(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163843
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】呈色反応判定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20221020BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20221020BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20221020BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20221020BHJP
C12Q 1/25 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
G01N21/78 C
G01N21/27 A
G01N33/52 Z
C12Q1/04
C12Q1/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068915
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】595008711
【氏名又は名称】アドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】枇杷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
(72)【発明者】
【氏名】小林 行治
【テーマコード(参考)】
2G045
2G054
2G059
4B063
【Fターム(参考)】
2G045FA19
2G045GC12
2G054AA02
2G054AA06
2G054AB02
2G054AB04
2G054AB05
2G054CA20
2G054CA21
2G054CD04
2G054CE02
2G054EA03
2G054EA05
2G054EB02
2G054EB05
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2G054FA32
2G054FA33
2G054FA44
2G054GA03
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2G054GB10
2G054JA01
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2G059AA01
2G059BB12
2G059CC16
2G059CC17
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2G059EE02
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2G059GG02
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2G059KK04
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM09
2G059MM10
2G059MM14
2G059MM20
4B063QA01
4B063QQ01
4B063QQ21
4B063QR58
4B063QS02
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】イムノクロマトグラフィ技術および微生物の鑑別・同定、酵素反応等を活用した測定キットにおいて試薬による呈色状態を機械的に精度よく判定(測定)する。
【解決手段】呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域を照射する白色LED照明またはUV発光LEDと、呈色反応後の呈色状態を撮影するカメラと、カメラにて撮影された撮像データから、呈色判定を行うコンピュータとを備える。撮像データから呈色反応出現領域の色相およびまたは彩度、必要に応じて明度を求める。求めた色相およびまたは彩度に基づいて呈色状態を判断する。外部光環境影響のないファクターを用いることにより、白色LED照明を用いた調整不要な光環境で呈色状態を機械的に精度よく測定することが可能となり、UV発光LED照明を用いた蛍光発光の測定も可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈色反応における呈色判定を行う呈色反応判定システムであって、
呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域を照射する白色LED照明 と、
呈色反応後の呈色状態を撮影するカメラと、
前記カメラにて撮影された撮像データから、呈色判定を行うコンピュータと、を備え、
前記コンピュータには、前記撮像データから前記呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域の色相およびまたは彩度を求め、色彩データとしてメモリに格納する色彩分析部と、
前記メモリに格納された色彩データと、事前に前記メモリに格納された判定基準データとに基づき、呈色判定を行う呈色判定部と、
