(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163947
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ラックピニオン式ステアリングギヤユニット
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20221020BHJP
F16C 35/02 20060101ALI20221020BHJP
F16C 29/02 20060101ALI20221020BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B62D3/12 503A
F16C35/02 C
F16C29/02
F16C33/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069103
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松川 純
【テーマコード(参考)】
3J011
3J104
3J117
【Fターム(参考)】
3J011AA01
3J011BA02
3J011CA01
3J011DA01
3J011KA07
3J011LA04
3J011MA21
3J011SC03
3J011SC05
3J011SC12
3J011SC13
3J104AA43
3J104AA63
3J104AA69
3J104AA75
3J104AA76
3J104CA02
3J104CA06
3J104CA13
3J104CA14
3J104CA15
3J104CA16
3J104DA02
3J104DA18
3J104EA10
3J117AA01
3J117AA05
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB07
(57)【要約】
【課題】組立作業性を低下させることなく、ラックブッシュの軸方向のがたつきを抑制できる、ラックピニオン式ステアリングギヤユニットの構造を実現する。
【解決手段】ラックストッパ20を、ラック収容部23に備えられた中径孔部29に内嵌し、軸方向一方側の側面を段差面31に突き当てる。ラックブッシュ19を、中径孔部29よりも奥側に配置された小径孔部30に内嵌し、外周面に備えられた係合鍔部40を、小径孔部30の内周面の軸方向一部に備えられた係合凹部32に係合させる。ラックブッシュ19とラックストッパ20との間に、ラックブッシュ19に対して軸方向の予圧を付与する弾性材製の予圧付与部材21を配置する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック軸と、
前記ラック軸と噛合するピニオン軸と、
前記ラック軸を収容するラック収容部と、前記ピニオン軸を収容するピニオン収容部とを有するハウジングと、
前記ラック軸を前記ラック収容部に対して、前記ラック軸の軸方向の移動を可能に支持するためのラックブッシュと、
前記ラック収容部に内嵌されて、前記ラック軸の軸方向の変位を規制するラックストッパと、
前記ラックブッシュと前記ラックストッパとの間に配置され、前記ラックブッシュに対して軸方向の予圧を付与する予圧付与部材と、を備え、
前記ラック収容部は、第一孔部と、前記第一孔部よりも奥側に配置され、かつ、軸方向一部に係合凹部を備えた第二孔部と、前記第一孔部と前記第二孔部との間に配置された段差面とを有し、
前記ラックブッシュは、外周面の軸方向一部に備えられた係合鍔部を前記係合凹部に係合させた状態で、前記第二孔部に内嵌されており、
前記ラックストッパは、軸方向側面に備えられた突き当て部を前記段差面に突き当てた状態で、前記第一孔部に内嵌されている、
ラックピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項2】
前記予圧付与部材は、弾性材製で、前記ラックストッパに固定されている、請求項1に記載したラックピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項3】
前記予圧付与部材は、弾性材製の本体部と、前記本体部が固定された、前記本体部よりも剛性の高い芯部とを有し、前記芯部を、前記第二孔部の内周面のうちで、前記係合凹部よりも前記ラック収容部の開口側に位置する部分に圧入により内嵌している、請求項1に記載したラックピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項4】
前記芯部は、断面略L字形で、前記第二孔部に圧入により内嵌される固定筒部と、前記ラックストッパの軸方向側面が突き当てられる芯部突き当て部とを有し、
前記本体部は、前記芯部に対して接着固定されている、
請求項3に記載したラックピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項5】
前記予圧付与部材は、内周面の母線形状が、中心軸に対して非平行である、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載したラックピニオン式ステアリングギヤユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックピニオン式ステアリングギヤユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ラックピニオン式のステアリング装置は、小型かつ軽量に構成でき、しかも剛性が高く良好な操舵フィーリングを得られるなどの理由から、自動車用のステアリング装置に広く使用されている。
図20及び
図21は、特開2016-155443号公報(特許文献1)に記載された、ラックピニオン式のステアリング装置に組み込まれる従来構造のステアリングギヤユニット100を示している。
【0003】
ラックピニオン式のステアリングギヤユニット100は、ステアリングホイールの回転運動を、車両の幅方向の直線運動に変換することで、左右の操舵輪に舵角を付与する。
【0004】
ステアリングギヤユニット100は、ハウジング101と、ステアリングホイールの回転運動が伝達されるピニオン軸102と、ピニオン軸102の回転運動を直線運動に変換するラック軸103と、1対のラックブッシュ104とを備える。
【0005】
ハウジング101は、ラック軸103の軸方向中間部を収容するラック収容部101aと、ピニオン軸102の先半部を収容するピニオン収容部101bとを備える。ハウジング101は、ラック収容部101aの長手方向(軸方向)を車両の幅方向に向けた状態で、車体に固定される。
【0006】
