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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163990
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/06 20060101AFI20221020BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
F02D13/06 D
F02D17/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069164
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直也
(72)【発明者】
【氏名】矢部 博行
(72)【発明者】
【氏名】石田 公雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】門田 宏
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AB02
3G092BB01
3G092CA03
3G092DC08
3G092FA01
3G092HB01Z
3G092HE01Z
(57)【要約】
【課題】排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができるエンジンシステムを提供する。
【解決手段】本発明は、複数の気筒2A~2Dの全てに燃料を供給して燃焼させる全筒運転と、特定の気筒(2A、2D)を休止させる減筒運転とを切り替え可能なエンジン1のエンジンシステム100であって、排気通路20と、排気通路を開閉する絞り弁26と、絞り弁の開度を調整する制御器102と、を備え、制御器102は、エンジン1が減筒運転時か全筒運転時かを判定し、減筒運転時と判定された場合、エンジン回転数が、排気脈動が低くなる特定回転数範囲F内か否かを判定し、特定回転数の範囲内と判定された場合、絞り弁の開度を全開と全閉の間の開度に調整するよう構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒の全てに燃料を供給して燃焼させる全筒運転と、複数の気筒のうち特定の気筒への燃料の供給を停止して上記特定の気筒を休止させる減筒運転とを切り替え可能なエンジンのエンジンシステムであって、
上記エンジンの排気通路と、
上記排気通路に設けられ、上記排気通路を開閉する絞り弁と、
上記絞り弁に接続され上記絞り弁の開度を調整する制御器と、を備え、
上記制御器は、上記エンジンが減筒運転時か全筒運転時かを判定し、減筒運転時と判定された場合、エンジン回転数が、排気脈動が低くなる特定回転数の範囲内か否かを判定し、特定回転数の範囲内と判定された場合、上記絞り弁の開度を全開と全閉の間の開度に調整するよう構成されている、ことを特徴とする、エンジンシステム。
【請求項2】
上記絞り弁の全開と全閉の間の開度は、エンジン回転数が上記特定回転数の範囲よりも高回転数のときの上記絞り弁の開度に比べて大である、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
上記絞り弁には、その開度を検出するポジションセンサが設けられ、
上記制御器は、上記ポジションセンサにより検出された絞り弁の実開度が、上記絞り弁の全開と全閉の間の開度である目標開度に対してずれがある場合に、上記絞り弁の実開度が上記目標開度となるよう上記絞り弁を制御する、請求項1または請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
上記特定回転数は上記排気通路のミドルパイプの構成に基づいて定められる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
上記特定回転数の範囲は反共振となる回転数を含むエンジン回転数の範囲である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムに係り、特に、全筒運転と、特定の気筒を休止させる減筒運転とを切り替え可能なエンジンのエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、減筒運転時に排気通路の絞り弁を絞ることで通路断面積を減少させて、排気脈動がEGRクーラを介して吸気通路に伝搬することを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-65465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような技術に対し、本発明者らは研究開発を重ね、特許文献1のように排気通路の絞り弁を絞った場合には、排気ガスが吹き抜けにくくなりポンピングロスが大きくなって燃費を悪化させる要因となり得る、という知見を得た。
