(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163812
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】光音響計測装置、光音響計測方法、光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20221020BHJP
G01N 29/265 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/265
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068869
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】田村 和輝
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA12
2G047BA03
2G047BC03
2G047BC20
2G047CA04
2G047EA19
2G047GD01
(57)【要約】
【課題】細胞のような試料の機械物性を非接触、短時間、高空間分解能で計測できる光音響計測装置の提供。
【解決手段】光音響計測装置11は、パルス光源21、集光加振部31、走査部41、光干渉計51、機械物性値算出部62を備える。パルス光源21は、光音響波W1を発生させる励起光L1を発生する。集光加振部31は、試料支持体3の非支持面3b側に配置され、励起光L1を試料支持体3における加振点P1に集光させ振動を加える。走査部41は加振点P1を面方向に移動させる。光干渉計51はレーザ光源53と光電変換部52とを有する。レーザ光源53は非支持面3b側まで達する計測光L2を発生する。光電変換部52は計測光L2の反射光L3と参照光との干渉から微小振動を検出して光電変換する。機械物性値算出部62は、光干渉計51からのデータに基づき計測点P2の機械物性値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光音響波を発生させる励起光を発生するパルス光源と、
試料を接触させて支持する試料支持体の非支持面側に配置され、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える集光加振部と、
前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部と、
前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、
前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部と
を備えたことを特徴とする光音響計測装置。
【請求項2】
前記集光加振部は対物レンズであり、前記対物レンズは前記励起光を前記試料支持体の前記非支持面上における前記加振点に集光させることを特徴とする請求項1に記載の光音響計測装置。
【請求項3】
前記パルス光源は、パルス幅が100ナノ秒以下のパルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源であり、
前記走査部は光スキャナである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光音響計測装置。
【請求項4】
前記試料は細胞であり、前記試料支持体は細胞培養用シャーレの底部であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光音響計測装置。
【請求項5】
パルス光源によって、光音響波を発生させる励起光を発生する励起光発生ステップと、
試料を接触させて支持する試料支持体の非支持面側に配置された集光加振部によって、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える集光加振ステップと、
前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて、光音響波を発生させる光音響波発生ステップと、
前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を照射し、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する微小振動検出ステップと、
前記微小振動の検出結果に基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出ステップと
を含むことを特徴とする光音響計測方法。
【請求項6】
前記集光加振ステップでは、前記励起光を前記試料支持体の前記非支持面上における前記加振点に集光させて、前記非支持面上の前記加振点に振動を加えることを特徴とする請求項5に記載の光音響計測方法。
【請求項7】
前記励起光発生ステップでは、前記励起光としてパルス幅が100ナノ秒以下のパルスレーザ光を発生する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の光音響計測方法。
【請求項8】
前記試料は細胞であり、前記試料支持体は細胞培養用シャーレの底部であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の光音響計測方法。
【請求項9】
顕微鏡側光路上に設けられ試料支持体上に接触して支持された試料に光を集光させる対物レンズを備える光学顕微鏡に取り付けられることにより、前記光学顕微鏡に光音響計測機能を付加することが可能な後付け光音響計測ユニットであって、
光音響波を発生させる励起光を発生するパルス光源と、
前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部と、
前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、
