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特開2022-164043電池モジュールの管理装置およびその管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164043
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】電池モジュールの管理装置およびその管理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20221020BHJP
   H01M 50/202 20210101ALI20221020BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20221020BHJP
   H01M 50/569 20210101ALI20221020BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M50/202 501S
H01M50/202 301
H01M50/209
H01M50/569
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069257
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
(72)【発明者】
【氏名】川崎 洋志
(72)【発明者】
【氏名】水野 雄介
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H040
5H043
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA11
5G503EA08
5G503GD02
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS06
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H040AA40
5H040AT02
5H040AY06
5H040DD08
5H040DD26
5H040JJ09
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA08
5H043CA13
5H043DA27
5H043HA35D
5H043JA07D
5H043LA31D
(57)【要約】
【課題】適切な周期、適切な情報量で監視することにより、監視制御装置における負荷を軽減する。
【解決手段】順に積層されたひと組の正極集電体、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体からなる積層単位と、電解質と、を含む単電池が複数個接続されてなる組電池を備えたリチウムイオン電池モジュールの管理装置であって、各々の前記単電池に設けられた制御部から、対応する単電池の特性を表す特性信号を受信し、時刻情報とともに記録部に記録する受信手段と、前記記録部に記録された特性信号のうち、解析する単電池の状態に応じて、必要な特性信号を選択して取得する信号処理手段とを備えた。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に積層されたひと組の正極集電体、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体からなる積層単位と、電解質と、を含む単電池が複数個接続されてなる組電池を備えたリチウムイオン電池モジュールの管理装置であって、
各々の前記単電池に設けられた制御部から、対応する単電池の特性を表す特性信号を受信し、時刻情報とともに記録部に記録する受信手段と、
前記記録部に記録された特性信号のうち、解析する単電池の状態に応じて、必要な特性信号を選択して取得する信号処理手段と
を備えた、管理装置。
【請求項2】
前記信号処理手段は、予め定めた特定の電圧範囲と、前記特定の電圧範囲以外の電圧範囲とにおいて、前記記録部から取得する特性信号の周期を変える、請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記信号処理手段は、前記特定の電圧範囲以外の電圧範囲において、前記特性信号を時間軸上で間引いて取得する、請求項2に記載の管理装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、予め定めた特定の電圧範囲以外の電圧範囲において、前記記録部からの前記特性信号を丸めて取得する、請求項1に記載の管理装置。
【請求項5】
前記信号処理手段は、予め定めた特定の時間帯と、前記特定の時間帯以外の時間帯とにおいて、前記記録部から取得する特性信号の周期を変える、請求項1に記載の管理装置。
【請求項6】
前記信号処理手段は、前記特定の時間帯以外の時間帯において、前記特性信号を時間軸上で間引いて取得する、請求項5に記載の管理装置。
【請求項7】
前記信号処理手段は、予め定めた特定の時間帯以外の電圧範囲において、前記記録部からの前記特性信号を丸めて取得する、請求項1に記載の管理装置。
【請求項8】
前記信号処理手段は、予め定めた特定の温度範囲と、前記特定の温度範囲以外の温度範囲とにおいて、前記記録部から取得する特性信号の周期を変える、請求項1に記載の管理装置。
【請求項9】
前記信号処理手段は、前記記録部から取得した特性信号のうち、前記複数の単電池の電圧または単位時間当たりの電圧変化に基づいて選択された単電池の残存容量から前記組電池の残存容量を推定する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項10】
前記信号処理手段は、ある時点において最も電圧が高い単電池の残存容量から前記組電池の充電時の残存容量を推定し、ある時点において最も電圧が低い単電池の残存容量から前記組電池の放電時の残存容量を推定する、請求項9に記載の管理装置。
【請求項11】
前記信号処理手段は、ある時点において最も電圧が高い単電池の残存容量と、その時点の近傍において単位時間あたりの電圧変化が最も大きい単電池の残存容量のうち、小さい方の容量値から前記組電池の充電時の残存容量を推定し、ある時点において最も電圧が低い単電池の残存容量と、その時点の近傍において単位時間あたりの電圧変化が最も大きい単電池の残存容量のうち、小さい方の容量値から前記組電池の放電時の残存容量を推定する、請求項9に記載の管理装置。
