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特開2022-163877窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163877
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20221020BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20221020BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20221020BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20221020BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C23C14/06 A
H03H9/54 Z
H03H9/17 F
H03H9/70
H01L41/187
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068981
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
【テーマコード(参考)】
4K029
5J108
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA58
4K029BB08
4K029CA06
4K029DC04
4K029EA01
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108DD01
(57)【要約】
【課題】tanδの小さい窒化アルミニウム膜を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム膜は、複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも1種の元素を含み、結晶粒の粒界を含み幅が4nmである粒界領域における前記少なくとも1種の元素の濃度は1.0原子%以下であり、かつ複数の結晶粒を横断して測定したとき少なくとも1種の元素およびアルミニウム以外の金属元素の濃度は少なくとも1種の元素の濃度よりも低い。また、窒化アルミニウム膜は、複数の結晶粒を有し、金属元素である1族元素を含み、複数の結晶粒を横断して測定したとき、1族元素の濃度は0.3原子%以下であり、1族元素およびアルミニウム以外の金属元素の濃度は前記1族元素の濃度より低い。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも1種の元素を含み、結晶粒の粒界を含み幅が4nmである粒界領域における前記少なくとも1種の元素の濃度は1.0原子%以下であり、かつ前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記少なくとも1種の元素およびアルミニウム以外の金属元素の濃度は前記少なくとも1種の元素の濃度よりも低い窒化アルミニウム膜。
【請求項2】
前記粒界領域における前記少なくとも1種の元素の濃度は0.07原子%以上である請求項1に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項3】
前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記金属元素の濃度は前記少なくとも1種の元素の濃度の1/10以下である請求項1または2に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項4】
前記少なくとも1種の元素はマグネシウムである請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項5】
複数の結晶粒を有し、金属元素である1族元素を含み、前記複数の結晶粒を横断して測定したとき、前記1族元素の濃度は0.3原子%以下であり、前記1族元素およびアルミニウム以外の金属元素の濃度は前記1族元素の濃度より低い窒化アルミニウム膜。
【請求項6】
結晶粒の粒界を含み幅が4nmである粒界領域における前記1族元素の濃度は0.5原子%以下である請求項5に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項7】
前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記1族元素の濃度は0.05原子%以上である請求項5または6に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項8】
前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記金属元素の濃度は前記1族元素の濃度の1/10以下である請求項5から7のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜を備える圧電デバイス。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜と、
