IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 今井 克彦の特許一覧 ▶ 株式会社森林経済工学研究所の特許一覧

特開2022-164108二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構
<>
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図1
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図2
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図3
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図4
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図5
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図6
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図7
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図8
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図9
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図10
  • 特開-二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164108
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20221020BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20221020BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20221020BHJP
   E04B 1/20 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04B1/58 E
E04G23/02 F
E04B1/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069387
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】598101619
【氏名又は名称】今井 克彦
(71)【出願人】
【識別番号】503117841
【氏名又は名称】株式会社森林経済工学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】今井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】宮原 浩維
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
2E176
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB12
2E125AC15
2E125EB11
2E139AA01
2E139AB11
2E139AC19
2E139AC26
2E139AC27
2E139AD04
2E139BC04
2E139BD15
2E139BD22
2E176AA04
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】耐震補強するにあたり、構面での視界阻害率を最小化し、重機導入不可能な立地にある建物における人力施工が可能なように、構成部材の小形化や軽量化を図る。
【解決手段】4枚の平鋼1が互いに接近した面内に配置され、平鋼1と同厚漸増広幅の端板2とが、平鋼1の両端部に、突き合せ溶接3により一体化される。第一平鋼1aが第二平鋼1bとX字状に接触することなく交差され、第三平鋼1cが第四平鋼1dとも同様に交差される。二つのガセットプレート4A, 4Bは平鋼以下の厚みを有し、構面の対角線方向のコーナーに溶接され、第一平鋼1aと第三平鋼1cとはガセットプレート4A, 4Bを挟むとともに両端板2の間で高力ボルト6により剛強に固定して一体化され、これでもって、第一ブレース体5Aとなし、同様に形成した第二ブレース体5Bと第一ブレース材5Aとが、交差ブレース体10を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁からなる構面を補強する平鋼を用いた交差型ブレース機構において、