【請求項12】
順に積層されたひと組の正極集電体、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体からなる積層単位と、電解質と、を含む単電池が複数個接続されてなる組電池を備えたリチウムイオン電池モジュールの管理方法であって、
各々の前記単電池に設けられた制御部から、対応する単電池の特性を表す特性信号を受信し、時刻情報とともに記録部に記録する受信ステップと、
前記記録部に記録された特性信号のうち、解析する単電池の状態に応じて、必要な特性信号を選択して取得する信号処理ステップと
を備えた、管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組電池を備えたリチウムイオン電池モジュールの管理装置およびその管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車及びハイブリッド電気自動車等の電源及び携帯型電子機器の電源としてリチウムイオン電池の単電池を複数個積層した組電池が用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、組電池を安全かつ効率的に使用するために、過充電、過放電、蓄電容量、劣化状態などを判定するための監視制御装置が適用されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/119075号
【特許文献2】特開2013-024617号公報
【特許文献3】特開2011-047820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
組電池の監視制御装置は、単電池それぞれの端子間電圧等を監視して、個々の単電池の状態を監視している。特許文献2には、測定された単電池の電圧値をデジタル信号に変換して、マイコンで処理することが開示されている。特許文献3には、単電池の電圧値をミリ秒の単位で取得することが開示されている。このように、組電池を構成する単電池それぞれについて、電圧等の情報を短い周期で取得するために、監視制御装置における処理量が増大するという問題があった。
【0005】
本発明は、組電池を構成する単電池それぞれについて、適切な周期、適切な情報量で監視することにより、監視制御装置における負荷を軽減するとともに、精度良く単電池の特性を判定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、順に積層されたひと組の正極集電体、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体からなる積層単位と、電解質と、を含む単電池が複数個接続されてなる組電池を備えたリチウムイオン電池モジュールの管理装置であって、各々の前記単電池に設けられた制御部から、対応する単電池の特性を表す特性信号を受信し、時刻情報とともに記録部に記録する受信手段と、前記記録部に記録された特性信号のうち、解析する単電池の状態に応じて、必要な特性信号を選択して取得する信号処理手段とを備えた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、組電池を構成する単電池それぞれについて、解析する単電池の状態に応じて、必要な特性信号を選択して取得するので、適切な周期、適切な情報量で監視することができる。これにより、監視制御装置における負荷を軽減するとともに、精度良く単電池の特性を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、単電池ユニットの例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
図2図2は、発光部の例を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、リチウムイオン電池モジュールの一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
図4図4は、リチウムイオン電池モジュールのモジュール管理装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0010】
[単電池ユニット]
組電池は、単電池ユニットが複数個接続されてなり、単電池ユニットは単電池と発光部とを備えている。単電池ユニットは組電池内で直列に接続されていることが好ましい。まず、単電池及び発光部を備える単電池ユニットについて説明する。
【0011】
図1は、単電池ユニットの例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。図1にはリチウムイオン電池である単電池10と発光部20を備える単電池ユニット30を示している。単電池10は、略矩形平板状の正極集電体17の表面に正極活物質層15が形成された正極12と、同様に略矩形平板状の負極集電体19の表面に負極活物質層16が形成された負極13とが、同様に略平板状のセパレータ14を介して積層されて構成され、全体として略矩形平板状に形成されている。この正極と負極とがリチウムイオン電池の正極及び負極として機能する。
【0012】
単電池10は、正極集電体17及び負極集電体19の間に配置されて正極集電体17及び負極集電体19の間にセパレータ14の周縁部を固定し、かつ正極活物質層15、セパレータ14及び負極活物質層16を封止する、環状の枠部材18を有する。
【0013】
正極集電体17及び負極集電体19は、枠部材18により所定間隔をもって対向するように位置決めされているとともに、セパレータ14と正極活物質層15及び負極活物質層16も枠部材18により所定間隔をもって対向するように位置決めされている。
【0014】
正極集電体17とセパレータ14との間の間隔、及び、負極集電体19とセパレータ14との間の間隔はリチウムイオン電池の容量に応じて調整され、これら正極集電体17、負極集電体19及びセパレータ14の位置関係は必要な間隔が得られるように定められている。
【0015】
