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  • 特開-射出発泡成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022163991
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】射出発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 44/00 20060101AFI20221020BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20221020BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20221020BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20221020BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221020BHJP
   B29C 45/73 20060101ALI20221020BHJP
   B29C 44/10 20060101ALI20221020BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20221020BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
B29C44/00 D
C08J9/04 CES
B29C45/00
B29C45/56
B29C45/26
B29C45/73
B29C44/10
B29K23:00
B29K105:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069166
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 達次
【テーマコード(参考)】
4F074
4F202
4F206
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AA24B
4F074AA98
4F074AB05
4F074AC32
4F074AG01
4F074AG06
4F074BA01
4F074BA24
4F074BA95
4F074CA26
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA19
4F074DA23
4F074DA35
4F202AA03A
4F202AA11
4F202AB02
4F202AB11
4F202AF07
4F202AG20
4F202AR06
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK18
4F202CK19
4F202CN01
4F202CN21
4F206AA03A
4F206AA11
4F206AB02
4F206AB11
4F206AF07
4F206AG20
4F206AR064
4F206AR12
4F206JA04
4F206JF01
4F206JF04
4F206JL02
4F206JM05
4F206JN25
4F206JQ81
4F214AA03A
4F214AA11
4F214AB02
4F214AB11
4F214AF07
4F214AG20
4F214AR06
4F214AR12
4F214UA08
4F214UB01
4F214UC10
4F214UD13
4F214UL25
4F214UM81
(57)【要約】      (修正有)
【課題】剛性を持たせながらも、クッション性を併せ持った発泡成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物を構成する主成分である熱可塑性樹脂(D)の[結晶化温度(Tc)(熱可塑性樹脂(D)が非晶性の場合はガラス転移温度(Tg)-50℃)]~[(TcまたはTg)-90℃]の温度範囲に設定した金型の厚さ(V0)のキャビティに、発泡剤(H)を含む溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出充填し、1秒~12秒後に金型キャビティの厚さ(V0)を210~600%に拡大して熱可塑性樹脂組成物を発泡させ〔厚さ:(V1)〕、5秒以上冷却した後に、キャビティの拡大厚さを、拡大した厚さ(V1-V0)の4~90%の厚さに圧縮し〔厚さ:(V2)〕、0.1秒以上圧力を保持後、金型から発泡体を取り出す。得られる発泡体の厚さ(V3)が、(V1)>(V3)>(V2)である射出発泡体成形体の製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物を構成する主成分である熱可塑性樹脂(D)の[結晶化温度(Tc)(熱可塑性樹脂(D)が非晶性の場合はガラス転移温度(Tg)-50℃)]~[(TcまたはTg)-90℃]の温度範囲に設定した金型の厚さ(V0)のキャビティに、発泡剤(H)を含む溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出充填し、1秒~12秒後に金型キャビティの厚さ(V0)を210~600%に拡大して熱可塑性樹脂組成物を発泡させ〔この時のキャビティ厚さ(V1)とする〕、5秒以上冷却した後に、キャビティの拡大厚さを、拡大した厚さ(V1-V0)の4~90%の厚さに、圧縮(縮小)し〔圧縮時のキャビティ厚さ:V2)、0.1秒以上圧力を保持後、金型から発泡体を取り出して射出発泡体成形体を製造する方法において、得られる発泡体の厚さ(V3)が、(V1)>(V3)>(V2)であることを特徴とする射出発泡体成形体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(D)が、プロピレン系重合体(E)であることを特徴とする請求項1記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、エチレン・α-オレフィン共重合体(F)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物が、充填剤(G)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる発泡剤(H)の含有量が熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、1~8質量部であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記発泡剤(H)が、二酸化炭素系発泡剤、窒素系発泡剤、もしくはその両方であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体の断面が、表面側からソリッドスキン層(A1)/発泡層(B1)/発泡層(C)/発泡層(B2)/ソリッドスキン層(A2)と裏面ソリッドスキン層(A2)(裏面)の5層からなり、
