(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164082
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ボビン及びコイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/12 20060101AFI20221020BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20221020BHJP
H01F 5/02 20060101ALI20221020BHJP
H01F 27/22 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01F41/12 F
H01F37/00 E
H01F37/00 S
H01F5/02 H
H01F27/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069334
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 桂輔
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 定勝
【テーマコード(参考)】
5E044
5E050
【Fターム(参考)】
5E044BA01
5E044BB05
5E050JA02
(57)【要約】
【課題】固定対象物への実装工程が容易であり、周囲の実装部品と干渉しない位置に放熱経路を確保することができるボビン及びコイル装置を提供する。
【解決手段】コイル装置1のボビン3は、巻線4が巻き付けられた状態でケース5に固定されており、ケース5の底壁に固定されるベース部38と、ベース部38に繋がって設けられ、巻線4が巻き付けられる筒部31と、を備え、ベース部38は、筒部31に巻き付けられた巻線4で生じる熱をケース5の底壁5A側に放熱するための貫通孔Hを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線が巻き付けられた状態で固定対象物に固定されるボビンであって、
前記固定対象物に固定されるベース部と、
前記ベース部に繋がって設けられ、前記巻線が巻き付けられる筒部と、を備え、
前記ベース部は、前記筒部に巻き付けられた前記巻線で生じる熱を前記固定対象物側に放熱するための貫通孔を有するボビン。
【請求項2】
前記巻線で生じる熱を前記固定対象物に伝える伝熱部材が、前記貫通孔に挿通される請求項1に記載のボビン。
【請求項3】
前記伝熱部材は、前記ベース部と前記固定対象物との間に充填されて前記貫通孔に挿通されるポッティング樹脂で構成される請求項2に記載のボビン。
【請求項4】
前記伝熱部材は、前記筒部に巻き付けられた前記巻線の内側に端部が挿入されると共に前記貫通孔を通って前記固定対象物側に延びるヒートパイプで構成される請求項2に記載のボビン。
【請求項5】
前記伝熱部材は、板状の熱伝導性樹脂で形成されており、前記筒部に巻き付けられた前記巻線の内側に挿入されると共に前記貫通孔を通って前記固定対象物側に延びる挿入部と、当該挿入部に繋がって設けられ前記固定対象物に固定される固定部とを有する請求項2に記載のボビン。
【請求項6】
前記筒部における前記ベース部と反対側に設けられた鍔部を備え、
前記鍔部は、前記鍔部上に配置されるコア構成部の側面を両側から支持するように設けられた支持壁部を有する請求項1~5のいずれかに記載のボビン。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のボビンと、
前記筒部に巻き付けられる巻線と、
前記筒部に挿通されるコアと、を備えるコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビン及びコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランスやチョーク等のコイル装置では、装置内部の短絡の防止や装置周辺の実装部品から巻線を電気的に保護する観点により、巻線の周囲には絶縁部材が配置されている。従って、巻線で生じた熱を放熱させるために放熱部材を設ける場合、放熱部材は、複数の絶縁部材を介して巻線に取り付けられることが多い。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、一次側及び二次側の巻線を有するトランスを金属製のケースに収容して、トランスで生じた熱を放熱する構造が開示されている。このトランスにおいて、巻線は、絶縁性を有する樹脂製のボビンに巻き付けられており、コアと一体化されたボビンが、放熱部材である金属製のケース内に収容されている。