(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163932
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】建柱方法
(51)【国際特許分類】
E04H 12/22 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
E04H12/22
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069084
(22)【出願日】2021-04-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】718002802
【氏名又は名称】津島 武志
(72)【発明者】
【氏名】津島 武志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】温暖化による台風や低気圧等の発達で、電柱の根部からの倒壊が多発している。既設のコンクリート電柱は、強度を重視し耐振を基に設置されており、接地面はコンクリートやアスファルトで堅固に固定されている。そのため接地面で荷重が一点集中し、材料疲労や金属疲労が起こり、倒壊の一因となっている。これらを改善した、建柱方法及び補強部材を提供する。
【解決手段】電柱1の接地面根部土中に、弾性を有したテーパー形状の緩衝体6を配し、衝撃や振動の荷重を吸収・分散することで、倒壊を低減する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱倒壊防止のための建柱方法であって、
地面に穴を掘削する工程と、
前記穴の地面側を、下部に比べ上部のほうが大きくなるようにテーパー形状に拡径して拡径部を設ける工程と、
前記穴に、電柱の外径に合わせた内径を有する緩衝体をあらかじめ取り付けた電柱を挿入する工程と、
前記穴の前記拡径部に前記緩衝体を嵌合させる工程とを、
備えたことを特徴とする建柱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の建柱方法に用いるオーガドリルであって、
ドリルの刃の直径が先端に向かうにつれて徐々に小さくなるテーパー部を有し、
前記テーパー部で前記拡径を行うことができるオーガドリル。
【請求項3】
請求項1に記載の建柱方法に用いる緩衝体であって、
前記拡径部に嵌合させるテーパー面を有する緩衝体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化による水蒸気の増加に伴い、台風の大型化や急速な低気圧の発達による強風で電柱の倒壊が増えている現状に対し、電柱の倒壊を防止する部材及び建柱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来電柱には、電力会社が送電配電を目的として設置している電力柱と、通信会社が通信を目的として配信する電信柱がある。それぞれが互換性を有し、共有して設置運営されている。(以下、電力柱及び電信柱を電柱と記す)全国の配電配信の98パーセントは電柱が用いられており、2パーセントが地中に埋設されたケーブルを用いて配電配信されている。関西電力管内で使用されている電柱は280万本とも言われており、全国では数千万本にもなる。
【0003】
2011年の東日本大震災では、電柱の倒壊や電線の垂れ下がり等が問題となり、社会インフラの信頼性の向上が問題となった。そのため電線地中化による安全性の向上を政策目標とした法律が、2016年12月に無電柱化推進法として成立した。
【0004】
しかしながら、前述した98パーセントの電柱を電線地中化にするには莫大な金額と期間を要する。地中化の費用は工法にもよるが、2.6億円~5.5億円/kmとも試算されており、電柱設置費用が数千万円/kmであるのに対し多額である。
【0005】
既存の電柱は、地震時の強い衝撃・振動よりも長期の発達した低気圧・台風等の強い風圧やその他の外部環境の影響を考慮した耐振を主体とした工法で設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-89082号公報
【特許文献2】実開昭58-168650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のコンクリート電柱の根部の補強施工方法では、電柱を埋設している根部の周辺を深さ90センチ掘削する。電柱の接地面を境目にした埋設部と地上部の周面を、根部補強の目的で接着樹脂を含浸させた繊維のシートで巻き付け貼着し、その上を合成樹脂フィルムで覆って埋め戻す。
【0008】