ピニオン軸102は、外周面の先半部にピニオン歯を有する。ピニオン軸102は、ピニオン収容部101bの内側に、複数個の軸受を介して回転自在に支持されている。ピニオン軸102は、ステアリングホイールに対して、図示しないステアリングシャフト及び中間シャフトなどを介して接続されており、ステアリングホイールの操舵操作に伴って回転する。
【0007】
ラック軸103は、外周面の軸方向一部に、ピニオン軸102のピニオン歯と噛合するラック歯を有する。ラック軸103は、ラック収容部101aの内側に、軸方向に関する往復移動を可能に配置されている。ラック軸103の軸方向両側の端部は、ラック収容部101aの軸方向両側の端部から突出しており、球面継手105を介して、タイロッド106に接続されている。
【0008】
1対のラックブッシュ104のそれぞれは、ラック収容部101aの軸方向両側の開口部に内嵌されている。ラックブッシュ104は、滑り軸受として機能し、ラック軸103を、ラック収容部101aに対して、軸方向にがたつきなく変位できるように支持する。
【0009】
図21に示すように、ラックブッシュ104は、ブッシュ本体107と、1対の弾性リング108とを備える。ブッシュ本体107は、円筒形状を有している。ブッシュ本体107は、円周方向の複数個所に、それぞれが軸方向に伸長した図示しないスリットを有しており、径方向に関する拡縮が可能である。ブッシュ本体107は、外周面の軸方向一方側の端部に、径方向外側に向けて突出した係合鍔部107aを有する。また、ブッシュ本体107は、外周面の軸方向中間部に、円周方向に伸長した係止凹溝107bを有する。
【0010】
ラックブッシュ104は、ブッシュ本体107の外周面に備えられた係合鍔部107aを、ラック収容部101aの内周面に備えられた係合凹部109に対して係合させた状態で、ラック収容部101aに内嵌されている。これにより、ラックブッシュ104が、ラック収容部101aに対して軸方向に変位することを防止している。
【0011】
ラックブッシュ104をラック収容部101aに内嵌した状態で、1対の弾性リング108のそれぞれを、係止凹溝107bの溝底面とラック収容部101aの内周面との間で弾性的に挟持している。これにより、ブッシュ本体107の内周面を、ラック軸103の外周面に対して弾性的に押し付け、ラック軸103に径方向のがたつきが生じることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特開2016-155443号公報に記載された従来構造のステアリングギヤユニット100のように、ラックブッシュ104の軸方向の変位を防止するために、係合鍔部107aを係合凹部109に係合させる構成を採用する場合、通常、ステアリングギヤユニット100の組み立て性を確保すべく、係合鍔部107aの軸方向寸法を、係合凹部109の軸方向寸法よりも少しだけ小さく設定することが行われる。ただし、係合鍔部107aの軸方向寸法を、係合凹部109の軸方向寸法よりも小さく設定した場合、ラックブッシュ104がラック収容部101aに対して軸方向にがたつきやすくなる。この結果、ラック軸103が軸方向に変位する際に、ラックブッシュ104とラック収容部101aとが衝突して打音を発生させる可能性がある。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、組立作業性を低下させることなく、ラックブッシュの軸方向のがたつきを抑制できる、ラックピニオン式ステアリングギヤユニットの構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様にかかるラックピニオン式ステアリングギヤユニットは、ラック軸と、ピニオン軸と、ハウジングと、ラックブッシュと、ラックストッパと、予圧付与部材とを備える。
前記ピニオン軸は、前記ラック軸と噛合する。
前記ハウジングは、前記ラック軸を収容するラック収容部と、前記ピニオン軸を収容するピニオン収容部とを有する。
前記ラックブッシュは、前記ラック軸を前記ラック収容部に対して、前記ラック軸の軸方向の移動を可能に支持する。
前記ラックストッパは、環状に構成されており、前記ラック収容部に内嵌されて、前記ラック軸の軸方向の変位を規制する。
前記予圧付与部材は、前記ラックブッシュと前記ラックストッパとの間に配置され、前記ラックブッシュに対して軸方向の予圧を付与する。
前記ラック収容部は、第一孔部と、前記第一孔部よりも奥側に配置され、かつ、軸方向一部に係合凹部を備えた第二孔部と、前記第一孔部と前記第二孔部との間に配置された段差面とを有する。
前記ラックブッシュは、外周面の軸方向一部に備えられた係合鍔部を前記係合凹部に係合させた状態で、前記第二孔部に内嵌されている。
前記ラックストッパは、軸方向側面に備えられた突き当て部を前記段差面に突き当てた状態で、前記第一孔部に内嵌されている。
【0016】
本発明の一態様にかかるラックピニオン式ステアリングギヤユニットでは、前記予圧付与部材は、弾性材製で、前記ラックストッパに固定されている。
前記ラックストッパに対する前記予圧付与部材の固定手段は、特に問わないが、たとえば、接着(加硫接着を含む)や貼着などの化学的接合手段を採用することもできるし、圧入やかしめなどの機械的接合手段を採用することもできる。
【0017】
本発明の一態様にかかるラックピニオン式ステアリングギヤユニットでは、前記予圧付与部材は、前記ラックストッパとは別体に構成されており、弾性材製の本体部と、前記本体部が固定された、前記本体部よりも剛性の高い芯部とを有し、前記芯部を、前記第二孔部の内周面のうちで、前記係合凹部よりも前記ラック収容部の開口側に位置する部分に圧入により内嵌している。
前記芯部に対する前記本体部の固定手段は、特に問わないが、たとえば、接着(加硫接着を含む)や貼着などの化学的接合手段を採用することもできるし、圧入やかしめなどの機械的接合手段を採用することもできる。
【0018】
本発明の一態様にかかるラックピニオン式ステアリングギヤユニットでは、前記芯部を、断面略L字形で、前記第二孔部に圧入により内嵌される固定筒部と、前記ラックストッパの軸方向側面が突き当てられる芯部突き当て部とを有するものとし、前記本体部を前記芯部に対して接着固定することができる。
【0019】
本発明の一態様にかかるラックピニオン式ステアリングギヤユニットでは、前記予圧付与部材の内周面の母線形状を、前記予圧付与部材の中心軸に対して非平行とすることができる。
