(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163759
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法及びそれに適した組成物、並びに2-アミノマロンアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 241/24 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
C07D241/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068790
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】川添 健太郎
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡便な操作かつ短い工程数で2-アミノマロンアミドを製造し、さらにこれを環化するという、工業的実施に好適な3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程(a)~(c)を順次行うことを特徴とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法を用いればよい。工程(a):マロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、クロロマロン酸エステル化合物を生成させる工程、工程(b):クロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い2-アミノマロンアミドを生成させる工程、工程(c):2-アミノマロンアミドにグリオキサールを作用させて環化させて3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを生成させる工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を順次行うことを特徴とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法。
(a):下記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、下記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を生成させる工程、
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
(b):一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、下記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドを生成させる工程、
【化3】
(c):化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドにグリオキサールを作用させて環化させることで、下記化学式(4)で表す3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを生成させる工程、
【化4】
【請求項2】
前記工程(a)において、塩素化剤と反応させた際に副生するジクロロマロン酸エステル化合物を分離することなく、次工程である前記工程(b)を行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
以下の工程を順次行うことを特徴とする2-アミノマロンアミドの製造方法。
(a):下記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、下記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を生成させる工程、
【化5】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
【化6】
(上記一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
(b):一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、下記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドを生成させる工程、
【化7】
【請求項4】
前記工程(a)において、塩素化剤と反応させた際に副生するジクロロマロン酸エステル化合物を分離することなく、次工程である前記工程(b)を行うことを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
各工程の中間生成物を単離することなく次の工程を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
原料である前記マロン酸エステル化合物から最終の目的生成物を得るまで、ワンポット合成を行うことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステルとを含む組成物であって、ジクロロマロン酸エステル化合物の含有量が、クロロマロン酸エステル化合物の含有量に対して、質量基準で0.01倍以上0.15倍以下であることを特徴とする組成物。
【請求項8】
請求項7記載の組成物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い(これを工程(b)とする。)、次いでグリオキサールを作用させる(これを工程(c)とする。)ことを特徴とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法。
【請求項9】
前記工程(c)における溶媒が、リン酸水溶液又はクエン酸水溶液であることを特徴とする請求項1、2又は8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法及びそれに適した組成物、並びに2-アミノマロンアミドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドは、医農薬中間体として有用な化合物であり、これまで種々の製造方法が検討されている。