を有する、呈色反応判定システム。
【請求項2】
呈色反応における呈色判定を行う呈色反応判定システムであって、
呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域を照射するUV発光LED照明と、
呈色反応後の呈色状態を撮影するカメラと、
前記カメラにて撮影された撮像データから、呈色判定を行うコンピュータと、を備え、
前記コンピュータには、前記撮像データから前記呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域の色相およびまたは彩度を求め、色彩データとしてメモリに格納する色彩分析部と、
前記メモリに格納された色彩データと、事前に前記メモリに格納された判定基準データとに基づき、呈色判定を行う呈色判定部と、
を有する、呈色反応判定システム。
【請求項3】
前記カメラまたは前記コンピュータには、前記撮像データから、前記呈色状態出現領域を自動認識により特定する色彩判定領域認識部を有する請求項1または2に記載の呈色反応判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈色反応判定システム、詳しくは、イムノクロマトグラフィおよび微生物の鑑別・同定、酵素反応等において試薬による呈色状態を機械的に精度よく判定(測定)することができる呈色反応判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インフルエンザウイルス検査、妊娠検査、歯周病検査等の医学的検査等に、検査結果を色で判定するキットが用いられている。このキットは、簡便性が重視され、定性的に抗原を検出することができるが、定量性を求める場合には、高価なイムノクロマトリーダーなどの検出装置が必要であった。また、目視により定量性を求める場合には、色調・彩度・判定基準に個人差によるばらつきが生じていた。
【0003】
このような状況の中、呈色状態を機械的に精度よく測定することができ、安価な(簡便な)呈色反応判定システムが求められていた。そして、特許文献1に記載の技術のように、カメラを用いて試薬の部分を撮影して画像信号(画像データ)を取得し、この画像信号を加工することによって、呈色状態を測定するものや、特許文献2に記載の技術のように、カメラを用いて画像データを取得し、呈色反応出現領域を検出し、この呈色反応出現領域におけるRGBに基づいて呈色状態を判定するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-73125号公報
【特許文献2】特開2017-125840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術によれば、カメラで撮像した画像データは撮影環境により変化する。具体的には、光源の種類、光束、光度、照度等の外部環境によって、RGBの値が異なる。この外部環境の影響を排除しなければ、RGBによる定量性を求める判定を正確に行うことはできない。つまり、特許文献1、特許文献2においても、カメラのほかに、外部環境を測定するための機器がなければ正確に呈色状態を判定することができなかった。
【0006】
RGBによる呈色判定の正確性は、外部環境に依存し、特に、光源の種類が大きく影響する。そこで、発明者は光源の種類に影響されない因子に基づいて呈色状態を判定することにより、外部環境の影響を排し、正確に呈色状態を、簡便なシステムにて判定することができることを知見し、本発明を完成させた。
本発明は、イムノクロマトグラフィ等において試薬による呈色状態を機械的に精度よく測定することができる簡便な呈色反応判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、呈色反応における呈色判定を行う呈色反応判定システムであって、呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域を照射する白色LED照明 と、呈色反応後の呈色状態を撮影するカメラと、前記カメラにて撮影された撮像データから、呈色判定を行うコンピュータと、を備え、前記コンピュータには、前記撮像データから前記呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域の色相およびまたは彩度を求め、色彩データとしてメモリに格納する色彩分析部と、前記メモリに格納された色彩データと、事前に前記メモリに格納された判定基準データとに基づき、呈色判定を行う呈色判定部と、を有する、呈色反応判定システムである。
【0008】
請求項1に記載の発明では、呈色状態を色彩のうち、色相およびまたは彩度に基づいて判断される。色相とは彩り(赤、黄、青などの色の種類)のことであり、太陽光線を分光させたスペクトルを色相環の角度で数値化される。彩度とは、色の鮮やかさのことであり、色の鮮やかさを数値化する。明度とは色の明暗を表す数値であり、この数値を増減することで色の明暗を調節し、数値が高いほど明るい色を表現する。明度は、外部光環境に影響されるものであるため、補助的に用いられる。