前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部と
を備え、
前記パルス光源の発する前記励起光の進路であるユニット側主光路が、前記顕微鏡側光路に光学的に接続可能であるとともに、前記対物レンズが、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える手段を兼ねる
ことを特徴とする光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット。
【請求項10】
顕微鏡側光路上に設けられ試料支持体上に接触して支持された試料に光を集光させる対物レンズと、前記顕微鏡側光路上に設けられ前記試料における観察点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部としての光スキャナとを備える光学顕微鏡に取り付けられることにより、前記光学顕微鏡に光音響計測機能を付加することが可能な後付け光音響計測ユニットであって、
光音響波を発生させる励起光を発生するパルス光源と、
前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、
前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部と
を備え、
前記パルス光源の発する前記励起光の進路であるユニット側主光路が、前記顕微鏡側光路に光学的に接続可能であるとともに、前記対物レンズが、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える手段を兼ね、前記光スキャナが、前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる手段を兼ねる
ことを特徴とする光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット。
【請求項11】
顕微鏡側光路上に設けられ試料支持体上に接触して支持された試料に光を集光させる対物レンズと、前記顕微鏡側光路上に設けられたパルス光源とを備える光学顕微鏡に取り付けられることにより、前記光学顕微鏡に光音響計測機能を付加することが可能な後付け光音響計測ユニットであって、
前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部と、
前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、
前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部と
を備え、
前記レーザ光源の発する前記計測光の進路であるユニット側主光路が、前記顕微鏡側光路に光学的に接続可能であるとともに、前記対物レンズが、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える手段を兼ね、前記パルス光源が、光音響波を発生させる励起光を発生しうる
ことを特徴とする光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響計測装置、光音響計測方法、光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生医療に使用される移植用の細胞は、通常、移植前の品質管理のため、週単位にわたり観察を行うことが必要とされる。しかし、移植細胞が人体の一部として取り込まれることを考慮すると、観察手法として染色や遺伝子導入の必要がある蛍光観察を採用することは妥当ではない。このため、位相差顕微鏡などの光学顕微鏡を使用して形態的な観察をするほか、細胞の品質管理をする有効な手法がないのが現状である。
【0003】
ここで、細胞における形態以外の特徴としては、硬さ等に代表される機械物性がある。がん化したときや薬剤を処理したとき等には細胞の機械物性が変化することが報告されており、このことから機械物性の計測結果に基づいて細胞の品質管理を行うことが従来検討されている。
【0004】
一般的に機械物性は、試料に外力を与えてその変位を計測することにより求めることができる。ただし、試料が小さな単一の細胞である場合、外力に対する耐久性が極めて弱く破壊しやすいため、変位を計測することは難しい。細胞の機械物性を計測するための従来の手法としては、例えば原子間力顕微鏡を使用して機械物性を計測する手法がある。しかし、探針を細胞に接近させる必要があることから、細胞の汚染や損傷が懸念され、機械物性を計測するための有効な手法とは言えない。
【0005】
このような欠点を解消するためには、細胞培養用のシャーレを密閉して培養環境を保持した状態にして非接触で細胞の機械物性を計測できる手法の確立が不可欠とされている。従来の別の機械物性計測法としては、例えば、バイオ超音波顕微鏡を用いる手法、光干渉断層法(OCT)による手法、光音響イメージングによる手法などがある。超音波顕微鏡を用いる手法では、超音波振動子を使って広帯域超音波パルスを照射し、細胞から返ってくる音波を計測して、機械物性を算出する(例えば特許文献1を参照)。光干渉断層法(OCT)による手法では、音響放射力を使って細胞を振動させ、加振位置から距離の離れた場所の変位を光干渉断層法で計測することにより、機械物性を算出する。光音響イメージングによる手法では、光音響変換を用いて細胞内の吸光が強い部分から発せられる音波を超音波振動子で計測して、機械物性を算出する(例えば特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-190454号公報
【特許文献2】特開2014-066701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には以下のような問題があった。例えば、バイオ超音波顕微鏡では画像化される1ピクセルごとに超音波パルスを送受信する必要があり、そのために超音波振動子を平面方向に機械走査している。ゆえに、1つの細胞の計測を完了するのに1分以上の時間を要してしまう。また、既存のバイオ超音波顕微鏡では、共焦点レーザ顕微鏡で達成しうる平面方向の空間分解能で計測することができないほか、例えば硬さの計測はできても、弾性や粘性の計測ができない。