その上に補強繊維を縦横に配して柱状体の周面に捲回して貼着し、その上にワイヤーを捲回し、鉄板の装着あるいはセラミックの塗布等で防護層を設け、周囲に無溶剤型のプライマリーを薄く塗布し、合成樹脂フィルムを延長して地上部を覆うものである。
【0009】
しかしながら、電柱の根部の地上部で起こる材料疲労に対する補強を目的になされているもので、耐振に対する補強である。この施工方法を用いて設置されている電柱は、補強部材の厚さは数ミリ~10数ミリと想定される。電柱が受ける風圧による複雑な応力を十分に軽減するものではない。
【0010】
特許文献2は、電柱の端末の支線の工法で制振ばね(引張りコイルばね)を用いたものである。電柱にかかる負荷を軽減させ揺れを抑える効果はあるが、38年前の文献である。近年多種多様の制振ばねが開発されており、新素材も開発され、支線に適した制振ばねを選択できる。
【0011】
前記記載のように、温暖化による海水温の上昇での水蒸気の増加に伴い、低気圧が発達し年々強風となり、電柱に掛かる負荷が増大している。
【0012】
既設の電柱は、電柱に掛かる大きな複数の負荷に対処し、強度を重視した耐振工法で施工されている。例えば電柱の地面との接地面は、コンクリートやアスファルトで強固に固定されている。また、電柱のカーブ部や端末は、地中に埋設されたアンカーを用いて支線により固定されている。
【0013】
前述したように、地面との接地面が電柱との支点となり、負荷を一点で受けることになり、材料疲労や金属疲労を生じることが倒壊の一因となっていることが想定される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、既存の耐振工法と制振工法を併用することで、電柱に掛かる負荷の軽減を図るものである。弾性を有した合成樹脂で形成された緩衝体を電柱に結合一体化し、電柱の地表面下埋設部に備える。このように構成することで、地表面で一点集中する材料疲労を回避し、負荷を減衰させたり増幅を防いだりすることができる。緩衝体の形状はテーパーや円筒等が考えられるが、表面積が大きく制振性・作業性に優れたテーパー形状の緩衝体を用いることが最も効果的である。
【0015】
前記目的を達成するために本発明の建柱方法は、
電柱倒壊防止のための建柱方法であって、
地面に穴を掘削する工程と、
前記穴を、下部に比べ上部のほうが大きくなるようにテーパー形状に拡径して拡径部を設ける工程と、
前記穴に、電柱の外径に合わせた内径を有する緩衝体をあらかじめ取り付けた電柱を挿入する工程と、
前記穴の前記拡径部に前記緩衝体を嵌合させる工程とを、
備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明のオーガドリルは、前記記載の建柱方法に用いるオーガドリルであって、
ドリルの刃の直径が先端に向かうにつれて徐々に小さくなるテーパー部を有し、
前記テーパー部で前記拡径を行うことができる。
【0017】
本発明の緩衝体は、前記記載の建柱方法に用いる緩衝体であって、
前記拡径部に嵌合させるテーパー面を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電柱に一体に結合した弾性を有する緩衝体を配することで、強風による複雑な振動や衝撃を制振効果により減衰させたり増幅を防いだりでき、負荷の軽減によって材料疲労や金属疲労を抑え、倒壊の低減が図れる。
【0019】
前記記載の電柱と緩衝体を嵌合し一体化することで、例えば緩衝体の直径を電柱の直径の2倍にすると円周も2倍になることで、電柱の強度を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の既設電柱の設置図。
【
図2】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の直部・テーパー部一体形成テーパーオーガドリル刃正面図。
【
図3】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体部位拡径テーパーオーガドリル刃正面図。
【
図4】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の既設の電柱根部掘削断面図。
【
図5】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体設置部位掘削断面図。
【
図6】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体斜視図。
【
図7】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体設置断面図。
【
図8】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体上面図。
