(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163982
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】水処理用微生物固定化担体、軟質ポリウレタンフォーム組成物、及び、軟質ポリウレタンフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/10 20060101AFI20221020BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20221020BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20221020BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20221020BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
C02F3/10 A
C08G18/00 K
C08G18/08 038
C08G18/10
C08G101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069150
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】廣川 惣一郎
【テーマコード(参考)】
4D003
4J034
【Fターム(参考)】
4D003AA12
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4J034NA05
4J034QB01
4J034QB14
4J034QC01
4J034RA19
(57)【要約】
【課題】良好な親水性及び水膨潤性を有し、かつ、耐摩耗性に優れ、微生物付着性が向上した水処理用微生物固定化担体、及び、その製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物、並びに、軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供する。
【解決手段】グラファイト粉末及びポリウレタン樹脂を含む軟質ポリウレタンフォームから形成されてなり、前記グラファイト粉末の含有量が、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して100質量部未満である、水処理用微生物固定化担体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト粉末及びポリウレタン樹脂を含む軟質ポリウレタンフォームから形成されてなり、前記グラファイト粉末の含有量が、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して100質量部未満である、水処理用微生物固定化担体。
【請求項2】
前記軟質ポリウレタンフォームは、下記の耐摩耗性試験における試験片の質量残存率(M2/M1×100[%])が60%以上である、請求項1に記載の水処理用微生物固定化担体。
[耐摩耗性試験]10mm×10mm×10mmの軟質ポリウレタンフォームの試験片(質量:M1)を、内周面に耐水サンドペーパー(#100)が貼り付けられた円筒状容器(内径105mm、高さ100mm)内の200mLの純水中に投入し、容器底面中央の底面との間隔が10mmの位置に配置した撹拌羽根(3枚羽根タービン翼、直径66mm、高さ14mm、シャフト径8mm、回転速度400rpm)で、25℃にて24時間撹拌し、乾燥後の試験片の質量M2を測定する。
【請求項3】
前記軟質ポリウレタンフォームは、比重が1.00~1.35g/cm3である、請求項1又は2に記載の水処理用微生物固定化担体。
【請求項4】
前記グラファイト粉末の含有量が、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して、1~90質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理用微生物固定化担体。
【請求項5】
請求項1~4の水処理用微生物固定化担体の製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物であって、ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物、グラファイト粉末、硬化剤及び発泡剤を含む、軟質ポリウレタンフォーム組成物。
【請求項6】
前記軟質ポリウレタンフォーム組成物がA液及びB液の2液型組成物であり、
A液は、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物を含み、
B液は、硬化剤及び発泡剤を含み、
A液及びB液の一方又は両方が、グラファイト粉末を含む、請求項5に記載の軟質ポリウレタンフォーム組成物。
【請求項7】
前記ウレタンプレポリマーは、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物との反応生成物であり、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリエーテルウレタンプレポリマーである、請求項5又は6に記載の軟質ポリウレタンフォーム組成物。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームの製造方法であって、ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物、グラファイト粉末、硬化剤及び発泡剤を含む軟質ポリウレタンフォーム組成物を反応させて、軟質ポリウレタンフォームを得る、水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項9】
前記ウレタンプレポリマー及び前記ポリイソシアネート化合物を含むA液と、前記硬化剤及び前記発泡剤を含むB液とを混合し、A液及びB液の混合物を反応させる工程を含み、
