(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163764
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】スラブ軌道における填充層の補修方法
(51)【国際特許分類】
E01B 37/00 20060101AFI20221020BHJP
E01B 1/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
E01B37/00 C
E01B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068797
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 咲
(72)【発明者】
【氏名】神津 大輔
【テーマコード(参考)】
2D056
2D057
【Fターム(参考)】
2D056AA05
2D057CA04
2D057CA05
(57)【要約】
【課題】短時間にスラブ軌道の路盤コンクリートと軌道スラブとの間の填充層としてのCAモルタル層を広範囲にわたって補修する作業を実施することができる填充層の補修方法を提供する。
【解決手段】スラブ軌道において路盤コンクリートと軌道スラブの間に設けられている填充層を、スラブ軌道の側方から掘削して補修材を充填する填充層の補修方法において、填充層をスラブ軌道の側方から所定の奥行深さまで掘削する第1工程と、軌道スラブの側面に該軌道スラブの側部の沈み込みを防止する沈み込み防止手段を取り付ける第2工程と、第1工程により掘削された空間内に背部に複数の弁を備えた補修用袋を、弁が前記空間の奥部に対向するように挿入する第3工程と、補修用袋へ補修材を充填し硬化させることで補修体を生成する第4工程と、第2工程により軌道スラブの側面に取り付けられた沈み込み防止手段を取り外す第5工程と、を含むようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ軌道において路盤コンクリートと軌道スラブの間に設けられている填充層を、スラブ軌道の側方から掘削して補修材を充填するスラブ軌道における填充層の補修方法であって、
前記填充層をスラブ軌道の側方から所定の奥行深さまで掘削する第1工程と、
前記軌道スラブの側面に該軌道スラブの側部の沈み込みを防止する沈み込み防止手段を取り付ける第2工程と、
前記第1工程により掘削された空間内に、該空間に対応した大きさを有し背部に複数の弁を備えた補修用袋を、前記弁が前記空間の奥部に対向するように挿入する第3工程と、
前記補修用袋へ補修材を充填し硬化させることで補修体を生成する第4工程と、
前記第2工程により前記軌道スラブの側面に取り付けられた前記沈み込み防止手段を取り外す第5工程と、
を含むことを特徴とするスラブ軌道における填充層の補修方法。
【請求項2】
第4工程においては、前記補修用袋の前面側であって長手方向の中央より前記補修材を注入することを特徴とする請求項1に記載のスラブ軌道における填充層の補修方法。
【請求項3】
前記補修用袋は、前記補修材が充填された状態で、前記軌道スラブの長手方向の長さよりも大きな長さを有するように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスラブ軌道における填充層の補修方法。
【請求項4】
前記沈み込み防止手段は、前記軌道スラブの側面に一対の固定用ボルトにより固着された留め金具と、前記留め金具に螺合された鉛直方向の保持ボルトと、により構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のスラブ軌道における填充層の補修方法。
【請求項5】
前記一対の固定用ボルトは、前記軌道スラブの側面に予め設けられている吊り下げ用の治具を固定するためのボルトが止着される一対のボルト穴を利用して前記留め金具を前記軌道スラブの側面に固着することを特徴とする請求項4に記載のスラブ軌道における填充層の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブ軌道の補修技術に関し、特に路盤コンクリートと軌道スラブの間に設けられている填充層としてのCAモルタル層(セメントアスファルトモルタル)層を補修する填充層の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラブ軌道には、路盤コンクリートとその上方に敷設されたコンクリート板からなる軌道スラブとの間に緩衝機能を有するCAモルタル製のてん充層が設けられている。従来、このCAモルタル層には、型枠を設けその内側への充填剤を注入して硬化させる型枠方式で造られたものと、不織布製の袋にモルタルを注入したロングチューブで造られたものとがある。