ケース内には、巻線(及びコア)とケースとの絶縁を確保するために、樹脂製の充填剤が充填されている。これにより、巻線及びコアの表面から放熱された熱は、充填剤を介してケースに伝わり、ケースに装着された冷却パイプやヒートシンクにより外部に放熱される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、ボビンの外側に複数の部材を取り付けて放熱経路が形成されているため、ボビン(コイル装置)を固定対象物へ実装する工程が複雑になるという課題がある。また、放熱経路を構成する複数の部材により装置外形が大型化するため、周囲の実装部品と干渉しない位置に放熱経路を確保することが困難になるという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、固定対象物への実装工程が容易であり、周囲の実装部品と干渉しない位置に放熱経路を確保することができるボビン及びコイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るボビンは、巻線が巻き付けられた状態で固定対象物に固定されるボビンであって、前記固定対象物に固定されるベース部と、前記ベース部に繋がって設けられ、前記巻線が巻き付けられる筒部と、を備え、前記ベース部は、前記筒部に巻き付けられた前記巻線で生じる熱を前記固定対象物側に放熱するための貫通孔を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るボビンによれば、巻線が巻き付けられる筒部に繋がってベース部が設けられており、当該ベース部を介して固定対象物にボビンが固定されている。ベース部は、貫通孔を有しており、当該貫通孔を介して巻線で生じる熱を固定対象物側に放熱することができる。従って、ボビンそのものに放熱経路となる貫通孔を形成し、固定対象物に固定することができるため、ボビンの固定対象物への実装工程が容易である。また、放熱経路は、ベース部に形成された貫通孔の内側の領域であるため、周囲の実装部品と干渉しない位置に放熱経路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るコイル装置の斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って切断した状態を示すコイル装置の断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るコイル装置の分解斜視図である。
【
図5】第1実施形態に係るボビンの平面側斜視図である。
【
図6】第1実施形態に係るボビンの底面側斜視図である。
【
図8】第2実施形態に係るコイル装置のボビンと伝熱部材の分解斜視図である。
【
図9】第2実施形態に係るボビンの側面側斜視図である。
【
図10】第2実施形態に係るコイル装置を示す
図2に対応する断面図である。
【
図11】第3実施形態に係るコイル装置のボビンと伝熱部材の分解斜視図である。
【
図12】第3実施形態に係るコイル装置を示す
図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態に係るコイル装置1と、コイル装置1に用いられるボビン3について
図1~
図7を参照して説明する。本実施形態では、説明の便宜上、各図中に適宜示す上下、左右、前後の矢印で示す方向を、それぞれ上下方向、左右方向、前後方向と定義して説明する。また、各図中においては、図面を見易くするため、一部の符号を省略している場合がある。
【0011】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のコイル装置1は、一例として、チョークコイルを構成している。コイル装置1は、フェライトコア等の磁性材料で形成されたコア2と、コア2が挿通されたボビン3と、ボビン3に巻き付けられた巻線4と、を備えている。コイル装置1は、上方側に開口した箱型のケース5内に収容されており、ケース5の底壁5Aにネジ54を用いて固定されている。ケース5は、アルミニウム等の放熱性の高い金属材料で形成されている。
【0012】
図3に示すように、コア2は、コア2の下部を構成する第1コア21と、コア2の上部を構成する第2コア22と、で構成されている。第1コア21と第2コア22は、それぞれが別々に成形され、ボビン3を上下方向から挟むようにして重ね合わせることにより互いに接合されている。第1コア21は、コア側部211と、中脚部212と、外脚部213とを有し、上下左右断面が略E型を成している。コア側部211は、上下方向に所定の板厚を有し、左右方向に長い板状に形成されている。中脚部212は、上下方向を軸方向とする円柱状に形成され、コア側部211の中央から上方側(第2コア22側)に立設されている。外脚部213は、左右方向に所定の板厚を有する縦壁状に形成されており、コア側部211の左右両端からそれぞれ上方側に立設されている。一対の外脚部213の対向する側面は円弧状に湾曲した湾曲面となっている。第1コア21をボビン3に取り付けた状態では、ボビン3の筒部31の下面側を覆うようにコア側部211が配置される。そして、円柱状の中脚部212が、ボビン3の筒部31に挿通され、一対の外脚部213は、筒部31の外周部を左右両側から覆うように配置される。