【0008】
光音響イメージングによる手法では、細胞の加振及び計測を行うために強いレーザ光を照射する必要があり、その結果として細胞の温度が上がり活性が低下してしまう。
【0009】
また、原子間力顕微鏡やバイオ超音波顕微鏡を用いた手法は、通常の光学顕微鏡を用いた細胞観察とは全く異なるものであるため、生物分野の研究者が使用するにあたって障壁が大きいという欠点もある。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、細胞等のような試料の機械物性を非接触、短時間かつ高空間分解能で計測することができる光音響計測装置、光音響計測方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、既存の光学顕微鏡に対して光音響計測機能を比較的簡単に付加することができる光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段を下記[1]~[11]に列挙する。
[1]光音響波を発生させる励起光を発生するパルス光源と、試料を接触させて支持する試料支持体の非支持面側に配置され、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える集光加振部と、前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部と、前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部とを備えたことを特徴とする光音響計測装置。
[2]前記集光加振部は対物レンズであり、前記対物レンズは前記励起光を前記試料支持体の前記非支持面上における前記加振点に集光させることを特徴とする上記1に記載の光音響計測装置。
[3]前記パルス光源は、パルス幅が100ナノ秒以下のパルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源であり、前記走査部は光スキャナであることを特徴とする上記1または2に記載の光音響計測装置。
[4]前記試料は細胞であり、前記試料支持体は細胞培養用シャーレの底部であることを特徴とする上記1乃至3のいずれか1項に記載の光音響計測装置。
[5]パルス光源によって、光音響波を発生させる励起光を発生する励起光発生ステップと、試料を接触させて支持する試料支持体の非支持面側に配置された集光加振部によって、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える集光加振ステップと、前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて、光音響波を発生させる光音響波発生ステップと、前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を照射し、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する微小振動検出ステップと、前記微小振動の検出結果に基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出ステップとを含むことを特徴とする光音響計測方法。
[6]前記集光加振ステップでは、前記励起光を前記試料支持体の前記非支持面上における前記加振点に集光させて、前記非支持面上の前記加振点に振動を加えることを特徴とする上記5に記載の光音響計測方法。
[7]前記励起光発生ステップでは、前記励起光としてパルス幅が100ナノ秒以下のパルスレーザ光を発生することを特徴とする上記5または6に記載の光音響計測方法。
[8]前記試料は細胞であり、前記試料支持体は細胞培養用シャーレの底部であることを特徴とする上記5乃至7のいずれか1項に記載の光音響計測方法。
[9]顕微鏡側光路上に設けられ試料支持体上に接触して支持された試料に光を集光させる対物レンズを備える光学顕微鏡に取り付けられることにより、前記光学顕微鏡に光音響計測機能を付加することが可能な後付け光音響計測ユニットであって、光音響波を発生させる励起光を発生するパルス光源と、前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部と、前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部とを備え、前記パルス光源の発する前記励起光の進路であるユニット側主光路が、前記顕微鏡側光路に光学的に接続可能であるとともに、前記対物レンズが、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える手段を兼ねることを特徴とする光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット。
[10]顕微鏡側光路上に設けられ試料支持体上に接触して支持された試料に光を集光させる対物レンズと、前記顕微鏡側光路上に設けられ前記試料における観察点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部としての光スキャナとを備える光学顕微鏡に取り付けられることにより、前記光学顕微鏡に光音響計測機能を付加することが可能な後付け光音響計測ユニットであって、光音響波を発生させる励起光を発生するパルス光源と、前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部とを備え、前記パルス光源の発する前記励起光の進路であるユニット側主光路が、前記顕微鏡側光路に光学的に接続可能であるとともに、前記対物レンズが、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える手段を兼ね、前記光スキャナが、前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる手段を兼ねることを特徴とする光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット。