前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を膜厚方向に挟み平面視において重なるよう設けられた一対の電極と、を備える共振器。
【請求項11】
請求項10に記載の共振器を備えるフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器等の圧電デバイスおよび弾性波デバイスには圧電膜として窒化アルミニウム膜が用いられている。窒化アルミニウム膜にスカンジウムを添加することで、圧電性が向上することが知られている(例えば特許文献1)。窒化アルミニウム膜に2族元素または12族元素と4族元素または5族元素を添加することで圧電性が向上することが知られている(例えば特許文献2)。窒化アルミニウム膜に2族元素(アルカリ土類金属)等を添加することが知られている(例えば特許文献3-5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-15148号公報
【特許文献2】特開2013-219743号公報
【特許文献3】特開2002-344279号公報
【特許文献4】特開平3-12364号公報
【特許文献5】特開2017-95797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒化アルミニウム膜を圧電デバイス等の用いる場合、tanδを小さくすることが求められる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、tanδの小さい窒化アルミニウム膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも1種の元素を含み、結晶粒の粒界を含み幅が4nmである粒界領域における前記少なくとも1種の元素の濃度は1.0原子%以下であり、かつ前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記少なくとも1種の元素およびアルミニウム以外の金属元素の濃度は前記少なくとも1種の元素の濃度よりも低い窒化アルミニウム膜である。
【0007】
上記構成において、前記粒界領域における前記少なくとも1種の元素の濃度は0.07原子%以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記金属元素の濃度は前記少なくとも1種の元素の濃度の1/10以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記少なくとも1種の元素はマグネシウムである構成とすることができる。
【0010】
本発明は、複数の結晶粒を有し、金属元素である1族元素を含み、前記複数の結晶粒を横断して測定したとき、前記1族元素の濃度は0.3原子%以下であり、前記1族元素およびアルミニウム以外の金属元素の濃度は前記1族元素の濃度より低い窒化アルミニウム膜である。
【0011】
上記構成において、結晶粒の粒界を含み幅が4nmである粒界領域における前記1族元素の濃度は0.5原子%以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記1族元素の濃度は0.05原子%以上である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数の結晶粒を横断して測定したとき前記金属元素の濃度は前記1族元素の濃度の1/10以下である構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記窒化アルミニウム膜を備える圧電デバイスである。
【0015】
本発明は、上記窒化アルミニウム膜と、前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を膜厚方向に挟み平面視において重なるよう設けられた一対の電極と、を備える共振器である。
【0016】
本発明は、上記共振器を備えるフィルタである。
【0017】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、tanδの小さい窒化アルミニウム膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)および図1(b)は、実験1におけるAlN膜AのそれぞれAFM画像およびsMIMのC強度の画像を示す図である。
図2図2(a)および図2(b)は、実験1におけるAlN膜BのそれぞれAFM画像およびsMIMのC強度の画像を示す図である。
図3図3は、実験1におけるAlN膜CのsMIMのC強度の画像を示す図である。
図4図4は、実験1における位置に対するsMIMのC強度を示す図である。
図5図5は、実験2におけるHAADF-STEM法を用いた窒化アルミニウムの断面の画像を示す図である。
図6図6は、実験2におけるEDS分析法を用い図5内の直線に沿った元素濃度を示す図である。
図7図7は、実験2におけるEPMA分析による平均濃度に対するEDS分析による粒界/平均を示す図である。
図8図8(a)は、実験3におけるキャパシタの平面図、図8(b)は、図8(a)のA-A断面図である。
図9図9は、キャパシタの等価回路を示す図である。
図10図10(a)は、実験3における測定周波数に対するtanδを示す図、図10(b)は、平均Mg濃度に対するtanδを示す図である。