【0003】
3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの合成方法として、例えば特許文献1には、2-アミノマロンアミドを含むリン酸緩衝液に対してグリオキサールと塩基とを滴下により同時に添加することを環化させる方法が提案されている。この原料となる2-アミノマロンアミドは、例えば特許文献2及び3の記載内容を組み合わせて、工業的に安価に入手可能なマロン酸ジエチルに亜硝酸ナトリウムを作用させてニトロソマロン酸ジエチルに変換した後、このニトロソマロン酸ジエチルを水素化還元してアミノマロン酸ジエチルに変換し、さらに、これをアンモニアでアミド化することにより得ることができる。理解の助けとして、この反応スキームを下記に示す。
【0004】
【0005】
しかしながら、この方法では、マロン酸ジエチルからニトロソ化、水素化還元及びアミド化の3工程を経て2-アミノマロンアミドを得て、最後に環化させて目的物の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを得るまで合計4工程を必要とする上、ニトロソ化の後には抽出操作、水素化還元後には触媒の除去操作、アミド化後には濾過操作、環化後には濾過操作による精製作業がそれぞれ必要になり、目的物を得るまで煩雑な操作を必要とする。
【0006】
一方、上記2-アミノマロンアミド合成の別法として、例えば特許文献4には、クロロマロン酸エステル化合物をアンモニアと反応させてアミノ化及びアミド化を同時に行う方法が知られている。しかしながら、この反応の原料となるクロロマロン酸エステル化合物を工業的に安価に入手可能なマロン酸エステル化合物から合成しようとする場合、特許文献5に記載されるように、マロン酸エステル化合物に塩化スルフリルのような塩素化剤を反応させればよいものの、この反応によれば目的物であるクロロマロン酸エステル化合物が、副生成物であるジクロロマロン酸エステル化合物との混合物として得られることになる(特許文献4の実施例1を参照)。理解の助けとして、この反応スキームを下記に示す。
【0007】
【0008】
クロロマロン酸エステル化合物とともに副生したジクロロマロン酸エステル化合物を除去する方法としては、例えば非特許文献1に記載されるように、この混合物をイソプロピルマグネシウムクロリドと反応させた後、塩酸水溶液で加水分解する方法が挙げられる。しかし、この操作は煩雑であるばかりでなく、高価な有機金属化合物を必要とする等、生産性の高い方法とは言い難い。また、クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステル化合物との沸点の差を利用して精密蒸留にてこれらを分留する方法も考えられるが、段数の高い蒸留塔を用いて長時間を掛けて分留する必要があるため、生産性の高い方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-241806号公報
【特許文献2】特開2011-26309号公報
【特許文献3】特開2010-241805号公報
【特許文献4】特開昭59-227844号公報
【特許文献5】国際公開2016/193822号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Organometallic Chemistry,1972,34,209-219.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡便な操作かつ短い工程数で2-アミノマロンアミドを製造し、さらにこれを環化するという、工業的実施に好適な3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、マロン酸ジエステル化合物を塩素化して、クロロマロン酸エステル化合物をジクロロマロン酸エステル化合物との混合物として得たとしても、特にこれらを分離せずにアンモニアでアミノ化及びアミド化してから環化反応を行うと、最終的には濾過という簡便な操作のみで目的とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを純度良く得られることを見出した。この方法によれば、特許文献1~3の記載を組み合わせた4工程のプロセスよりも1工程少ない3工程で、マロン酸エステル化合物から目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを得ることができる。また、この方法によれば、上記のようにクロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステル化合物とを分離しなくてもよいばかりでなく、各工程における精製操作を行わずとも最終的に純度の高い3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを得ることができるので、原料であるマロン酸エステル化合物から最終目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドまでをワンポット合成により得ることすら可能であることを本発明者は見出した。本発明は、以上の知見によりなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)本発明は、以下の工程を順次行うことを特徴とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法である。
(a):下記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、下記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を生成させる工程、
【化3】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
【化4】
(上記一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
(b):一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、下記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドを生成させる工程、
【化5】
