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特開2022-163609放射線検査のデータ処理装置及びデータ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163609
(43)【公開日】2022-10-26
(54)【発明の名称】放射線検査のデータ処理装置及びデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/044 20180101AFI20221019BHJP
   A61B 6/02 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G01N23/044
A61B6/02 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068632
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】300059692
【氏名又は名称】ダイヤトレンド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510182629
【氏名又は名称】ライフサイエンスコンピューティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(72)【発明者】
【氏名】山河 勉
(72)【発明者】
【氏名】谷川 正臣
(72)【発明者】
【氏名】黒木 開
(72)【発明者】
【氏名】宮下 清哉
(72)【発明者】
【氏名】坂本 恭平
(72)【発明者】
【氏名】大杉 淳
(72)【発明者】
【氏名】早川 龍太郎
【テーマコード(参考)】
2G001
4C093
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA01
2G001DA02
2G001DA06
2G001DA09
2G001HA07
2G001HA14
2G001SA01
4C093AA11
4C093AA19
4C093AA29
4C093CA32
4C093DA06
4C093EB12
4C093EB13
4C093EB18
4C093FF48
(57)【要約】
【課題】スキャン型及び斜め配置のX線検出器において、後処理によって再構成画像の画素サイズを縮小又は拡大でき、その効果を享受する。
【解決手段】
X線撮影装置として機能するX線検出システム(11)は、対象物(P)を透過してきたX線を入射させる2次元配列の、各画素サイズが「N(μm) × M(μm)」の複数の画素を備えた検出器(14)を備える。その2次元配列の複数の画素はスキャン方向に対して所定角度(θ)だけ傾けて配置されたスキャン型の検出器である。2次元配列の画素から所定周期毎に検出された原フレームデータは、各画素サイズが「N’μm × M’μm(N≠N’,M≠M)」を有し、スキャン方向(SD)を一軸とする直交座標系を成す再構成空間に直接マッピングされ、その再構成空間上で、複数の原フレームデータをスキャノグラム法で再構成される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生させるX線発生装置と、
このX線発生装置から発生され、対象物を透過してきた前記X線を入射させる2次元配列の、各画素サイズが「N(μm) × M(μm)」の複数の画素を備えたX線検出器と、を備え、
前記X線検出器は、前記2次元配列の複数の画素を所定のスキャン方向に対して所定角度だけ傾けて配置され、
前記X線発生装置又は前記X線検出器の少なくとも一方と、前記対象物とを相対的に前記スキャン方向に移動させるとともに、当該移動中に所定周期で前記複数の画素それぞれが検出した前記X線の量を電気量の原フレームデータとして読み出すように構成されたX線撮影装置において、
前記2次元配列の前記各画素から出力された前記所定周期毎の複数の前記原フレームデータを、各画素サイズが「N’μm × M’μm(N≠N’,M≠M)」を有し、前記スキャン方向を一軸とする直交座標系を成す再構成空間に直接マッピングするマッピング手段と、
前記再構成空間上で、前記複数の前記原フレームデータをスキャノグラム法で再構成する再構成手段と、
を備えたことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記再構成空間の画素サイズ「N’μm × M’μm」を、前記X線検出器の画素サイズ「N(μm) × M(μm)」に対して、N>N’,M>Mの大小関係、又は、N<N’,M<Mの大小関係の何れかを選択可能な設定手段を備えたことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項3】