以下に、単電池を構成する各構成要素の好ましい態様について説明する。正極活物質層には正極活物質が含まれる。正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn24等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCox2、LiMn1-yCoy2、LiNi1/3Co1/3Al1/32及びLiNi0.8Co0.15Al0.052)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’c2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/32)等]、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV25)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0016】
正極活物質は、導電助剤及び被覆用樹脂で被覆された被覆正極活物質であることが好ましい。正極活物質の周囲が被覆用樹脂で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0017】
導電助剤としては、金属系導電助剤[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、炭素系導電助剤[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられてもよい。なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、炭素系導電助剤及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及び炭素系導電助剤であり、特に好ましくは炭素系導電助剤である。また、これらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0018】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0019】
被覆用樹脂と導電助剤の比率は特に限定されるものではないが、電池の内部抵抗等の観点から、重量比率で被覆用樹脂(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01~1:50であることが好ましく、1:0.2~1:3.0であることがより好ましい。
【0020】
被覆用樹脂としては、例えば、特許文献2に、非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0021】
また、正極活物質層は、被覆正極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0022】
正極活物質層は、正極活物質を含み、正極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。ここで、非結着体とは、正極活物質が結着剤(バインダともいう)により位置を固定されておらず、正極活物質同士及び正極活物質と集電体が不可逆的に固定されていないことを意味する。
【0023】
正極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。粘着性樹脂としては、例えば、特許文献2に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、例えば、特許文献3に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。なお、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。一方、結着材として用いられる溶液乾燥型の電極バインダーは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質同士を強固に接着固定するものを意味する。従って、溶液乾燥型の電極バインダー(結着材)と粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0024】
正極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0025】
負極活物質層には負極活物質が含まれる。負極活物質としては、公知のリチウムイオン電池用負極活物質が使用でき、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
【0026】
また、負極活物質は、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤及び被覆用樹脂で被覆された被覆負極活物質であってもよい。導電助剤及び被覆用樹脂としては、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤及び被覆用樹脂を好適に用いることができる。
【0027】
また、負極活物質層は、被覆負極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0028】
負極活物質層は、正極活物質層と同様に、負極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。また、正極活物質層と同様に、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
【0029】
負極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0030】
正極集電体及び負極集電体(以下まとめて単に集電体ともいう)を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。これらの材料のうち、軽量化、耐食性、高導電性の観点から、正極集電体としてはアルミニウムであることが好ましく、負極集電体としては銅であることが好ましい。
【0031】
また、集電体は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体であることが好ましい。集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0032】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、導電性高分子や、樹脂に必要に応じて導電剤を添加したものを用いることができる。導電性高分子材料を構成する導電剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0033】
