(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163784
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】貝類取出し構造、および貝類取出し装置
(51)【国際特許分類】
A01K 61/51 20170101AFI20221020BHJP
【FI】
A01K61/51
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068819
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】516043166
【氏名又は名称】有限会社シーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】中村 茂
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA22
2B104AA25
2B104DB17
2B104DB23
2B104DD00
2B104DD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】網製篭の中から貝類を確実かつ効率よく取出す一連の作業を行うことのできる貝類取出し構造を提供する。
【解決手段】各パールネットをその底面が下になるように積み重ねた状態のネット連結体を最上部のパールネットから引き出す際に各パールネットを順に裏返しの姿勢にするための凸構造である裏返し用凸部2と、裏返し用凸部2を越えたパールネットに対して振動を付与して内部の貝類を開口部から放出させるための振動付与部3とから構成する貝類取出し構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略四角錐状で斜稜上に開口部が設けられている貝類養殖用の篭であるところのパールネットが複数連結されてなるネット連結体から貝類を取出すための貝類取出し構造であって、
各パールネットをその底面が下になるように積み重ねた状態のネット連結体を最上部のパールネットから引き出す際各パールネットを順に裏返しの姿勢にするための凸構造である裏返し用凸部と、および
該裏返し用凸部を越えた該パールネットに対して振動を付与して内部の貝類を該開口部から放出させるための振動付与部とからなることを特徴とする、貝類取出し構造。
【請求項2】
前記裏返し用凸部は前記ネット連結体の引き出し方向に向かい略円弧状の断面形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の貝類取出し構造。
【請求項3】
前記裏返し用凸部は前記ネット連結体の引き出し方向に向かい回転可能なローラーであることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の貝類取出し構造。
【請求項4】
前記振動付与部は、前記裏返し用凸部を越えた前記パールネットが載置される振動用載置面と、該振動用載置面を振動させる振動駆動手段とを備えてなることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の貝類取出し構造。
【請求項5】
前記振動用載置面は略水平に設けられることを特徴とする、請求項4に記載の貝類取出し構造。
【請求項6】
前記振動付与部は、引き出し方向に略直交する方向への振動を前記パールネットに付与することを特徴とする、請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載の貝類取出し構造。
【請求項7】
前記振動付与部の下方には、振動により前記開口部からの放出物をそのサイズによって選別するための選別部が設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載の貝類取出し構造。
【請求項8】
前記裏返し用凸部から前記振動付与部に移動する際の前記パールネットの姿勢を規制するネット規制手段が設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載の貝類取出し構造。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8のいずれかに記載の貝類取出し構造を備えていることを特徴とする、貝類取出し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貝類取出し構造、および貝類取出し装置に係り、特に簡易な構成によって、貝類養殖等に用いられる網製篭の中から貝類を確実かつ効率よく取出すことのできる貝類取出し構造等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホタテ貝養殖の現場においては作業省力化の要望が高い。特に、貝の成長に合わせて養殖篭(パールネット。単に「ネット」ともいう)から貝を取出しては入れ直す作業、最終的に出荷のために篭から貝を取出す作業など、ネットからの貝の取出し作業は、ネットが相当の重量になることもあってかなりの重労働である。かかる状況を踏まえて出願人は、ネットから貝類を効率的かつ迅速に取出すことができ、作業労力を大幅に軽減できる装置の開発に取り組み、公開してきた(後記特許文献1、2)。