【0013】
第2コア22は、上下方向に所定の厚みを有し、左右方向に長い板状に形成されており、上下左右断面が略I型を成している。第2コア22は、ボビン3に取り付けられた状態では、第1コア21の上方側に重ねられ、筒部31の上面側を覆うように配置される。第1コア21と第2コア22は、上下に重ねられた後、図示しない外装テープ(絶縁テープ)を巻き付けることにより互いに接合されている。これにより、第1コア21及び第2コア22によってチョークコイルの閉磁路が形成される。
【0014】
上述したコア2は、第1コア21と第2コア22によって形成された内部空間を前後両側に開放するコア開口部23を有している。
図1に示すように、コア2がボビン3に取り付けられた状態では、前後両側のコア開口部23から、ボビン3の筒部31に巻き付けられた巻線4の一部がコア2の外側に露出している。また、前方側のコア開口部23からは、巻線4の端部4A,4Bが外部に引き出されている。更に、巻線4の下方側では、前後両側のコア開口部23から、筒部31に繋がって設けられたボビン3のベース部38が突出している。
【0015】
図5~
図7に示すように、ボビン3は、筒部31と、筒部31に繋がって設けられたベース部38とを有している。また、ボビン3の筒部31には、上鍔部32と、下鍔部34と、セパレータ部36とが一体に設けられている。ボビン3は、一例として絶縁性を有する樹脂材料を一体成形して形成されている。
【0016】
筒部31は、上下方向を軸方向とする円筒状に形成されている。筒部31の内側には、円柱形状の第1コア21の中脚部212が挿通可能となっている。筒部31の上端には、筒部31の外周面から径方向外側に突出する上鍔部32が設けられている。上鍔部32は、筒部31の左右両側の外周面から径方向外側に突出する第1板部321と第2板部322を有している。第1板部321と第2板部322はそれぞれ、径方向に一定の幅を有し、軸方向に一定の板厚を有する板状部材であり、平面視で扇状に形成されている。
図3に示すように、第1板部321と第2板部322からなる上鍔部32の上面には、第2コア22が載置される。更に、上鍔部32の上面には、前後両端から上方側に立設する前後一対の支持壁部323が設けられている。一対の支持壁部323の間には、第2コア22が挿入可能となっている。即ち、一対の支持壁部323は、上鍔部32上に配置される第2コア22の側面を前後方向の両側から支持する構成となっている。一対の支持壁部323によって、第2コア22が支持されるため、上鍔部32と第2コア22との間にギャップ材を挿入して保持することが可能となっている。本実施形態では、上鍔部32と第2コア22との間にギャップ材6が挿入されている。ギャップ材6は、一例として、ポリーカーボネートなどで構成された樹脂製のシート材である。上鍔部32と第2コア22との間にギャップ材6を挿入することは必須ではないが、ギャップ材6を挿入した場合、ギャップ材6の厚みを調整することで第1コア21と第2コア22との間に任意の間隙を設けることができる。従って、コイル装置1のインダクタンスを調整することが可能となる。ギャップ材6を使用しない場合は中脚部212を研磨してギャップとすることができる。
【0017】
図6に示すように、筒部31の下端には、筒部31の外周面から径方向外側に突出する下鍔部34が設けられている。下鍔部34は、筒部31の左右両側の外周面から径方向外側に突出する第1板部341と第2板部342とを有している。第1板部341と第2板部342はそれぞれ、径方向に一定の幅を有し、軸方向に一定の板厚を有する板状部材であり、平面視で扇状に形成されている。
図3に示すように、第1板部341と第2板部342からなる下鍔部34の下面には、第1コア21のコア側部211が載置される。更に、下鍔部34の下面には、前後両端から下方側に立設する前後一対の支持壁部343が設けられている。一対の支持壁部343の間には、第1コア21のコア側部211が挿入可能となっている。即ち、一対の支持壁部343は、下鍔部34の下に配置される第1コア21の側面を前後方向の両側から支持する構成となっている。上記構成により、一対の支持壁部343は、筒部31の下端に繋がって設けられており、後述するベース部38の一部を構成している。