(c):化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドにグリオキサールを作用させて環化させることで、下記化学式(4)で表す3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを生成させる工程、
【化6】
【0014】
(2)また本発明は、上記工程(a)において、塩素化剤と反応させた際に副生するジクロロマロン酸エステル化合物を分離することなく、次工程である上記工程(b)を行うことを特徴とする(1)項記載の製造方法である。
【0015】
(3)本発明は、以下の工程を順次行うことを特徴とする2-アミノマロンアミドの製造方法でもある。
(a):下記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、下記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を生成させる工程、
【化7】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
【化8】
(上記一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。)
(b):一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、下記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドを生成させる工程、
【化9】
【0016】
(4)また本発明は、上記工程(a)において、塩素化剤と反応させた際に副生するジクロロマロン酸エステル化合物を分離することなく、次工程である上記工程(b)を行うことを特徴とする(3)項記載の製造方法である。
【0017】
(5)また本発明は、各工程の中間生成物を単離することなく次の工程を行うことを特徴とする(1)項~(4)項のいずれか1項記載の製造方法である。
【0018】
(6)また本発明は、原料である上記マロン酸エステル化合物から最終の目的生成物を得るまで、ワンポット合成を行うことを特徴とする(1)項~(5)項のいずれか1項記載の製造方法である。
【0019】
(7)本発明は、クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステルとを含む組成物であって、ジクロロマロン酸エステル化合物の含有量が、クロロマロン酸エステル化合物の含有量に対して、質量基準で0.01倍以上0.15倍以下であることを特徴とする組成物でもある。
【0020】
(8)本発明は、(7)項記載の組成物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い(これを工程(b)とする。)、次いでグリオキサールを作用させる(これを工程(c)とする。)ことを特徴とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法でもある。
【0021】
(9)また本発明は、上記工程(c)における溶媒が、リン酸水溶液又はクエン酸水溶液であることを特徴とする(1)項、(2)項又は(8)項記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来よりも簡便な操作かつ短い工程数で2-アミノマロンアミドを製造し、さらにこれを環化するという、工業的実施に好適な3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第一実施態様及び第二実施態様、2-アミノマロンアミドの製造方法の一実施態様、並びに本発明の組成物の一実施形態についてそれぞれ説明する。なお、本発明は、以下の実施態様及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することが可能である。また、本明細書において「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれるものとする。
【0024】
<3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第一実施態様>
まずは、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第一実施態様について説明する。本実施態様の製造方法は、原料となるマロン酸エステル化合物より3段階の化学反応を経て目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを得るものであり、次の工程(a)~工程(c)を順次行うことを特徴とする。工程(a)は、下記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、下記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を生成させる工程であり、工程(b)は、工程(a)で得たクロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、下記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドを生成させる工程であり、工程(c)は、工程(b)で得た2-アミノマロンアミドにグリオキサールを作用させて環化させることで、下記化学式(4)で表す3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを生成させる工程である。下記に、これらの工程による反応スキームを示す。
【0025】
【0026】