A液及びB液の一方又は両方が、グラファイト粉末を含む、請求項8に記載の軟質ポリウレタンフォームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用微生物固定化担体(以下、単に「担体」とも言う。)、及び、その製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物、並びに、軟質ポリウレタンフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水やし尿、産業排水等の有機排水の水処理において、微生物により有機物を分解させて水を浄化処理する方法がある。微生物を利用した水処理方法の一つとして、樹脂やセラミックス等の担体に、水処理に有効な微生物を付着(固定化)させた微生物固定化担体を用いる方法が知られている。微生物固定化担体は、水処理槽内において、所定の位置に保持される固定床や、微生物による水処理能力向上等の観点から、曝気にて移動可能な状態で使用される流動床等の態様で使用される。
【0003】
担体は、水処理の効率化や取り扱い容易性等の観点から、微生物が付着しやすいことが求められる。
このような課題に対しては、例えば、特許文献1及び2に、多孔質樹脂からなる担体に、微生物を付着及び増殖させやすくする基質吸着物質として活性炭やカーボンブラック等を含有させることが記載されている。
また、特許文献3には、黒鉛(グラファイト)を50~75質量%、及び樹脂を20~40質量%含み、微生物が付着した担体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-205286号公報
【特許文献2】特開2001-205287号公報
【特許文献3】特開2019-103459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている担体は、具体的には、親水性の熱可塑性ポリウレタン樹脂と疎水性の熱可塑性樹脂との混合物及び活性炭を含む担体であり、このような担体では、疎水性樹脂への微生物付着性が劣り、また、熱可塑性樹脂であるため、耐摩耗性が十分とは言えないものであった。
【0006】
また、特許文献3においては、樹脂に比べてグラファイト粉末の割合が大きい担体が、樹脂リッチのものよりも微生物が付着しやすく、また、製造コストや水処理コストの点で有利であるとしているが、比重が大きいグラファイトを、樹脂よりも多く含む担体は、水中で沈みやすく、水膨潤性にも劣り、また、グラファイト粉末が担体から離脱しやすく、耐摩耗性に劣るものであった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、良好な親水性及び水膨潤性を有し、かつ、耐摩耗性に優れ、微生物付着性が向上した水処理用微生物固定化担体、及び、その製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物、並びに、軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、所定量のグラファイト粉末を含む軟質ポリウレタンフォームによれば、耐摩耗性に優れ、微生物付着性が向上した水処理用微生物固定化担体を形成できることを見出したことに基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供する。
[1]グラファイト粉末及びポリウレタン樹脂を含む軟質ポリウレタンフォームから形成されてなり、前記グラファイト粉末の含有量が、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して100質量部未満である、水処理用微生物固定化担体。
[2]前記軟質ポリウレタンフォームは、下記の耐摩耗性試験における試験片の質量残存率(M2/M1×100[%])が60%以上である、上記[1]に記載の水処理用微生物固定化担体。
[耐摩耗性試験]10mm×10mm×10mmの軟質ポリウレタンフォームの試験片(質量:M1)を、内周面に耐水サンドペーパー(#100)が貼り付けられた円筒状容器(内径105mm、高さ100mm)内の200mLの純水中に投入し、容器底面中央の底面との間隔が10mmの位置に配置した撹拌羽根(3枚羽根タービン翼、直径66mm、高さ14mm、シャフト径8mm、回転速度400rpm)で、25℃にて24時間撹拌し、乾燥後の試験片の質量M2を測定する。
[3]前記軟質ポリウレタンフォームは、比重が1.00~1.35g/cm3である、上記[1]又は[2]に記載の水処理用微生物固定化担体。
[4]前記グラファイト粉末の含有量が、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して、1~90質量部である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の水処理用微生物固定化担体。
【0010】
[5]上記[1]~[4]の水処理用微生物固定化担体の製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物であって、ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物、グラファイト粉末、硬化剤及び発泡剤を含む、軟質ポリウレタンフォーム組成物。
[6]前記軟質ポリウレタンフォーム組成物がA液及びB液の2液型組成物であり、A液は、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物を含み、B液は、硬化剤及び発泡剤を含み、A液及びB液の一方又は両方が、グラファイト粉末を含む、上記[5]に記載の軟質ポリウレタンフォーム組成物。
[7]前記ウレタンプレポリマーは、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物との反応生成物であり、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリエーテルウレタンプレポリマーである、上記[5]又は[6]に記載の軟質ポリウレタンフォーム組成物。
【0011】