図11図11(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、図11(b)および図11(c)は、図11(a)のA-A断面図である。
図12図12は、実験4におけるtanδに対する反共振周波数のQ値Qaを示す図である。
図13図13(a)から図13(c)は、それぞれ実施例2の変形例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図14図14(a)は、実施例3に係るフィルタの回路図、図14(b)は、実施例3の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。なお、元素の族の名称は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)の表記による。
【実施例0021】
実施例1は窒化アルミニウム膜の例である。以下の実験1~3を行った。
[実験1:粒界付近のアクティブキャリア濃度の測定]
シリコン基板に窒化アルミニウム膜を形成したサンプルを作製した。サンプルは以下の3種類である。
AlN膜A:スパッタリング法を用い成膜した意図的に不純物を添加していない窒化アルミニウム膜
AlN膜B:スパッタリング法を用い成膜したマグネシウム(Mg)を0.6原子%添加した窒化アルミニウム膜
AlN膜C:MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor deposition)法を用い成膜した窒化アルミニウム膜
AlN膜AおよびBは柱状構造を有する多結晶であり、AlN膜C転位が存在する以外はほぼ単結晶である。AlN膜AおよびCは比較例に相当し、AlN膜Bは実施例1に相当する。
【0022】
AlN膜A~Cについて、窒化アルミニウム膜の平面方向の断面をAFM(Atomic Force Microscope)分析およびsMIM(scanning Microwave Impedance Microscope)分析を行った。AFM分析では、断面の凹凸を観察でき、凹凸により結晶粒と粒界が観察できる。sMIM分析で得られるC強度は伝導に寄与するアクティブキャリア濃度に相当する。
【0023】
図1(a)および図1(b)は、実験1におけるAlN膜AのそれぞれAFM画像およびsMIMのC強度の画像を示す図である。図1(a)において、濃淡は窒化アルミニウム膜の断面の凹凸を示す。黒は凹んでいることを示し白は突出していることを示す。白い領域は結晶粒50に相当し、黒い領域は粒界52に相当する。図1(b)において、黒から白になるほどsMIMのC強度が大きいことを示している。アクティブなキャリア密度が高いとC強度が大きくなる。図1(a)と図1(b)とは同じ設備で同じ個所を観察した結果である。図1(a)と図1(b)を比較すると、粒界52においてC強度が大きく、アクティブキャリア濃度が高くなっている。
【0024】
図2(a)および図2(b)は、実験1におけるAlN膜BのそれぞれAFM画像およびsMIMのC強度の画像を示す図である。図2(a)および図2(b)に示すように、AlN膜Bにおいても、粒界52において結晶粒50よりsMIMのC強度が大きい。しかし、図2(a)および図2(b)ともに、AlN膜BではAlN膜Aに比べ、濃淡が不鮮明となっている。
【0025】
図3は、実験1におけるAlN膜CのsMIMのC強度の画像を示す図である。図3に示すように、AlN膜Cでは、AlN膜AおよびBに比べsMIMのC強度の濃淡が均一である。
【0026】
図1(b)、図2(b)および図3における破線矢印59に沿ったsMIMのC強度をプロットした。図4は、実験1における位置に対するsMIMのC強度を示す図である。AlN膜Aでは、矢印65で示す粒界においてsMIMのC強度が大きく、粒界におけるアクティブキャリア濃度が高いと考えられる。AlN膜CではsMIMのC強度が小さい。矢印66で示す転位においてsMIMのC強度が低くなっている。単結晶に近いAlN膜Cでは、AlN膜Aに比べsMIMのC強度が全体的に低くなっている。これにより、AlN膜Cは全体的にアクティブキャリア濃度が低いと考えられる。AlN膜Bでは、sMIMのC強度がAlN膜Cと同程度である。矢印65で示す粒界においてもsMIMのC強度はAlN膜Cと同程度である。
【0027】
以上のように、スパッタリング法を用い不純物を意図的に添加せず成膜した窒化アルミニウム膜(AlN膜A)では、粒界52付近のアクティブキャリア濃度が高くなる。これにより、窒化アルミニウム膜を流れるリーク電流が大きくなると考えられる。MOCVD法を用い成膜した窒化アルミニウム膜(AlN膜C)では、粒界がほとんどなく、アクティブキャリア濃度が低い。AlN膜Bでは、Alより価数の小さいMgを添加することで、アクティブキャリアを補償することができる。これにより、全域および粒界におけるアクティブキャリア濃度を低減できる。
【0028】
[実験2:粒界濃度と平均濃度の算出方法]
マグネシウムの濃度を結晶粒界52近傍と結晶粒50より十分大きな領域について調査した。スパッタリング法を用いマグネシウムとハフニウム(Hf)を添加した窒化アルミニウム膜を作製した。スパッタリングに用いるターゲットとして、Al-Mg-Hf合金ターゲットを用いた。4つのターゲットを用い、AlN膜D~Gを成膜した。成膜したAlN膜D~Gと用いたターゲットのMg:Hf:Al組成は以下である。