長さが同一かつ厚みが同一の4枚の平鋼が互いに接近した垂直面内に配置され、
平鋼と同厚漸増広幅の端板とが、その平鋼の幅に等しい小幅端部をもって前記平鋼の両端部に、突き合せ溶接により一体化され、
第一平鋼が第二平鋼とX字状に接触することなく交差され、第一平鋼と同一姿勢配置の第三平鋼が第二平鋼と同一姿勢配置の第四平鋼とX字状に接触することなく交差され、
二つのガセットプレートは平鋼以下の厚みを有し、構面の対角線方向のコーナーに溶接され、第一平鋼と第三平鋼とは第一ガセットプレートと第二ガセットプレートを挟むとともに両端板の間で高力ボルトにより剛強に固定して一体化され、これでもって、二重平鋼鋼製の第一ブレース体となし、
他のガセットプレートも平鋼以下の厚みを有し、構面の他の対角線方向のコーナーに溶接され、第二平鋼と第四平鋼とは第三ガセットプレートと第四ガセットプレートを挟むとともに両端板の間で高力ボルトにより剛強に固定して一体化され、これでもって、二重平鋼鋼製の第二ブレース体となし、
前記第一ブレース材と第二ブレース材とは、該両ブレース材の交差部にガセットプレートが設けられることなく、二枚合わせ平鋼板からなる交差ブレース体を形成していることを特徴とする二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構。
【請求項2】
前記構面はRC造またはSRC造の既存柱および既存梁の外面に一体化されているH形鋼製補強柱とH形鋼製補強梁からなる格子枠であることを特徴とする請求項1に記載された二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構。
【請求項3】
構面はRC造またはSRC造の既存柱および既存梁の内側に一体化されている溝形鋼製補強柱と溝形鋼製補強梁からなる格子枠であり、既存柱・既存梁の囲繞空間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構。
【請求項4】
前記構面は、H形鋼製または角形鋼管、丸形鋼管といった鋼管製の新設柱とH形鋼製の新設梁からなる格子枠であり、交差ブレース体は新設柱と新設梁との内側に一体化され、すなわち、新設柱・新設梁の囲繞空間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構。
【請求項5】
前記ガセットプレートは対面する端板ごとにシムプレートを伴い、前記高力ボルトにより端板のみならずシムプレートと一体化され、前記ブレース体の平鋼の対面間隔をガセットプレートの厚みより大きくできるようにしたことを特徴とする請求項1に記載された二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構。
【請求項6】
前記第一ブレース材と第二ブレース材の交差部位には、発泡プラスチックボードが構造用両面テープにより貼着されていることを特徴とする請求項1に記載された二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構に係り、詳しくは、柱と梁からなる構面を補強する平鋼を用いた交差型ブレース機構に関し、構面に設けた窓からの視界を広くとれるようにしたブレース補強構造を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
RC造やSRC造の既存建物を耐震補強するにあたり、柱Pと梁Qからなる構面R(例えば図10のようなラーメン構造)を筋交い1E1,E2により補強する。これには特許文献1に開示されるX字形のブレースや特許文献2に開示されたV字形またはK字形のブレースが採用される。これらブレースの利害得失は非特許文献1にも記載されている。
【0003】
要約すると、ブレース材としては、山形鋼、平鋼やH形鋼が使われる。図10図11は、一般的に用いられているブレースである。図10(a)、(b)のX形ブレースは、引張応力にのみ抵抗し、図11のV形ブレースは、引張力と圧縮力に抵抗するタイプである。
【0004】
図10(a)の山形鋼の背中合わせのブレースは最も一般的であるが、中央交差部には視界を大きく遮る面積の広いガセットプレート4Eが欠かせない。平鋼ブレースで必要な引張り耐力を発揮させる断面積を有するためには、図10(b)のごとく幅を広くする必要がある。
【0005】
H形鋼V形ブレースは、大型のビルなどに主に用いられる。地震による水平力が作用すると一方のブレースに引張応力が発生し他方には圧縮応力が発生するため、部材は座屈しないことが重要である。座屈するとブレース交差部で大きな不釣り合い力が発生し、ブレースとして機能しなくなるからである。この座屈を生じにくくするために細長比を小さくする必要がある。そのため断面二次半径を大きくすることになり、特に紙面垂直方向に十分大きな断面積が必要となる。