この場合には、前記予圧付与部材の内周面の母線形状を、前記予圧付与部材の中心軸に対して傾斜したテーパ面とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、組立作業性を低下させることなく、ラックブッシュの軸方向のがたつきを抑制できる、ラックピニオン式ステアリングギヤユニットの構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置を示す、部分切断側面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットを取り出して一部の部材を省略して示す、平面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットを取り出して一部の部材を省略して示す、背面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットを取り出して一部の部材を省略して示す、断面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットからラックブッシュを取り出して示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は右側面図であり、(C)は左側面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットからラックブッシュを取り出して示す、断面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットからラックブッシュを取り出して示す斜視図であり、(A)は軸方向他方側かつ径方向外側から見た斜視図であり、(B)は軸方向一方側かつ径方向外側から見た斜視図である。
【
図11】
図11は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットから弾性材付きラックストッパを取り出して示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は右側面図であり、(C)は左側面図である。
【
図12】
図12は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットから弾性材付きラックストッパを取り出して示す、断面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態の第1例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットから弾性材付きラックストッパを取り出して示す斜視図であり、(A)は軸方向他方側かつ径方向外側から見た斜視図であり、(B)は軸方向一方側かつ径方向外側から見た斜視図である。
【
図16】
図16は、実施の形態の第2例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットからラックストッパを取り出して示す斜視図であり、(A)は軸方向他方側かつ径方向外側から見た斜視図であり、(B)は軸方向一方側かつ径方向外側から見た斜視図である。
【
図17】
図17は、実施の形態の第2例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットから予圧付与部材を取り出して示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は右側面図であり、(C)は左側面図である。
【
図18】
図18は、実施の形態の第2例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットから予圧付与部材を取り出して示す断面図である。
【
図19】
図19は、実施の形態の第2例にかかるラックピニオン式のステアリングギヤユニットから予圧付与部材を取り出して示す斜視図であり、(A)は軸方向他方側かつ径方向外側から見た斜視図であり、(B)は軸方向一方側かつ径方向外側から見た斜視図である。
【
図20】
図20は、従来構造のラックピニオン式ステアリングギヤユニットを示す、部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図13を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後方向は、車両の前後方向を意味し、上下方向は、車両の上下方向を意味し、左右方向は、車両の幅方向を意味する。また、左右方向は、後述するラック軸18及びラック収容部23の軸方向に一致する。ラック軸18及びラック収容部23の軸方向に関して一方側とは、
図3及び
図5~
図7の左側、
図4の右側を指し、ラック軸18及びラック収容部23の軸方向に関して他方側とは、
図3及び
図5~
図7の右側、
図4の左側を指す。
【0023】
〔ステアリング装置の全体構成〕
本例のラックピニオン式のステアリング装置1は、
図1に全体構成を示すように、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置である。
【0024】
ステアリング装置1は、ステアリングホイール2と、ステアリングシャフト3と、ステアリングコラム4と、1対の自在継手5a、5bと、中間シャフト6と、ステアリングギヤユニット7と、1対のタイロッド8と、電動アシスト装置9とを備える。
【0025】
ステアリングホイール2は、ステアリングコラム4の内側に回転自在に支持されたステアリングシャフト3の後端部に固定されている。
図2に示すように、ステアリングシャフト3の前端部は、ステアリングコラム4の前端部に固定されたギヤハウジング10の内側に挿入されており、トーションバー11を介して、出力シャフト12に連結されている。
【0026】
出力シャフト12の回転は、1対の自在継手5a、5b及び中間シャフト6を介して、ステアリングギヤユニット7を構成する後述のピニオン軸17に伝達される。そして、ピニオン軸17の回転を、ステアリングギヤユニット7を構成する後述のラック軸18の直線運動に変換することで、1対のタイロッド8を押し引きし、図示しない操舵輪に舵角を付与する。
【0027】
電動アシスト装置9は、運転者がステアリングホイール2を操作するのに要する力の軽減を図るもので、トルクセンサ13と、図示しないECUと、電動モータ14と、減速装置であるウォーム減速機15とを備えている。
【0028】
トルクセンサ13は、出力シャフト12の周囲に配置されており、ステアリングシャフト3に対する出力シャフト12の相対的な捩れ方向及び捩れ量を検出する。ECUは、トルクセンサ13の検出信号、及び、図示しない車速センサにより測定される車速信号などに基づいて、補助トルクを決定する。電動モータ14は、ギヤハウジング10に固定されており、ECUによって通電方向及び通電量が制御されている。ウォーム減速機15は、電動モータ14の回転力を減速して出力シャフト12に伝達する。この結果、出力シャフト12に補助トルクを付与できるため、運転者がステアリングホイール2を操作するのに必要な操舵力を軽減できる。
【0029】
