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特開2022-163968メチレンマロネートを含有する硬化性組成物とその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163968
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】メチレンマロネートを含有する硬化性組成物とその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 222/14 20060101AFI20221020BHJP
   C04B 41/62 20060101ALI20221020BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221020BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08F222/14
C04B41/62
C08F2/44 C
C09D133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069133
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】池元 亘
(72)【発明者】
【氏名】河合 萌
【テーマコード(参考)】
4G028
4J011
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4G028CA01
4G028CD06
4J011AA05
4J011CA01
4J011PA23
4J011PA76
4J011PC02
4J011PC08
4J038CG151
4J038CH031
4J038CH041
4J038NA03
4J038NA08
4J038NA09
4J038PB05
4J038PC04
4J100AL44P
4J100AL49Q
4J100BC04Q
4J100CA04
4J100DA50
4J100FA03
4J100JA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】柔軟性を有する塗膜を形成することが可能な、メチレンマロン酸エステルを含有する硬化性組成物を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物(A)などからなる群より選ばれた一種以上の化合物と、数平均分子量が150~10000である炭化水素系化合物(C)を含む、硬化性組成物。

(式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、若しくは1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、R及びRは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表す、又はR及びRが一緒になって3~30個の炭素原子を有する2価の有機基を形成している。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物(A)及び下記式(II)で表される構造を有する化合物(B)からなる群より選ばれた一種以上の化合物と、数平均分子量が150~10000である炭化水素系化合物(C)を含む、硬化性組成物。
【化1】
(式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、若しくは1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、R及びRは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表す、又はR及びRが一緒になって3~30個の炭素原子を有する2価の有機基を形成している。)
【化2】
(式(II)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性組成物を含む、表面保護剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系材料は、強度や耐久性に優れた硬化物を与える。セメント系材料は建築構造物を構築する上で必要とされる材料である。建築構造物などのセメント系構造体は、二酸化炭素や塩化物イオンなどの劣化因子の侵入を防ぐことが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、セメント系構造体の表面の少なくとも一部を、下記式(I)で表されるジエステル化合物を含有する表面保護剤で被覆して、前記セメント系構造体への劣化因子の侵入を抑制する方法が開示されている。特許文献1には、上記表面処理剤でモルタル供試体を保護することにより、二酸化炭素や塩化物イオン等の劣化因子の侵入を抑制できることが開示されている。
【0004】
【化1】
【0005】
式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、若しくは1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、R及びRは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表す、又はR及びRが一緒になって3~30個の炭素原子を有する2価の有機基を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020-158756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、メチレンマロン酸エステルを含む表面処理剤が良好な劣化因子の侵入抑制効果を有することが知られているが、セメント系構造体がひび割れたときに、該ひび割れに追従するために、塗布膜の柔軟性を向上することについて、改善の余地があった。
【0008】
よって、本開示は、柔軟性を有する塗膜を形成することが可能な、メチレンマロン酸エステルを含有する硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。すなわち本開示の硬化性組成物とは、下記式(I)で表される化合物(A)及び下記式(II)で表される構造を有する化合物(B)からなる群より選ばれた一種以上の化合物と、数平均分子量が150~10000である炭化水素系化合物(C)を含む、硬化性組成物。
【0010】
【化2】
【0011】
