(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163981
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】多孔質吸着体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20221020BHJP
B32B 5/32 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08J9/26 101
C08J9/26 CEQ
B32B5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069149
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】影山 伴廣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠人
(72)【発明者】
【氏名】小田木 俊
(72)【発明者】
【氏名】横井 寛
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
4F074AA06
4F074AC02
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4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】平滑面に対して着脱自在に貼付可能で、強い吸着力を有する吸着体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】無数の微小孔が形成された吸着面22を有する多孔質吸着体1であって、吸着面22における開口部231の面積比が10~40%であることを特徴とする多孔質吸着体1及びその製造方法とする。吸着面22は、開口部231の一部同士が繋がって形成された長径75μm以上の連続開口部と、前記連続開口部を含まない平滑部とを有し、前記平滑部は、ISO25178に準拠し前記平滑部を計測領域として測定されるコア部のレベル差Skが8.5μm以下であることが好ましく、さらにSkが3.0μm以下であることがより好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無数の微小孔が形成された吸着面を有する多孔質吸着体であって、
前記吸着面における開口部の面積比が10~40%であることを特徴とする多孔質吸着体。
【請求項2】
前記吸着面は、前記開口部の一部同士が繋がって形成された長径75μm以上の連続開口部と、前記連続開口部を含まない平滑部とを有し、
前記平滑部は、ISO25178に準拠し前記平滑部を計測領域として測定されるコア部のレベル差Skが8.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質吸着体。
【請求項3】
前記平滑部は、ISO25178に準拠し前記平滑部を計測領域として測定されるコア部のレベル差Skが3.0μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の多孔質吸着体。
【請求項4】
前記平滑部は、コア部の下限より深い凹部1個当たりの平均面積が110μm2以下である請求項2または3のいずれかに記載の多孔質吸着体。
【請求項5】
ゴム素材で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の多孔質吸着体。
【請求項6】
2種類以上の多孔質体が積層されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の多孔質吸着体。
【請求項7】
前記吸着面を備えた第1の層と、第1の層に加硫接着された第2の層とを備え、第1の層は第2の層より孔径が小さく、各層の孔が互いに連通していることを特徴とする請求項6に記載の多孔質吸着体。
【請求項8】
孔が可溶性粉末の溶出孔であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の多孔質吸着体。
【請求項9】
C型硬度計で測定された第1の層の硬度が第2の層より15以上高いことを特徴とする請求項7または8のいずれかに記載の多孔質吸着体。
【請求項10】