本発明では、カメラとコンピュータを備えているが、コンピュータは、カメラにて撮影されることによって得られた撮像データを取り込み、この撮像データから色相およびまたは彩度を求めることができるプログラムが格納されているものである。また、このコンピュータには、色相、彩度、明度に基づいて呈色状態を判定するための判定基準が、あらかじめ、判定基準データとしてメモリ(記憶装置)に格納されている。
白色LED照明により照射された呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域を、カメラを用いて、呈色反応後の呈色状態を撮影する。撮影によって得られた撮像データを、コンピュータを用いて、色相およびまたは彩度、そして、必要に応じて明度を求めて、これらを色彩データとしてメモリに格納する。そして、あらかじめメモリに格納された判定基準データと色彩データとを照らし合わせることにより、呈色判定を行う。呈色判定はキット等を用いて医学的検査等を行う場合に、たとえば5段階レベル評価を行う場合、その5段階レベルのどのレベルに該当するかを判断する。
【0009】
なお、本発明は、呈色反応であれば、基本的にどのような反応であっても活用することができるが、例えば、炎色反応を用いて金属の同定を行う場合など、反応中の色を特定する方法の場合、外部光環境の他に反応条件も影響するため、本発明にかかる呈色反応判定システムを活用することは不向きである。ただし、化学工場等において、一定の反応条件でかつ一定光環境下で化合物を量産するような場合等、外部光環境以外の環境(例えば、反応条件等)の影響が小さければ、本発明に係る呈色反応判定システムを活用することは可能である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、呈色反応における呈色判定を行う呈色反応判定システムであって、呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域を照射するUV発光LED照明と、呈色反応後の呈色状態を撮影するカメラと、前記カメラにて撮影された撮像データから、呈色判定を行うコンピュータと、を備え、前記コンピュータには、前記撮像データから前記呈色反応後の呈色状態における呈色反応出現領域の色相およびまたは彩度を求め、色彩データとしてメモリに格納する色彩分析部と、前記メモリに格納された色彩データと、事前に前記メモリに格納された判定基準データとに基づき、呈色判定を行う呈色判定部と、を有する、呈色反応判定システムである。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の発明における白色LEDに代えてUV発光LEDを用いることにより、通常の呈色反応の光源に照らされた呈色反応域からの受動的な反射光ではなく、UV発光LEDの照射により励起された蛍光発光による自発光呈色反応においても、本発明の色彩判定による利点により十分に検出及び判定が可能となる。
なおUV発光LEDについては、対象物の蛍光発光を引き起こす波長及び光量の照射が出来れば使用に適しているが、UVに近接する可視光をも同時に照射し、その可視光により呈色反応の測定に影響を与える場合、必要なUV領域のみを透過するフィルターにより不必要な可視光を照射しないことが望ましい。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記カメラまたは前記コンピュータには、前記撮像データから、前記呈色状態出現領域を自動認識により特定する色彩判定領域認識部を有する請求項1または2に記載の呈色反応判定システムである。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、呈色反応後の呈色状態を判定する際に、呈色反応により呈色している領域(呈色状態出現領域)を自動で認識することにより特定する。これにより、カメラで撮影するだけで、呈色判定が可能となる。
【0014】
色彩分析部、呈色判定部、色彩判定領域認識部は、それぞれ固有の装置により機能を発揮するように構成してもよいが、コンピュータプログラムによりこれらの機能を発揮するようにすれば、低コストでかつ、簡便な装置で呈色判定が可能となるため、有効である。また、色彩判定領域認識部は、カメラに、当該領域を自動認識する機能を組み込んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カメラを用いて、白色LED照明により照射された呈色反応後の呈色状態を撮影する。撮影によって得られた撮像データを、コンピュータを用いて、色相およびまたは彩度を求めて、これらを色彩データとしてメモリに格納する。そして、あらかじめメモリに格納された判定基準データと色彩データとを照らし合わせることにより、呈色判定を行う。このように構成することにより、カメラとコンピュータを備えているだけで、正確に呈色判定を行うことが可能である。つまり、本発明は、外部環境の影響を排し、正確に呈色状態を、簡便なシステムにて判定することができる。
【0016】
またUV発光LEDの照射により励起された蛍光発光による自発光呈色反応においても、本発明の色彩判定により検出及び判定が可能となる。
【0017】
さらに、呈色反応後の呈色状態を判定する際に、呈色反応により呈色している領域(呈色状態出現領域)を自動で認識することにより特定するように構成すれば、カメラで撮影するだけで、呈色判定が可能となる。試験装置の調整や細かな画像処理も不要となるため、極めて簡単に呈色状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る呈色反応判定システムにおけるシステム構成図を示す。