[8]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームの製造方法であって、ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物、グラファイト粉末、硬化剤及び発泡剤を含む軟質ポリウレタンフォーム組成物を反応させて、軟質ポリウレタンフォームを得る、水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームの製造方法。
[9]前記ウレタンプレポリマー及び前記ポリイソシアネート化合物を含むA液と、前記硬化剤及び前記発泡剤を含むB液とを混合し、A液及びB液の混合物を反応させる工程を含み、A液及びB液の一方又は両方が、グラファイト粉末を含む、上記[8]に記載の軟質ポリウレタンフォームの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な親水性及び水膨潤性を有し、かつ、耐摩耗性に優れ、微生物付着性が向上した水処理用微生物固定化担体を提供することができる。
また、本発明によれば、水処理用微生物固定化担体の製造に好適な軟質ポリウレタンフォーム組成物、及び、水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームの好適な製造方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の水処理用微生物固定化担体、及び、その製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物、並びに、軟質ポリウレタンフォームの製造方法の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
[水処理用微生物固定化担体]
本発明の水処理用微生物固定化担体は、グラファイト粉末及びポリウレタン樹脂を含む軟質ポリウレタンフォームから形成されてなり、前記グラファイト粉末の含有量が、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して100質量部未満である。
このように、ポリウレタン樹脂よりも少ない質量のグラファイト粉末を含む軟質ポリウレタンフォームによれば、耐摩耗性に優れ、微生物付着性が向上した水処理用微生物固定化担体を形成できる。
【0015】
<軟質ポリウレタンフォーム>
本発明における軟質ポリウレタンフォームは、グラファイト粉末及びポリウレタン樹脂を含む発泡体(フォーム)である。
軟質ポリウレタンフォームがグラファイト粉末を含むことにより、軟質ポリウレタンフォームの表面への微生物の付着性を向上させることができる。その理由は明らかではないが、グラファイト粉末表面の電荷と微生物が有する電荷との何らかの相互作用に起因するものと考えられる。また、グラファイト粉末は、含有量に応じて、軟質ポリウレタンフォームの比重を調整することができ、軟質ポリウレタンフォームのフィラーとしての役割も有する。
なお、グラファイト粉末に代えて、炭素繊維を用いた場合も同様の効果が得られる。
【0016】
前記軟質ポリウレタンフォームは、良好な耐摩耗性及び微生物付着性の向上の観点から、グラファイト粉末の含有量が、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、100質量部未満であり、好ましくは1~90質量部、より好ましくは2~70質量部、さらに好ましくは5~40質量部である。
グラファイト粉末の含有量が、ポリウレタン樹脂100質量部に対して100質量部以上である場合、すなわち、軟質ポリウレタンフォームが、ポリウレタン樹脂と同等以上の質量のグラファイト粉末を含む場合、軟質ポリウレタンフォームの比重が大きすぎて、担体が水中に沈み、浮上し難く、担体に微生物を付着させ難くなる。また、過剰のグラファイト粉末により、軟質ポリウレタンフォームからグラファイト粉末が離脱しやすくなり、軟質ポリウレタンフォームは耐摩耗性に劣るものとなる。
【0017】
グラファイト粉末の粒径は、特に限定されるものではないが、グラファイト粉末が均一に分散された軟質ポリウレタンフォームを得られやすいようにする観点から、例えば、粒径が1000μm以下であることが好ましく、取り扱い容易性等の観点から、より好ましくは0.1~900μm、さらに好ましくは0.5~850μmである。
なお、このようなグラファイト粉末としては、種々のグラファイトのバルク製品の加工工程で生じる切粉、また、切削屑や断材を粉砕して得られた粉末等を再利用することもできる。このような再利用によれば、担体の製造コストを低減することができる。
【0018】
軟質ポリウレタンフォームは、グラファイト粉末及びポリウレタン樹脂以外に、任意の成分として、例えば、無機フィラー、着色剤等、また、軟質ポリウレタンフォームの製造における配合成分である硬化剤や発泡剤、整泡剤、触媒等を由来とする成分等の、他の成分が含まれていてもよい。これらの他の成分の軟質ポリウレタンフォーム中の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲内の量である。軟質ポリウレタンフォーム中のグラファイト粉末及びポリウレタン樹脂の合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92~100質量%、さらに好ましくは95~100質量%である。
【0019】
ポリウレタン樹脂の組成は、水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームにおいて公知のものであってよく、好ましくは、後述する軟質ポリウレタンフォーム組成物中のウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物の反応物である。
【0020】
前記軟質ポリウレタンフォームは、下記の耐摩耗性試験における試験片の質量残存率(M2/M1×100[%])が60%以上であることが好ましい。
[耐摩耗性試験]10mm×10mm×10mmの軟質ポリウレタンフォームの試験片(質量:M1)を、内周面に耐水サンドペーパー(#100)が貼り付けられた円筒状容器(内径105mm、高さ100mm)内の200mLの純水中に投入し、容器底面中央の底面との間隔が10mmの位置に配置した撹拌羽根(3枚羽根タービン翼、直径66mm、高さ14mm、シャフト径8mm、回転速度400rpm)で、25℃にて24時間撹拌し、乾燥後の試験片の質量M2を測定する。
【0021】