このうち、ロングチューブ方式のCAモルタル層を介在させた軌道スラブの築造方法に関する発明としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
【0003】
近年、積雪寒冷地域のスラブ軌道においては、融雪のために散水した水や雨水がCAモルタル層に浸み込み凍結融解を繰り返すことで、CAモルタル層の劣化が進行している。そこで、CAモルタル層の劣化が少ないスラブ軌道部分では、CAモルタル層が露出している側面部分に樹脂をコーティングすることで、CAモルタル層に水が浸み込むことを防ぐ対策が講じられている。
一方、CAモルタルの劣化がかなり進んでいるスラブ軌道部分では、掘削機によって、CAモルタル層の側面から比較的奥の方までモルタルを掘削し除去した後、補修材を注入してCAモルタル層を補修する工事が行われている。なお、ロングチューブ方式のCAモルタル層の場合、表面を覆う不織布も除去する必要があるため、それに適したスラブ軌道補修用研削装置も開発されている。
【0004】
また、従来、スラブ軌道における充填層(CAモルタル層)の補修装置や補修方法に関する発明として、特許文献2や3に記載されている発明がある。
このうち、特許文献2の発明は、路盤コンクリートと軌道スラブの間の填充層を側方より掘削してから、軌道スラブの外側に型枠を設けた後に、レール上に載置された走行式の充填層補修装置が備えるミキサのノズルから型枠の内側へ2液混合式の充填剤を注入して硬化させ、その後型枠を撤去するというものである。
【0005】
特許文献3の発明は、劣化したCAモルタル層を軌道スラブの周囲から水平方向の適宜深さまで除去することにより軌道スラブの外周に開口する空隙を形成し、空隙に外側から補修用袋を装填した後、補修用袋に補修用充填剤を注入して補修用袋を膨張させ、空隙の少なくとも上面および下面に密着固定させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-203178号公報
【特許文献2】特開2015-224418号公報
【特許文献3】特開2012-180634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載されている填充層補修方法の場合、路盤コンクリートへの型枠の設置作業と撤去作業が必要であるため、作業工程が多く、かなりの時間と費用がかかるという課題がある。
一方、上記特許文献3の填充層補修方法の場合、型枠の設置と撤去の作業が不要であるという利点があるものの、CAモルタル層を部分的に除去することにより生じた空隙に、複数の補修用袋を挿入し、補修用袋内に充填剤を順次注入するという繰り返し作業を行う必要がある。
【0008】
また、特許文献3の填充層補修方法においては、補修用袋を挿入した空隙の奥部に残存する隙間を埋めるため、予め軌道スラブに上下方向の注入孔を設けておいて、充填剤を注入するようにしているため、依然として多くの時間がかかり費用が充分に低減されないという課題がある。
しかも、CAモルタル層を広範囲にわたって掘削した場合、充填剤が硬化するまでの間に軌道スラブの両側部が沈み込むおそれがあるため、軌道スラブの沈み込みを防止する工事をしておく必要があり大規模補修には向いていないという課題がある。
【0009】
本発明は、上記のような背景のもとになされたもので、スラブ軌道の路盤コンクリートと軌道スラブとの間の填充層としてのCAモルタル層を広範囲にわたって、短時間にかつ低コストで補修することができるスラブ軌道における填充層の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明は、
スラブ軌道において路盤コンクリートと軌道スラブの間に設けられている填充層を、スラブ軌道の側方から掘削して補修材を充填するスラブ軌道における填充層の補修方法であって、
前記填充層をスラブ軌道の側方から所定の奥行深さまで掘削する第1工程と、
前記軌道スラブの側面に該軌道スラブの側部の沈み込みを防止する沈み込み防止手段を取り付ける第2工程と、
前記第1工程により掘削された空間内に、該空間に対応した大きさを有し背部に複数の弁を備えた補修用袋を、前記弁が前記空間の奥部に対向するように挿入する第3工程と、