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0034】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。さらに、セパレータとして、硫化物系、酸化物系の無機系固体電解質、または高分子系の有機系固体電解質などを適用することもできる。固体電解質の適用により、全固体電池を構成することができる。
【0035】
正極活物質層及び負極活物質層には電解液が含まれる。電解液としては、公知のリチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の電解液を使用することができる。
【0036】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiN(FSO22、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22及びLiC(CF3SO23等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはイミド系電解質[LiN(FSO22、LiN(CF3SO22及びLiN(C25SO22等]及びLiPF6である。
【0037】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0038】
電解液の電解質濃度は、1~5mol/Lであることが好ましく、1.5~4mol/Lであることがより好ましく、2~3mol/Lであることがさらに好ましい。電解液の電解質濃度が1mol/L未満であると、電池の充分な入出力特性が得られないことがあり、5mol/Lを超えると、電解質が析出してしまうことがある。なお、電解液の電解質濃度は、リチウムイオン電池用電極又はリチウムイオン電池を構成する電解液を、溶媒などを用いずに抽出して、その濃度を測定することで確認することができる。
【0039】
[発光部]
従来、単電池それぞれの端子間電圧等の監視は、単電池と測定素子との間を金属配線により電気的に接続し、さらに測定素子と監視制御装置との間も電気的に接続していた。単電池それぞれと配線で電気的に接続されていると、単電池間の短絡のリスクがあり、加えて、配線の手間が煩雑となる等の問題が生じていた。
【0040】
このような問題を解決することを意図して、本発明の発明者らは、電気的配線を用いない構成、具体的には、組電池に含まれる単電池それぞれに、単電池の特性を測定して当該特性に基づいて光信号を出力する発光部と、各発光部から出力される光信号をまとめて受信する受光部と、を備える構成を見出した。当該発明者らが見出した構成によれば、受光部で受信した光信号を解析(例えば、受光部に接続したデータ処理部で解析)することにより、従来のように単電池それぞれと配線接続することによる、単電池間の短絡のリスクを回避することができる。加えて、配線の手間が軽減され、組電池の製造コストを低減することができる。
【0041】
図2は、発光部の例を模式的に示す斜視図である。図2に示す発光部20は、その内部又は表面に配線を有する配線基板21と、配線基板21に実装された発光素子22、制御素子23a、23bを備える。また、配線基板の端部には電圧測定端子24、25が設けられている。電圧測定端子24、25は単電池に接続した際に一方の電圧測定端子が正極集電体に接触し、他方の電圧測定端子が負極集電体に接触する位置に設けられている。すなわち、電圧測定端子24、25はそれぞれ単電池の正極集電体と負極集電体の間の電圧を測定する電圧測定端子となる。
【0042】
電圧測定端子24及び25は制御素子23a、23bと電気的に接続されており、制御素子23a、23bは発光素子22と電気的に接続されている。具体的な発光の制御については後述する。
【0043】
なお、配線基板21の、発光素子22の裏側にあたる面に、測定端子(図示略)が設けられてもよい。この測定端子は、単電池の温度を測定するための温度センサと接続して、温度測定端子として利用したり、ひずみゲージ、圧電素子等と接続して単電池の物理的変化を測定する端子として利用することができる。この測定端子も制御素子23a、23bと電気的に接続されており、制御素子23a、23bは発光素子22と電気的に接続されている。発光部20の発光は、例えば、単電池の温度に応じて電力消費量が変化するように制御される。
【0044】
発光部を構成する配線基板としてはリジッド基板又はフレキシブル基板を使用することができる。図2に示すような配線基板の形状とする場合はフレキシブル基板とすることが好ましい。制御素子としてはIC、LSI等の任意の半導体素子を使用することができる。また、図2には制御素子を2つ実装した例を示しているが、制御素子の数は限定されるものではなく、1つでもよく、3つ以上であってもよい。発光素子としてはLED素子、有機EL素子等の、電気信号を光信号に変換することのできる素子を使用することができ、LED素子であることが好ましい。なお、発光部において配線基板を有することは必須ではなく、制御素子及び発光素子が基板を介さずに結線されることにより発光部を構成していてもよい。
【0045】
発光部は、単電池の負極集電体及び正極集電体と電気的に接続されており、リチウムイオン電池からの電力供給を受けることができるようになっている。発光部が負極集電体及び正極集電体と電気的に接続されていると、リチウムイオン電池からの電力供給を受けて発光素子を発光させることができる。図2には電力供給を受けるための電極は図示していないが、電圧測定端子とは別の電極を発光部に設けておくことが好ましい。
【0046】
また、負極集電体及び正極集電体は樹脂集電体であることが好ましく、負極集電体及び正極集電体が発光部の電極に直接結合して電気的に接続されていることが好ましい。樹脂集電体を使用する場合、樹脂集電体と発光部の電極を接触させ、樹脂集電体を加熱して樹脂を軟化させることにより、樹脂集電体と発光部の電極を直接結合させることができる。また、半田、導電性テープ、導電性接着剤、異方性導電フィルム(ACF)等の導電性を有する他の接合材を集電体と発光部の間に介して電気的な接続を行うこともできる。
【0047】
[リチウムイオン電池モジュール]
図3は、リチウムイオン電池モジュールの一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。リチウムイオン電池モジュール1は、単電池ユニット30が複数個接続されてなる組電池50を有する。組電池50では、隣り合う単電池10の負極集電体19の上面と正極集電体17の下面が隣接するように積層されている。いわゆるバイポーラ型の単電池ユニット30が複数個直列接続されている。図3は、5つの単電池ユニット30を積層した形態を示しているが、単電池の積層数は5より多くても、または5より少なくてもよい。一実装例では、単電池ユニット30の積層数は20以上であり得る。