【0003】
さらには、特許文献2開示技術においてもなお残存していた、a)無端軌道を構成するベルトが走行中に基板上から逸脱・蛇行することの防止、b)貝類取出し効率のさらなる向上、c)処理対象ネットの供給方式自動化によるさらなる労力軽減、という各課題を解決するため、改良版装置を開発し、特許出願を行った(特許文献3)。当該改良版の骨子は以下の通りである。
【0004】
〔R3-1〕 ネットを下方から支持して搬送する搬送部と、該搬送部により搬送されるネットを上方から押さえるネット押さえ部と、該搬送部により搬送されるネットを下方から連続的に叩き打つ打撃部と、該打撃部を上下駆動する上下駆動手段と、を備えてなり、該搬送部は、ネットがその開口部を下方に向けて載置される左右一対の無端軌道と、該無端軌道を駆動する搬送駆動手段と、を備えてなり、該ネット押さえ部は該無端軌道の移動方向と同方向に左右一対設けられていて、該ネット押さえ部と該無端軌道はその間にネットの一部を差込み得る程度以上に離間して設けられており、該無端軌道のネット排出側には、ネットを該無端軌道上から離脱させてネットの搬送状態を停止させるネット停止部が設けられていることを特徴とする、貝類取出し装置。
〔R3-2〕 前記ネット停止部は、前記無端軌道に沿って設けられた、進行方向への仰角傾斜から始まる立ち上がり構造であることを特徴とする、〔R3-1〕に記載の貝類取出し装置。
〔R3-3〕 前記ネット停止部の箇所では、前記ネット押さえ部に連続してネット押さえ弛緩部が設けられていることを特徴とする、〔R3-1〕、〔R3-2〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-4〕 〔R3-1〕の特徴に加えて、貝類取出し処理前のネットを待機させる本装置と一体のまたは本装置に着脱可能な待機部を備えており、該待機部に連続して、前記ネット押さえ部と前記無端軌道の間へのネットの差し込みを案内するネット導入部が設けられていることを特徴とする、貝類取出し装置。
〔R3-5〕 貝類取出し処理前のネットを待機させる待機部を備えており、該待機部に連続して、前記ネット押さえ部と前記無端軌道の間へのネットの差し込みを案内するネット導入部が設けられていることを特徴とする、
〔R3-1〕~〔R3-3〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
【0005】
〔R3-6〕 前記ネット導入部は、前記待機部に置かれたネット連続体(複数のネットが直列に連結してなる物。)を前記無端軌道側へと送り込む回転手段と、該回転手段によって前傾姿勢となり該無端軌道側へと倒れ込んでいくネットの姿勢を規制して該無端軌道へと案内するガイド手段とを備えてなることを特徴とする、〔R3-4〕、〔R3-5〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-7〕 前記回転手段は一段または複数段のローラー(複数本数のローラーからなるローラー群である場合を含む。)であり、前記ガイド手段は、底部の1角部で立つネットの該1角部に隣接しない上部2辺をそれぞれ外方から支持する一対の辺支持構造であることを特徴とする、〔R3-6〕に記載の貝類取出し装置。
〔R3-8〕 前記一対の辺支持構造は垂下されて揺動可能に設けられた一対のバー構造(以下、「暖簾バー」ともいう。)であり、両バーの間を暖簾を潜らせるようにして前記無端軌道へのネット導入をなさしめることを特徴とする、〔R3-7〕に記載の貝類取出し装置。
〔R3-9〕 前記待機部は、貝類取出し処理前のネットを所定姿勢にて待機させる断面略V字状の形態を備えていることを特徴とする、〔R3-4〕~〔R3-8〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-10〕 両無端軌道の外側の少なくとも一部には、該無端軌道の逸脱や蛇行が生じないように規制する防護帯が設けられていることを特徴とする、〔R3-1〕~〔R3-9〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-11〕 前記防護帯は板状構造であることを特徴とする、〔R3-10〕に記載の貝類取出し装置。