前記補修用袋へ補修材を充填し硬化させることで補修体を生成する第4工程と、
前記第2工程により前記軌道スラブの側面に取り付けられた前記沈み込み防止手段を取り外す第5工程と、を含むようにしたものである。
【0011】
上記のような手順に従った方法によれば、軌道スラブの側面に沈み込み防止手段を取り付けてから補修用袋を掘削空間へ挿入し補修材を充填し硬化させることで補修体(ロングチューブ)を生成するので、軌道スラブの側部の沈み込みを防止しつつ補修材を充填することができるため、路盤コンクリートと軌道スラブとの間の填充層(CAモルタル層)を広範囲にわたって補修することができる。また、路盤コンクリートへの型枠の設置作業と撤去作業が必要であるため、作業時間と費用を低減することができる。さらに、短時間に補修作業を完了することができるため、夜間の営業列車が走行しない時間帯に補修作業を実施することが可能となる。
【0012】
ここで、望ましくは、第4工程においては、前記補修用袋の前面側であって長手方向の中央より前記補修材を注入するようにする。
かかる方法によれば、補修用袋の前面側であって長手方向の中央より注入された補修材が前後方向へ移動しつつ掘削空間の奥部へ流出するため、掘削空間の奥部の中央に補修材のない空洞が生じスラブ構造が脆弱になるのを防止することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記補修用袋は、前記補修材が充填された状態で、前記軌道スラブの長手方向(前後方向)の長さよりも大きな長さを有するように形成しておく。
かかる方法によれば、軌道スラブの長さよりも補修用袋の長さの方が長いため、補修用袋に注入された補修材が掘削空間の奥部へ流出し奥部の壁に沿って前後へ移動して隣接する軌道スラブ境界に達した際に、補修用袋の端部が隣接する補修用袋の端部と接することで障壁となり、補修材が軌道スラブの外側方へ漏れ出すのを防止することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記沈み込み防止手段は、前記軌道スラブの側面に一対の固定用ボルトにより固着された留め金具と、前記留め金具に螺合された鉛直方向の保持ボルトと、により構成されているようにした。
かかる方法によれば、簡単に実績のある沈み込み防止手段を軌道スラブに取り付けて、補修材が硬化するまでの間、軌道スラブの両側部が沈み込むのを防止し、軌道スラブの上面が補修前よりも低くなってしまうのを回避することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記一対の固定用ボルトは、前記軌道スラブの側面に予め設けられている吊り下げ用の治具を固定するためのボルトが止着される一対のボルト穴を利用して前記留め金具を前記軌道スラブの側面に固着するようにする。
かかる方法によれば、平板スラブを有するスラブ軌道の填充層としてのモルタル層を補修する場合に、何ら平板スラブを加工することなく補修を行うことができるため、作業工数を減らせるとともに平板スラブの強度が低下するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るスラブ軌道における填充層の補修方法によれば、軌道スラブに悪影響を与えることなく、スラブ軌道の路盤コンクリートと軌道スラブとの間の填充層としてのCAモルタル層を広範囲にわたって、短時間にかつ低コストで補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る填充層としてのCAモルタル層の補修方法の適用対象であるスラブ軌道の構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明を適用した大規模補修によるスラブ軌道の構造の一例を示す斜視説明図である。
【
図3】(A)はCAモルタル層の掘削空間へ挿入されるロングチューブの内側面の様子を示す斜視図、(B),(C)はそれぞれロングチューブの内側面に設けられる弁の具体例を示す斜視図である。
【
図4】(A)はロングチューブ内に補修材を注入した後に軌道スラブの重量を支える手段の具体例を示す斜視図、(B)は軌道スラブの重量を支える手段の他の具体例を示す説明図である。
【
図5】(A)は最初のスラブ軌道構築時における平板スラブの持ち上げ方を示す斜視図、(B)は平板スラブの側面の留め金具を外した後の状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るスラブ軌道における填充層としてのCAモルタル層の補修方法の実施形態について詳細に説明する。