【0048】
組電池50の外表面(側面)には各単電池ユニット30が備える発光部20が一列に並んでいる。図3には発光部20が一列に並んでいる形態を示しているが、異なる単電池ユニット間における発光部の位置関係は限定されるものではなく、単電池ユニットの異なる側面に発光部が設けられていてもよいし、同じ側面においてその位置がずれていてもよい。さらに、リチウムイオン電池モジュール1は、発光部20の発光面に隣接または近接して配置された光導波路60を有する。
【0049】
リチウムイオン電池モジュール1は、複数の単電池ユニット30および光導波路60を収容する外装体70を有する。図3においては、組電池の構成を説明するために外装体の一部を除去して示している。外装体としては、金属缶ケース、高分子金属複合フィルム等を使用することができる。
【0050】
組電池50の最上面の負極集電体19の上には導電性シートが設けられ、導電性シートの一部が外装体70から引き出されて引出配線59となる。また、組電池50の最下面の正極集電体17の上には導電性シートが設けられ、導電性シートの一部が外装体70から引き出されて引出配線57となる。導電性シートとしては導電性を有する材料であれば特に限定されず、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、樹脂集電体として記載した材料を適宜選択して用いることができる。引出配線を用いて、組電池への充電及び組電池からの放電を行うことができる。
【0051】
光導波路60は、複数の単電池ユニット30の発光部20から出力される光信号の共通の光路を提供する。図3に示すように、単電池の積層方向に延伸した光導波路60は、発光部20の発光面に隣接または近接して配置される。光導波路60は、発光部20からの光信号を受光するのに十分な幅(単電池の積層方向に直交する方向の長さ)を有する導光板としてもよい。光導波路60を導光板で構成する場合、光導波路60の幅方向寸法を発光部20の発光面の最大寸法(発光面が円形の場合は直径、矩形の場合は対角線)よりも大きくするとよい。
【0052】
光導波路60として導光板を用いる場合、複数の発光部20の発光面(各々が積層された複数の単電池に対応する)のすべてを覆うように光導波路60を配置することができる。また、発光部20の発光方向(発光面の鉛直方向に一致する場合および発光面の鉛直方向にから傾斜している場合を含む)を覆うように光導波路60を配置することができる。
【0053】
また、光導波路60としての導光板に対する発光部20からの光信号の結合効率を高めるために、レンズなどの追加部品を用いてもよく、集光加工を施した導光板を用いてもよい。さらに、単電池の積層方向に直交する方向に延伸した光導波路60を用いることも可能である。この場合、光導波路60としての導光板は、複数の発光部20の発光面のすべてを覆うことが可能で、光出力部に向かうテーパー形状とすることにより、先細りの光出力部から出力される光信号を受光部80で受信することができる。
【0054】
光導波路60は、光ファイバとしてもよく、例えば、複数の心線を束ねたテープ型ファイバを用いてもよい。また、受光部80が外装体70の内部に配置されている場合には、発光部20の発光方向と外装体70の内面との間に空間を設け、受光部80との間に空間光学系を構成してもよい。このとき、発光部20からの光信号の結合効率を高めるために、外装体70の内部に反射板などの追加部品を用いてもよく、外装体70の内面を反射面として加工してもよい。
【0055】
1つの光導波路60に隣接または近接して配置された20個以上の単電池ユニット30の各々に備えられた発光部20からの発光は、光学的に光導波路60に結合され、光出力部から出射される。本実施形態において、光導波路60の一部は、外装体70から引き出されて、各々の発光部20から入射し伝搬した光信号が出射する光出力部となっている。光出力部から出射した光信号は、受光部80により受信される。
【0056】
外装体の外に出た光導波路の一端から出射された光信号は、受光部80により受信される。受光部80は受光素子81を備えており、受光素子81によって光信号を電気信号に逆変換することにより、組電池50に含まれる単電池ユニット30内の状態を示す電気信号を得ることができる。受光素子81としてはフォトダイオード、フォトトランジスタ等を使用することができ、フォトダイオードが好ましい。発光素子であるLED素子を受光素子として用いて受光部80を構成してもよい。
【0057】
なお、光出力部を含む光導波路60の全体が外装体70の内部に収容されている場合には、光出力部から出射した光信号は、外装体70の内部に配置された受光部80により受信される。
【0058】
組電池と離間して配置される受光部80と光導波路60との間は、電気的に接続されておらず、光信号によって受光部80と光導波路60の間の情報伝達がされる。すなわち、受光部80と組電池50とが電気的に絶縁されていることを意味している。
【0059】
外装体70は、組電池50と、光導波路60および引出配線57、59の少なくとも一部を収容する。外装体70は、金属缶ケースまたは高分子金属複合フィルムを用いて構成することができる。外装体70は、内部の減圧を保つように封止される。
【0060】
発光部20の制御素子23a、23bは、対応する単電池10の特性を測定し、測定された特性を表す特性信号を生成する測定回路として機能するように構成されている。例えば、電圧測定端子24,25に入力される電圧に対応するバイナリー信号を特性信号として生成する。特性信号は、電圧範囲と対応する信号パターンを定義した、ルックアップテーブルを使って、電圧測定端子に入力された電圧をバイナリー信号に変換して生成することができる。また、電圧測定端子に入力された電圧を、アナログ/デジタル変換により8ビット(または16ビット)バイナリー信号に変換して生成してもよい。
【0061】
同様に、制御素子23a、23bの測定回路は、上述した測定端子に接続された温度センサの出力をバイナリー信号に変換したり、ひずみゲージ、圧電素子等の出力をバイナリー信号に変換することができる。
【0062】
