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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164014
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ポリイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069211
(22)【出願日】2021-04-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「戦略的イノベーション創造プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】クマール アミット
(72)【発明者】
【氏名】高田 健司
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043QB31
4J043RA08
4J043UA022
4J043UA091
4J043UA122
4J043UA132
4J043UA431
4J043UA681
4J043UB122
4J043UB152
4J043UB302
4J043ZA12
4J043ZA52
4J043ZB04
4J043ZB11
4J043ZB21
4J043ZB51
(57)【要約】
【課題】ポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れているポリイミドおよびその製造方法、ならびに当該ポリイミドの原料として好適に使用することができるイミド化合物を提供する。
【解決手段】式(III):
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)で表わされる繰返し単位を有するポリイミド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または保護基、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされるイミド化合物。
【請求項2】
式(II):
【化2】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸。
【請求項3】
式(I):
【化3】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または保護基、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされるイミド化合物と、式(IV):
【化4】
(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる酸無水物化合物を反応させることを特徴とする式(II):
【化5】
(式中、R3、R4およびXは前記と同じ)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸の製造方法。
【請求項4】
式(III):
【化6】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミド。
【請求項5】
式(II):
【化7】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸を加熱してイミド化させることを特徴とする式(III):
【化8】
(式中、R3、R4およびXは前記と同じ)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のポリイミドを含有してなるフィルム。
【請求項7】
請求項4に記載のポリイミドを含有してなる成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドに関する。さらに詳しくは、本発明は、イミド化合物ならびに当該イミド化合物を原料とするポリイミドアミド酸およびその製造方法、ならびに当該ポリイミドアミド酸を製造中間体とするポリイミドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、電気工学、電子工学、宇宙工学などの分野で使用されている。従来、ポリイミドの原料として石油が使用されている。原料として石油が使用されておらず、地球環境に優しいポリイミドとして、遺伝子組み換え大腸菌から生産された4-アミノ桂皮酸の二量体が原料として用いられているポリイミドが提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。しかし、当該ポリイミドの原料である4-アミノ桂皮酸の二量体を調製する際に光二量化反応という特殊な方法が必要であることから、当該ポリイミドの調製方法は、汎用性に欠ける。
【0003】
また、水溶性を有し、耐熱性に優れているポリイミドとして、側鎖にカルボキシル基を有するポリイミドが提案されている(例えば、特許文献2および非特許文献2~3参照)。しかし、当該ポリイミドには柔軟性が低いという欠点がある。そこで、当該ポリイミドの柔軟性を改善させるために、当該ポリイミドの原料としてポリイミドに柔軟性を付与する性質を有するイミド化合物を使用することが考えられるが、当該イミド化合物を用いてポリイミドを調製したとき、当該イミド化合物に基づく構造単位がポリマー鎖中で均一に存在するのではなく、ランダムに存在するポリイミドが得られることから、ポリイミドの物性を均一に再現させることが困難である。
【0004】
近年においては、ポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れているポリイミドおよび当該ポリイミドの原料として好適に使用することができるイミド化合物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/073519号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2019/026795号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金子 達雄ら, Macromolecules, 47(5), 1586-1593 (2014)