第1の層の孔径が5~100μmであり、第2の層の孔径が100~300μmであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の多孔質吸着体。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれかに記載の多孔質吸着体の製造方法であって、未加硫ゴムまたは樹脂に水またはその他の溶剤で溶解除去できる可溶性粉末を捏和してマスターバッチとし、前記マスターバッチをシート化して加熱・加圧した後、前記可溶性粉末を洗浄、除去することを特徴とする多孔質吸着体の製造方法。
【請求項12】
請求項6乃至10のいずれかに記載の多孔質吸着体の製造方法であって、第1のマスターバッチと、第1のマスターバッチに用いた前記可溶性粉末より粒度の大きい可溶性粉末を捏和した第2のマスターバッチとを、それぞれシート化し積層した後、前記可溶性粉末を洗浄、除去することを特徴とする請求項9に記載の多孔質吸着体の製造方法。
【請求項13】
前記マスターバッチの素材を未加硫ゴムとすることを特徴とする請求項11または12に記載の多孔質吸着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に対して吸着性を有する多孔質吸着体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着剤等の粘着部材を用いることなく、物体に対して着脱自在に吸着させることができるシート状の吸着部材が、様々な用途に利用されている。例えば、特許文献1~3に記載されているように、表面に形成された微細孔の吸盤効果によって物体へ吸着可能とした多孔質のシート状部材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-171054号公報
【特許文献2】特開2002-363330号公報
【特許文献3】特開平04-45189号公報
【0004】
特許文献1には、アクリル系樹脂を発泡させて形成した発泡成形層の表面を切断または切削により除去して吸盤層表面を形成した吸着積層体が記載されている。特許文献2には、アクリル系樹脂を含有するエマルジョンに気体を圧入し、通気性の低いシートの表面に塗布して加熱することで得られ、シート面側から吸着面側に向かって気泡径が小さくなる構造を有しているアクリル系フォームシートが記載されている。特許文献3には、微多孔が形成されていない部分の表層が凹凸6μm以下の平滑部とされている樹脂製の微多孔質膜が記載されている。
【0005】
粘着部材を用いることなく物体に対して着脱自在に貼付可能な吸着部材は、吸着面に粘着跡や傷を残さないという利点を持つことから、その活用範囲は多岐にわたる。特許文献1~3に記載の吸着部材は上記の利点を有しているが、一方でその吸着力は必ずしも強いものではなく、主にポスターやステッカー、カーペットの滑り止め等に利用され、紙やフィルム等の比較的軽量な部材を支持することが可能な程度のものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件の発明者は、この問題について鋭意検討することにより、解決を試みた。本発明が解決しようとする課題は、物体に対して着脱自在に貼付可能で、強い吸着力を有する吸着体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、無数の微小孔が形成された吸着面を有する多孔質吸着体であって、前記吸着面における開口部の面積比が10~40%であることを特徴とする多孔質吸着体とする。
【0008】
また、前記吸着面は、前記開口部の一部同士が繋がって形成された長径75μm以上の連続開口部と、前記連続開口部を含まない平滑部とを有し、前記平滑部は、ISO25178に準拠し前記平滑部を計測領域として測定されるコア部のレベル差Skが8.5μm以下であることが好ましく、さらに、Skが3.0μm以下であることがより好ましい。
【0009】
また、前記平滑部は、コア部の下限より深い凹部1個当たりの平均面積が110μm2以下であることが好ましい。
【0010】
また、多孔質体がゴム素材で形成されていることが好ましい。
【0011】
また、2種類以上の多孔質体が積層されている構成とすることが好ましい。
【0012】
また、前記平滑部を備えた第1の層と、第1の層に加硫接着された第2の層とを備え、第1の層は第2の層より孔径が小さく、各層の孔が互いに連通していることが好ましい。
【0013】
また、孔が可溶性粉末の溶出孔であることが好ましい。
【0014】
また、C型硬度計で測定された第1の層の硬度が第2の層より15以上高いことが好ましい。
【0015】
また、第1の層の孔径が5~100μmであり、第2の層の孔径が100~300μmであることが好ましい。
【0016】
未加硫ゴムまたは樹脂に水またはその他の溶剤で溶解除去できる可溶性粉末を捏和してマスターバッチとし、前記マスターバッチをシート化して加熱・加圧した後、前記可溶性粉末を洗浄、除去することを特徴とする多孔質吸着体の製造方法とする。