【0018】
図2及び
図7に示すように、筒部31の上下方向の中間部には、筒部31の外周面から径方向外側に突出するセパレータ部36が設けられている。セパレータ部36は、径方向に一定の幅を有し、軸方向に一定の板厚を有する板状部材である。このセパレータ部36は、筒部31の周方向に沿って延在しており、筒部31を上下方向(軸方向)に二つの区画S1,S2に区画している。筒部31において、セパレータ部36によって区画された下方側の区画S1と上方側の区画S2には、巻線4の巻線部をそれぞれ巻き付けることができる。区画S1,S2の軸方向の高さ寸法は、巻線4を構成する線材の径と同一又は同等の寸法に設定されている。従って、各区画S1,S2内に巻線4を挿入して巻き付けることで、平面視で渦巻き状に形成される巻線4を容易に形成することができる。また、このセパレータ部36は、平面視で略C字状に形成されており、C字の開口部分に当たる部位が、下方側の区画S1と上方側の区画S2とを連通させる開口部37となっている。この開口部37は、セパレータ部36を板厚方向に貫通し、前方側に開口した溝部と言い換えることもできる。開口部37の径方向の深さは、セパレータ部36の径方向の幅と同一であり、セパレータ部36の外縁部から筒部31の外周面に達する深さを有している。セパレータ部36に上記構成の開口部37を形成することにより、本実施形態の巻線4のように二層構造の巻線を筒部31に巻き付けることが可能となっている。
【0019】
具体的に説明すると、
図4に示すように、巻線4は、複数の線材(細線)を撚り合わせて構成されたリッツ線であり、当該リッツ線をアルファ巻きすることにより形成されている。アルファ巻により形成された巻線4は、軸方向に間隔を空けて配置される二つの巻線部41,42を有している。なお、巻線4はリッツ線に限らず単線のワイヤを用いることもできる。しかし、EV車やプラグインハイブリッド車等の電気自動車の非接触充電システムのように、大電力且つ高周波数の電力が供給される高周波回路にコイル装置1を組み込む場合、巻線4をリッツ線で形成することで、表皮効果による巻線抵抗の増大を抑制することができる点で有利である。
【0020】
巻線4を筒部31にアルファ巻きするには、先ず、巻線4の延在方向の中間部4C(巻線4の中点となる部位)をセパレータ部36の開口部37に通す。そして、区画S1に挿入された中間部4Cよりも下方側の部位をセパレータ部36の下面側で筒部31の外周面に渦巻状に巻き付ける。一方、区画S2に挿入された中間部4Cよりも上方側の部位をセパレータ部36の上面側で筒部31の外周面に渦巻状に巻き付ける。これにより、セパレータ部36の軸方向両側に、渦巻き状に形成された第1巻線部41と第2巻線部42を有する二層構造の巻線4を形成することができる。筒部31にコア2を取り付けた状態では、セパレータ部36の開口部37が前方側のコア開口部23に面して配置され、当該開口部37の前方側で交差する巻線4の端部4A,4Bがコア開口部23を通ってコア2の外部に引き出される(
図1参照)。巻線4は、筒部31に巻き付けられた後、図示しない外装テープ(絶縁テープ)で外周部の表面が覆われる。なお、巻線4自体が融着層を有するなど、巻線4の形状が保持される場合は外装テープを省略できる。
【0021】
図5~
図7に示すように、ボビン3は、筒部31の下端に繋がって設けられたベース部38を有している。ベース部38は、全体としてフレーム状を成しており、筒部31の前後両側の外周面からそれぞれ水平に突出する第1フレーム部38Aと第2フレーム部38Bを有している。第1フレーム部38Aと第2フレーム部38Bは同一形状及び同一の大きさを有しているため、以降では、筒部31の前方側に突出する第1フレーム部38Aを中心に説明する。
【0022】
第1フレーム部38Aは、筒部31の下端に繋がって設けられた一方(
図5及び
図6では前方側)の支持壁部343と、支持壁部343の外側に配置された外壁部381と、支持壁部343の両側の端部同士をそれぞれ連結する一対のベース部側ボス部382とによって構成されている。第1フレーム部38Aの支持壁部343は、上述したように、筒部31の下端に設けられた下鍔部34の前端部から下方側に突出しており、前後方向に所定の板厚を有している。支持壁部343は、平面視でボビンの外側(
図5及び
