(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164019
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069220
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】武田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】金田 浩
(72)【発明者】
【氏名】水野 ゆかり
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA04
3H131BA06
3H131BA11
3H131BA15
3H131CA31
3H131CA35
(57)【要約】
【課題】 気体吸着物体に起因して軸方向の吸気口の長さを大きくせずに、気体吸着物体を配置したターボ分子ポンプを得る。
【解決手段】 当該ターボ分子ポンプは、ケーシング(外筒127)内にロータ部およびステータ部を備える。そして、当該ターボ分子ポンプは、そのステータ部またはケーシングにおいてゲッタポンプ部を備え、また、そのゲッタポンプ部における気体吸着物体401の活性化および再生化の少なくとも一方を行うヒータ部402を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内にロータ部およびステータ部を備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記ステータ部または前記ケーシングに配置されたゲッタポンプ部と、
前記ゲッタポンプ部における気体吸着物体の活性化および再生化の少なくとも一方を行うヒータ部と、
を備えることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項2】
前記ゲッタポンプ部は、前記ステータ部に配置され、
前記ステータ部は、複数段の固定翼と、前記複数段の固定翼の位置決めをする複数段の固定翼スペーサとを備え、
前記ゲッタポンプ部は、前記複数段の固定翼のうちの少なくとも1段の固定翼、または前記複数段の固定翼スペーサのうちの少なくとも1段の固定翼スペーサに配置されていること、
を特徴とする請求項1記載のターボ分子ポンプ。
【請求項3】
前記ヒータ部は、前記固定翼スペーサに配置されることを特徴とする請求項2記載のターボ分子ポンプ。
【請求項4】
前記気体吸着物体の温度制御を行うための温度センサと、制御装置とをさらに備え、
前記制御装置は、前記温度センサの出力信号に基づいて前記気体吸着物体の温度制御を行い、
前記ゲッタポンプ部は、前記ステータ部に配置され、
前記ステータ部は、複数段の固定翼と、前記複数段の固定翼の位置決めをする複数段の固定翼スペーサとを備え、
前記温度センサは、前記複数段の固定翼スペーサのうちの少なくとも1段の固定翼スペーサに配置されること、
を特徴とする請求項1記載のターボ分子ポンプ。
【請求項5】
制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記ヒータ部の導通電流を特定し、前記導通電流に基づく定抵抗制御を行うことで前記気体吸着物体の温度制御を行うこと、
を特徴とする請求項1記載のターボ分子ポンプ。
【請求項6】
前記ゲッタポンプ部が配置された第1部材と当該第1部材に隣接する第2部材との間の熱抵抗を、前記第1部材および前記第2部材とが面接触する場合に比べて増加させる熱抵抗増加手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のターボ分子ポンプ。
【請求項7】
前記ロータ部は、複数段の回転翼を備え、
前記ゲッタポンプ部は、前記複数段の回転翼のうちの第1段の回転翼より排気口側に配置されること、
を特徴とする請求項1記載のターボ分子ポンプ。
【請求項8】
前記ゲッタポンプ部は、前記ステータ部に配置され、
前記ケーシングは、前記ヒータ部と外部回路とを電気的に接続する外部接続部を備えること、
を特徴とする請求項1記載のターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
あるターボ分子ポンプは、ゲッタポンプ部を備えており、そのゲッタポンプ部は、吸気口の中空部において蛇行させた板状の気体吸着金属部およびヒータ部を備えている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のターボ分子ポンプでは、吸気口の中空部に、蛇行させた板状の気体吸着金属部およびヒータ部が設置されているため、軸方向における吸気口の長さが大きくなってしまう。そして、吸気口の長さが大きくなることで、上述のターボ分子ポンプの軸方向の長さが大きくなる為、設置スペースの制約がある場合に、本構造の採用は困難である。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、気体吸着物体に起因して軸方向の吸気口の長さを大きくせずに、気体吸着物体を配置したターボ分子ポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るターボ分子ポンプは、ケーシング内にロータ部およびステータ部を備えるターボ分子ポンプであり、ステータ部またはケーシングに配置されたゲッタポンプ部と、ゲッタポンプ部における気体吸着物体の活性化および再生化の少なくとも一方を行うヒータ部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、気体吸着物体に起因して軸方向の吸気口の長さを大きくせずに、気体吸着物体を配置したターボ分子ポンプが得られる。
【0008】
本発明の上記又は他の目的、特徴および優位性は、添付の図面とともに以下の詳細な説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプを示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すターボ分子ポンプの電磁石の励磁制御をするアンプ回路を示す回路図である。
【
図3】
図3は、電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4は、電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、実施の形態1に係るターボ分子ポンプにおけるゲッタポンプ部の一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態2に係るターボ分子ポンプにおけるゲッタポンプ部の一例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態3に係るターボ分子ポンプにおけるゲッタポンプ部の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
実施の形態1.