【0005】
そこで、本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができるエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の気筒の全てに燃料を供給して燃焼させる全筒運転と、複数の気筒のうち特定の気筒への燃料の供給を停止して特定の気筒を休止させる減筒運転とを切り替え可能なエンジンのエンジンシステムであって、エンジンの排気通路と、排気通路に設けられ、排気通路を開閉する絞り弁と、絞り弁に接続され絞り弁の開度を調整する制御器と、を備え、制御器は、エンジンが減筒運転時か全筒運転時かを判定し、減筒運転時と判定された場合、エンジン回転数が、排気脈動が低くなる特定回転数の範囲内か否かを判定し、特定回転数の範囲内と判定された場合、絞り弁の開度を全開と全閉の間の開度に調整するよう構成されている。
【0007】
このように構成された本発明によれば、減筒運転時に、エンジン回転数が、排気脈動が低くなる特定回転数の範囲内である場合は、絞り弁を全閉と全開の間の開度(全閉と全開を含まない中間開度)にしているので、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。すなわち、特定回転数の範囲内での排気脈動(排気通路内の圧力波)は、特定回転数の範囲以外のエンジン回転数での排気脈動よりも相対的に低いので、絞り弁を全閉にしなくても排気音が過度に増大せず、かつ、絞り弁を全閉と全開の間の開度にすることにより、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができるのである。
【0008】
本発明において、好ましくは、絞り弁の全開と全閉の間の開度は、エンジン回転数が特定回転数の範囲よりも高回転のときの絞り弁の開度に比べて大である。
このように構成された本発明によれば、まず、特定回転数の範囲よりも高回転数のエンジン回転数のときは、相対的に排気脈動が大きくなるので、絞り弁の開度を絞ることで排気音を抑制することができる。次に、そのような高回転数のときよりも回転数が低い特定回転数の範囲内のときは、排気脈動が相対的に小さいので、絞り弁の全開と全閉の間の開度を高回転時の絞り弁の開度に比べて大とすることで、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、絞り弁には、その開度を検出するポジションセンサが設けられており、制御器は、ポジションセンサにより検出された絞り弁の実開度が、絞り弁の全開と全閉の間の開度である目標開度に対してずれがある場合に、絞り弁の開度が目標開度となるよう絞り弁を制御する。
このように構成された本発明によれば、絞り弁の開度の精度が向上するので、排気音の増大をより確実に抑制し、かつ、燃費をより確実に向上させることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、特定回転数は排気通路のミドルパイプの構成で定まる。
このように構成された本発明によれば、より効果的に、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、特定回転数の範囲は反共振の回転数を含む回転数範囲である。
このように構成された本発明によれば、より効果的に、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエンジンシステムによれば、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態によるエンジンシステムの全体構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態によるエンジンシステムの制御装置の制御ブロック図である。
図3】本実施形態によるエンジンシステムの全筒運転時および減筒運転時の運転領域をEGRの有無と共に示すマップである。
図4】エンジン回転数に対する排気通路内の排気脈動の共振/反共振による排気音の増減の一例を示す線図である。