【0006】
上記のごとくの鉄骨造のブレース材として一般的に山形鋼、平鋼やH形鋼が使用されるが、これらでは、ブレースの構面に占める面積が著しく大きく、窓からの視界を遮りがちで圧迫感がある(図3(b)、図10図11を参照)。これは、ブレース中間部の大きな高力ボルト接合部、補強用鉄骨柱や補強用鉄骨梁の断面形が大きいことも影響を甚だしくしている。それゆえ、視界を広く確保しなければならない窓を設けたい構面には採用し難い。特に、既存建物を耐震補強する場合は、設計自由度が低いため、視界の狭隘化の傾向が顕著となる。とりわけ小中学校校舎などでは安全を優先するため、視界狭小化を余儀なくされた補強設計が強いられている。
【0007】
しかし、オフィスビルなどでは、視界の低下や外観の著しい変貌感を呈する変更は建物の価値を下げることになって、許され難い。また、幹線道路沿いや河川に面した建物では、外部足場が設置できない場合が多いうえに、重機を使用できない事情もあって人力施工が余儀なくされる。よって、建物内から補強工事できるようにすることが重要である。視界確保とともに該当室への運び入れのための部材の小形化・軽量化がおおいに望まれるところである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H形鋼を用いた中低層事務所建築 鋼構造設計ガイドブックNo.1 社団法人建築学会 1992年3月20日第1版第1刷
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平2-47301号公報の第7図
【特許文献2】特開平5―10050号公報の第5図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、その目的は、耐震補強するにあたり、構面での視界阻害率を最小化し、それでいて構成部材の十分な耐力や構造的に十分な接合強度を保持させ、重機導入不可能な立地にある建物における人力施工が可能なように、構成部材の小形化や軽量化を図ることができるようにした二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、柱Pと梁Qからなる構面Rを補強する平鋼を用いた交差型ブレース機構に適用される。その特徴とするところは、図1を参照して、長さが同一かつ厚みが同一の4枚の平鋼1a, 1b, 1c, 1dが互いに接近した垂直面内に配置される。平鋼1と同厚漸増広幅の端板2とが、その平鋼の幅に等しい小幅端部をもって,平鋼1の両端部に、突き合せ溶接3により一体化される。第一平鋼1aが第二平鋼1bとX字状に接触することなく交差され、第一平鋼1aと同一姿勢配置の第三平鋼1cが第二平鋼1bと同一姿勢配置の第四平鋼1dとX字状に接触することなく交差される。二つのガセットプレート4A, 4Bは平鋼以下の厚みを有し、構面の対角線方向のコーナーに溶接され、第一平鋼1aと第三平鋼1cとは第一ガセットプレート4Aと第二ガセットプレート4Bを挟むとともに両端板2a, 2c、2a, 2cの間で高力ボルト6により剛強に固定して一体化され(図2(a)を参照)、これでもって、二重平鋼鋼製の第一ブレース体5Aとなし、他のガセットプレート4C,4Dも平鋼以下の厚みを有し、構面の他の対角線方向のコーナーに溶接され、第二平鋼1bと第四平鋼1dとは第三ガセットプレート4Cと第四ガセットプレート4Dを挟むとともに両端板2b, 2d、2b, 2dの間で高力ボルト6により剛強に固定して一体化され、これでもって、二重平鋼鋼製の第二ブレース体5Bとなす。そして、第一ブレース材5Aと第二ブレース材5Bとは、両ブレース材の交差部にガセットプレートが設けられることなく、二枚合わせ平鋼板からなる交差ブレース体10を形成していることである。
【0012】
図6のように、構面は、RC造またはSRC造の既存柱Pおよび既存梁Qの外面に一体化されているH形鋼製補強柱P1とH形鋼製補強梁Q1からなる格子枠R1とすればよい。
【0013】
図7にあるように、構面はRC造またはSRC造の既存柱Pおよび既存梁Qの内側に一体化されている溝形鋼製補強柱P2と溝形鋼製補強梁Q2からなる格子枠R2であり、既存柱P・既存梁Qの囲繞空間に配置されるようにしておくとよい。
【0014】
図8図9を参照して、構面は、H形鋼製または角形鋼管、丸形鋼管といった鋼管製の新設柱P,とH形鋼製の新設梁Q,からなる格子枠Rであり、交差ブレース体10は新設柱P,と新設梁Qとの内側に一体化され、すなわち、新設柱P,・新設梁Qの囲繞空間に配置されるようにすることができる。
【0015】
図4に示すように、ガセットプレート4は対面する端板2ごとにシムプレート7を伴い、高力ボルト6により端板2のみならずシムプレート7と一体化され、ブレース体5の平鋼1の対面間隔をガセットプレート4の厚みより大きくできるようにしたことである。