制御素子23a、23bは、所定の期間毎に特性信号を符号化した制御信号を出力する制御回路として機能するように構成されている。所定のパターンに符号化された制御信号は、発光部20に供給され、制御信号に応じた光信号が、光導波路60に出力される。また、制御素子23a、23bは、特性信号と共に対応する単電池ユニット30に、固有の識別子を符号化して制御信号に付加して出力する。対応する単電池ユニット30の特性信号と共に識別子が符号化された制御信号に基づいて光信号が出力されるので、受信側において、いずれの単電池の状態情報であるかを識別することができる。
【0063】
[モジュール管理装置]
図4は、リチウムイオン電池モジュールのモジュール管理装置の機能ブロック図である。モジュール管理装置は、受光部80と信号処理装置100とから構成されている。リチウムイオン電池モジュール1には、引出配線57と引出配線59とに接続された、組電池の入出力電圧を測定するための電圧計91を備える。また、リチウムイオン電池モジュール1は、引出配線57に接続された、組電池の入出力電流を測定するための電流計92を備える。さらに、リチウムイオン電池モジュール1は、組電池50の周囲温度、外装体70の内面または外面などに設置された1または複数の温度センサ93を備えている。
【0064】
[受光部]
受光部80は、光導波路60と光学的に接続された受光素子81、光電気変換回路(O/E)82、復号器(DEC)83、および記録装置(MEM)84とが順に接続されている。
【0065】
複数の発光部20と受光部80との間の通信方式は、任意の方式を適用することができる。複数の発光部20が光導波路60を共通の光路として使用するので、受光部80においては、複数の発光部20からの光信号が衝突する可能性がある。
【0066】
そこで、各発光部20の制御素子23a、23bに発振回路を搭載し、周期的に発光するようにするともに、複数の発光部20が同時に発光しないように、衝突防止の機能を付加することが考えられる。また、各発光部20の発光素子22の波長を変えて、波長多重通信とすることもできる。上述したように、単電池ユニット30ごとに固有の識別子を付与して識別するようにしてもよい。さらに、発光部20の発光素子22を受光素子として機能させ、受光部80にも発光素子を備えることにより、受光部80からのリクエスト信号に応じて、発光部20が発光するようにしてもよい。
【0067】
また、制御回路は、測定回路によって測定された特性信号を、様々な形式の制御信号として出力することができる。上述したように、アナログ/デジタル変換により、電圧値そのものをバイナリー信号として符号化し、出力することができる。一方、組電池50に含まれる単電池30の数が多くなれば、1つの単電池の特性を示す情報量を少なくして、効率よく信号処理装置100に出力できることが望ましい。
【0068】
ここでは、電圧の測定を例に、発光部20の制御素子23と受光部80との間の情報量の削減方法(以下、まとめてデータ圧縮という)について述べる。例えば、電圧2.00Vから4.50Vまで、小数点第2位までの電圧値を取得する場合を考える。
【0069】
(1)情報量の圧縮
a)0Vから4.50Vの電圧値を、そのままアナログ/デジタル変換すると、450点のバイナリー信号(9ビット)を必要とする。そこで、測定された電圧値から2.00Vを差し引いてバイナリー信号に変換すれば、250点となり1ビット削減して、8ビットとすることができる。
【0070】
b)上述したように、ルックアップテーブルを使って、測定された電圧値から、ビット数の少ない(4ビット)任意のバイナリー信号に変換してもよい。
【0071】
c)また、丸めたり、下位桁または上位桁を省略してビット数を削減したバイナリー信号を生成してもよい。
【0072】
d)または、所定の範囲の電圧値を、まとめて1つのバイナリー信号に変換してもよい。具体例として、2.0Vから2.5Vまでを整数値の「1」、2.5Vから3.0Vまでを整数値の「2」というように、区間ごとに整数値を当てはめ、バイナリー信号に変換して、所定のパターンの制御信号とすることができる。
【0073】
(2)時間軸での間引き
a)制御回路は、常時単電池10の電圧値を取得するのではなく、例えば、1時間ごと、12時間ごと、または1日おきなど、所定の周期で制御信号を出力する。
【0074】
b)充電過程においては、充電を開始してから所定の電圧を超えた時点、例えば2.0Vを超えた時点で制御信号を出力し、その後、予め定めた周期、例えば10~500秒ごとに制御信号を出力してもよい。放電過程においては、単電池10への充電を停止してから、すなわち最も電圧値が高い地点から電圧が低下してから、予め定めた周期ごとに制御信号を出力するようにしてもよい。
【0075】
c)充電過程および/または放電過程において、例えば、電圧2.00Vから4.50Vの間を複数の区間に分け、区間ごとに制御信号を出力する周期を変えてもよい。
【0076】
d)さらに、単電池の温度および電圧に応じて制御信号を出力する周期を変えてもよい。例えば、通常1分ごとの送信周期を、単電池の温度が40度を超えたとき、電圧が4.2Vを超えたときのいずれかの条件を満たしたときに5秒ごとの周期に変更するようしてもよい。
【0077】
(3)情報量の圧縮と時間軸での間引きとの組合せ
1または複数の閾値を設定し、測定した電圧値が閾値を超えたとき、または閾値を下回ったときのみ、所定のパターンの制御信号を出力するようにしてもよい。具体例として、2.0Vから4.5Vまで0.5Vごとに閾値を設け、それぞれの閾値を超えたときに+1~+6の整数値を、閾値を下回ったときに-1~-6の整数値を、変化のない場合に0を当てはめ、計13の整数値をバイナリー信号に変換して、所定のパターンの制御信号とすることができる。
【0078】
制御回路は、測定回路によって測定された温度センサからの特性信号、ひずみゲージ、圧電素子等からの特性信号も、同様にして、1つの単電池の特性を示す情報量を少なくして、効率よくモジュール管理装置に出力することができる。このように、制御回路は、組電池50から様々な測定パラメータを取得し、単電池ごとの状態に応じて情報量、送信周期を変えて制御信号を出力し、発光部20から受光部80へと光信号を送出することができる。
【0079】
受光部80の復号器83は、光電気変換回路82で変換された電気信号であって、上述のようにデータ圧縮された信号を伸長して、元の電圧値などの特性信号に復号する。復号された特性信号は、後述するように、信号処理装置100を介して取得された時刻情報とともに、記録装置84に記録される。