(式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、若しくは1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、R及びRは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表す、又はR及びRが一緒になって3~30個の炭素原子を有する2価の有機基を形成している。)
【0012】
【化3】
【0013】
(式(II)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0014】
本開示の硬化性組成物によれば、良好な柔軟性を有する塗膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0016】
[本開示の硬化性組成物]
本発明の組成物は、下記式(I)で表される化合物(A)(単官能メチレンマロン酸エステルという場合もある)および/または下記式(II)で表される構造を有する化合物(B)(多官能メチレンマロン酸エステルという場合もある)と、柔軟性を付与する特性を有する化合物(C)を含有する。
【0017】
<化合物(A)>
本開示の硬化性組成物は、1種または2種以上の単官能メチレンマロン酸エステルを含むことができる。例えば、下記一般式(I)で表される化合物が例示される。
【0018】
【化4】
【0019】
(式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、若しくは1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、R及びRは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表す、又はR及びRが一緒になって3~30個の炭素原子を有する2価の有機基を形成している。)
式(I)において、R及びRの炭化水素基の炭素数としては、1~10個が好ましく、1~5個が好ましい。R及びRの具体例としては、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-ペンチル基(アミル基)、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、イソプロピル基、2-メチルブチル基、イソアミル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-エチル-2-メチルプロピル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、ネオノニル基、2-エチルヘプチル基、2-プロピルヘキシル基、2-ブチルペンチル基、イソデシル基、ネオデシル基、2-エチルオクチル基、2-プロピルヘプチル基、2-ブチルヘキシル基、イソウンデシル基、ネオウンデシル基、2-エチルノニル基、2-プロピルオクチル基、2-ブチルヘプチル基、2-ペンチルヘキシル基、イソドデシル基、ネオドデシル基、2-エチルデシル基、2-プロピルノニル基、2-ブチルオクチル基、2-ペンチルヘプチル基、イソトリデシル基、ネオトリデシル基、2-エチルウンデシル基、2-プロピルデシル基、2-ブチルオクチル基、2-ペンチルオクチル基、2-ヘキシルヘプチル基、イソテトラデシル基、ネオテトラデシル基、2-エチルドデシル基、2-プロピルウンデシル基、2-ブチルデシル基、2-ペンチルノニル基、2-ヘキシルオクチル基、イソペンタデシル基、ネオペンタデシル基、シクロヘキシルメチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0020】
式(I)において、R及びRは、少なくとも一方が水素原子であってもよく、両方が水素原子であってよい。なお、R及びRの両方が水素原子であることが好ましい。
【0021】
及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成している場合、2価の炭化水素基の炭素数としては、4~12個が好ましく、5~9個がより好ましい。2価の炭化水素基の具体例としては、1,3-プロピレン基、1、4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-へキシレン基、1,5-へキシレン基等が挙げられる。
【0022】
式(I)において、R及びRは、1価の有機基であり、そのような有機基としては、1価の炭化水素基、1価のヘテロ原子含有基が例示される。当該1価の炭化水素基、1価のヘテロ原子含有基は置換基を有していてもよい。上記置換基としては、アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、アジド基、シアノ基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、複素環基、エステル基、他の単量体の残基等が例示され、これらはさらに置換基で置換されていてもよい。R及びRの炭素数はそれぞれ1~30であり、1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10であることがさらに好ましい。R及びRが1又は2以上の置換基を有する場合には、置換基を含めた炭素数がそれぞれ上記炭素数の範囲であることが好ましい。R及びRの有する置換基の数に制限はないが、それぞれ5個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましく、1個又は2個であることが更に好ましい。1価のヘテロ原子含有基としては、ポリアルキレンオキシド基、ポリエステル基等が例示される。
【0023】
炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、脂肪族炭化水素基は、直鎖状脂肪族炭化水素基、分岐鎖状脂肪族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基のいずれであってもよい。また、脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。なお、芳香族炭化水素基は、芳香環を有する基であって、脂肪族部分を有していてもよく、脂環式炭化水素基は、環状の脂肪族炭化水素部分を有する基であって、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素部分を有していてもよい。
【0024】