【0017】
また、第1のマスターバッチと、第1のマスターバッチに用いた前記可溶性粉末より粒度の大きい可溶性粉末を捏和した第2のマスターバッチとを、それぞれシート化し積層した後、前記可溶性粉末を洗浄、除去することを特徴とする多孔質吸着体の製造方法とすることが好ましい。
【0018】
また、前記マスターバッチの素材を未加硫ゴムとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、物体に対して着脱自在に貼付可能で、強い吸着力を有する吸着体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態の多孔質吸着体の断面を表す模式図である。
【
図3】第2の実施形態の多孔質吸着体の断面を表す模式図である。
【
図4】第2の実施形態の多孔質吸着体の断面を撮影した電子顕微鏡写真(倍率:500倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下に発明を実施するための形態を示す。
図1に示されるように、第1の実施形態の多孔質吸着体1は、無数の微小孔である小径孔23が形成された吸着面22を有し、被着物の平滑な面である被着面9に対して着脱自在に吸着可能な多孔質体である。
【0022】
(吸着原理)
多孔質吸着体1が平滑な被着面9に吸着する原理について説明する。前述したように、多孔質吸着体1の吸着面22には、微小孔である小径孔23が無数に開口している。多孔質吸着体1が吸着面22の反対側の方向から押圧され被着面9に押し付けられると、小径孔23がつぶされて被着面9に密着し前記小径孔23内の空気が抜ける。押圧が解除されて前記小径孔23が元の形状に復帰すると前記小径孔23内の空間が負圧状態となり吸盤の役割を果たすので、多孔質吸着体1を被着面9に吸着させることができる。また、吸着させた多孔質吸着体1は平滑面に跡残りすることなく剥離することができる。これらは公知のマイクロ吸盤の吸着原理と同じである。
【0023】
本発明者らは、吸着力の強い多孔質吸着体1を得るために検討を重ねた結果、吸着面22において小径孔23によって形成される開口部231の面積比が、多孔質吸着体1の吸着力の強さと関係していることを見出した。実施形態では、吸着面22における開口部231の面積比を算出するにあたり、開口部231を、ISO25178に準拠して測定されるコア部の下限レベルより深い谷部と規定した。
【0024】
(コア部及びコア部のレベル差Skについて)
本発明の実施形態において、コア部及びコア部のレベル差Skとは、三次元表面性状国際規格(ISO25178)で定義される用語である。ここで、これらの用語について説明する。
【0025】
本発明では、多孔質吸着体の表面形状を表すパラメータとして、物体の表面粗さの評価方法を定めた国際規格であるISO25178で定義される機能パラメータのひとつであるコア部のレベル差Skを用いる。コア部のレベル差Skの測定方法としては、まず、測定対象の表面における計測領域(縦Mピクセル、横Nピクセル)の基準表面(平均高さの平面)を求め、その基準表面の高さを0としたときの高さのばらつきを計測する。計測した高さデータを高い順に累積度数分布で表すと、縦軸が高さ、横軸がその高さにおける実態部分の面積の割合とする曲線が得られる。この曲線が負荷曲線であり、ある高さc以上の領域の面積の割合が、高さcにおける負荷面積率である。
【0026】
負荷面積率の差が40%になる負荷曲線の割線のうち割線の傾きが最小となる位置を負荷曲線の中央部分といい、この中央部分に対して、縦軸方向の偏差の二乗和が最小になる直線を等価直線という。計測領域から、等価直線の負荷面積率0%から100%の高さの範囲に含まれない領域を取り除いた表面のことをコア部といい、コア部の最大高さから最小高さを引いた値をコア部のレベル差Skという。コア部のレベル差Skの値が小さいほど平滑性が高いといえる。
【0027】
本発明の実施形態の多孔質吸着体1の吸着面22は、コア部の下限レベル(最小高さ)より深い谷部である開口部231の面積比が10~40%である。開口部231がこのような面積比で形成されていると、多孔質吸着体1が強い吸着性能を持つことが発明者の実験により判明した。開口部231の面積比がこれより小さいと負圧状態を作り出す部分の面積が減少して吸盤効果が低下し、面積比がこれより大きいと被着面9に密着する部分の面積が減少して吸着力が低下するものと推測される。このようにして、本発明では、無数の小径孔23が吸着面22に開口部231を形成してマイクロ吸盤の役割を果たし、かつ、開口部231が10~40%の面積比で存在することにより、平滑な被着面9に対して接着部材や粘着部材を用いなくても強い吸着力を有する多孔質吸着体1とすることが可能となる。なお、開口部231の面積比が15~30%であるとより好ましい。