【0080】
(4)異常状態の監視
制御素子23a、23bと発光部20とによる外部との通信は、上述したように、単電池の定常状態を監視するだけでなく、異常状態の監視にも用いることができる。例えば、温度センサから取得した単電池の温度が所定の値、例えば、単電池の温度が異常に上昇して枠部材18の一部が溶解するような温度に達したときに、測定回路は異常状態に対応する特性信号を出力する。制御回路は、上述した所定のパターンの制御信号と異なり、例えば、発光部20が常時ONの光信号を発光するように制御信号を出力することもできる。異常状態の単電池の発光部20が、常時ONすることで、共通の光路である光導波路を適用した通信であっても、単電池の異常状態を検知し易くすることができる。
【0081】
同様に、制御回路は、電圧測定端子からの特性信号、ひずみゲージ、圧電素子からの特性信号が、所定の異常値を超えたときに、所定のパターンの制御信号、所定の周期の制御信号とは無関係に、異常状態に対応する特性信号、例えば、発光部20が常時ONの光信号を発光するように制御信号を出力する。共通の光路である光導波路を適用した通信であっても、複数の単電池のうち、いずれかの単電池に異常が生じたときに、組電池の異常として検知することができ、即座にリチウムイオン電池モジュールの異常の有無を検知することができる。
【0082】
[信号処理装置]
信号処理装置100は、受光部80で受信したリチウムイオン電池モジュール1の単電池ごとの特性信号、電圧計91、電流計92および温度センサ93からのデータを取得するデータ取得部101と、取得したデータから複数の単電池の状態を決定する状態決定部131および複数の単電池の状態を推定する状態推定部132などの電池の管理に必要なデータ処理を行う解析部103とを含む。信号処理装置100は、データ処理中のデータの一時記憶、解析結果の記録のための解析DB102と、解析に必要な時系列や事前知識が格納された知識DB104と、上位の管理装置との間で通信を行うための通信部105とを備えている。信号処理装置100は、メモリおよびプロセッサと、プロセッサを状態決定部131および状態推定部132として機能させるプログラムを記録したコンピュータが読取可能な記憶媒体とを備えたコンピューティング装置としてもよい。コンピュータが読取可能な記憶媒体は、プログラムの他に、上述した事前知識を示す情報を記録していてもよい。
【0083】
信号処理装置100は、通信部105を介して上位の管理装置との間で情報の送受を行うことができる。例えば、上位の管理装置は、複数のリチウムイオン電池モジュール1を統括して管理するために、時刻情報を同報したり、充放電の制御情報、リチウムイオン電池モジュール1の状態などの情報を取得するための指令などを信号処理装置100に送信する。信号処理装置100は、上記の指令に応じて上位の管理装置に解析結果を送信したり、周期的なデータ処理の結果を自律的に上位の管理装置に送信することもできる。
【0084】
上述したように、受光部80の記録装置84に記録されたデータは、リチウムイオン電池モジュール1の複数の単電池からの特性信号が、時刻情報とともに記録されている。単電池の発光部20の制御回路は、様々な周期で光信号を送信し、単電池の間では非同期で送信している。そこで、データ取得部101は、解析部103におけるデータ処理に必要なデータを、解析する単電池の状態に応じて選択して解析DB102に格納する。
【0085】
なお、データ取得部101が、受光部80の記録装置84に記録されたデータを取り出した後、取り出したデータおよびデータ処理に不要なデータを適宜消去することにより、記録装置84の記録容量を削減することができる。
【0086】
(1)定常状態の監視
a)情報量の圧縮
定常状態の放電過程においては、周期的に受光部80の記録装置84、電圧計91、電流計92および温度センサ93からのデータを取得する。記録装置84には、複数の単電池からの特性信号が、非同期、異なる周期で記録されている。定常状態では、測定精度が要求されないことから、復号された電圧値などの特性信号を、丸めたり、下位桁または上位桁を省略してビット数を削減して、解析DB102に格納する。
【0087】
例えば、定常状態においては、上述した発光部20が小数点第2位まで測定した電圧値を8ビットのバイナリー信号に変換した結果に対して、下位4ビットを削減して解析DB102に格納することができる。
【0088】
b)時間軸での間引き
また、定常状態では、時間軸での監視密度も要求されないことから、例えば、秒単位で記録装置84に記録された特性信号の中から、データ取得部101は、1分ないし10分程度の分単位で特性信号を選択して、解析DB102に格納する。さらに、充放電をしていない待機状態の場合には、1時間単位、1日に1回または数回とするなど、データを取得する周期を間引くことができる。
【0089】
(2)電池の状態解析
a)過充電、過放電
通常の使用状態で、充電過程においては、例えば、データ取得部101は、充電開始から電圧4.00Vまでの間は分単位で特性信号を選択し、満充電に近い電圧4.00Vから4.50Vまでの特定の電圧範囲では、1秒ないし10秒程度の秒単位で特性信号を選択する。
【0090】
同様に、放電過程においては、例えば、データ取得部101は、放電開始から電圧2.50Vまでの間は分単位で特性信号を選択し、電圧2.50Vから2.00Vまでの特定の電圧範囲では秒単位で特性信号を選択する。このように、電池の状態に応じて予め定めた特定の電圧範囲と、それ以外の電圧範囲とにおいて、監視密度を変えることもできる。
【0091】
さらに、データ取得部101は、特定の電圧範囲以外の電圧範囲においては、特性信号を丸めたり、下位桁または上位桁を省略してビット数を削減したバイナリー信号として、情報量を圧縮して解析DB102に格納することもできる。
【0092】
解析部103の状態決定部131は、解析DB102に格納された特性信号を参照して、リチウムイオン電池モジュール1の組電池50の状態、個々の単電池30の状態を決定することができる。信号処理装置100が、通信部105を介して上位の管理装置に結果を送ることにより、上位の管理装置による充放電制御によって、過充電、過放電を防ぐことができる。
【0093】
b)特定の時間帯の解析
データ取得部101は、電池の運転パターンに応じて特性信号を選択することもできる。例えば、昼間は太陽光発電システムから充電し、夜間に需要家に対して放電する場合、予め時系列の運転バターンを登録しておく。充電開始時および終了時の一定時間、放電開始時および終了時の一定時間を、特定の時間帯とし、データ取得部101は、監視密度を変えたり、情報量を圧縮して解析DB102に格納することもできる。