図5】本実施形態によるエンジンシステムの制御フローを示すフローチャートである。
図6】本実施形態によるエンジンシステムによる排気シャッターバルブの制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による自動車のサスペンション装置を説明する。
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1により、本発明の実施形態によるエンジンシステムの全体構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態によるエンジンシステムの全体構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のエンジンシステム100が適用されるエンジン1は、動力源として車両に搭載される4サイクルの多気筒ガソリンエンジンである。具体的に、このエンジン1は、特定方向に並ぶ直列4気筒型エンジンであり、4つの気筒2A~2Dを有する。エンジン1は、エンジン1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路10と、エンジン1の各気筒2A~2Dで生成された排気ガス(燃焼ガス)を排出するための排気通路20と、排気通路20を流通する排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路10に還流するためのEGR装置50とを備えている。EGR装置50は、排気通路20と吸気通路10とを連結するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。
【0016】
また、エンジン1は、図示しないが、気筒2A~2Dが内部に形成されたシリンダブロックと、シリンダブロックの上面に設けられたシリンダヘッドとを有し、シリンダヘッドには、吸気通路10から供給される空気を各気筒2A~2Dに導入するための吸気ポートと、各気筒2A~2Dで生成された排気ガスを排気通路20に導出するための排気ポートと、各気筒2A~2Dと吸気ポートとの連通部を開閉する吸気弁と、各気筒2A~2Dと排気ポートとの連通部を開閉する排気弁とが設けられている。
【0017】
また、シリンダヘッドには、各気筒2A~2Dに燃料を噴射するインジェクタ8(図2参照)と、インジェクタ8から噴射された燃料を燃焼させるために各気筒2A~2Dに火花を放電する点火プラグ9(図2参照)とが設けられている。4サイクル4気筒型の本実施形態のエンジン1では、クランク角で180°CAおきに燃焼が起きるように点火プラグ9による点火タイミングが設定されている。具体的には、図1に示す、気筒2Aを第1気筒、気筒2Bを第2気筒、気筒2Cを第3気筒、気筒2Dを第4気筒とすると、第1気筒2A、第3気筒2C、第4気筒2D、第2気筒2Bの順に等間隔で、180°CAおきに、燃焼が起きるように点火タイミングが設定されている。
【0018】
ここで、本実施形態のエンジン1は、4つの気筒2A~2D全ての燃焼を実行して稼働させる全筒運転だけでなく、4つの気筒2A~2Dのうち2つの気筒を休止(燃焼を停止)させ、かつ、残りの2つの気筒を稼動(燃焼を実行)させる減筒運転が可能な可変気筒エンジンである。このような可変気筒エンジンでは、減筒運転時にエンジン1に発生する振動を抑制するために、点火順序(燃焼順序)が連続しない特定の気筒を選んで休止させることが望ましい。本実施形態では、減筒運転時に、点火順序が連続しない第1気筒2Aおよび第4気筒2Dを特定気筒として休止させ、残りの第2気筒2Bおよび第3気筒2Cのみを稼働するようにしている。休止させる気筒には、インジェクタ8による燃料噴射が停止される。
【0019】
また、減筒運転時には、ポンピングロスを低減する等の観点から、休止気筒の吸気弁および排気弁の開閉動作を停止させることが望ましい。そこで、本実施形態では、減筒運転時に休止される第1気筒2Aおよび第4気筒2D(特定気筒)の吸気弁および排気弁の開閉動作を停止させて閉弁状態に維持する弁停止機構14(図2参照)が動弁装置(図示せず)に内蔵されている。
【0020】
吸気通路10は、その上流側のエアクリーナ(図示せず)からエンジン1に向けて延びる1本の吸気管11と、吸気管11の下流端が接続される所定容量のサージタンク12と、このサージタンク12から分岐して延び、その下流端が各気筒2A~2Dの吸気ポート4にそれぞれ接続される4本の独立吸気管13とを有している。吸気管11には、電動式のスロットル弁15が設けられており、このスロットル弁15の開閉により吸気管11の通路断面積が増減されるようになっている。