【0028】
(平滑部221の表面形状)
ここで、
図2に示されるように、吸着面22は、小径孔23の一部同士が繋がって形成された長径75μm以上の連続開口部222と、連続開口部222を含まない平滑部221とを有している。吸着力を向上させるためには平滑部221の表面平滑性を高めることが好ましい。
【0029】
本発明では、平滑部221の表面形状(平滑性)を表すパラメータとして、前述したコア部のレベル差Skを用いる。平滑部221を計測領域として測定した際にコア部のレベル差Skの値が小さいほど、平滑部221の平滑性が高いといえる。平滑部221の平滑性が高いと、吸着面22と被着面9との間が密着し、両者の吸着を阻害する空気が入り込みにくくなり多孔質吸着体1の吸着性能が向上する。発明者の実験により、平滑部221のコア部のレベル差Skは、8.5μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であればさらに好適であることが判明した。
【0030】
また、平滑部221は、表面が平滑であることに加え、微小孔によって形成される凹部のサイズが小さく、かつ、偏りなく分散していることが好ましい。具体的には、平滑部221において、コア部の下限レベル(前記コア部とISO25178で定義される突出谷部との境界)より深い凹部1個当たりの平均面積が110μm2以下であることが好ましい。本実施形態においては、レーザー顕微鏡(ナノサーチSFT-4500、株式会社島津製作所製)を用い、測定視野500倍にて平滑部221を測定し、計測領域内に存在する前記凹部の個数及び面積を計測し、そこから前記凹部1個当たりの平均面積を算出した。
【0031】
前記凹部1個当たりの平均面積が小さいほど、平滑部221において微小孔による凹部のサイズが小さくかつ均一に分散していると言える。これにより、吸盤機構において負圧状態となる地点が偏らず分布が均一となり、吸着面22と被着面9との間の密着性を向上させることができる。
【0032】
(好適素材)
また、多孔質吸着体1は、圧縮変形後の復元力が強いゴム素材で形成されていることが好ましい。ゴム素材を用いることで多孔質吸着体1の弾性が向上し、マイクロ吸盤の効果が高まって強い吸着性能が得られる。
【0033】
(第2の実施形態)
多孔質吸着体1は、2種類以上の多孔質体を含む積層構造を有していてもよい。
図3及び
図4に示す第2の実施形態では、多孔質吸着体1は、ゴム素材で形成された多孔質体が2層に積層され一体化しており、被着面9に対して吸着可能な吸着面22を備えた第1の層21と、吸着面22の反対側において第1の層21に加硫接着された第2の層31とを備えている。第1の層21には微小孔である小径孔23が、第2の層31には小径孔23より径の大きい大径孔33が形成されている。小径孔23の一部は吸着面22に露出して開口しており、その吸盤効果によって平滑な被着面9に対して着脱自在に吸着させることができる。なお、吸着面22だけでなく、第1の層21及び第2の層31の表面には小径孔23または大径孔33の一部が露出しており、それぞれの表面において開口している。
【0034】
小径孔23同士、大径孔33同士はそれぞれ連通している。また、第1の層21と第2の層31とは加硫接着されているので、第1の層21と第2の層31の境界である境界面4に接着剤層等が存在せず、小径孔23と大径孔33との連通が阻害されない。したがって、小径孔23と大径孔33との間にも、境界面4をまたいで連通構造が形成されている。
【0035】
ゴム素材で形成されている多孔質吸着体1は柔軟性を有しており、被着面9に押し付けるように押圧されると、第2の層31が凹むように大きく変形する。それに伴い、第2の層31の内部の大径孔33も変形して押しつぶされる。その後押圧を解除すると、ゴム素材の弾性的復元力によって大径孔33が元の形状に復元しようとする。大径孔33と小径孔23は連通しているので、押しつぶされた大径孔33が再び膨らむ際には、第1の層21の内部に含まれる空気が第2の層31に向かって吸い上げられ、多数の小径孔23が負圧状態となり、多孔質吸着体1を被着面9に強く吸着させることができる。
【0036】
(2層の硬度差について)
