間(生産時間)の予測値(予測生産時間)を算出する。
【0044】
ステップS404:部品調達データベース204の情報(対策部品の発送方式および発送にかかる時間等)および営業所・代理店データベース205の情報(各営業所・代理店の住所、好みの配送手段、過去の対策部品の調達履歴等)に基づいて、対策部品が部品倉庫40から顧客指定の場所に届けられるまでの時間(配送時間)の予測値(予測配送時間)を算出する。
【0045】
ステップS405:予測生産時間と予測配送時間とを合算し、予測調達時間を算出する。
【0046】
図9に、部品調達時間予測部104の演算結果の一例を示す。
図9において、部品調達時間予測部104の演算結果には、各対策部品(部品1~n)の在庫状況、予測生産時間、配送手段、予測配送時間、および予測調達時間が含まれる。
【0047】
アラーム送信部105は、通信装置100bを介して、機械10の異常情報、対策部品推定部102が推定した対策部品のリスト(数量、価格等を含む)、部品調達時間予測部104が予測した予測調達時間、および異常に対応するための点検・保守手順をアラームと共に顧客30に送信する。アラームの形式としては、警告音、ランプ点灯、モニタ表示、メール送信、電話、ファックス等がある。
【0048】
図10に、アラーム送信部105が顧客30に送信したアラーム情報のモニタ表示の一例を示す。
図10において、メインの表示枠301には、異常が検知された日時(異常検知日時)と、異常が検出された機械10の識別情報(マシンID)、および異常の内容が表示されている。また、メインの表示枠301に配置されているボタン302,303をクリックすることにより、当該異常に対応するための点検・保守手順および対策部品リストを別の表示枠304,305で表示させることができる。なお、アラーム情報の表示項目および表示方法は、顧客30の端末で動作するアプリケーションソフトに応じて適宜変更可能である。
【0049】
アラーム対応記憶部106は、アラーム送信部105がアラーム等を送信した後に、当該アラームに対する顧客30の対応情報(アラーム対応データ)を通信装置100bを介して受信し、アラーム対応データベース206に蓄積する。アラーム対応データには、対策部品の発注日、対策部品の購入数、機械点検・修理の開始日と終了日等が含まれる。
【0050】
図11に、部品需要予測部107の構成の一例を示す。部品需要予測部107は、入力データ107a、学習モデル107b、および出力データ107cで構成される。入力データ107aには、アラーム対応記憶部106が取得したアラーム対応データ、機械10の機種や生産年代などの機械基本データ、機械10の稼働データ、機械10の保守計画データ、故障モード、顧客データ(営業所・代理店データ)、部品調達データ、部品受注履歴データ等が含まれる。出力データ107cには、当該故障モードに関する対策部品の識別情報(例えば、部品名称)および受注予測数が含まれる。学習モデル107bとしては、入力データ107aと出力データ107cとの関係を学習可能な、教師あり機械学習モデルを用いる。代表的な教師あり機械学習モデルとしては、例えばニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、深層学習等が挙げられる。部品需要予測部107は、学習モデル107bを用いて入力データ107aを出力データ107cに変換し、出力データ107cを部品需要予測として部品在庫調整部108にフィードバックする。
【0051】
部品在庫調整部108は、部品在庫推定部103が推定した対策部品の在庫予測数と、部品需要予測部107が予測した対策部品の受注予測数との比較を行う。ある対策部品の受注予測数が在庫予測数を上回る場合は、当該部品の在庫切れを防ぐため、当該部品の生産時期または入荷時期が前倒しされるように部品生産データベース203の情報(生産計画または入荷計画)を変更する。すなわち、本実施例における部品在庫調整部108は、対策部品の在庫を増やすための情報として、対策部品の生産時期または入荷時期を前倒しするための入荷計画または生産計画の変更情報を生成する。なお、対策部品の在庫を増やすための情報は、在庫を増やす手段に応じて種々考えられる。一方、受注予測数が在庫予測数を大きく下回る場合は、当該部品の余剰在庫を減らすため、当該部品の入荷時期や生産時期が後ろ倒しされるように入荷計画や生産計画を変更する。
【0052】
(まとめ)