【0021】
排気通路20は、いわゆる4-2-1レイアウト型の排気マニホールド21と、排気マニホールド21の下流端に連続して設けられた1本の排気管24とを有している。
排気マニホールド21には、排気ガス中の有害成分を浄化するための第1触媒装置22(いわゆる「直キャタリスト」)が設けられている。なお、排気通路20についての「上流」「下流」とは、その内部を流通する排気ガスの流れ方向に関していうものとする。
【0022】
4-2-1レイアウト型の排気マニホールド21は、排気効率を高める等の理由から、燃焼順序が連続しない気筒毎の独立排気管どうしが集合するようにレイアウトされている。すなわち、まず、第1気筒2Aおよび第4気筒2D用の各独立排気管が集合し、かつ、第2気筒2Bおよび第3気筒2C用の各独立排気管が集合し、さらに、それらの排気管が集合して、上述した排気管24に接続される。
【0023】
排気マニホールド21の下流端には、第1触媒装置22とは別の第2触媒装置23(いわゆる「メインキャタリスト」)を介して、排気管24が接続されている。排気管24の途中にはプリサイレンサと25と排気シャッター弁(排気SV)26とが設けられており、排気管24の下流端にはメインサイレンサ27が接続されている。プリサイレンサ25は、排気音における主に高周波成分を低減するものである。メインサイレンサ27は、排気音における主に低周波成分を低減するものであり、プリサイレンサ25よりも大容量に形成されている。
【0024】
排気シャッター弁26は、排気管24の通路断面積を増減するために設けられた電動式の開閉弁である。この排気シャッター弁26には、その開度を検出する排気シャッター弁ポジション検出センサ(排気SV開度センサ)28、SN7(図2参照)が取り付けられている。
【0025】
ここで、排気管24において、第2触媒装置23の出口からメインサイレンサ27の入口までがミドルパイプ29と呼ばれる。このミドルパイプ29の構成は、排気音の大きさ(音量)に影響を与える。すなわち、排気ポートから排気ガスが排出されるときに生じる圧力波である排気脈動が、ミドルパイプ29の構成で定まる空洞共鳴の固有振動数と一致し、あるいは、圧力波が打ち消し合うことにより、排気脈動の共振(空洞共鳴)および反共振が生じ(図4参照)、排気音の音量を増減させるのである。本実施形態では、排気音の大きさを調整するために、このような排気脈動の共振および反共振の状態に応じて、排気シャッター弁26の開度を制御するようにしている。
【0026】
空洞共鳴に影響を与えるミドルパイプ29の構成は、プリサイレンサ25および排気シャッター弁26を含む排気管24の排気系の長さおよび径が主要因子となる。このような排気系の主要因子により、ミドルパイプ29内の空洞共鳴の固有振動数が定まる。後述する図4に示す特定回転数の範囲Fは、このようなミドルパイプ29の構成に基づいて、実験などにより定められる。
【0027】
次に、図2により、実施形態によるエンジンシステムの制御装置の制御ブロックを説明する。図2は、本発明の実施形態によるエンジンシステムの制御装置の制御ブロック図である。
図2に示すように、本実施形態によるエンジンシステム100は、弁停止機構14や排気シャッター弁(排気SV)26などを制御するコントローラ(ECU)102を有する。コントローラ102は、回路により構成されており、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御器である。コントローラ102は、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)としてのマイクロプロセッサ104と、たとえばRAMやROMにより構成されてプログラムやデータを格納するメモリ106と、電気信号の入出力をするインターフェイス回路などを備えている。
【0028】
コントローラ102は、これらのハードウェア、ソフトウェアにより、後述するように、目標エンジン負荷を演算する演算部、エンジン1が減筒運転時か全筒運転時か判定する気筒停止判定部、減筒運転または全筒運転に応じて、さらに、後述する特定回転数範囲での減筒運転に応じて、排気シャッター弁26の開度を制御する排気SV制御部、排気シャッター弁26の実開度が目標開度になるように制御する補正制御部などを機能的に有している。
【0029】