AlN膜D:Mg:Hf:Al=4:12:84
AlN膜E:Mg:Hf:Al=7:12:81
AlN膜F:Mg:Hf:Al=12:12:76
AlN膜G:Mg:Hf:Al=14:12:74
AlN膜D~Gは、粒界Mg濃度と平均Mg濃度の算出方法を検討するためのAlN膜であり、実施例1には相当しない。
【0029】
成膜したAlN膜D~Gに対しEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)分析とEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析を行った。EDS分析は局所領域の面分析が可能である。一方、EPMA分析は面分析が難しい。EDS分析は、軽元素の特定X線が試料に吸収されやすいためN等の軽元素の定量値は実際の値より低くなる傾向がある。EPMA分析においても軽元素の特定X線は試料に吸収されやすい。しかし、吸収を前提とした定量計算法としてZAF法を用いること、および標準試料を用い補正を行うことで、軽元素における特定X線の吸収による定量性の低下を抑制できる。このように、EDS分析は定量性が低いが、EPMA分析は定量性が高い。
【0030】
EPMA分析法を用い結晶粒50に対し十分に広い領域(例えば結晶粒50が10個以上含まれる領域)として直径が約100μmの領域のMg濃度およびHf濃度を測定し、平均Mg濃度および平均濃度とする。
【0031】
EPMA分析を行ったAlN膜と同じAlN膜の線EDS分析を行なった。図5は、実験2におけるHAADF-STEM法を用いた窒化アルミニウムの断面の画像を示す図であり、AlN膜Fの分析結果である。図5に示すように、HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy)法を用い結晶粒50と粒界52が観察できる。
【0032】
図6は、実験2におけるEDS分析法を用い図5内の直線に沿った元素濃度を示す図である。図6では、図5の直線57に沿った距離に対するMg濃度(実線)とHf(破線)の濃度を示している。EDS分析のスポット径は0.2nmである。図6に示すように、Hf濃度は場所によらずほぼ一定である。Mgは5ケ所のピークが現れる。Mg濃度のピークの位置を54a~54eとする。ピークの位置54a~54eは図5の粒界52の位置とほぼ一致する。このように、Hfは結晶粒50および粒界52によらず一様に分布する。Mg濃度は粒界52近傍において結晶粒50より高い。
【0033】
図6において、位置54a~54eの±2nmの範囲を粒界領域56とする。粒界領域56のMg濃度の平均値およびHf濃度の平均値をそれぞれ粒界におけるMg濃度およびHf濃度とする。図6における全体のMg濃度の平均値およびHf濃度の平均値をそれぞれ平均Mg濃度および平均Hf濃度とする。
【0034】
表1は、EPMA分析およびEDS分析により算出したMg濃度およびHf濃度を示す表である。
【表1】
【0035】
表1において、EPMAの平均濃度は、EPMA分析により算出した平均Mg濃度および平均Hf濃度である。EDSの平均濃度は、EDS分析により算出した平均Mg濃度および平均Hf濃度である。EDSの粒界は、EDS分析により算出した粒界のMg濃度およびHf濃度である。EDSの粒界/平均は、平均Mg濃度に対する粒界のMg濃度および平均Hf濃度に対する粒界のHf濃度である。
【0036】
表1に示すように、EPMAの平均濃度とEDSの平均濃度とは異なる。EPMA分析はEDS分析法に比べ定量性が高いため、平均濃度としてはEPMA分析の平均濃度を用いる方が正確である。一方、粒界/平均は、EDS分析の値同士の比であり、精度が高いと考えられる。よって、EPMA分析を用い算出した平均Mg濃度を平均Mg濃度とする。
【0037】
図7は、実験2におけるEPMA分析による平均濃度に対するEDS分析による粒界/平均を示す図である。図7に示すように、Hfでは、平均濃度によらず粒界/平均はほぼ1である。Mgでは、平均濃度によらず粒界/平均は約1.56である。このように粒界のMg濃度は全域のMg濃度の約1.56倍である。よって、EPMA分析を用い算出した平均Mg濃度を1.56倍したMg濃度を粒界のMg濃度とする。
【0038】
[実験3:tanδのMg濃度依存性の評価]
マグネシウムを添加した窒化アルミニウム膜を誘電体膜とするMIM(Metal Insulator Metal)キャパシタを作製した。
【0039】
図8(a)は、実験3におけるキャパシタの平面図、図8(b)は、図8(a)のA-A断面図である。図8(a)および図8(b)に示すように、シリコン(Si)基板10上に下部電極12が設けられている。下部電極12は、下膜12aと上膜12bを備えている。下部電極12上に誘電体膜として圧電膜14が設けられている。圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16は、下膜16aと上膜16bを備えている。圧電膜14を挟み下部電極12と上部電極16とが重なる領域はキャパシタ領域61である。キャパシタ領域61外の下部電極12および上部電極16上にパッド22が設けられている。
【0040】
キャパシタの作製条件は以下である。