ソリッドスキン層(A1)および(A2)が気泡状の発泡構造が観測されない層であり、発泡層(B1)および発泡層(B2)が下記(b-i)~(b-iii)を満たす層であり、発泡層(C)が下記(b-i)~(b-iii)の少なくとも一つ以上を満たさず、且つ、断面の表裏方向の湾曲したセル壁を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の射出発泡成形体の製造方法;
(b-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有し、
(b-ii):セルの平面方向の平均径が50μm以上200μm以下であり、
(b-iii):セルの断面方向の径が平面方向の平均径に対して、1以上6以下の長さを持つセルから成る。
【請求項8】
前記金型の内面の少なくとも一部にシボ加工が施されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の射出発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなる射出発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる射出発泡成形体は、比重が小さく、成形性やリサイクル性に優れていることから、日用雑貨、台所用品、包装用フィルム、家電製品、機械部品、電気部品、自動車部品など、種々の分野で利用されている。自動車部品では、自動車の安全性や居住性、快適性の向上、さらにIT機器の増加に伴い、車載重量は増加する傾向があることから、プロピレン系重合体を含むプロピレン系樹脂組成物の使用比率が伸びてきている。特に、プロピレン系樹脂組成物からなる発泡成形体は軽量かつ成形外観に優れていることから、自動車部品に好適に使用されている。
【0003】
プロピレン系重合体などの熱可塑性樹脂からなる射出発泡成形体の製造方法の一つとして、キャビティ容積が可変である金型を用い、発泡剤を含む溶融熱可塑樹脂を充填する際にはキャビティ容積を小さくしておき、充填後にキャビティ容積を拡大することで積極的に気泡発生,拡大を促進させる成形方法(コアバック法)が知られている。
【0004】
また、コアバック法において、充填後にキャビティ容積を拡大することで積極的に気泡発生,拡大を促進させた後、発泡体が固化しないうちに、発泡した成形体を圧縮する成形方法も提案されており(特許文献1、特許文献2、特許文献3など)、これらの発泡体は基本的に表層がソリッドスキン層で内部に発泡層を持つ3層構造を成す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-318542号公報
【特許文献2】特開2009-196284号公報
【特許文献3】特開2009-208299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性樹脂を用いた部品は一般的に微妙な凹凸や皮を模したものなどさまざまな模様が付いているが、この模様をシボという。このようなシボは射出成形だけで形成することができ、塗装も必要ないため、自動車の内装部品や家電等では質感を保ちつつ、コストを抑えられるという利点がある。しかしシボを付けても、表皮を貼っていない熱可塑性樹脂成形体を実際に触ると硬く、クッション感に乏しく、実際の表皮を貼った(表皮貼合)部品に比べると高級感が不足している、という問題があった。
【0007】
本発明の目的は、射出発泡成形という成形法を用いて射出発泡の特徴である剛性を持たせながらも、発泡成形体を指で押した時に柔らかさを感じる、クッション性という、従来の射出発泡成形体では得られなかった特性を併せ持った発泡成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、表皮貼合ではなく熱可塑性樹脂組成物の射出発泡成形のみで、成形体に曲げの力を加えたときの曲げ剛性を持ちながら、指で押した時のクッション性を併せ持つ成形体を得るために鋭意検討を加え、射出発泡成形においてコアバックによりキャビティ容積を広げて発泡を行ない、発泡セル壁が固化した後に金型のキャビティ容積を狭める、圧縮工程を加えることにより発泡成形体の発泡層内部に新たに圧縮変形層を形成することでクッション感を付与した成形体が得られることを見い出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を構成する主成分である熱可塑性樹脂(D)の[結晶化温度(Tc)(熱可塑性樹脂(D)が非晶性の場合はガラス転移温度(Tg)-50℃)]~[(TcまたはTg)-90℃]の温度範囲に設定した金型のキャビティ厚さ(V0)に、発泡剤(H)を含む溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出充填し、1秒~12秒後に金型キャビティの厚さ(V0)を210~600%に拡大して熱可塑性樹脂組成物を発泡させ〔この時のキャビティ厚さ(V1)とする〕、5秒以上冷却した後に、キャビティの拡大厚さを、拡大した厚さ(V1-V0)の4~90%の厚さに、圧縮(縮小)し〔圧縮時のキャビティ厚さ:V2)、0.1秒以上圧力を保持後、金型から発泡体を取り出して射出発泡体成形体を製造する方法において、得られる発泡体の厚さ(V3)が、(V1)>(V3)>(V2)であることを特徴とする射出発泡体成形体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表皮貼合ではなく熱可塑性樹脂組成物の射出発泡成形のみで、成形体に曲げの力を加えたときの曲げ剛性を持ちながら、指で押した時のクッション性を併せ持つ成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係る射出発泡成形体の断面画像および断面画像の模式図である。