また、コントローラ102は、気筒数制御部を機能的に有しており、この気筒数制御部は、図示しないエアフローセンサ、エンジン回転数センサSN5、アクセル開度センサSN6の検出値から特定されるエンジンの運転条件(負荷、回転速度等)に基づいて、エンジンの減筒運転および全筒運転のいずれを選択すべきかを判定し、判定した結果に基づいてインジェクタ8、点火プラグ9、弁停止機構14等を制御する。
【0030】
コントローラ102の入力側には、主に、エンジン1のエンジン冷却水の温度を検出する水温センサSN1と、エンジン1のエンジンオイルの油温を検出する油温センサSN2と、エンジンシステム100を搭載した車両の車速を検出する車速センサSN3と、車両に搭載された変速機(図示せず)の変速段を検出するギアポジションセンサSN4と、エンジンの出力軸(クランク軸)の回転速度であるエンジン回転速度を検出するエンジン回転数センサSN5と、車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル(図示せず)の開度を検出するアクセル開度センサSN6と、排気シャッター弁26の開度を検出する排気SVポジションセンサSN7(図1において符号28で示す)とが接続されており、コントローラ102には、各センサSN1~SN7の検出値に対応する信号が入力される。
【0031】
また、コントローラ102の出力側には、主に、インジェクタ8、点火プラグ9、弁停止機構14、スロットル弁15、排気シャッター弁26が接続され、コントローラ102は、各センサSN1~SN7からの出力信号に基づいてそれらを制御する。
すなわち、コントローラ102は、インジェクタ8を制御することにより燃料噴射タイミングを制御し、点火プラグ9を制御することにより点火タイミングを制御し、弁停止機構14を制御することにより、吸気弁および排気弁の開閉動作を停止させて閉弁状態を維持するよう制御し、スロットル弁15を制御することにより、吸気管11の通路断面積を変更することによって、各気筒2A~2Dの燃焼室への吸入空気量を調節する。
また、スロットル弁15およびインジェクタ8を制御することにより空燃比を制御し、インジェクタ8、点火プラグ9およびスロットル弁15を制御することにより、エンジン1が発生する負荷(トルク)が、目標エンジン負荷となるように制御する。
また、後述するような気筒停止領域では、弁停止機構14を制御することにより、吸気弁および排気弁の開閉動作を停止させ、かつ、排気シャッター弁26を制御することにより、排気管24の通路断面積を増減して、排気管24を流通する排気ガスの流量を制御する。
【0032】
次に、図3により、本実施形態によるエンジンシステムの全筒運転および減筒運転の各運転領域を説明する。図3は、本実施形態によるエンジンシステムの全筒運転時および減筒運転時の運転領域をEGRの有無と共に示すエンジン回転速度とエンジン負荷のマップである。
図3において、運転領域Aはエンジンが減筒運転される領域であり、それ以外の領域はエンジンが全筒運転される領域である。図3の例において、減筒運転領域Aは、無負荷近傍の低負荷域および高負荷域を除くエンジン負荷の負荷範囲Xと、低速域および高速域を除くエンジン速度(エンジン回転数)の速度範囲Yとの重複領域に設定されている。
また、目標EGR率は、減筒運転領域Aの外側に設定された境界線Lを境にEGRの有無が切り替わるように設定されている。
【0033】
上述したコントローラ102の気筒数制御部は、各センサSN1~SN7から特定される運転条件が減筒運転領域Aに適合する場合には、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dを休止させる減筒運転のための制御を実行する。すなわち、気筒数制御部は、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dのインジェクタ8および点火プラグ9の作動を停止させるとともに、弁停止機構14を駆動して気筒2A、2Dの吸気弁および排気弁の開閉動作を停止させる。これにより、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dでの燃焼が停止されて、残りの気筒(第2気筒2Bおよび第3気筒2C)のみで燃焼が行われるようになる。
【0034】
一方、気筒数制御部は、運転条件が減筒運転領域Aに適合していない場合には、全ての気筒2A~2Dで燃焼を行わせる全筒運転のための制御を実行する。すなわち、気筒数制御部は、全ての気筒2A~2Dのインジェクタ8および点火プラグ9を作動させるとともに、弁停止機構14による弁停止動作を解除して、全ての気筒の吸気弁および排気弁を開閉させる制御を実行する。