請求項1において、前記X線検出器の画素サイズ「N(μm) × M(μm)」と前記再構成空間の画素サイズ「N’μm × M’μm」は、N>N’,M>Mの関係があることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項4】
請求項1において、前記X線検出器の画素サイズ「N(μm) × M(μm)」と前記再構成空間の画素サイズ「N’μm × M’μm」は、N<N’,M<Mの関係があることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項5】
請求項1において、前記X線検出器が傾けられる前記所定角度は、前記スキャン方向を、前記直交座標系における前記スキャン方向の画素数をA・N個(Aは正の整数)にとり、かつ、前記スキャン方向に直交する方向の画素数をB・M(Bは正の整数)にとったときの三角形が形成する対角線の方向に一致させる角度であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項6】
請求項5において、前記正の整数は、A=4,B=1であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項7】
請求項5において、前記正の整数は、A=8,B=1であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項8】
請求項1において、前記X線検出器は、前記X線の光子の数を当該X線の量として計数するように構成した光子計数型検出器であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項9】
請求項8において、前記X線検出器は、前記X線を直接、前記原フレームデータとして検出する直接変換型の検出器であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項10】
請求項8において、前記X線検出器は、前記X線を光信号に変換し、当該光信号を前記原フレームデータとして検出する間接変換型の検出器であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項11】
請求項1において、前記X線検出器は、前記X線を一定時間、積分して積分値を当該X線の量として検出する積分型検出器であることを特徴としたX線撮影装置。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項において、
前記再構成手段により再構成された画像の一部に関心領域を設定する関心領域設定手段と、
前記関心領域の分の、前記再構成に用いられた前記原フレームデータを特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された前記原フレームデータを、前記画素サイズ「N’μm × M’μm」とは異なる画素サイズで再度、再構成する再再構成手段と、
を備えたことを特徴とするX線撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線やガンマ線などの放射線で対象物をスキャンし、その放射線を検出して得たデータを処理するデータ処理装置及びデータ処理方法に係り、特に、トモシンセシス法(広義には、ラミノグラフィ法とも言われる)、あるいは、断層効果を伴わないシフト加算法をベースとしたスキャノグラム法に基づいてスキャンを行う放射線検査に好適な検出データの処理を行うデータ処理装置及びデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線による医療検査・治療や産業用の非破壊X線検査が盛んに実施され、その優れた有用性は既に知られたところである。その一方で、検査精度の一層の向上、被ばくの更なる低減、より多岐にわたる応用などが求められている。
【0003】
この中で、X線検査の分野において、近年とくに、食品、工業製品、乳房、口腔内、整形領域等におけるように、人体内の一部の対象物や検査する物品に関して、その内部又は外表面に在るかもしれない、対象物の組成とは異なる物質である異物や関心のある対象物の存在を調べる検査等に好適なX線検査装置及びX線検査方法における画像再構成の方法あるいは装置が求められている。
【0004】