前記耐摩耗性試験は、水処理槽内で流動床として担体が使用されることを想定し、担体同士の衝突又は担体と水処理槽の内壁との衝突等による軟質ポリウレタンフォームの摩耗の程度を評価する試験であり、質量残存率を耐摩耗性の評価指標とする。
この耐摩耗性試験は、担体の耐摩耗性を評価するための加速試験環境として、内面が粗面である容器内の撹拌されている純水中で、試験片を流動させて行う。具体的には、下記実施例に記載の方法で行う。
耐摩耗性に優れた軟質ポリウレタンフォームとしては、耐摩耗性試験における試験片の質量残存率が、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは85%以上である。
【0022】
前記軟質ポリウレタンフォームは、比重が、好ましくは1.00~1.35g/cm3、より好ましくは1.00g/cm3超1.30g/cm3以下、さらに好ましくは1.10~1.25g/cm3である。
なお、本発明における比重は、液中ひょう量法(天びん法)により、液体として精製水を用い、20℃で測定した値である。
比重が1.00g/cm3以上であることにより、担体を水面から水中に沈めやすい。また、比重が1.35g/cm3以下であれば、担体が水底に沈んだ場合であっても、撹拌や曝気等により再度流動させやすく、担体への微生物付着性も良好となりやすい。
【0023】
軟質ポリウレタンフォームは、良好な親水性及び耐摩耗性等の観点から、水膨潤による体積膨潤率が、好ましくは110~1000%、より好ましくは120~600%、さらに好ましくは130~300%である。
【0024】
なお、本明細書における「体積膨潤率」とは、軟質ポリウレタンフォームの絶乾状態の体積に対する水膨潤時の体積の比で表される値を言う。
「絶乾状態」とは、絶対乾燥状態とも言い、軟質ポリウレタンフォームを、ポリウレタン樹脂の耐熱温度以下である110℃で乾燥させて、質量の減少が見られなくなった状態を言う。「水膨潤時」とは、軟質ポリウレタンフォームを25℃の純水に1時間浸漬させた状態を言う。
絶乾状態の体積は、軟質ポリウレタンフォームのセルの体積も含み、外形の寸法に基づいて求められる体積とする。例えば、外形が直方体又は立方体の場合、縦、横及び高さの3辺の長さの積として算出される値とする。水膨潤時の体積も、同様に、外形の寸法に基づいて求められる体積であり、軟質ポリウレタンフォームのセル及び内部の水の体積も含む。
【0025】
軟質ポリウレタンフォームは、強度や水処理の効率化の観点から、水膨潤時の膨潤密度が、好ましくは20~70kg/m3、より好ましくは24~66kg/m3、さらに好ましくは28~62kg/m3である。
なお、本明細書における「膨潤密度」とは、軟質ポリウレタンフォームの絶乾状態の質量を水膨潤時の体積で除した値を言う。膨潤密度は、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
また、軟質ポリウレタンフォームは、適度な体積膨潤率の観点から、絶乾密度が、好ましくは35~96kg/m3、より好ましくは38~93kg/m3、さらに好ましくは40~90kg/m3である。
【0027】
軟質ポリウレタンフォームのセル構造は、水中で微生物、酸素、及び微生物の栄養源(BOD源)となる基質等を十分に内部に侵入させて、担体に微生物を固定化させやすくする観点から、連続気泡性を有していることが好ましい。
軟質ポリウレタンフォームの連続気泡率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
なお、連続気泡率は、JIS K 7138:2006に依拠した方法で求められる。
【0028】
また、軟質ポリウレタンフォームのセル構造としては、水膨潤時の平均気孔数が15~40個/25mmであることが好ましく、より好ましくは18~35個/25mm、さらに好ましくは21~30個/25mmである。
なお、本明細書における「平均気孔数」とは、水膨潤時の軟質ポリウレタンフォームの任意の3本の長さ25mmの直線上に存在する気孔数の平均値を言う。具体的には、下記実施例に記載の方法により求められる。
【0029】
また、軟質ポリウレタンフォームの水膨潤時の平均気孔径が、好ましくは650~1000μm、より好ましくは700~950μm、さらに好ましくは750~900μmである。
なお、平均気孔径は、マイクロスコープによる観察画像における気孔を、長径及び短径の平均値を直径とする真円とみなし、50個の気孔についての直径の平均値とする。具体的には、下記実施例に記載の方法により求められる。
【0030】
さらに、軟質ポリウレタンフォームのセル構造を構成する骨格部分は、十分な気孔径及び表面積を維持する観点から、隣接セル間の骨格の最小幅が、好ましくは0.02~0.50mm、より好ましくは0.03~0.40mm、さらに好ましくは0.05~0.30mmである。
また、良好な微生物付着性の観点から、前記骨格部分は、細い棒状の骨格からなる、いわゆるリブ構造であるよりも、隣接セル間が部分的に膜状であり、表面積が大きい壁面で区画された、いわゆるウォール構造であることが好ましい。
【0031】
担体は、親水性を向上させる観点から、軟質ポリウレタンフォームの表面が、例えば、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、アセチレングリコール等のグリコール系化合物、界面活性剤等でコーティングされたものであってもよい。
【0032】
担体の形状は、特に限定されるものではなく、水処理槽の形態や規模、水膨潤性及び微生物付着性等を考慮して、例えば、立方体、角柱、円柱等の柱状体、多面体、チップ状、球状等にすることができる。製造効率及びコスト等の観点からは、好ましくは、立方体や直方体である。
担体の大きさは、特に限定されるものではなく、水処理槽の形態や規模、水膨潤性、微生物付着性、取り扱い性及び製造効率等を考慮して、適宜設定することができる。例えば、直方体状や立方体状の担体の場合、各一辺の長さが、3~200mm程度であることが好ましく、より好ましくは5~100mm、さらに好ましくは7~50mm、よりさらに好ましくは8~30mmである。
【0033】
[軟質ポリウレタンフォーム組成物]