図2図2は、本発明の射出発泡成形体の製造方法における金型の動作(金型内の熱可塑性樹脂組成物の厚さ)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<射出発泡成形体の製造方法>
本発明の射出発泡成形体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略称する場合がある。)は、熱可塑性樹脂組成物を構成する主成分である熱可塑性樹脂(D)の[結晶化温度(Tc)(熱可塑性樹脂(D)が非晶性の場合はガラス転移温度(Tg)-50℃)]~[(TcまたはTg)-90℃]の温度範囲に設定した金型の厚さ(V0)のキャビティに、発泡剤(H)を含む溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出充填し、1秒~12秒後に金型キャビティの厚さ(V0)を210~600%に拡大して熱可塑性樹脂組成物を発泡させ〔この時のキャビティ厚さ(V1)とする〕、5秒以上冷却した後に、キャビティの厚さを、拡大した厚さ(V1-V0)の4~90%の厚さに、圧縮(縮小)し〔圧縮時のキャビティ厚さ:V2)、0.1秒以上圧力を保持後、金型から発泡体を取り出して射出発泡体成形体を製造する方法において、得られる発泡体の厚さ(V3)が、(V1)>(V3)>(V2)であることを特徴とする。
【0013】
以下、射出発泡成形体の製造方法を各工程に分けて詳述する。
図2に射出発泡成形体の製造方法における金型の動作(金型内の熱可塑性樹脂組成物の厚さ)を示す。図の左側から、射出工程で得られた発泡剤(H)を含む熱可塑性樹脂組成物〔図では樹脂充填量〕の厚さ、当該厚さは金型のキャビティ厚さ(V0)と同じである。次に発泡工程で金型キャビティの厚さが拡大(V1)されて、厚さ(V1)の発泡体となる。次に、冷却工程を得て、圧縮工程で、金型のキャビティ厚さがV2となり、発泡体の厚さも(V2)となる。圧縮工程終了後、金型から取り出された発泡成形体の厚さは復元し、厚さ(V3)の発泡成形体となる。
【0014】
《射出工程》
射出工程は、溶融混練工程により発泡剤(H)を含む可塑化混錬された熱可塑性樹脂組成物を金型内に射出する工程である。
【0015】
金型温度は、熱可塑性樹脂組成物を構成する主成分である熱可塑性樹脂(D)の[結晶化温度(Tc)(熱可塑性樹脂(D)が非晶性の場合はガラス転移温度(Tg)-50℃)]~[(TcまたはTg)-90℃]とし、この金型の固定側と可動側の間に形成されているキャビティに、発泡剤(H)を含む熱可塑性樹脂組成物を射出する。
【0016】
溶融した発泡剤(H)を含む熱可塑性樹脂組成物は射出成型装置のシリンダーからノズルやランナ、ゲート等を通り金型内のキャビティに射出・充填される。成形に使用されるキャビティは板状でもよいが、これに限定されるものではなく、目的とする射出発泡成形体の形状に基づく所望の形状を有していれば良く、表面にシボを付けることも本成形方法の望ましい形態である。
【0017】
なお、このキャビティの型締め時の初期厚みは通常0.7~5mmであり、好ましくは1~3mmである。
このときの射出速度は特に限定されないが、キャビティに発泡剤(H)を含む熱可塑性樹脂組成物を充填する射出時間としては通常0.3~10秒であり、好ましくは0.4~5秒、より好ましくは0.5~3秒である。なお、一般的な射出発泡では射出充填後の保圧は掛けないことが多く、キャビティ内の発泡剤(H)を含む熱可塑性樹脂組成物は冷却され樹脂圧力が低下することで内部に発泡核の生成も期待される。
【0018】
《発泡工程》
発泡工程は、可動型を型開き方向に移動させ(コアバックと呼ばれる)キャビティ容積を拡大することにより、射出工程で射出充填された発泡剤含有熱可塑性樹脂組成物を発泡する工程である。
【0019】
充填された熱可塑性樹脂組成物は、その状態で1秒~12秒間保持されることで表層より温度が低下していく。その後にキャビティ厚(V0)を210~600%に拡大して内部に溶解していた発泡剤が熱可塑性樹脂組成物内部で発泡セルを作ることで発泡が行われる(この時のキャビティ厚(V1))。このときコアバックを行う時間(コアバック開始から終了までの時間)は通常0.1~3秒であり、好ましくは0.1~1.5秒、より好ましくは0.1~1.0秒である。
【0020】
コアバックによるキャビティの拡大に関しては、キャビティ容積が210%未満では発泡セル壁が厚く、圧縮時に発泡層内のセル壁の良好な変形領域を作ることができず、逆に600%を超えた場合ではセル壁の壁面がコアバックにより壊れて、中心に割れを生じたり、セル壁が繊維状になったりするために、曲げ等の外力が加わったときの剛性を維持することができない。
【0021】
《冷却工程》
冷却工程は、キャビティ内の発泡成形体を冷却することで、発泡セル壁を固化させる工程である。
【0022】
キャビティ内の発泡した成形体は5秒以上冷却することで、セル壁が固まり、この後の圧縮工程でセル壁が接着しない状態まで冷却する時間である。
得られる成形体の板厚にもよるが、本成形ではコアバック後に5秒以上経過すると成形体内部の樹脂温度は結晶化温度以下に冷却していると考えられる。
【0023】
《圧縮工程》
圧縮工程は、可動型を型締め方向に移動させキャビティ内の発泡した成形体を圧縮する工程である。
【0024】
発泡後のセル壁が固化した状態で、可動型を閉じる方向に移動させ、成形体の体積を拡大した厚さ(V1-V0)の4~90%を圧縮(縮小)させる(圧縮時の厚さ:V2)。
圧縮する時間(圧縮開始から圧縮終了までの時間)としては特に限定はされないが、0.1~30秒間、望ましくは0.5~10秒間圧縮を行うことが望ましい。
【0025】
この圧縮工程は、成形体を成形機から取り出した後に行うことも出来るが、成形機内で成形体の冷却時間終了前に行うことで、成形機を使用した圧縮が可能であり圧縮の精度も良好で、また取出し後に余分な工程を行う必要が無く効率的である。
【0026】
本発明の射出発泡成形体の製造方法で得られる発泡成形体(以下、「成形体」と呼称する場合がある。)は、当該射出発泡成形体の板厚方向断面において、表面側からソリッドスキン層(A1)/発泡層(B1)/発泡層(C)/発泡層(B2)/ソリッドスキン層(A2)(裏面)の5層からなり、