【非特許文献2】金子 達雄ら. RSC Adv., 8, 14009-14016 (2018)
【非特許文献3】金子 達雄ら. RSC Adv., 10, 38069-38074 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れているポリイミドおよびその製造方法、前記ポリイミドの製造中間体として有用なポリイミドアミド酸およびその製造方法、ならびに前記ポリイミドおよび前記ポリイミドアミド酸の原料として有用なイミド化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または保護基、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされるイミド化合物、
(2) 式(II):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸、
(3) 式(I):
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または保護基、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされるイミド化合物と、式(IV):
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる酸無水物化合物を反応させることを特徴とする式(II):
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、R3、R4およびXは前記と同じ)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸の製造方法、
(4) 式(III):
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミド、
(5) 式(II):
【0021】
【化7】
【0022】
(式中、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸を加熱してイミド化させることを特徴とする式(III):
【0023】
【化8】
【0024】
(式中、R3、R4およびXは前記と同じ)
で表わされる繰返し単位を有するポリイミドの製造方法、
(6) 前記(4)に記載のポリイミドを含有してなるフィルム、および
(7) 前記(4)に記載のポリイミドを含有してなる成形材料
に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れているポリイミドおよびその製造方法、前記ポリイミドの製造中間体として有用なポリイミドアミド酸およびその製造方法、ならびに前記ポリイミドおよび前記ポリイミドアミド酸の原料として有用なイミド化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1で得られた2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)および実施例2~4で得られたイミド化合物の1H-NMRスペクトルを示すグラフである。
図2】実施例1で得られた2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)および実施例2~4で得られたイミド化合物の13C-NMRスペクトルを示すグラフである。
図3】ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)のHSQC(C-H)NMRスペクトルを示すグラフである。
図4】ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)のMALDI-TOF/TOF MSスペクトルを示すグラフである。
図5】ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)のフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
図6】ポリイミドアミド酸(PIAA-1~PIAA-6)の1H-NMRスペクトルを示すグラフである。
図7】ポリイミドアミド酸(PIAA-1~PIAA-6)のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図8】ポリイミド(PII-1~PII-6)のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図9】ポリイミドアミド酸(PIAA-1~PIAA-6)のTGA曲線を示すグラフである。
図10】ポリイミド(PII-1~PII-6)のTGA曲線を示すグラフである。
図11】ポリイミド(PII-1~PII-6)のDSC曲線を示すグラフである。
図12】ポリイミドアミド酸(PIAA-1~PIAA-6)のUV-Visスペクトルを示すグラフである。
図13】ポリイミド(PII-1~PII-6)のUV-Visスペクトルを示すグラフである。
図14】ポリイミドアミド酸(PIAA-1~PIAA-6)の光線透過率を示すグラフである。
図15】ポリイミド(PII-1~PII-6)の光線透過率を示すグラフである。
図16】ポリイミドアミド酸(PIAA-1~PIAA-6)の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図17】ポリイミド(PII-1~PII-6)の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図18】ポリイミド(PII-1)およびポリイミドアミド酸(PIAA-1)のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)イミド化合物
本発明のイミド化合物は、本発明のポリイミドアミド酸およびポリイミドの原料として有用な化合物である。本発明のイミド化合物は、式(I):
【0028】
【化9】
【0029】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または保護基、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされる。
