(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163800
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】セレン汚染土壌の処理方法および盛土構造
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
B09C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068846
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 光博
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】設樂 和彦
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004CA04
4D004CA34
4D004CC06
4D004CC11
4D004CC13
(57)【要約】
【課題】土壌中のセレンの溶出を抑制し、かつセレンを不溶化するために土壌に添加したバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出を抑制したセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造を提供する
【解決手段】セレンを含む土壌に、バリウム化合物および固化材を混合し、前記セレンの不溶化処理を行う工程を有する、セレン汚染土壌の処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを含む土壌に、バリウム化合物および固化材を混合し、前記セレンの不溶化処理を行う工程を有する、セレン汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
さらに、前記不溶化処理を行った土壌からなる盛土層を備える盛土構造を形成する工程を有する、請求項1に記載のセレン汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
前記盛土構造を形成する工程において、前記盛土層の下方に、バリウムイオンの溶出を抑制する物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を有する構造物を設ける、請求項2に記載のセレン汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
前記固化材は、セメント、酸化マグネシウムおよび不溶化材からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセレン汚染土壌の処理方法。
【請求項5】
前記バリウム化合物は、塩化バリウムである、請求項1~4のいずれか1項に記載のセレン汚染土壌の処理方法。
【請求項6】
不溶化処理をされたセレンを含む土壌からなる盛土層を備える、盛土構造。
【請求項7】
前記盛土層の下方に設けられ、バリウムイオンの溶出を抑制する機構を有する構造物と、を備える、請求項6に記載の盛土構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン汚染土壌の処理方法および盛土構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事等では、自然由来の重金属を含む汚染土壌(以下、「重金属汚染土壌」と言う。)が大量に発生する。そのため、より簡易で安価で安全な汚染土壌の処理方法が求められている。
上記の重金属汚染土壌は、セメントや酸化マグネシウム等の不溶化材を混合して、重金属を水に溶け出さないように(不溶化)し、重金属の溶出量を抑制する。重金属の溶出量が抑制された重金属汚染土壌は、ベントナイト等の粘土を含む遮水層で封じ込められて、雨水と接触しないようにされる。
【0003】
重金属汚染土壌に含まれる重金属の中でも、鉛やクロム等の陽イオンの状態で存在する重金属は土壌に吸着し易く、比較的容易に不溶化処理することができる。一方、ヒ素やセレン等の陰イオンの状態で存在する重金属は土壌への吸着量が少なく、不溶化処理が困難である。なかでも、セレンは、主に6価のセレン酸(SeO4
2-)と4価の亜セレン酸(SeO3
2-)の様態で存在する。酸化型であるセレン酸は、溶解度が大きく、非常に不溶化が難しい物質である。セレンを不溶化するためには、重金属汚染土壌に対して不溶化材を多量に添加する必要がある。しかし、多量に不溶化材を投入すると、重金属汚染土壌の容量が増大したり、重金属汚染土壌が必要以上に固化したりする。重金属汚染土壌の容量の増大は、処分場の容量を圧迫する。重金属汚染土壌の必要以上の固化は、重金属汚染土壌の運搬や施工を困難にする。また、セレン酸は、還元されると、より溶解度が低い亜セレン酸になり、セレンの溶出量が抑制される。そのため、セレンを対象とした不溶化材としては、例えば、酸化鉄や亜硫酸等の還元剤を含む不溶化材が効果的と考えられている。還元剤によりセレン酸を亜セレン酸に還元することで、効率的にセレンの溶出量を抑制している。しかしながら、亜セレン酸は、長期間、大気雰囲気下に暴露されると、酸素と接触して酸化されて再びセレン酸になり、セレンの溶出量が増加する。そのため、処理時は有効に不溶化できていた場合でも、時間の経過に伴いセレンが再溶出してしまう懸念がある。
