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特開2022-163923車体振動加速度推定方法、装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163923
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】車体振動加速度推定方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069065
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000182993
【氏名又は名称】日鉄レールウェイテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】徳永 智史
(72)【発明者】
【氏名】三平 剛
(72)【発明者】
【氏名】三澤 泰久
(72)【発明者】
【氏名】陸 康思
(72)【発明者】
【氏名】久田 育▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】橋本 通孝
(57)【要約】
【課題】測定装置を搭載していない鉄道車両であっても、任意の区間において乗り心地を測定するために車体振動加速度を推定することができるようにする。
【解決手段】車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得する。比計算部52は、軌道側振動検出器によって検出された、鉄道車両Aの車体振動加速度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する。車体振動加速度推定部54は、車載振動検出器によって検出された、推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、
設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得し、
前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算し、
前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する
車体振動加速度推定方法。
【請求項2】
前記車体振動加速度は、パワースペクトル密度であり、
前記車体振動加速度に関する比は、周波数毎のパワースペクトル密度の比である請求項1記載の車体振動加速度推定方法。
【請求項3】
前記推定された前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの乗り心地レベルを推定する請求項1又は2記載の車体振動加速度推定方法。
【請求項4】
編成毎、号車毎、又は測定時期毎に、
車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、
設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得し、
編成毎、号車毎、又は測定時期毎に、
前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算し、
編成毎、号車毎、又は測定時期毎に、
前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定し、
編成毎、号車毎、又は測定時期毎に、
前記推定された前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの乗り心地レベルを推定し、
前記乗り心地レベルを目的変数とし、編成番号、号車番号、又は測定時期を質的な説明変数とした関係式を用いた、多変量解析を行って、前記編成番号の各々の係数、前記号車番号の各々の係数、又は前記測定時期の各々の係数を求め、
前記編成番号の各々の係数、前記号車番号の各々の係数、又は前記測定時期の各々の係数に基づいて、鉄道車両又は鉄道軌道の状態を評価する
請求項3記載の車体振動加速度推定方法。
【請求項5】
前記車体振動加速度は、左右振動加速度である請求項1~請求項4の何れか1項記載の車体振動加速度推定方法。
【請求項6】
前記軌道側振動検出器は、鉄道車両の左右方向の変位を計測し、前記計測した鉄道車両の左右方向の変位に基づいて、車体左右振動加速度を計算する請求項1~請求項5の何れか1項記載の車体振動加速度推定方法。
【請求項7】
車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、
設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを記憶した測定データ記憶部と、
前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する比計算部と、
前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する車体振動加速度推定部と、
を含む車体振動加速度推定装置。
【請求項8】
コンピュータに、
車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、
設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得し、
前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算し、
前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する