【
図9】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体正面図。
【
図10】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体のケーブル立上り管に用いる緩衝体斜視図及び拡大図。
【
図11】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体取り付け正面図。
【
図12】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体・緩衝体保護板・緩衝体保護板押えリング・電柱自在バンド設置断面図。
【
図13】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体保護板上面図。
【
図14】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体保護板断面図。
【
図15】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体保護板押えリング上面図。
【
図16】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体保護板押えリング断面図。
【
図17】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の電柱自在バンド斜視図。
【
図18】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の電柱自在バンド正面図。
【
図19】本発明の実施形態に係る建柱方法及びそれに用いるオーガドリルと緩衝体の緩衝体設置部断面図及び拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面を参照として本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は既設の電柱1で、配電・配信の共用柱として主に用いられている。主に用いられているコンクリート柱について説明する。
【0023】
電柱1の長さは、通常7~17メートルまで1メートル毎に11種類あり、用途に応じて使われている。先端が細くなるテーパー形状で中空構造であり、型枠に鉄筋を配し、コンクリートを注入し、遠心力を用いて形成されている。
【0024】
テーパーは電柱1の使用用途に応じて使われているが、標準的テーパーは1/75(末口より1メートル下がる毎に1.3センチ太くなる)及び1/160(末口より1メートル下がる毎に0.6センチ太くなる)が使われている。
【0025】
また電柱1の埋設部は、全長の1/6を基準として設置されている。設置間隔(柱間)は一般的に30メートルと言われているが、あくまで目安である。建柱位置は、地形や土地所有者の意向、埋設物の有無などにより決定され、柱間は一定ではない。
【0026】
図2は、直部・テーパー部一体形成テーパーオーガドリルで、引き込み柱などの小径の短柱の掘削時に用いる。電柱1の根部と緩衝体6設置部位の拡径を一度の掘削工程でできることを特徴とする。
【0027】
図3は、新設及び建替時に用いる緩衝体部位拡径テーパーオーガドリルである。
【0028】
電柱の新設及び建替時の建柱方法を説明する。建柱車を用いて設定した建柱箇所に、前記した電柱の長さの1/6の基準の深さに埋設する。
【0029】
まず建柱車の既設のオーガドリルを用いて、
図4の柱根部位を掘削する。次に前記緩衝体部位拡径テーパーオーガドリル3を用いて掘削するが、オーガドリル取替の手間がかかるため、多数の建柱時には2台の建柱車を用いることが好ましい。
【0030】
図5は緩衝体設置部位掘削断面図で、前記既設電柱根部位4の上部より掘削拡径し、拡径部5を設ける。地上面と緩衝体6の上面とが同一面となるように、掘削には位置決めセンサーを用いることが好ましい。
【0031】
図6は新設及び建替時に用いる緩衝体6の斜視図であり、11は貫通孔であり、12はテーパー面である。
図7は緩衝体6の設置断面図であり、
図8は緩衝体6の上面図であり、
図9は緩衝体6の正面図である。
図7に示したように、拡径部5(
図5参照)に、緩衝体6のテーパー面12を嵌合させる。
図7に示したように、拡径部5(
図5参照)に、緩衝体6のテーパー面12を嵌合させる。
【0032】
図10は、ケーブル立上り管緩衝体10の斜視図及び拡大図である。立上り管緩衝体10の上下にケーブル立上り管を配する溝を備えた構成である。
【0033】
図11は、緩衝体取り付け正面図である。電柱1に緩衝体6を装着し建柱するには、作業性・安全性・的確性を考慮して、電柱1を地上に横倒しにして装着することが好ましい。