【0006】
〔R3-12〕 前記打撃部は両ネット押さえ部の下方に左右一対設けられており、該ネット押さえ部および該打撃部はいずれもバー構造(以下、前者を「押さえバー」、後者を「打撃バー」という。)であることを特徴とする、〔R3-1〕~〔R3-11〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-13〕 前記打撃部は両ネット押さえ部の直下よりも内側の位置に設けられていることを特徴とする、〔R3-12〕に記載の貝類取出し装置。
〔R3-14〕 前記無端軌道には、載置されたネットの移動を規制して載置状態を安定化するための凸状の規制手段が設けられていることを特徴とする、〔R3-1〕~〔R3-13〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-15〕 前記ネット押さえ部は前記打撃部による衝撃を吸収する緩衝構造を備えており、該緩衝構造は前記ネット押さえ部が受けた衝撃を揺動に変換する機構であることを特徴とする、〔R3-1〕~〔R3-14〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-16〕 前記無端軌道はネットの搬送方向に向かい仰角をもって設けられていることを特徴とする、〔R3-1〕~〔R3-15〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
〔R3-17〕 前記ネット押さえ部のネット供給側端部はネットを導入しやすいよう上方への開きをもって形成されていることを特徴とする、〔R3-1〕~〔R3-16〕のいずれかに記載の貝類取出し装置。
【0007】
なお、かかる改良版(特許文献3)の実施例の説明図として
図10~14を添付するが、そこに用いられている符号の説明は下記の通りである。
92…ネット押さえ部、 92T…ネット押さえ弛緩部、 92E…ネット供給側端部、 93…上下駆動手段、 94…打撃部、 95…無端軌道、 95M…凸状の規制手段、 96…搬送駆動手段、 99…支持構造部、 910…貝類取出し装置、 9LP…ネット停止部、 9NG…ネット導入部、 98…待機部、 950…処理後ネット載置部、 97…選別ユニット、 92B…緩衝構造、 9GR…防護帯、 9NGr1、9NGr2…ローラー、 9NGd…ガイド手段、 9NGd1、9NGd2…暖簾バーの各バー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-139987号公報「対象物取出し装置、対象物取出し方法、および対象物取出し選別方法」
【特許文献2】特開2020-115825号公報「貝類取出し装置、および貝類取出し方法」
【特許文献3】特願2019-240036号公報「貝類取出し装置、および貝類取出し方法」(本願出願時未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、自動化程度や作業労力低減の高度化を目的としたこれらの発明では、装置が複雑化・大型化する傾向があり、それによりコスト低減には限度があった。一方、これらの発明に係る装置の需用者の中には事業規模が小さい事業者も多く、かかる事業者であっても導入しやすい価格の装置を提供するためにはコスト低減は重要である。
【0010】
加えて、導入する事業者の事業規模に関わらず、よりコンパクト・小型の装置構成であると設置・運転・運搬・収納にも便利な装置が望まれる。また、上記各文献開示技術より前の従来技術であれば装置への処理前ネット供給担当、装置からの処理後ネットの事後処理担当、最低2人を要したところ、要員1人のみで取り扱える装置であることも、要員増加の防止や、作業の連携を必要とすることによる処理工程複雑化の防止には重要である。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、装置の複雑化・大型化・コストならびに販売価格増大を抑制でき、よりコンパクト・簡易・小型の装置構成とすることができ、それによって設置・運転・運搬・収納にも便利であり、さらには要員1人のみで貝類養殖等に用いられる網製篭の中から貝類を確実かつ効率よく取出す一連の作業を行うことのできる、貝類取出し構造および貝類取出し装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は上記課題について検討した結果、底面が下になるように積み重ねたネット連結体をローラーで反転した姿勢にし、これに振動を与えることで開口部からの貝類取出しを容易に行えることを見出し、それに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕 略四角錐状で斜稜上に開口部が設けられている貝類養殖用の篭であるところのパールネットが複数連結されてなるネット連結体から貝類を取出すための貝類取出し構造であって、