また、孔径が大きい第2の層31は第1の層21より柔らかい。そのため、前記した押圧時には主に第2の層31のみが変形し、押圧する力が分散される。これにより、押圧する力が狭い面積に集中せず、吸着面22が広い範囲で被着面9に押し付けられる。吸着面22の広い範囲が偏りなく被着面9に押し付けられることで、押圧時の吸着面22の変形が抑制されて吸着面22と被着面9の密着性が高まり、両者の間に空気だまりができにくくなって強い吸着効果が得られる。
【0037】
各層の硬度は適宜設定することができるが、第1の層21は、吸着面22が被着面9に密着することが望ましいので、押圧面32側から押圧を受けたときに変形しすぎない硬さを持たせることが好ましい。一方、第2の層31は柔らかく形成することが好ましい。第2の層31が柔らかく形成されていると、押圧時に第2の層31だけを大きく変形させることができ、吸着面22と被着面9との密着性を高める効果が得られるだけでなく、第2の層31が圧縮されることに伴って大径孔33が大きく押しつぶされ、形状復元時により強力に空気を吸い上げることができる。実施形態では、第1の層21が硬度45°、第2の層31の硬度が15°である。このように、2層間の硬度差は、C型硬度計で測定されたときに第1の層21の硬度が第2の層より15以上高いことが好ましい。硬度差が15より小さいと、上記したような2層の硬度差によってもたらされる効果が減少し、吸着力が低下する。
【0038】
(可溶性粉末の溶出孔について)
また、多孔質吸着体1に形成される微小孔は可溶性粉末の溶出孔であることが好ましい。実施形態の多孔質吸着体1の小径孔23及び大径孔33は、後段で詳述するように、未加硫ゴムに水またはその他の溶剤で溶解除去できる可溶性粉末を捏和して作製したマスターバッチをシート化し加硫した後、前記可溶性粉末を洗浄、除去することによって得られたものである。実施形態では、前記可溶性粉末として塩を用いている。捏和する塩の粒度が異なる2つのマスターバッチをシート化して加硫接着することで、孔径が大きい層と孔径が小さい層とを備えた2層構造の多孔質吸着体1を得ることができる。また、微小孔が塩溶出孔であることにより、微小孔を均質な連続気孔とすることができる。
【0039】
特許文献1~3に記載されているように機械発泡または化学発泡によって孔を形成する場合、得られる多孔質体の構造は孔を形作る気体の挙動に依存するため、孔径、気孔率及び孔の分布を制御することは容易ではない。本発明の実施形態のように、小径孔23及び大径孔33を可溶性粉末の溶出孔とすれば、可溶性粉末の粒度を操作することにより、層ごとの孔径を均一なものとしたり、微細な孔を形成したりすることが容易になる。また、可溶性粉末が多角形状であれば溶出孔の形状も多角形状となり、孔同士の微小連通が形成されやすく、吸着力をさらに高めることができる。
【0040】
(孔径について)
また、第1の層21の孔径が5~100μmであり、第2の層31の孔径が100~300μmであることが好ましい。孔径がこの範囲より大きくなると、多孔質吸着体1の硬度が低下し柔らかくなるので、吸着面22に対して平行な荷重がかかった際に一部が変形して剥離するおそれがある。
【0041】
(原料)
本発明の多孔質吸着体1を作製する原料について説明する。多孔質吸着体1の原料としては、少なくとも、未加硫ゴム、可溶性粉末、加硫剤を用いる。使用することができるゴムとしては、分子量約1万~10万程度(JIS K6300ムーニー粘度=約70~95)の天然ゴム又は合成ゴムをあげることができる。合成ゴムとしては、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、クロロプレン、ポリウレタンゴム等が使用できる。特に、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ニトリル含量31~42%)は、耐油性、耐老化性、弾性および靭性に優れているので、多孔質吸着体として最適である。なお、ゴム素材ではなくウレタンやポリエチレン等の樹脂を発泡させたり焼結させたりして多孔質吸着体を得ることもできるが、吸着力に劣るのでゴム素材を用いることが好ましい。
【0042】
原料として使用することができる可溶性微粉末としては、塩、糖などの微粉末をあげることができる。塩は、微粉末化し易く、ゴムの硬化温度(110℃~160℃)において分解ガス化せず、かつ、加熱後は水によって容易に除去できる無機化合物をいい、具体的には塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなどの塩が用いられる。糖は、ペントースやヘキトースなどの単糖類、サッカロースやマルトースなどの二糖類、デンプンやグリコーゲンなどの多糖類のいずれも使用でき、更に、これらを併用して使用することもできる。
【0043】