直鎖の飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基(アミル基)、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基、n-ヘンイコシル基、n-ドコシル基等が挙げられる。
【0025】
分岐鎖の飽和炭化水素基としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-メチルブチル基、イソアミル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、tert-アミル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-メチルペンチル基、1-メチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、2-エチル-2-メチルプロピル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、イソオクチル基、1-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、ネオノニル基、1-エチルヘプチル基、1-プロピルヘキシル基、1-ブチルペンチル基、2-エチルヘプチル基、2-プロピルヘキシル基、2-ブチルペンチル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基、ネオデシル基、1-エチルオクチル基、1-プロピルヘプチル基、1-ブチルヘキシル基、2-エチルオクチル基、2-プロピルヘプチル基、2-ブチルヘキシル基、イソウンデシル基、sec-ウンデシル基、tert-ウンデシル基、ネオウンデシル基、1-エチルノニル基、1-プロピルオクチル基、1-ブチルヘプチル基、1-ペンチルヘキシル基、2-エチルノニル基、2-プロピルオクチル基、2-ブチルヘプチル基、2-ペンチルヘキシル基、イソドデシル基、sec-ドデシル基、tert-ドデシル基、ネオドデシル基、1-エチルデシル基、1-プロピルノニル基、1-ブチルオクチル基、1-ペンチルヘプチル基、2-エチルデシル基、2-プロピルノニル基、2-ブチルオクチル基、2-ペンチルヘプチル基、イソトリデシル基、sec-トリデシル基、tert-トリデシル基、ネオトリデシル基、1-エチルウンデシル基、1-プロピルデシル基、1-ブチルノニル基、1-ペンチルオクチル基、1-ヘキシルヘプチル基、2-エチルウンデシル基、2-プロピルデシル基、2-ブチルオクチル基、2-ペンチルオクチル基、2-ヘキシルヘプチル基、イソテトラデシル基、sec-テトラデシル基、tert-テトラデシル基、ネオテトラデシル基、1-エチルドデシル基、1-プロピルウンデシル基、1-ブチルデシル基、1-ペンチルノニル基、1-ヘキシルオクチル基、2-エチルドデシル基、2-プロピルウンデシル基、2-ブチルデシル基、2-ペンチルノニル基、2-ヘキシルオクチル基、イソペンタデシル基、sec-ペンタデシル基、tert-ペンタデシル基、ネオペンタデシル基、イソヘキサデシル基、sec-ヘキサデシル基、tert-ヘキサデシル基、ネオヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、sec-ヘプタデシル基、tert-ヘプタデシル基、ネオヘプタデシル基、イソオクタデシル(イソステアリル)基、sec-オクタデシル基、tert-オクタデシル基、ネオオクタデシル基、イソノナデシル基、sec-ノナデシル基、tert-ノナデシル基、ネオノナデシル基、イソイコシル基、sec-イコシル基、tert-イコシル基、ネオイコシル基、イソヘンイコシル基、sec-ヘンイコシル基、tert-ヘンイコシル基、ネオヘンイコシル基、イソドコシル基、sec-ドコシル基、tert-ドコシル基、ネオドコシル基、イソトリコシル基、sec-トリコシル基、tert-トリコシル基、ネオトリコシル基、イソテトラコシル基、sec-テトラコシル基、tert-テトラコシル基、ネオテトラコシル基、イソペンタコシル基、sec-ペンタコシル基、tert-ペンタコシル基、ネオペンタコシル基、イソヘキサコシル基、sec-ヘキサコシル基、tert-ヘキサコシル基、ネオヘキサコシル基、イソヘプタコシル基、sec-ヘプタコシル基、tert-ヘプタコシル基、ネオヘプタコシル基、イソオクタコシル基、sec-オクタコシル基、tert-オクタコシル基、ネオオクタコシル基、イソノナコシル基、sec-ノナコシル基、tert-ノナコシル基、ネオノナコシル基、イソトリアコンチル基、sec-トリアコンチル基、tert-トリアコンチル基等が挙げられる。
【0026】
脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0027】
不飽和炭化水素基としては、直鎖アルケニル基、又は分岐鎖アルケニル基が挙げられ、直鎖アルケニル基としては、具体的には、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0028】
分岐鎖アルケニル基としては、イソプロペニル基、イソブテニル基、イソペンテニ)基、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソドデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基等が挙げられる。
【0029】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基;ナフチル基;ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、等のアラルキル基;スチリル基(Ph-CH=C-基);シンナミル基(Ph-CH=CHCH2-基);1-ベンゾシクロブテニル基;1,2,3,4-テトラヒドロナフチル基、ジスチレン化フェニル基などが挙げられる。
【0030】
及びRが一緒になって3~30個の炭素原子を有する2価の有機基を形成している場合、2価の有機基の炭素数としては、3~10個が好ましく、3~6個がより好ましい。また、2価の有機基としては、2価の炭化水素基が挙げられ、2価の炭化水素基の具体例としては、2,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、1、4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-へキシレン基、1,5-へキシレン基等が挙げられる。当該2価の有機基は、3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基の一つ以上の水素原子が置換基に置換された基であってもよい。置換基としては、上述のR及びRが一価の有機基である場合に例示した置換基を挙げることができる。当該2価の有機基は、置換基を1~5個以下有すると好ましく、1~3個有するとより好ましい。