【0030】
式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子または保護基である。保護基は、アミノ基を保護するための基を意味する。保護基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子またはベンジルオキシカルボニル基であることが好ましい。
【0031】
式(I)において、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子であるが、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0032】
式(I)で表わされるイミド化合物の原料として、アミノフェニルアラニンを用いることができる。アミノフェニルアラニンは、商業的に容易に入手することができる化合物であり、例えば、東京化成工業(株)などから入手することができる。
【0033】
アミノフェニルアラニンのベンゼン環に結合しているアミノ基は、式:
【0034】
【化10】
【0035】
(式中、Proは保護基を示す)
で表わされる反応式に示されるように保護されていることが好ましい。なお、前記保護基は、式(I)のR1およびR2における保護基と同様である。
【0036】
アミノフェニルアラニンのベンゼン環に結合しているアミノ基は、以下のようにして保護することができる。
【0037】
アミノフェニルアラニンを酢酸などの溶媒に溶解させ、得られた溶液に水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を添加して当該溶液のpHを3程度に調整する。
【0038】
次に、アミノフェニルアラニンのベンゼン環に結合しているアミノ基を保護するために、前記溶液にアミノ基の保護化剤を添加し、当該保護化剤で当該アミノ基を保護する。保護化剤としては、例えば、塩化ベンジルオキシカルボニル、塩化フルオレニルメトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニルオキシフタルイミド、tert-ブトキシカルボニルオキシイミノフェニルアセトニトリル、tert-ブトキシカルボニルイミダゾール、tert-ブトキシカルボニルトリアゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。その後、前記溶液を水酸化ナトリウムなどの中和剤で中和することにより、式(V):
【0039】
【化11】
【0040】
(式中、Proは前記と同じ)
で表わされるアミノフェニルアラニンの保護体を析出させることができる。析出したアミノフェニルアラニンの保護体は、必要により、精製水、蒸留水などの水で洗浄し、乾燥させてもよい。
【0041】
次に、前記で得られたアミノフェニルアラニンの保護体とシクロブタンテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、式:
【0042】
【化12】
【0043】
(式中、Proは前記と同じ)
で示されるように反応が進行し、式(I)において、R1およびR2がそれぞれ保護基であり、R3およびR4がそれぞれ水素原子であるイミド化合物[テトラオキシシクロブタジピロールビス(アミノフェニルプロパン酸)]が得られる。
【0044】
アミノフェニルアラニンの保護体とシクロブタンテトラカルボン酸二無水物との反応は、例えば、アミノフェニルアラニンの保護体およびシクロブタンテトラカルボン酸二無水物を酢酸などの溶媒に溶解させ、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で還流温度に加熱することによって行なうことができる。反応終了後には、得られた反応溶液を室温にまで冷却し、次いで0~5℃程度の冷水中に添加することにより、生成したイミド化合物[テトラオキシシクロブタジピロールビス(アミノフェニルプロパン酸)]を析出させて回収することができる。回収したイミド化合物[テトラオキシシクロブタジピロールビス(アミノフェニルプロパン酸)]は、必要により、精製水、蒸留水などの水で洗浄し、乾燥させてもよい。
【0045】
次に、前記で得られたイミド化合物[テトラオキシシクロブタジピロールビス(アミノフェニルプロパン酸)]と式(VI):
(R5)3SiCl (VI)
(式中、R5は炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされるケイ素化合物とをメタノールなどの溶媒中にて室温程度の温度で反応させることにより、式:
【0046】
【化13】
【0047】
(式中、ProおよびR5は前記と同じ)
で示されるように反応が進行し、式(I)において、R1およびR2がそれぞれ保護基であり、R3およびR4がそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子であるイミド化合物が得られる。得られたイミド化合物は、濾過によって回収することができる。回収したイミド化合物は、必要により、精製水、蒸留水などの水で洗浄し、乾燥させてもよい。
【0048】
次に、前記で得られたイミド化合物の保護基(Pro)の脱保護を行なうことにより、式:
【0049】
【化14】
【0050】
(式中、R5は前記と同じ)
で表わされるイミド化合物が得られる。イミド化合物の保護基の脱保護は、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスの雰囲気中で室温下にて保護基を有するイミド化合物を酢酸などの溶媒に溶解させ、臭化水素と接触させることによって行なうことができる。
【0051】
前記で得られたイミド化合物は、必要により、ジエチルエーテル、酢酸などの溶媒で洗浄してもよい。さらにイミド化合物の純度を高める場合には、当該イミド化合物を水に溶解させて不溶物を濾過によって除去した後、アンモニア水などで中和することによって当該イミド化合物を析出させてもよい。また、前記で得られたイミド化合物は、アセトニトリル/メタノール溶液で再結晶させてもよい。
【0052】
前記で得られたイミド化合物は、式(I)において、R1およびR2がそれぞれ水素原子であり、R3およびR4がそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基またはアルカリ金属原子であるイミド化合物である。