【0012】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0013】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0014】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0015】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0016】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0017】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0018】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0019】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0020】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0021】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0022】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0023】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0024】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0025】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0026】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0027】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0028】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0029】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0030】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0031】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0032】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0033】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0034】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0035】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0036】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0037】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0038】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0039】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0040】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0041】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0042】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0043】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0044】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0045】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0046】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0047】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0048】
以上のようにターボ分子ポンプ100は構成されている。さらに、
図1において、回転翼102および回転体103は、当該ターボ分子ポンプ100のロータ部であり、固定翼123および固定翼スペーサ125は、当該ターボ分子ポンプ部分100のステータ部であり、ネジ付スペーサ131は、ターボ分子ポンプ部分の後段のネジ溝ポンプ部分のステータ部である。また、吸気口101および外筒127は、当該ターボ分子ポンプ100のケーシングであり、上述のロータ部、および上述の複数のステータ部を収容している。上述のロータ部は、上述のケーシング内に回転自在に保持されており、上述のステータ部は、ロータ部に対向して配設されている。
【0049】
さらに、
図1に示すターボ分子ポンプ100は、ステータ部またはケーシングに配置されたゲッタポンプ部と、そのゲッタポンプ部における気体吸着物体の活性化および再生化の少なくとも一方を行うヒータ部とを備える。
【0050】
図5は、実施の形態1に係るターボ分子ポンプにおけるゲッタポンプ部の一例を示す断面図である。実施の形態1では、例えば
図5に示すように、ゲッタポンプ部は、ステータ部におけるリング状の固定翼スペーサ125bに配置されている。具体的には、固定翼スペーサ125bの内周面において周方向に沿って円環状の溝301が形成されており、その溝301に気体吸着物体401が配置されている。
【0051】
実施の形態1では、気体吸着物体401は、ペレット状でもよいし粉体状でもよく、非蒸発型ゲッターポンプ(NEGポンプ)用の気体吸着物体である。なお、この気体吸着物体401は、既存のNEGポンプ用金属とされ、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、それらのうちの複数の金属の合金などとされる。また、気体吸着物体401が固定翼スペーサ125bの中空部分に脱落しないように、例えば、気体吸着物体401が溝301に固定されているか、溝301の開口部にメッシュ部材が設けられる。