【0035】
上述したコントローラ102が機能的に有する排気SV制御部は、減筒運転領域A以外の領域では、基本的に排気シャッター弁26を全開(たとえば56度)に維持するよう制御する。
【0036】
一方、減筒運転領域Aでは、それ以外の領域よりも排気シャッター弁26の開度が小さくなるように、排気シャッター弁26を閉方向に駆動する。これにより、排気管24の通路断面積を減少させて、排気ガスの流通抵抗を増大させる。
より詳細には、減筒運転領域Aでは、基本的に排気シャッター弁26を全閉(たとえば4度)に維持するよう制御するが、本実施形態では、後述するように、エンジン回転数が特定回転数範囲F(図4参照)であるときには、排気シャッター弁26を、全閉(たとえば4度)と、全開(たとえば56度)との間の中間開度(たとえば18度)に維持するよう制御するようにしている。
【0037】
次に、図4により、エンジン1の作動時に発生する排気通路20内、特に、排気管24のミドルパイプ29内の排気脈動に関する技術事項について説明する。図4は、エンジン回転数に対する排気通路内の排気脈動の共振/反共振による排気音の増減の一例を示す線図である。
まず、エンジン1の作動時、排気弁がエンジン回転数に応じた所定の時間間隔で排気ポート開口部を開閉動作することによって、排気通路20内を流れる排気ガスに所定の周波数の圧力脈動(排気脈動)が生じる。
ここで、排気脈動による排気音の音量は、主に、排気管24の第2触媒装置23の出口からメインサイレンサ27の入口までのミドルパイプ29の構成の影響を受け、図4に示すように、エンジン回転数に対して周期的に変動する。より詳細には、排気脈動に影響を与えるミドルパイプ29の構成は、排気管24を含む排気系(たとえば図1に示す排気管24、プリサイレンサ25、排気シャッター弁26などによる系)における長さおよび径を主要因子とする構成であり、これにより、ミドルパイプ29は、所定の空洞共鳴の固有振動数(ミドルパイプ29内の固有振動数)を有する。
【0038】
排気音の大きさは、このような固有振動数と、排気脈動との共振(共鳴)によって図4のように変動する。たとえば、ミドルパイプ29内の排気脈動の周波数が、ミドルパイプ29内の空洞共鳴の固有振動数と一致すると、ミドルパイプ29内の排気脈動が共振により高まる。図4に示す例では、2つの共振点が生じ、そのような共振点近傍範囲(共振による排気脈動の山)で、排気音の音量が増大している。
【0039】
一方、2つの共振点の間の回転数範囲では、ミドルパイプ29内の排気脈動の周波数が、ミドルパイプ29内の空洞共鳴の固有振動数と一致せず、かつ、圧力波が打ち消し合って排気脈動が弱められる、いわゆる反共振点が生じる。図4に示すように、そのような反共振点およびその近傍範囲(反共振による排気脈動の谷)では、排気音の音量が減少する。
【0040】
本実施形態では、図4に示すように、この反共振点のエンジン回転数(図4に示す例では、1700rpm~2200rpmの間で排気音音量が最も低くなるエンジン回転数)を含み、かつ、上述した「排気系」の排気脈動が谷となり、排気音の音量が低下するエンジン回転数範囲において、排気シャッター弁26の開度が上述した中間開度(たとえば18度)となるように排気シャッター弁26を制御している。
【0041】
本実施形態では、このような排気シャッター弁26を中間開度とするエンジン回転数範囲を、図4に示すように、排気音の音量が低くなる特定回転数範囲F(本実施形態のエンジン1の例では、1700rpm~2200rpmであり、周波数範囲に換算すると約85Hz~約110Hz)に設定し、排気シャッター弁26を中間開度とすることで、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させるようにしている。
【0042】
なお、図4に示す排気音音量の変動は、排気脈動の圧力波の変動に対応し、ミドルパイプ29内の排圧(排気ガス圧力)が、エンジン出力軸の1回転に3回高まるときの変動を示している。
なお、特定回転数範囲Fは、エンジンの種類や型式によって異なり、その場合、上述したように「排気系」を構成する排気管や排気シャッター弁などの系の固有振動数と排気脈動との関係で、排気脈動による排気音が小さくなるような回転数範囲が適宜定められる。
【0043】
次に、図5および図6により、本実施形態によるコントローラ102により実行されるエンジンシステム100の制御内容を説明する。図5は、本実施形態によるエンジンシステムの制御フローを示すフローチャートであり、図6は、本実施形態によるエンジンシステムによる排気シャッターバルブの制御フローを示すフローチャートである。図5および図6において、Sは各ステップを示す。