ことを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体振動加速度推定方法、装置、及びプログラムに関する。特に、本発明は、鉄道車両における車体振動加速度を推定するための車体振動加速度推定方法、装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両の乗り心地を測定する乗り心地測定方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-86876公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、測定装置を搭載していない鉄道車両については乗り心地を測定することができない、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、測定装置を搭載していない鉄道車両であっても、任意の区間において乗り心地を測定するために車体振動加速度を推定することができる車体振動加速度推定方法、装置、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車体振動加速度推定方法は、車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得し、前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算し、前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。
【0007】
本発明に係る車体振動加速度推定装置は、車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを記憶した測定データ記憶部と、前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する比計算部と、前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する車体振動加速度推定部と、を含んで構成されている。
【0008】
本発明に係るプログラムは、コンピュータに、車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて前記車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得し、前記軌道側振動検出器によって検出された、前記鉄道車両Aの車体振動加速度、及び前記鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算し、前記車載振動検出器によって検出された、推定区間における前記鉄道車両Aの車体振動加速度と、前記車体振動加速度に関する比とに基づいて、前記推定区間における前記鉄道車両Bの車体振動加速度を推定することを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様である車体振動加速度推定方法、装置、及びプログラムによれば、測定装置を搭載していない鉄道車両であっても、任意の区間において乗り心地を測定するために車体振動加速度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る乗り心地推定装置の概略構成を示す模式図である。
図2】乗り心地推定装置として機能するコンピュータの一例の概略ブロック図である。
図3】本発明の第1の実施の形態における乗り心地評価処理の一例のフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る乗り心地推定装置の概略構成を示す模式図である。
図5】本発明の第2の実施の形態における乗り心地評価処理の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る乗り心地推定装置について説明する。
【0012】
<本発明の実施の形態の概要>
まず、地上動揺測定について説明する。
【0013】
車両の左右振動は地上側から車体変位を計測することでも測定できる。具体的には、レーザー変位計で車体の左右変位を測定し、2回微分を施すことで車体左右加速度を得ることができる(特許文献1を参照)。
【0014】
次に、乗り心地モニタと地上動揺測定の連携について説明する。
【0015】
乗り心地モニタは、全区間の乗り心地情報を与えることができるが、乗り心地モニタにより計測していない車両の乗り心地は不明なままである。一方、地上動揺測定は、その地点での全車両の振動波形を測定できるが、それ以外の地点での乗り心地は不明である。
【0016】
このように両者はお互いに補完的な関係にあることから、本実施の形態では、これらを組み合わせることで欠落情報を補い、全車両・全区間の乗り心地レベルを推定する。
【0017】
次に、地上動揺測定との連携について説明する。まず、乗り心地レベルを推定する原理について説明する。
【0018】
乗り心地モニタが、ある鉄道車両Aに搭載されており、この車両の乗り心地は全区間において測定することができるとする。一方、ある地点において地上動揺測定を実施し、その地点での数秒間の振動波形を全車両分測定できたとする。仮に、鉄道車両Aの地上測定データをa1、鉄道車両Bの地上測定データをa2とする。a1, a2は、いずれも同じ地点= 同じ軌道外乱により励起された車体振動である。よって、鉄道車両A、Bの軌道外乱から車体振動までの伝達関数をG1(s),G2(s)、車体振動のラプラス変換をA1(s),A2(s)、軌道外乱のラプラス変換をW(s)とすると以下が成立する。
【0019】
【数1】
【0020】
両者の比をとると、A2/A1 = G2/G1となり軌道外乱Wが消えることから、A2/A1は、伝達関数が線形時不変であるかぎり、軌道外乱によらず不変である。
【0021】
ここで、s = j2πfを代入して絶対2乗値の比率をとると、
【0022】
【数2】
【0023】