既に述べたように、工程(a)は、マロン酸エステル化合物(1)に塩素化剤を作用させてクロロマロン酸エステル化合物(2)を得るものだが、このとき、ジクロロマロン酸エステル化合物が副生成物として合成される。本発明では、この工程で得たクロロマロン酸エステル化合物(2)を分離精製することなく、すなわち、クロロマロン酸エステル化合物(2)とジクロロマロン酸エステル化合物との混合物のまま次工程である工程(b)及び工程(c)を行ってもよいことを特徴とする。本発明の製造方法によれば、このような分離精製を行わずに工程(b)及び工程(c)を行ったとしても、最終目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミド(4)を簡単な精製操作により純度良く得られるとの知見によりなされたものである。このような効果の得られる理由は、必ずしも明らかではないが次のようなものと推察される。副生成物であるジクロロマロン酸エステル化合物は、工程(b)におけるアミノ化を受ける際に二つの反応点(すなわち二つの塩素原子)を備えることになるが、これら両方がアミノ化されると不安定なアミナール構造となり、この箇所がケトン又はイミン構造に変換されてアミノ基が導入されない。また、二つの反応点のうち片方のみにアミノ基が導入された場合には、そのアミノ基の導入効果により近傍の塩素原子がアミノ化を受けやすくなり、やはりケトン又はイミン構造に変換されてアミノ基が導入されないと考えられる。この結果、副生成物であるジクロロマロンアミド化合物は、工程(b)を経てもアミノ基が導入されないことになり、工程(c)による環化反応を受けない。環化した3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミド(4)と環化を受けなかった副生成物とでは溶媒に対する溶解性が大きく異なるので、最終目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミド(4)は、濾過という簡単な精製操作により純度良く得られることになる。
【0027】
なお、本発明では、工程(a)を経たクロロマロン酸エステル化合物を分離精製する必要がないばかりでなく、その後の工程(b)を経た2-アミノマロンアミドもまた分離精製せずに工程(c)を行うことができる。したがって、本発明の製造方法によれば、原料のマロン酸エステル化合物(1)から最終目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミド(4)までの工程(a)~工程(c)をワンポット合成により行うことも可能である。このように、本発明の製造方法によれば、特許文献1~3を組み合わせた4工程の合成経路よりも工程数が少なく済み、かつ途中工程での分離精製が不要な点で優れるといえる。勿論、工程(a)及び/又は工程(b)の終了時点でそれぞれの工程の目的物を分離精製して次の工程に進んでもよい。
【0028】
以下、工程(a)、工程(b)及び工程(c)の各工程についてそれぞれ説明する。
【0029】
[工程(a)]
工程(a)では、下記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を塩素化剤と反応させ、下記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を生成させる。すなわち、マロン酸エステル化合物の2位の炭素原子をクロロ化するのが本工程である。
【0030】
【0031】
上記一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基又はシクロアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。また、このようなシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。なお、R1及びR2は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0032】
これらアルキル基又はシクロアルキル基が有してもよい置換基としては、直鎖又は分岐の炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のシクロアルキル基、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルコキシ基、炭素数1~6のハロアルキル基、カルボキシル基又はその金属塩、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキルアミノ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキルカルボニルアミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基等が挙げられる。直鎖又は分岐の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。炭素数1~6のハロアルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基としては、ピリジル基、チエニル基、フラニル基が挙げられる。
【0033】
上記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物の好ましい例としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジ-n-プロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ-n-ブチル、マロン酸ジ-sec-ブチル、マロン酸ジイソブチル、マロン酸ジ-t-ブチル、マロン酸ジ-n-ペンチル、マロン酸ジ-n-ヘキシル、マロン酸ジシクロプロピル、マロン酸ジシクロブチル、マロン酸ジシクロペンチル、マロン酸ジシクロヘキシル、マロン酸ジベンジル等が挙げられる。これらの中でも、マロン酸ジエチルがより好ましく挙げられる。
【0034】
【0035】
上記一般式(2)におけるR1及びR2は、上記一般式(1)において述べたR1及びR2と同様である。
【0036】
塩素化剤としては、マロン酸エステル化合物の2位に塩素原子を導入できるものであれば特に限定されないが、塩素;塩化スルフリル、塩化チオニル等の硫黄オキシ塩化物;二塩化硫黄、二塩化二硫黄等の硫黄塩化物;次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム等の塩素のオキソ酸塩;オキシ塩化リン、五塩化リン、三塩化リン等のリン塩素化物;塩化アルミニウム、塩化亜鉛等の金属塩化物等が挙げられる。これらの中でも、入手性や取り扱いの簡便さ、溶解性、反応性等の観点から、塩化スルフリル等の硫黄オキシ塩化物や塩素が好ましく挙げられ、塩化スルフリル等の硫黄オキシ塩化物がより好ましく挙げられる。これらの塩素化剤は単独で、又は任意の割合で2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