図6では前方側)に開口したV字状に形成されている。外壁部381は、支持壁部343のV字の開口を塞ぐように、左右方向に延在しており、前後方向に所定の板厚を有している。支持壁部343と外壁部381の端部同士を連結するベース部側ボス部382は、上下方向を軸方向とする円筒状に形成されている。上記構成の支持壁部343、外壁部381、一対のベース部側ボス部382により、第1フレーム部38Aは、平面視で略台形枠状に形成されている。従って、第1フレーム部38Aは、ベース部38を上下方向に貫通する貫通孔Hを有している。本実施形態では、第1フレーム部38Aの強度を向上させるために、支持壁部343と外壁部381との間に前後方向に延びる二つの補強梁383を平行に架け渡している。第2フレーム部38Bは、筒部31の下端において、第1フレーム部38Aの反対側に突出して設けられている。第2フレーム部38Bは、上述したように、第1フレーム部38Aと同様に構成されているため、詳細な説明を割愛する。
【0023】
図1に示すように、ベース部38は、第1フレーム部38A及び第2フレーム部38Bに設けられた四つのベース部側ボス部382を介してケース5の底壁5Aに固定されている。ケース5の底壁5Aには、底壁5Aの上面から上方側に突出した円筒状の四つのケース側ボス部51が設けられている。四つのケース側ボス部51は、四つのベース部側ボス部382に対応している。各ベース部側ボス部382には、内側にケース側ボス部51が挿入された状態で、ネジ54が挿通されている。ネジ54は、ケース側ボス部51に形成されたネジ孔(雌ネジ)に挿入されて螺合することにより、ベース部38をケース5に固定している。このようにボビン3のベース部38がケース5に固定された状態では、ボビン3の筒部31に巻き付けられた巻線4において、下方側の第1巻線部41の一部が第1フレーム部38Aと第2フレーム部38Bを上方側から覆うように配置される。換言すると、第1フレーム部38A及び第2フレーム部38Bの貫通孔Hの上方位置に、第1巻線部41及び第2巻線部42の一部が配置される。即ち、
図2に示すように、第1フレーム部38A及び第2フレーム部38Bの貫通孔Hにより、第1巻線部41の軸方向に面した表面(
図2では下面)とケース5の底壁5Aとが連通された状態となる。
【0024】
コイル装置1の作動時(導通時)に巻線4が発熱すると、第1巻線部41の表面の熱は、第1フレーム部38Aと第2フレーム部38Bの貫通孔Hを通ってケース5の底壁側に伝達され、ケース5から外部へ放熱される(
図2の矢印参照)。このように、ボビン3は、貫通孔Hの内側の領域を利用して巻線4で生じた熱をケース5側に放熱するための放熱経路を形成することができる。当該放熱経路による放熱効率を一層向上させる観点では、貫通孔Hの内側に、熱伝導性の高い伝熱部材を挿通させることが好ましい。本実施形態では、ケース5内に充填されるポッティング樹脂Pに熱伝導フィラーを添加して伝熱部材としている。
図2に模式的に示されるように、ケース5内にポッティング樹脂Pを充填すると、当該ポッティング樹脂Pが、ベース部38と底壁5Aの間や、第1フレーム部38A及び第2フレーム部38Bの貫通孔Hにも充填される。このように貫通孔Hに充填されたポッティング樹脂Pが、巻線4で生じた熱をケース5側に伝える伝熱部材を構成する。また、本実施形態のベース部38は、全体としてフレーム体を成しているため、ポッティング樹脂Pの充填後にベース部38下面側に気泡が滞留することを抑制できる。この点においても、放熱経路の放熱効率を高めることができる。
【0025】
(作用並びに効果)
以上説明したように、本発明に係る第1実施形態のコイル装置1によれば、ボビン3は、巻線4が巻き付けられる筒部31に繋がってベース部38が設けられており、当該ベース部38を介してケース5の底壁5Aにボビン3が固定されている。ベース部38は、貫通孔Hを有しており、当該貫通孔Hを介して巻線4で生じる熱をケース5(底壁5A)側に放熱することができる。従って、ボビン3そのものに放熱経路となる貫通孔Hを形成し、ケース5に固定することができるため、ボビン3をケース5へ実装する実装工程が容易である。また、放熱経路は、ベース部38に形成された貫通孔Hの内側の領域であるため、周囲の実装部品と干渉しない位置に放熱経路を確保することができる。
【0026】
また、本実施形態の貫通孔Hは、巻線4の一部をケース5の底壁5A側へ露出させ、巻線4と底壁5Aとを連通可能に構成されている。従って、巻線4で生じた熱を効率良くケース5側へ放熱することができる。
【0027】
また、本実施形態の貫通孔Hは、巻線4における軸方向に面して配置された表面とケース5の底壁5Aとを連通させている。従って、巻線4の径方向外側の部位に加えて、径方向内側の部位の熱も効率良くケース5側へ放熱させることができる。
【0028】
更に、巻線4において軸方向に面した表面は、径方向外側の外周面のように絶縁用の外装テープで被覆されない。従って、本実施形態の貫通孔Hは、巻線4において、外装テープを回避した位置に放熱経路を形成することができるため、外装テープのような絶縁部材によって放熱が阻害されない。その結果、巻線の放熱効率をより一層高めることができる。
【0029】