図1には、本発明に係る填充層の補修方法の適用対象であるスラブ軌道の構造が示されている。
図1に示されているように、スラブ軌道は、図示しないコンクリート床版の上に軌道延設方向に沿って設けられた所定の厚さの路盤コンクリート11と、この路盤コンクリート11上にCAモルタル層12を介して軌道スラブ13(長さ4.95m, 幅2. 34m, 厚さ16cm)が敷設された構造を有している。なお、CAモルタル層12の幅は軌道スラブ13の幅と同じである。
【0019】
軌道スラブ13は、上面視で矩形状をなす複数のコンクリート板をレール延設方向に並べることで構成されており、軌道スラブ13上にレール20が延設され、レール20はレール締結器21によって軌道スラブ13に締結されている。
より詳細には、路盤コンクリート11の中央に所定の間隔をおいて、円柱状の係止突起14が設けられ、軌道スラブ13を構成する各矩形状のコンクリート板の前端中央と後端中央にはそれぞれ上記係止突起14の径よりも若干大きな径を有する半円筒状の切欠きが形成されており、この切欠きに係止突起14が係合することによって軌道スラブ13を構成するコンクリート板が位置決めされるように構成されている。なお、係止突起14の外周と軌道スラブ13との間には充填剤15が注入、硬化されることで隙間が埋められている。
【0020】
CAモルタル層12には、型枠方式で造られたものと、不織布製の袋にCAモルタルを注入したロングチューブで造られたものとがある。ロングチューブ方式のCAモルタル層12は、路盤コンクリート11と軌道スラブ13との隙間にロングチューブ用の袋を設置し、袋の一方に設けた注入口からセメントアスファルト混合物をチューブ全体に充填するように注入し、硬化後に軌道スラブ13から側方へ突出している注入口の端部を切り取ることで構成される。ロングチューブ用の袋には、例えばポリエステルや、ポリエチレンテレフタレートなどからなる長繊維不織布等で形成されたものが用いられている。
【0021】
ロングチューブ用の袋に注入されるセメントアスファルト混合物には、例えばセメント/アスファルト/細骨材を所定の比率で含有するものが使用されている。アスファルト成分はアスファルト乳剤として添加され、水分が抜けて固まると弾性体として靭性を呈することとなる。 なお、ロングチューブの耐候性を向上するために、ロングチューブの側面が耐光処理されることがある。
【0022】
ここで、耐光処理としては、不織布を構成する繊維の耐光性を向上させる方法、ロングチューブ側面を含む表面を耐光性樹脂で被覆する方法、ロングチューブ側面をアスファルトで完全に被覆する方法などがある。
このうち、不織布の構成繊維の耐光性を向上させる方法としては、構成繊維に耐光剤を混入して繊維化する方法がある。一方、ロングチューブ側面を含む表面を耐光性樹脂で被覆する方法としては、例えば、セメントアスファルト混合物をロングチューブに注入後に、露出するロングチューブ側面にアクリル系耐光性塗料などを塗布する方法などがある。
【0023】
上記のような構成を有するCAモルタル層12が劣化した場合には、前述したように、劣化の程度に応じて部分補修または大規模補修(大断面はつり補修)が行われる。本発明は、このうち、大規模補修を対象とするものである。実施形態における大規模補修は、幅約2.5mの軌道スラブ13に対して、その下方のCAモルタル層12を、両側からそれぞれおよそ70cm奥まで掘削して、新たに填充層を形成することで行われる。CAモルタル層12の掘削深さは70cm前後に限定されるものではない。
【0024】
以下、大規模補修によるスラブ軌道の構造と方法について詳しく説明する。
図2には、本発明を適用した大規模補修によるスラブ軌道の構造の一例が示されている。
図2に示されているように、本実施形態のスラブ軌道の補修は、軌道スラブ13の下方のCAモルタル層12の両側部をそれぞれレール延設方向に沿って掘削して生じた空間に、上面視で短冊状をなし内部に補修材が充填されたロングチューブ16A,16Bをそれぞれ介在させるようにしたものである。
【0025】
なお、