[11]顕微鏡側光路上に設けられ試料支持体上に接触して支持された試料に光を集光させる対物レンズと、前記顕微鏡側光路上に設けられたパルス光源とを備える光学顕微鏡に取り付けられることにより、前記光学顕微鏡に光音響計測機能を付加することが可能な後付け光音響計測ユニットであって、前記試料支持体における前記加振点を前記試料支持体の面方向に沿って移動させる走査部と、前記加振点に対応した位置にある前記試料の計測点にて発生した光音響波により前記試料支持体が振動するときに、前記集光加振部を介して前記非支持面側まで達する計測光を発生するレーザ光源と、前記非支持面側にて反射されて戻ってくる前記計測光の反射光と参照光との干渉から微小振動を検出して電気信号に変換する光電変換部とを有する光干渉計と、前記光干渉計からのデータに基づいて、前記試料の前記計測点における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部とを備え、前記レーザ光源の発する前記計測光の進路であるユニット側主光路が、前記顕微鏡側光路に光学的に接続可能であるとともに、前記対物レンズが、前記励起光を前記試料支持体における加振点に集光させて前記加振点に振動を加える手段を兼ね、前記パルス光源が、光音響波を発生させる励起光を発生しうることを特徴とする光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したように、請求項1~8に記載の発明によると、細胞等のような試料の機械物性を非接触、短時間かつ高空間分解能で計測することができる光音響計測装置、光音響計測方法を提供することができる。請求項9~11に記載の発明によると、既存の光学顕微鏡に対して光音響計測機能を比較的簡単に付加することができる光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態における光音響計測装置の構成を示す概略図。
【
図2】(a)~(c)は上記の光音響計測装置の計測原理を説明するための図。
【
図3】第2実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットの構成を示す概略図。
【
図4】第3実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットの構成を示す概略図。
【
図5】第4実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットの構成を示す概略図。
【
図6】第5実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットの構成を示す概略図。
【
図7】別の実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニットの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した第1実施形態の光音響計測装置11を
図1、
図2に基づき詳細に説明する。
図1は、光音響計測装置11の構成を示す概略図であり、
図2(a)~(c)は光音響計測装置11の計測原理を説明するための図である。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態の光音響計測装置11は、細胞培養用のシャーレ1を密閉して培養環境を保持した状態にして、非接触で細胞2の機械物性を計測するための装置である。この光音響計測装置11においては、細胞培養用シャーレ1の底部3が試料支持体としての役割を果たしている。なお、細胞培養用シャーレ1の底部3の上面が、試料である細胞2を接触させて支持するその支持面3a側となっており、その反対にある下面が、非支持面3b側となっている。
【0016】
この光音響計測装置11を構成する装置本体12の上面は試料ステージ13であって、そこには細胞培養用シャーレ1が載置される。この光音響計測装置11は、パルス光源21、対物レンズ(集光加振部)31、光スキャナ(走査部)41、光干渉計51、制御装置61、入出力インターフェース63等を装置本体12の内部に備えている。パルス光源21から非支持面3bに到る光線の通り道である主光路R11上には、パルス光源21側から順に、一対のレンズ間にピンホールを配置したレンズユニット22、ダイクロイックミラー26、光スキャナ41、対物レンズ31が配置されている。
【0017】
パルス光源21は、光音響波W1を発生させる励起光L1を発生するための光源である。このパルス光源21が発生するパルス光の波長は特に限定されないが、例えば340nm~1200nm程度の波長(即ち紫外線領域から近赤外線領域にわたる波長)であればよく、本実施形態では532nmまたは1064nmに設定している。このパルス光源21としては、非常に短時間のパルス光を発生するものが使用され、例えばパルス幅が100ナノ秒以下のパルス光を発生するものが使用される。具体的には、パルス幅が100ナノ秒以下のパルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源が使用される。パルスレーザ光源は、1ナノ秒以下のパルスレーザ光を発生するものであることが好ましく、ピコ秒レベルのパルスレーザ光を発生するものであることがより好ましく、フェムト秒レベルのパルスレーザ光を発生するものであることが特に好ましい。本実施形態では、フェムト秒レベルのパルスレーザ光を発生可能なパルスレーザ光源を用いている。なお、このようなパルス光源21としてはパルスレーザ光源が好ましいが、パルスレーザ光源の代わりに、例えば発光ダイオードなどを使用してもよい。
【0018】
集光加振部としての対物レンズ31は、試料支持体である底部3の非支持面3b側、つまり