以下、本例のステアリングギヤユニット7の具体的な構造について、
図3~
図13を参照して説明する。
【0030】
〔ステアリングギヤユニット〕
ステアリングギヤユニット7は、ハウジング16と、ピニオン軸17(
図1参照)と、ラック軸18と、図示しないラックガイドと、ラックブッシュ19と、ラックストッパ20及び予圧付与部材21からなる弾性材付きラックストッパ22と、を有し、ステアリングホイール2の回転運動を、ラック軸18の軸方向の直線運動に変換する。
【0031】
〈ハウジング〉
ハウジング16は、車体に固定されるものであり、アルミニウム系合金などの軽合金をダイキャスト成形することにより一体的に造られた鋳造品である。ハウジング16は、
図3~
図5に示すように、ラック収容部23と、ピニオン収容部24と、ラックガイド収容部25と、複数の取付部26a、26bとを備える。
【0032】
《ラック収容部》
ラック収容部23は、左右方向に伸長した円筒状部材であり、径方向中央部に、ラック軸18を挿通させる、軸方向に貫通した挿通孔27を有している。このため、ラック収容部23は、軸方向の両側の端部が開口している。ラック収容部23の内側には、ラック軸18の軸方向中間部が収容される。ラック収容部23は、略水平に配置される。
【0033】
図5に示すように、挿通孔27は、軸方向中間部に、軸方向にわたり内径が変化しない本体孔部27aを有し、かつ、軸方向両側の端部に、本体孔部27aから離れる(開口側に向かう)ほど、内径が段階的に大きくなった、段付孔部27b、27cを有している。本体孔部27aは、ラック軸18の外径よりも少しだけ大きな内径を有する。
【0034】
本例のステアリングギヤユニット7は、ラック収容部23の挿通孔27のうち、軸方向他方側に配置された段付孔部27cに対して、ラックブッシュ19及び弾性材付きラックストッパ22を取り付けている。そこで本例では、
図6に示すように、段付孔部27cを、大径孔部28と、中径孔部29と、小径孔部30と、段差面31とを含んで構成している。
【0035】
大径孔部28は、段付孔部27cの開口側部分(軸方向他方側部分)に配置されている。図示の例では、大径孔部28は、2つの円筒孔部と2つの円すい孔部とを軸方向に交互に配置してなる。大径孔部28は、ラック軸18の軸方向端部に固定される後述の球面継手36の外径よりも大きな内径を有する。大径孔部28の内側には、ステアリングホイール2をラック軸18のストロークエンドまで回転操作した際に、球面継手36が配置される。
【0036】
中径孔部29は、特許請求の範囲に記載した第一孔部に相当し、大径孔部28の奥側(軸方向一方側)に隣接した、段付孔部27cの軸方向中間部に配置されている。中径孔部29は、円筒面状の内周面を有しており、大径孔部28よりも小さな内径を有する。このため、中径孔部29と大径孔部28との間には、軸方向他方側を向いた段差が設けられている。中径孔部29は、ラックストッパ20の軸方向寸法よりも小さい軸方向寸法を有する。
【0037】
小径孔部30は、特許請求の範囲に記載した第二孔部に相当し、中径孔部29の奥側(軸方向一方側)に隣接した、段付孔部27cの奥側部分(軸方向一方側部分)に配置されている。小径孔部30は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて凹んだ係合凹部32を有する。係合凹部32は、矩形の断面形状を有し、小径孔部30の全周にわたり備えられている。係合凹部32は、ラックブッシュ19に備えられた後述の係合鍔部40を係合させる部分であり、係合鍔部40の軸方向寸法及び径方向寸法よりもわずかに大きい軸方向寸法及び径方向寸法を有する。
【0038】
小径孔部30は、係合凹部32が設けられた部分を除き、円筒面状の内周面を有している。小径孔部30は、中径孔部29よりも小さな内径を有し、かつ、本体孔部27aよりも大きな内径を有する。なお、図示の例では、係合凹部32の底部の内径についても、中径孔部29の内径よりも小さくなっている。
【0039】
段差面31は、ラック収容部23の中心軸に直交する仮想平面上に存在する、軸方向他方側を向いた円輪状の平坦面であり、中径孔部29と小径孔部30との間に配置されている。つまり、段差面31は、中径孔部29と小径孔部30とをつないでいる。
【0040】
本例では、挿通孔27を構成する本体孔部27aと段付孔部27c(小径孔部30)との間に、ラック収容部23の中心軸に直交する仮想平面上に存在する、軸方向他方側を向いた円輪状の平坦面である、第2の段差面33を有する。つまり、第2の段差面33は、本体孔部27aと小径孔部30とをつないでいる。
【0041】
《ピニオン収容部》
ピニオン収容部24は、有底円筒形状を有しており、上側の端部のみが開口している。ピニオン収容部24の内側には、ピニオン軸17の先半部が配置される。ピニオン収容部24は、ラック収容部23の前側(
図3及び
図5の下側、
図4の後側)で、かつ、ラック収容部23の軸方向一方側(
図3及び
図5の左側、
図4の右側)部分に配置されている。また、ピニオン収容部24は、ラック収容部23に対しねじれの位置関係に配置されている。つまり、ピニオン収容部24の中心軸とラック収容部23の中心軸とは、ねじれの位置関係にある。また、前後方向から見て、ピニオン収容部24の中心軸は、ラック収容部23の中心軸に対して直交する方向には配置されておらず、該直交する方向に対し傾斜している。ピニオン収容部24の内部空間は、ラック収容部23の内部空間に連通している。
【0042】
《ラックガイド収容部》
ラックガイド収容部25は、円筒形状を有しており、前後方向に伸長している。ラックガイド収容部25の内側には、図示しないラックガイドが収容される。ラックガイド収容部25は、ラック収容部23の後側で、かつ、ラック収容部23の軸方向一方側部分に配置されている。具体的には、ラックガイド収容部25は、ラック収容部23の軸方向に関して、ピニオン収容部24と同じ位置に配置されている。ラックガイド収容部25の内部空間も、ラック収容部23の内部空間に連通している。
【0043】
《取付部》
複数(図示の例では3つ)の取付部26a、26bのうち、ラック収容部23の前側に配置された1つの取付部26aは、ラック収容部23の軸方向一方側の端部に配置されている。これに対して、ラック収容部23の後側に配置された1対の取付部26bは、ラック収容部23の軸方向両側の端部に配置されている。ハウジング16は、複数の取付部26a、26bのそれぞれを挿通したボルトやスタッドなどの固定部材を利用して、車体に固定される。
【0044】
〈ピニオン軸〉