【0034】
前記したように、電柱1を横倒しにするため、中央部にV字形状の溝を有した受台2個を用いて、適した間隔をあけて設置する。受台の高さは、略80~100センチが作業性が良い。電柱1を横吊りにして受台の溝部に載せる。
【0035】
上述したように、電柱1はテーパー形状(1/75・1/160)であり、また緩衝体6の内径も電柱1と嵌合するように同一テーパーに形成する。このような構成にすることで、緩衝体6を電柱1の末口から手動で容易に挿入することができ、嵌合装着できる。次に、緩衝体保護板7と緩衝体保護板押えリング8を挿入し装着して、電柱自在バンド9を用いて電柱1に装着固定することで一体化を図ることができる。
【0036】
上述したように、電柱1の長さは7~17メートルと1メートルごとに11種あり、長さ毎に地面下根部の外径が異なるので、緩衝体6もそれぞれ11種が必要となる。
【0037】
前述した緩衝体6を装着した形態の電柱1を建柱車で吊り上げ、
図4の既設電柱根部位4をガイドとして、電柱根部を埋設する。
図5の拡径部5の地表面と緩衝体6の上面が一致する個所で前述した位置決めセンサーが感知し、所定の位置に緩衝体6が設置される。
【0038】
電柱1を建柱車で吊り支えた状態で、掘削した土をバイブレーターで突き固めながら、建てりを確認し均等に埋め戻す。緩衝体保護板7の外周の折り曲げ部を土中に埋設する作業は、緩衝体6の安定を図るために、十分に注意して突き固めることが好ましい。
【0039】
図12は、緩衝体6の電柱1埋設部設置断面である。地表面と緩衝体6上面が同一面になるよう設置することで、負荷を減衰させたり増幅を防いだりでき、地表面で一点集中する材料疲労を回避することができる。
【0040】
図13は緩衝体保護板7の上面図であり、
図14は緩衝体保護板7の断面図である。
【0041】
図15は緩衝体保護板押えリング8の上面図であり、
図16は緩衝体保護板押えリング8の断面図である。
【0042】
図17は、緩衝体6を固定する電柱自在バンド9の斜視図である。緩衝体保護板押えリング8の上部で、電柱1に一定のトルクで固定する。
図18は、電柱自在バンド9の平面図である。電柱自在バンド9の形状は、これに限るものではない。
【0043】
図19は、緩衝体6の電柱1装着部の設置拡大図である。緩衝体6の上面を保護し安定を図るため緩衝体保護板7を設ける。緩衝体保護板7の外周部は埋設し、電柱1と接する部位は緩衝体保護板押えリング8で押え、緩衝体保護板7を保護する。そして、緩衝体保護板押えリング8の上面を電柱自在バンド9で電柱1に固定することで、緩衝体6の上方向へのずれを防ぐ。この形態で電柱1と緩衝体6の一体化が図れる。
【0044】
電柱1の設置箇所の条件に応じて緩衝体6の大きさを変えることで、強度の増減を図ることができる。例えば、柱間(スパン)の長い箇所や分岐・カーブ・端末箇所や重量のある変圧器・開閉器など、複雑で負荷が大きく掛かる箇所は、緩衝体の直径の大きいものを用いることが好ましい。
【0045】
緩衝体6、緩衝体保護板7、緩衝体保護板押えリング8の素材は、例えばエラストマやポリウレタンの合成樹脂で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 電柱
2 直部・テーパー部一体形成テーパーオーガドリル
3 緩衝体部位拡径テーパーオーガドリル
4 既設電柱根部位
5 拡径部
6 緩衝体
7 緩衝体保護板
8 緩衝体保護板押えリング
9 電柱自在バンド
10 立上り管緩衝体
11 貫通孔
12 テーパー面
【手続補正書】
【提出日】2021-08-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱倒壊防止のための建柱方法であって、
地面に穴を掘削して電柱の根部が嵌合する電柱根部位を形成する工程と、
下部に前記電柱根部位を残したまま前記穴の地面側を、下部に比べ上部のほうが大きくなるようにテーパー形状に拡径して拡径部を設ける工程と、
前記穴に、電柱の外径に合わせた内径を有する緩衝体をあらかじめ取り付けた電柱を挿入する工程と、
前記穴の前記電柱根部位に電柱の根部を嵌合させ、前記穴の前記拡径部に前記緩衝体を嵌合させる工程とを、
備えたことを特徴とする建柱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の建柱方法であって、
ドリルの刃の直径が先端に向かうにつれて徐々に小さくなるテーパー部を有し、
前記テーパー部で前記拡径を行うことができるオーガドリルを用いた建柱方法。
【請求項3】
請求項1に記載の建柱方法であって、
前記拡径部に嵌合させるテーパー面を有する緩衝体を用いた建柱方法。