【0004】
セレンを不溶化する方法としては、例えば、セレン含有物にバリウムイオンと硫酸イオン(硫酸イオンを含むセレン含有排水にはバリウムイオンのみ)を混合して硫酸バリウムを生成する過程でセレン酸バリウムを結晶中に閉じ込めて、セレンを不溶化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、可溶性のバリウム化合物は有毒であり、硫酸バリウムおよびバリウム=4-(5-クロロ-4-メチル-2-スルホナトフェニルアゾ)-3-ヒドロキシ-2-ナフアート以外のバリウム化合物は劇物に指定されている。重金属の不溶化を目的とする場合には、重金属汚染土壌に対して十分量のバリウムを添加する必要がある。そのため、結晶化しきらなかったバリウムが重金属汚染土壌から溶出し、外部にバリウムイオンが漏洩する懸念がある。また、重金属汚染土壌に対して硫酸バリウムを添加すると、硫酸バリウムは難溶性であるため、セリウムを不溶化する効果が期待できない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて考案されたものであって、土壌中のセレンの溶出を抑制し、かつセレンを不溶化するために土壌に添加したバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出を抑制したセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]セレンを含む土壌に、バリウム化合物および固化材を混合し、前記セレンの不溶化処理を行う工程を有する、セレン汚染土壌の処理方法。
[2]さらに、前記不溶化処理を行った土壌からなる盛土層を備える盛土構造を形成する工程を有する、[1]に記載のセレン汚染土壌の処理方法。
[3]前記盛土構造を形成する工程において、前記盛土層の下方に、バリウムイオンの溶出を抑制する物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を有する構造物を設ける、[2]に記載のセレン汚染土壌の処理方法。
[4]前記固化材は、セメント、酸化マグネシウムおよび不溶化材からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のセレン汚染土壌の処理方法。
[5]前記バリウム化合物は、塩化バリウムである、[1]~[4]のいずれかに記載のセレン汚染土壌の処理方法。
[6]不溶化処理をされたセレンを含む土壌からなる盛土層を備える、盛土構造。
[7]前記盛土層の下方に設けられ、バリウムイオンの溶出を抑制する機構を有する構造物と、を備える、[6]に記載の盛土構造。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、土壌中のセレンの溶出を抑制し、かつセレンを不溶化するために土壌に添加したバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出を抑制したセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造について、
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法および盛土構造の一例を示す模式図である。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
[セレン汚染土壌の処理方法、盛土構造]
本実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法は、セレンを含む土壌に、バリウム化合物および固化材を混合し、前記セレンの不溶化処理を行う工程(以下、「工程A」と言う。)を有する。本実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法は、さらに、不溶化処理を行った土壌からなる盛土層を備える盛土構造を形成する工程(以下、「工程B」と言う。)を有していてもよい。
【0013】
(工程A(セレンの不溶化処理工程))
工程Aでは、セレンを含む土壌(セレン汚染土壌)に、バリウム化合物および固化材を混合する。
【0014】
セレンを含む土壌としては、例えば、地盤掘削時や山岳掘削時に発生する掘削土が挙げられる。
セレンを含む土壌は、セレン以外のヒ素、鉛等の重金属を含んでいてもよい。土壌中のセレン等の重金属は、単体として存在していてよいし、化合物として存在していてもよい。
土壌中のセレンの含有量は、従来、吸着層工法等による封じ込めの対象となっている土壌(要対策土)におけるセレンの含有量と同様であってよい。
【0015】