ソリッドスキン層(A1)および(A2)が気泡状の発泡構造が観測されない層であり、発泡層(B1)および発泡層(B2)が下記(b-i)~(b-iii)を満たす層であり、発泡層(C)が下記(b-i)~(b-iii)の少なくとも一つ以上を満たさず、且つ、断面の表裏方向の湾曲したセル壁を有する成形体である;
(b-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有し、
(b-ii):セルの平面方向の平均径が50μm以上200μm以下であり、
(b-iii):セルの板厚方向断面の平均径が平面方向の平均径に対して、1以上6以下の長さを持つセルから成る。
【0027】
《射出成形条件の簡易予測と調整)
本発明の製造方法は、射出・充填、コアバック、圧縮の工程が有り、また各工程間の移行タイミング設定等非常に多くの条件を設定する必要が有る。発泡可能な温度範囲や圧縮時の温度範囲は樹脂の粘度や発泡剤の添加量等で変化するが、データを事前に準備しておき、簡易的にキャビティ内への熱可塑性樹脂組成物の充填後の温度変化を、CAE等を用いて事前に予測することで、成形体の板厚変更等の設定変更を行っても条件設定を素早く行うことも可能となる。
【0028】
<熱可塑性樹脂(D)>
本発明の製造方法に用い熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂(D)は、射出発泡成形体を製造し得る熱可塑樹脂であれば、特に限定はされず、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-オクテン等のα-オレフィンの単独重合体若しくは共重合体である高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン(所謂HDPE)、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの混合物等を例示することができる。これらのうちでは、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のプロピレン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等がより好ましい。これら熱可塑性樹脂(D)は、単独でも二種以上の熱可塑性樹脂(D)であってもよい。
【0029】
《プロピレン系重合体(E)》
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上である重合体のことをいい、プロピレン系重合体中のプロピレンに由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレンとプロピレン以外のコモノマーとの共重合体であってもよい。
【0031】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)の構造は特に制限されず、例えば、プロピレン由来の構成単位部分は、アイソタクチック構造でも、シンジオタクチック構造でも、アタクチック構造でもよいが、アイソタクチック構造であることが好ましい。また、前記共重合体の場合、ランダム型〔ランダムPPとも呼称〕、ブロック型〔ブロックPP:bPPとも呼称〕、グラフト型のいずれであってもよい。
【0032】
前記コモノマーとしては、プロピレンと共重合可能な他のモノマーであればよく、炭素数2または4~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。コモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0033】
前記共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有量は、柔軟性等の点から、好ましくは10モル%以下である。
これらプロピレン系重合体(E)の中でも、プロピレンを単独で重合させてなるプロピレン単独重合体セグメントと、プロピレンとエチレンを共重合させてなるプロピレン・エチレン共重合体セグメントを含むプロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)が得られる射出発泡成形体の剛性、耐衝撃性などの物理的性質のバランスがよいので、好ましい。
【0034】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばサンアロマー(株)のポリプロピレン、(株)プライムポリマーのプライムポリプロ、日本ポリプロピレン(株)のノバテック、SCG Plastics社のSCG PP等が挙げられる。
【0035】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)のMFR(ASTM D 1238の測定方法に準拠、230℃、2160g荷重)は、好ましくは20~200g/10分であり、より好ましくは30~150g/10分である。
【0036】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)のMFRが前記範囲にあると、射出成形性に優れる。
本発明に係るプロピレン系重合体(E)の結晶化温度(Tc)は、コモノマーの含有量、分子量、アイソタクティシティ等の因子によって異なってくるが、単独重合体やブロック共重合体で約100~130℃、ランダム共重合体で約80~110℃である。なお、プロピレン系重合体にフィラーや核剤等が配合されると先に示した結晶化温度が5~15℃高目になる。なお正確な結晶化温度を使用するためには、結晶化温度の測定を行い、その値を金型温度の決定に使用することが望ましい。
ここで、結晶化温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いてサンプルを一旦融解させ、その後10(℃/分)の速度で冷却し、その降温冷却過程でサンプルが結晶化を起こす温度として測定される値である。
【0037】
〈エチレン・α―オレフィン共重合体(F)〉
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、エチレン・α―オレフィン共重合体(F)を含んでいてもよい。