ピニオン軸17は、外周面の先半部にピニオン歯を有する。ピニオン軸17は、ピニオン収容部24の内側に、図示しない複数(たとえば2個)の軸受を用いて回転自在に支持される。ピニオン軸17の中心軸は、ピニオン収容部24の中心軸と同軸に配置される。ピニオン軸17は、ステアリングホイール2に対し、自在継手5a、5b及び中間シャフト6などを介して接続されており、ステアリングホイール2の操舵操作に伴って回転する。ピニオン軸17の回転は、ラック軸18の直線運動に変換され、ラック軸18の軸方向両側の端部に接続されたタイロッド8を押し引きする。これにより、左右の操舵輪に舵角が付与される。
【0045】
〈ラック軸〉
ラック軸18は、炭素鋼などの金属製の棒状部材であり、中実体である。ラック軸18は、
図5に示すように、軸方向一方側部分の外周面の一部に、ピニオン軸17の外周面に備えられたピニオン歯と噛合する、ラック歯34を有する。ラック軸18は、軸方向両側の端面に開口する1対のねじ孔35を有する。
【0046】
ラック軸18は、軸方向(長手方向)を左右方向に向け、かつ、軸方向両側の端部を、ラック収容部23の左右方向両側の開口から突出させた状態で、ラック収容部23の内側に軸方向に関する往復移動を可能に支持されている。ラック軸18の軸方向両側の端部は、球面継手36を介してタイロッド8に接続される。具体的には、ラック軸18の1対のねじ孔35のそれぞれには、球面継手36の軸部36aに備えられた雄ねじ部が螺合されており、球面継手36の筒状のホルダ部36bには、タイロッド8の基端部に備えられた球状部8aが揺動可能に支持されている。
【0047】
〈ラックガイド〉
図示しないラックガイドは、ラック軸18をピニオン軸17に向けて押圧するもので、ラックガイド収容部25の内側に配置される。ラックガイドは、ラック軸18をピニオン軸17に向けて押圧することで、ピニオン歯とラック歯34との噛合部のバックラッシュを低減する。そして、ピニオン歯とラック歯34との噛合部で、異音が発生することを防止する。ラックガイドとしては、従来から知られた滑り式のラックガイド又はローラ式のラックガイドを使用することができる。
【0048】
本例のステアリングギヤユニット7を構成するラックブッシュ19、ラックストッパ20及び予圧付与部材21に関する以下の説明において、軸方向、径方向、円周方向とは、特に断らない限り、ラックブッシュ19、ラックストッパ20及び予圧付与部材21に関する軸方向、径方向、円周方向をいう。また、ラックブッシュ19、ラックストッパ20及び予圧付与部材21のそれぞれの軸方向は、ラック軸18の軸方向に一致する。
【0049】
〈ラックブッシュ〉
ラックブッシュ19は、滑り軸受として機能するものであり、ラック軸18を、ラック収容部23に対して、軸方向にがたつきなく変位できるように支持する。
【0050】
ラックブッシュ19は、
図5及び
図6に示すように、ラック収容部23の軸方向他方側に配置された段付孔部27cに取り付けられている。本例では、ピニオン軸17に近い、ラック収容部23の軸方向一方側に配置された段付孔部27bには、ラックブッシュを取り付けていない。この理由は、ラック収容部23の軸方向一方側には、図示しないラックガイドが配置され、ラック軸18のがたつきを抑制できるためである。ただし、本発明を実施する場合には、ラック収容部の軸方向両側にラックブッシュを設けることもできる。
【0051】
図8~
図10に示すように、ラックブッシュ19は、ブッシュ本体37と、複数本(図示の例では2本)の弾性リング38とから構成されている。
【0052】
ブッシュ本体37は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、四ふっ化エチレン樹脂などの熱可塑性合成樹脂製であり、円筒形状を有している。
【0053】
ブッシュ本体37は、軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたり形成された、軸方向に伸長した複数本のスリット39aと、軸方向他方側の端部から軸方向中間部にわたり形成された、軸方向に伸長した複数本のスリット39bとを、円周方向に関して交互に備えている。スリット39aは、ブッシュ本体37の軸方向一方側の端面及びブッシュ本体37の内外両周面のそれぞれに開口しており、スリット39bは、ブッシュ本体37の軸方向他方側の端面及びブッシュ本体37の内外両周面のそれぞれに開口している。これにより、ブッシュ本体37は、径方向に関する拡縮が可能となっている。なお、図示の例では、ブッシュ本体37は、4本のスリット39aと4本のスリット39bとを備えているが、本発明を実施する場合には、スリットの形成数は適宜変更することができる。
【0054】
ブッシュ本体37は、外周面の軸方向他方側の端部に、径方向外側に向けて突出した係合鍔部40を有している。係合鍔部40は、スリット39bが形成された部分を除いて、ブッシュ本体37の全周にわたり備えられている。別な言い方をすれば、係合鍔部40は、スリット39bが形成された部分において不連続に構成されている。
【0055】
図9に示すように、係合鍔部40は、矩形の断面形状を有している。係合鍔部40は、ラック収容部23の小径孔部30の内周面に備えられた係合凹部32の軸方向寸法及び径方向寸法よりも、わずかに小さい軸方向寸法及び径方向寸法を有する。
【0056】
ブッシュ本体37は、外周面の複数個所(図示の例では2個所)に、スリット39a、39bを横切るように周方向に伸長した、係止凹溝41を有する。係止凹溝41は、ブッシュ本体37の外周面のうち、係合鍔部40から軸方向に外れた軸方向中間部に形成されており、矩形の断面形状を有する。係止凹溝41には、弾性リング38が係止される。
【0057】
ブッシュ本体37は、内周面の軸方向中間部に、軸方向にわたり内径の変化しない円筒面部37aを有し、かつ、内周面の軸方向両側の端部に、円筒面部から離れるほど内径が大きくなるテーパ面部37b、37cを有している。テーパ面部37b、37cは、ブッシュ本体37の内部の通気性やラック軸18の挿通性を高めるために備えられている。なお、ブッシュ本体37の軸方向他方側の端面の円周方向複数個所には、ブッシュ本体37を射出成型から取り外す際に使用するインジェクタピンを挿入するための凹部37dが備えられている。
【0058】
弾性リング38は、ゴムや熱可塑性合成樹脂などの弾性材製で、全体が円環状に構成されている。弾性リング38は、円形の断面形状を有する、いわゆるOリングである。弾性リング38は、自由状態で、ラック収容部23の小径孔部30の内径よりも大きい外径を有し、かつ、ブッシュ本体37の係止凹溝41の溝底部の外径よりも小さい内径を有する。弾性リング38の断面形状における直径(線径)は、係止凹溝41の軸方向幅よりも少しだけ小さく、かつ、係止凹溝41の径方向深さよりも少しだけ大きい。このため、弾性リング38をブッシュ本体37の係止凹溝41に係止した状態で、弾性リング38の径方向外側部は、ブッシュ本体37の外周面よりも径方向外側に張り出す。