【
図2】本発明の実施形態に係る呈色反応判定システムにおいて各種試験に用いたスコア判定色見本を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る呈色反応判定システムにおける照度の影響確認試験の試験結果(色相に基づいた判定試験)を示す棒グラフである。(a)照度60ルクスの場合、(b)照度1000ルクスの場合。
【
図4】本発明の実施例1に係る呈色反応判定システムにおいて彩度に基づいた判定試験の結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例1に係る呈色反応判定システムにおいて明度に基づいた判定試験の結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の比較例1に係る呈色反応判定システムにおいてRGBに基づいた判定試験の結果を示すグラフ(比較例)である。
【
図7】本発明の実施例2に係る呈色反応判定システムにおいて蛍光発光による呈色反応出現領域をUV発光LEDで撮影した画像である。
【
図8】本発明の実施例2に係る呈色反応判定システムにおいてコントロールラインとテストラインの検出結果を示す画像である。
【
図9】本発明の比較例2に係る呈色反応判定システムにおいて蛍光発光による呈色反応出願領域を室内光で撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る呈色反応判定システムについて、図面を参照して説明する。
本発明の実施形態に係る呈色反応判定システムは、
図1に示すようにLED照射部、撮像部、露光制御部、撮像制御部の各々を備えたカメラと、画像データ取得部、画像データ記憶部、呈色反応検出部、色彩分析部と、呈色判定部とを備えている。
【0020】
LED照射部は白色LED(白色LEDの発光方式は特に問わず、実施例1ではRGB三色LEDを用いた。)またはUV発光LED(実施例2)を用いる。単一もしくは複数の同一LEDを照射面積や必要とする光量に応じて使用する。
またUV発光LEDを使用する場合は、測定対象の物質を励起し、蛍光発光させる波長領域を持つLEDを用いるが、そのLEDが可視光領域をも発光し、可視光が測定に影響を与えてしまう場合には、可視光を遮断するフィルターを用いることが望ましい。
【0021】
撮像部は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのイメージセンサを用いたデジタルカメラ、携帯端末に備えられた撮像装置などであり、対象物を撮像して撮像画像データ(フルカラー画像)を出力する。
撮像部は、汎用デジタルカメラのノイズ低減性能がそれほど高くない。汎用デジタルカメラは、撮像画像データの各々の画素が例えば、明度分解能が0から255階調度の256階調で記録される。このとき、撮像画像データのノイズが呈色反応の判定精度に悪影響を及ぼす場合がある。このため、ガウシアンブラー、モルフォロジー変換等、公知の画像処理方法でノイズを低減する。
【0022】
撮像制御部は、撮像部が分析キットの撮像画像である撮像画像データを撮像する際、焦点深度、撮像素子の感度(ISO感度)などの撮像部の撮像条件を、予め設定された数値に制御する。
【0023】
露光制御部は、露光の撮像の条件として、シャッタースピード、絞り値、照明光の有無、照明光の強度などの撮像部の撮像条件を制御する。また、露光制御部は、呈色反応判定システムの撮像する呈色反応出現領域の周囲の明るさに対応し、撮像時において必要に応じてフラッシュ光源のような照明光の点灯指示を、図示しない照明部に対して出力する。
【0024】
呈色反応検出部は、画像データ記憶部に記憶されている類似度テーブルを参照し、この類似度テーブルから、参照パターン群の全てに対応する検出用撮像画像データの呈色反応パターンとの類似度を読み出す。
そして、呈色反応検出部は、読み出した全ての参照パターン群の類似度各々と、予め設定されている類似閾値と比較し、類似閾値を下回るものの中で最も類似度が低い(最も類似している)参照パターンを選択する。
この類似閾値は、呈色反応出現領域の撮像画像が参照パターン群の画像のうちいずれかと一致することを保証する値であり、参照パターン群の各画像データと、それに対応する撮像画像データの間で計算される類似度を目安に設定される。検出用撮像画像データの呈色反応パターンに対し、参照パターン群の画像データの内で最も一致するものは、それ以外の画像データに比べて類似度の差が顕著となると考えられる。したがって、類似度が類似閾値を下回る参照パターンは、参照パターン群において通常ただ一つである。
また、類似閾値を下回るものが複数あった場合、呈色反応検出部は、その中で最も類似度の低い参照パターンを選択する。そして、呈色反応検出部は、画像データ記憶部に記憶されている検査結果テーブルを参照し、選択した参照パターンの参照パターン識別情報に対応する検査結果を抽出する。
【0025】