特にX線検出器において、検出器が光子計数型検出器を用いたフラットパネルは検出器の実装が難しく、また高コストになるため実現が難しい。また検出器画素を小さくするとチャージシェアリングなどの現象が起因して、光子計数型検出器が持つエネルギー情報の正確な検出が難しくなり、マンモグラらフィーのように解像度が必要な場合、解像度の実現のため画素を小さくすると光子計数型の特徴であるエネルギー情報の活用が難しくなり利点が発揮できないため、現実的なシステムを構成するのが極めて難しい。
【0005】
また、一般的に、フラットパネル検出器を用いて高解像を実現すると、画素数が増え、画像転送量が極端に増加し、高速の画像処理が困難になるなどの欠点があり、高解像のフラットパネルを、画素サイズを小さくして実現するのは限界がある。
【0006】
例えば、歯科用の口内X線撮影装置は、解像度が要求されるために、画素サイズが20~30μm程度のサイズで実現している事例が多い。また口内撮影装置に光子計数型のフラットパネルが実現できれば、口腔内の病変を更に高精度に捉えることができるが、20~30μmの画素サイズで実現し、かつ本来持つエネルギー情報を引く出すための回路構成実装は現実問題、実現が困難と言わざると得ない。よって、口内撮影装置において、光子計数型X線検出技術の実装は困難な状況であった。
【0007】
同様の課題はマンモグラフィでも同様である。マンモグラフィでは微小石灰化を検出するために、画素サイズとして50~75μm相当のサイズが必要と言われており、同様に光子計数型X技術では実現が困難な状況である。
【0008】
また、デジタルX線フラットパネルを事例に挙げると、パネルサイズが14”x17”の場合、画素サイズが150~200μm程度に形成される。
【0009】
なお、そのような画素サイズを例示するものとして、特許文献1、2、及び3に記載のものが知られている。これらの特許文献1~3に記載のX線検出器は、所謂、複数個の例えば直接変換型の検出モジュールを一方向に縦列させて細長いX線入射窓を有する細長い検出器(ライン検出器と呼ばれる)である。この細長い検出器は、所定のスキャン方向に対して予め所定角度だけ傾けて設置されており、常にスキャン方向に対して斜めの姿勢を維持して対象物との間で相対的にスキャンされる。このため、これらのX線検出器から出力されるX線透過情報を示すデータ、つまりフレームデータは、スキャン方向を一軸とする直交座標系(撮影空間の直交座標系)に対して斜めに傾いているため、後処理によって、直交座標系に変換するようになっている。
【0010】
ところで、マンモグラフィと同様に、より小さな病変を観察したい場合、画素サイズを更に小さくして100μm前後にせざるを得ない。そのように画素サイズを小さくすると、当然、検出チャンネルも増えて回路構成が膨大になり、画像データの転送速度及び処理時間、加えて、必要な画像メモリの容量がより一層増加し、実現のハードルは非常に高くなる。つまり、解像度を更に上げつつ、検出器のサイズを大きくするということは、実装面の困難を伴うとも言える。
【0011】
同様の課題は、食品異物検査、工業製品の検査などの非破壊X線検査でも同様のである。医療モダリティに比べて、非破壊X線検査の装置価格が安い傾向にあるために、上述した課題は更に難しいものになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許公報 第4251386号
【特許文献1】国際公開番号 WO2012/086648 A1
【特許文献2】国際公開番号 WO2017/170408 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたもので、特に、モシンセシス(非破壊検査ではラミノグラフィということが多い)又は断層効果を伴わない撮影において、再構成空間の画素サイズ、スキャンに用いる縦長検出器(スキャンと直交する方向が長い)に一定の傾き角度を設定したX線検出において、検出後の処理によって再構成画像の画素サイズを縮小又は拡大でき、処理回路の規模、処理時間、演算負荷、記憶容量などの適正化を図るとともに、散乱線を低減させて解像度を向上させ、また製造コストの低減を図るなど、実装し易いX線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るX線撮影装置は、X線を発生させるX線発生装置と、
このX線発生装置から発生され、対象物を透過してきた前記X線を入射させる2次元配列の、各画素サイズが「N(μm) × M(μm)」の複数の画素を備えたX線検出器と、を備え、
前記X線検出器は、前記2次元配列の複数の画素を所定のスキャン方向に対して所定角度だけ傾けて配置され、