【0059】
本例のラックブッシュ19は、ブッシュ本体37の外周面に備えられた係止凹溝41に弾性リング38を装着した状態で、ラック収容部23の小径孔部30に内嵌されている。このため、ブッシュ本体37は、弾性リング38によって径方向内側に押圧され、縮径した状態となる。したがって、ブッシュ本体37の内周面(円筒面部37a)により、ラック軸18の外周面を摺動可能に保持し、ラック軸18に径方向のがたつきが生じることを抑制することが可能となる。
【0060】
また、ラックブッシュ19を小径孔部30に内嵌した状態で、ブッシュ本体37の外周面に備えられた係合鍔部40を、小径孔部30の内周面に備えられた係合凹部32に対して係合させている。これにより、ラックブッシュ19が、ラック収容部23に対して軸方向に変位することを防止している。係合鍔部40の軸方向寸法は、係合凹部32の軸方向寸法よりも少しだけ小さく設定しているため、ラックブッシュ19の組付作業時に、係合鍔部40を係合凹部32に対して容易に係合させることができる。さらに、ブッシュ本体37の軸方向一方側の端面を、第2の段差面33に対して近接対向させている。
【0061】
〈弾性材付きラックストッパ〉
図11~
図13に示すように、弾性材付きラックストッパ22は、ラックストッパ20に、弾性材製の予圧付与部材21を固定してなる、単一部品である。別な言い方をすれば、ラックストッパ20と予圧付与部材21とは、互いに結合されて一部品となっている。弾性材付きラックストッパ22は、円環形状を有しており、ラックストッパ20としての機能と、予圧付与部材21としての機能とを併せ持っている。弾性材付きラックストッパ22は、軸方向一方側部に予圧付与部材21を備えており、軸方向他方側部にラックストッパ20を備えている。以下、弾性材付きラックストッパ22を構成する、ラックストッパ20及び予圧付与部材21について、それぞれ詳しく説明する。
【0062】
《ラックストッパ》
ラックストッパ20は、ラック軸18を軸方向に変位させた際に、ラック軸18の軸方向端部に固定された球面継手36と当接して、ラック軸18の軸方向変位(ストローク)を規制する機能と、球面継手36が合成樹脂製のラックブッシュ19に直接衝突することを防止する機能とを有する。
【0063】
ラックストッパ20は、円環形状を有しており、ラックブッシュ19を構成する合成樹脂よりも強度の高い材料から造られている。具体的には、ラックストッパ20は、防錆性を有し、かつ、十分な強度及び剛性を有する金属製である。ラックストッパ20は、L字形の断面形状を有しており、円筒状の嵌合筒部42と、嵌合筒部42の軸方向一方側の端部内周面から径方向内側に向けて伸長した、内向鍔部43とを有する。
【0064】
嵌合筒部42は、中径孔部29の内径よりもわずかに大きい外径を有する。嵌合筒部42は、球面継手36を構成するホルダ部36bのうち、軸部36aにつながった基端側部分の外径よりも大きな内径を有する。このため、嵌合筒部42の径方向内側には、ホルダ部36bの基端側部分を挿入可能である。嵌合筒部42は、軸方向一方側の側面に、ラック収容部23の段差面31に突き当てられる突き当て部44を有する。
【0065】
内向鍔部43は、円環板状に構成されており、ラック軸18の外径よりも大きな内径を有する。内向鍔部43の軸方向一方側の側面には、予圧付与部材21が固定されている。内向鍔部43は、軸方向他方側の側面に、球面継手36を構成するホルダ部36bの軸方向一方側の端面が突き当てられる、ストッパ部45を有する。突き当て部44及びストッパ部45は、ラックストッパ20の中心軸に直交する仮想平面上に存在しており、互いに平行に配置されている。
【0066】
本例のラックストッパ20は、嵌合筒部42を中径孔部29に対し締り嵌めにより内嵌(圧入)した状態で、嵌合筒部42の軸方向一方側の側面に備えられた突き当て部44を段差面31に対して全周にわたり突き当てている。これにより、内向鍔部43の軸方向他方側の側面に備えられたストッパ部45の軸方向位置を、適正な位置に規制している。また、ラック収容部23に対するラックストッパ20の軸方向の位置決めを図れるため、ラックストッパ20に固定された予圧付与部材21の弾性変形量を適正量に規制することができる。なお、本発明を実施する場合には、ラックストッパの固定構造は締り嵌めに限定されず、嵌合筒部の外周面に形成した雄ねじ部を中径孔部の内周面に形成した雌ねじ部に螺合させる構造や、接着剤などを利用した固定構造を採用することもできる。
【0067】
《予圧付与部材》
予圧付与部材21は、ゴムや合成樹脂などの弾性材製で、円環形状を有している。予圧付与部材21の軸方向他方側の側面は、内向鍔部43の軸方向一方側の側面に対して、全周にわたり固定されている。本例では、予圧付与部材21を、内向鍔部43の軸方向一方側の側面に対して加硫接着(インサート成形)により接着固定している。つまり、予圧付与部材21を成形する工程と、予圧付与部材21をラックストッパ20に接着する工程とを同時に行っている。接着剤としては、たとえば、フェノール樹脂系やエポキシ樹脂系などの接着剤を用いることができる。本発明を実施する場合には、ラックストッパに対する予圧付与部材の固定手段は、加硫接着に限らず、成形後の予圧付与部材を接着剤を用いて接着する、いわゆる後接着のほか、両面粘着テープを用いた貼着などの化学的接合手段を採用することもできるし、圧入やかしめなどの機械的接合手段を採用することもできる。
【0068】
予圧付与部材21は、自由状態で、略三角形又は略台形の断面形状を有する。また、予圧付与部材21は、軸方向に関してラックストッパ20から離れるほど径方向寸法が小さくなる、先細の断面形状を有する。
【0069】
予圧付与部材21は、自由状態で、テーパ面状の外周面を有している。このため、予圧付与部材21の外周面の母線形状は、予圧付与部材21の中心軸に対して非平行である。予圧付与部材21の外周面は、軸方向に関して先端側に向かう(ラックストッパ20から離れる)ほど、外径が小さくなる方向に傾斜している。予圧付与部材21の外径は、外径が最も大きい部分においても、小径孔部30の内径よりも小さい。
【0070】
予圧付与部材21は、自由状態で、テーパ面状の内周面を有している。このため、予圧付与部材21の内周面の母線形状は、予圧付与部材21の中心軸に対して非平行である。予圧付与部材21の内周面は、軸方向に関して先端側に向かう(ラックストッパ20から離れる)ほど、内径が大きくなる方向に傾斜している。予圧付与部材21の内径は、内径が最も小さい部分において、内向鍔部43の内径とほぼ同じであり、ラック軸18の外径よりも十分に大きい。
【0071】