【0053】
以上のようにして式(I)で表わされるイミド化合物が得られる。式(I)で表わされるイミド化合物は、以下に示すポリイミドアミド酸およびポリイミドの原料として有用である。
【0054】
(2)ポリイミドアミド酸
本発明のポリイミドアミド酸は、式(II):
【0055】
【化15】
【0056】
(式中、R3およびR4は前記と同じであり、Xは置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基を示す)
で表わされる繰返し単位を有する。本発明のポリイミドアミド酸は、式(III)で表わされる繰返し単位を有するポリイミドの製造中間体として有用である。
【0057】
式(II)において、Xは、置換基を有していてもよい炭素数4~14の炭化水素基である。Xのなかでは、炭素数4~14の脂環式炭化水素基および置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基が好ましい。Xが有していてもよい置換基は、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば特に限定されない。前記置換基は、炭化水素基が有する水素原子と置換されていてもよく、炭化水素基間に介在するヘテロ原子を有する基であってもよい。好適なXとしては、例えば、
【0058】
【化16】
【0059】
などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0060】
本発明のポリイミドアミド酸が式(II)で表わされる繰返し単位を有することは、例えば、1H-核磁気共鳴(NMR)スペクトル、13C-核磁気共鳴(NMR)スペクトル、赤外吸収(IR)スペクトル、質量分析などにより、容易に確認することができる。
【0061】
本発明のポリイミドアミド酸の数平均分子量は、親水性、透明性、耐熱性、柔軟性および伸び性を向上させる観点から、好ましくは10万~150万、より好ましくは15万~120万である。本発明のポリイミドアミド酸の数平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0062】
本発明のポリイミドアミド酸は、式:
【0063】
【化17】
【0064】
で示されるように、式(I)で表わされるイミド化合物と、式(IV):
【0065】
【化18】
【0066】
(式中、Xは前記と同じ)
で表わされる酸無水物化合物を反応させることによって調製することができる。
【0067】
式(IV)で表わされる酸無水物化合物の代表例としては、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、ピロメリット酸無水物(PMDA)、ビフタル酸無水物(BPDA)、オキシジフタル酸無水物(OPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0068】
式(I)で表わされるイミド化合物および式(IV)で表わされる酸無水物化合物を酢酸ジメチルなどの溶媒に溶解させ、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気中で室温にて式(I)で表わされるイミド化合物と式(IV)で表わされる酸無水物化合物とを反応させることにより、ポリイミドアミド酸を調製することができる。式(I)で表わされるイミド化合物と式(IV)で表わされる酸無水物化合物との反応終了後には、必要により、例えば水-メタノールの混合溶媒に滴下することにより、ポリイミドアミド酸を沈殿させて回収してもよい。回収したポリイミドアミド酸は、必要により、精製水、蒸留水などの水で洗浄し、乾燥させてもよい。
【0069】
(3)ポリイミド
本発明のポリイミドは、式(III):
【0070】
【化19】
【0071】
(式中、R3、R4およびXは前記と同じ)
で表わされる繰返し単位を有する。本発明のポリイミドは、式(II)で表わされるポリイミドアミド酸を用いて調製することができる。
【0072】
式(III)において、R3、R4およびXは、いずれも式(II)で表わされるポリイミドアミド酸と同様である。
【0073】
本発明のポリイミドが式(III)で表わされる繰返し単位を有することは、例えば、1H-核磁気共鳴(NMR)スペクトル、13C-核磁気共鳴(NMR)スペクトル、赤外吸収(IR)スペクトル、質量分析などにより、容易に確認することができる。
【0074】
本発明のポリイミドの数平均分子量は、親水性、透明性、耐熱性、柔軟性および伸び性を向上させる観点から、好ましくは10万~150万、より好ましくは15万~120万である。本発明のポリイミドアミド酸の数平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0075】
本発明のポリイミドは、式(II)で表わされる繰返し単位を有するポリイミドアミド酸を加熱してポリイミドアミド酸を熱イミド化させることによって調製することができる。
【0076】
ポリイミドアミド酸の熱イミド化は、通常、室温から200~250℃程度の温度まで段階的にまたは徐々に昇温することにより、ポリイミドが生成するまで行なうことができる。
【0077】
以上のようにして得られる本発明のポリイミドは、式(III)で示されるようにポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れているので、例えば、フィルムなどの成形材料、ディスプレイ、光学レンズなどの光学材料、コンピュータハーネス、繊維などの種々の用途に使用することが期待されるものである。
【実施例0078】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
なお、以下の各実施例および比較例で得られた化合物の物性は、以下の方法に基づいて調べた。
【0080】
1H-NMRおよび13C-NMR〕
測定装置として核磁気共鳴分光装置(ブルカー社製、商品名:AVANCE III HD NMR Spectrometer 400MHz)を用い、サンプル5mgを0.5mLのジメチルスルホキシド-d6に溶解させ、得られた溶液をガラス製サンプルチューブに移し、25℃の条件で積算回数を16回として核磁気共鳴を調べた。