使用することができる加硫剤としては、硫黄、セレン、テルル、塩化イオウなどの公知の加硫剤をあげることができる。また、このほかに必要に応じて充填剤や硬化助剤、硬化促進剤等の添加物を使用することもできる。
【0044】
(第1の実施形態の多孔質吸着体1の製造方法)
第1の実施形態の多孔質吸着体1の製造方法について説明する。本実施形態では、原材料を塩化ナトリウム等の可溶性粉末と混錬し加硫したのち可溶性粉末を溶出して多孔質体とする溶出法を用いる。具体的には、上記の各種原料(未加硫ゴム、可溶性微粉末、加硫剤)を混練機に入れ捏和し、マスターバッチとする。
【0045】
次に、マスターバッチを平板状のシートとして金型内に収容し、加硫して加熱及び加圧を行う。加硫後に離型して、冷水または温水を使用して圧縮と膨張復元をくり返しつつ、水溶性微粉末の洗い出しを行って、多孔質吸着体1を得る。
【0046】
(第2の実施形態の多孔質吸着体1の製造方法)
次に、第2の実施形態の多孔質吸着体1の製造方法について説明する。第2の実施形態では、粒度の小さい可溶性粉末を捏和する第1のマスターバッチと、粒度の大きい可溶性粉末を捏和する第2のマスターバッチを用意する。第1のマスターバッチに捏和する可溶性粉末の径は5~100μmとし、第2のマスターバッチに捏和する可溶性粉末の径は100~300μmとすることが好ましい。
【0047】
次に、各マスターバッチをそれぞれ平板状のシートとし、前記シートを重ね合わせ金型内に収容し、加熱及び加圧して加硫接着を行い2層構造とする。加硫後に離型して、冷水または温水を使用して圧縮と膨張復元をくり返しつつ、水溶性微粉末の洗い出しを行って、2層構造の多孔質吸着体1を得る。
【0048】
上記したように多孔質吸着体1を溶出法にて製造すれば、大径孔33及び/または小径孔23の連通性を確保することができるだけでなく、表面の平滑性が良好な多孔質吸着体1とすることができる。吸着面22の平滑部221の表面粗さが小さいほど吸着面22と被着面9とがしっかり密着して両者の間に空気が存在しにくくなり、真空に近い状態となって吸着強度を増加させることができる。
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例について、開口部の面積比、平滑部のコア部のレベル差Sk、及び、平滑部において微小孔によって形成される凹部1個あたりの平均面積、C型硬度計により計測した硬度、孔径の平均値及び孔の連続性、サンプルの合計厚み、多孔質体の吸着性の評価結果は、表1に示すとおりである。
【0050】
(実施例1)
原料NBR100部、硫黄3.5部、亜鉛華5部、軟化剤30部、カーボンブラック50部、老化防止剤2部、粒径44~74μmの塩化ナトリウム微粉末700部を混練してマスターバッチとし、これを平板状のシートとして平滑な金型内に収容し、次いで、20MPa程度の圧力を加えて熱盤間に挟圧し、120℃の温度下で60分間加硫した。加硫後離型して、塩化ナトリウム微粉末が完全に除去されるまで充分に水洗し、脱水乾燥して多孔質体を得て、実施例1とした。
【0051】
(実施例2)
塩化ナトリウム微粉末を、粒径が140~300μmのものを1200部としたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質体を作成し、実施例2とした。
【0052】
(実施例3)
原料NBR100部、硫黄3.5部、亜鉛華5部、軟化剤30部、カーボンブラック50部、老化防止剤2部、粒径44~74μmの塩化ナトリウム微粉末700部を混練してマスターバッチAとし、これを厚さ0.5mmの平板状のシートAとした。これとは別に、原料NBR100部、硫黄3.5部、亜鉛華5部、軟化剤30部、カーボンブラック50部、老化防止剤2部、粒径140~300μmの塩化ナトリウム微粉末1200部を加え混練してマスターバッチBとし、これを厚さ4.5mmの平板状のシートBとした。次に、シートAとシートBを重ね合わせ、これを平滑な金型内に収容し、次いで、20MPa程度の圧力を加えて熱盤間に挟圧し、120℃の温度下で60分間加硫した。加硫後離型して、塩化ナトリウムが完全に除去されるまで充分に水洗し、脱水乾燥してシートAとシートBが一体化した多孔質体を得て、実施例3とした。
【0053】
(実施例4)
シートBの塩化ナトリウム微粉末を900部としたこと以外は実施例3と同様にして多孔質体を作成し、実施例4とした。
【0054】
(実施例5)
シートBの塩化ナトリウム微粉末を800部としたこと以外は実施例3と同様にして多孔質体を作成し、実施例5とした。
【0055】
(比較例1)
実施例2の多孔質体の表層を切削しスキン層を除去した面を吸着面とする多孔質体を作製し、比較例1とした。
【0056】
(比較例2)