下部電極12の下膜12a:膜厚が100nmのクロム(Cr)膜
下部電極12の上膜12b:膜厚が200nmのルテニウム(Ru)膜
圧電膜14:膜厚が1000nmの窒化アルミニウム膜
上部電極16の下膜16a:膜厚が200nmのルテニウム膜
上部電極16の上膜16b:膜厚が100nmのクロム膜
パッド22:基板側から膜厚が100nmのチタン(Ti)膜および膜厚が1000nmの金(Au)膜
キャパシタ領域61の平面形状:1辺の長さが133μmの正方形
キャパシタンス:1.6pF
作製したキャパシタにおけるEPMA分析により測定した平均Mg濃度は0原子%~0.81原子%である。
【0041】
図9は、キャパシタの等価回路を示す図である。図9に示すように、キャパシタの等価回路では、ノードN01とN02との間に抵抗RとキャパシタCが並列接続されている。端子T01とノードN01との間に抵抗Rsが接続されている。端子T02とノードN02とは直接接続されている。図9の等価回路を用いフィッティングを行い各集中定数を求め、数式1の式よりtanδが算出できる。
【0042】
【数1】
fは任意の周波数である。
【0043】
LCRメータを用い作製したキャパシタのtanδを測定した。測定電圧は10Vであり、4端子法を用いた。図10(a)は、実験3における測定周波数に対するtanδを示す図、図10(b)は、平均Mg濃度に対するtanδを示す図である。図10(a)は、平均Mg濃度が0原子%のサンプルの測定結果であり。図10(b)は、測定周波数が1MHzでの測定結果である。ドットは測定点、実線はドットをつなぐ直線である。破線は実験3から予想される線である。図10(a)に示すように、測定周波数が高くなるとtanδが大きくなる。これは、数式1と合致しており、キャパシタのリーク電流によりtanδが大きくなっていることと矛盾しない。
【0044】
図10(b)に示すように、平均Mg濃度が0原子%から高くなるとtanδが小さくなる。これは、平均Mg濃度が高くなると、粒界52付近のMg濃度が高くなる。MgはAlサイトに置換するため、アクセプタとなり、粒界付近のアクティブキャリアを補償するためと考えられる。これにより、リーク電流が小さくなりtanδが小さくなるものと考えられる。tanδは平均Mg濃度が0.2原子%~0.3原子%のとき最も小さく、平均Mg濃度が0.2原子%~0.3原子%より大きくなるとtanδが大きくなる。これは、平均Mg濃度が高くなり、ホールによるアクティブキャリア濃度が高くなったためと考えられる。平均Mg濃度が0.6原子%では、tanδは平均Mg濃度が0原子%のときのtanδとほぼ同じになる。
【0045】
実験3のように、窒化アルミニウム膜の平均Mg濃度を0原子%より大きくかつ0.6原子%以下とすることでtanδを小さくできる。図7より粒界のMg濃度では前記のMg濃度の1.56倍に相当する。すなわち、粒界のMg濃度を0原子%より大きくかつ1.0原子%以下とすることで、粒界52におけるアクティブキャリアを補償でき、tanδを小さくできる。平均Mg濃度は、0.05原子%以上が好ましく、0.1原子%以上がより好ましい。平均Mg濃度は、0.5原子%以下が好ましく、0.4原子%以下がより好ましい。粒界のMg濃度は、0.07原子%以上が好ましく、0.15原子%以上がより好ましい。粒界のMg濃度は、0.8原子%以下が好ましく、0.7原子%以下がより好ましい。
【0046】
実験1~3はマグネシウムを添加した窒化アルミニウム膜において行った。窒化アルミニウム膜に添加する不純物は2族元素および12族元素の少なくとも1種の元素であれば、粒界52のアクティブキャリアを補償する。マグネシウムと2族元素および12族元素は価数が同じである。よって、2族元素および12族元素における粒界52の濃度および全域の濃度の好ましい範囲はマグネシウムにおける実験3の範囲とすることができる。
【0047】
実施例1によれば、複数の結晶粒50を有し、2族元素および12族元素の少なくとも1種の元素M2を含む窒化アルミニウム膜において、結晶粒50の粒界52を含み幅が4nmである粒界領域56における元素M2の濃度を1.0原子%以下とする。これにより、粒界52付近のアクティブキャリア濃度が低減しtanδを低減できる。粒界領域56における元素M2濃度は、0.07原子%以上が好ましく、0.15原子%以上がより好ましい。粒界領域56における元素M2濃度は、0.8原子%以下が好ましく、0.7原子%以下がより好ましい。元素M2の平均濃度は、0.05原子%以上が好ましく、0.1原子%以上がより好ましい。元素M2の平均濃度は、0.6原子%以下が好ましく、0.5原子%以下がより好ましく、0.4原子%以下がさらに好ましい。2族元素は、マグネシウム以外に、例えばカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)であり、12族元素は例えば亜鉛(Zn)である。
【0048】
また、窒化アルミニウム膜の結晶粒界においてMgなどのドーパントが析出することによって、結晶粒界の機械的結合強度が増加すると考えられる。これにより、圧電膜14の機械的強度の向上が期待できる。この圧電膜14を圧電薄膜共振器に適用する場合、圧電膜14のクラックの発生頻度を下げることができると期待できる。
【0049】