図1において底部3の下方に配置されている。この対物レンズ31は、励起光L1を底部3の非支持面3b上における加振点P1に集光させて、加振点P1に振動を加えるための手段として機能する。本実施形態では、細胞観察用の光学顕微鏡(例えば共焦点レーザ顕微鏡や蛍光顕微鏡など)に用いているものと同等の高倍率の対物レンズ31を使用している。
【0019】
走査部としての光スキャナ41は、底部3の非支持面3b上における加振点P1を非支持面3bの面方向(XY方向)に沿って高速で移動させるための手段である。本実施形態においては、一対のガルバノミラー42、43を用いて光を走査するガルバノスキャナが用いられている。なお、ガルバノミラー42、43を用いたガルバノスキャナの代わりに、例えばMEMSミラーを用いて光を走査するMEMSスキャナを用いてもよい。
【0020】
光干渉計51は、光音響波W1に起因して発生する振動を光学的に検知するための装置であって、主光路R11から分岐した別の光路(副光路R12)上に配置されている。好適な光干渉計51としては例えばマイケルソン干渉計が挙げることができ、本実施形態ではこれを用いている。副光路R12と主光路R11とは、上記のダイクロイックミラー26にて交わっている。ダイクロイックミラー26と光干渉計51との間には、一対のレンズ間にピンホールを配置したレンズユニット54が配置されている。この光干渉計51は、光電変換部52とレーザ光源53とを有している。レーザ光源53は、光干渉法による計測に用いる計測光L2を発生する。計測光L2は、光音響波W1を発生させるためのものではないため、上記の励起光L1(532nmまたは1064nmの励起光L1)とは異なる波長の光が使用される。本実施形態では、例えば可視光領域全般のレーザ光(400nm~700nm程度のレーザ光(ただし532nmを除く))を計測光L2として使用している。この計測光L2は、集光加振部である対物レンズ31を介して底部3の非支持面3b側まで達した後、反射光L3となって戻ってくる。なお、レーザ光源53から照射された計測光L2のうちの一部は、途中で分岐されて参照光(図示略)となり、図示しない参照体にて反射された後に反射光L3と合成される。光電変換部52は、非支持面3b側にて反射されて戻ってくる計測光L2の反射光L3と参照光との合成光を受信し、両者の干渉から底部3の微小振動(即ち微小変位)を検出して電気信号に変換する。光電変換部52としては、例えばフォトダイオードや光電子増倍管などが用いられる。
【0021】
制御装置61は、例えばCPU、ROM、RAMなどによって構成されパーソナルコンピュータであり、パルス光源21、対物レンズ31、走査部41及び光干渉計51と電気的に接続されている。この制御装置61は、所定のプログラムを格納しており、そのプログラムに従ってパルス光源21、対物レンズ31、走査部41及び光干渉計51の動作を適宜制御している。また、この制御装置61は、光干渉計51からのデータに基づいて計測点P2における機械物性値を算出する演算を行う機械物性値算出部としての役割を果たしている。本実施形態の制御装置61では、例えば硬さ、弾性、粘性を計測するためのプログラムに基づいて、硬さ、弾性、粘性が算出される。入出力インターフェース63は、制御装置61に電気的に接続されるとともに、装置外部の図示しないディスプレイ装置や入力装置などに電気的に接続されている。
【0022】
次に、この光音響計測装置11の動作について説明する。まず計測対象物である細胞2を収容した細胞培養用シャーレ1を試料ステージ13上に載置する。このとき、制御装置61は、対物レンズ31を駆動して、焦点が底部3の非支持面3b上にくるように調整する。入力装置から計測開始を指示する情報が入力されると、制御装置61は、パルス光源21を駆動してフェムト秒レベルのパルスレーザ光(励起光L1)を繰り返し発光させるように制御する(励起光発生ステップ)。また制御装置61は、パルス光源21が励起光L1を繰り返し発光している間、光干渉計51のレーザ光源53を駆動し、計測光L2であるレーザ光を連続的に発光させる。
【0023】
パルス光源21が発生した励起光L1は、レンズユニット22、ダイクロイックミラー26、光スキャナ41及び対物レンズ31を通過して、底部3の非支持面3b上における加振点P1に集められる。その際、制御装置61は、所定の走査位置に励起光L1が集光するように、光スキャナ41を駆動制御する。すると、加振点P1に集光された励起光L1は、光音響作用により加振点P1に振動を励起させる(集光加振ステップ;
図2(a)(b)参照)。その結果、加振点P1に対応した位置にある試料の計測点P2にて、光音響波W1が発生する(光音響波発生ステップ;
図2(c)参照)。このような光音響波W1が発生すると、底部3が微小振動して非支持面3bが僅かに変位する。
【0024】
非支持面3bで反射された計測光L2(即ち反射光L3)は、主光路R11を戻るように進んでダイクロイックミラー26に到り、そこで副光路R12側に進路変更させられて参照光と合成される。この合成光は、光干渉計51の光電変換部52に受信され、電気信号に変換される。つまり、反射光L3と参照光との干渉から底部3の微小振動を検出して、それを電気信号に変換する(微小振動検出ステップ)。このとき、制御装置61は、励起光L1の発光タイミングに合わせて、光電変換部52からの電気信号を保存する。そして制御装置61は、先に保存した電気信号から得た微小振動の検出結果に基づいて、計測点P2における機械物性値(硬さ、弾性、粘性)を算出する演算を行う(機械物性値算出ステップ)。このように算出された機械物性値は、入出力インターフェース63を介してディスプレイ装置に出力され、所定の態様で表示される。
【0025】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0026】
