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特開2022-163885コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163885
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221020BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068997
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】田中 利明
(72)【発明者】
【氏名】守矢 恒司
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ49
4B063QR33
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する薬剤のスクリーニング方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明の(1)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及びコラーゲンプロモーターを含むコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程であって、蛍光タンパク質又は発光タンパク質の融合が、コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、からなる群から選択される1又は2つ以上の挿入である前記工程、及び(2)細胞の培養上清中及び/又は細胞内の蛍光又は発光を測定する工程、を含む、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及びコラーゲンプロモーターを含むコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程であって、
蛍光タンパク質又は発光タンパク質の融合が、コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、からなる群から選択される1又は2つ以上の挿入である前記工程、及び
(2)細胞の培養上清中及び/又は細胞内の蛍光又は発光を測定する工程、
を含む、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
(3)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及び構成的プロモーターを含む構成的プロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程であって、
蛍光タンパク質又は発光タンパク質の融合が、コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、からなる群から選択される1又は2つ以上の挿入である前記工程、及び
(4)細胞の培養上清中の蛍光又は発光を測定する工程、
を更に含む、請求項1に記載のコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記コラーゲンプロモーターベクター及び/又は構成的プロモーターベクターにコードされているコラーゲン関連タンパク質が、プレプロコラーゲンタンパク質、又はプロコラーゲンタンパク質であって、前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質が、
(a)コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側に挿入されており、そしてC-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側に挿入されているか、
(b)コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側に挿入されており、そしてN-プロペプチドに挿入されているか、
(c)C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側に挿入されており、そしてN-プロペプチドに挿入されている、
請求項1又は2に記載のコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法に関する。本発明によれば、効率的に生体内でコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質をスクリーニングすることができる。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、生体内のタンパク質の30%を占め、骨格支持及び細胞接着などの機能を有する重要なタンパク質であり、例えば、ヒトの身体の骨・軟骨、靭帯・腱、角膜実質、皮膚、肝臓、筋肉などの組織の主要構成成分である。コラーゲンには、コラーゲン線維を形成する線維性コラーゲンと、線維を形成しない非線維性コラーゲンが存在する。線維性コラーゲンは、コラーゲンのポリペプチド鎖が3本集まって3重らせん構造(トロポコラーゲン)を形成している。この3重らせん構造のトロポコラーゲンは、自己組織化することによって、分子長の1/4ずつずれて整列し、コラーゲン原線維(コラーゲン細線維)を形成する。更に、このコラーゲン原線維が、多数集合して、コラーゲン線維(コラーゲン線維束)を形成している。更に、角膜実質や皮質骨においては、コラーゲン線維は同一方向に整列して重なった層を形成し、更にこの層が1層ごとに直行して積層したベニヤ板様三次元層板構造を取っている。このベニヤ板様三次元層板構造を有するコラーゲンは、透明で且つ高い強度を有している。
【0003】
このようなコラーゲンの分子異常を起因とする疾患として膠原病(例えば、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチ)又は臓器線維症などが挙げられるが、治療法が確立されていないものが多い。これは、コラーゲンの生合成過程及び生合成後から分泌に至る過程および高次構造の形成過程が未解明であることも、1つの原因である。コラーゲンの生合成過程及び生合成後から分泌に至る過程およびコラーゲン高次構造の形成過程の解析を行うことが可能になれば、コラーゲンの分子異常を起因とする疾患の原因の解明、及びそれらの治療法の開発にも有効な手段として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/152882号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、コラーゲンの細胞からの分泌過程を検出できるシステムの開発を試み、プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、又はコラーゲンタンパク質に蛍光タンパク質を挿入することにより、動物細胞からのプロコラーゲンおよびコラーゲンタンパク質の分泌を検出できるシステムが構築できることを見出した。