となり、右辺は、a1, a2を時間 t > 0で切り出した信号のフーリエ変換の絶対2乗値(パワースペクトル)の比に等しい。これが軌道外乱によらず一定になるため、鉄道車両A,Bのある時間区間の車体振動加速度を切り出してきてフーリエ変換した場合、そのパワースペクトルの比率|A2|2/|A1|2は軌道外乱によらず常に一定となる。よって、地上動揺測定の結果からパワースペクトル比を各周波数について求めておけば、鉄道車両Aのパワースペクトルから、鉄道車両Bのパワースペクトルを推定することができる。
【0024】
なお、上記のロジックは、地上動揺測定を実施した区間の軌道外乱が、少なくとも乗り心地評価で重要となる1~3Hzの周波数帯域で十分なパワーを持っていることを前提としている。この観点から、地上動揺測定を実施する地点は、 乗り心地が悪い状態が長く継続する地点であることが望ましい。
【0025】
乗り心地レベルの計算方法の一つに、振動波形のPSD(パワースペクトル密度) を計算し、それに周波数重みを乗じて和をとる方法がある。これによると、振動波形をa(t)、その(離散)PSDをAPSD (f)とすると、時間幅Tの乗り心地レベルLtは以下により計算できる(参考文献1参照)。
【0026】
【数3】
【0027】
ここで、a0は基準加速度(10-5[m/s2])、w(f)は周波数ごとに定義された重み関数、Δfは離散PSDの周波数刻みである。また、周波数の単位は[Hz]である。a(t)の(離散)フーリエ変換をAF(f)とすると、A F(f)とAPSD(f)の関係は以下の通りである(参考文献1参照)。
【0028】
【数4】
【0029】
これから、 乗り心地レベルLtは、離散フーリエ変換の絶対2乗値、つまりパワースペクトルから以下により計算することができる。
【0030】
【数5】

(1)
【0031】
地上測定の結果から、鉄道車両Aと鉄道車両Bのパワースペクトル比を求めたとする。
【0032】
【数6】
【0033】
ここで、AF1(f)、AF2(f)は地上測定から得られた鉄道車両A、鉄道車両Bの振動波形のフーリエ変換であり、上付き文字の0は区間0での測定結果を示す。この比率は、これまでの議論から軌道外乱に依存しない。つまり、 他の区間で測定された振動データに対しても成立する。
【0034】
【数7】

(2)
【0035】
(1)および(2)式から、地上測定区間における鉄道車両Aと鉄道車両Bのパワースペクトル比X(f)、及び乗り心地を求めたい区間(区間i)における、鉄道車両Aの振動波形のフーリエ変換Ai F1(f)が分かっていれば、鉄道車両Bの振動波形が未知であったとしても、 乗り心地レベルを以下の(3)式により推定できる。
【0036】
【数8】

(3)
【0037】
次に、全区間・全車両の乗り心地レベルを推定する原理について説明する。
【0038】
上記の結果を適用し、以下の(1)、(2)の処理により、全区間・全車両の乗り心地レベルを推定する。
【0039】
(1)地上測定区間において、基準となる鉄道車両Aとそのほかの鉄道車両Bの車体左右振動加速度の振動波形を測定し、パワースペクトル比Xを計算する。Xは直近データの平均(例えば最新10回分の測定結果の平均等)をとることで、測定誤差の影響を小さくし、また車両の状態変化の影響を抽出可能とする。
【0040】
(2)鉄道車両Aの加速度を計算し、走行した全区間に対する乗り心地レベルを計算する。同時に、(1)式で計算したパワースペクトル比Xを用いて、その他の鉄道車両Bについても乗り心地レベルを推定する。
【0041】
<乗り心地推定装置の構成>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る乗り心地推定装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る乗り心地推定装置100は、鉄道車両における車体振動加速度を推定して乗り心地レベルを推定する装置であって、測定データ記憶部50と、比計算部52と、車体振動加速度推定部54と、乗り心地評価部56とを備えている。乗り心地推定装置100は、鉄道車両内ではなく、別の場所に設置されている。
【0042】
本実施形態に係る乗り心地推定装置100には、軌道の各区間について、鉄道車両Aに設けられた加速度センサによって検出した左右方向の車体振動加速度を含む鉄道側測定データが入力される。
【0043】
本実施形態に係る乗り心地推定装置100には、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、設置部分における鉄道車両Aの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度と、設置部分における、加速度センサが搭載されていない鉄道車両Bの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度とを含む軌道側測定データが入力される。なお、加速度センサが、車載振動検出器の一例であり、レーザー変位計が、軌道側振動検出器の一例である。
【0044】
測定データ記憶部50には、入力された鉄道側測定データ及び軌道側測定データが記憶されている。
【0045】
比計算部52は、軌道側測定データに含まれる鉄道車両Aの車体振動加速度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する。
【0046】
具体的には、比計算部52は、軌道側測定データに含まれる鉄道車両Aの車体振動加速度の周波数f毎のパワースペクトル密度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度の周波数f毎のパワースペクトル密度を計算し、上記(2)式に従って、周波数f毎に、パワースペクトル密度の比を、車体振動加速度に関する比として計算する。
【0047】
車体振動加速度推定部54は、軌道側測定データに含まれる、推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。
【0048】