まず、図5に示すように、S1において、各センサSN1~SN7(図2参照)の値を読み込み、S2において、S1で読み込んだアクセル開度センサSN6の値(アクセルポジション)に基づいて、目標エンジン負荷を演算する。
【0044】
次に、S3に進み、S1で読み込んだエンジン回転数センサSN5の値、および、S2で演算した目標エンジン負荷の値に基づいて、気筒停止可能(減筒運転可能)なエンジン回転数およびエンジン負荷であるか否かを判定する。すなわち、このS3では、図3に示すような減筒運転領域Aであるか否かを判定する。
本実施形態では、エンジン負荷の判定値は、上述した負荷範囲X(図3参照)であり、気筒停止により車両の動力性能に大きな影響を与えずに燃費を向上可能な範囲が設定される。また、エンジン回転数の判定値は、1100rpm~3400rpmの低~中回転の速度範囲Yが設定される。
S3において、エンジン回転数が速度範囲Y内であり、かつ、エンジン負荷が負荷範囲X内であると判定された場合、気筒停止可能であるものとしてS4に進む。
【0045】
S4においては、S1で読み込んだ水温センサSN1および油温センサSN2の各値に基づいて、エンジン水温および油温が気筒停止可能な値であるか否かを判定する。本実施形態では、エンジン水温の判定値が、-40℃以上に設定され、エンジン油温の判定値が25℃以上に設定される。S4において、それらの判定値を満たす場合には、S5に進む。
S5においては、S1で読み込んだ車速センサSN3の値に基づいて、車両の車速が5km/h以上である場合に気筒停止可能であると判定する。S5において気筒停止可能であると判定された場合には、S6に進み、S1で読み込んだギアポジションセンサSN4の値に基づいて、ギアポジションが2速段以上である場合に気筒停止可能であると判定する。
【0046】
上述したS3~S6の全ての判定条件を満たした場合には、S7に進み、気筒停止可能と判定すると共に、上述した減筒運転時のエンジン1の制御を実行する。
一方、上述したS3~S6のいずれかの判定条件を満たさない場合には、S8に進み、気筒停止不可と判定すると共に、上述した全筒運転時のエンジン1の制御を実行する。
【0047】
次に、S9に進み、エンジン1が減筒運転時か否か、すなわち、S7の処理を実行しているか否かを判定する。S9において、減筒運転時であると判定された場合には、S10に進み、図6に示す排気シャッターバルブ制御を実行する。
一方、S8の処理が実行され、S9において全筒運転時であると判定された場合には、S1に戻り、再度、上述した各処理を実行する。
【0048】
次に、図6に示すように、排気SV制御(図5のS10の処理)では、まず、S11において、エンジン回転数センサSN5(図2参照)の値を読み込む。
次に、S12に進み、S11で読み込んだエンジン回転数が、特定回転数範囲内か否かを判定する。このS12における「特定回転数範囲」は、上述した図4に示す「特定回転数範囲F」であり、本実施形態では、1700rpm~2200rpmの範囲である。
S12において、エンジン回転数が特定回転数範囲内である場合には、S13に進み、排気シャッター弁26の開度(SVの目標開度)を、全開と全閉との間の開度に設定する。より詳細には、上述したように、排気SV26の開度を、全閉(たとえば4度)と全開(たとえば56度)との間の中間開度に設定する。本実施形態では、中間開度として18度を目標開度として設定する。
【0049】
一方、S12において、エンジン回転数が特定回転数範囲内でない場合には、S14に進み、エンジン回転数が特定回転数範囲を超えているか否かを判定する。
S14において、エンジン回転数が特定回転数範囲を超えている場合(2200rpmを超えている場合)は、S15に進み、排気音の増大を抑制するために、排気シャッター弁26の開度を全閉(たとえば4度)に設定する。
S14において、エンジン回転数が特定回転数範囲を超えていない場合(1700rpmを下回っている場合)は、S16に進み、排気抵抗を低減するために、排気シャッター弁26の開度を全開(たとえば56度)に設定する。
【0050】
次に、S13、S15またはS16のいずれかのSV開度設定処理が実行された後、S17に進み、それぞれ設定された開度となるように、排気シャッター弁26を駆動制御する。
【0051】