平均濃度は、複数の結晶粒50を横断して測定することにより求めた濃度であり、例えば隣り合う2個以上または3個以上の結晶粒50を含む範囲をEPMA分析することにより求める。粒界領域56における濃度は、例えば隣り合う3個以上の結晶粒50を含む範囲において、EDSの線分析により粒界領域56の濃度とEDS平均濃度を求め、EDSの粒界濃度/EDS平均濃度×EPMA平均濃度により求める。粒界領域56における元素M2の濃度を線分析する場合には、粒界領域56は線となり、粒界領域56内に粒界52が含まれる。粒界領域56における元素M2の濃度を面分析する場合には、粒界領域56は、隣接する2つの結晶粒50の間に位置する粒界52の80%以上を含むことが好ましく、粒界52の100%を含むことが好ましい。元素M2が2種以上の場合には、2種以上の元素M2のそれぞれの濃度を合計した濃度を元素M2の濃度とすればよい。
【0050】
窒化アルミニウム膜が元素M2以外の金属元素を含むと、金属元素からの電子またはホールにより、好適な元素M2の濃度が変わってしまう。よって、アルミニウムと元素M2以外の金属元素の平均濃度は、元素M2の平均濃度より低いことが好ましく、元素M2の平均濃度の1/5以下がより好ましく、1/10以下がさらに好ましい。
【0051】
粒界におけるアクティブキャリアを補償するためには、窒化アルミニウム膜に、元素M2の代わりに1族元素M1を添加してもよい。1族元素M1は金属元素であり水素Hを含まない。1族元素M1がAlのサイトに置換すると、元素M2に比べ2倍のホールが生成される。よって、粒界領域56における元素M1の濃度は、0原子%より大きく、0.03原子%以上が好ましく、0.07原子%以上がより好ましい。粒界領域56における元素M2濃度は、0.5原子%以下が好ましく、0.4原子%以下がより好ましく、0.3原子%以下がさらに好ましい。元素M1の平均濃度は、0より大きく、0.02原子%以上が好ましく、0.05原子%以上がより好ましい。元素M1の平均濃度は、0.3原子%以下が好ましく、0.25原子%以下がより好ましく、0.2原子%以下がさらに好ましい。1族元素M1は、例えばリチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)である。
【0052】
窒化アルミニウム膜は、窒化アルミニウムを主成分とする膜である。窒化アルミニウムを主成分とするとは、意図的または意図せず不純物を含むことを許容する。窒化アルミニウム膜は、例えばアルミニウムの濃度と窒素の濃度の合計が50原子%以上であり、80原子%以上であり、アルミニウムの濃度および窒素の濃度の各々は例えば10原子%以上であり、20原子%以上である。
【実施例0053】
実施例2は、実施例1の窒化アルミニウム膜を圧電薄膜共振器に用いる例である。図11(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、図11(b)および図11(c)は、図11(a)のA-A断面図である。図11(b)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、図11(c)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0054】
図11(a)および図11(b)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。基板10は例えばシリコン基板である。下部電極12は下膜12aと上膜12bとを含んでいる。下膜12aおよび上膜12bは例えばそれぞれクロム膜およびルテニウム膜である。
【0055】
下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、(0001)方向を主軸とする窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム膜であり、実施例1の窒化アルミニウム膜である。圧電膜14は下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bとを備える。
【0056】
下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は例えば酸化シリコン膜である。挿入膜28は共振領域60内の外周領域62に設けられ、中央領域64に設けられていない。すなわち、挿入膜28は中央領域64を囲むように設けられている。挿入膜28は、外周領域62から共振領域60外まで連続して設けられている。
【0057】
圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域60は、圧電膜14を挟み下部電極12と上部電極とが平面視において対向する領域であり、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。平面視において空隙30は共振領域60を含む。平面視において、空隙30の大きさは共振領域60と同じまたは共振領域60より大きい。共振領域60の平面形状は楕円形状である。上部電極16は下膜16aおよび上膜16bを含んでいる。下膜16aおよび上膜16bは例えばそれぞれルテニウム膜およびクロム膜である。
【0058】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域60内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0059】