本発明者らは、前記のシステムを用い、コラーゲンの分泌過程に影響する薬剤のスクリーニングを実施したが、更にコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の諸過程に関与する薬剤のスクリーニング系の開発が望まれていた。
従って、本発明の目的は、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する薬剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する薬剤のスクリーニング方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、コラーゲン関連タンパク質の発現にコラーゲンプロモーターを用いるベクターを使用することにより、効率的にコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する薬剤をスクリーニングできることを見出した。更に、コラーゲン関連タンパク質の発現に構成的プロモーターを用いるベクターを使用することにより、正確にコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する薬剤をスクリーニングできることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](1)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及びコラーゲンプロモーターを含むコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程であって、蛍光タンパク質又は発光タンパク質の融合が、コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、からなる群から選択される1又は2つ以上の挿入である前記工程、及び(2)細胞の培養上清中及び/又は細胞内の蛍光又は発光を測定する工程、を含む、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法、
[2](3)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及び構成的プロモーターを含む構成的プロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程であって、蛍光タンパク質又は発光タンパク質の融合が、コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、からなる群から選択される1又は2つ以上の挿入である前記工程、及び(4)細胞の培養上清中の蛍光又は発光を測定する工程、を更に含む、[1]に記載のコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法、及び
[3]前記コラーゲンプロモーターベクター及び/又は構成的プロモーターベクターにコードされているコラーゲン関連タンパク質が、プレプロコラーゲンタンパク質、又はプロコラーゲンタンパク質であって、前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質が、(a)コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側に挿入されており、そしてC-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側に挿入されているか、(b)コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側に挿入されており、そしてN-プロペプチドに挿入されているか、(c)C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側に挿入されており、そしてN-プロペプチドに挿入されている、[1]又は[2]に記載のコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質のスクリーニング方法、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスクリーニング方法によれば、効率的にコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質をスクリーニングすることができる。また、本発明のスクリーニング方法によれば、正確にコラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】コラーゲンプロモーターを用い、コラーゲンタンパク質にGFPが挿入され、プロコラーゲンタンパク質のC-プロペプチドにmCherryが挿入された融合タンパク質をコードするベクターの概略を示した図である。
図2】実施例1で得られたコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞を用いて、TGF-β存在下におけるコラーゲンの細胞中での生合成を示した写真である。
図3】実施例1で得られたコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞を用いて、TGF-β存在下におけるコラーゲンの細胞外への分泌を測定したグラフである。
図4】CMVプロモーターを用い、コラーゲンタンパク質にGFPが挿入され、プロコラーゲンタンパク質のC-プロペプチドにmCherryが挿入された融合タンパク質をコードするベクターの概略を示した図である。
図5】CMVプロモーターベクターが導入された細胞を用いて、試験物質による細胞外へのコラーゲン分泌促進作用を測定したグラフである。
図6】CMVプロモーターを用い、プロコラーゲンタンパク質のN―プロペプチドにGFPが挿入され、プロコラーゲンタンパク質のC-プロペプチドにmCherryが挿入された融合タンパク質をコードするベクターの概略を示した図である。
図7-1】テラピアのI型プレプロコラーゲン及びCMVプロモーターを用いて、コラーゲンにGFPを挿入し、そしてC-プロペプチドにmCherryを挿入した核酸を有する4種類の構成的プロモーターベクターの概略図(CMVプロモーターは記載せず)、及び細胞外へのコラーゲンの分泌を示した写真である。
図7-2】テラピアのI型プレプロコラーゲン及びCMVプロモーターを用いて、コラーゲンにGFPを挿入し、そしてC-プロペプチドにmCherryを挿入した核酸を有する4種類の構成的プロモーターベクターの概略図(CMVプロモーターは記載せず)、及び細胞外へのコラーゲンの分泌を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]スクリーニング方法の第1実施態様