次に、S18は、S13の処理を経た中間開度設定時に実行される。S18では、排気SVポジションセンサSN7、28により検出された排気シャッター弁26の実開度の値を読込みながら、S13で設定した目標値としての中間開度になるよう、排気シャッター弁26を補正制御(フィードバック制御)する。なお、排気SV26の実開度が目標開度(命令値)に対してずれる要因として、排気SV26周辺の雰囲気温度、排気温度などの熱影響により排気SV26が熱膨張することなどが挙げられる。
なお、このS18の補正制御を、S15を経た全閉開度設定時、および/または、S16を経た全開開度設定時にも実行してもよい。
【0052】
次に、本実施形態によるエンジンシステム100の作用効果を説明する。
本実施形態によるエンジンシステム100は、複数の気筒2A~2Dの全てに燃料を供給して燃焼させる全筒運転と、複数の気筒のうち特定の気筒(たとえば2A、2D)への燃料の供給を停止して特定の気筒を休止させる減筒運転とを切り替え可能なエンジン1のエンジンシステム100であって、エンジン1の排気通路20、24と、排気通路20、24に設けられ、排気通路20、24を開閉する絞り弁(排気シャッター弁)26と、絞り弁26に接続されて絞り弁26の開度を調整する制御器102と、を備え、制御器102は、エンジン1が減筒運転時か全筒運転時かを判定し(S9)、減筒運転時と判定された場合、エンジン回転数が、排気脈動が低くなる特定回転数範囲F内か否かを判定し(S12)、特定回転数の範囲内と判定された場合、絞り弁の開度を全開と全閉の間の開度に調整する(S13、S17)よう構成されている。
このように構成された本実施形態によれば、減筒運転時に、エンジン回転数が、排気脈動が低くなる特定回転数範囲F内である場合は、絞り弁26を全閉と全開の間の開度(全閉と全開を含まない中間開度)にしているので、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。すなわち、特定回転数範囲F内での排気脈動(排気通路内の圧力波)は、特定回転数範囲F以外のエンジン回転数での排気脈動よりも相対的に低いので、絞り弁26を全閉にしなくても排気音が過度に増大せず、かつ、絞り弁を全閉と全開の間の開度にすることにより、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができるのである。
【0053】
また、本実施形態によれば、エンジン1の特定回転数範囲F内での絞り弁26の全開と全閉の間の開度(中間開度)は、エンジン回転数が特定回転数範囲Fよりも高回転のときの絞り弁26の開度に比べて大であるので、絞り弁26の開度を絞ることで排気音を抑制することができる。一方、そのような高回転数のときよりも回転数が低い特定回転数範囲F内のときは、排気脈動が相対的に小さいので、絞り弁26の中間開度を高回転時の絞り弁26の開度に比べて大とすることで、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、制御器102は、排気SVポジションセンサ28により検出された絞り弁26の実開度が、絞り弁26の全開と全閉の間の開度である目標開度に対してずれがある場合に、絞り弁26の開度が目標開度となるよう絞り弁を制御するので、絞り弁26の開度の精度が向上する。したがって、排気音の増大をより確実に抑制し、かつ、燃費をより確実に向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、排気脈動が低くなる特定回転数(排気脈動の反共振点)は、排気通路20、24のミドルパイプ29の構成で定まり、また、排気脈動が低くなる特定回転数は、反共振の回転数を含む回転数範囲である。このような本実施形態によれば、より効果的に、排気脈動による排気音の発生を抑制しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【0056】
なお、本発明は、上述した以外の多気筒エンジン、たとえば、4サイクルの6気筒ガソリンエンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン
2A~2D 気筒
10 吸気通路
20 排気通路
21 排気マニホールド
22 第1触媒装置
24 排気管
25 プリサイレンサ
26 排気シャッター弁(排気絞り弁/排気SV)
27 メインサイレンサ
28 排気シャッター弁ポジションセンサ
29 排気管のミドルパイプ
100 エンジンシステム
102 コントローラ(制御器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6