【0031】
2価の有機基は、2価のヘテロ原子含有基であってもよく、2価のヘテロ原子含有基としては、ポリアルキレンオキシド基、ポリエステル基等が例示される。
式(I)で表される化合物(A)(単官能メチレンマロン酸エステルという場合もある)としては、メチレンマロン酸メチルプロピル、メチレンマロン酸ジ-n-ヘキシル、メチレンマロン酸ジシクロヘキシル、メチレンマロン酸ジイソプロピル、メチレンマロン酸ブチルメチル、メチレンマロン酸エトキシエチルエチル、メチレンマロン酸メトキシエチルメチル、メチレンマロン酸ヘキシルエチル、メチレンマロン酸ジ-n-ペンチル、メチレンマロン酸エチルペンチル、メチレンマロン酸メチルペンチル、メチレンマロン酸エチルエチルメトキシル、メチレンマロン酸エトキシエチルメチル、メチレンマロン酸ブチルエチル、メチレンマロン酸ジ-n-ブチル、メチレンマロン酸ジエチル(DEMM)、メチレンマロン酸ジエトキシエチル、メチレンマロン酸ジメチル、メチレンマロン酸ジ-n-プロピル、メチレンマロン酸エチルヘキシル、メチレンマロン酸フェンキルメチル、メチレンマロン酸メンチルメチル、メチレンマロン酸2-フェニルプロピルエチル、メチレンマロン酸3-フェニルプロピル、メチレンマロン酸ジメトキシエチル、メチレンマロン酸ジ-n-ヘプチル、メチレンマロン酸ジ-n-オクチル、メチレンマロン酸ジ-n-ノニル、メチレンマロン酸ジ-n-デシル等が挙げられる。これらの中でも、メチレンマロン酸ジ-n-ヘキシル、メチレンマロン酸ジシクロヘキシルが好ましい。
硬化性組成物における式(I)で表される化合物(A)の含有量としては、特に制限されないが、硬化性組成物の総質量に対して、50質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0032】
式(I)で表される化合物(A)としては、以下の(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす第1の単官能メチレンマロン酸エステルが好ましい。硬化性組成物が、第1の単官能メチレンマロン酸エステルを含むことにより、硬化性組成物をセメント系成形体もしくはセメント系構造体に塗布した際の硬化速度が大きくなる傾向がある。なお、以下では、単官能メチレンマロン酸エステルについて、ホモポリマーのガラス転移温度を単にTgとも呼ぶ。
(1)ホモポリマーのガラス転移温度が30℃未満である。
(2)R及びRが、それぞれ独立に3~30個の炭素原子を有する1価の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
【0033】
(1)の条件について、第1の単官能メチレンマロン酸エステルのTgは、25℃以下であると好ましく、20℃以下であるとより好ましく、10℃以下であると更に好ましく、0℃以下であると特に好ましい。なお、ホモポリマーのガラス転移点は、例えば、示差熱量測定(DSC)、示差熱分析(DTA)、熱機械分析(TMA)等により測定することができる。
【0034】
(2)の条件について、R及びRのアルキル基が有する炭素数としては、3~12個が好ましく、4~10個が好ましく、5~10個が更に好ましい。
【0035】
第1の単官能メチレンマロン酸エステルとしては、メチレンマロン酸ジ-n-ブチル、メチレンマロン酸ジ-n-ペンチル、メチレンマロン酸ジ-n-ヘキシル、メチレンマロン酸ジ-n-ヘプチル、メチレンマロン酸ジ-n-オクチル、メチレンマロン酸ジ-n-ノニル、メチレンマロン酸ジ-n-デシル等が挙げられる。
【0036】
硬化性組成物における第1の単官能メチレンマロン酸エステルの含有量は、特に制限されないが、硬化性組成物の総量に対して、30質量%以上であると好ましく、40質量%以上であると更に好ましい。また、硬化性組成物における第1の単官能メチレンマロン酸エステルの含有量としては、硬化性組成物の総量に対して、95質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0037】
式(I)で表される化合物(A)としては、第1の単官能メチレンマロン酸エステルと共にホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上である第2の単官能メチレンマロン酸エステルを併用してもよい。第1の単官能メチレンマロン酸エステルと第2の単官能メチレンマロン酸エステルとを併用することにより、塗膜のタック性が小さくなり取り扱いが容易となる。
【0038】
第2の単官能メチレンマロン酸エステルのTgとしては、80℃以上であると好ましく、100℃以上であるとより好ましい。また、第2の単官能メチレンマロン酸エステルの含有量は、硬化性組成物の総量に対して、30~70質量%であると好ましく、40~60質量%であると更に好ましい。
【0039】
第2の単官能メチレンマロン酸エステルとしては、式(I)のR及びRとして、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を有するものが挙げられ、具体的には、メチレンマロン酸フェンチルエチル、メチレンマロン酸メンチルエチル、メチレンマロン酸フェニルプロピルメチル、メチレンマロン酸フェニルプロピルエチル、メチレンマロン酸ジシクロヘキシル等が挙げられる。
【0040】
<化合物(B)>
本開示の硬化性組成物は、1種または2種以上の多官能メチレンマロン酸エステルを含むことができる。例えば、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が例示される。
下記一般式(II)で表される構造を有する化合物(B)は、分子内に以下の式(II)で表される構造単位を二つ以上含む。二つ以上の当該構造単位が多価アルコールの残基で連結された多官能メチレンマロン酸エステル化合物等が挙げられる。当該多価アルコールの残基は、多価アルコールからn個(当該多価アルコールによって連結される式(I)で表される化合物(A)のジエステル化合物の残基の個数)の水酸基を取り除いたn価の有機基である。
【0041】
【化5】
【0042】
(式(II)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は1~15個の炭素原子を有する一価の炭化水素基である。)
上記多官能メチレンマロン酸エステル化合物は、式(I)で表されるジエステル化合物と、多価アルコールとの間でエステル交換反応が起こる条件下で反応させた反応生成物であってよい。そのため、R及びRの具体例としては、上述の式(I)におけるR1及びR2として例示したものが挙げられる。