予圧付与部材21は、ラックストッパ20を中径孔部29に締り嵌めにより内嵌固定した状態で、内向鍔部43の軸方向一方側の側面と、ラックブッシュ19(ブッシュ本体37)の軸方向他方側の側面との間で、弾性的に挟持されている。これにより、予圧付与部材21は、ラックブッシュ19を軸方向一方側に向けて弾性的に押圧する。つまり、予圧付与部材21は、ラックブッシュ19に対して軸方向一方側を向いた予圧を付与する。そして、ラックブッシュ19に備えられた係合鍔部40の軸方向一方側の側面を、係合凹部32の軸方向一方側の内側面に対して押し付ける(突き当てる)。
【0072】
以上のような構成を有する本例のステアリング装置1によれば、組立作業性を低下させることなく、ラックブッシュ19の軸方向のがたつきを抑制することができる。
すなわち、本例では、弾性材付きラックストッパ22を構成する予圧付与部材21により、ラックブッシュ19に対して軸方向一方側を向いた予圧を付与し、ラックブッシュ19に備えられた係合鍔部40の軸方向一方側の側面を、係合凹部32の軸方向一方側の内側面に対して押し付けることができる。このため、ステアリングギヤユニット7の組み立て性を確保すべく、係合鍔部40の軸方向寸法を、係合凹部32の軸方向寸法よりも少しだけ小さく設定した場合にも、ラックブッシュ19の軸方向のがたつきを抑制することができる。この結果、ラック軸18が軸方向に変位した際にも、ラックブッシュ19とラック収容部23との衝突に起因した打音が発生することを有効に防止できる。
【0073】
しかも、本例では、ラックブッシュ19の軸方向のがたつきを抑制するための予圧付与部材21を、ラック軸18のストロークを規制するためのラックストッパ20に予め固定しているため、予圧付与部材21を、ラックブッシュ19とラックストッパ20との間に組み込む作業を、ラックストッパ20の取付作業(圧入作業)とは別に行う必要がない。このため、予圧付与部材21を備えない構造に比べて、組立工数を増加させずに済む。したがって、本例では、ステアリングギヤユニット7の組立作業性を低下させずに済み、ステアリングギヤユニット7を製造コストの上昇を抑えられる。
【0074】
本例では、弾性材製の予圧付与部材21を、ラックストッパ20に対して固定しているため、予圧付与部材21が、ラック軸18に対して径方向に相対変位することを防止できる。したがって、予圧付与部材21の内周面が、ラック軸18の外周面に対して接触することに起因して、異音が発生することを防止できる。
【0075】
さらに、予圧付与部材21の外周面及び内周面のそれぞれを、自由状態で、テーパ面状としているため、予圧付与部材21が弾性変形した状態においても、予圧付与部材21の外周面が小径孔部30の内周面に当接することを防止でき、かつ、予圧付与部材21の内周面がラック軸18の外周面に当接することを防止できる。
【0076】
また、予圧付与部材21を弾性材製としているため、寸法のばらつきなどに起因して、ラックブッシュ19に付与する予圧が過大になることを防止できる。このため、ラックブッシュ19の損傷を防止できる。さらに、予圧付与部材21の自由状態での断面形状を先細形状としているため、予圧付与部材21を、ラックブッシュ19とラックストッパ20との間で軸方向に弾性変形させた際の、弾性力の立ち上がりを緩やかにできる。このため、ラックブッシュ19に付与する予圧の大きさの調整が容易になる。
【0077】
ラックストッパ20を中径孔部29に内嵌した状態で、嵌合筒部42に備えられた突き当て部44を段差面31に対して突き当てているため、球面継手36が内向鍔部43に備えられたストッパ部45に繰り返し衝突した場合にも、ラックストッパ20が軸方向一方側に移動することを防止できる。したがって、ラック軸18のストロークエンドが変化することを防止できる。
【0078】
本例の変形例としては、予圧付与部材を、円周方向に関して連続した円環形状の1つの部材から構成するのではなく、それぞれが弾性材製の複数の部材から構成することもできる。
【0079】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図14~
図19を用いて説明する。
【0080】
本例では、予圧付与部材21aを、ラックストッパ20に対して固定せずに、ラックストッパ20とは別部品としている。
【0081】
図17~
図19に示すように、予圧付与部材21aは、弾性材製の本体部46と、本体部46よりも剛性の高い芯部47とから構成されている。
【0082】
芯部47は、鋼板などの十分な強度及び剛性を有する金属板を曲げ成形してなる。芯部47は、L字形の断面形状を有しており、円筒状の固定筒部48と、固定筒部48の軸方向他方側の端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった、折曲部49とを有する。なお、本発明を実施する場合に、芯部の材質は、本体部よりも剛性が高ければ良く、金属に限らず、硬質樹脂や硬質ゴムなどを採用することもできる。
【0083】
固定筒部48は、小径孔部30の内径よりもわずかに大きい外径を有しており、小径孔部30の内周面のうち、係合凹部32よりも開口側(軸方向他方側)に位置する部分に、圧入により内嵌されている。固定筒部48の軸方向寸法は、小径孔部30のうちで、係合凹部32から軸方向他方側に外れた部分の軸方向寸法よりも小さい。
【0084】
折曲部49は、円環板状に構成されており、ラックストッパ20を構成する内向鍔部43とほぼ同じ大きさの内径を有する。折曲部49の軸方向両側面は、予圧付与部材21aの中心軸に直交する仮想平面上に存在しており、互いに平行に配置されている。折曲部49は、軸方向他方側の側面に、内向鍔部43の軸方向一方側の側面に対して全周にわたり突き当てられる、芯部突き当て部50を有している。
【0085】
本体部46は、ゴムや合成樹脂などの弾性材製で、円環形状を有しており、芯部47に対して固定されている。本例では、本体部46は、芯部47に対して加硫接着(インサート成形)されている。つまり、本体部46を成形する工程と、本体部46を芯部47に接着する工程とを同時に行っている。そして、本体部46の外周面を、固定筒部48の内周面に対して全周にわたり接着固定し、かつ、本体部46の軸方向他方側の側面を、折曲部49の軸方向一方側の側面に対して全周にわたり接着固定している。このように本例では、弾性材製の本体部46を、L字形の断面形状を有する芯部47に対して接着固定しているため、接着面積を確保することができ、接着力を十分に確保できる。接着剤としては、たとえば、フェノール樹脂系やエポキシ樹脂系などの接着剤を用いることができる。本発明を実施する場合には、芯部に対する本体部の固定手段は、加硫接着に限らず、成形後の本体部を接着剤を用いて接着する、いわゆる後接着のほか、両面粘着テープを用いた貼着などの化学的接合手段を採用することもできるし、圧入やかしめなどの機械的接合手段を採用することもできる。
【0086】