各パールネットをその底面が下になるように積み重ねた状態のネット連結体を最上部のパールネットから引き出す際各パールネットを順に裏返しの姿勢にするための凸構造である裏返し用凸部と、および該裏返し用凸部を越えた該パールネットに対して振動を付与して内部の貝類を該開口部から放出させるための振動付与部とからなることを特徴とする、貝類取出し構造。
〔2〕 前記裏返し用凸部は前記ネット連結体の引き出し方向に向かい略円弧状の断面形状を有することを特徴とする、〔1〕に記載の貝類取出し構造。
〔3〕 前記裏返し用凸部は前記ネット連結体の引き出し方向に向かい回転可能なローラーであることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の貝類取出し構造。
〔4〕 前記振動付与部は、前記裏返し用凸部を越えた前記パールネットが載置される振動用載置面と、該振動用載置面を振動させる振動駆動手段とを備えてなることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の貝類取出し構造。
【0014】
〔5〕 前記振動用載置面は略水平に設けられることを特徴とする、〔4〕に記載の貝類取出し構造。
〔6〕 前記振動付与部は、引き出し方向に略直交する方向への振動を前記パールネットに付与することを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の貝類取出し構造。
〔7〕 前記振動付与部の下方には、振動により前記開口部からの放出物をそのサイズによって選別するための選別部が設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載の貝類取出し構造。
〔8〕 前記裏返し用凸部から前記振動付与部に移動する際の前記パールネットの姿勢を規制するネット規制手段が設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕のいずれかに記載の貝類取出し構造。
〔9〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の貝類取出し構造を備えていることを特徴とする、貝類取出し装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の貝類取出し構造、および貝類取出し装置は上述のような各形態として構成されるため、これによれば、装置の複雑化・大型化・コストならびに販売価格増大を抑制でき、よりコンパクト・簡易・小型の装置構成とすることができる。そして、それによって設置・運転・運搬・収納にもより便利となり、さらには要員1人のみで貝類養殖等に用いられる網製篭の中から貝類を確実かつ効率よく取出す一連の作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す側面視の説明図である。
【
図1-2】
図1に示す基本構成の平面視の説明図である。
【
図2】
図1の貝類取出し構造の作用を示す説明図である(その1)。
【
図2-2】
図1の貝類取出し構造の作用を示す説明図である(その2)。
【
図2-3】
図1の貝類取出し構造の作用を示す説明図である(その3)。
【
図2-4】
図1の貝類取出し構造の作用を示す説明図である(その4)。
【
図3】
図1の貝類取出し構造の作用を示す平面視の説明図である(その1)。
【
図3-2】
図1の貝類取出し構造の作用を示す平面視の説明図である(その2)。
【
図3-3】
図1の貝類取出し構造の作用を示す平面視の説明図である(その3)。
【
図4】裏返し用凸部がローラーである本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す側面視の説明図である。
【
図5】振動付与部におけるネット載置状況の例を示す底面視の説明図である。
【
図6】選別部を備えた本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す側面視の説明図である。
【
図6-2】
図6に係る選別部の例を示す説明図である。
【
図7】ネット規制手段を備えた本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図8】本発明貝類取出し装置の基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図9】本発明貝類取出し構造および貝類取出し装置が主として適用対象とするネットの構成を示す斜視図(図中(a))、およびネット連続体(図中(b))の概念的説明図である。
【