具体的には、車体振動加速度推定部54は、周波数f毎に、軌道側測定データに含まれる、推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度のパワースペクトル密度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、以下の式に従って、推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度のパワースペクトル密度を推定する。
【0049】
【数9】
【0050】
乗り心地評価部56は、推定された推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、推定区間における前記鉄道車両Bの乗り心地レベルを推定する。
【0051】
具体的には、乗り心地評価部56は、周波数f毎に推定された推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度のパワースペクトル密度に基づいて、上記(3)式に従って、推定区間における鉄道車両Bの乗り心地レベルLTを推定する。
【0052】
上記の処理を、すべての推定区間に対して繰り返すことにより、推定区間における鉄道車両Bの乗り心地レベルLTを推定する。
【0053】
また、推定対象の鉄道車両の各々を鉄道車両Bとして上記の処理を繰り返すことにより、各鉄道車両について、各推定区間における乗り心地レベルLTを推定する。
【0054】
乗り心地推定装置100は、一例として、図2に示すコンピュータ64によって実現される。コンピュータ64は、CPU66、メモリ68、評価プログラム76を記憶した記憶部70、モニタを含む表示部26、及びキーボードやマウスを含む入力部28を含んでいる。CPU66、メモリ68、記憶部70、表示部26、及び入力部28はバス74を介して互いに接続されている。
【0055】
記憶部70はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶部70には、コンピュータ64を乗り心地推定装置100として機能させるための評価プログラム76が記憶されている。CPU66は、評価プログラム76を記憶部70から読み出してメモリ68に展開し、評価プログラム76を実行する。
【0056】
<乗り心地推定装置の作用>
次に本実施形態の作用を、図3を参照して説明する。まず、オペレータが、推定区間の各々について、鉄道車両Aに設けられた加速度センサによって当該推定区間で検出した、左右方向の車体振動加速度を含む鉄道側測定データを、乗り心地推定装置100に入力する。また、オペレータが、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、鉄道車両Aの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度を含む軌道側測定データを、乗り心地推定装置100に入力する。また、オペレータが、推定対象の鉄道車両の各々を、鉄道車両Bとして、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、加速度センサが搭載されていない鉄道車両Bの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度を含む軌道側測定データとを、乗り心地推定装置100に入力する。
【0057】
また、評価処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として乗り心地推定装置100で実行される乗り心地評価処理を説明する。
【0058】
乗り心地評価処理のステップS100において、軌道側測定データに含まれる鉄道車両Aの車体振動加速度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する。
【0059】
ステップS102において、推定区間の各々について、軌道側測定データに含まれる、当該推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、当該推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。
【0060】
ステップS104において、推定区間の各々について、推定された当該推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、当該推定区間における前記鉄道車両Bの乗り心地レベルを推定する。
【0061】
上記の乗り心地評価処理を、推定対象の鉄道車両の各々を鉄道車両Bとして上記の処理を繰り返す。
【0062】
以上に説明したように、本実施形態に係る乗り心地推定装置100によれば、車体振動加速度を検出する車載振動検出器を設けた鉄道車両Aにおいて車載振動検出器によって検出された車体振動加速度と、設置部分の鉄道軌道上を走行する鉄道車両の車体振動加速度を検出する軌道側振動検出器によって検出された、鉄道車両Aの車体振動加速度、及び車載振動検出器が設けられていない鉄道車両Bの車体振動加速度とを取得し、軌道側振動検出器によって検出された、鉄道車両Aの車体振動加速度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算し、車載振動検出器によって検出された、推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。これにより、測定装置を搭載していない鉄道車両であっても、任意の区間において乗り心地を測定するために車体振動加速度を推定することができる。
【0063】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る乗り心地推定装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