前記X線発生装置又は前記X線検出器の少なくとも一方と、前記対象物とを相対的に前記スキャン方向に移動させるとともに、当該移動中に所定周期で前記複数の画素それぞれが検出した前記X線の量を電気量の原フレームデータとして読み出すように構成されている。このX線撮影装置において、
前記2次元配列の前記各画素から出力された前記所定周期毎の複数の前記原フレームデータを、各画素サイズが「N’μm × M’μm(N≠N’,M≠M)」を有し、前記スキャン方向を一軸とする直交座標系を成す再構成空間に直接マッピングするマッピング手段と、
前記再構成空間上で、前記複数の前記原フレームデータをスキャノグラム法で再構成する再構成手段と、
を備えたことを主な特徴とする。
【0015】
これにより、X線検出器の物理的な画素サイズが仮に中庸なものであっても、X線透過データを収集した後に、その画素サイズより小さくしたり、より大きくしたりすることができ、それによる様々な作用効果を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付図面において、
図1図1は、本発明に係るX線撮影装置を搭載したX線検査システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、X線検査システムに用いられているX線検出器(ライン検出器)の複数の検出モジュールによる画素配列と斜め配置との関係を概略的に説明する平面図である。
図3図3は、コントローラによって実行される検出データ(フレームデータ)の画素を再構成面で縮小・拡大させる処理を説明する概略フローチャートである。
図4図4は、検出されたフレームデータを、画素サイズがより小さい再構成面に直接、マッピングする状態を説明する図である。
図5図5は、検出されたフレームデータを、画素サイズがより大きい再構成面に直接、マッピングする状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って、本発明に係るX線撮影装置の実施形態を説明する。
【0018】
<実施形態>
図1に示すように、第1の実施形態に係る、医療用又は非破壊検査用のX線撮影装置として機能するX線検査システム11が提供されている。
【0019】
このX線検査システム11は、X線を発生するX線発生装置12と、そのX線の照射野を絞るスリット13と、そのスリット13を通過し、被検体又は対象物(以下、対象物P)を透過してきたX線を検出する光子計数型のX線検出器14とを備える。スリット13はX線発生装置12の内部であって、そのX線出力側の位置に装備されていてもよい。X線発生装置12及びスリット13の対とX線検出器14との間に対象物Pが固定状態で位置される。X線発生装置12及びX線検出器14との間に、スキャン空間Sが提供され、このスキャン空間Sにスキャン方向をZ軸とするX軸(高さ)、Y軸(縦)、及びZ軸(横)から成る3次元空間が仮想的に設定される。
【0020】
X線検出器14とスリット13は、同期した速度でスキャン方向SDに同期駆動部(図示せず)によって移動される。このため、対象物PはX線発生装置12から発生し、その照射野が絞られたX線(X線ビーム)XRでスキャン方向SDにスキャンされる。
【0021】
X線検出器14には、対象物Pを透過したX線XRを入射させる、矩形状で細長い入射窓WD(後述する)が形成されており、その入射窓WDの下方にX線XRを受信・検出して処理する様々な要素が配置されている。この入射窓WDは勿論、物理的には気密に封止されているが、X線を透過する材料で形成されており、X線透過型の窓として形成されている。
【0022】
このため、スリット13の開口部13Aは、その入射窓WDの形状に相似な細長い矩形状の開口を有し、その開口形状にX線(X線ビーム)XRを絞る。X線発生装置12、スリット13、及びX線検出器14は、高さ方向(図1のX軸方向を参照)に所定距離ずつ離間して配置される。このため、X線検出器14とX線発生装置12及びスリット13の対とのスキャン方向SDへの同期速度は、それらの高さ位置に応じて変わる。スリット13の開口部13Aにより絞られ且つ対象物Pを透過した、細長い矩形状の照射野のX線XRはスキャン中、常に、X線検出器14の入射窓WDを捕捉するように同期スキャンされる。なお、X線発生装置12には、図示しないが、内蔵するX線発生器に曝射用の、例えばパルス状の高電圧を供給する高電圧発生器が接続されている。
【0023】
なお、本実施形態では、図1に示すように、X線検査システム11におけるX線発生装置12とX線検出器14が空間的に対向する方向を高さ方向(X軸方向)とし、且つ、スキャン方向SDを左右方向に採ったときに、これに直交する縦方向(Y軸方向)及び横方向(Z軸方向)が仮想的に設定される。このため、前記スキャン方向SDは横方向(Z軸方向)に対応する。これらの互いに直交する3方向X,Y及びZは、X線検出器14をX線検査システム11に実装した状態で定義されている。