本発明のスクリーニング方法は、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質をスクリーニングする方法であり、(1)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及びコラーゲンプロモーターを含むコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程、及び(2)細胞の培養上清中及び/又は細胞内の蛍光又は発光を測定する工程、を含む。また、蛍光タンパク質又は発光タンパク質の融合が、コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、からなる群から選択される1又は2つ以上の挿入である。
【0010】
《コラーゲンプロモーターベクター》
本発明のスクリーニング方法の第1実施態様は、コラーゲンプロモーターを含むコラーゲンプロモーターベクターを用いる。すなわち、前記第1実施態様は、融合タンパク質をコードする核酸及びコラーゲンプロモーターを含むコラーゲンプロモーターベクターを導入した細胞を用いるスクリーニング(以下、第1スクリーニングと称することがある)である。
コラーゲンプロモーターベクターは、プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質をコードする核酸を含むが、これらのコラーゲン関連タンパク質は、コラーゲンプロモーターによって自然に発現される。すなわち、プロモーターはDNAからRNAの転写の開始に関与するヌクレオチド配列であるが、コラーゲンプロモーターは、コラーゲンの転写に用いられる本来のプロモーターであるため、コラーゲンプロモーターベクターからの自然なコラーゲン関連タンパク質の発現がみられると考えられる。
【0011】
《コラーゲン関連タンパク質》
前記コラーゲン関連タンパク質は、Gly-Xaa-Yaa(式中、Glyはグリシンであり、そしてXaa及びYaaは任意のアミノ酸である)の繰り返しアミノ酸配列を有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体、又はそれらの断片が挙げられる。例えば、ヒトのコラーゲンタンパク質としては、I型~XXVIII型コラーゲンタンパク質、そのプレプロコラーゲンタンパク質又はプロコラーゲンタンパク質、それらの変異体、又はそれらの断片が挙げられる。
プレプロコラーゲンタンパク質はコラーゲンタンパク質のN末側に、シグナルペプチド及びN-プロペプチドを有し、そしてC末側にC-プロペプチドを有している。またプロコラーゲンタンパク質は、コラーゲンタンパク質のN末側に、N-プロペプチドを有し、そしてC末側にC-プロペプチドを有している。前記Gly-Xaa-Yaaの繰り返しアミノ酸配列はコラーゲン様配列と呼ばれ、このGly-Xaa-Yaaのコラーゲン様配列を有することがコラーゲン関連タンパク質の重要な特徴である。
また、前記コラーゲン関連タンパク質の由来する生物種も限定されるものではないが、例えば、哺乳類(例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、又はサル)、鳥類(例えば、ニワトリ、ガチョウ、アヒル、又はダチョウ)、爬虫類(例えば、ワニ)、両生類(例えば、カエル)、魚類(例えば、チョウザメ、テラピア、タイ、ヒラメ、サメ、イワシ、マグロ、フグ、キンギョ、タラ、カレイ、又はコイ)、又は無脊椎動物(例えば、クラゲ)を挙げることができる。
【0012】
コラーゲンタンパク質(以下、単に「コラーゲン」と称することがある)は、主に、線維性コラーゲン及び非線維性コラーゲンに分けられ、線維性コラーゲンとしては、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、又はXI型コラーゲン等を挙げることができる。
例えば、I型コラーゲンは、分子量約10万のポリペプチド鎖が3本集まって「3重らせん構造(トロポコラーゲン)」を作っており、分子量は約30万である。この3重らせん構造は、長さ300nmで、直径1.5nmの1本の硬い棒のような形態をしており、トロポコラーゲンと称される。この3重らせん構造のトポコラーゲンは、自己組織化することによって、分子長の1/4ずつずれて整列し、コラーゲン原線維(コラーゲン細線維)を形成する。更に、このコラーゲン原線維が、多数集合して、コラーゲン線維(コラーゲン線維束)を形成している。更に、角膜実質や皮質骨においては、コラーゲン線維は同一方向に整列して重なった層を形成し、更にこの層が1層ごとに直行して積層したベニヤ板様三次元層板構造を取っている。このベニヤ板様三次元層板構造を有するコラーゲンは、透明で且つ高い強度を有している。また、I型コラーゲンにおいては、Gly-Xaa-YaaのXaaはプロリン又は3-ヒドロキシプロリン、そしてYaaは4-ヒドロキシプロリン、又はヒドロキシリジンであることが多い。ヒドロキシプロリンは、通常のタンパク質に含まれておらず、コラーゲンに特有のアミノ酸であるが、ヒドロキシプロリンの水酸基と水和水との水素結合によって3重らせん構造が安定すると考えられる。
【0013】
コラーゲンタンパク質は、細胞内において、限定されるものではないが、例えばN末端側にシグナルペプチドとN-プロペプチド及びC末端側にC-プロペプチドを有するプレプロコラーゲンタンパク質(以下、単にプロコラーゲンと称することがある)として作られる。プロコラーゲンは、特に限定されるものではないが、I型~XXVIII型コラーゲンのプロコラーゲンを挙げることができる。
【0014】
プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質又はコラーゲンタンパク質の変異体は、Gly-Xaa-Yaaの繰り返しアミノ酸配列を有する限りにおいて、特に限定されるものではない。変異体としては、例えば天然のコラーゲンタンパク質(例えば、前記I型~XXVIII型コラーゲンタンパク質)のアミノ酸配列において、アミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたものを挙げることができる。前記欠失、置換、挿入、及び/又は付加されるアミノ数は、特に限定されないが、例えば100個以下であり、好ましくは50個以下であり、より好ましくは30個以下であり、更に好ましくは10個以下であり、最も好ましくは1又は数個である。例えば、I型コラーゲンは、約1000個のアミノ酸からなるが、100個を超える欠失、置換、挿入、及び/又は付加を有する場合、コラーゲンとしても機能を示さないことがあるからである。