【0016】
図5に示すごとく、第一ブレース材5Aと第二ブレース材5Bの交差部位に、発泡プラスチックボード8が構造用両面テープにより貼着されている。
【発明の効果】
【0017】
標準的な一枚平鋼の半幅の二枚重ね平鋼は、一枚平鋼製ブレースの引張耐力と同等の引張耐力を当然に発生させる。本発明によれば、ブレースとして必要な引張り強度を維持しながらも、交差ブレース体10が適用された構面での視界は、一枚平鋼製ブレースが適用された構面での視界より広く、圧迫感もなくなる(図3(a)を参照)。
【0018】
H形鋼製補強柱とH形鋼製補強梁からなる構面が格子枠であり、これが既存柱と既存梁との外側に一体化されているので、二重平鋼交差ブレース機構が、既存建物を外面から補強する。したがって、居住者やオフィスワーカを残したまま既存建物を補強することができる。
【0019】
溝形鋼製補強柱と溝形鋼製補強梁からなる構面が格子枠であり、交差ブレース体の工事が既存建物の中からだけででき、足場が不要だから道路や河川に面した建物にさえ工事を施すことができる。
【0020】
新設柱や新設梁に充てる鋼材の質や量は、機械加工や構築作業と同じく節約がなされ、新規建築費の大いなる低廉化が図られる。
【0021】
ガセットプレートはシムプレートの厚みの二倍分平鋼の対面間以下に薄板化が図られ、ガセットプレートが構面の柱や梁に溶接するにあたり、ガセットプレートの厚みに起因する溶接の困難さに伴うことなく、簡単に溶接できるようになる。
【0022】
発泡プラスチックボードは、 たとえ平鋼が交差ブレース体の中で振動しても、平鋼にガチャガチャという音を出させることはない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構の要部概念図。
図2】(a)は平鋼、端板、ガセットプレートの接合前の単体正面図、(b)は構面の隅にガセットプレートを溶接した場合のブレース材の配置図。
図3】(a)は二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構が施工された構面の外観図、(b)は一枚平鋼交差ブレースが施工された構面に占める面積が著しく大きく、窓からの視界を遮りがちな構面の外観図。
図4】ガセットプレートと端板の間にシムプレートを介在させていることを示した斜視図。
図5】(a)はブレース材の交差部位に、発泡プラスチックボードが貼着されている一例、(b)および(c)は貼着位置の異なる例。
図6】(a)は既存構面の外部に補強構面を設け、その補強構面に二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構を配した正面図、(b)は(a)中のIII―III線矢視図。
図7】(a)は既存構面の内部に補強構面を設け、その補強構面に二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構を配した正面図、(b)は水平断面図。
図8】(a)は新築構面に二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構を配した正面図、(b)はH形鋼製新設柱の弱軸にブレースをつけている場合の水平断面図。
図9】(a)はH形鋼製新設柱の強軸にブレースをつけている場合の水平断面図、(b)は角形鋼管製の新設柱にブレースをつけている場合の水平断面図。
図10】(a),(b)はともに従来のX形ブレースが適用された構面の正面図。
図11】従来のV形ブレースが適用された構面の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構を、その実施の形態を表した図面に基づいて詳細に説明する。まず、図1に示すごとく、柱Pと梁Qからなる構面Rが平鋼1を用いた交差型ブレース機構によって補強される。この構面RはRC造またはSRC造であったりする既設建物における補強用のものであるが、後述する新設の建物の構面(図9を参照)に適用することもできる。
【0025】
その平鋼は長さが同一かつ厚みが同一の4枚の薄い鋼板1a, 1b, 1c, 1dで、これらは互いに接近した垂直面内に配置される。各平鋼1は 図2(a)に部材を独立して示す同厚漸増広幅の端板2を伴っている。それは平鋼の幅に等しい小幅端部を有しており、平鋼1の両端部に、図2(b)にあるように、突き合せ溶接3により一体化される。この端板2は、板幅を徐々に大きくすることによって、後で述べる多数列の高力ボルト6の配置と大きな有効断面積を確保しておこうとする意図である。
【0026】
第一平鋼1aと第二平鋼1bとは図1に示すように、X字状に接触することなく交差され、第一平鋼1aと同一姿勢配置の第三平鋼1cが第二平鋼1bと同一姿勢配置の第四平鋼1dとX字状に接触することなく交差される。