(1)上記のように構成された本実施形態の光音響計測装置11及びそれを用いた光音響計測方法では、試料である細胞2の機械物性を計測するために、細胞2に直接外力を与えて変位を計測するのではなく、光音響効果を利用して細胞2に間接的に振動を加えることで変位を計測する。つまり本実施形態では、細胞培養用のシャーレ1を密閉して培養環境を保持し、その状態で加振と計測とを非接触で行うことにより、細胞2の機械物性を計測することができる。そのため、培養中の細胞2の汚染や損壊といった心配がない。
【0027】
(2)この光音響計測装置11及び方法では、励起光L1を細胞2(計測点P2)に集光させて加振するのではなく、計測点P2よりも手前側にある底部3の非支持面3b上における加振点P1に集光させて加振している。このように励起光L1である強いパルスレーザ光を細胞2そのものに照射する必要がなくなる結果、細胞2の温度上昇が回避され、細胞2の活性を維持することができる。
【0028】
(3)この光音響計測装置11及び方法では、パルス光源21として、パルス幅がフェムト秒レベルのパルスレーザ光をごく短い時間で周期的に発生するパルスレーザ光源を用いている。計測速度はパルスレーザ光の繰り返し周期に依存することから、パルス繰り返し周波数が高いパルスレーザ光源の使用は、計測の高速化にとって有利に作用する。また、走査部として光スキャナ41を用いて光学的に走査を行っていることから、機械的に走査を行う場合に比べて、加振点P1を非支持面3bの面方向に沿って高速で移動させることができる。以上のことから、機械物性の計測を短時間で済ませることが可能となる。
【0029】
(4)この光音響計測装置11及び方法では、細胞観察用の光学顕微鏡に用いているものと同等の高倍率の対物レンズ31を使用している。そのため、共焦点レーザ顕微鏡や蛍光顕微鏡によって達成しうる平面方向の空間分解能で機械物性を計測することができる。
【0030】
(5)この光音響計測装置11及び方法では、加振点P1と計測点P2とを互いに近接した異なる位置に設定したうえで、機械物性の計測を行うことができる。従って、加振点P1と計測点P2とを互いに近接した異なる位置に設定困難な既存のバイオ超音波顕微鏡とは異なり、細胞2の硬さに加えて、弾性や粘性についても計測することができる。ちなみに、弾性については、加振点P1と計測点P2とを平面方向において同じ位置に設定し、かつ垂直方向に離間させて設定することで、計測可能である。粘性については、加振点P1と計測点P2とを平面方向に離間させて設定し、両者間の横波伝搬速度を計測することで、算出可能である。
【0031】
(6)以上説明したように、本実施形態の光音響計測装置11及びそれを用いた光音響計測方法によれば、細胞2のような試料の機械物性を非接触、短時間かつ高空間分解能で計測することができる。
【0032】
[第2実施形態]
以下、本発明を具体化した第2実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット101を
図3に基づき詳細に説明する。なお、ここでは第1実施形態と同じ構成については共通の部材番号を付す代わりに詳細な説明を省略する。
【0033】
図3に示されるように、この後付け光音響計測ユニット101は、既存の光学顕微鏡71に取り付けることで、その光学顕微鏡71に光音響計測機能を付加するためのユニットである。この後付け光音響計測ユニット101の取付対象となる光学顕微鏡71は、顕微鏡本体72、試料ステージ13、対物レンズ31、反射ミラー74などといった基本構成を備えている。試料ステージ13上には、細胞2を収容した細胞培養用のシャーレ1が載置されている。顕微鏡側主光路R1上に設けられた対物レンズ31は、細胞培養用のシャーレ1内の細胞2を光学的に観察すべく、そこに光を集束できるように構成されている。顕微鏡側主光路R1上には反射ミラー74が設けられている。この反射ミラー74があることにより、対物レンズ31側から入射した光線が反射されて、カメラポート73に到るようになっている。
【0034】
本実施形態の後付け光音響計測ユニット101は、パルス光源21、光スキャナ(走査部)41、光干渉計51、制御装置61、入出力インターフェース63、レンズユニット22,54、ダイクロイックミラー26等を装置本体102の内部に備えている。ただしこのユニット101は、既存の光学顕微鏡71側の対物レンズ31を使用することを前提としたものであることから、対物レンズ31を備えていない。このユニット101は、装置本体102の側部に突設された接続ポート103を有している。そして、この接続ポート103をカメラポート73に連結することにより、光学顕微鏡71に対して後付け光音響計測ユニット101が取り付けられる。このとき、パルス光源21の発する励起光L1の進路であるユニット側主光路R2が、顕微鏡側主光路R1に光学的に接続される。また本実施形態では、対物レンズ31が入出力インターフェース63を介して制御装置61に電気的に接続されており、制御装置61によって対物レンズ31のフォーカス深度を適宜調整できるように構成されている。その結果、本実施形態の対物レンズ31は、励起光L1を底部3の非支持面3b上における加振点P1に集光させて加振点P1に振動を加える手段としても機能する。
【0035】
このように構成された後付け光音響計測ユニット101を動作させると、パルス光源21が発生した励起光L1は、ユニット側主光路R2上にあるレンズユニット22、ダイクロイックミラー26、光スキャナ41を通過した後、光学顕微鏡71内に入る。すると励起光L1は、顕微鏡側主光路R1上にある反射ミラー74及び対物レンズ31を通過して、底部3の非支持面3b上における加振点P1に集められ、試料の計測点P2にて光音響波W1を発生させる。一方、光干渉計51のレーザ光源53が発生した計測光L2は、ユニット側副光路R3及びユニット側主光路R2を通過した後、光学顕微鏡71内に入る。すると計測光L2は、顕微鏡側主光路R1上にある反射ミラー74及び対物レンズ31を通過して底部3の非支持面3bに至り、そこで反射される。非支持面3bで反射された計測光L2(即ち反射光L3)は、計測光L2と同じ経路を逆方向に進み、参照光と合成された後に光干渉計51の光電変換部53に受信され、電気信号に変換される。そして制御装置61は、光電変換部53により得られた微小振動の検出結果に基づいて、計測点P2における機械物性値(硬さ、弾性、粘性など)を算出する演算を行う。