【0038】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィンを少なくとも共重合させることで得ることができる。炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらの中で、柔軟性付与の観点から、炭素数3~12のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン-1がより好ましく、1-オクテンがさらに好ましい。
【0039】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、通常、エチレンから導かれる単位が70~99モル%、好ましくは80~97モル%の範囲、および炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位が1~30モル%、好ましくは3~20モル%の範囲〔但し、エチレンから導かれる単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位との合計量を100モル%とする。〕にある。
【0040】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)には、必要に応じて、不飽和結合を有する単量体を共重合させることができる。不飽和結合を有する単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン、1、4-ヘキサジエン等の非共役ジオレフィン;ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体等の環状ジエン化合物;及びアセチレン類が好ましい。これらの中でも、柔軟性の観点から、エチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)がより好ましい。
【0041】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、通常、MFR(ASTM D1238 荷重2160g,温度190℃)が、3~70g/10分、好ましくは10~50g/10分の範囲にある。
【0042】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、通常、密度が0.8~0.9g/cm3の範囲にある。
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、たとえば、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム系触媒やメタロセン触媒など公知の重合用触媒を用いて製造することができる。重合方法としても特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、バルク重合法などの液相重合法、気相重合法、その他公知の重合方法で行うことができる。また、これらの共重合体は、本発明の効果を奏する限り限定されず、市販品としても入手可能である。市販品としては、たとえば、ダウ・ケミカル社製の商品名エンゲージ8842〔エチレン・1-オクテン共重合体〕、商品名エンゲージ8407〔エチレン・1-オクテン共重合体〕、エクソンモービル社製のVistalon(登録商標)、住友化学(株)社製のエスプレン(登録商標)、三井化学(株)社製の三井EPT(登録商標)、タフマーP(登録商標)、タフマーA(登録商標)などが挙げられる。
【0043】
〈充填剤(G)〉
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、無機充填剤、有機充填剤などの充填剤(G)を含んでいてもよい。これら充填剤(G)は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
〈無機充填剤〉
本発明に係る無機充填剤としては、種々公知の無機充填剤を使用し得る。具体的には、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、シリカなどの酸化物、硫酸バリウムなどの硫酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
〈有機充填剤〉
本発明に係る有機充填剤としては、種々公知の有機充填剤を使用し得る。具体的には、ポリメトキシシラン系化合物、ポリスチレン、スチレン・アクリル、スチレン・メタクリル系およびメタクリル系化合物、ポリウレタン系化合物、ポリエステル系化合物、フッ化物系化合物、フェノール系化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
〈発泡剤(H)〉
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物に含まれる発泡剤(H)は、種類は特に制限されない。溶剤型発泡剤であっても、分解型発泡剤であってもよく、また窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気等の気体状発泡剤、熱膨張タイプのマイクロカプセル状発泡剤であってもよい。
【0047】
気体状発泡剤は、窒素や二酸化炭素を、そのままシリンダー内に注入しスクリュで溶融樹脂と混錬・溶解させて使用したり、超臨界状態でシリンダー内に注入して混錬・融解して用いてもよい。
【0048】
溶剤型発泡剤は、射出成形機のホッパーあるいはシリンダー部分から注入して溶融原料樹脂に吸収ないし溶解させ、その後射出成形金型中で蒸発して発泡剤として機能する物質である。具体例としては、プロパン、ブタン、ネオペンタン、ヘプタン、イソヘキサン、ヘキサン、イソヘプタン、ヘプタン等の低沸点脂肪族炭化水素や、フロンガスで代表される低沸点のフッ素含有炭化水素が挙げられる。熱膨張タイプのマイクロカプセルは、この溶剤型発泡剤を、アクリロニトリルやメタアクリロニトリル、塩化ビニリデン等のマイクロカプセルに閉じ込めたものであり、カプセル内部で気化させることでカプセルを膨張させ発泡させるものである。
【0049】
分解型発泡剤は、原料樹脂組成物に予め配合されてから射出成形機へと供給され、射出成形機のシリンダー温度条件下で発泡剤が分解して炭酸ガス、窒素ガス等の気体を発生する化合物である。それは、無機系の発泡剤であってもよいし有機系の発泡剤であってもよく、また気体の発生を促すクエン酸のような有機酸やクエン酸ナトリウムのような有機酸金属塩等を発泡助剤として併用添加してもよい。