また、別の変異体としては、天然のコラーゲンタンパク質(例えば、前記I型~XXVIII型コラーゲンタンパク質)のアミノ酸配列に対して、80%以上の同一性を有する変異コラーゲンタンパク質を挙げることができる。アミノ酸の同一性は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上であり、最も好ましくは97%以上である。アミノ酸の同一性が80%未満である場合、コラーゲンとしても機能を示さないことがあるからである。
【0015】
プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体の断片は、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体の部分ペプチドである限りにおいて、特に限定されるものではなく、I型~XXVIII型コラーゲン、それらのプロコラーゲン、又はそれらの変異体の部分ペプチドを挙げることができる。前記断片のアミノ酸鎖長、及び切断部位なども特に限定されるものではなく、遺伝子構築の目的に応じて、適宜決定することができる。
【0016】
《蛍光タンパク質又は発光タンパク質》
前記融合タンパク質は、蛍光を付与する蛍光タンパク質、又は発光を付与する発光タンパク質を含む。
蛍光タンパク質又は発光タンパク質としては、GFP、mCherry、Sirius、EBFP、SBP2、EBP2、Azurite、mKalama1、TagBFP、mBlueberry、mTurquoise、ECFP、Cerulean、mCerulean、TagCFP、AmCyan、mTP1、MiCy(Midoriishi Cyan)、TurboGFP、CFP、AcGFP、TagGFP、AG(Azami-Green)、mAG1、ZsGreen、EmGFP(Emerald)、GP2、T-Sapphire、HyPer、TagYFP、mAmetrine、EYFP、YFP、Venus、Citrine、PhiYFP、PhiYFP-m、turboYFP、ZsYellow、mBanana、mKO1、KO(Kusabira Orange)、mOrange、mOrange2、mKO2、Keima570、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed、DsRed2、TagRFP、TagRFP-T、DsRed-Monomer、mApple、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRP1、JRed、KillerRed、KeimaRed、HcRed、mRasberry、mKate2、TagFP635、mPlum、egFP650、Neptune、mNeptune、egFP670及びルシフェラーゼ(例えば、ウミシイタケルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、及びバクテリア由来ルシフェラーゼ)からなる群から選択されるすくなくとも1つの蛍光又は発光タンパク質を挙げることができる。
【0017】
《融合タンパク質》
前記融合タンパク質の1つの態様としては、前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質がコラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末端側に挿入されている。前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質のコラーゲンタンパク質への挿入は、限定されるものではないが、好ましくはC末端から50アミノ酸よりN末端側の挿入、更に好ましくはC末端から100アミノ酸よりN末端側の挿入、更に好ましくはC末端から200アミノ酸よりN末端側の挿入、更に好ましくはC末端から300アミノ酸よりN末端側の挿入、更に好ましくはC末端から400アミノ酸よりN末端側の挿入、更に好ましくはC末端から500アミノ酸よりN末端側の挿入、更に好ましくはC末端から600アミノ酸よりN末端側の挿入である。
【0018】
また、本発明の融合タンパク質の1つの態様として、蛍光タンパク質又は発光タンパク質がC-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側に挿入されている。前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質のC-プロペプチドへの挿入は、限定されるものではないが、好ましくはN末端から35アミノ酸よりC末端側の挿入、更に好ましくはN末端から40アミノ酸よりC末端側の挿入、好ましくはN末端から50アミノ酸よりC末端側の挿入である。
【0019】
蛍光タンパク質又は発光タンパク質がコラーゲンタンパク質のC末側に挿入された場合、又は蛍光タンパク質又は発光タンパク質がC-プロペプチドのN末側に挿入された場合、発現されるコラーゲンタンパク質が、3重らせん構造を形成することができず、細胞外へ分泌されないことがある。
【0020】
更に、本発明の融合タンパク質の1つの態様として、蛍光タンパク質又は発光タンパク質がN-プロペプチドに挿入されている。前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質のN-プロペプチドへの挿入位置は、特に限定されるものではない。N-プロペプチドへの蛍光タンパク質又は発光タンパク質は、コラーゲンの3重らせん構造の形成には影響しないからである。
【0021】
前記コラーゲンタンパク質、C-プロペプチド、及びN-プロペプチドへの蛍光タンパク質又は発光タンパク質の挿入は、1つのみの挿入でもよく、2つの挿入の組み合わせ(例えば、コラーゲンタンパク質及びC-プロペプチドへの挿入、コラーゲンタンパク質及びN-プロペプチドへの挿入、又はC-プロペプチド及びN-プロペプチドへの挿入)でもよく、3つの挿入の組み合わせでもよい。
前記2つの挿入の組み合わせは、具体的には、前記蛍光タンパク質又は発光タンパク質の(a)コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、及びC-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、(b)コラーゲンタンパク質のC末端から30アミノ酸よりN末側への挿入、及びN-プロペプチドへの挿入、(c)C-プロペプチドのN末端から30アミノ酸よりC末側への挿入、及びN-プロペプチドに挿入である。コラーゲンタンパク質又はC-プロペプチドへの挿入は、前記の好ましい位置への挿入でもよい。
【0022】
《コラーゲンプロモーター》