【0024】
さらに、このX線検査システム11にはコントローラ15が備えられ、このコントローラ15は図示しないCPU(中央演算装置)等を含むコンピュータシステムとして構成されている。このコントローラ15によりシステム全体のスキャン動作を含む各部の駆動が制御されている。また、コントローラ15には、スキャンによって、検出したX線の光子数をX線透過量として画素毎に且つエネルギーBIN毎に示すフレームデータが一定タイミング毎に(例えば300fps~16,000fpsなど)が転送されてくる。
【0025】
このため、コントローラ15は、そのCPUに与えられた機能によってデータプロセッサとしても機能するように構成されている。このため、コントローラ15は、ライン検出器14Lから一定タイミング毎に転送されてくる生のフレームデータを受信し、それを後処理し、この後処理されたフレームデータに基づく物質同定等のアプリケーション処理やその画像生成に基づくX線検査やX線診断を行うように構成されている。この後処理としては、本実施形態に特有の、検出した生のフレームデータの画素サイズを縮小したり、場合によっては、拡大したりする拡縮の処理が含まれる。
【0026】
このように、本実施形態では、X線検出器14とX線発生装置12及びスリット13の対とがスキャン方向SDに移動されるスキャン型のX線検査システム11が構成されている。
【0027】
このスキャン型のX線検査システムは、モシンセシス法(広義には、ラミノグラフィ法とも言われる)、あるいは、断層効果を伴わないシフト加算(shift & add)法をベースとしたスキャノグラム法に基づいてスキャンを行う放射線検査に好適である。本実施形態では、とくに、そのようなシステムから出力される検出データの処理に特徴を有する。
【0028】
<X線検出器の構成>
本発明に係るX線検出器14はその全体として細長い直方体状の外観を成し、図示しない駆動機構によって移動するベース21の上に固定・載設されている。このため、前述したX線発生装置12(スリット13を含む)と、このベース21とを図示しない駆動装置により横方向(Z軸方向:スキャン方向SD)に移動させることができ、これによりX線照射に伴うスキャン動作が行われる。
【0029】
このX線検出器14は、その全体を覆う直方体状のケーシング31を備え、そのケーシング31の内部に、図2に示すように、複数のX線検出モジュールM1~Mm(mは正の整数)(以下、検出モジュール)を一方向のライン状に縦列配置して平面視が細長いX線検出器14L(以下、ライン検出器と呼ぶ)を備えている。なお、ライン検出器14Lは、ラインと言っても、後述するように、当該検出器14Lを作成したときには、X線光子の最小検出単位である検出画素は平面視において行方向及び列方向に2次元的に並んだ物理的な画素アレイ構造を有する(図2参照)。ただし、複数のX線検出モジュールMを縦列させることで、検出器全体としては、検出画素の並びの一方(行)の画素数よりも他方(列)の方のそれが多い構成を有する。例えば、「行(横)方向に20画素」×「列(縦)方向に20画素×m個」(mは2以上の正の整数)のモジュール分の画素を有する。
【0030】
このようなライン検出器14Lとしては、例えば前述した特許文献1~3と同様に、特許公報第4251386号、国際公開番号WO2012/086648A1、国際公開番号WO2017/170408A1に記載のものが挙げられる。このうち、特に、国際公開番号WO2012/086648A1及び国際公開番号 WO2017/170408A1は光子計数型のX線検出器を例示しており、本実施形態に係るライン検出器14Lも同様に、X線エネルギーの量を弁別してX線透過量を収集できる光子計数型の検出器として構成されている。
【0031】
このライン検出器14Lは、図2に模式的に説明するように、スキャン空間Sにおいて、所定のスキャン方向SDに対して所定角度θだけ斜めに配置されている。この斜めの姿勢のまま、X線発生装置12(スリット含む)とライン検出器14Lのペアが対象Pに対して同期してスキャン方向SDに移動する。つまり、図示しないコンベアベルトに載せられた対象Pがスキャン空間Sを通過することで、そのような相対的なスキャンが実現される。
【0032】
このため、ライン検出器14Lには、例えば図2に示すように、複数の検出モジュールM1~Mmがそれぞれ相互に縦列方向(Y軸方向に対してθだけ傾いたY´方向)に所定間隔SPを空けて離散的に配置されている。この所定間隔SPは例えば一画素分(例えば200μm)の幅を有する。