【0050】
分解型発泡剤には、無機発泡剤と有機系発泡剤がある。無機発泡剤の具体例としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウムが挙げられる。有機発泡剤の具体例としては、N,N'-ジニトロソテレフタルアミド、N,N'-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のN-ニトロソ化合物:アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ化合物;ベンゼンスルフォニルヒドラジド、トルエンスルフォニルヒドラジド、p,p'-オキシビス(ベンゼンスルフェニルヒドラジド)、ジフェニルスルフォン-3,3'-ジスルフォニルヒドラジド等のスルフォニルヒドラジド化合物;カルシウムアジド、4,4'-ジフェニルジスルフォニルアジド、p-トルエンスルフォニルアジド等のアジド化合物が挙げられる。
【0051】
本発明に係る発泡剤(H)は1種単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。本発明に係る発泡剤の(マスターバッチ形式の場合は実成分の)添加量は、発泡成形体の要求物性、発泡剤からの発生ガス量、発泡倍率等を考慮して選択されるが、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、通常1~8質量部である。
【0052】
《熱可塑性樹脂組成物》
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂(D)と上記発泡剤(H)を混合したものを使用して射出成形を行う。
【0053】
本発明に係る発泡剤(H)は熱可塑性樹脂(D)に予め配合してもよいし、射出成形する際に混合したり、シリンダーの途中から注入してもよい。また、発泡剤や発泡助剤等を予め熱可塑性樹脂(D)に配合してマスターバッチを作っておき、それを射出成形する際に熱可塑性樹脂(D)に混合してもよい。
【0054】
なお、発泡剤(H)は射出成形後に金型内で熱可塑性樹脂組成物を発泡させるが、発泡ガスは成形時に溶融樹脂内部から排出されたり、成形後の成形体から時間と共に外気と置換されて抜けていく。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂(D)として以下の重合体等を用いた。
【0056】
(1)プロピレン系重合体(E)
(1-1)プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-1)
プロピレン系重合体(E)として、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(n-デカン可溶部=11質量%、エチレン含量=41モル%、極限粘度[η]=8dl/g、MFR(230℃、2.16kg)=85g/10分)(E1-1)〔表1では(PP-1)と表記〕を用いた。
(1-2)プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-2)
プロピレン系重合体(E)として、プライムポリプロ 商品名NA600(MFR(230℃、2.16kg)=63g/10分、密度=970kg/m3)のプロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-2)〔表1では(PP-2)と表記〕を用いた。
PP-2は、充填剤(G)として、タルクを11質量%含有している。
(1-3)プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-3)
プロピレン系重合体(E)として、プライムポリプロ 商品名X5061(MFR(230℃、2.16kg)=32g/10分、密度=1030kg/m3)のプロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-2)〔表1では(PP-3)と表記〕を用いた。
PP-3は充填剤(G)として、タルクを20質量%含有している。
【0057】
(2)エチレン・α-オレフィン共重合体(F)
エチレン・α-オレフィン共重合体(F)として、エチレン・1-オクテン共重合体(The Dow Chemical Company製、商品名EG8407、MFR(190℃、2.16kg)=30g/10分、密度=0.87kg/m3)〔F-1〕を用いた。
実施例および比較例において、熱可塑性樹脂組成物、重合体、および射出発泡成形体などの物性の測定は以下の方法で行った。
【0058】
[メルトフローレート(MFR)]
発泡剤を含有しない状態で、ASTM D-1238に基づき190℃又は230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0059】
[プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)中のn-デカン不溶部(a1)およびn-デカン可溶部(a2)の含有量]
ガラス製の測定容器に、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体約3g(10-4gの単位まで測定した。また、この質量を、下記の式においてb(g)と表した。)、n-デカン500mL、およびn-デカンに可溶な耐熱安定剤を少量投入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン・エチレン系ブロック共重合体をn-デカンに溶解させた。次いで、150℃で2時間保持した後、8時間かけて23℃まで徐冷した。得られたプロピレン・エチレン系ブロック共重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G-4規格のグラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mLを採取し、これを減圧乾燥して上記成分(a2)の一部を得た。この質量を10-4gの単位まで測定した(この質量を、下記の式においてa(g)と表した)。次いで、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)中の成分(a1)および(a2)の含有量を以下の式により求めた。