図2においては、軌道スラブ13がCAモルタル層12から離間しているように示されているが、実際の工事では軌道スラブ13を持ち上げることはせず、CAモルタル層12の両側部をそれぞれ掘削することでロングチューブ16A,16Bを挿入するための空間が形成される。また、ロングチューブ16A,16Bは、CAモルタル層12の両側部を掘削した後に、ロングチューブを形成する補修用袋を掘削空間に挿入してから、袋の中に未硬化のCAモルタル等の補修材を注入し硬化させることで形成する方法を採用するため、ロングチューブ16A,16Bの人手による取り扱いが容易であり、軌道内への大型の機械や重機の持ち込みが不要となる。
【0026】
なお、上記のように、CAモルタル層12を掘削し内部に補修用袋を挿入し補修材を注入してロングチューブ16A,16Bを形成する方式の場合、CAモルタル層を広範囲にわたって掘削すると、軌道スラブ13の両側部が自身の重量で沈み込みその状態のまま補修材が硬化すると、軌道スラブ13の上面が補修前よりも低くなってしまうというリスクがある。そこで、本実施形態においては、そのようなリスクを回避するため、補修材が完全に硬化するまで、軌道スラブ13の重量を支える手段を一時的に設置することとした。
【0027】
また、最初に形成したCAモルタル層は、ロングチューブを使用していない平板スラブのスラブ軌道もロングチューブを使用した型枠スラブのスラブ軌道も、前後方向に隣接する軌道スラブ13に対応してCAモルタル層同士の間に隙間のある構造であったが、本実施形態においては、ロングチューブ16A,16Bとして、従来のロングチューブよりも前後方向に長いものを使用し、補修材の注入が終了した際に、前後方向(レール延設方向)に隣接するロングチューブ同士が接触する構造となるようにした。
【0028】
そして、使用するロングチューブ16A(16Bも同様)には、
図3(A)に示すように、掘削空間の奥部に対向する側の面すなわち背面に所定の間隔をおいて複数の弁16bを設けておく。また、ロングチューブ16Aの前面側の前後方向中央に、セメントアスファルトの注入口16cを設けておくようにした。これにより、補修用袋の中央より注入された補修材が前後方向へ移動しつつ背面の弁16bより掘削空間の奥部へ流出するため、掘削空間の奥部の中央に補修材のない空洞が生じてスラブ構造が脆弱になるのを防止することができる。
【0029】
図3(B)には、弁16bの具体的な構成例が示されている。
図3(B)に示されている弁16bは、ロングチューブ16Aの背面(内側面)に形成された各開口穴16aの内側に設けられており、ロングチューブ16Aの補修材が外部へ流出可能であって流出した補修材が戻り難い構造を有する逆止弁が用いられている。
【0030】
図3(C)には、弁16bの他の構成例が示されている。
図3(C)に示されている弁16bは、ロングチューブ16Aの背面(内側面)に形成された直径数mm~数cmの開口穴16aを覆うように、開口穴16aよりも一回り大きな径を有する円板状の弾性体の中央に十文字状の切れ目を設けたものである。弁16bの素材は、例えばペットボトルの素材であるポリエチレンテレフタレートなど、弾性変形可能で強靭なものであればどのような材料であっても良い。なお、上記弁16bの構成は一例であって、上記構成に限定されるものでない。
【0031】
上記のようなロングチューブを使用した場合、CAモルタル層12の側部を掘削してその掘削空間にロングチューブを形成する補修用袋を挿入した後に、注入口16cよりセメントアスファルトを注入する。すると、セメントアスファルトがロングチューブ内に充満されるとともに、背面側に設けられた弁16bよりセメントアスファルトが流れ出て、掘削空間の奥部とロングチューブとの隙間を埋める。また、奥部の隙間が埋まるとセメントアスファルトは、外側面側へ移動して掘削空間の上壁や下壁とロングチューブとの隙間を埋めることとなる。
【0032】
その結果、CAモルタル層12の掘削空間とロングチューブ16A,16Bとの隙間に雨水が侵入して劣化を早まるのを抑制することができる。また、ロングチューブの長さが長くされ、隣接するロングチューブ同士が接触する構成であるため、掘削空間の奥部へ流出したセメントアスファルトが、前後のロングチューブ同士の隙間から外側へ漏れ出すのを防止することができる。
さらに、ロングチューブの補修材注入口16cは、チューブの端ではなく、チューブ外側面の前後方向(長手方向)の中央部に設けられている。これにより、注入された補修材はチューブ内で中央部から前方向と後方向へそれぞれ広がることになるため、填充層の掘削空間の奥部に空洞が残らないようにすることができる。
【0033】