【0043】
多価アルコールとしては、2価アルコール、3価以上のアルコールが挙げられる。2価アルコールとしては、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコールが挙げられ、それぞれ、2~30の炭素原子を有することが好ましく、2~20の炭素原子を有することがより好ましく、2~15の炭素原子を有することが更に好ましく、2~10の炭素原子を有することが特に好ましい。3価以上のアルコールの炭素数は、3~30であることが好ましく、3~20であることがより好ましく、3~15であることが更に好ましく、3~10であることが特に好ましい。上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ブチルエチル-1,3-プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール等の2価のアルコール; グリセリン、ポリグリセリン、グリセリンにアルキレングリコールを付加した化合物、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリスリトール等の3価以上のアルコールなどが例示される。
上記多価アルコールとしては、分子量が400以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、50以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましい。
【0044】
上記多官能メチレンマロン酸エステル化合物としては、例えば、以下の式(IIA)又は(IIB)の構造のものが挙げられる。
【0045】
【化6】
【0046】
(式(IIA)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、1~15個の炭素原子を有する炭化水素基、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、Rは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表し、nは、式(IIA)の化合物に含まれる括弧内の構造単位の個数を表し、2以上の数を表し、R15はn価の有機基を表し、複数あるRは互いに同一であっても、異なっていてもよく、複数あるR6は互いに同一であっても、異なっていてもよく、複数あるRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。)
【0047】
【化7】
【0048】
(式(IIB)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、1~15個の炭素原子を有する炭化水素基、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、Rは1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表し、nは、式(IIA)の化合物に含まれる括弧内の構造単位の個数を表し、2以上の数を表し、R16は2価の有機基を表し、R17は、一価の有機基であり、好ましくは水酸基、又は下記式(III)で表される基であり、複数あるRは互いに同一であっても、異なっていてもよく、複数あるRは互いに同一であっても、異なっていてもよく、複数あるR16は互いに同一であっても、異なっていてもよい。R17は、式(I)で表される化合物からRを除いた残基であってよい。)
【0049】
【化8】
【0050】
(式(III)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、1~15個の炭素原子を有する炭化水素基、又はR及びRが一緒になって3~15個の炭素原子を有する2価の炭化水素基を形成しており、Rは、それぞれ独立に1~30個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。)
式(IIA)において、R15はn価の有機基であり、2価以上の有機基であるが、例えばポリオールから2以上の水酸基を除いた残基である。ポリオールとしては、グリセリン、ポリグリセリン、グリセリンにアルキレングリコールを付加した化合物、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリスリトール等が例示される。nの上限は特に限定されないが、100以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。R15の炭素数はそれぞれ1~30であることが好ましく、1~20であることがより好ましく、1~15であることがさらに好ましく、1~10であることが特に好ましい。
【0051】
式(IIB)において、R16は2価の有機基であり、特に制限されないが、炭素数1~30の有機基であることが好ましい。好ましくは、ジオールから2個の水酸基を除いた残基、ポリアルキレングリコールから2個の水酸基を除いた残基等が例示される。上記ジオール又はポリアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ブチルエチル-1,3-プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が例示される。R16の炭素数はそれぞれ1~30であることが好ましく、1~20であることがより好ましく、1~15であることがさらに好ましく、1~10であることが特に好ましい。
【0052】
式(IIA)、(IIB)及び(III)では、それぞれR及びRは、少なくとも一方が水素原子であってもよく、両方が水素原子であってよい。なお、式(IIA)、(IIB)及び(III)では、それぞれR及びRの両方が水素原子であることが好ましい。
上記多官能メチレンマロン酸エステル化合物の含有量は、硬化性組成物総量に対して、30~70質量%であると好ましく、40~60質量%であると更に好ましい。
【0053】
なお、第1及び第2の単官能メチレンマロン酸エステルと多官能メチレンマロン酸エステル化合物を併用する場合、多官能メチレンマロン酸エステル化合物の含有量は、硬化性組成物の総量に対して1~20質量%であると好ましく、2~15質量%であるとより好ましい。この場合、第1及び第2のジエステル化合物の含有量は、硬化性組成物の総量に対して、それぞれ30~70質量%であると好ましく、40~60質量%であると更に好ましい。
【0054】
<化合物(C)>