本体部46は、自由状態で、略台形の断面形状を有する。また、本体部46は、軸方向に関してラックストッパ20から離れるほど径方向寸法が小さくなる、先細の断面形状を有する。
【0087】
本体部46は、自由状態で、テーパ面状の内周面を有している。このため、本体部46の内周面の母線形状は、予圧付与部材21aの中心軸に対して非平行である。本体部46の内周面は、軸方向に関して先端側に向かう(ラックストッパ20から離れる)ほど、内径が大きくなる方向に傾斜している。本体部46の内径は、内径が最も小さい部分において、折曲部49及び内向鍔部43の内径とほぼ同じであり、ラック軸18の外径よりも十分に大きい。
【0088】
本例の予圧付与部材21aは、固定筒部48を、小径孔部30の内周面のうち、係合凹部32よりも開口側(軸方向他方側)に位置する部分に圧入により内嵌し、かつ、折曲部49の軸方向他方側の側面に備えられた芯部突き当て部50に、ラックストッパ20を構成する内向鍔部43の軸方向一方側の側面を突き当てた状態で取り付けられる。これにより、本体部46は、軸方向に弾性変形し、ラックブッシュ19に対して軸方向一方側を向いた予圧を付与する。そして、ラックブッシュ19に備えられた係合鍔部40の軸方向一方側の側面を、係合凹部32の軸方向一方側の内側面に対して押し付ける。
【0089】
以上のような構成を有する本例の場合にも、予圧付与部材21aを構成する本体部46により、ラックブッシュ19に対して軸方向一方側を向いた予圧を付与することができるため、ラックブッシュ19の軸方向のがたつきを抑制することができる。
【0090】
本例では、予圧付与部材21aを、ラックストッパ20とは別体に構成しているため、予圧付与部材21aの取付作業(圧入作業)は、ラックストッパ20の取付作業(圧入作業)とは別に行う必要がある。ただし、予圧付与部材21aを、弾性材製の本体部46のみから構成するのではなく、弾性材製の本体部46を芯部47に固定することにより構成しているため、予圧付与部材21aの取付作業は、図示しない工具の先端部により、剛性の高い芯部47に備えられた芯部突き当て部50を押圧することによって容易に行うことができる。このため、本例の場合にも、ステアリングギヤユニット7の組立作業性を低下させずに済む。また、図示しない工具により剛性の高い芯部47を押圧するため、圧入荷重の検出を容易に行うことができ、異常検知を容易に行うこともできる。
【0091】
また、ラックストッパ20を中径孔部29に内嵌する際に、内向鍔部43の軸方向一方側の側面を折曲部49の芯部突き当て部50に突き当てることで、予圧付与部材21aの軸方向位置を適正な位置に規制することができる。このため、ラックブッシュ19に付与する予圧の大きさを適正な値に容易に規制できる。
【0092】
弾性材製の本体部46を剛性の高い芯部47に対して固定し、かつ、芯部47を小径孔部30に対して圧入により内嵌しているため、予圧付与部材21aが、ラック軸18に対して径方向に相対変位することを防止できる。したがって、本体部46の内周面が、ラック軸18の外周面に対して接触することに起因して、異音が発生することを防止できる。
【0093】
さらに、本体部46の内周面を、自由状態で、テーパ面状としているため、本体部46が弾性変形した状態においても、本体部46の内周面がラック軸18の外周面に当接することを防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0094】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0095】
本発明を実施する場合に、ラックブッシュ、ラックストッパ及び予圧付与部材のそれぞれ構造については、実施の形態の各例で説明した構造に限定されず、適宜変更することができる。具体的には、実施の形態の第1例では、予圧付与部材をラックストッパの軸方向側面に固定した構造を示したが、予圧付与部材の固定位置は特に限定されず、ラックストッパの形状に応じて適宜変更することができる。
【0096】
上述した実施の形態の各例では、ラック収容部のうちで、ピニオン軸から遠い側の開口部に、本発明を適用した場合について説明したが、ピニオン軸から近い側の開口部に、本発明を適用することもできるし、ラック収容部の両側の開口部に、本発明を適用することもできる。
【0097】
上述した実施の形態の各例では、本発明を、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、本発明は、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置に限らず、ラックアシスト式、ピニオンアシスト式、デュアルピニオン式などの各種の電動パワーステアリング装置に適用することができる。また、本発明は、電動パワーステアリング装置に限らず、油圧パワーステアリング装置、及び、マニュアルステアリング装置に適用することもできる。さらに、本発明は、ステアバイワイヤ式のステアリング装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0098】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングコラム
5a、5b 自在継手
6 中間シャフト
7 ステアリングギヤユニット
8 タイロッド
8a 球状部
9 電動アシスト装置
10 ギヤハウジング
11 トーションバー
12 出力シャフト
13 トルクセンサ
14 電動モータ
15 ウォーム減速機
16 ハウジング
17 ピニオン軸
18 ラック軸
19 ラックブッシュ
20 ラックストッパ
21、21a 予圧付与部材
22 弾性材付きラックストッパ
23 ラック収容部
24 ピニオン収容部
25 ラックガイド収容部
26a、26b 取付部
27 挿通孔
27a 本体孔部
27b 段付孔部
27c 段付孔部
28 大径孔部
29 中径孔部
30 小径孔部
31 段差面
32 係合凹部
33 第2の段差面
34 ラック歯
35 ねじ孔
36 球面継手
36a 軸部
36b ホルダ部
37 ブッシュ本体
37a 円筒面部
37b、37c テーパ面部
37d 凹部
38 弾性リング
39a、39b スリット
40 係合鍔部
41 係止凹溝
42 嵌合筒部
43 内向鍔部
44 突き当て部
45 ストッパ部
46 本体部
47 芯部
48 固定筒部
49 折曲部
50 芯部突き当て部
100 ステアリングギヤユニット
101 ハウジング
101a ラック収容部
101b ピニオン収容部
102 ピニオン軸
103 ラック軸
104 ラックブッシュ
105 球面継手
106 タイロッド
107 ブッシュ本体
107a 係合鍔部
107b 係止凹溝
108 弾性リング
109 係合凹部