バリウム化合物としては、セレンを不溶化することができるものであれば特に限定されないが、例えば、塩化バリウム(BaCl2)、炭酸バリウム(BaCO3)、酢酸バリウム((CH3COO)2Ba)、リン酸バリウム(BaPO4)、水酸化バリウム(Ba(OH)2)、金属バリウム(Ba)、酸化バリウム(BaO)等が挙げられる。これらのバリウム化合物の中でも、セレンを不溶化する機能に優れる点から、塩化バリウムが好ましい。
なお、バリウム化合物によってセレンを不溶化するとは、土壌中に含まれるセレン化合物が、土壌と水が存在した場合にも、その溶出量が不溶化前よりも少なくなることである。
【0016】
本実施形態では、土壌に対するバリウム化合物の添加量は、乾燥した土壌100gに対するバリウム化合物の質量(g)で表される。土壌に対するバリウム化合物の添加量を表す単位は、「g/100g-dry soil」である。このとき、土壌としては、粒径2mm以下に破砕した後、室温(25℃)環境下で1週間乾燥させたものを用いる。
【0017】
土壌に対するバリウム化合物の添加量は、0.1g/100g-dry soil以上10g/100g-dry soil以下であることが好ましく、0.5g/100g-dry soil以上5g/100g-dry soil以下であることがより好ましい。バリウム化合物の添加量が前記下限値以上であれば、セレンを含む土壌との混合によりセレンを効果的に不溶化できる。一方、バリウム化合物の添加量が前記上限値以下であれば、過剰量のバリウム化合物が結晶化せずに溶出し、環境中に漏洩することを防ぐことができる。
【0018】
固化材としては、バリウム化合物を不溶化することができるものであれば特に限定されないが、例えば、セメント、酸化マグネシウム(MgO)、不溶化材等が挙げられる。
セメントとしては、例えば、ポルトライトセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等が挙げられる。
不溶化材としては、例えば、酸化マグネシウム系不溶化材、ハイドロタルサイト系不溶化材、シュベルトマナイト系不溶化材等が挙げられる。
これらの固化材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本実施形態では、土壌に対する固化材の添加量は、土壌に対するバリウム化合物の添加量と同様に表される。
土壌に対する固化材の添加量は、0.5g/100g-dry soil以上40g/100g-dry soil以下であることが好ましく、1g/100g-dry soil以上10g/100g-dry soil以下であることがより好ましい。固化材の添加量が前記下限値以上であれば、セレンを含む土壌との混合によりセレンを効果的に不溶化できる。一方、固化材の添加量が前記上限値以下であれば、重金属汚染土壌の容量が過剰に増大したり、重金属汚染土壌が必要以上に固化したりすることを防ぐことができる。
【0020】
土壌にバリウム化合物および固化材を混合する方法は、特に限定されないが、例えば、バックホウによる撹拌や、自走式攪拌機による撹拌等が挙げられる。
【0021】
(工程B(盛土構造を形成する工程))
工程Bでは、工程Aにて不溶化処理された土壌からなる盛土層を備える盛土構造を形成する。
工程Bでは、詳細には、
図1に示す盛土構造10を形成する。
盛土構造10は、盛土層11と、保護盛土層12と、遮水層13と、を備える。
【0022】
盛土層11は、地面G上に設けられている。保護盛土層12は、盛土層11の側面および上面を覆うように設けられている。遮水層13は、盛土層11の下面と保護盛土層12の側面および上面を覆うように設けられている。すなわち、盛土構造10の下側から、遮水層13、盛土層11、保護盛土層12、遮水層13がこの順に積層されている。
【0023】
盛土層11と、保護盛土層12と、遮水層13それぞれの幅方向の断面は、下方に向かうに従って幅広となる台形状である。盛土構造10の下側において、遮水層13の上面と盛土層11の下面とは接しており、遮水層13の上面の幅は盛土層11の下面の幅よりも大きくされている。盛土構造10全体での断面も台形状となっている。
【0024】
盛土構造10の下側において、遮水層13を厚さ方向(盛土構造10の高さ方向)に貫通する貫通穴14が形成されている。盛土層11に含まれる水分は、貫通穴14を介して、盛土構造10の外部に排出される。
【0025】
盛土層11は、工程Aにて不溶化処理を行った土壌から形成されている。
盛土層11の厚さは、0.5m以上200m以下であることが好ましく、1m以上100m以下であることがより好ましい。
【0026】
保護盛土層12は、施工中に盛土層11を損傷することがないように設けられる構造であり、透水性(盛土層11に含まれる水分を透過する性質)を有する。保護盛土層12は、透水性を有するために、ベントナイト等の吸水により膨潤する構造を有さない。
保護盛土層12の厚さは、0.1m以上5m以下であることが好ましく、0.3m以上1m以下であることがより好ましい。
【0027】
遮水層13は、アルカリ性遮水剤粘土を含む。
アルカリ性遮水剤としては、粘土、セメント系遮水剤等が挙げられる。