<本発明の第2の実施の形態の概要>
乗り心地モニタリングシステムでは、車体振動加速度から乗り心地レベルを計算し、これを速度・地点情報とともに収集する。これに対して、乗り心地レベルに関する以下のモデルを仮定し、最小2乗法により各係数βを決定する。
【0065】
【数10】

(4)
【0066】
ここで、yiは区間iの平均乗り心地レベル、vは平均速度を示す。また、各係数βの意味は以下の通り。
【0067】
(1)係数β0は、その区間における固有の値(平均値)である。
(2) 係数β1、β2は、 車両ごとのばらつきである。
(3) 係数β3は、軌道など、時系列的に変化する要素である。
(4) 係数β4は、速度の影響を表す。
【0068】
これから、β3を抜き出して比較すると、その区間の乗り心地レベルの純粋な時系列変化傾向を抽出することができる。このように、乗り心地モニタリングシステムでは、走行車両の振動データから車両や速度の影響を取り除き、純粋な乗り心地の変化(=軌道の状態変化)を抽出する。
【0069】
上記(4)式を用いた手法により、各区間の乗り心地モデルを計算する。この際、(2)で求めた他車両の乗り心地レベルから、測定していない他の車両の乗り心地レベルも含める形で乗り心地モデルを計算することができる。これにより、全区間において、車両と速度と期間を指定すると乗り心地レベルを推定できるモデルが完成する。
【0070】
また、基準となる鉄道車両Aにおいて、振動計測が1両のみであった場合、上記の手法のみでは乗り心地変化の原因が車両か軌道か切り分けることができない。一方、地上動揺測定と連携した場合、基準となる鉄道車両Aの劣化による振動増加はパワースペクトル比Xの低下という形で現れる。よって、原理的には、基準となる鉄道車両Aが1両編成のみであっても、車両・軌道両方を監視できるというメリットもある。
【0071】
<乗り心地推定装置の構成>
図4は、本発明の第2の実施形態に係る乗り心地推定装置の概略構成を示す模式図である。図4に示すように、本実施形態に係る乗り心地推定装置200は、鉄道車両における車体振動加速度を推定して乗り心地レベルを推定する装置であって、測定データ記憶部50と、比計算部52と、車体振動加速度推定部54と、乗り心地評価部56と、多変量解析部258と、状態変化評価部260とを備えている。乗り心地推定装置200は、鉄道車両内ではなく、別の場所に設置されている。
【0072】
本実施形態に係る乗り心地推定装置200には、鉄道車両Aに設けられた加速度センサによって検出した左右方向の車体振動加速度、鉄道車両Aに設けられた速度センサによって検出した鉄道車両Aの走行速度、編成番号、号車番号、測定時期、及び測定区間を含む鉄道側測定データが入力される。
【0073】
また、本実施形態に係る乗り心地推定装置200には、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、鉄道車両Aの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度、鉄道車両Aに設けられた速度センサによって検出した鉄道車両Aの走行速度、編成番号、号車番号、測定時期、及び測定区間を含む軌道側測定データが入力される。また、乗り心地推定装置200には、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、加速度センサが搭載されていない鉄道車両Bの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度、鉄道車両Bに設けられた速度センサによって検出した鉄道車両Bの走行速度、編成番号、号車番号、測定時期、及び測定区間を含む軌道側測定データが入力される。
【0074】
測定データ記憶部50には、入力された鉄道側測定データ及び軌道側測定データが記憶されている。
【0075】
比計算部52は、編成番号、号車番号、及び測定時期の組み合わせ毎に、上記第1の実施の形態と同様に、軌道側測定データに含まれる鉄道車両Aの車体振動加速度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する。
【0076】
車体振動加速度推定部54は、編成番号、号車番号、及び測定時期の組み合わせ毎に、上記第1の実施の形態と同様に、軌道側測定データに含まれる、推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。
【0077】
乗り心地評価部56は、編成番号、号車番号、及び測定時期の組み合わせ毎に、上記第1の実施の形態と同様に、推定された推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、推定区間における前記鉄道車両Bの乗り心地レベルを推定する。
【0078】
上記の処理を、すべての推定区間に対して繰り返すことにより、推定区間における鉄道車両Bの乗り心地レベルLTを推定する。
【0079】
また、推定対象の鉄道車両の各々を鉄道車両Bとして上記の処理を繰り返すことにより、各鉄道車両について、各推定区間における乗り心地レベルLTを推定する。
【0080】
多変量解析部258は、乗り心地レベルを目的変数とし、編成番号、号車番号、及び測定時期を質的な説明変数とした上記(4)式に示す関係式を用いた、多変量解析を行って、編成番号の各々の係数、号車番号の各々の係数、及び測定時期の各々の係数を求める。
【0081】
具体的には、多変量解析部258は、推定された乗り心地レベルLTと、上記の(4)式で近似計算される乗り心地レベルとの残差の二乗和が最小となるように、β0、各編成番号の係数β1、各号車番号の係数β2、各測定時期(例えば測定月)の係数β3、走行速度の係数βを、各推定区間i毎に決定する。
【0082】
状態変化評価部260は、編成番号の各々の係数、号車番号の各々の係数、及び測定時期の各々の係数に基づいて、鉄道車両又は鉄道軌道の状態を評価する。
【0083】