オレフィン系樹脂(三井化学株式会社製・商品名:タフマーA4090S)100部、ポリエチレングリコール(PEG)100部、粒径44~74μmの塩化ナトリウム微粉末600部を混練してマスターバッチとし、押し出し機により平板状のシートとして、塩化ナトリウム微粉末が完全に除去されるまで充分に水洗し、脱水乾燥して多孔質体を得て、比較例2とした。
【0057】
(開口部の面積比)
実施例の吸着面を測定領域として、ISO25178に準拠しレーザー顕微鏡(ナノサーチSFT-4500、株式会社島津製作所製)にてその表面形状を測定した。測定されたコア部の下限レベルより深い谷部を開口部とし、前記開口部の面積比を算出した。
【0058】
(平滑部の表面形状)
実施例の吸着面において、前記開口部の一部同士が繋がって形成された長径75μm以上の連続開口部を含まない部分を平滑部とし、前記平滑部を測定領域として、ISO25178に準拠しレーザー顕微鏡(ナノサーチSFT-4500、株式会社島津製作所製)にてコア部のレベル差Skを測定した。なお、比較例についても同様にコア部のレベル差Skを測定したが、比較例は開口部の占める割合が大きく、測定領域の視野角上に連続開口部が存在したため、測定したコア部のレベル差Skは参考値とした。
【0059】
また、実施例の前記平滑部において、前記平滑部を測定領域とした際のコア部の下限レベルより深い凹部の個数及び面積を計測し、そこから前記凹部1個当たりの平均面積を算出した。
【0060】
(孔径平均値の算出及び孔の連続性の評価)
実施例及び比較例の多孔質体の表面(吸着面)及び断面を、電子顕微鏡(日本電子株式会社製・倍率50倍)を用いて観察し、孔径の平均値を算出し、孔の連続性を評価した。
【0061】
(吸着させやすさの評価)
実施例及び比較例において得られた多孔質体を、それぞれ120mm×150mmにカットしてサンプルとし、表面が平滑で重力方向に平行なガラス面に対して、長さ120mmの辺が垂直方向となる向きで、手で押し付けて貼り付け、その吸着させやすさを以下の基準により評価した。
◎:片手で押し付けるのみで貼付が可能であった(サンプル全体に均一荷重をかけることなく貼付可能であった)。
〇:両手で均一に押し付けることで貼付が可能であった(サンプル全体に均一荷重をかけることで貼付可能であった)。
×:貼付できなかった。
【0062】
(一定荷重下での吸着性の評価)
実施例及び比較例において得られた多孔質体を、それぞれ120mm×150mmにカットし、表面が平滑で重力方向に平行なガラス面に貼り付けた後、フック形状のアタッチメントを各サンプルに粘着テープで固定し、前記アタッチメントに重り(2Kg)付きのひもをかけて、24時間経過後の状態を観察し、以下の基準で評価した。
◎:サンプルがガラス面に貼り付いたままであった。
〇:1時間程度はガラス面に貼り付いたままであった。
×:ガラス面に貼り付かなかった。
【0063】
(結果)
全ての実施例及び比較例において、微小孔の連続性が確認された。これは、いずれの例も溶出法で作成されたためであると考えられる。孔が独立気泡ではなく連続気泡であれば、吸着面と被着面の間に残留した空気を逃がすことができ吸着性の向上に寄与する。
【0064】
実施例1~5の多孔質体はいずれもガラス面への吸着させやすさ及び一定荷重下での吸着性が良好であることが確認された。なお、実施例のうち1層構造である実施例1と実施例2とを比較すると、前記平滑部におけるコア部のレベル差Sk及び凹部1個当たりの平均面積が小さい実施例2の方が、より吸着させやすさに優れていることが確認された。一定荷重下での吸着性については、硬度の高い実施例1の方が優れていた。
【0065】
また、硬度の異なる2層による積層構造を備えた実施例3~5を比較すると、吸着面を有する第1の層の硬度が第2の層より15以上高い実施例3及び実施例4において、より優れた吸着させやすさを示した。なお、実施例3及び実施例4は、吸着させやすさと一定荷重下での吸着性の両方において良好な吸着性を示すことが確認された。
【0066】
一方、比較例では、いずれも連続気泡を有していたにもかかわらずガラス面への吸着性を持たないことが確認された。比較例1は、スキン層を剥がしたために吸着面が荒れて開口部の面積比が78%となり、吸着力を喪失したものと考えられる。また、比較例2も、開口部の面積比が高いことに加え、表面平滑性が低いために吸着を阻害する空気が入り込んで吸着力が低下したものと考えられる。
【表1】
【符号の説明】
【0067】
1 多孔質吸着体
21 第1の層
22 吸着面
221 平滑部
222 連続開口部
23 小径孔
231 開口部
31 第2の層
32 押圧面
33 大径孔
4 境界面
9 被着面