本開示の硬化性組成物は、炭化水素系化合物を1種または2種以上含むことができる。本開示において、炭化水素系化合物には、炭化水素および炭化水素の少なくとも1つの水素原子が置換基に置き換わった構造を有する化合物(置換基を有する炭化水素ともいう)を含む。
置換基を有する炭化水素とは、炭化水素に少なくとも1つの置換基を有する化合物であれば特に制限されない。置換基の数は1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。置換基が結合される部位は特に限定されず、末端であっても、末端から離れた部位にあってもよい。
【0055】
本開示の炭化水素系化合物(C)の数平均分子量は、150以上であることが好ましく、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは300以上である。また、本開示の硬化性組成物における化合物(C)の数平均分子量は、10000以下であることが好ましく、より好ましくは5000以下であり、さらに好ましくは3000以下である。
【0056】
化合物(C)は、脂肪族炭化水素系化合物および芳香族炭化水素系化合物が挙げられ、脂肪族炭化水素系化合物が好ましい。脂肪族炭化水素系化合物としては、直鎖状、分岐状、及び脂環式のいずれであってもよいが、好ましくは、直鎖状と分岐状である。脂肪族炭化水素系化合物としては、飽和脂肪族炭化水素系化合物であっても、不飽和脂肪族炭化水素系化合物であってもよいが、好ましくは、飽和脂肪族炭化水素系化合物である。
【0057】
飽和脂肪族炭化水素系化合物としては、特に限定されないが、n-ペンタン、n-ヘキサン、デカン、ペンタデカン、エイコサン、トリアコンタン、テトラコンタン、ペンタコンタン、ヘキサコンタン、ヘクタン等が挙げられる。
【0058】
炭化水系化合物としては、重合体であってもよく、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン共重合体、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレンなどの他、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体およびそれらの水添物などのブロック共重合体などが挙げられる。
【0059】
置換基を有する炭化水素に含まれる置換基の種類は特に限定されず、アルキル基、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、ヒドロキシ基、芳香族ヒドロキシ基、チオール基、芳香族チオール基、オキサゾリン基、エポキシ基、アジリジン基、イソシアネート基、カルボジイミド基等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシ基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基である。透明性が向上する傾向にある。
【0060】
本開示の硬化性組成物における化合物(C)の含有量は、硬化性組成物の総量に対して、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、本開示の硬化性組成物における化合物(C)の含有量は、硬化性組成物の総量に対して、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。1質量%未満であれば、伸び性が付与できず、50質量%を超えれば、硬度や強度物性が劣る傾向にある。
【0061】
本開示の硬化性組成物には、上述した各成分以外に、他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、アニオン重合禁止剤、ラジカル重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、溶剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、赤外線吸収剤、重合開始剤、離型剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、フィラー、難燃剤、粘着付与剤、ワックス、導電剤、可塑剤、改質剤、チクソトロピック付与剤など等が挙げられる。
【0062】
例えば、アニオン重合禁止剤、ラジカル重合禁止剤や酸化防止剤等が挙げられる。アニオン重合禁止剤としては水中での酸解離定数が2以下である酸が好ましく、具体的には例えば、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、亜硫酸、リン酸、トルフルオロ酢酸などが挙げられる。貯蔵安定性と反応性のバランスを取る観点から、硬化性組成物の総量に対して、適宜調整できるが、硬化性組成物の総量に対して、0.1~2000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは1~1000質量ppmである。ラジカル重合禁止剤、酸化防止剤としては、着色抑制の観点からヒンダードフェノール類、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
【0063】
例えば、分散剤としては、種類は特に限定されず、硬化性組成物における、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)などの凝集を避け、安定化することができる。例えば、エフカアディティブズ社製のEFKAシリーズ、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズ、日本ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)シリーズ、楠本化成社製のディスパロン(登録商標)シリーズ、味の素ファインテクノ社製のアジスパー(登録商標)シリーズ、信越化学工業社製のKPシリーズ、共栄社化学社製のポリフローシリーズ、ディーアイシー社製のメガファック(登録商標)シリーズ、サンノプコ社製のディスパーエイドシリーズ等を用いることができる。貯蔵安定性と反応性のバランスを取る観点から、硬化性組成物の総量に対して、適宜調整できるが、硬化性組成物の総量に対して、0.00005~50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.0001~40質量%である。
【0064】
[本開示の硬化性組成物の用途]
本開示の硬化性組成物は、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、接着剤、粘着剤、インク、プライマー、保護コーティング剤、シーリング剤、建築塗料、自動車塗料など、が挙げられる。