具体的には、各推定区間について、多変量解析部258における多変量解析によって得られた当該推定区間の測定時期の各々の係数β3の変化に基づき、鉄道軌道の当該推定区間での状態変化を評価する。
【0084】
また、多変量解析部258における多変量解析によって得られた、各推定区間における、編成番号間の係数β1の差異に基づいて、編成番号の編成に異常があるか否かを評価する。
【0085】
また、多変量解析部258における多変量解析によって得られた、各推定区間における、号車番号間の係数β2の差異に基づいて、号車番号の位置に異常があるか否かを評価する。
【0086】
乗り心地推定装置200は、一例として、上記図2に示すコンピュータ64によって実現される。コンピュータ64は、CPU66、メモリ68、評価プログラム76を記憶した記憶部70、モニタを含む表示部26、及びキーボードやマウスを含む入力部28を含んでいる。CPU66、メモリ68、記憶部70、表示部26、及び入力部28はバス74を介して互いに接続されている。
【0087】
記憶部70はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶部70には、コンピュータ64を乗り心地推定装置200として機能させるための評価プログラム76が記憶されている。CPU66は、評価プログラム76を記憶部70から読み出してメモリ68に展開し、評価プログラム76を実行する。
【0088】
<乗り心地推定装置の作用>
次に本実施形態の作用を、図5を参照して説明する。まず、オペレータが、推定区間の各々について、鉄道車両Aに設けられた加速度センサによって当該推定区間で検出した、左右方向の車体振動加速度、鉄道車両Aに設けられた速度センサによって検出した鉄道車両Aの走行速度、編成番号、号車番号、測定時期、及び測定区間を含む鉄道側測定データを、乗り心地推定装置100に入力する。
【0089】
また、オペレータが、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、鉄道車両Aの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度、鉄道車両Aに設けられた速度センサによって検出した鉄道車両Aの走行速度、編成番号、号車番号、測定時期、及び測定区間を含む軌道側測定データを、乗り心地推定装置200に入力する。また、オペレータが、推定対象の鉄道車両の各々を、鉄道車両Bとして、軌道側に設けられたレーザー変位計によって検出した、加速度センサが搭載されていない鉄道車両Bの左右変位から計算された左右方向の車体振動加速度、鉄道車両Bに設けられた速度センサによって検出した鉄道車両Bの走行速度、編成番号、号車番号、測定時期、及び測定区間を含む軌道側測定データを、乗り心地推定装置200に入力する。
【0090】
また、評価処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として乗り心地推定装置200で実行される乗り心地評価処理を説明する。
【0091】
乗り心地評価処理のステップS200において、編成番号、号車番号、及び測定時期の組み合わせ毎に、軌道側測定データに含まれる鉄道車両Aの車体振動加速度、及び鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、車体振動加速度に関する比を計算する。
【0092】
ステップS202において、推定区間の各々について、編成番号、号車番号、及び測定時期の組み合わせ毎に、軌道側測定データに含まれる、推定区間における鉄道車両Aの車体振動加速度と、車体振動加速度に関する比とに基づいて、推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度を推定する。
【0093】
ステップS204において、推定区間の各々について、編成番号、号車番号、及び測定時期の組み合わせ毎に、推定された推定区間における鉄道車両Bの車体振動加速度に基づいて、推定区間における鉄道車両Bの乗り心地レベルを推定する。
【0094】
ステップS206において、推定区間の各々について、乗り心地レベルを目的変数とし、編成番号、号車番号、及び測定時期を質的な説明変数とした上記(4)式に示す関係式を用いた、多変量解析を行って、編成番号の各々の係数、号車番号の各々の係数、及び測定時期の各々の係数を求める。
【0095】
ステップS208において、推定区間の各々について、編成番号の各々の係数、号車番号の各々の係数、及び測定時期の各々の係数に基づいて、鉄道車両又は鉄道軌道の状態を評価する。
【0096】
上記の乗り心地評価処理を、推定対象の鉄道車両の各々を鉄道車両Bとして上記の処理を繰り返す。
【0097】
以上に説明したように、本実施形態に係る乗り心地推定装置200によれば、測定装置を搭載していない鉄道車両であっても、任意の区間において車体振動加速度を推定し、乗り心地を推定することができる。また、推定された乗り心地レベルに関して多変量解析を行うことで、鉄道車両や鉄道軌道の状態を評価することができる。
【0098】
なお、上記では、車体振動加速度が、左右方向の車体振動加速度である場合について例示しているが、加速度センサが鉄道車両の上下方向の振動加速度を検出可能であれば、車体振動加速度を、上下方向の車体振動加速度としてもよい。
【0099】
また、乗り心地推定装置100、200を、鉄道車両とは別の場所に設定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。乗り心地推定装置100、200を、鉄道車両内に設置してもよい。
【符号の説明】
【0100】
50 測定データ記憶部
52 比計算部
54 車体振動加速度推定部
56 乗り心地評価部
64 コンピュータ
76 評価プログラム
100、200 乗り心地推定装置
258 多変量解析部
260 状態変化評価部
図1
図2
図3
図4
図5