【0052】
上述のように、当該ステータ部は、複数段の固定翼123(第1段の固定翼123a,第2段の固定翼123b,第3段の固定翼123c,・・・)と、その複数段の固定翼123の位置決めをする複数段の固定翼スペーサ125(125a,125b,125c,・・・)とを備えており、実施の形態1では、当該ゲッタポンプ部は、複数段の固定翼123のうちの少なくとも1段の固定翼、または複数段の固定翼スペーサ125のうちの少なくとも1段の固定翼スペーサに配置されている。なお、
図5に示すゲッタポンプ部は、1段の固定翼スペーサ125bに配置されているが、複数段の固定翼スペーサに複数のゲッタポンプ部をそれぞれ配置してもよい。
【0053】
実施の形態1では、ゲッタポンプ部は、複数段の回転翼102のうちの第1段の回転翼102a(吸気口101に最も近い回転翼)より排気口側133に配置される。この実施の形態では、ゲッタポンプ部は、例えば
図5に示すように、第1段の固定翼スペーサ125bに配置されている。
【0054】
さらに、実施の形態1では、上述のヒータ部402は、固定翼スペーサ125bに配置されている。具体的には、例えば
図5に示すように、固定翼スペーサ125bの外周面において、溝301に対応して円環状の溝302が形成されており、溝302の軸方向に沿った壁面上にヒータ部402としての抵抗発熱体が巻きつけられている。
【0055】
さらに、実施の形態1では、気体吸着物体401の温度制御を行うための温度センサ403が、ヒータ部402に隣接して、固定翼スペーサ125bに配置されている。温度センサ403の出力信号は、制御装置200に出力され、制御装置200は、温度センサ403の出力信号に基づいてヒータ部402への導通電流を制御し、これにより、活性化および/または再生化時の気体吸着物体401の温度制御を行う。
【0056】
なお、活性化および/または再生化時の気体吸着物体401の温度制御については、温度センサ403を設けずに、制御装置200は、ヒータ部402の導通電流を監視し、その導通電流に基づく定抵抗制御を行うことで気体吸着物体401の温度制御を行うようにしてもよい。
【0057】
さらに、実施の形態1において、当該ゲッタポンプ部が配置された第1部材(つまり、固定翼スペーサ125b)と当該第1部材に隣接する第2部材(つまり、固定翼123b)との間の熱抵抗を、両者が面接触する場合に比べて増加させる熱抵抗増加手段を設けるようにしてもよい。例えば、熱抵抗増加手段は、第1部材および第2部材の対向面の間に挟まれる断熱部材や、第1部材および第2部材の対向面の少なくとも一方の対向面上に形成されているリング状の凸条または円周上に配置された複数の凸条とされる。
【0058】
また、当該ケーシングは、ヒータ部402と図示せぬ外部回路(制御装置200により制御されるヒータ部402の駆動回路など)とを電気的に接続する外部接続部を備える。例えば
図5に示すように、この外部接続部は、当該ケーシング(外筒127)に形成された孔303、並びに、当該孔303の外周開口部を封止するフィードスルーコネクタ404およびOリング405を備える。なお、フィードスルーコネクタ404は少なくとも2つの端子404aを有する。
【0059】
次に、実施の形態1に係るターボ分子ポンプ100の動作について説明する。
【0060】
(a)ポンプ運転時の動作
【0061】
当該ターボ分子ポンプ100の運転時では、制御装置200による制御に基づいてモータ121が動作しロータ部が回転する。これにより、吸気口101を介して流入したガスが、ロータ部とステータ部との間のガス流路に沿って移送され、排気口133から外部配管へ排出される。また、ゲッタポンプ部では、気体吸着物体401の表面にガス分子が吸着する。なお、このとき、制御装置200は、ヒータ部402を動作させない。
【0062】
ターボ分子ポンプ100におけるターボ分子ポンプ部(つまり、上述のロータ部およびステータ部によるポンプ部分)では、高真空域未満のガス圧力になると、徐々に排気速度が低下していくが、ターボ分子ポンプ100におけるゲッタポンプ部(つまり、上述の気体吸着物体401)では、ガス圧力に拘わらず排気速度は略一定であるため、高真空域未満のガス圧力まで排気が可能となっている。
【0063】
特に、例えば水素分子などの軽い分子の場合には、ターボ分子ポンプ部の排気速度が低いが、ゲッタポンプ部によってそのような分子も十分排気(吸着)可能であるため、ターボ分子ポンプ部のみで残留してしまうそのようガス分子もゲッタポンプ部で排気され、当該ターボ分子ポンプ100の上流側のチャンバ内のプロセスなどへの影響を抑制することができる。
【0064】
(b)活性化または再生化時の動作
【0065】
活性化または再生化時には、制御装置200は、上述のように温度制御しつつ、図示せぬ駆動回路を制御して、ヒータ部402に電流を導通して気体吸着物体401の温度を所定温度に上昇させ、気体吸着物体401の温度を所定時間、所定温度に維持することで、気体吸着物体401の活性化または再生化を行う。例えば、活性化時には、気体吸着物体401の温度を摂氏400度程度まで上昇させ、再生化時には、気体吸着物体401の温度を摂氏200度程度まで上昇させる。その際、制御装置200は、モータ121を動作させロータ部を回転させる。これにより、活性化および再生化において気体吸着物体401から放出されるガスが、ガス流路に沿って排出されやすくなる。また、気体吸着物体401が回転翼123aより排気口133側(下流側)に配置されるため、活性化および再生化において気体吸着物体401からの放出ガスが逆流しにくい。
【0066】
以上のように、上記実施の形態1によれば、ターボ分子ポンプ100が、当該ターボ分子ポンプ100のステータ部またはケーシングにゲッタポンプ部を備え、また、そのゲッタポンプ部における気体吸着物体401の活性化および再生化の少なくとも一方を行うヒータ部402を備える。
【0067】
これにより、ガス流路に面するリング状または円筒状の部材の内壁部分でガスが気体吸着物体401に吸着されるため、気体吸着物体401に起因して軸方向の吸気口101の長さが大きくならずに済む。また、ゲッタポンプ部およびヒータ部が特定の一部材(実施の形態1では固定翼スペーサ125b)に配置されているため、既存のターボ分子ポンプにおいて、1つの部材を当該部材に交換することで、既存のターボ分子ポンプにゲッタポンプ機能を簡単に追加することができる。また、既存のターボ分子ポンプの構成部品のサイズをほとんど変えることはない為、ゲッタポンプ機能の追加において、ターボ分子ポンプの設置スペースの制約の影響を受け難い。
【0068】
実施の形態2.