【0065】
[本開示の表面保護剤]
<被覆工程>
本開示の表面保護方法は、セメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面の少なくとも一部を、本開示の表面保護剤で被覆する工程(以下、「被覆工程」とも言う)を備える。
【0066】
セメント系成形体の表面の少なくとも一部を、本開示の表面保護剤で被覆することにより、セメント系成形体の表面からの水分の散逸を効果的に抑止することが可能となるため、ひび割れ等の欠陥の少ない被膜付きセメント系構造体を得やすい。
【0067】
また、セメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面の少なくとも一部を、本開示の表面保護剤で被覆することにより、セメント系成形体又はセメント系構造体への劣化因子の侵入を抑制することが可能となる。なお、劣化因子とは、例えば、セメント系成形体又はセメント系構造体の中性化、塩害、凍害、化学的浸食、アルカリ骨材反応の原因となる物質であり、具体的には、二酸化炭素、塩化物イオン、酸、アルカリ、硫酸塩、水等が挙げられる。
【0068】
上記被覆工程は、特に限定されないが、セメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面に、本開示の表面保護剤を塗布、吹付け、もしくは印刷等したり、本開示の表面保護剤にセメント系成形体もしくはセメント系構造体を含侵したりすることにより実施してもよい。好ましくは、セメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面に、本開示の表面保護剤を塗布することが好ましい。被覆工程は、1回だけ実施しても良く、2回以上実施しても良い。
【0069】
表面保護剤の使用量は、特に制限はないが、セメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面に対し、50~500g/mであると好ましく、50~300g/m2であるとより好ましく、50~200g/mであると更に好ましい。
【0070】
<硬化工程>
単官能メチレンマロン酸エステルおよび多官能メチレンマロン酸エステルは、セメント系成形体表面のSi-O-基や、水酸化カルシウム等の作用により、被覆後、自発的に重合反応を開始する傾向にある(以下、「硬化工程」ともいう)。Si-O-基の作用により、アニオン重合反応が起こった場合は、単官能メチレンマロン酸エステルおよび/または多官能メチレンマロン酸エステルに由来する構造単位を含む重合体は、セメント系成形体の表面のSi-O-基と共有結合した構造となる。言い換えれば、被膜とセメント系成形体との間に共有結合が形成されるため、より密着性及び耐久性の高い被膜が得られる傾向にある。
【0071】
<乾燥工程>
本開示の表面保護剤をセメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面に塗工などして被覆した後、被膜(塗膜)の硬化を促進するために加熱を行ってもよい。加熱温度は、100℃以下であることが好ましく、室温(25℃)より大きいことが好ましい。加熱温度が100℃以下であると、副反応等を抑制しながら、硬化時間を短縮できる傾向にある。
【0072】
<養生工程>
セメント系成形体の表面の少なくとも一部を、本開示の表面保護剤で被覆した場合、すなわち本開示の表面保護剤を養生剤として使用する場合(「本開示の養生剤」とも言う)、セメント系成形体を得る方法としては、特に制限されず、公知の方法により打設を行うことにより得ることができる。例えば、コンクリート打設用の型枠にセメント組成物を流し込み、セメント系組成物を硬化させる方法が挙げられる。鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリート等を得る場合には、型枠内の所定の位置に鉄筋等の芯材を配置してから打設を行ってよい。
【0073】
脱型後、得られたセメント系成形体に養生を行う。セメント系成形体には、養生前に水中養生等の初期養生を行ってもよい。本開示の養生剤は、セメント系成形体の全面に塗布することが好ましいが、少なくとも一部の面のみに塗布し、塗布しなかった面を養生シート等で覆うことにより水分の散逸を防いでもよい。なお、養生前にセメント系成形体の表面に荒均し締固め、定規ずり等を行って表面を均してもよい。また、養生は、セメント系成形体を脱型せずに行ってもよい。
【0074】
本開示の養生剤の塗布量としては、上記のとおり特に制限はないが、セメント系成形体もしくはセメント系構造体の表面に対し、50~500g/mであると好ましく、50~300g/m2であるとより好ましく、50~200g/mであると更に好ましい。
【0075】
セメント系成形体の表面の少なくとも一部を、本開示の養生剤で被覆して、養生時のセメント系成形体の収縮を低減することができる。セメント系成形体の収縮低減率は、材齢6週間(42日経過)時点で23%以上であると好ましく、25%以上であると好ましい。また、セメント系成形体の表面の少なくとも一部を、本開示の養生剤で被覆して、養生時のセメント系成形体の乾燥を抑制することができる。乾燥の抑制は、養生時のセメント系成形体の質量の継時変化(質量変化率)により評価することができる。質量変化率は、材齢6週間(42日経過)時点で2.0%以下であると好ましい。なお、収縮低減率及び質量変化率は、実施例に記載した方法により測定する。
【0076】
<被膜付きセメント系構造体>
本開示の養生剤でセメント系成形体の表面を被覆した後に、セメント系成形体を養生することにより、または、本開示の表面保護剤でセメント系構造体を被覆することにより、被膜付きセメント系構造体が得られる。本開示の被膜付きセメント系構造体は、セメント系構造体と、当該セメント系構造体の表面の少なくとも一部を被覆する被膜を備える。被膜は、上記養生剤の硬化物を含む。なお、セメント系構造体は、養生後のセメント系成形体である。本開示の被膜付きセメント系構造体は、建築構造物等の建築材料等に使用することができる。
【0077】
また、本開示の養生剤でセメント系成形体の表面を被覆した後に、または、本開示の表面保護剤でセメント系構造体を被覆した後に、当該被膜が硬化した被膜が形成される。当該硬化した被膜は、単官能メチレンマロン酸エステルおよび/または多官能メチレンマロン酸エステルが重合した重合体(つまり、単官能メチレンマロン酸エステルおよび/または多官能メチレンマロン酸エステルに由来する構造単位を含む重合体)を含むため、被膜の強度及び耐久性が高くなる傾向がある。また、本開示の養生剤、および本開示の表面保護剤は消泡性に優れるため、基材がひび割れなどした際においても追従性を有し、外観にも優れた塗膜を形成することが可能となる。