【0081】
〔HSQC(C-H)NMR〕
測定装置として核磁気共鳴分光装置(ブルカー社製、商品名:AVANCE III HD NMR Spectrometer 400MHz)を用い、サンプル5mgを0.5mLのジメチルスルホキシド-d6に溶解させ、得られた溶液をガラス製サンプルチューブに移し、25℃の条件で積算回数をカーボンで128回、プロトンで16回として核磁気共鳴〔HSQC(C-H)NMR〕を調べた。
【0082】
〔フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル〕
測定装置としてパーキン・エルマー(Perkin Elmer)社製、商品名:Spectrum 100 (ATR法)を用い、測定波数領域を400~4000cm-1とし、積算回数を4回としてフーリエ変換赤外分光(FT-IR)を測定した。
【0083】
〔マトリックス支援レーザー脱離イオン化タンデム飛行時間型質量分析〕
測定装置としてブルカー・ダルトニックス・インク(Bruker Daltonics Inc.)社製、商品名:MALDI-TOF/TOF MS UltrafleXtremeを用い、イミド化合物の濃度が6.0mg/mL、マトリックス剤としてゲンチジン酸の濃度が9.0mg/mL、カチオン化剤としてトリフルオロ酢酸ナトリウムの濃度が10mg/mLであるテトラヒドロフラン溶液を用い、測定モードをリフレクターモードにてマトリックス支援レーザー脱離イオン化タンデム飛行時間型質量(MALDI-TOF/TOF MS)を調べた。
【0084】
〔ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)〕
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定装置として、送液ポンプユニット〔日本分光(株)製、品番:PU-2080〕、カラムオーブン〔ジー・エル・サイエンス(GL Science)社製、品番:CO 631A、設定温度:40℃〕、紫外可視検出器〔日本分光(株)製、品番:UV-2075〕、示差屈折計〔日本分光(株)製、品番:RI-2031〕、カラム〔昭和電工(株)製、商品名:Shodex(登録商標) SB-806M HQ、2本〕を用いた。また、標準物質としてポリメチルメタクリレートスタンダード(分子量:3070、7360、18500、68800、211000、569000または1050000)を用い、移動相として臭化リチウムの濃度が0.01mol/Lの臭化リチウムのN,N’-ジメチルホルムアミド溶液を用い、当該溶液の流速を1.0mL/minに調整して数平均分子量を求めた。
【0085】
ポリマーの熱的性質は、熱重量分析(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)で評価した。
〔熱重量分析(TGA)〕
熱重量分析(TGA)の測定装置として熱重量-示差熱同時測定装置〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:STA7200〕を用い、プラチナパンを使用した。
【0086】
窒素ガスの雰囲気中で窒素ガスの流速を250mL/minに調整し、リファレンスをブランク(サンプルなし)とし、熱重量分析の前にサンプル4~8mgを25℃から180℃まで20℃/minの昇温速度で加熱し、180℃の温度を30分間保持した後、180℃から25℃まで20℃/minの降温速度で冷却し、20℃で20分間保した。
【0087】
次に、25℃から800℃まで10℃/minの昇温速度でサンプルを加熱することにより、熱重量分析を行ない、サンプルの重量が1%減少したときの温度をTd1とし、サンプルの重量が5%減少したときの温度をTd5とし、サンプルの重量が10%減少したときの温度をTd10とした。
【0088】
〔示差走査熱量測定(DSC)およびガラス転移温度〕
示差走査熱量測定(DSC)およびガラス転移温度(以下、Tgという)は、示差熱同時測定装置〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:X-DSC 7000T〕を用い、アルミニウムパンを使用し、昇温速度を10℃/minに調整して測定した。
【0089】
窒素ガスの雰囲気中で窒素ガスの流速を40mL/minに調整し、リファレンスをブランク(サンプルなし)とし、サンプル3~5mgを25℃から10℃/minの昇温速度でサンプルの分解温度(250~300℃の範囲)に昇温し、当該分解温度を5分間維持した後、10℃/minの降温速度で25℃まで高温し、25℃で10分間保持する一連の操作を1サイクルとし、当該サイクルを3回繰返して示差走査熱量を測定し、2回目または3回目のサイクルで得られたデータを使用した。
【0090】
〔UV-Visスペクトル〕
紫外可視赤外分光光度計〔日本分光(株)製、品番:V670〕を用いて厚さが30μmのフィルム状サンプルのUV-Visスペクトルを測定波長200~800nmにて調べた。
【0091】
〔電気的特性〕
電気特性として、超絶縁計〔日置電機(株)製、商品名:HIOKI DSM-8104〕および平板試料用電極〔日置電機(株)製、商品名:HIOKI SME-8311〕を用い、厚さが30μmのフィルム状サンプルの電気抵抗を測定した。
【0092】
〔光線透過率〕
キャスト法によって形成された厚さが30μmのフィルム状サンプルに波長400nmまたは450nmの光線を照射し、紫外可視分光測定器〔日本分光(株)製、商品名:Jasco V670〕を用いて測定した。また、光線が50%透過するときの波長(以下、T50%という)を調べた。
【0093】
〔黄色度〕
分光測色計〔コニカミノルタジャパン(株)製、品番:CM-5〕を用いて厚さが30μmのフィルム状サンプルの黄色度の測定波長200~800nmにて調べた。
【0094】
〔ポリマーの溶解性〕
サンプルのポリマー3~5mgに各種溶媒1mLを添加し、室温(約20℃)で静置し、ポリマーの添加の開始から1時間経過した時点でポリマーが溶媒に溶解しているかどうかを調べた。なお、ポリマーの添加の開始から1時間経過してもポリマーが溶媒に溶解しなかった場合には、超音波を照射するか、または60℃に加熱することによって溶解するかどうかを調べた。