塩素化剤の供給方法としては、落差又はポンプを用いる滴下を挙げることができるが、供給速度、すなわち滴下速度を調整できるものであれば特に限定されない。滴下時の滴下時間としては、上記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物と塩素化剤が反応して生成するクロロマロン酸エステル化合物(上記一般式(2))がさらなる塩素化を受ける等の副反応が十分抑制され、モノクロロ化反応を優先的に進行させるために反応系中における塩素化剤の濃度が希薄に保たれるものであればよい。このような滴下時間として1時間~30時間程度を好ましく挙げることができる。
【0038】
上記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物に対する塩素化剤の使用モル比としては、特に限定されないが、マロン酸エステル化合物を1としたときの塩素化剤のモル比が0.3~1.5程度であることを好ましく挙げられ、0.7~1.3程度であることをより好ましく挙げられ、0.9~1.2程度であることをさらに好ましく挙げられる。マロン酸エステル化合物を1としたときの塩素化剤のモル比が0.3以上であることにより、塩素化反応の転化率が向上することに伴う収率の向上が得られるので好ましく、マロン酸エステル化合物を1としたときの塩素化剤のモル比が1.5以下であることにより、副生成物であるジクロロマロン酸エステル類の生成比を抑えることができるので好ましい。
【0039】
本工程は無溶媒で実施してもよいが、反応を円滑に進行するために溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、反応を阻害せず、かつ生成物であるクロロマロン酸エステル類よりも低沸点のものであればよく、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロメタン等の含ハロゲン溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-デカン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの中でも、反応混合物を均一系とできるとの観点からはクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒が好ましく挙げられる。
【0040】
溶媒の量としては、反応系の撹拌が十分に行える量であればよいが、一例として、一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物1モルに対して、0~1L程度であることを好ましく挙げられ、0.05~0.5L程度であることをより好ましく挙げられる。
【0041】
本工程における反応温度としては、0℃から使用する溶媒の還流温度までという範囲を挙げられるが、反応性向上の観点からは40~100℃程度を好ましく挙げられる。反応速度や反応設備の都合上、溶媒の還流温度を変えるために加圧又は減圧条件下で実施してもよい。
【0042】
本工程の生成物は、反応終了後に減圧下で過剰の塩素化剤や塩化水素等の気体副生成物を除去することにより、分液操作等の頻雑な操作を行うことなく次工程である工程(b)に用いることができる。本工程に溶媒を用いた場合には、使用した溶媒を回収することにより、過剰の塩素化剤や塩化水素等の気体副生成物も同時に除去することができる。
【0043】
本工程の生成物は、上記一般式(2)で表されるクロロマロン酸エステル化合物と、副生成物であるジクロロマロン酸エステル化合物の混合物として得られる。本工程の生成物は、精密蒸留等の分離操作により上記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物を単離してもよいが、既に述べたように、分離操作を行うことなく次工程に用いてもよい。
【0044】
本工程の生成物は、次工程である工程(b)に付される。
【0045】
[工程(b)]
工程(b)では、上記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物にアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、下記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドを生成させる。すなわち、クロロマロン酸エステル化合物の2位の炭素原子に導入された塩素原子をアミノ基に転換するとともに、エステルをアミドに転換するのが本工程である。
【0046】
【0047】
本工程で用いるアンモニアとしては、アンモニア水又はアンモニアガスを挙げることができる。これらは、単独で、又は任意の割合で混合して用いてもよい。
【0048】
上記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物に対するアンモニアの使用モル比としては、特に限定されないが、クロロマロン酸エステル化合物を1としたときのアンモニアのモル比が0.1~100程度であることを好ましく挙げられ、1~20程度であることをより好ましく挙げられ、3~10程度であることをさらに好ましく挙げられる。
【0049】
本工程では、反応を円滑に進めるために溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、アンモニア水又は水が好ましく挙げられる。溶媒としてアンモニア水を用いると、これが反応剤を兼ねるのでより好ましい。
【0050】
溶媒の量としては、反応系の撹拌が十分に行える量であればよいが、一例として、一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物1モルに対して、0~10L程度であることを好ましく挙げられ、0.02~1L程度であることをより好ましく挙げられる。
【0051】
本工程における反応温度としては、0℃から使用する溶媒の還流温度までという範囲を挙げられるが、反応性向上の観点からは30~60℃程度を好ましく挙げられる。反応速度や反応設備の都合上、アンモニアの飛散を抑えるために加圧もしくは密封条件下で実施してもよい。
【0052】
本工程における反応時間は、1~24時間程度が好ましく挙げられ、5~12時間程度がより好ましく挙げられる。
【0053】
本工程が終了した後、濾過等の分離操作により上記化学式(3)で表すアミノマロンアミドを単離してこれを次工程に用いてもよいし、減圧下で反応液からアンモニアを脱気してこれを次工程に用いてもよい。