本発明に用いるコラーゲンプロモーターは、コラーゲンの本来のプロモーターである限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばI型コラーゲンα1プロモーター(配列番号4)、I型コラーゲンα2プロモーター、II型コラーゲンα1プロモーター、III型コラーゲンα1プロモーター、IV型コラーゲンα1プロモーター、IV型コラーゲンα2プロモーター、IV型コラーゲンα3プロモーター、IV型コラーゲンα4プロモーター、IV型コラーゲンα5プロモーター、IV型コラーゲンα6プロモーター、V型コラーゲンα1プロモーター、V型コラーゲンα2プロモーター、V型コラーゲンα3プロモーター、V型コラーゲンα4プロモーター、VI型コラーゲンα1プロモーター、VI型コラーゲンα2プロモーター、VI型コラーゲンα3プロモーター、VII型コラーゲンα1プロモーター、VIII型コラーゲンα1プロモーター、VIII型コラーゲンα2プロモーター、IX型コラーゲンα1プロモーター、IX型コラーゲンα2プロモーター、IX型コラーゲンα3プロモーター、X型コラーゲンα1プロモーター、XI型コラーゲンα1プロモーター、XI型コラーゲンα2プロモーター、XI型コラーゲンα3プロモーター、XIII型コラーゲンα1プロモーター、XIV型コラーゲンα1プロモーター、XV型コラーゲンα1プロモーター、XVI型コラーゲンα1プロモーター、XVII型コラーゲンα1プロモーター、XVIII型コラーゲンα1プロモーター、XIX型コラーゲンα1プロモーター、XX型コラーゲンα1プロモーター、XXI型コラーゲンα1プロモーター、XXII型コラーゲンα1プロモーター、XXIII型コラーゲンα1プロモーター、XXIV型コラーゲンα1プロモーター、XXV型コラーゲンα1プロモーター、XXVI型コラーゲンα1プロモーター、XXVII型コラーゲンα1プロモーター、又はXXVIII型コラーゲンα1プロモーターが挙げられる。
前記コラーゲンプロモーターは、コラーゲンの本来のプロモーターであることから、これらのプロモーターを用いることにより、細胞における自然なコラーゲン関連タンパク質の発現を再現することができる。
【0023】
(核酸)
本発明に用いるコラーゲンプロモーターベクターは、前記融合タンパク質をコードする核酸及びコラーゲンプロモーターを含む。
前記融合タンパク質をコードする核酸は、前記プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体、又はそれらの断片などのコラーゲン関連タンパク質と蛍光タンパク質等との融合タンパク質をコードする核酸である限りにおいて、特に限定されるものでない。
プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、又はコラーゲンタンパク質をコードする核酸は、限定されるものではないが、例えばコラーゲンを有する生物の組織、又はその生物の分離された細胞から抽出して用いることができる。また、既に分離されたcDNAを含むベクターから得ることもできる。更に、DNA合成によって、調製することも可能である。
【0024】
また、前記変異体をコードする核酸は、例えばプレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質又はコラーゲンタンパク質をコードする核酸に、アミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されるように、核酸の変異を導入することによって得ることができる。核酸の変異(欠失、置換、挿入、及び/又は付加)は、本分野において公知の方法によって、導入することが可能である。また、遺伝子操作を用いずに、自然界に存在する、アミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加される変異を有する核酸を用いることもできる。
【0025】
更に、前記断片をコードする核酸は、プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、又はそれらの変異体をコードする核酸の一部を用いることができる。例えば、前記核酸を制限酵素によって切断することによって、プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、又はそれらの変異体の断片をコードする核酸を得ることができる。
前記コラーゲンプロモーターベクターに含まれる核酸としては、限定されるものではないが、例えばDNA又はRNAを挙げることができる。
【0026】
(ベクター)
本発明に用いるコラーゲンプロモーターベクターの骨格となるベクターは、クローニングベクターでもよく、発現ベクターでもよい。また、RNAベクターとしては、バクテリオファージを挙げることができる。更に、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス又はレンチウイルス)を用いることもできる。
骨格となるベクターとしては、本分野で通常用いられているベクターを制限なく用いることができるが、例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536、pcDNA3.1、pcDNA3,pME、又はpGEX等の大腸菌プラスミド、を挙げることができる。また、ベクターとしては市販されているものを使用することができ、例えばpQE70、pQE60、pQE-9(Qiagen)、pBluescriptII、pTrc99a、pKK223-3、pDR540、pRIT2T(Pharmacia)、pET-11a(Novagen)などを挙げることができる。骨格ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0027】
(ベクター含有宿主細胞)
本発明に用いるコラーゲンプロモーターベクターを含有する宿主細胞は、特に限定されるものではなく、大腸菌、放線菌、酵母、糸状菌、昆虫細胞又は動物細胞を挙げることができるが、好ましくは大腸菌又は動物細胞であり、更に好ましくは動物細胞である。動物細胞を用いることにより、コラーゲンを本来の宿主細胞で発現させることができる。更に、コラーゲンの高次構造の形成過程を解析することが可能である。
前記動物細胞は、コラーゲンを発現することのできる細胞である限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば哺乳類(例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、又はサル)、鳥類(例えば、ニワトリ、ガチョウ、アヒル、又はダチョウ)、爬虫類(例えば、ワニ)、両生類(例えば、カエル)、魚類(例えば、チョウザメ、テラピア、タイ、ヒラメ、サメ、イワシ、マグロ、フグ、キンギョ、タラ、カレイ、又はコイ)、又は無脊椎動物(例えば、クラゲ)由来の細胞を用いることができる。
動物細胞への前記ベクターの導入方法は、特に限定されるものではなく、本分野で公知の方法を用いることができるが、例えば、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法又はウイルスベクターによる感染法を用いることができる。
【0028】
(1)接触工程