また、本実施形態に係るボビン3によれば、巻線4で生じる熱をケース5に伝える伝熱部材が貫通孔Hに挿通されている。具体的には、ケース5内に充填されるポッティング樹脂Pが伝熱部材となり、貫通孔Hに挿通した状態となっている。これにより、貫通孔Hの内側の放熱経路の放熱効率を一層向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態に係るボビンによれば、筒部31に設けられた上鍔部32の上にコア2を構成する第2コア22が載置され、上鍔部32に設けられた支持壁部323によって第2コア22の側面が両側から支持される。従って、第2コア22が支持壁部323で支持されて、ボビン3に対する位置決めが安定するため、コア2を接合する外装テープを容易に巻き付けることができる。また、上鍔部32と第2コア22との間にギャップ材6を挿入して支持壁部323で保持することができるため、コア2間のギャップの調節が容易であり、ひいては、コイル装置1のインダクタンスを容易に調整することができる。
【0031】
以下、
図8~
図10を参照して、第2実施形態に係るコイル装置8について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。この第2実施形態に係るコイル装置8では、ボビン81の貫通孔Hの内側に挿通される伝熱部材がヒートパイプ82で構成される点に特徴がある。また、これに対応してボビン81の形状が第1実施形態のボビン3の形状の一部を変更した形状となっている。
【0032】
具体的に、本実施形態では、二つのヒートパイプ82をベース部38の第1フレーム部38Aと第2フレーム部38Bの各貫通孔Hに挿通させるために、セパレータ部84に開口部を形成している。従って、ボビン81のセパレータ部84は、基本的な構成は第1実施形態のセパレータ部36と同様であるが、
図9に示すように、第1実施形態ではセパレータ部36の前方側にのみ形成された開口部37がセパレータ部84においては、前後両側に形成されている点で異なる。また、ボビン81には、貫通孔Hの内部に二つの補強梁383を設けない構成とした点において第1実施形態のボビン3と異なる。他の構成は、上記第1実施形態と同一である。
【0033】
図8及び
図10に示すように、ヒートパイプ82は、密閉された内部空間を有する細管であり、内部空間に封入された冷媒が作動液として機能し、温度が高くなる一端から温度が低くなる他端に熱を移動させる。ヒートパイプ82の一端は、ボビン81の筒部31に巻き付けられた巻線4の内側に挿入されている。より具体的に説明すると、ヒートパイプ82は巻線4の軸方向(上下方向)に沿って延びており、ヒートパイプ82の一端は、第1巻線部41及び第2巻線部42において径方向に重なるリッツ線の間にそれぞれ挿通されている。ヒートパイプ82の他端は、貫通孔Hを通ってケース5の底壁5A側に延び、底壁5Aに固定された固定板83に接続されている。固定板83は、上下方向に所定の板厚をする板状部材であり、平面視で貫通孔Hの内側に収まる大きさを有している。固定板83は、熱伝導性の高いアルミニウム等の金属で形成されている。固定板83は、二つのネジ86を用いて底壁5Aに固定されている。なお、固定板83は必須ではなく、ケース5の底壁5Aに差し込み孔などを設ける構成として、ヒートパイプ82の他端を直接底壁5Aに接続してもよい。巻線4で生じた熱は、ヒートパイプ82に伝達され、ヒートパイプ82によって固定板83及び底壁5Aに移動する。なお、上記構成では、ヒートパイプ82の一端が、巻線4の隙間、即ち、巻線4の内部に挿入される構成としたが、本発明はこれに限らない。巻線4の内側にヒートパイプ82の一端が挿入される構成であればよく、ボビン81の筒部31と巻線4との間にヒートパイプ82の一端を挿入してもよい。
【0034】
(作用・効果)
上記構成のコイル装置8は、基本的には第1実施形態に係るコイル装置1の構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、巻線4で生じる熱をケース5側に伝える伝熱部材がヒートパイプ82で構成されている。具体的に、ヒートパイプ82は、貫通孔Hを通ってケース5の底壁5A側に延びており、第1巻線部41と第2巻線部42の内側に一端が挿入されている。これにより、貫通孔H内の放熱経路において、巻線4の内側部分で生じた熱をヒートパイプ82によって効率良く放熱することができる。また、上記構成によれば、コイル装置8の搭載部が箱状のケース内ではなく平板状のダイカスト等の表面であっても、貫通孔Hの内側に伝熱部材(ヒートパイプ82)を配置した放熱経路を形成することができる。
【0036】
以下、
図11及び