【0054】
本工程の生成物は、次工程である工程(c)に付される。
【0055】
[工程(c)]
工程(c)では、上記化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドにグリオキサールを作用させて環化させることで、下記化学式(4)で表す3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを生成させる。すなわち、2-アミノマロンアミドにグリオキサールを作用させて環化させるのが本工程である。
【0056】
【0057】
より具体的には、本工程では、化学式(3)で表す2-アミノマロンアミドとグリオキサールとを塩基の存在下で反応させる。このとき、グリオキサールを2-アミノマロンアミドに添加してから塩基を供給してもよいし、2-アミノマロンアミドにグリオキサールと塩基とを同時に供給してもよい。供給方法としては、落差又はポンプを用いる滴下が一般的であるが、供給速度、すなわち滴下速度を調整できるものであれば特に限定されない。滴下時の滴下時間は、2-アミノマロンアミドとグリオキサールとが反応して副反応が十分に抑制され、環化反応を優先的に進行させるために反応系中におけるグリオキサールの濃度が希薄に保たれるものであればよい。このような滴下時間として1~30時間程度を好ましく挙げることができる。
【0058】
グリオキサールは、単体でも水溶液であってもよい。2-アミノマロンアミドに対するグリオキサールの使用モル比としては、特に限定されないが、2-アミノマロンアミドを1としたときのモル比が0.1~10程度であることを好ましく挙げられ、0.5~5程度であることをより好ましく挙げられ、1~1.5程度であることをさらに好ましく挙げられる。
【0059】
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が好ましく挙げられ、水酸化ナトリウムがより好ましく挙げられる。
【0060】
2-アミノマロンアミドに対する塩基の使用モル比としては、特に限定されないが、2-アミノマロンアミドを1としたときのモル比が0.1~10程度であることを好ましく挙げられ、0.5~5程度であることをより好ましく挙げられ、1~3程度であることをさらに好ましく挙げられる。
【0061】
本工程では、反応を円滑に進めるために溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、水、リン酸水溶液又はクエン酸水溶液が好ましく挙げられる。溶媒としてリン酸水溶液又はクエン酸水溶液を用いる場合、その濃度としては1~10質量%程度を好ましく挙げられる。
【0062】
溶媒の量としては、反応系の撹拌が十分に行える量であればよいが、一例として、2-アミノマロンアミド1モルに対して、0~10L程度であることを挙げられ、0.02~1L程度であることをより好ましく挙げられる。
【0063】
本工程における反応温度としては、0℃から使用する溶媒の還流温度までという範囲を挙げられるが、反応性向上の観点からは0~40℃程度を好ましく挙げられる。
【0064】
本工程における反応時間は、1~24時間程度が好ましく挙げられ、1~15時間程度がより好ましく挙げられる。
【0065】
本工程が終了した後、酸を用いて反応溶液を中和してから濾過操作を行うことで、目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを容易に単離することができる。この中和に用いる酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸;酢酸、クエン酸等のカルボン酸;リン酸等が挙げられ、これらの中でも、塩酸、硫酸等の無機酸もしくはリン酸が好ましく挙げられる。これらの酸は単独で、又は任意の割合で2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本実施態様によれば、上記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を原料として、工程(a)、工程(b)及び工程(c)の3工程を経て、特別な反応装置を用いることなく、穏やかな条件下で、目的とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを高選択的に効率良く、しかも簡便な操作で安価に製造することができる。なお、その際、各中間体は必ずしも単離する必要はなく、全ての工程をワンポット合成として行うことも可能である。得られる3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドは、医農薬中間体として有用な化合物である。
【0067】
<3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第二実施態様>
次に、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第二実施態様について説明する。本実施態様の製造方法は、クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステルとを含む組成物であって、ジクロロマロン酸エステル化合物の含有量が、クロロマロン酸エステル化合物の含有量に対して、質量基準で0.01倍以上0.15倍以下である組成物を用い、この組成物に対してアンモニアを作用させてアミノ化及びアミド化を行い、次いでグリオキサールを作用させることを特徴とする。すなわち、この組成物に対して、上記第一実施態様における工程(b)及び工程(c)を順次行うことで、目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造を行う。工程(b)及び工程(c)については、上記第一実施態様にて説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0068】
なお、工程(b)を経て得た中間体である2-アミノマロンアミドは、分離精製を行わなくとも次の工程である工程(c)に付すことが可能である。このことも上記第一実施態様の説明で既に述べた通りである。したがって、本実施態様の製造方法もまた、上記第一次態様と同様にワンポット合成により最終目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを得ることが可能である。