本発明の軟質ポリウレタンフォーム組成物は、水処理用微生物固定化担体の製造に用いられる軟質ポリウレタンフォーム組成物であって、ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物、グラファイト粉末、硬化剤及び発泡剤を含む。
軟質ポリウレタンフォーム組成物を発泡硬化させることにより、水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームを好適に得ることができる。
なお、前記ポリイソシアネート化合物は、後述するウレタンプレポリマーの合成原料のポリイソシアネート化合物との区別のため、「ポリイソシアネート化合物(a)」と表記し、ウレタンプレポリマーの合成原料のポリイソシアネート化合物を、「ポリイソシアネート化合物(b)」と表記する場合もある。
【0034】
<ウレタンプレポリマー>
ウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物と、該ポリオール化合物の水酸基に対して、イソシアネート基のモル当量比が過剰となる量のポリイソシアネート化合物(b)とを反応させて得られるポリマーであり、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有している。ウレタンプレポリマーは、1種単独であっても、2種以上併用してもよい。
このようなプレポリマーを原料成分として用いることにより、軟質ポリウレタンフォームの生成反応が進行しやすくなり、セル構造のバラつきが小さく、均質性に優れた軟質ポリウレタンフォームが得られやすい。
【0035】
ウレタンプレポリマーは、好ましくは、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物(b)との反応生成物であり、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリエーテル系ウレタンプレポリマーである。
ポリエーテルポリオールも、ポリエステルポリオールも、いずれも、得られる軟質ポリウレタンフォームに親水性を付与し得るが、ポリエーテルポリオールの方が、ポリエステルポリオールに比べて、耐加水分解性に優れている。得られる軟質ポリウレタンフォームは、水処理用微生物固定化担体用であり、水中で用いられることから、軟質ポリウレタンフォームの耐久性の観点から、ウレタンプレポリマーの合成原料のポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオールの方が、ポリエステルポリオールよりも好ましい。
【0036】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが挙げられる。これらは、それぞれ、環状エーテル化合物である、エチレンオキシド(以下、「EO」と表記する。)、プロピレンオキシド(以下、「PO」と表記する。)、テトラヒドロフランの、開環重合により得られる。ポリエーテルポリオールは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。また、環状エーテル化合物の共重合体であってもよく、得られる軟質ポリウレタンフォームの柔軟性や親水性等の観点から、好ましくはEO-PO共重合体である。
EO-PO共重合体におけるEOとPOとの単量体組成比は、質量比で、好ましくは85/15~15/85、より好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは65/35~35/65、よりさらに好ましくは60/40~50/50である。
【0037】
ポリエーテルポリオールは、取り扱い容易性等の観点から、粘度が高すぎないことが好ましく、数平均分子量が1000~8000であることが好ましく、より好ましくは2000~7000、さらに好ましくは2500~5000である。
【0038】
ポリエーテルポリオールと反応させるポリイソシアネート化合物(b)は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、特に限定されるものではない。
ポリイソシアネート化合物(b)としては、例えば、トルエンジイソシアネート(以下「TDI」と表記する。)、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物(b)は、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0039】
ポリイソシアネート化合物(b)は、異性体がある化合物の場合には、各異性体の1種のみでもよく、2種以上の異性体の混合物であってもよい。例えば、TDIは、トルエン-2,4-ジイソシアネート(2,4-TDI)とトルエン-2,6-ジイソシアネート(2,6-TDI)の2種の異性体があり、2,4-TDI及び2,6-TDIのいずれか一方のみを用いても、2種の混合物を用いてもよい。
【0040】
<ポリイソシアネート化合物(a)>
ポリイソシアネート化合物(a)は、特に限定されるものではなく、具体例としては、ウレタンプレポリマーの合成原料のポリイソシアネート化合物(b)について例示したものと同様のものが挙げられる。ポリイソシアネート化合物(a)は、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
また、ポリイソシアネート化合物(a)は、ウレタンプレポリマーの合成原料のポリイソシアネート化合物(b)と同じであっても、異なっていてもよい。
【0041】
ポリイソシアネート化合物(a)の含有量は、軟質ポリウレタンフォーム組成物の粘度や軟質ポリウレタンフォームの親水性等を考慮して設定されるが、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは1~25質量部、さらに好ましくは2~20質量部である。
【0042】
<グラファイト粉末>
軟質ポリウレタンフォーム組成物中のグラファイト粉末は、上記の[水処理用微生物固定化担体]の項で説明した軟質ポリウレタンフォーム中のグラファイト粉末に相当するものである。
軟質ポリウレタンフォーム組成物中のグラファイト粉末の含有量は、該組成物から得られる軟質ポリウレタンフォームの良好な耐摩耗性及び微生物付着性の向上の観点から、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物の合計100質量部に対して、好ましくは100質量部未満、より好ましくは1~90質量部、さらに好ましくは2~70質量部、よりさらに好ましくは5~40質量部である。