【実施例0078】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0079】
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分子量分布(Mw/Mn)>
テトラヒドロフランで溶解・希釈し、孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置、及び条件で測定した。
装置:HLC-8420GPC(東ソー株式会社製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
分離カラム:TSKgel SuperMultipore HZ-N
(東ソー株式会社製)(2本直列)
<引張試験>
JIS規格準拠(JIS K 6251)の引張3号形ダンベル状の試験片を用いて下記の条件で測定した。
装置:オートグラフ AG-X plus(株式会社島津製作所社製)
温度:23±2℃
湿度:50±5%RH
チャック間距離:60mm
標線間距離:20mm
引張速度:20mm/min
伸び率:(%)=(破断時の標線間距離-試験前の標線間距離)/(試験前の標線間距離)×100
<実施例1>
ジヘキシルメチレンマロネート(以下DHMM)45質量部、ジシクロヘキシルメチレンマロネート(以下DCHMM)45質量部に対して、GI-1000(日本曹達株式会社製)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0080】
<実施例2>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、GI-3000(日本曹達株式会社製)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0081】
<実施例3>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、G-1000(日本曹達株式会社製)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0082】
<実施例4>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、日石ポリブテン LV-7(JXTGエネルぎー株式会社)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0083】
<実施例5>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、日石ポリブテン HV-300(JXTGエネルギー株式会社)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0084】
<実施例6>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、B-1000(日本曹達株式会社製)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0085】
<実施例7>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、BI-3000(日本曹達株式会社製)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0086】
<実施例8>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、Poly ip(出光興産株式会社)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0087】
<実施例9>
DHMM49.5質量部、DCHMM49.5質量部に対して、GI-1000(日本曹達株式会社製)を1質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0088】
<実施例10>
DHMM40質量部、DCHMM40質量部に対して、GI-1000(日本曹達株式会社製)を20質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。なお、「破断時の標線間距離」は、上記装置での測定範囲外のため、定規を用いて測定した。
【0089】
<比較例1>
DHMM50質量部、DCHMM50質量部を攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0090】
<比較例2>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、C-1090(株式会社クラレ)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0091】
<比較例3>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、P-1010(株式会社クラレ)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0092】
<比較例4>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、PTMG1000(三菱ケミカル株式会社)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0093】
<比較例5>
DHMM45質量部、DCHMM45質量部に対して、2-エチルヘキサノール(東京化成工業株式会社)を10質量部配合し、攪拌混合した。得られた組成物の総質量に対して5質量部のディスパロンBB-102を添加し、攪拌混合することで本開示の硬化性組成物を製造した。硬化性組成物に対して、アニオン重合開始剤であるジメチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社)0.5質量部を混合した塗膜用反応液を基材(PE)に塗布し、25℃で24時間養生させることにより塗膜を作製した。この塗膜からJIS規格準拠(JIS K 6251)の打ち抜き刃を用いて引張3号形ダンベル状の試験片を作成し、上記引張試験を実施した。
【0094】
【表1】
【0095】
以上より、本開示の硬化性組成物から得られた塗膜は、良好な柔軟性を有することが明らかとなった。