【0095】
〔引張強度〕
引張強度を測定する際に、縦25mm、横2.0mm、厚さ30μmのフィルム状サンプルを用いた。引張強度は、万能材料試験機〔インストロン(INSTRON)社製、品番:Series 3365 Load Frames-5kND〕を用い、チャック間距離を25mmに設定し、前記フィルム状サンプルをチャックで固定し、クロスヘッド速度0.50mm/minで当該フィルム状サンプルを引っ張ることによって求めた。なお、引張強度を測定する際に、ソフトとしてブルーヒル(登録商標)・ユニバーサル(Bluehill Universal、Ver. 2.18)を使用し、トランスデューサーとしてフルスケール±5kNを使用した。
【0096】
〔ヤング率、最大応力および歪エネルギー密度〕
厚さが30μmのフィルム状サンプルの一端の縦5mm、横10mmの長方形の部分を引張部分とし、試験片の両面に粘着テ-プを貼り、引張試験機〔インストロン(INSTRON)社製、万能材料試験機、品番:3367〕のチャックに取り付けて引張試験を行なった。
【0097】
引張試験の際に得られた応力-ひずみ曲線において、垂直応力を縦ひずみで除することにより、ヤング率を算出した。
【0098】
引張試験の際に得られた応力-ひずみ曲線において、サンプルが破断したときの最大応力を求めた。
【0099】
また、引張試験の際に得られた応力-ひずみ曲線の縦軸と横軸と曲線で囲まれた領域の面積を歪エネルギー密度とした。
【0100】
〔X線回折およびポリマーの結晶性〕
全自動多目的X線回折装置〔(株)リガク製、商品名:Smart Lab〕用いて厚さが30μmのフィルム状サンプルのX線回折を調べた。
【0101】
また、前記で得られたX線回折図におけるピークの面積を求め、結晶成分のピーク面積を全ピーク面積で除した値でポリマーの結晶性を評価した。
【0102】
実施例1〔2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)の調製〕
【0103】
【化20】
【0104】
4-アミノフェニルアラニンの10%酢酸溶液680mLに室温下で5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、当該酢酸溶液のpHを3に調整した。当該溶液に、塩化ベンジルオキシカルボニル12mLを溶解させた1,4-ジオキサン680mLを室温下で滴下し、16時間攪拌することにより、4-アミノフェニルアラニンと塩化ベンジルオキシカルボニルとを反応させた。
【0105】
前記で得られた反応溶液に5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応溶液のpHを7に調整することにより、固体を析出させた。析出した固体を濾過により回収し、蒸留水で洗浄した。
【0106】
前記で得られた固体を減圧下で乾燥させることにより、白色の2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)を固体で得た(収率72%)。
【0107】
実施例2〔2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸)(CBDA-4APhe)の調製〕
【0108】
【化21】
【0109】
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物3.12g(2.5mmol)と2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)10g(5mmol)を室温下で酢酸60mLに溶解させ、窒素ガスの雰囲気中で24時間攪拌することにより、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)とを反応させた。
【0110】
反応終了後、前記で得られた反応溶液を120℃に加熱し、反応系内を24時間還流させた。還流後、反応溶液を室温付近(約20℃)まで冷却し、反応溶液を冷水(約0~2℃)1Lに添加し、1時間攪拌することにより、析出物を得た。前記で得られた析出物を濾過により回収し、蒸留水で洗浄し、減圧乾燥させることにより、目的の化合物である2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸)(CBDA-4APhe)を得た(収率83%)。
【0111】
実施例3〔ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Z)の調製〕
【0112】
【化22】
【0113】
前記で得られた2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸)(CBDA-4APhe)10gおよびトリメチルシリルクロリド35mLをメタノールに添加して混合し、室温(約20℃)下で48時間反応させた。
【0114】
反応終了後、析出した固体を濾過により回収し、回収された固体を減圧乾燥することにより、目的の化合物であるジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Ze)6.5gを得た(収率62%)。
【0115】
実施例4〔ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)の調製〕
【0116】
【化23】
【0117】
前記で得られたジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Z)5gを臭化水素の酢酸溶液50mLに添加し、得られた混合物を窒素ガスの雰囲気中で室温(約20℃)にて48時間攪拌することにより、ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Z)と臭化水素とを反応させた。
【0118】
前記で得られた反応溶液にジエチルエーテル100mLを添加し、デカンテーション(傾瀉)によって上澄み液を除去した後、得られた固形物を酢酸で洗浄し、濾過することにより、固形物を回収した。回収された固形物を減圧乾燥させることにより、粗生成物4.9gを得た。
【0119】