【0033】
各検出モジュールM1(~Mm)が有する、Y軸方向に傾いて配置された2次元の画素群(Y´方向にn個(例えば20個)×それに直交した方向Z´にn個(例えば20個)が与えられる。このため、モジュールM1~Mmの相互間に物理的画素PXdの存在しない所定間隔SPの隙間を有するものの、「縦列方向Y´×その直交方向Z´」に「n個×(n×m)個」の細長い2次元配列の画素PXdから成る画素群が形成される。
【0034】
したがって、スキャンに伴って、ライン検出器14Lから一定のフレームレートで「n個×(n×m)個」の画素PXdから成る生のデジタル量のフレームデータが、光子計数型検出として設定されたエネルギーBIN毎(例えば3つのエネルギーBIN)に、パラレル・シリアル変換されてコントローラ15に順次転送される。
【0035】
ここで、上述した斜めの所定角度θは、後述する後処理としての画素サイズの縮小・拡大の演算処理の容易化のためである。具体的には、後述する図4に例示する如く、縮小する検出画素PXRSから成る画素群(再構成空間SPRS)において、横方向(行:Z軸方向)に8画素進むときに縦方向(列:Y軸方向)に1画素進むという、1行8列分の画素群の対角線DGを一方向とした直交座標の傾きに設定している。勿論、この角度θは他の値でも良い。例えば、1行4列分、1行8列分、1行16列分というように、画素群の対角線DGの角度を調整してもよい。この斜め角度(斜めスキャン)の目的は、モジュールM1~Mmの相互間に存在する隙間SPに検出画素が無いことによる検出データの不足を補うものであるので、どの角度θにするかについては適宜、選択的に設計できる事項である。
【0036】
以上の構成において、コントローラ15は、一定フレームレートで転送されてくる生フレームデータを受信し(ステップS1)、そのフレームデータの画素、つまり、ライン検出器14Lの物理的な検出画素PXdを縮小させてより小さいサイズの再構成画素PXRSに変換するか、又は、その検出画素PXdを拡大させてより大きいサイズの再構成画素PXRBに変換するか、デフォルト情報又はオペレータとの間のインターラクティブな操作情報に基づいて選択する(ステップS2)。
【0037】
この選択ステップS2で「画素縮小」が選択された場合、コントローラ15、具体的にはCPUは、同コントローラ内のメモリの再構成空間SPRSに予め設定した「小さい再構成画素サイズPXRS(<PXd)に斜め角度θを保った配置のままマッピングする(ステップS3)。例えば、図4に示す如く、ライン検出器14Lの検出画素PXdが200μm×200μmのサイズである場合、その小さい再構成画素サイズPXRSは100μm×100μm、50μm×50μmなどである。
【0038】
そこで、コントローラ15は、各再構成画素PXRSの面積を部分的又は全体的に占有する複数の検出画素PXdをその画素値と共に特定し、それらの情報を用いてサブピクセル法により各再構成画素PXRSの画素値を演算し、それを再構成空間SPRSの各画素PXRSに充足させる(ステップS4)。これにより、より小さい画素サイズを持った再構成空間SPRSにおけるフレームデータが作成される。

反対に、上述した選択ステップS2で「画素拡大」が選択された場合、コントローラ15、具体的にはCPUは、同コントローラ内のメモリの再構成空間SPRBに予め設定した「大きい再構成画素サイズPXRB(>PXd)に斜め角度θを保った配置のままマッピングする(ステップS5)。例えば、図5に示す如く、ライン検出器14Lの検出画素PXdが200μm×200μmのサイズである場合、その大きい再構成画素サイズPXRBは300μm×300μm、400μm×400μmなどである。この場合、とくに、検出画素PXdの縦横サイズをNとし、計数をk(1を超える正の数)としたときに、再構成画素サイズPXRBの「サイズ=k・N+1/2」に設定し、目的するサイズk・Nの周辺のマージンを持たせることが望ましい。マージン量「1/2」は勿論、他の値でもよい。
【0039】
次いで、コントローラ15は、各再構成画素PXRBの面積を部分的に占有する複数の検出画素PXdをその画素値と共に特定し、それらの情報を用いてサブピクセル法により各再構成画素PXRBの画素値を演算し、それを再構成空間SPRBの各画素PXRBに充足させる(ステップS6)。これにより、より大きい画素サイズを持った再構成空間SPRBにおけるフレームデータが作成される。
【0040】