本実施例では、サーバ100を有し、機械10の保守作業を支援するための保守支援システム1において、サーバ100は、演算機能を有する制御装置100aと、制御装置100aの演算処理に必要なデータを記憶する記憶装置200と、機械10と制御装置100aとの通信を可能とする通信装置100bとを備え、制御装置100aは、機械10に搭載されたセンサ11で計測したデータを含む稼働データを通信装置100bを介して受信し、記憶装置200に記憶させ、前記稼働データに基づいて機械10の異常を検出し、前記異常を検出した場合に、機械10で使用される部品のうち前記異常に起因する故障を修理するための対策部品およびその必要数量を推定するとともに、前記異常の内容ならびに前記対策部品の識別情報および必要数量を通信装置100bを介して顧客30に通知し、前記対策部品の在庫数の予測値である在庫予測数を算出し、前記異常を通知した後に、通信装置100bを介して顧客30により入力された前記対策部品の購入数を受信し、前記対策部品の購入履歴として記憶装置200に記憶させ、前記購入履歴に基づいて前記対策部品の受注数の予測値である受注予測数を算出し、前記在庫予測数が前記受注予測数を下回る場合に、前記対策部品の在庫を増やすための情報を生成するものとする。
【0053】
以上のように構成した本実施例によれば、故障が発生する前に機械10の異常を検知して顧客30に通知すると共に、当該異常に起因する故障を修正するための対策部品の在庫切れを防ぐことにより、その後の故障による機械10の非稼働時間を短縮することが可能となる。
【0054】
また、制御装置100aは、機械10の稼働データに基づいて機械10の健全性を示す指標値aを算出し、指標値aが所定の範囲内(例えば、所定の閾値未満)にある場合は、機械10が正常であると判定し、指標値aが前記所定の範囲外(例えば、所定の閾値以上)にある場合は、機械10に異常があると判定する。これにより、機械10の異常の検出精度を向上させることが可能となる。
【0055】
また、記憶装置200は、機械10の故障・修理履歴を記憶しており、制御装置100aは、機械10の異常を検出した場合に、前記故障・修理履歴に基づいて、前記異常に対応するための対策部品およびその必要数量を推定する。これにより、対策部品およびその必要数量の推定精度を向上させることが可能となる。
【0056】
また、記憶装置200は、対策部品の在庫数と、機械10の保守計画と、対策部品の生産計画および入荷計画とを記憶しており、制御装置100aは、対策部品の在庫数と、機械10の保守計画と、対策部品の生産計画および入荷計画とに基づいて対策部品の在庫予測数を算出する。これにより、在庫予測数の算出精度を向上させることが可能となる。
【0057】
また、記憶装置200は、対策部品の生産計画および入荷計画を含む部品生産データと、対策部品の発送方式および発送にかかる時間を含む部品調達データと、対策部品を扱う営業所・代理店の住所、対策部品の配送手段、および対策部品の調達履歴を含む営業所・代理店データとを記憶しており、制御装置100aは、機械10の異常を検出した場合に、前記部品生産データ、前記部品調達データ、および前記営業所・代理店データに基づいて、顧客30が対策部品を発注してから対策部品が顧客30が指定した場所に到着するまでの時間の予測値である予測調達時間を算出し、前記予測調達時間を通信装置100bを介して顧客30に通知する。これにより、顧客30は対策部品の調達可能時期を把握できるため、機械10の稼働計画を事前に見直すことが可能となる。
【0058】
また、制御装置100aは、機械10の異常を検出した場合に、前記異常に対応するための対策部品の識別情報およびその必要数量に加えて、前記対策部品の価格および前記異常に対応するための点検・保守手順を顧客30に通知する。また、通信装置100bを介して前記異常に対する顧客30の対応情報を受信した場合に、前記対応情報を記憶装置200に記憶させる。このように対応情報を履歴として残すことで、顧客30が機械10の異常に速やかに対応することが可能になると共に、顧客30の対応情報に基づいて当該異常に対応するための点検・保守手順を見直すことが可能となる。
【0059】
また、記憶装置200は、機械10の機種および生産年代を含む基本データと、機械10の稼働データと、機械10の保守計画データと、機械10の異常に起因する故障モードと、機械10の顧客データと、対策部品の部品調達データと、対策部品の購入履歴を含む部品受注履歴データとを記憶しており、制御装置100aは、教師あり機械学習モデルを用いて、前記稼働データ、前記保守計画データ、前記故障モード、前記顧客データ、前記部品調達データ、および前記部品受注履歴データを含む入力データを基に対策部品の受注予測数を算出する。これにより、対策部品の受注予測数の算出精度を向上させることが可能となる。
【0060】
また、記憶装置200は、機械10の異常に対応するための対策部品の生産計画および入荷計画を記憶しており、制御装置100aは、前記対策部品の受注予測数が在庫予測数を上回る場合に、前記対策部品の在庫を増やすための情報として、前記対策部品の生産時期または入荷時期を前倒しするための前記生産計画または前記入荷計画の変更情報を生成する。これにより、対策部品の生産計画または入荷計画に基づいて、対策部品の在庫数を増やすことが可能となる。
以上のように構成した本実施例によれば、同一現場または同一地域で稼働している複数台の機械10の異常を検知して顧客30に通知すると共に、当該異常に起因した故障を修理するための対策部品の在庫切れを防ぐことにより、その後の故障による各機械の非稼働時間を短縮することが可能となる。