【0069】
本実施態様にて原料として用いる組成物は、クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステルとを含み、ジクロロマロン酸エステル化合物の含有量が、クロロマロン酸エステル化合物の含有量に対して、質量基準で0.01倍以上0.15倍以下である。この組成物は、上記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を原料として、上記第一実施態様における工程(a)を行うことにより調製することができる。工程(a)については、上記第一実施態様にて説明した通りなので、ここでの説明を省略する。なお、この組成物は、上記工程(a)とは異なる方法で調製されたものであってもよい。
【0070】
<2-アミノマロンアミドの製造方法>
次に、本発明の2-アミノマロンアミドの製造方法の一実施態様について説明する。本実施態様の製造方法は、原料となるマロン酸エステル化合物より2段階の化学反応を経て目的物である2-アミノマロンアミドを得るものであり、既に説明した3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第一実施態様における工程(a)及び工程(b)を順次行うものである。これら工程(a)及び工程(b)については、既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0071】
既に述べたが、上記一般式(1)で表すマロン酸エステル化合物を原料として、工程(a)により塩素化を行うと、上記一般式(2)で表すクロロマロン酸エステル化合物とともに、副生成物であるジクロロマロン酸を生じる。したがって、工程(a)によって得た生成物は、クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステル化合物との混合物となるが、この混合物のまま、特に分離精製を行うことなく次の工程(b)を行うことで目的物である2-アミノマロンアミドを得ることができる。すなわち、本実施態様の製造方法によれば、ワンポット合成により、原料であるマロン酸エステル化合物から目的物である2-アミノマロンアミドを得ることが可能である。
【0072】
<組成物>
次に本発明の組成物の一実施形態について説明する。本発明の組成物は、クロロマロン酸エステル化合物とジクロロマロン酸エステルとを含み、ジクロロマロン酸エステル化合物の含有量が、クロロマロン酸エステル化合物の含有量に対して、質量基準で0.01倍以上0.15倍以下であることを特徴とする。これは、上記本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の第一実施態における工程(a)を行うことで得られるものであり、既に説明したように、2-アミノマロンアミドや3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを製造するための原料として用いることができる。つまり、この組成物を原料として上記工程(b)を行うことで2-アミノマロンアミドが得られ、この組成物を原料として上記工程(b)及び工程(c)を順次行うことで3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドが得られる。これらのことについては既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【実施例0073】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
[クロロマロン酸ジエチルの調製(実施例1)]
マグネットスターラー、滴下ロート、還流管及び苛性トラップを備えた200mlフラスコにマロン酸ジエチル80g(0.5mol)のクロロベンゼン溶液(100mL)を加えて60℃に加熱し、1時間掛けて塩化スルフリル74.2g(0.55mol)を滴下した。1時間熟成後、減圧下でクロロベンゼンを留去し、95.4gのオイルを得た。このオイルの組成は、ガスクロマトグラフィー面積値で、マロン酸ジエチルが1%、クロロマロン酸ジエチルが88%、ジクロロマロン酸ジエチルが10%だった。なお、この実施例1は、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の工程(a)に相当する。
【0075】
[2-アミノマロンアミドの調製(実施例2)]
マグネットスターラー及び風船を備えた100mlフラスコに25%アンモニア水34g(0.5mol)及び実施例1で得たオイル19.4g(クロロマロン酸ジエチルとして約0.09mol)を加えて室温で1時間撹拌した後、50℃で4時間攪拌し、内容物を冷却し濾過した。濾別したものを乾燥し7.5gの乳白色結晶を得た。この結晶中の2-アミノマロンアミドの純度は質量換算で98.8%だった。マロン酸ジエチルからの2工程での収率は63%だった。なお、実施例2は、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の工程(b)に相当する。
【0076】
[3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの調製1(実施例3)]
マグネットスターラーを備えた100mlフラスコに水6g及び実施例2で得た2-アミノマロンアミド1.17g(10mmol)を加えてこれらを懸濁させてから、氷浴下5℃以下で40%グリオキサール水溶液1.74g(12mmol)を加え、次いで28%水酸化ナトリウム水溶液2.86g(20mmol)を加えて20℃で4時間攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を添加した直後に反応液は均一となり、その後は徐々に再度スラリー化した。その後、塩酸及び重曹を加え中和したところ、内容物は濃スラリーとなり、これに水を加えて濾過することで固体を分取した。得られた固体を水で洗浄し、次いでアセトンで洗浄してから乾燥することで1.04gの淡黄色結晶を得た。そして、この結晶中の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの純度は99%だった。この反応の収率は75%だった。得られた固体のLCMSを測定したところ、m/z138[M-1]にピークを観察した。なお、実施例3は、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の工程(c)に相当し、反応溶媒を水としたものである。