このようにステップS4又はS6で縮小処理又は拡大処理された再構成空間のフレームデータはその都度、又は一定のタイミングで読み出されて、コントローラ15内の又は別体のデータプロセッサに出力される(ステップS7)。さらに、そのデータプロセッサにより、それらのサイズ変換されたフレームレート毎であって、X線エネルギーBIN毎のX線光子の計数値を反映させたフレームデータが処理される(ステップS8)。この処理には、透過像としての画像処理のほか、対象Pの検査部位にある物質の種類や性状などを特定する、所謂、物質同定なの処理も含まれる。
【0041】
<作用効果>
本実施形態によれば、X線光子数に基づくX線エネルギーBIN毎の検出データの処理過程において、検出画素PXdのサイズを持つフレームデータを、所望のサイズの画素から成る再構成空間に直接的にマッピングして、そのまま画素サイズを縮小・拡大したフレームデータに変換している。
【0042】
この直接マッピングによって、従来多く知られている斜めの直交座標系からスキャン方向を一軸とする直交座標系に置き換える複雑な手間を省き、演算処理量や演算時間を短縮できる。
【0043】
さらに、画素サイズの縮小・変換を後処理で行うことができるので、検出画素PXdを、より小さな画素サイズとして形成したり、より大きな画素サイズとして形成したりした検出器画素構造と同等の画素サイズのフレームデータを得ることができる。したがって、ある一定サイズの画素を検出器14Lに持たせばおけば、後処理で画素サイズ変換ができるので、用途によって異なる画素サイズの検出器を何種類も用意しなければならないという状況も著しく減る。つまり、検出器14Lの汎用性を高めることができ、装置トータルの製造コスト低減、市場へのアピール力アップにも貢献できる。
【0044】
また、画素サイズを縮小させた場合、フレームデータの解像度が向上して、より精細な画像生成や物質同定に寄与する。他方、画素サイズを拡大させた場合、一種のデータ圧縮法になり、メモリ容量を減らせるばかりか、画素値の平均化効果によってデジタルっぽさを通常の圧縮法よりも抑えられるとともに、統計ノイズを相対的に減らすことができる。画像サイズを縮小させるか拡大するかということは、アプリケーションの種類のみならず、診たい項目、検査したい項目等に応じて適宜、選択可能である。
なお、上述したコントローラ15の図3に示す処理において、ステップS2の処理は省略し、最初からステップS3又はS5を処理するスキームに変更してもよい。つまり、選択ステップを省いて、デフォルトによって画素サイズの縮小又は拡大をアプリケーションに応じて予め設定させてもよい。
【0045】
本発明においては、例えば現状のX線フラッパネル検出器が抱える課題を、スキャノグラム、つまりトモシンセシス(非破壊検査ではラミノグラフィということが多い)又は断層効果を伴わない撮影において、再構成空間の画素サイズ、スキャンに用いる縦長検出器(スキャンと直交する方向が長い)に一定の傾き角度を設定し、単位時間当たりの撮影フレーム数を最適化することで、下記のような課題を解決する。

(1)スキャノグラムにすることで、通常のフラットパネルより圧倒的に被写体からの散乱線を減らすことが出来る。特に光子計数型検出器の場合、物質同定を精度よく行うためには、散乱線を精度良く推定あるいは除去する必要があるため重要である。
(2)スキャノグラムにすることで、視野サイズをスキャン方向に加減できるために、撮影に必要な領域のみX線を照射すれば良い。あるいは視野サイズの拡大が容易。
(3)検出器のピクセルサイズより、任意に小さい、あるいは大きい再構成面のピクセルサイズに変更出来、解像度を撮影後の処理で変えることが出来るあるいはデータ量を制御できる。例えばマンモグラフィに適用する場合、悪性腫瘤を観察する場合、再構成を例えば200μm程度の画素で再構成して、微小石灰化が疑われる部位では、精査のため再構成を25~50m程度の画素で行うなどの工夫が出来る。
(4)検出器のピクセルサイズが大きいにも係わらず、解像度の高い画像が得られるために、フラットパネルより大幅にX線量を減らすことが可能。つまり一画素が200μmと大きな画素なので、入射光子数が例えば50μm画素の4倍にも関わらず、50μm画素に近い解像度が得られ、かつ統計量は200μm画素で撮影した状態である。
(5)画像上領域を設定し、再構成面のピクセルサイズを指定することで、全体を見るスクリーニングと、関心領域を設定し異常のある部分を高解像度に精査するソフトウエアで実現できる。