成分(a2)の含有量 [質量%]=100×5a/b
成分(a1)の含有量 [質量%]=100-成分(a2)の含有量
【0060】
[極限粘度([η]:dl/g)]
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。
[密度]
ISO 1183(JIS K7112)に準じて測定した。
【0061】
[ソリッドスキン層の厚さの測定]
射出発泡成形体のソリッドスキン層の厚さは以下の方法で測定した。
まず、セルを破壊しないように射出発泡成形体断面を鋭利な刃物で切断し、その断面写真をデジタルマイクロスコープVHX-6000((株)キーエンス社製)を用いて撮影した。断面画像は100倍以上に拡大した画像を撮影し、その断面画像からデジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、ソリッドスキン層と発泡層の境界部分を画像の左右2点取り、それを結んでできる線に対して垂線を引き、ソリッド層の表部との距離をμm単位で測定し、ソリッドスキン層の厚みとした。なお、表層にシボ等(リブ等の面から明らかに飛び出している部分は除く)が有り厚さが場所によりズレを生じるときはシボの頂点と谷部の中間位置をそのソリッド層の端部として、同様に測定を行う。
得られたソリッド状のスキン層(発泡層を挟んだ発泡セルの無い表面と裏面のソリッドスキン層)の厚みをμm単位で計測し、その平均をソリッドスキン層厚(μm)とした。
【0062】
[発泡セル層(B1),(B2)の発泡セル径の測定]
射出発泡成形体のソリッドスキン層に接した発泡セル層(B1)および(B2)に分布している発泡セルの板厚方向セル径と平面方向(板厚と直角の方向)のセル径は以下の方法で測定した。
【0063】
ソリッドスキン層の厚さ測定で使用した断面画像からデジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、板厚方向にほぼ均等の配置となるように、10個以上の発泡セルを定め、その発泡セルの板厚方向のセル径と平面方向のセル径を計測し、それぞれの平均径を発泡セルの径(μm)とした。
【0064】
[発泡層(C)の蛇行角の測定]
射出発泡成形体の発泡セル層(B1)と(B2)に挟まれた発泡層(C)のセル壁の湾曲の大きさを調べる蛇行角度は以下の方法で測定した。
【0065】
ソリッドスキン層の厚さ測定で使用した断面画像からデジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、成形体表面に対する垂線を引き、発泡層(C)の上下1/2の領域から蛇行部左右の傾きを各1点ピックアップして垂線からの傾きを測定し、測定傾きを平均して蛇行角とした。蛇行角が小さいと発泡層(C)のセル壁の変形が起こり難くなるため、蛇行角は25°以上を基準として評価を行った。
【0066】
[射出発泡成形体の厚さ(板厚)]
射出発泡成形体の厚さ(板厚)は、デジタルノギスCD-S15C〔(株)ミツトヨ製〕を使用し、成形体の無い状態でノギスの外側用ジョウを締め込んで表示が0であることを事前に確認した後に、成形体を地面に対して垂直もしくは手前方向に向けてノギスの外側用ジョウのやや奥寄りで挟み込むようにゆっくりと締めて、成形品に傾きの無いようにして測定を行った。このときサムローラを使用して成形体に余分な力が掛からないようできるだけ均一な力で挟み込むように注意してmm単位で測定を行った。
【0067】
[剛性(曲げ弾性勾配)]
射出発泡成形体を50mmx150mmのサイズで切り出し、試験機としてオートグラフ((株)島津製作所製、AG-1kNX plus)を用いて、支持間隔100mmの中心位置に曲げ速度50mm/minの速度で荷重を加え曲げ試験(三点曲げ)を行ったときに、たわみ量が0~10mmの間において得られる「荷重-たわみ曲線」において、JIS K7221-2記載の方法で引かれた線の傾き(=荷重/たわみ)を、曲げ弾性勾配(N/cm)とし、これを剛性比較に使用した。
【0068】
なお、剛性比較に使用した曲げ弾性勾配は、曲げ弾性率1000MPaで板厚2.3mmの成形体で上記同条件の測定で得られた曲げ弾性勾配27N/cm以上を剛性感有りとして評価をした。
【0069】
[押し柔らかさ(押し弾性勾配)]
試験機としてオートグラフ((株)島津製作所製、AG-100kNX)を用いて、射出発泡成形体の平面に、直径4mmで先端が平坦な円形圧子を速度1mm/minで押付けて荷重を加えた試験を行った時に、成形体厚さの減少量が0~10%の間において得られる「力-変形量曲線」において、JIS K7220記載の方法で引かれた線の傾き(=力/変形量)を押し弾性勾配(N/mm)とし、これを押し柔らかさの指標として使用した。
なお、押し柔らかさ比較に使用した押し弾性勾配は、商品名 ミラストマー7030BS〔三井化学(株)製〕を用い板厚1.8mmの成形体で上記同条件の測定で得られた押し弾性勾配の9割以下(押し弾性勾配120N/mm以下)を押し柔らかさ有りとして評価をした。
【0070】
[クッション性]
成形体を指で押した時に、押し柔らかさを感じるかどうかで以下の評価を実施した。
指で表面を押したとき、クッション感がある:○
指で表面を押したとき、クッション感がない:×
【0071】
<実施例1>
上記PP-1を76質量部、および上記F-1を24質量部(合計100質量部)混合して、押出機を用いて通常ペレット状に加工して得た熱可塑性樹脂組成物に対してCO2系発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製、商品名EE515)を組成物:100質量部当り無機発泡剤が5質量部、およびN2系発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製、商品名EE206)を組成物:100重量部当たり2.5質量部になる量で、また着色剤として黒マスターバッチを3重量部添加し混合して射出成形機のホッパーに投入し溶融混練を行った。なお、使用した発泡剤は低密度ポリエチレンに発泡剤を練り込んでマスターバッチ化したものであるため、実際の発泡剤成分としては3質量%相当である。実施例1で用いた熱可塑性樹脂組成物の組成を表1に示す。射出成形機((株)日本製鋼所製、装置名J350ADS)は、以下の条件でコアバック射出発泡成形を行い、表面がスキン層により被覆された板状の射出発泡成形体を得た。