【0077】
上記実施例1~3に示す通り、本発明によれば、簡便な手順で純度の良い3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドが得られることがわかる。
【0078】
[3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの調製2(実施例4)]
マグネットスターラーを備えた100mlフラスコに水6g及びリン酸0.18g(1.6mmol)を加えて溶解させ、これに実施例2で得たアミノマロンアミド1.17g(10mmol)を加えてこれらを懸濁させてから、氷浴下5℃以下で40%グリオキサール水溶液1.74g(12mmol)を加え、次いで28%水酸化ナトリウム水溶液2.86g(20mmol)を加えて20℃で4時間攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を添加した直後に反応液は均一となり、その後は徐々に再度スラリー化した。その後、塩酸を加えて中和させ、濾過することで固体を分取した、得られた固体を水で洗浄し、次いでアセトンで洗浄してから乾燥することで1.10gの淡黄色結晶を得た。この結晶中の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの純度は98%だった。そして、この反応の収率は収率79%だった。なお、実施例4は、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の工程(c)に相当し、反応液をリン酸水溶液としたものである。
【0079】
[3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの調製3(実施例5)]
マグネットスターラーを備えた100mlフラスコに水6g及びクエン酸一水和物0.31g(1.5mmol)を加えて溶解させ、これに実施例2で得たアミノマロンアミド1.17g(10mmol)を加えてこれらを懸濁させてから、氷浴下5℃以下で40%グリオキサール水溶液1.74g(12mmol)を加え、次いで28%水酸化ナトリウム水溶液2.86g(20mmol)を加えて20℃で4時間攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を添加した直後に反応液は均一となり、その後は徐々に再度スラリー化した。その後、塩酸を加えて中和させ、濾過することで固体を分取した、得られた固体を水で洗浄し、次いでアセトンで洗浄してから乾燥することで1.07gの淡黄色結晶を得た。この結晶中の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの純度は99%だった。そして、この反応の収率は収率77%だった。なお、実施例5は、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の工程(c)に相当し、反応液をクエン酸水溶液としたものである。
【0080】
[3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの調製4(実施例6)]
マグネットスターラーを備えた100mlフラスコに25%アンモニア水17g(250mmol)及び実施例1で得たオイル9.75g(クロロマロン酸ジエチルとして約45mmol)を加えて氷浴下で1時間撹拌することで結晶の析出を確認した後、40~50℃で6時間攪拌した。得られた水溶液から減圧下で約7mLの水を回収した。次いで25mLの水を加え、氷浴下5℃以下で40%グリオキサール水溶液8.7g(60mmol)を加え、その後24%水酸化ナトリウム水溶液25g(150mmol)を加え、徐々に室温に戻しながら15時間攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を添加した直後に反応液は均一となり、その後は徐々に再度スラリー化した。その後、塩酸及び重曹を加えて中和させ、濾過することで固体を分取した、得られた固体を水で洗浄し、次いでアセトンで洗浄してから乾燥することで3.9gの淡黄色結晶を得た。この結晶中の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの純度は97%だった。そして、マロン酸ジエチルからの3工程での収率は55%だった。なお、実施例6は、本発明の3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの製造方法の工程(b)及び工程(c)を連続して、中間生成物を分離精製せずに行ったものである。また、実施例6では実施例1で得たオイルを原料とし、このオイルが未精製のものであることを考えると、実施例1及び6では、原料となるマロン酸ジエチルを出発原料として中間生成物を分離精製せずに目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを得たことになり、このような簡便な手順により得た3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの純度は97%という高いものだったことになる。
【0081】
また、実施例1及び6での操作を考えると、本発明の製造方法によれば、原料であるマロン酸ジエチルから目的物である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドまでをワンポット合成により調製できることが理解される。
【0082】
上記の実施例に示す通り、本発明によれば、原料として入手容易な一般式(1)で表さすマロン酸エステル化合物から、クロロ化反応、アミノ化及びアミド化反応、並びに環化反応を経て、特殊な反応装置および頻雑な精製操作を用いることなく、穏やかな条件下で、目的とする3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを高選択的かつ実用的な収率で、しかも簡便な操作で製造できる上、触媒若しくは遷移金属に由来する有害な廃棄物も排出せずに製造することができる。このように、本発明は、廃棄物処理が容易で環境にも優しく、工業的な利用価値が高いということができる。