粘土としては、厚さ0.5mの層としたときの透水係数が1×10-8cm/s以下の粘性土が用いられる。粘土としては、例えば、ベントナイトが挙げられる。遮水層13に含まれるアルカリ化抑制剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
遮水層14は、アルカリ性遮水剤のみからなるものであってもよく、アルカリ性遮水剤以外の他の材料を含むものであってもよい。
遮水層13の遮水性能は、従来の吸着層工法等における遮水層の遮水性能と同様であってよい。
遮水層13の厚さは、0.1m以上3m以下であることが好ましく、0.3m以上1m以下であることがより好ましい。
【0028】
盛土構造10は、例えば、以下の手順で施工できる。
地面G上に、アルカリ性遮水剤粘土で盛土構造10の最下層となる遮水層13を形成する。
次いで、遮水層13の上に、工程Aにて不溶化処理を行った土壌を盛土し、盛土層11を形成する。
次いで、盛土層11の側面および上面を保護盛土層12で覆う。
次いで、保護盛土層12の側面および上面をアルカリ性遮水剤粘土で覆い、遮水層13を形成する。
【0029】
本実施形態の汚染土壌の処理方法によれば、セレンを含む土壌に、バリウム化合物および固化材を混合し、前記土壌に含まれるセレンの不溶化処理を行うことにより、前記土壌中のセレンの溶出を抑制することができる。
【0030】
本実施形態の盛土構造10によれば、不溶化処理をされたセレンを含む土壌からなる盛土層11を備えるため、セレンを不溶化するために前記土壌に添加したバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出、および土壌に含まれるセレンの溶出を抑制することができる。
【0031】
(第2の実施形態)
[セレン汚染土壌の処理方法、盛土構造]
本実施形態によるセレン汚染土壌の処理方法は、上記工程Bを有し、上記工程Bにおいて、盛土層の下方に、バリウムイオンの溶出を抑制する物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を有する構造物を設ける。
【0032】
(工程B(構造物を設ける工程))
工程Bでは、工程Aにて不溶化処理された土壌からなる盛土層の下方に、バリウムイオンの溶出を抑制する物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を有する構造物を設ける。
工程Bでは、詳細には、
図2に示す盛土構造20を形成する。なお、本実施形態に係る盛土構造20では、前記実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
盛土構造20は、盛土層11と、保護盛土層12と、遮水層13と、構造物21と、を備える。
【0033】
構造物21は、盛土層11の下方に設けられている。保護盛土層12は、構造物21の上面の一部(外縁部)と盛土層11の側面および上面を覆うように設けられている。遮水層13は、構造物21の側面および下面と保護盛土層12の側面および上面を覆うように設けられている。すなわち、盛土構造10の下側から、遮水層13、構造物21、盛土層11、保護盛土層12、遮水層13がこの順に積層されている。
【0034】
遮水層13、構造物21、盛土層11それぞれの幅方向の断面は、下方に向かうに従って幅広となる台形状である。盛土構造20の下側において、遮水層13の上面と構造物21の下面とは接しており、遮水層13の上面の幅と構造物21の下面の幅とは同じとされている。また、構造物21の上面と盛土層11の下面とは接しており、構造物21の上面の幅は盛土層11の下面の幅よりも大きくされている。盛土構造20全体での断面も台形状となっている。
【0035】
構造物21は、盛土層11中のバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出を抑制する物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を有する。構造物21としては、前記の性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば物理的性質とは、陽イオンを吸着する吸着材を混合することでバリウムイオンを構造物内に保持するものであってもよく、化学的性質とは盛土層11に含まれる浸潤水中のバリウムイオンを硫酸バリウムとして構造物内で析出させるものであってもよい。化学的性質としては、前述のバリウムイオンを不溶化することで貫通穴14から盛土構造20の外部に排出される排水中にバリウムイオンを溶存させない方法や、バリウムイオンを無害な化合物(例えば、硫酸バリウム、バリウム=4-(5-クロロ-4-メチル-2-スルホナトフェニルアゾ)-3-ヒドロキシ-2-ナフアート)とする機能等が挙げられる。
また、構造物21は透水性(盛土層11に含まれる水分を透過する性質)を有する。構造物21は、透水性を有するために、ベントナイト等の吸水により膨潤する構造を有さない。
なお、構造物21が保護盛土層12を兼ねていてもよく、保護盛土層12が構造物21を兼ねていてもよい。
構造物21の厚さは、0.1m以上20m以下であることが好ましく、0.3m以上10m以下であることがより好ましい。