共振領域60から下部電極12が引き出される領域では、共振領域60の外周より上部圧電膜14bの外周が外側に位置し、上部圧電膜14bの外周より下部圧電膜14aの外周が外側に位置する。挿入膜28の外周は下部圧電膜14aの外周に略一致する。これにより、圧電膜14には段差が形成される。
【0060】
図11(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0061】
図11(a)および図11(c)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下膜16aと上膜16bとの間に、チタン層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域60内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの図1(b)と同じであり説明を省略する。
【0062】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0063】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr膜からなる下膜12aの膜厚は100nm、ルテニウム膜からなる上膜12bの膜厚は250nmである。窒化アルミニウム膜からなる圧電膜14の膜厚は1100nmである。酸化シリコン膜からなる挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16のルテニウム膜からなる下膜16aの膜厚は250nm、クロム膜からなる上膜16bの膜厚は50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の膜厚は50nmである。チタン膜からなる質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0064】
基板10としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、ルテニウムおよびクロム以外にもアルミニウム(Al)、チタン、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下膜16aをルテニウム、上膜16bをモリブデンとしてもよい。
【0065】
挿入膜28は、圧電膜14よりヤング率および/または音響インピーダンスが小さい材料である。挿入膜28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム、金、銅、チタン、白金、タンタルまたはクロム等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0066】
周波数調整膜としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、チタン以外にも、下部電極12および上部電極16として例示した金属の単層膜を用いることができる。質量負荷膜20としては、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間(下膜16aと上膜16bとの間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域60を含むように形成されていれば、共振領域60より大きくてもよい。
【0067】
[実験4:Q値とtanδの相関の評価]
実験2の窒化アルミニウム膜を用い圧電薄膜共振器D~Hを作製し、共振器のQ値とtanδとの相関を調べた。共振器D~Hにおいて用いたターゲットは以下である。
共振器D:Mg:Hf:Al=4:12:84
共振器E:Mg:Hf:Al=7:12:81
共振器F:Mg:Hf:Al=12:12:76
共振器G:Mg:Hf:Al=14:12:74
共振器H:Mg:Hf:Al=0:12:88
共振器D~Hは、Q値とtanδの相関を評価するための共振器であり、実施例2には相当しない。
【0068】
共振器の作製条件は以下である。
下部電極12の下膜12a:膜厚が100nmのクロム膜
下部電極12の上膜12b:膜厚が210nmのルテニウム膜
圧電膜14:膜厚が1150nmの窒化アルミニウム膜
挿入膜28:膜厚が150nmの酸化シリコン膜
上部電極16の下膜16a:膜厚が230nmのルテニウム膜
上部電極16の上膜16b:膜厚が20nmのクロム膜
周波数調整膜24:膜厚が50nmの酸化シリコン膜
質量負荷膜20:なし
【0069】
共振器D~Hの反共振周波数のQ値Qaは、ネットワークアナライザを用い、10MHzから5000MHzまでのS11特性を1MHzピッチで取得し、圧電薄膜共振器の等価回路にフィッティングすることで求めた。50MHzから400MHzおよび3000MHzから4500MHzのS11を用い、周波数が2000MHzにおける共振器D~Hのtanδを求めた。
【0070】
図12は、実験4におけるtanδに対する反共振周波数のQ値Qaを示す図である。ドットは測定点を示し、直線は近似直線を示す。図12に示すように、2000MHzにおけるtanδと反共振周波数のQ値Qaとには負の相関がある。Q値を向上させるためにはtanδを小さくすることが好ましい。よって、実施例1の圧電膜14に実施例1の窒化アルミニウム膜を用いることで、tanδを小さくでき、Q値を向上できる。