なお、補修用袋には、最初のスラブ軌道構築時に填充層を設ける際に使用するロングチューブと同様な長繊維不織布等を使用しても良い。長繊維不織布からなる補修用袋は、注入したセメントアスファルトが表面から滲み出す性質を有しているため、本実施形態においても、CAモルタル層12を掘削することで生じた空間へ挿入された補修用袋内へセメントアスファルトを充填すると、表面から滲み出して上方の軌道スラブ13や下方の路盤コンクリート11との隙間を埋めることができる。
【0034】
図4には、上記のように補修用袋内に補修材を注入した後に、軌道スラブ13の重量を支える沈み込み防止手段の具体例が示されている。このうち、
図4(A)は、軌道スラブ13の外側面に複数のL字形の留め金具22を一対の固定用ボルト23によって固定し、留め金具22の水平片22aに形成されている雌ネジ部に保持ボルト24を、先端が路盤コンクリート11の表面に当接するまで回して螺合させるようにしたものである。
【0035】
軌道スラブ13が平板スラブの場合、最初のスラブ軌道構築時に軌道スラブ13を重機で持ち上げるため、
図5(A)に示すように、吊り下げ用の治具25が軌道スラブ13の外側面に一対の固定用ボルト23により固定されている。そのため、軌道スラブ13の設置後は固定用ボルト23および治具25が外され、軌道スラブ13の外側面のボルト挿入穴は、
図5(B)に示すように、キャップ26で塞がれているので、そのボルト挿入穴を利用して、
図4(A)の留め金具22を固定用ボルト23によって取り付けて使用することができる。
【0036】
上記保持ボルト24は、ロングチューブ内の補修材が硬化するまで軌道スラブ13の重量を支えることで、軌道スラブ13の上面の沈み込みを防止するためのもので、補修材の硬化後に外される。なお、補修材は短時間に硬化可能な性質のものが選択されるため、通常は、始発の列車通過前であって硬化確認後に、留め金具22と固定用ボルト23と保持ボルト24は取り外される。
【0037】
図4(B)には、始発の列車通過前に硬化しなかった場合あるいは作業途中でトラブルが生じて予定した時間内に補修材の充填を終了できなくなったように場合における軌道スラブ13の重量を支える応急支持手段の具体例が示されている。
図4(B)に示す応急支持手段は、複数枚の金属板27を掘削空間の軌道スラブ13と路盤コンクリート11との間に重ねた状態で挿入するようにしたものである。複数枚の金属板27を挿入することで、掘削空間の高さがばらついた場合にも高さを合わせ易いとともに、重量が重くならず取り扱いが容易となる。金属板27の厚みは同一でも良いが、異なる厚みのものを用意しておくのが望ましい。
【0038】
上記のように、本実施形態の修繕方法においては、ロングチューブ内へ充填したセメントアスファルト等の補修材が硬化するまで、軌道スラブ13の沈み込みを保持ボルト24や金属板27によって防止することができる。そのため、軌道スラブ13の下のCAモルタル層12を側方から比較的深くまで掘削したとしても、軌道スラブ13の両側部が沈み込むのを防止することができ、CAモルタル層12を広範囲にわたって補修することができるとともに、短時間にCAモルタル層12の修復作業を完了することができるため、営業列車が走行していない夜間の時間帯に補修工事を実施することが可能になる。
なお、留め金具22と保持ボルト24とからなる沈み込み防止手段の軌道スラブ13の側面への設置は、CAモルタル層12の掘削前に行うのが良いが、掘削完了前であれば、掘削作業の進行中に実施するようにしても良い。
【0039】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、補修体としてのロングチューブ16A,16Bに充填する補修材としてセメントアスファルトを使用しているが、硬化した際にセメントアスファルトと同等もしくはそれ以上の強度を有するものであれば、セメントアスファルト以外の材料を充填するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、補修体としてのロングチューブ16A,16Bに補修材の注入口16cを設けているが、注入口16cを設ける代わりに、鋭利な先端部を有するパイプを補修用袋に突き刺して補修材を注入するようにしても良い。
【符号の説明】
【0040】
11 路盤コンクリート
12 CAモルタル層(填充層)
13 軌道スラブ
14 係止突起
16A,16B ロングチューブ(補修体)
16a 開口穴
16b 弁
16c 補修材注入口
20 レール
21 レール締結器
22 留め金具
23 固定用ボルト
24 保持ボルト
25 吊り下げ用治具
26 キャップ
27 金属板