本発明のスクリーニング方法の接触工程(1)においては、コラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる。
【0029】
《試験物質》
試験物質は、コラーゲンの生合成及び/又は生合成後の過程に関与する可能性のある物質である限りにおいて限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett,N.K.ら,Tetrahedron,51,8135-8137,1995)によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(Felici,F.ら,J.Mol.Biol.,222,301-310,1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群、高分子化合物、中分子化合物又は低分子化合物を用いることができる。また、微生物の培養上清、細胞の培養上清、生体内の体液、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。
試験物質の濃度は、適宜決定することができるが、試験物質がコラーゲンの動態に影響を与える最適濃度があると考えられるため、何段階かに希釈して試験することが好ましい。
【0030】
(2)測定工程
本発明のスクリーニング方法の測定工程においては、細胞の培養上清中及び/又は細胞内の蛍光又は発光を測定する。
細胞の培養上清中の蛍光又は発光を測定することによって、培養上清中に分泌されコラーゲン関連タンパク質を測定することができる。従って、試験物質が、コラーゲン関連タンパク質の生合成後の過程(例えば、細胞からの分泌)に関与(増加又は減少)する物質であるか否かを判定することができる。ここで、細胞からのコラーゲン又はコラーゲン関連タンパク質の「生合成後の過程」には、細胞内でのコラーゲン関連タンパク質の生合成後の、三重鎖形成、小胞輸送(CGN)、プロセシング、分泌小胞(TGN)、及び分泌などの動態が関連する。従って、細胞の培養上清中の蛍光又は発光を測定することによって、これらの動態に関与する物質のスクリーニングが可能である。
前記培養上清中の蛍光又は発光の測定は、特に限定されるものではないが、プレートリーダー、又は分光光度計を用いることができる。
【0031】
一方、細胞内の蛍光又は発光を測定することによって、細胞内で生合成されたコラーゲン関連タンパク質を測定することができる。従って、試験物質が、コラーゲン関連タンパク質の細胞内での生合成(発現誘導)に関与(増加又は減少)する物質であるか否かを判定することができる。
細胞内の蛍光又は発光の測定は、蛍光顕微鏡、フローサイトメーター、プレートリーダー、分光光度計又は共焦点蛍光顕微鏡を用いることができる。細胞ライセートの蛍光又は発光を、プレートリーダーや分光光度計で測定することもできる。更に細胞の蛍光又は発光を、そのままプレートリーダーで測定してもよい。
【0032】
解析は、基本的に試験物質を接触させない細胞と比較することによって行うことができる。すなわち、試験物質を接触させない細胞と比較して、コラーゲン融合タンパク質の発現が増加又は減少している場合、その試験物質をコラーゲン関連タンパク質の生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質と判断することができる。
【0033】
本発明のスクリーニング方法は、コラーゲン関連疾患の治療又は予防用の薬剤(化合物(タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、抽出物などを含む))又は混合物のスクリーニングに用いることができる。コラーゲン関連疾患は、コラーゲンがその疾患の原因、又は症状等に関連すると考えられる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば肝線維症、肺線維症、腎線維症などの臓器・組織線維症、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチなどの膠原病、又は角膜の白濁を挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法に用いる細胞は、例えば正常な細胞でもよいが、コラーゲン関連疾患患者から分離された細胞でもよく、モデル動物から分離・調製された細胞でもよい。コラーゲン関連疾患患者から分離された細胞としては、例えば、コラーゲン分泌を行う細胞を用いることができ、具体的には肝線維症患者から分離された肝星細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、を挙げることができる。また、モデル動物から分離・調製された細胞としては、肝星細胞、又は肺線維芽細胞、を挙げることができる。更に、正常なコラーゲン分泌細胞を、例えばTGF-βにより活性化し、肝線維症、肺線維症、腎線維症、又は関節リウマチのモデル細胞として用い、それぞれの薬剤のスクリーニング用細胞として用いることができる。
【0034】
また、試験物質を接触させない細胞と比較して、コラーゲン融合タンパク質が、細胞外に多く又は少なく分泌されている場合、スクリーニングされた試験物質をコラーゲン又はコラーゲン関連タンパク質の分泌に効果があるものと判断することができる。更に、試験物質を接触させない細胞と比較して、コラーゲン融合タンパク質の細胞内輸送が正常に回復した場合、スクリーニングされた試験物質をコラーゲン関連タンパク質の細胞内での三重鎖形成、輸送に効果があるものと判断することができる。また、試験物質を接触させない細胞と比較して、コラーゲン融合タンパク質のプロセシングが正常に回復した場合、スクリーニングされた試験物質試験物質をコラーゲン関連タンパク質のプロセシングに効果があるものと判断することができる。
【0035】
[2]スクリーニング方法の第2実施態様
本発明のスクリーニング方法は、好ましくは(3)プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質と、蛍光タンパク質又は発光タンパク質との融合タンパク質をコードする核酸及び構成的プロモーターを含む構成的プロモーターベクターが導入された細胞に、試験物質を接触させる工程、及び(4)細胞の培養上清中の蛍光又は発光を測定する工程、を更に含む。
【0036】
本発明のスクリーニング方法の第2実施態様は、コラーゲンプロモーターベクターを用いた前記接触工程(1)及び測定工程(2)に加えて、構成的プロモーターベクターを用いた接触工程(3)及び測定工程(4)を含む。