ここで、本発明の軟質ポリウレタンフォーム組成物においては、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物(a)の合計質量を、上述した軟質ポリウレタンフォーム中のポリウレタン樹脂の質量とみなす。また、軟質ポリウレタンフォーム組成物中の各成分の含有量は、軟質ポリウレタンフォーム組成物の調製時の配合量と同義とみなす。
【0043】
<硬化剤>
硬化剤は、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物(a)を架橋硬化させるための配合成分であり、架橋剤とも言う。
硬化剤としては、例えば、水;グリセリン、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコール;エタノールアミン類、ポリエチレンポリアミン類等のアミン化合物等が挙げられる。また、多価アルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等を開環重合させたポリオール類、前記アミン化合物に少量のプロピレンオキサイドを付加したもの等も挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。これらのうち、反応性、取り扱い容易性やコスト等の観点から、好ましくは水が用いられる。
軟質ポリウレタンフォーム組成物中の硬化剤の含有量は、該組成物から得られる軟質ポリウレタンフォームの柔軟性や弾力性、強度等を考慮して、適宜設定することができる。
【0044】
<発泡剤>
発泡剤は、軟質ポリウレタンフォームのフォーム形成のための配合成分である。発泡剤は、ポリウレタンの生成反応時に、イソシアネート基との反応により炭酸ガスを発生したり、発熱反応の際に発泡剤自体が気化することにより、ポリウレタンを発泡させる。
発泡剤としては、例えば、水、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、炭酸ガス、シクロペンタン等の炭化水素等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。発泡剤のうち、取り扱い容易性やコスト、環境保全等の観点から、好ましくは水のみの使用である。
軟質ポリウレタンフォーム組成物中の発泡剤の含有量は、該組成物を用いて製造される軟質ポリウレタンフォームの発泡速度(フォーム生成速度)、及び該組成物の混合状態等を考慮して、適宜設定することができる。
【0045】
上記のように、水は、硬化剤として、また、発泡剤としての両方の働きを有するものであり、軟質ポリウレタンフォーム組成物の配合成分として好適である。軟質ポリウレタンフォーム組成物中の硬化剤かつ発泡剤として用いられる場合の水の含有量は、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物(a)の合計100質量部に対して、好ましくは40~90質量部、より好ましくは45~85質量部、さらに好ましくは50~80質量部である。
【0046】
<他の配合成分>
軟質ポリウレタンフォーム組成物中には、例えば、整泡剤、無機フィラー、触媒、着色剤等の他の配合成分、また、溶剤が、必要に応じて含まれていてもよい。他の配合成分を含む場合、軟質ポリウレタンフォーム組成物100質量部中の他の配合成分の含有量は、該組成物を用いた軟質ポリウレタンフォームの製造効率の観点から、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0047】
整泡剤は、軟質ポリウレタンフォームのフォーム状態を調整するための配合成分であり、例えば、界面活性剤、シリコーンオイル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。これらのうち、分子末端に水酸基を有し、イソシアネートと化学的な結合が可能であり、泡立ちが少ないことから、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
整泡剤を含む場合、軟質ポリウレタンフォーム組成物100質量部中の整泡剤の含有量は、軟質ポリウレタンフォーム中に余剰の整泡剤が残存し、該軟質ポリウレタンフォームを水に投入した際に泡立ちが生じることを抑制する観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0048】
無機フィラーは、例えば、軟質ポリウレタンフォームを水中に速やかに沈降させる等の目的で比重を調整するための配合成分であり、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、活性炭、ゼオライト等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。これらのうち、軟質ポリウレタンフォーム組成物中での分散性や比重調製のしやすさ等の観点から、好ましくは硫酸バリウムが用いられる。
【0049】
触媒としては、軟質ポリウレタンフォームの合成に用いられる公知の触媒が挙げられ、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、テトラメチルグアニジン等のアミン触媒;スタナスオクトエート、ジブチル錫ジラウレート等の錫触媒;フェニル水銀プロピオン酸塩、オクテン酸鉛等のその他の金属触媒等が挙げられる。
【0050】
<2液型組成物>
軟質ポリウレタンフォーム組成物は、全配合成分を含む1液型の組成物でもよいが、好ましくは、A液及びB液の2液型組成物である。そして、A液は、ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物(a)を含み、B液は、硬化剤及び発泡剤を含み、A液及びB液の一方又は両方が、グラファイト粉末を含むことが好ましい。
A液及びB液の2液の原料液を別個に調製して、2液を混合して発泡させる2液型組成物は、良好な親水性及び水膨潤性を有し、かつ、耐摩耗性に優れ、微生物付着性が向上した、水処理用微生物固定化担体に適した軟質ポリウレタンフォームを、安定的かつ効率的に製造するのに好適である。