前記で得られた粗生成物を蒸留水に溶解させ、得られた水溶液を濾過することにより、不溶物を除去した後、濾液にアンモニア水を添加して濾液のpHを7に調整し、生成物を析出させた。生成した析出物を濾過により回収し、減圧乾燥させることにより、固体を得た。前記で得られた固体をアセトニトリルとメタノールとの混合溶液中で再結晶させることにより、目的物であるジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)3.5gを得た。
【0120】
実施例5〔ポリイミドアミド酸およびポリイミドの調製〕
【0121】
【化24】
【0122】
アルゴンガスの雰囲気中でジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)0.5mmol(0.274g)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)0.5mmol(98.1mg)を酢酸ジメチル0.6mLに溶解させ、得られた溶液を室温(約20℃)で48時間撹拌することにより、ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)と1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とを反応させた。
【0123】
反応終了後、前記で得られた反応溶液に酢酸ジメチル1.0mLを添加し、水-メタノール(質量比:1/1)混合溶媒150mL中に滴下することにより、固体を析出させた。析出した固体を吸引濾過によって回収し、減圧乾燥させることにより、フィブリル状のポリイミドアミド酸(PIAA-1)323mgが得られた(収率87%)。
【0124】
前記で得られたポリイミドアミド酸を100℃、150℃、200℃、250℃でそれぞれ1時間ごと段階的に昇温させることにより、熱イミド化を行ない、目的化合物であるポリイミド(PII-1)を得た。
【0125】
前記1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)の代わりにピロメリット酸無水物(PMDA)0.5mmolを用いたこと以外は前記と同様の操作を行うことにより、ポリイミドアミド酸(PIAA-2)およびポリイミド(PII-2)を得た。
【0126】
前記1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)の代わりに4,4’-ビフタル酸無水物(BPDA)0.5mmolを用いたこと以外は前記と同様の操作を行うことにより、ポリイミドアミド酸(PIAA-3)およびポリイミド(PII-3)を得た。
【0127】
前記1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)の代わりに4,4’-オキシジフタル酸無水物(OPDA)0.5mmolを用いたこと以外は前記と同様の操作を行うことにより、ポリイミドアミド酸(PIAA-4)およびポリイミド(PII-4)を得た。
【0128】
前記1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)の代わりに3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)0.5mmolを用いたこと以外は前記と同様の操作を行うことにより、ポリイミドアミド酸(PIAA-5)およびポリイミド(PII-5)を得た。
【0129】
前記1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)の代わりに3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)0.5mmolを用いたこと以外は前記と同様の操作を行うことにより、ポリイミドアミド酸(PIAA-6)およびポリイミド(PII-6)を得た。
【0130】
〔各実施例で得られた化合物の構造解析〕
実施例1で得られた2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)および実施例2~4で得られたイミド化合物の1H-NMRスペクトル(400MHz, DMSO-d6)をそれぞれ順に図1に示す。実施例1で得られた2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)および実施例2~4で得られたイミド化合物の13C-NMRスペクトル(100MHz, DMSO-d6)をそれぞれ順に図2に示す。これらの結果から、実施例1で得られた2-アミノ-3-(4-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)フェニル)プロパン酸(4APhe-z)および実施例2~4で得られたイミド化合物の構造を特定することができた。
【0131】
実施例4で得られたジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)のHSQC(C-H)NMRスペクトル(400MHz, DMSO-d6)を図3に示す。ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)のMALDI-TOF/TOF MSスペクトルを図4に示す。ジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)のフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを図5に示す。これらの結果から、実施例4で得られたジメチル-2,2’-(1,3,4,6-テトラオキソオクタヒドロシクロブタ[1,2-c:3,4-c’]ジピロール-2,5-ジイル)ビス(3-(4-アミノフェニル)プロパノエート)(CBDA-4APhe-Me)の構造を確認することができた。
【0132】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸の1H-NMRスペクトル(400MHz, DMSO-d6)を図6に示す。実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸のFT-IRスペクトルを図7に示す。また、実施例5で得られた各ポリイミドのFT-IRスペクトルを図8に示す。これらの結果から、実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドの構造を特定することができた。