前記の通り、コラーゲンプロモーターベクターを用いた前記接触工程(1)及び測定工程(2)によって、コラーゲン関連タンパク質の生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質をスクリーニングすることができる。しかしながら、コラーゲン関連タンパク質の生合成に関与せず、生合成後の過程のみに関与する物質の場合、前記コラーゲンプロモーターベクターを用いた細胞において、十分にコラーゲン関連タンパク質が生合成されない場合がある。コラーゲン関連タンパク質が十分に細胞内で生合成されない場合、生合成後の過程のみに関与する物質の作用が測定できないことが考えられる。あるいは、前記コラーゲンプロモーターベクターを用いた細胞をもちいた測定で、コラーゲン融合タンパク質の分泌量が変化した場合、その原因がタンパク質生成量変化なのか、その後の過程の変化なのかの区別ができない。構成的プロモーターベクターを含む細胞においては、構成的プロモーターによって、コラーゲン関連タンパク質が細胞内に十分生合成される。従って、コラーゲン関連タンパク質の生合成後の過程のみに関与する物質を正確にスクリーニングすることができる。
なお、本発明のスクリーニング方法においては、第3実施態様として、構成的プロモーターベクターを用いた接触工程(3)及び測定工程(4)のみを実施することによって、コラーゲン関連タンパク質の生合成後の過程に関与する物質をスクリーニングすることができる
【0037】
本発明のスクリーニング方法の第2実施態様においては、コラーゲンプロモーターベクターに代えて、構成的プロモーターベクターを用いることを除いては、前記接触工程(1)及び測定工程(2)に準じて、スクリーニングを実施することができる。
すなわち、前記「[1]スクリーニング方法の第1実施態様」に記載の「コラーゲン関連タンパク質」、「蛍光タンパク質又は発光タンパク質」、「融合タンパク質」、「核酸」、「ベクター」、「ベクター含有宿主細胞」、「(1)接触工程」、「試験物質」、及び「測定工程(2)」は、構成的プロモーターベクターを用いることを除いては、同様に実施することができる。以下、構成的プロモーターベクターについて、説明する。
【0038】
《構成的プロモーターベクター》
本発明のスクリーニング方法の第2実施態様の接触工程(3)及び測定工程(4)においては、構成的プロモーターを含む構成的プロモーターベクターを用いる。すなわち、前記接触工程(3)及び測定工程(4)は、融合タンパク質をコードする核酸及び構成的プロモーターを含む構成的プロモーターベクターを導入した細胞を用いるスクリーニング(以下、第2スクリーニングと称することがある)である。
構成的プロモーターベクターは、プレプロコラーゲンタンパク質、プロコラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、若しくはそれらの変異体である、コラーゲン関連タンパク質をコードする核酸を含むが、これらのコラーゲン関連タンパク質は、構成的プロモーターによって構成的に発現される。すなわち、プロモーターはDNAからRNAの転写の開始に関与するヌクレオチド配列であるが、構成的プロモーターは、コラーゲンの転写に用いられる本来のプロモーターでなく、細胞内で構成的にコラーゲン関連タンパク質を発現することができる。
【0039】
《構成的プロモーター》
本発明に用いる構成的プロモーターは、コラーゲン関連タンパク質を構成的に発現できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばCMVプロモーター、EF1alphaプロモーター、CAGプロモーター、RSVプロモーター、PGKプロモーター、LTR(GALV LTR,MSCV LTR)プロモーターが挙げられる。
前記構成的プロモーターを用いることにより、試験物質の細胞におけるコラーゲン関連タンパク質の生合成後の過程への関与を効率的及び正確にスクリーニングすることができる。
【0040】
《作用》
本発明のスクリーニング方法が、コラーゲン関連タンパク質の生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質を正確にスクリーニングできる機構は、詳細に解明されたわけではないが、以下のように推定することができる。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
本発明のスクリーニング方法におけるコラーゲンプロモーターベクターを導入した細胞を用いる第1スクリーニングでは、コラーゲンプロモーターを用いることにより、自然なコラーゲン関連タンパク質の発現がみられる。従って、自然なコラーゲン関連タンパク質の生合成に関与する物質のスクリーニングが可能である。また、更に自然なコラーゲン関連タンパク質の生合成に関与する物質のスクリーニングが可能である。例えば、コラーゲン関連タンパク質の生合成のみに関与する物質の場合、細胞内のコラーゲン関連タンパク質の増加又は減少を測定することによって、コラーゲン関連タンパク質の生合成に関与する物質であることが判断できる。また、コラーゲン関連タンパク質の生合成及び生合成後の過程に関与する物質の場合、細胞内のコラーゲン関連タンパク質の増加又は減少、並びに培養上清中のコラーゲン関連タンパク質の増加又は減少を測定することによって、コラーゲン関連タンパク質の生合成及び/又は生合成後の過程に関与する物質であることが判断できる。
一方、コラーゲン関連タンパク質の生合成に関与せず、生合成後の過程のみに関与する物質の場合、前記第1スクリーニングでは、十分にコラーゲン関連タンパク質が生合成されず、生合成後の過程が測定できない場合がある。また、前記第1スクリーニングでは、生合成及び/分泌への関与は判るが、生合成と生合成後の過程を区別することができない。この場合、前記構成的プロモーターベクターを導入した細胞を用いる第2スクリーニングを有効に用いることができる。構成的プロモーターベクターを含む細胞においては、構成的プロモーターによって、コラーゲン関連タンパク質が細胞内に十分生合成される。従って、第2スクリーニングによって、コラーゲン生合成には依存せず、コラーゲン関連タンパク質の生合成後の過程のみに関与する物質を正確にスクリーニングすることができる。
【実施例0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
《実施例1》
本実施例では、コラーゲンプロモーターを用い、I型コラーゲンのN末端から2/3の位置にGFPを挿入し、そしてC-プロペプチドのC末端よりも内部にmCherryを挿入した核酸を有するコラーゲンプロモーターベクターを構築した。GFPはコラーゲンタンパク質のBamHIの部位に挿入され、mCherryはC-プロペプチドのEcoRIの部位に挿入された。コラーゲンプロモーターとして、colIα1プロモーターを用いた。ベクターの概略図を図1に示す。ベクターを含むDNAの塩基配列を配列番号1に示す。
GFP cDNAの両端に制限酵素BamHI siteを付加したDNA断片を作成し、これをヒトpreprocollagenIα1cDNA内部のBamHIsiteに挿入した。この際、タンパク質翻訳において、コラーゲンタンパク質とGFPタンパク質がつながるように調節を行った。次に、mCherry cDNAの両端にEcoRI siteを付加したDNA断片を作成し、これをヒトpreprocollagenIα1-GFP融合cDNA のEcoRI siteに挿入した。この際にも、タンパク質翻訳において、コラーゲンタンパク質とmCherryタンパク質がつながるように調節を行い、操作の各ステップにおいて塩基配列の確認を行った。