【0036】
盛土構造20は、例えば、以下の手順で施工できる。
地面G上に、アルカリ性遮水剤粘土で盛土構造10の最下層となる遮水層13を形成する。
次いで、遮水層13の上に、構造物21を配置する。
次いで、構造物21の上に、工程Aにて不溶化処理を行った土壌を盛土し、盛土層11を形成する。
次いで、構造物21の上面のうち盛土層11で覆われていない部分(外縁)と盛土層11の側面および上面を保護盛土層12で覆う。
次いで、構造物21の側面と保護盛土層12の側面および上面をアルカリ性遮水剤粘土で覆い、遮水層13を形成する。
【0037】
本実施形態の汚染土壌の処理方法によれば、不溶化処理を行った土壌からなる盛土層11の下方に、バリウムイオンの溶出を抑制する機構を有する構造物21を設けることにより、セレンを不溶化するために前記土壌に添加したバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出を抑制することができる。
【0038】
本実施形態の盛土構造20によれば、不溶化処理をされたセレンを含む土壌からなる盛土層11と、盛土層11の下方に設けられ、バリウムイオンの溶出を抑制する機構を有する構造物21と、を備えるため、セレンを不溶化するために前記土壌に添加したバリウム化合物に含まれるバリウムイオンの溶出を抑制することができる。
【0039】
以上、本発明について、実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【実施例0040】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0041】
[実験例]
自然由来のヒ素、セレンを含む岩石を粒径2mm以下に破砕した後、室温で乾燥させた。
破砕した岩石(以下、「試料」と言う。)に対してバリウム化合物や固化材を添加した場合と、添加しない場合とについて、バリウム溶出量、セレン溶出濃度およびヒ素溶出濃度を比較した。
バリウム化合物としては、塩化バリウムを用いた。試料100質量部に対する塩化バリウムの添加量が0.5質量部となるように、試料に塩化バリウムを添加した。
固化材としては、セメント(高炉セメントB種)、不溶化材(酸化マグネシウム(MgO)系不溶化材)、酸化マグネシウム(MgO)を用いた。試料100質量部に対する固化材の添加量が4質量部となるように、試料に固化材を添加した。
塩化バリウムと固化材を添加した試料をよく混ぜ合わせた後、試料の質量の15%の水を加えてさらに混合した。
混合後の試料をポリプロピレン製のパックに詰めて、密閉した状態で、20℃にて7日間養生した。
養生後の試料からの重金属等の溶出量を測定するために、(平成20年環境省告示第46号(環告46号))に準拠して検液を作成し、バリウム濃度(バリウム溶出濃度)、セレン濃度(セレン溶出濃度)、ヒ素濃度(ヒ素溶出濃度)を測定した。
この操作を3回繰返し、検液作成後の残渣を用いて再び環告46号試験による溶出試験を実施し、岩石の単位質量当たりバリウムの累積溶出量を算出した。結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示す結果から、塩化バリウムのみを添加した場合には、バリウムの累積溶出量が27mg/kgであるのに対して、塩化バリウムと固化材を添加した場合には、バリウムの累積溶出量が18mg/kg~20mg/kgに抑制されていることが分かった。
【0044】
また、バリウムの累積溶出量の測定と同様にして、セレン濃度(セレン溶出濃度)、ヒ素濃度(ヒ素溶出濃度)を測定した。セレン溶出濃度を表2に、ヒ素溶出濃度を表3に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
表2および表3に示す結果から、塩化バリウムによるセレンの不溶化効果、固化材によるヒ素の不溶化効果は、塩化バリウムと固化材を混合しても損なわれないことが分かった。したがって、ヒ素とセレンを含む重金属含有土に対しても、本実験例の方法は有効であることを確認できた。
また、表2に示す結果から、塩化バリウムのみを添加した場合には、1回目と比べて2回目において、セレン溶出濃度が増加しているのに対し、固化材を混合することでセレン溶出濃度が増加しないことが分かった。これは、バリウムの溶出を抑制したことで複数回の溶出試験を行っても、セレンの溶出を抑制した状態を維持できたと考えられる。すなわち、塩化バリウムと固化材を混合した場合には、バリウム化合物を単独で使用した場合よりも、長期間にわたってセレンの溶出を抑制できると考えられる。
また、表3に示す結果から、塩化バリウムのみを添加した場合には、1回目と比べて2回目において、ヒ素溶出濃度が増加しているのに対し、固化材を混合することでヒ素溶出濃度が増加しないことが分かった。これは、バリウムの溶出を抑制したことで複数回の溶出試験を行っても、ヒ素の溶出を抑制した状態を維持できたと考えられる。すなわち、塩化バリウムと固化材を混合した場合には、塩化バリウムを単独で使用した場合よりも、長期間にわたってヒ素の溶出を抑制できると考えられる。