【0051】
A液は、上述したウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物(a)を含み、また、好ましくはグラファイト粉末を含み、さらに、軟質ポリウレタンフォーム組成物中の前記他の配合成分を含んでいてもよい。
A液中のウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物(a)の合計含有量は、軟質ポリウレタンフォームの製造効率の観点から、A液100質量部中、好ましくは30質量部以上、より好ましくは35~100質量部、さらに好ましくは40~100質量部である。
【0052】
B液は、硬化剤及び発泡剤を含み、また、グラファイト粉末を含んでいてもよく、さらに、軟質ポリウレタンフォーム組成物中の前記他の配合成分を含んでいてもよい。
グラファイト粉末は、A液及びB液の一方又は両方に含まれていてもよく、グラファイト粉末が均一に分散した均質な軟質ポリウレタンフォームを効率的に製造する観点から、少なくとも、A液に含まれていることが好ましく、2液混合による軟質ポリウレタンフォームの製造効率の観点から、より好ましくはA液のみに含まれる。
B液中の硬化剤及び発泡剤の合計含有量は、良好なセル構造を有する軟質ポリウレタンフォームを効率的に製造する観点から、B液100質量部中、好ましくは45質量部以上、より好ましくは60~100質量部、さらに好ましくは65~100質量部である。
【0053】
[軟質ポリウレタンフォームの製造方法]
本発明の軟質ポリウレタンフォームの製造方法は、上述した水処理用微生物固定化担体用の軟質ポリウレタンフォームの製造方法であって、ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物、グラファイト粉末、硬化剤及び発泡剤を含む軟質ポリウレタンフォーム組成物を反応させて、軟質ポリウレタンフォームを得ることを特徴とする。
この軟質ポリウレタンフォームの製造方法においては、上記の本発明の軟質ポリウレタンフォーム組成物を反応原料として用いることが好ましい。前記軟質ポリウレタンフォーム組成物を反応させて発泡硬化させて得られた軟質ポリウレタンフォームは、良好な親水性及び水膨潤性を有し、かつ、耐摩耗性に優れ、微生物付着性に優れた水処理用微生物固定化担体に好適である。
【0054】
前記軟質ポリウレタンフォームの製造方法においては、前記ウレタンプレポリマー及び前記ポリイソシアネート化合物を含むA液と、前記硬化剤及び前記発泡剤を含むB液とを混合し、A液及びB液の混合物を反応させる工程を含み、A液及びB液の一方又は両方が、グラファイト粉末を含むことが好ましい。
このように、前記軟質ポリウレタンフォームの製造方法においては、軟質ポリウレタンフォームを安定的かつ効率的に製造する観点から、前記2液型組成物を用いて、A液及びB液の混合物を反応させることが好ましい。この製造方法におけるA液及びB液の成分については、上記の[軟質ポリウレタンフォーム組成物]の項における2液型組成物のA液及びB液と同様である。
【0055】
A液及びB液を混合し、混合物を反応させる工程は、2液型の軟質ポリウレタンフォームにおける公知の混合及び発泡硬化方法を適用することができ、例えば、A液及びB液を、ミキシングヘッドを用いて混合して注型発泡成形する方法等により、軟質ポリウレタンフォームが得られる。
A液とB液との質量混合比は、所望のセル構造の均質な軟質ポリウレタンフォームを効率的に得る観点から、好ましくは45/55~79/21、より好ましくは50/50~77/23、さらに好ましくは53/47~75/25である。
軟質ポリウレタンフォームは、例えば、注型発泡成形により得られたブロック状(スラブ状)のものを、所望の大きさ及び形状に切断加工等することにより、水処理用微生物固定化担体を作製できる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0057】
[軟質ポリウレタンフォームの製造]
下記の原料を用いて、軟質ポリウレタンフォームを製造した。
<原料>
・ウレタンプレポリマー:TDI変性EO-PO共重合体;EO/PO質量比:55/45、EO-PO共重合体の数平均分子量:2700(理論値)、NCO(イソシアネート基)含有量:4.5質量%
・ポリイソシアネート化合物:TDI;「コロネート(登録商標) T-80」、東ソー株式会社製、2,4-TDI/2,6-TDI質量比:80/20
・グラファイト粉末:切粉、粒径1~800μm
・無機フィラー:硫酸バリウム;堺化学工業株式会社製、平均粒径20~30μm、比重4.3
・整泡剤:ノニオン性界面活性剤;「ニューポール(登録商標) PE-75」、三洋化成工業株式会社製
【0058】
(実施例1)
ウレタンプレポリマーとしてTDI変性EO-PO共重合体400kg、ポリイソシアネート化合物としてTDI 53.3kg、及びグラファイト粉末4.5kg(ウレタンプレポリマー及びポリイソシアネート化合物の合計質量(ポリウレタン樹脂の質量とみなす。)100質量部に対して1質量部)を撹拌混合して、A液を調製した。
また、硬化剤かつ発泡剤として水334kg、及び整泡剤6.7kgを撹拌混合して、B液を調製した。
A液及びB液を各タンクからミキシングヘッドに送液して、混合液を吐出させ、注型発泡成形して、軟質ポリウレタンフォームを製造した。
【0059】
(実施例2~6及び比較例2)
実施例1において、ポリウレタン樹脂に対するグラファイト粉末の配合量を表1の実施例2~6及び比較例2に示す各量に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、軟質ポリウレタンフォームを製造した。
【0060】
(実施例7)
実施例3において、グラファイト粉末の添加先をB液に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、軟質ポリウレタンフォームを製造した。
【0061】
(比較例1)
実施例1において、グラファイト粉末に代えて、無機フィラーとして硫酸バリウムを添加し、それ以外は実施例1と同様にして、軟質ポリウレタンフォームを製造した。
【0062】
[評価]