NIH3T3細胞に前記colIα1プロモーターベクターをポリエチレンイミン(PEI)法によって導入した。
【0043】
《実施例2》
本実施例では、実施例1で得られたコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞を用いて、試験物質によるコラーゲンの生合成への影響を検討した。試験物質として、コラーゲンの生合成を増加させることが知られているTGF-βを用いた。
1x10cellで35mmディッシュに細胞を播種して48時間静置した。その後、TGF-βを2または12.5ng/mLの濃度で投入した。8時間、24時間、48時間、72時間後に細胞中の蛍光を蛍光顕微鏡で観察した。
図2に示すように、TGF-βの添加によって、細胞中の蛍光が増加した。
【0044】
《実施例3》
本実施例では、実施例1で得られたコラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞を用いて、試験物質によるコラーゲンの分泌への影響を検討した。試験物質として、コラーゲンの生合成を増加させることが知られているTGF-βを用いた。1x10cellで35mmディッシュに細胞を播種して48時間静置した。その後、TGF-βを2または12.5ng/mLの濃度で投入した。8時間、24時間、48時間、72時間後に培養上清200μLを分収し蛍光測定した。
図3に示すように、TGF-βの添加によって、培養上清中の蛍光は増加しなかった。従って、TGF-βは、コラーゲンタンパク質の生成後の過程には関与しない物質であると考えられる。
【0045】
《実施例4》
本実施例では、構成的プロモーターであるCMVプロモーターを用い、I型コラーゲンのN末端から2/3の位置にGFPを挿入し、そしてC-プロペプチドのC末端よりも内部にmCherryを挿入した核酸を有する構成的プロモーターベクターを構築した。
colIα1プロモーターに代えて、CMVプロモーターを用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、CMVプロモーターベクターを得た。NIH3T3細胞に前記CMVプロモーターベクターをポリエチレンイミン(PEI)法によって導入した。ベクターの概略図を図4に示す。ベクター以外のDNAの塩基配列を配列番号2に示す。
【0046】
《実施例5》
本実施例では、実施例4で得られたCMVプロモーターベクターが導入された細胞を用いて、試験物質によるコラーゲンの分泌への影響を検討した。試験物質として、アスコルビン酸、TGF-β1、アセンヤクを用いた。
コラーゲンプロモーターベクターが導入された細胞に代えてCMVプロモーターベクターが導入された細胞を用いたこと、試験物質として、アスコルビン酸(50μg/mL)、TGF-β1(2ng/mL)、及びアセンヤクを用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返した。
図5に示すように、アスコルビン酸(AA)、及びアセンヤクは、コラーゲンの細胞外への分泌を増加させた。一方、TGF-β1は、コラーゲンの細胞外への分泌を増加させなかった。
【0047】
《実施例6》
本実施例では、構成的プロモーターであるCMVプロモーターを用い、I型コラーゲンのN―プロペプチドのN末端よりも内部にGFPを挿入し、そしてC-プロペプチドのC末端よりも内部にmCherryを挿入した核酸を有するベクターの構築を試みた。GFPはN-プロペプチドのKpnIの部位に挿入され、mCherryはC-プロペプチドのEcoRIの部位に挿入された。ベクターの概略図を図6に示す。ベクター以外のDNAの塩基配列を配列番号3に示す。
GFP cDNAの両端に制限酵素KpnI siteを付加したDNA断片を作成し、これをヒトpreprocollagenIα1 cDNA内部のKpnI siteに挿入した。この際、タンパク質翻訳において、コラーゲンタンパク質とGFPタンパク質がつながるように調節を行った。次に、mCherry cDNA の両端にEcoRI siteを付加したDNA断片を作成し、これをヒトpreprocollagenIα1-GFP融合cDNAのEcoRI siteに挿入した。この際にも、タンパク質翻訳において、コラーゲンタンパク質とmCherryタンパク質がつながるように調節を行い、操作の各ステップにおいて塩基配列の確認を行った。
NIH3T3細胞に得らえた構成的プロモーターベクターをポリエチレンイミン(PEI)法によって導入した。
【0048】
《実施例7》
本実施例では、テラピアのI型コラーゲン及びCMVプロモーターを用いて、I型コラーゲンにGFPを挿入し、そしてC-プロペプチドにmCherryを挿入した核酸を有する4種類の構成的プロモーターベクターを構築した。ヒトのI型コラーゲンに代えてテラピアのI型コラーゲンを用いたこと、及びGFP及びmCherryの挿入位置が異なることを除いては、実施例4の操作を繰り返した。
図7(A)~(D)にコンストラクションを示す。第1の態様は、コラーゲンタンパク質のN末端から305アミノ酸、C末端から778アミノ酸の位置にGFPが挿入されたものである(図7A)。第2の態様は、コラーゲンタンパク質のN末端から305アミノ酸、C末端から778アミノ酸の位置にGFPが挿入され、そしてC-プロペプチドのN末から214アミノ酸、C末端から25アミノ酸の位置にmCherryが挿入されたものである(図7B)。第3の態様は、コラーゲンタンパク質のN末端から305アミノ酸、C末端から778アミノ酸の位置にGFPが挿入され、そしてC-プロペプチドのN末から52アミノ酸、C末端から188アミノ酸の位置にmCherryが挿入されたものである(図7C)。第4の態様は、N-プロペプチドのN末から32アミノ酸、C末から69アミノ酸の位置にGFPが挿入され、そしてC-プロペプチドのN末から214アミノ酸、C末端から25アミノ酸の位置にmCherryが挿入されたものである(D)。
【0049】
4つの態様のテラピアコラーゲンは、図7に示したように、細胞外に蛍光が観察され、コラーゲンタンパク質の細胞外への分泌が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のスクリーニング方法は、コラーゲン関連疾患の治療又は予防に用いる化合物(薬品、抽出物、タンパク質、アミノ酸なども含む)をスクリーニングすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
【配列表】
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