【0069】
図6は、実施の形態2に係るターボ分子ポンプ100におけるゲッタポンプ部の一例を示す断面図である。実施の形態2では、例えば
図6に示すように、軸方向において第1段の固定翼123aより吸気口101側にゲッタポンプ部(気体吸着物体601)およびヒータ部602が配置されている。具体的には、最前段の固定翼スペーサ125aの内周面において周方向に沿って円環状の溝501が形成されており、その溝501に、気体吸着物体401と同様の気体吸着物体601が配置されている。また、ヒータ部402と同様のヒータ部602が固定翼スペーサ125aに配置されている。具体的には、例えば
図6に示すように、固定翼スペーサ125aの外周面において、溝501に対応して円環状の溝502が形成されており、溝502の軸方向に沿った壁面上にヒータ部602としての抵抗発熱体が巻きつけられている。また、溝502には、温度センサ403と同様の温度センサ603が配置されている。
【0070】
さらに、当該ケーシングは、ヒータ部602と図示せぬ外部回路(制御装置200により制御されるヒータ部602の駆動回路など)とを電気的に接続する外部接続部を備える。例えば
図6に示すように、この外部接続部は、上述の孔303、フィードスルーコネクタ404およびOリング405と同様の、孔503、フィードスルーコネクタ604およびOリング605を備える。
【0071】
なお、実施の形態2に係るターボ分子ポンプ100のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0072】
実施の形態3.
【0073】
図7は、実施の形態3に係るターボ分子ポンプにおけるゲッタポンプ部の一例を示す断面図である。実施の形態3では、例えば
図7に示すように、上述のケーシング(具体的には外筒127)にゲッタポンプ部(気体吸着物体801)およびヒータ部802が配置されている。具体的には、外筒127においてガス流路に面する内周面において周方向に沿って円環状の溝701が形成されており、その溝701に、気体吸着物体401,601と同様の気体吸着物体801が配置されている。また、ヒータ部402,602と同様のヒータ部802が外筒127に配置されている。具体的には、例えば
図8に示すように、外筒127の外周面において、溝701に対応して円環状の溝702が形成されており、溝702の軸方向に沿った壁面上にヒータ部802としての抵抗発熱体が巻きつけられている。また、溝702には、温度センサ403,603と同様の温度センサ803が配置されている。
【0074】
なお、実施の形態3に係るターボ分子ポンプ100のその他の構成および動作については実施の形態1または実施の形態2と同様であるので、その説明を省略する。
【0075】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0076】
例えば、上記実施の形態1,2,3において、ヒータ部402,602,802は、ゲッタポンプ部(気体吸着物体401,601,801)が配置された部材に配置されているが、ゲッタポンプ部が配置された部材以外の部材(ゲッタポンプ部が配置された部材に隣接する部材)に配置されていてもよい。
【0077】
また、上記実施の形態1,2,3において、ヒータ部402,602,802は、初期排気の際に、ポンプ内部に滞留するガスなどを放出させるベーキング用ヒータとしても機能させるようにしてもよい。これにより、ベーキング用ヒータを別途設置する必要がなく、コスト低減ができる。
【0078】
また、上記実施の形態1,2,3において、上述の各段の固定翼スペーサ125は、1つの部材で構成されていてもよいし、周方向に分割された複数(例えば2つ)の部材を連結して構成されるようにしてもよい。
【0079】
さらに、上記実施の形態1,2,3において、ゲッタポンプ部(気体吸着物体401,601,801)は、ポンプ運転時に発生する熱によって再生化の要求温度まで上昇しない位置に配置されている。
【0080】
さらに、上記実施の形態1,2,3において、溝301,501,701の代わりに複数の凹部を設け、その複数の凹部に、気体吸着物体401,601,801を同様にして配置するようにしてもよい。
【0081】
さらに、上記実施の形態1,2において、外筒127において、孔303,503の代わりに他の用途の孔(例えばベントバルブ用などの各種ポート)を使用するようにしてもよい。
【0082】
なお、上記の各実施の形態は、必要に応じて他の実施の形態に組み合わせてもよい。
【0083】
また、上記実施の形態1,2,3において、ゲッタポンプ部は、蒸発型のゲッタポンプとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、例えば、ターボ分子ポンプに適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
100 ターボ分子ポンプ
101 吸気口(ケーシングの一例の一部)
102 回転翼(ロータ部の一例の一部)
103 回転体(ロータ部の一例の一部)
123 固定翼(ステータ部の一例の一部)
125 固定翼スペーサ(ステータ部の一例の一部)
127 外筒(ケーシングの一例の一部)
303,503 孔(外部接続部の例の一部)
401,601,801 気体吸着物体(ゲッタポンプ部の例)
402,602,802 ヒータ部
403,603,803 温度センサ
404,604 フィードスルーコネクタ(外部接続部の例の一部)
405,605 Oリング(外部接続部の例の一部)