【0071】
[実施例2の変形例1]
図13(a)は、実施例2の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図13(a)に示すように、実施例2の変形例1では、挿入膜28が設けられていない。その他の構成は実施例2と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1のように挿入膜28は設けられていなくてもよい。
【0072】
[実施例2の変形例2]
実施例2の変形例2および3は、空隙の構成を変えた例である。図13(b)および図13(c)は、それぞれ実施例1の変形例2および3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図13(b)に示すように、実施例2の変形例2では、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域60を含むように形成されている。その他の構成は、実施例2と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0073】
[実施例2の変形例3]
図13(c)に示すように、実施例2の変形例3では、共振領域60の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例2と同じであり説明を省略する。
【0074】
実施例2およびその変形例1において、実施例2の変形例2と同様の空隙30を形成してもよく、実施例2の変形例3と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0075】
実施例2およびその変形例1および2のように、圧電薄膜共振器は、共振領域60において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例2の変形例3のように、圧電薄膜共振器は、共振領域60において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域60を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。
【0076】
実施例2およびその変形例2および3において、挿入膜28が共振領域60の外周領域62に設けられているが、挿入膜28は共振領域60の外周領域62の少なくとも一部に設けられていればよい。挿入膜28は共振領域60の外側に設けられてなくてもよい。実施例2の変形例1のように挿入膜28は設けられていなくてもよい。共振領域60の平面形状として楕円形状を例に説明したが、四角形状または五角形状等の多角形状でもよい。
【0077】
実施例2およびその変形例では、窒化アルミニウム膜を用いる圧電デバイスとして、窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を膜厚方向に挟み平面視において重なるよう設けられた上部電極16および下部電極12(一対の電極)を有する圧電薄膜共振器を例に説明した。圧電デバイスは、窒化アルミニウム膜を伝搬する弾性波を励振する電極を有する弾性波デバイスでもよい。例えば、窒化アルミニウム膜上に櫛型電極が設けられたラム波を利用する共振器でもよい。
【実施例0078】
実施例3は、実施例2およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。図14(a)は、実施例3に係るフィルタの回路図である。図14(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1つの共振器に実施例2およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0079】
図14(b)は、実施例3の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。図14(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例3のフィルタとすることができる。
【0080】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0081】
圧電デバイスとして、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサについて説明したが、圧電デバイスは、インクジェットを用いたマイクロポンプ、RF(Radio Frequency)-MEMS(Micro Electro Mechanical System)スイッチ、光ミラーのようなアクチュエータでもよい。圧電デバイスは、加速度センサ、ジャイロセンサ、エナジーハーベス等のセンサでもよく、MEMS素子でもよい。
【0082】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
16 上部電極
50 結晶粒
52 粒界
図1
図2
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