上記実施例及び比較例で製造した各軟質ポリウレタンフォームの中央部から、評価用の試験片を切り出して、下記の各種項目の評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0063】
<絶乾密度>
試験片(約100mm×約100mm、水膨潤時の厚さ約10mm)を電子天秤で秤量し、110℃の乾燥器内で乾燥させ、絶乾状態の質量Mdを測定した。
また、絶乾状態における試験片の各辺の長さをノギス(分解能0.05mm;以下、同様。)で測定し、各辺の長さの積を、試験片の絶乾状態の体積Vdとした。
Md/Vdの値を絶乾密度とした。
【0064】
<膨潤密度>
前記試験片を25℃の純水に1時間浸漬させ、平置きで純水に浸漬させた状態で、試験片の各辺の長さをノギスで測定し、各辺の長さの積を、水膨潤時の体積Vwとした。
Md/Vwの値を膨潤密度とした。
【0065】
<体積膨潤率>
体積膨潤率は、水膨潤時の体積Vwと絶乾状態の体積Vdの比(Vw/Vd)であり、110%以上であれば、水膨潤性が良好であると言える。
【0066】
<平均気孔数>
水膨潤時の体積Vwを測定した後の試験片の平板面中央部分を赤色インキで着色した。着色部分に直尺を当てて、該着色部分及び直尺の目盛が含まれるように写真撮影した。写真の拡大画像において、直尺の任意箇所の目盛の25mmの間隔位置の範囲内で、直尺との任意の平行線上に観察される気孔の個数を数えた。同様の測定を任意の3か所で行い、各測定箇所(測定3回)の気孔数の平均値を、水膨潤時の25mm当たりの平均気孔数とした。
【0067】
<平均気孔径>
水膨潤時の体積Vwを測定した後の試験片について、面中央部近傍の任意の箇所をマイクロスコープで観察し、観察画像における気孔1個の長径及び短径を測定した。気孔形状を、長径及び短径の平均値を直径とする真円とみなし、同様にして、50個の気孔の直径を求めた。これらの直径の平均値を、水膨潤時の平均気孔径とした。
【0068】
<連続気泡率>
JIS K 7138:2006に依拠した方法で連続気泡率を求めた。
試験片(約25mm×約25mm、厚さ約40mm)を100℃で8時間乾燥させた後、室温で8時間放冷した。試験片の各辺の長さをノギスで測定し、各辺の長さの積を幾何学的体積Vgとした。
空気比較式比重計(東京サイエンス株式会社製)にて、試験片の非通気体積Viを測定し、(Vg-Vi)/Vg×100[%]の算出値を連続気泡率とした。
【0069】
<比重>
試験片(約20mm×約20mm×約20mm)を100℃で8時間乾燥させた後、室温で8時間放冷した。この試験片の比重を、比重測定装置(「SGM-300P」、株式会社島津製作所製;液中ひょう量法、精製水、20℃)にて測定した。
【0070】
<耐摩耗性>
以下のようにして、耐摩耗性試験を行った。
まず、試験片(10mm×10mm×10mm)20個を、110℃の乾燥器内で2時間乾燥させて、合計質量M1を測定した。
内周面に耐水サンドペーパー(#100)が貼り付けられた円筒状容器(内径105mm、高さ100mm)内の純水200mLに試験片を浸漬させた。
撹拌羽根(「汎用撹拌翼 タービン SUS先端用」、アズワン株式会社製;3枚羽根タービン翼、直径66mm、高さ14mm)を、直径8mmの撹拌シャフトに取り付け、容器底面中央の底面との間隔が10mmの位置に配置し、回転速度400rpmで、25℃にて24時間撹拌した。
前記容器の内容物をザルに空けて、水及び削り屑と分離した試験片を回収した。回収した試験片を水道水2Lに10秒間浸漬し、再びザルに空けて、試験片を回収することにより洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、110℃の乾燥器内で2時間乾燥させた。この試験片の合計質量M2を測定した。
M2/M1×100[%]で算出される質量残存率を、耐摩耗性の評価指標として表1に示す。質量残存率が60%以上であれば、水処理槽内での担体の使用する際の耐摩耗性が良好であると言える。
【0071】
<微生物付着性>
以下のようにして、微生物付着性の評価を行った。
まず、15L容器に水道水10L、及び種汚泥として好気処理槽の活性汚泥を投入し、BOD源(グルコース;BOD 1000mg/L)を5L/日追加しつつ、25℃で1週間曝気し、微生物培養液を調製した。
試験片(10mm×10mm×10mm)を100℃で8時間乾燥させた後、室温で8時間放冷し、合計質量Maを測定した。
2L容器に、MLSSが700mg/Lになるように調整した微生物培養液1.6Lを入れ、試験片80個(0.08L)を投入し、25℃で、試験片が流動する最低曝気量で曝気撹拌した。BOD源(グルコース;BOD 225mg/L)を投入し、1日毎に水位(液量)の維持調整及びBOD源(グルコース;BOD 225mg/L)の追加投入を行った。
3日後、試験片をザルで回収して水気を軽く切った後、ザルごと水道水に浸漬し、3回軽くゆすり洗いした。この試験片を100℃で8時間乾燥させた後、室温で8時間放冷し、合計質量Mbを測定した。
(Mb-Ma)/0.08[g/L]の算出値を担体への微生物付着量とし、グラファイト粉末が非添加の試験片(比較例1)を基準(100%)としたときの相対値[%]を、微生物付着性の評価指標として表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示した評価結果から、軟質ポリウレタンフォーム中、ポリウレタン樹脂よりもグラファイト粉末の配合量が少ない場合(実施例1~7)は、耐摩耗性が良好であり、かつ、グラファイト粉末が非添加の場合(比較例1)よりも微生物付着性が向上しており、優れた水処理用微生物固定化担体を形成できると言える。
また、グラファイト粉末の配合量が多くなると、軟質ポリウレタンフォームの比重が大きくなり、水中での流動性が低下する傾向が見られた。グラファイト粉末の配合量がポリウレタン樹脂の質量と同量の場合(比較例2)、軟質ポリウレタンフォームの比重が大きすぎて、水中で十分に流動させることが困難であり、微生物付着性の評価を行うことができなかった。
ポリウレタン樹脂100質量部に対するグラファイト粉末の配合量が50質量部以上の場合(実施例5及び6)は、グラファイト粉末の配合量の増加に伴い、軟質ポリウレタンフォームの柔軟性が損なわれ、耐摩耗性が低下する傾向が見られた。