(6)光子計数型検出器を想定した場合、大きな画素(例えば200μm画素)でスキャノグラムにすることで、解像度の更に高いエリア検出器として、フラッパネルに相当する画像の撮影が可能である。光子計数型検出器の場合、特に直接変換型の検出素子を使い、画素を200μmより小さくしていくとチャージシェアリングが発生し、本来のエネルギー情報が隣接画素にまたがり検出され、正確なエネルギー情報の抽出には、隣接画素との出力の合算が伴い、回路ボリュームは大きくなる。そのために消費電力も極端に増加し現実的でない解決になる。その意味で200umは明らかに実装が容易で、消費電力も抑えられ、チャージシェアリングなどの実装の問題もない。
(7)更にスキャノグラムで実現することで、検出器の面積が小さくなるためにコストを安くできる。一般的に光子計数型検出器が例え、フラットパネルとして実装できたとして、コストが非常に割高で、市場投入が難しい、また技術的にも難易度が非常に高い。

したがって、本実施形態に係るX線検査システム11は、機能的にX線撮影装置を搭載している。このX線撮影装置は、その骨子として、
X線を発生させるX線発生装置と、
このX線発生装置から発生され、対象物を透過してきた前記X線を入射させる2次元配列の、各画素サイズが「N(μm) × M(μm)」の複数の画素を備えたX線検出器と、を備え、
前記X線検出器は、前記2次元配列の複数の画素を所定のスキャン方向に対して所定角度だけ傾けて配置され、
前記X線発生装置又は前記X線検出器の少なくとも一方と、前記対象物とを相対的に前記スキャン方向に移動させるとともに、当該移動中に所定周期で前記複数の画素それぞれが検出した前記X線の量を電気量の原フレームデータとして読み出すように構成されている。さらに、このX線撮影装置は、前記2次元配列の前記各画素から出力された前記所定周期毎の複数の前記原フレームデータを、各画素サイズが「N’μm × M’μm(N≠N’,M≠M)」を有し、前記スキャン方向を一軸とする直交座標系を成す再構成空間に直接マッピングするマッピング手段と、前記再構成空間上で、前記複数の前記原フレームデータをスキャノグラム法で再構成する再構成手段と、を備える。
【0046】
一例として、上述の構成において、前記再構成空間の画素サイズ「N’μm × M’μm」を、前記X線検出器の画素サイズ「N(μm) × M(μm)」に対して、N>N’,M>Mの大小関係、又は、N<N’,M<Mの大小関係の何れかを選択可能な設定手段を備える。
【0047】
ここで、前記X線検出器の画素サイズ「N(μm) × M(μm)」と前記再構成空間の画素サイズ「N’μm × M’μm」は、N>N’,M>Mの関係があるか、または、N<N’,M<Mの関係がある。
【0048】
また、一例として、前記X線検出器が傾けられる前記所定角度は、前記スキャン方向を、前記直交座標系における前記スキャン方向の画素数をA・N個(Aは正の整数)にとり、かつ、前記スキャン方向に直交する方向の画素数をB・M(Bは正の整数)にとったときの三角形が形成する対角線の方向に一致させる角度であってもよい。この場合、A=4,B=1であってもよいし、A=8,B=1であってもよい。
【0049】
更に、好適には、前記X線検出器は、前記X線の光子の数を当該X線の量として計数するように構成した光子計数型検出器である。この場合、前記X線検出器は、前記X線を直接、前記原フレームデータとして検出する直接変換型の検出器であってもよいし、前記X線を光信号に変換し、当該光信号を前記原フレームデータとして検出する間接変換型の検出器であってもよい。また、前記X線検出器は、前記X線を一定時間、積分して積分値を当該X線の量として検出する積分型検出器であることもある。
【0050】
さらに、また前記再構成手段により再構成された画像の一部に関心領域を設定する関心領域設定手段と、前記関心領域の分の、前記再構成に用いられた前記原フレームデータを特定する特定手段と、前記特定手段により特定された前記原フレームデータを、前記画素サイズ「N’μm × M’μm」とは異なる画素サイズで再度、再構成する再再構成手段と、を備えることも望ましい。
【0051】
このようなX線撮影装置は人体の口腔内を撮影する口内撮影スキャナーとしてもよいし、人体の乳房を撮影するマンモグラフィ撮影スキャナーであってもよい。前記X線撮影装置は人体の胸部を撮影する胸部撮影スキャナーや、体の全身の骨を対象部位とした整形撮影スキャナーであってもよい。
【0052】
前記X線撮影装置は在宅医療で使用可能な可搬型スキャナーとしても構築できるし、インライン型ラインスキャンナーであることを特徴とした非破壊検査用の装置としても構築できる。
【0053】
なお、本願発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、従来知られている構成と組み合わせて、本願の要旨を逸脱しない範囲で適宜実施できる。
図1
図2
図3
図4
図5