【0036】
従って本実施形態のユニット101によれば、既存の光学顕微鏡71に対して光音響計測機能を比較的簡単に付加することができ、それによって細胞2等のような試料の機械物性を非接触、短時間かつ高空間分解能で計測可能なシステムを構築することができる。また、光学顕微鏡71に本実施形態のユニット101を付加してなるシステムの場合、使用感が通常の光学顕微鏡71とあまり変わらない。それゆえ、例えば生物分野の研究者であっても、抵抗なく容易にシステムを使用することができるというメリットがある。従って、このシステムを用いれば、製薬の研究で使用されるスクリーニング用顕微鏡に応用することにより、形態観察に加えて機械物性値に基づく薬効判定などを行うことが可能となる。
【0037】
[第3実施形態]
以下、本発明を具体化した第3実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット101Aを
図4に基づき詳細に説明する。なお、ここでは第1、第2実施形態と同じ構成については共通の部材番号を付す代わりに詳細な説明を省略する。
【0038】
図4に示されるように、ユニット取付対象となる光学顕微鏡71Aは、顕微鏡本体72、試料ステージ13、対物レンズ31、反射ミラー74に加えて、さらに光スキャナ(走査部)41を基本構成として備えている。この光スキャナ41も、対物レンズ31及び反射ミラー74と同様に顕微鏡側主光路R1上に設けられている。光スキャナ41は、細胞2における観察点を底部3の面方向に沿って移動させることができるように構成されている。
【0039】
本実施形態の後付け光音響計測ユニット101Aは、パルス光源21、光干渉計51、制御装置61、入出力インターフェース63、レンズユニット22,54、ダイクロイックミラー26等を装置本体102の内部に備えている。一方、このユニット101Aは、既存の光学顕微鏡71側の対物レンズ31及び光スキャナ41を使用することを前提としたものであることから、対物レンズ31及び光スキャナ41を備えていない。
【0040】
また本実施形態では、上記の対物レンズ31ばかりでなく、光スキャナ41が入出力インターフェース63を介して制御装置61に電気的に接続されており、制御装置61によって走査位置を移動させることができるように構成されている。その結果、光スキャナ41が、底部3の非支持面3b上における加振点P1を底部3の面方向に沿って移動させる手段としても機能する。
【0041】
このように構成された後付け光音響計測ユニット101Aを動作させると、パルス光源21が発生した励起光L1は、ユニット側主光路R2上にあるレンズユニット22、ダイクロイックミラー26を通過した後、光学顕微鏡71A内に入る。すると励起光L1は、顕微鏡側主光路R1上にある光スキャナ41、反射ミラー74及び対物レンズ31を通過して、底部3の非支持面3b上における加振点P1に集められ、試料の計測点P2にて光音響波W1を発生させる。一方、光干渉計51のレーザ光源53が発生した計測光L2は、ユニット側副光路R3及びユニット側主光路R2を通過した後、光学顕微鏡71A内に入る。すると計測光L2は、顕微鏡側主光路R1上にある光スキャナ41、反射ミラー74及び対物レンズ31を通過して非支持面3bに至り、そこで反射される。非支持面3bで反射された計測光L2(即ち反射光L3)は、計測光L2と同じ経路を逆方向に進み、参照光と合成された後に光干渉計51の光電変換部52に受信され、電気信号に変換される。そして制御装置61は、光電変換部52により得られた微小振動の検出結果に基づいて、計測点P2における機械物性値(硬さ、弾性、粘性など)を算出する演算を行う。
【0042】
従って本実施形態のユニット101Aによれば、既存の光学顕微鏡71Aに対して光音響計測機能を比較的簡単に付加することができ、それによって細胞2等のような試料の機械物性を非接触、短時間、高空間分解能、かつ光学顕微鏡と同様の使用感で計測可能なシステムを構築することができる。
【0043】
[第4実施形態]
以下、本発明を具体化した第4実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット101Bを
図5に基づき詳細に説明する。なお、ここでは第1、第2実施形態と同じ構成については共通の部材番号を付す代わりに詳細な説明を省略する。
【0044】
図5に示されるように、ユニット取付対象となる光学顕微鏡71Cは、顕微鏡本体72、試料ステージ13、対物レンズ31、光スキャナ41、反射ミラー74に加えて、さらにパルス光源21、レンズユニット22、ダイクロイックミラー78を基本構成として備えている。パルス光源21、レンズユニット22、ダイクロイックミラー78、光スキャナ41、反射ミラー74及び対物レンズ31は、顕微鏡側主光路R1上に設けられている。ダイクロイックミラー78は、顕微鏡側主光路R1から分岐した顕微鏡側副光路R5上にも設けられており、顕微鏡側副光路R5はカメラポート73に到っている。なお、本実施形態の光学顕微鏡71Cは例えば二光子顕微鏡または多光子顕微鏡であるため、二光子現象または多光子現象を誘発させるパルスレーザ光(具体的にはフェムト秒レーザ光)を発生可能なパルス光源21を有している。
【0045】
本実施形態の後付け光音響計測ユニット101Bは、光干渉計51、制御装置61、入出力インターフェース63、レンズユニット54等を装置本体102の内部に備えている。一方、このユニット101Bは、既存の光学顕微鏡71B側の対物レンズ31、光スキャナ41及びパルス光源21を使用することを前提としたものであることから、対物レンズ31、光スキャナ41及びパルス光源21を備えていない。
【0046】