図12を参照して、第3実施形態に係るコイル装置9について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。この第3実施形態に係るコイル装置9では、ボビン91の貫通孔Hの内側に挿通される伝熱部材が放熱樹脂製の伝熱板92で構成される点に特徴がある。また、これに対応してボビン91のセパレータ部94の形状を第2実施形態のボビン81と同様の構成にした。また、第2実施形態と同様に貫通孔Hの内部に二つの補強梁383を設けない構成とした。コイル装置9における他の構成は、上記第1実施形態と同一である。
【0037】
伝熱板92は、熱伝導フィラーを添加した樹脂材料からなる放熱樹脂を一体成形して形成されている。伝熱板92は、挿入部921と固定部922とを有し、全体として略L型の板体状に構成されている。挿入部921は、巻線4の軸方向に延び、巻線4の径方向に所定の板厚を有している。挿入部921の側面は、巻線4の周方向の曲率と同等の曲率で湾曲されている。挿入部921の一端は、第1巻線部41及び第2巻線部42において径方向に重なるリッツ線の間にそれぞれ挿通されている。挿入部921の他端は、貫通孔Hを通ってケース5の底壁5A側に延び、固定部922に繋がっている。固定部922は、上下方向に所定の板厚をする板状部材であり、平面視でボビン91のベース部38の第1フレーム部38A(又は第2フレーム部38B)の下面を覆う大きさを有している。固定部922の左右両側の部位には、ベース部側ボス部382と同軸的に配置された固定孔93が形成されており、固定部922にベース部側ボス部382に挿通されたネジ54が挿通されて、ベース部38と共にケース5の底壁5Aに固定されている。巻線4で生じた熱は、伝熱板92に伝達され、伝熱板92によって底壁5Aに移動する。なお、上記構成では、挿入部921の一端が、巻線4の隙間、即ち、巻線4の内部に挿入される構成としたが、本発明はこれに限らない。巻線4の内側に挿入部921の一端が挿入される構成であればよく、ボビン91の筒部31と巻線4との間に挿入部921の一端を挿入してもよい。
【0038】
(作用・効果)
上記構成のコイル装置9は、基本的には第1実施形態に係るコイル装置1の構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0039】
また、本実施形態では、巻線4で生じる熱をケース5側に伝える伝熱部材が放熱樹脂で形成された伝熱板92で構成されている。伝熱板92は、貫通孔Hを通ってケース5の底壁5A側へ伸びる挿入部921と挿入部921に繋がって設けられた固定部922とを有している。この挿入部921は、先端が巻線4の内側に挿入されているため、巻線4の内側で生じた熱を固定部922に伝達し、固定部922を介して底壁5A側へ放熱させることができる。これにより、貫通孔H内の放熱経路において、巻線4の内側部分で生じた熱を伝熱板92によって効率良く放熱することができる。また、上記構成によれば、コイル装置9の搭載部が箱状のケース内ではなく平板状のダイカスト等の表面であっても、貫通孔Hの内側に伝熱部材(伝熱板92)を配置した放熱経路を形成することができる。
【0040】
[補足説明]
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用、構成の組み合わせが可能である。
【0041】
また、上記各実施形態では、ボビン3,81,91の筒部31に一つのセパレータ部36,84,94を設ける構成としたが、本発明はこれに限らない。ボビンの筒部に軸方向に並んだ複数のセパレータ部を設ける構成としてもよい。若しくは、ボビンの筒部にセパレータ部を設けない構成としてもよい。また、上記各実施形態では、セパレータ部36,84,94によって区画された区画S1,S2の軸方向の高さ寸法がコイル径と同等とされたが、本発明はこれに限らず、各区画S1の軸方向の高さは、区画毎に適宜変更可能である。
【0042】
上記実施形態では、コイル装置でチョークコイルを構成したが、本発明はこれに限らない。例えば、筒部31において、セパレータ部36,84,94によって区画された複数の区画の内一つ又は複数の区画に一次側の巻線を巻き付けて、別の区画に二次側の巻線を巻き付けることでトランスを構成してもよい。
【0043】
上記実施形態では、筒部31に巻き付けられる巻線4をアルファ巻きしたが本発明はこれに限らない。巻線4の巻き方は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 コイル装置
2 コア
3 ボビン
5 ケース(固定対象物)
22 コア構成部(第2コア)
31 筒部
32 鍔部(上鍔部)
38 ベース部
8 コイル装置
81 ボビン
82 ヒートパイプ(伝熱部材)
9 コイル装置
91 ボビン
92 伝熱板(伝熱部材)
921 挿入部
922 固定部
H 貫通孔
P ポッティング樹脂(伝熱部材)