図10】特許文献3開示技術の実施例を示す写真図である(略正面視)。
【
図13】
図10に示す実施例に係るネット導入部の略背面視の写真図である。
【
図14】
図10に示す実施例に係る防護帯の略正面視の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面により本発明を詳細に説明するが、その前に、本発明が対象とするパールネットについて説明する。
図9は、本発明貝類取出し構造および貝類取出し装置が主として適用対象とするネットの構成を示す斜視図(図中(a))、およびネット連続体(図中(b))の概念的説明図である。図示するようにパールネットNは、略四角錐状で斜稜上に開口部Qが設けられている貝類養殖用の篭であり、開口部Qを通して養殖する貝をその成長具合に応じて出し入れし、海中に吊り下げて養殖に供するためのものである。なお、開口部Qのサイズなど、パールネットNの仕様は適宜に設計し得る。パールネットNが複数連結されて、ネット連結体Nsが構成される。本発明貝類取出し構造等は、かかるネット連結体Nsの各パールネットNから内部の貝類を簡易に効率的に取り出すために用いられるものである。
【0018】
図1は、本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す側面視の説明図である。また
図1-2は、
図1に示す基本構成の平面視の説明図である。これらに示すように本貝類取出し構造10は、各パールネットNをその底面が下になるように積み重ねた状態のネット連結体Nsを最上部のパールネットNから引き出す際に各パールネットNを順に裏返しの姿勢にするための凸構造である裏返し用凸部2と、裏返し用凸部2を越えたパールネットNに対して振動を付与して内部の貝類を開口部Qから放出させるための振動付与部3とからなることを、主たる構成とする。
【0019】
裏返し用凸部2は、ネット連結体Nsを振動付与部3方向へと引いて処理前ネット載置面1に積まれた状態のネット連結体Nsの最上部パールネットNから順に引き出し、これを裏返しの姿勢にするために回転させることのできる凸構造であればよい。しかしながら各図に示すように、ネット連結体Nsの引き出し方向に向かい略円弧状の断面形状の凸構造であることが、円滑な引き出しおよび裏返しのためには望ましい。さらには後述するローラーであることがより望ましいが、ローラー形態も含めたものとしての裏返し用凸部2として説明する。
【0020】
また、
図1-2に示すように振動付与部3は、具体的には裏返し用凸部2を越えた前記パールネットNが載置される振動用載置面4と、振動用載置面4を振動させる振動駆動手段5とから構成するものとすることができる。図示するように振動用載置面4は、これに移動してきたパールネットNに対する振動によって開口部Qから放出される貝類が、下方へと自然落下するよう、そのスペースを空けて設けられることとする。図では、パールネットNの幅に合わせてその端部を下方から支持し得る、左右に設けた板状構造としているが、それ以外の構成でもよい。要するに、移動してきたパールネットNを支持でき、それに振動を付与でき、かつ放出された貝類を下方に自然落下せしめることのできる形態であればよい。
【0021】
かかる構成の本貝類取出し構造10によれば、開口部Qが上向きの姿勢で処理前ネット載置面1上に積まれたネット連結体Nsは、そのロープを引き出し方向に引き出され、それによって最上部のパールネットNが裏返し用凸部2へと乗り上げる。継続される引き出し方向への引き出しにより、パールネットNは裏返し用凸部2を乗り越えていく経過で裏返しの姿勢にさせられ、これにより開口部Qは下方を向く。
【0022】
パールネットNは裏返しにされた姿勢、すなわちその開口部Qを下方に向けた姿勢で裏返し用凸部2を越えてその先にある振動付与部3上へ載る。具体的には、振動付与部3の振動用載置面4上に載置された形となる。振動用載置面4は振動駆動手段5によって振動し、これによって載置されたパールネットNは振動を付与されて振動し、それによってパールネットN内の貝類は開口部Qへと移動せしめられる機会が増大し、開口部Qから放出され、貝類の取出しがなされる。本貝類取出し構造10の貝類取出し作用について、より詳細な図面により説明する。
【0023】
図2~2-4は、
図1の貝類取出し構造の作用を示す説明図である(順に、その1、その2、その3、その4)。これらに示すように本貝類取出し構造10では、開口部Qが上向きの姿勢で処理前ネット載置面1上に積まれたネット連結体Nsは、そのロープWを引き出し方向Aに引き出され(
図2)、それによって最上部のパールネットNが裏返し用凸部2へと乗り上げる(
図2-2)。継続される引き出し方向への引き出しにより、パールネットNは裏返し用凸部2を乗り越えていく経過で裏返しの姿勢にさせられ(