また本実施形態では、上記の対物レンズ31ばかりでなく、パルス光源21が入出力インターフェース63を介して制御装置61に電気的に接続されており、制御装置61によってパルス光源21が駆動制御されるように構成されている。その結果、パルス光源21が光音響波W1を発生させる励起光L1を所定タイミングで繰り返し発生するようになっている。同様に、光スキャナ41が入出力インターフェース63を介して制御装置61に電気的に接続されており、制御装置61によって走査位置を移動させることができるように構成されている。その結果、光スキャナ41が、底部3の非支持面3b上における加振点P1を底部3の面方向に沿って移動させる手段としても機能する。
【0047】
このように構成された後付け光音響計測ユニット101Bを動作させると、パルス光源21が発生した励起光L1は、顕微鏡側主光路R1上にあるレンズユニット22、ダイクロイックミラー78、光スキャナ41、反射ミラー74及び対物レンズ31を通過して、底部3の非支持面3b上における加振点P1に集められ、試料の計測点P2にて光音響波W1を発生させる。一方、光干渉計51のレーザ光源53が発生した計測光L2は、ユニット側主光路R2を通過した後、光学顕微鏡71B内に入る。ユニット側主光路R2は、顕微鏡側副光路R5を介して顕微鏡側主光路R1にあらかじめ光学的に接続されている。従って、計測光L2は、顕微鏡側主光路R1上にあるダイクロイックミラー78、光スキャナ41、反射ミラー74及び対物レンズ31を通過して非支持面3bに至り、そこで反射される。非支持面3bで反射された計測光L2(即ち反射光L3)は、計測光L2と同じ経路を逆方向に進み、参照光と合成された後に光干渉計51の光電変換部52に受信され、電気信号に変換される。そして制御装置61は、光電変換部52により得られた微小振動の検出結果に基づいて、計測点P2における機械物性値(硬さ、弾性、粘性など)を算出する演算を行う。
【0048】
従って本実施形態のユニット101Bによれば、既存の光学顕微鏡71Bに対して光音響計測機能を比較的簡単に付加することができ、それによって細胞2等のような試料の機械物性を非接触、短時間、高空間分解能、かつ光学顕微鏡と同様の使用感で計測可能なシステムを構築することができる。
【0049】
[第5実施形態]
以下、本発明を具体化した第5実施形態における光学顕微鏡用の後付け光音響計測ユニット101Cを
図6に基づき詳細に説明する。なお、ここでは第1、第2実施形態と同じ構成については共通の部材番号を付す代わりに詳細な説明を省略する。
【0050】
図6に示されるように、ユニット取付対象となる光学顕微鏡71は、第2実施形態と同様に、顕微鏡本体72、試料ステージ13、対物レンズ31、反射ミラー74などといった基本構成を備えたものとなっている。また、この後付け光音響計測ユニット101Cは、第2実施形態と同様に、パルス光源21、光スキャナ(走査部)41、光干渉計51、制御装置61、入出力インターフェース63、レンズユニット22,54、ダイクロイックミラー26等を装置本体102の内部に備えている。それに加えてこのユニット101Cは、図示しないレーザ光源を含んで構成されるレーザ共焦点ユニット77及びダイクロイックミラー76をユニット側副光路R6上に備えたものとなっている。なお、レーザ光源としては、例えば半導体レーザやアルゴンレーザなどが好適例として挙げられる。
【0051】
従って本実施形態のユニット101Cによれば、既存の光学顕微鏡71に対して光音響計測機能を比較的簡単に付加することができ、それによって細胞2等のような試料の機械物性を非接触、短時間、高空間分解能、かつ光学顕微鏡と同様の使用感で計測可能なシステムを構築することができる。また、レーザ共焦点ユニット77を備えていることから、レーザ共焦点顕微鏡としても使用することができる。
【0052】
なお、本発明の実施形態は一例であって、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更してもよい。
【0053】
・例えば、第4実施形態のシステムでは、対物レンズ31、光スキャナ41及びパルス光源21を備える光学顕微鏡71Cと、後付け光音響計測ユニット101Bとを組み合わせたが、例えばパルス光源21の代わりにレーザ共焦点ユニット77を備えた光学顕微鏡71Dを選択してもよい。ちなみに、
図7に示す別の実施形態のシステムでは、対物レンズ31、光スキャナ41及びレーザ共焦点ユニット77を備えた光学顕微鏡71Dと、パルス光源21、光干渉計51、制御装置61等を備えた後付け光音響計測ユニット101Aとを組み合わせている。
・上記実施形態では、試料を細胞2とし、試料支持体を細胞培養用シャーレ1の底部3としたが、これに限定されない。例えば、細胞2のような生体組織の代わりに、非生物を試料として計測を行ってもよい。また、試料支持体として細胞培養用シャーレ1以外のものを用いても勿論よい。
・上記実施形態では、対物レンズ31によって励起光L1を試料支持体である底部3の非支持面3b上における加振点P1に集光させるようにしたが、これに限定されない。例えば、底部3の支持面3から非支持面3bまでの範囲における任意の位置を加振点P1とし、そこに集光させるようにしてもよい。
・上記実施形態では、走査部として光スキャナ41を用いたが、光スキャナ41のような光学式走査手段に代えて、例えばX-Yテーブルのような機械式走査手段を用いてもよい。
・例えば、計測によって得られた機械物性値を二次元的にマッピングして画像化したものをディスプレイ装置上に表示させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
2…試料としての細胞
3…試料支持体としての細胞培養用シャーレの底部
3b…非支持面
11…光音響計測装置
21…パルス光源としてのパルスレーザ光源
31…集光加振部としての対物レンズ
41…走査部としての光スキャナ
51…光干渉計
52…光電変換部
53…レーザ光源
61…機械物性値算出部
71、71A、71B、71C、71D…光学顕微鏡
101、101A、101B、101C…後付け光音響計測ユニット
L1…励起光
L2…計測光
L3…反射光
P1…加振点
P2…計測点
R1…顕微鏡側光路としての顕微鏡側主光路
R2、R4…ユニット側主光路
R5…顕微鏡側光路としての顕微鏡側副光路
W1…光音響波