色彩分析部は、呈色反応出現領域の撮像画像データにおける呈色反応パターンと、予め登録された呈色反応出現領域に現れる全ての呈色反応のパターン(参照パターン群)を比較するため、撮像画像データの正規化を行う。具体的には、呈色パターンを色彩、すなわち、色相、彩度、明度に変換する。呈色パターンを色彩に変換する方法は、RGB色空間をHSV色空間またはLab色空間(CIE 1976(L*,a*,b*)色空間 (CIELAB)でもよい。)に変換する変換式に基づいて行われる。
【0026】
呈色判定部では、撮像データの正規化が行われた後、正規化された撮像データについて、判定基準に基づいて呈色判定を行う。具体的には、呈色状態を判定するための判定基準が判定基準データとしてコンピュータのメモリ(記憶装置)に格納されている。この判定基準は、色相、彩度、明度の3つのファクターに基づくものであり、それぞれの基準の上限値、下限値、3つのファクターの影響による値の基準(例えば色相と明度を乗じた値等)の上限値、下限値などがデータ形式でメモリに格納されている。そして、正規化された撮像データから、基準判定データに基づいて、呈色判定を行う。呈色判定は、キット等を用いて医学的検査等を行う場合に、たとえば5段階レベル評価を行う場合、その5段階レベルのどのレベルに該当するかを、基準判定データに基づいて判断する。
【実施例0027】
LED照射部が白色LED(RGB三色LED)を用いた呈色反応判定システムを用いて各種試験を行った。以下、試験の内容と結果について説明する。
【0028】
(テストサンプル:スコア判定色見本)
テストサンプルは、
図2に示すように紙製の台紙(11cm×5.5cm)に幅1.2cm、長さ2.5cmの矩形の枠を5つ並列となるように印刷した。そして、5つの枠の中にそれぞれ所定の色を印刷してスコア判定色見本とした。これらの色をレベル1、レベル2、・・・、レベル5に振り分けた。それぞれのレベルにおける色は表1に示すとおりである。それぞれのレベルの色は基本的に赤色の濃度を変化させたものを選定している。
【0029】
【0030】
(照度の影響確認試験(色相に基づいた判定試験)
色相に基づいた呈色レベルの判定精度を確認するために、テストサンプルのうち、レベル1~レベル4を用いた。光源を室内光(LED照明)とし、照明の明るさ(照度)を60ルクスと1000ルクスに調整し、撮影を行った。
そして、撮像画像データをHSV色空間に変換して、色相を180階調に数値化した。使用したプログラムはインテル製のOpenCVである。
得られた数値を元に範囲棒グラフを作成した。この棒グラフを
図3に示す。なお、
図3(a)は60ルクスに調整したときのもの、(b)は1000ルクスに調整したときのものである。
図3によれば、レベル1、レベル2の色相の分離性能が高く、色相でレベル判定を行うことが有用であることが明らかとなった。つまり、レベル3とレベル4とについては、色相の値の差が小さく、誤差を生じる可能性はあるが、レベル1、レベル2とレベル3/レベル4とでは色相の値が全く異なるため、特に、レベル1と、レベル2との判断については、色相の値で判断することが容易といえる。
また、照度を変化させたとしても、値に大きな変動がなく、照度の影響により、レベル判定の困難性を見いだすことができず、極めて有効であるといえる。
【0031】
(彩度に基づいた判定試験)
彩度に基づいた呈色レベルの判定精度を確認するために、テストサンプルのうち、レベル1~レベル5を用いた。光源を室内光(LED照明)とし、照度を600ルクスに調整し、撮影を行った。
そして、撮像画像データをHSV色空間に変換して、彩度を256階調に数値化した。使用したプログラムはインテル製のOpenCVである。
得られた数値を元に範囲棒グラフを作成した。この棒グラフを
図4に示す。
図4によれば、レベル3~レベル5の彩度の分離性能が高く、彩度でレベル判定を行うことが有用であることが明らかとなった。つまり、レベル1とレベル2とについては、彩度の値の差が小さく、誤差を生じる可能性はあるが、レベル1/レベル2とレベル3、レベル4、レベル5とでは色相の値が全く異なるため、レベル3に該当するか、レベル4に該当するか、レベル5に該当するか、レベル1/レベル2に該当するかの判断は彩度の値で判断することが容易といえる。
【0032】
以上のことから、色相、彩度でそれぞれ、判定が容易なレベル、判定が困難なレベルを有するものの、所定のレベルであればいずれも判定が可能である。なお、
図3、
図4から、色相と彩度の2つのファクターを用いて判定するように構成した場合、レベル1~レベル5のすべてにおいて判定を行うことは容易であるため、極めて有効といえる。
【0033】
(明度に基づいた判定試験)
明度に基づいた呈色レベルの判定精度を確認するために、テストサンプルのうち、レベル1~レベル4を用いた。光源を室内光(LED照明)とし、照明の明るさ(照度)を600ルクスに調整し、撮影を行った。
そして、撮像画像データをHSV色空間に変換して、明度を256階調に数値化した。使用したプログラムはインテル製のOpenCVである。
得られた数値を元に範囲棒グラフを作成した。この棒グラフを
図5に示す。
図5によれば、レベル5とそれ以外のレベルの明度との分離性能が高く、明度でレベル5に該当するか否かの判定を行うことが有用であることが明らかとなった。しかしながら、レベル1~4の明度の差が小さく誤判定を生じやすいため、明度単独で、レベル判定を行うことは難しく、補助的なファクターとして利用するにとどまる。