図2-3)、これにより開口部Qは下方を向く。また、後続のパールネットNも同様の作用を順に受ける。
【0024】
パールネットNは裏返しにされた姿勢、すなわちその開口部Qを下方に向けた姿勢で裏返し用凸部2を越えてその先にある振動付与部3上へ載る(
図2-4)。具体的には、振動付与部3の振動用載置面4上に載置された形となる。振動用載置面4は振動駆動手段5によって振動し、これによって載置されたパールネットNは振動を付与されて振動し、それによってパールネットN内の貝類Sは開口部Qへと移動せしめられる機会が増大し、開口部Qから放出され、このようにして貝類Sの取出しがなされる(
図2-4)。また、後続のパールネットNも、順に同じ作用を受けて最終的に貝類の取出しがなされる。
【0025】
なお、以上の各図面に示す通り本貝類取出し構造10の振動用載置面4は、略水平に設けられる構成とすることが望ましい。振動用載置面4がいずれかの方向に傾いて設けられていると、裏返されて開口部Qが下向きの姿勢となっているパールネットNは傾いた状態で載置されることとなる。貝類の開口部Qからの放出に都合のよいパールネットN内位置に貝類がある場合は、かかる傾きは障害にならないが、そうでない場合には貝類が開口部Qに移動する機会が良好に得られる訳ではなく、いくら振動が付与されても取出しが円滑に進まない。
【0026】
しかし、振動用載置面4が略水平であることにより、載置されるパールネットNも略水平の姿勢が保持されるため、貝類がパールネットN内のどの位置にあっても、振動駆動手段5により付与される振動によって開口部Qへと移動する機会は、いわば均等に得られ、結果として効率的な、円滑な貝類取出し作用を得ることができる。
【0027】
図3~3-3は、
図1の貝類取出し構造の作用を示す平面視の説明図であり、順にその1、その2、その3である。本貝類取出し構造10による作用は
図2等により説明した内容と同じである。ここで、振動付与部3は、引き出し方向に略直交する方向への振動をパールネットNに対して付与する構成とすることができる。振動方向がこれに限定されるものではないが、かかる方向への振動の付与が、パールネットNからの貝類の取出しには最適である。
【0028】
図4は、裏返し用凸部がローラーである本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す側面視の説明図である。図示するように本貝類取出し構造210の裏返し用凸部22は、ネット連結体Nsの引き出し方向に向かい回転可能なローラーである構成とすることができる。裏返し用凸部22をローラーとすることにより、引き出されるパールネットNは、裏返し用凸部の上を移動するのではなく、裏返し用凸部22の上に載せられ、裏返し用凸部22の回転Rにしたがって振動付与部23へと移動することができ、ネット連結体Nsを構成する各パールネットN、N、・・・の動作をより円滑化し、それにより貝類取出し作用も円滑化することができる。
【0029】
ローラーは、駆動手段によって回転駆動されるものとしてもよいが、その必要はなく、外力がかかれば回転方向Rへと回転する構造であればよい。作業者がネット連結体Nsの先端のロープWを引き出し方向に引き出すことによって、パールネットNは順次、ローラー22に載り、ローラー22はロープWの引き出し方向への引き出しによって回転し、載せたパールネットNを振動付与部23へと移動させる。
【0030】
図5は、振動付与部におけるネット載置状況の例を示す底面視の説明図である。図中の(a)~(d)に示すように、裏返し用凸部2を越えて振動付与部3の振動用載置面4に載置されるパールネットNは、その載置方向(開口部Qの位置)がさまざまな方向となる可能性がある。しかし、そのような場合であっても、振動用載置面4が略水平に設けられ、振動が付与される限り、パールネットNからの貝類取出し作用は問題なくなされる。
【0031】
図6は、選別部を備えた本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す側面視の説明図である。また
図6-2は、
図6に係る選別部の例を示す説明図である。これらに示すように本貝類取出し構造310は、振動付与部33の下方に、振動により開口部Qからの貝類、その他の放出物をそのサイズによって選別するための選別部36が設けられている構成とすることができる。ここで「放出物」には、パールネットNからの取出し対象である貝類の他に、貝類に付着した後剥離した多種生物の塊など、養殖中に発生し得る異物も含まれる。
【0032】
かかる構成の貝類取出し構造310によれば、パールネットNから放出された貝類をそのサイズによって選別したり、貝類と異物とを選別したりすることができる。