【0072】
キャビティサイズ:縦400mm、横200mm、充填樹脂厚1.8mm
ゲート:キャビティ中央1点ダイレクトゲート
射出温度:205℃
金型表面温度:50℃
射出時金型キャビティクリアランス(L0):1.8mm
射出率:309cc/s
成形機コアバック時間設定:0.1s(コアバック開始から終了までの時間)
射出完了からコアバック開始の時間:5.8s
コアバック量:5mm
圧縮開始時間:コアバック完了後40s
コアバック状態からの圧縮量:1mm
【0073】
得られた成形体は、板厚が6.3mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0074】
<実施例2>
コアバック状態からの圧縮量を、2mmとした以外は実施例1と同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が6.2mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0075】
<実施例3>
コアバック状態からの圧縮量を、3mmとした以外は実施例1と同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が5.9mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0076】
<実施例4>
充填樹脂厚を1.5mmとし、射出時キャビティクリアランスも1.5mmとした。また、射出完了からコアバック開始の時間を3.8s、コアバック量を3mm、圧縮開始時間を30sとした以外は実施例2と同様に成形を行った。得られた成形体は板厚が4.1mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0077】
<実施例5>
発泡剤を無機発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製、商品名EE515)を組成物:100質量部当り6質量部とした以外は実施例4と同じ条件にて成形を行った。得られた成形体は板厚が4.1mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。発泡状態は多少セルが大きめになったが、得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0078】
<実施例6>
実施例1で用いたプロピレン系樹脂組成物に替えて、上記PP-2(タルク含有プロピレン系樹脂組成物)を用いる以外は、同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が5.9mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0079】
<実施例7>
実施例1で用いたプロピレン系樹脂組成物に替えて、上記PP-3(タルク含有プロピレン系樹脂組成物)を用いる以外は、同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が6.1mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
結果を表1に示す。
【0080】
<比較例1>
射出した後にコアバックや圧縮を行わず成形体を取り出した以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体は発泡をしておらず、板厚が1.8mmのソリッド状の成形体であった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。成形体は、ソリッド状態であり、曲げ弾性勾配が低く、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
結果を表1に示す。
【0081】
<比較例2>
コアバック量:1mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が2.8mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
結果を表1に示す。
【0082】
<比較例3>
コアバック量:3mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が4.6mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
結果を表1に示す。
【0083】
<比較例4>
コアバック量:5mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が6.5mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
結果を表1に示す。
【0084】
<比較例5>
射出した後にコアバックや圧縮を行わず成形体を取り出した以外は実施例4と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は発泡をしておらず、板厚が1.5mmのソリッド状であり、曲げ弾性勾配が不足しており、押し弾性勾配が高く、クッション感も不足していた。
結果を表1に示す。
【0085】
<比較例6>
コアバック量:3mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例4と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が4.4mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の射出発泡成形体は、軽量化と質感を併せ持つため、自動車の内装部品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができる。特に軽量性、剛性、外観のバランスに優れるとともに、断熱性にも優れるため、自動車の内装部品に特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
A1、A2:ソリッドスキン層
B1、B2:発泡セル層
C:発泡セルを持たない発泡層
図1
図2