【0094】
解析部103の状態決定部131は、解析DB102に格納された特性信号を参照して、リチウムイオン電池モジュール1の組電池50の状態、個々の単電池30の状態を、一定の周期により、通信部105を介して上位の管理装置に送ることができる。
【0095】
c)充電(放電)可能容量の推定
単電池30の残存容量は、電圧が所定の範囲を逸脱すると、残存容量の減少が加速されることが知られている。そこで、組電池50内の各々の単電池30の電圧が所定の範囲、例えば2.50-4.20Vの範囲を逸脱しないように、組電池50の充電(放電)容量を制限する。残存容量の制御は、充電(放電)電流および充電(放電)時間を制御することによってなされる。
【0096】
組電池50内の全ての単電池30が所定の電圧範囲内に留まるように充放電を制御する場合に、各々の単電池30の残存容量が等しいとみなせるとき、ある時点において最も電圧が高い単電池と、最も電圧が低い単電池について、その両方が所定の電圧範囲を逸脱しないよう充放電を制御することとなる。組電池50は、バイポーラ型の単電池30が直列接続されているために、各単電池に印加される電流は一定であり、充放電中の各単電池の容量変化は一定である。従って、組電池50の充電時の残存容量は、ある時点において最も電圧が高い単電池の残存容量と等しくなり、組電池50の放電時の残存容量は、ある時点において最も電圧が低い単電池の残存容量と等しくなる。
【0097】
一方、各々の単電池30の残存容量が等しいと見なせないときは、組電池の残存容量は、ある時点における単電池群の電圧の最大値、最小値のみに支配されるわけではなく、単位容量あたりの電圧変化の大きさに影響を受ける。すなわち、組電池50の充電時の残存容量は、ある時点において最も電圧が高い単電池の残存容量と、その時点の近傍において単位時間あたりの電圧変化が最も大きい単電池の残存容量のうち、小さい方の容量値であると推定することができる。同様に、組電池50の放電時の残存容量は、ある時点において最も電圧が低い単電池の残存容量と、その時点の近傍において単位時間あたりの電圧変化が最も大きい単電池の残存容量のうち、小さい方の容量値であると推定することができる。
【0098】
各々の単電池30の残存容量が等しいとみなせるとき、解析部103の状態推定部132は、解析DB102に格納された特性信号を参照して、単電池ごとの最高電圧および最低電圧のみから、単電池ごとの残存容量を推定する。例えば、リチウムイオン電池モジュール1の組電池50の中の5つの単電池30の、ある時点における最高電圧と最低電圧の測定結果が下記のとおりだったとする。
最高電圧 最低電圧 電圧差
単電池1 4.22V 2.44V 1.78V
単電池2 4.23V 2.48V 1.75V
単電池3 4.21V 2.45V 1.76V
単電池4 4.20V 2.50V 1.70V
単電池5 4.19V 2.53V 1.66V
【0099】
組電池50の充電時の残存容量は、最も電圧が高い単電池1の残存容量と等しくなり、組電池50の放電時の残存容量は、最も電圧が低い単電池5の残存容量と等しくなる。
【0100】
各々の単電池30の残存容量が等しいと見なせないとき、単位時間あたりの電圧変化が大きい単電池の残存容量は、例えば、次のようにして求めることができる。本実施形態の単電池30のSOC-OCVカーブが一価であるため、電圧値からSOC(=充電(放電)可能容量/満充電(放電)容量)を推定できる。単位時間あたりのSOC(%)の変化量と、同時間に充電ないし放電された容量(組電池50について充電ないし放電された容量と等しい)を記録することにより、SOCの定義に基づいて満充電(放電)容量を推定することができる。充電時の残存容量=1-放電可能容量であることから、(1-SOC)×満充電容量から単電池の残存容量を推定することができる。
【0101】
(3)異常状態の監視
信号処理装置100は、複数の単電池の状態を決定または推定する際に時系列や事前知識を用いることもできる。時系列は、状態決定部131により決定された状態を時間順に記録した情報テーブルとすることができ、解析DB102に格納される。事前知識は、事前に設定した単電池の特性であって、電圧や温度などの内部状態と特性信号との対応関係を示す情報テーブルや、単電池の特性の状態遷移を示す情報とすることができ、知識DB104に格納される。時系列や事前知識は、コンピュータが読取可能な記録媒体に記録された情報とすることができる。
【0102】
a)電圧・電流異常
解析部103の状態推定部132は、例えば、特定の単電池について、解析DB102に格納された特性信号を参照して、充電過程における電圧変化の測定結果を取得する。知識DB104に格納された単電池の電圧特性の遷移モデルと比較して、単電池の劣化状態を推定することができる。
【0103】
また、電圧変化の測定結果と遷移モデルとの比較結果が乖離していれば、対象の単電池が異常状態であると判定することもできる。
【0104】
b)温度異常
データ取得部101は、リチウムイオン電池モジュール1の温度センサ93からのデータも取得することができる。解析部103の状態決定部131は、解析DB102に格納された温度センサ93からの特性信号を周期的に監視して、予め定めた閾値を超えた場合に、リチウムイオン電池モジュール1の異常と決定することができる。
【0105】
また、上述した電池の状態解析において、予め定めた特定の温度範囲と、特定の温度範囲以外の温度範囲とにおいて、データ取得部101は、監視密度を変えたり、情報量を圧縮して解析DB102に格納することもできる。
【符号の説明】
【0106】
10 単電池
12 正極
13 負極
14 セパレータ
15 正極活物質層
16 負極活物質層
17 正極集電体
18 枠部材
19 負極集電体
20 発光部
21 配線基板
22 発光素子
23a、23b 制御素子
24、25 測定端子
30 単電池ユニット
50 組電池
57、59 引出配線
60 光導波路
70 外装体
80 受光部
81 受光素子
82 光電気変換回路(O/E)
83 復号器(DEC)
84 記録装置(MEM)
91 電圧計
92 電流計
93 温度センサ
100 信号処理装置
101 データ取得部
102 解析DB
103 解析部
104 知識DB
105 通信部
131 状態決定部
132 状態推定部
図1
図2
図3
図4