図6-2には、選別部の具体例として、選別部36a、選別部36bを、それぞれ図中の(a)、(b)に示す。いずれも、板状の選別部本体36aP等に複数の選別用孔36aH等が設けられた構造であるが、選別用孔36aH、36bHのサイズが異なる。このような選別部36a等を単独で、あるいは適宜の複数種類・複数枚数用いて選別部を構成することができる。
【0033】
図7は、ネット規制手段を備えた本発明貝類取出し構造の基本構成を概念的に示す説明図である。図中、(a)は側面視、(b)は平面視の各説明図である。図示するように本貝類取出し構造410は、裏返し用凸部42から振動付与部43に移動する際のパールネットNの姿勢を規制するためのネット規制手段48R、48Lが設けられている構成とすることができる。ネット規制手段48R、48Lは、裏返し用凸部32の終端部(振動付与部23の前端部)左右に設けられた一対のバーとすることができる。
【0034】
かかる構成によれば、パールネットNは裏返し用凸部42から振動付与部43に移動する際に、その姿勢がネット規制手段48R、48Lによって規制され、振動付与部43から逸脱することなくその振動用載置面44上に載置され、良好な貝類取出し作用を得られる。もとより、前掲
図5に示したように多少のずれがあっても貝類取出し作用が損なわれることはない。しかし、ネット規制手段48R等を設けることで、パールネットNの振動用載置面44への安定した載置を行えるため、作業効率は向上する。
【0035】
なお、構成および使用方法の簡素さを思想の基本とする本発明貝類取出し構造10等は、ネット連結体Nsの処理前ネット載置面1等上への載置作業、およびパールネットNの引き出し作業を、1名の要員の手作業により行うことを主たる使用法とする。その場合、ネット規制手段48R等があることによって、作業者は、パールネットNを裏返し用凸部42を通って振動付与部43へと引き出す際に、それが逸脱しないように気を遣って行う必要がない。つまり、逸脱防止はネット規制手段48R等に委ね、ただ引き出し方向へと引き出せばよい。
【0036】
振動付与部3等におけるパールネットNの振動について、付け加える。
上述の通り本発明貝類取出し構造10等は1名の要員の手作業により行うことを主たる使用法とするが、パールネットNに対する振動付与においても手作業を有効に用いることができる。すなわち、振動付与部3等による振動でパールネットN内の貝類を開口部Qへと移動させて放出させる際、その都度の具合を見ながらパールネットNの姿勢を手作業により微調整することで、より効率的に貝類の移動・放出させることができる。このように本発明では、簡素な構成に、作業者の負担とならない適度かつ簡単な手作業を加えるという協業により、実用性の高い貝類取出し効果を得ることができる。
【0037】
図8は、本発明貝類取出し装置の基本構成を概念的に示す説明図である。以上説明したいずれかの構成の貝類取出し構造10等により、かかる貝類取出し構造10が一体の装置として構成されている貝類取出し装置510もまた、本発明の範囲内である。すなわち、ネット連結体Nsを載置する処理前ネット載置面51、パールネットNを引き出して順に裏返しの姿勢にするための凸構造である裏返し用凸部52、裏返し用凸部52を越えたパールネットNに対して振動を付与して内部の貝類を開口部Qから放出させるための振動付与部53とからなる装置構成である。
【0038】
振動付与部53は、振動用載置面54と、振動用載置面54を振動させる振動駆動手段55とから構成される。なお、図では裏返し用凸部52はローラーであり、かかる構成が望ましい。しかしながら前掲
図1等およびその説明で示したように、裏返し用凸部52がローラーに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の貝類取出し構造、および貝類取出し装置によれば、装置の複雑化・大型化・コストならびに販売価格増大を抑制でき、よりコンパクト・簡易・小型の装置構成とすることができる等の利点が多い。したがって本発明は、貝類養殖分野、およびこれに関連する全分野において、実用性が極めて高く、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0040】
1、21、31、41、51…処理前ネット載置面
2、22、32、42、52…裏返し用凸部
3、23、33、43、53…振動付与部
4、24、44、54…振動用載置面
5、25、45、55…振動駆動手段
10、210、410…貝類取出し構造
36、36a、36b…選別部
36aH、36bH…選別用孔
36aP、36bP…選別部本体
48L、48R…ネット規制手段
510…貝類取出し装置
A…ネットの引き出し方向
B…振動方向
N…貝類養殖用の篭(パールネット、ネット)
Ns…ネット連続体
Q…開口部
R…回転方向
S…貝類
W…ロープ