【0133】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸のTGA曲線を図9に示す。また、実施例5で得られた各ポリイミドのTGA曲線を図10に示す。これらの結果から、各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドは、いずれも約400℃の耐熱温度を有することから耐熱性に優れていることがわかる。
【0134】
実施例5で得られた各ポリイミドのDSC曲線を図11に示す。これらの結果から、実施例5で得られた各ポリイミドは、255~295℃の範囲で融解することから溶融させることによって成形することができることがわかる。
【0135】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸のUV-Visスペクトルを図12に示す。また、実施例5で得られた各ポリイミドのUV-Visスペクトルを図13に示す。これらの結果から、実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸およびポリイミドは、いずれも200~300nmの波長領域の紫外線を吸収することから紫外線の吸収性が要求される用途に好適に用いることができることがわかる。
【0136】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸の光線透過率を図14に示す。また、実施例5で得られた各ポリイミドの光線透過率を図15に示す。これらの結果から、実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸およびポリイミドは、いずれも可視領域において透明性に優れていることから光学レンズなどの可視光線の透過性が要求される用途に適していることがわかる。
【0137】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸の物性を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1に示された結果から、各ポリイミドアミド酸は、高収率で得られ、その数平均分子量が10万~150万の範囲内にあり、波長450nmの光線透過率が高く、光線透過率が50%のときの波長が315~410nmの領域にあり、黄色度が低いことがわかる。
【0140】
実施例5で得られた各ポリイミドの物性を表2に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
表2に示された結果から、各ポリイミドは、耐熱温度が約300℃以上であり、電気抵抗に優れ、光線透過率が高く、黄色度が低いことがわかる。
【0143】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドの各種溶媒に対する溶解性を調べた結果を表3に示す。なお、表3において、「-」は、ポリマーが溶媒に不溶であることを意味し、「+」は、ポリマーが溶媒に溶解することを意味し、「*」は、ポリマーが溶媒によって膨潤することを意味し、「±」は、ポリマーが溶媒に部分的に溶解することを意味する。
【0144】
【表3】
【0145】
表3に示された結果から、各ポリイミドアミド酸は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸などの溶媒に対する溶解性に優れており、各ポリイミドは、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、水酸化ナトリウム水溶液などの溶媒に対する溶解性に優れていることがわかる。このことから、前記ポリイミドアミド酸および前記ポリイミドは、各種溶媒に対する溶解性に優れているので、溶媒に溶解させて溶液として用いてキャスティングなどの方法によりフィルムなどの成形体に成形することができることから、成形性に優れている。
【0146】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸の応力-ひずみ曲線を図16に示す。また、実施例5で得られた各ポリイミドの応力-ひずみ曲線を図17に示す。これらの結果から、各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドは、いずれも柔軟性に優れていることがわかる。
【0147】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドの機械的性質を表4に示す。
【0148】
【表4】
【0149】
表4に示された結果から、各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドは、いずれも機械的強度に優れていることがわかる。
【0150】
実施例5で得られたポリイミドアミド酸(PIAA-1)およびポリイミド(PII-1)のX線回折図を図18に示す。図18に示された結果から、ポリイミドアミド酸(PIAA-1)およびポリイミド(PII-1)は、X線回折図がブロードであることから、結晶性が低いことがわかる。
【0151】
実施例5で得られた各ポリイミドアミド酸およびポリイミドの結晶性を表5に示す。
【0152】
【表5】
【0153】
表5に示された結果から、各ポリイミドアミド酸および各ポリイミドは、いずれも結晶性が低いことがわかる。
【0154】
以上の結果から、本発明のポリイミドは、式(III)で示されるようにポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明のポリイミドは、ポリマー鎖に規則的な繰返し単位を有し、耐熱性、柔軟性、溶媒に対する溶解性および成形性に総合的に優れていることから、例えば、フィルムなどの成形材料、ディスプレイ、光学レンズなどの光学材料、コンピュータハーネス、繊維などの種々の用途に使用することが期待されるものである。
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