【0027】
二つのガセットプレート4A, 4Bは平鋼以下の厚みを有し、構面Rの対角線方向のコーナーにN, Nのごとく溶接される(図2(b)を参照)。第一平鋼1aと第三平鋼1cとは第一ガセットプレート4Aと第二ガセットプレート4Bを挟むとともに両端板2a, 2c、2a, 2cの間で高力ボルト6により剛強に固定して一体化され(拡大して示す図4も参照)、これでもって、二重平鋼製の第一ブレース体5Aを形成する。
【0028】
他のガセットプレート4C, 4Dも平鋼以下の厚みを有し、構面の他の対角線方向のコーナーに溶接される。第二平鋼1bと第四平鋼1dとは第三ガセットプレート4Cと第四ガセットプレート4Dを挟むとともに両端板2b, 2d、2b, 2dの間で高力ボルト6により剛強に固定して一体化され、これでもって、二重平鋼鋼製の第二ブレース体5Bを形成する。
【0029】
この第一ブレース材5Aと第二ブレース材5Bとは、この両ブレース材の交差部にガセットプレートが設けられることなく、すなわち、図3(b)中の破線の交差部ガセットプレート4Eが設けられることなく、二枚合わせ平鋼板からなる交差ブレース体10(図1を参照)を形成する。その交差部は、相互に接合することなく若干の隙間を作って設置される。これにより、引張圧縮の複雑な相互作用をなくすとともにブレース長さ全体を座屈長さとすることができ、細長比の大きなものが採用できるようになる。
【0030】
交差部を接合しないからブレースの細長比が300~400以上と極端に大きくでき、圧縮に伴う座屈耐力が無視できる程度に小さくなるため、ブレースは引張り応力のみの単純な設計が可能となる。ちなみに、細長比を350とした場合の圧縮許容耐力は、引張許容耐力の5%未満と極めて小さくなる。
【0031】
標準的な一枚平鋼の半幅の二枚重ね平鋼は、一枚平鋼製ブレースの引張耐力と同等の引張耐力を当然に発生させる。よって、ブレースとして必要な引張り強度を維持しながらも、交差ブレース体10が適用された構面での視界は、一枚平鋼製ブレースが適用された構面での視界(図3(b)を参照)より広く、圧迫感もなくなる(図3(a)を参照)。平鋼1より漸増広幅の端板2は高力ボルトの使用を可能ならしめ、ガセットプレート4への取り付けも力の授受も容易となる。すなわち、構成部材の十分な耐力や構造的に十分な接合強度を保持させる結果となる。加えて、構成部材の小形化や軽量化を図ることができるようになり、重機導入不可能な建物における人力施工が実現される。いずれにしても、平鋼は、視界を遮るのを極小化するため板厚が大きく幅が小さいものが選定される。
【0032】
例えば、引張り強度が490MPa以上の高張力鋼で25×50mmか28×75mmのようなもので、通常の平鋼ブレースが厚みを抑えるために幅を大きくするのとは大きく異なる。1枚当たりのブレースとガセットプレートの高力ボルト摩擦接合は、従来とは逆で、1面摩擦接合とすることにより2枚のブレースが接合できる。高力ボルトやガセットプレート側から見ると2面摩擦となっており、接合効率的には、従来と同じである。大きな応力を伝える場合の平鋼ブレースでは、断面が大きくなるためスプライスプレートを用いた2面摩擦接合が一般的であるが、本発明では、ブレースを2枚に分割することにより1面あたりの必要負担摩擦力を小さくすることができる。
【0033】
ところで、図4に示すように、ガセットプレート4は対面する端板2ごとにシムプレート7を伴い、高力ボルト6により端板2のみならずシムプレート7と一体化され、ブレース体5の平鋼1の対面間隔をガセットプレート4の厚みより大きくできるようにしておく。
【0034】
こうしておけば、ガセットプレート4はシムプレート7の厚みの二倍分平鋼1の対面間以下に薄板化が図られ、ガセットプレートが構面Rの柱Pや梁Qに溶接するにあたり、ガセットプレート4の厚みに起因する溶接の困難さを伴うことなく、簡単に溶接できるようになるのである。
【0035】
図5(a)を参照して、第一ブレース材5Aと第二ブレース材5Bの交差部位には、発泡プラスチックボード8が構造用両面テープ9により貼着される。
【0036】
これは、たとえ平鋼が交差ブレース体10の中で振動しても、発泡プラスチックボード8が、平鋼1にガチャガチャという音を出させることはないようにしておくことができるからである。なお、発泡プラスチックボード8の貼着対象平鋼は図5(b)、(c)のいずれでもよい。
【0037】
以上は二枚合わせ平鋼板の交差ブレース機構の基本的なことを述べた。以下は、建物に対しての具体例を示す。図6を参照して、構面は、RC造またはSRC造の既存柱Pおよび既存梁Qの外面に一体化されているH形鋼製補強柱P1とH形鋼製補強梁Q1からなる格子枠R1とすることができる。ちなみに、格子枠R1の補強柱P1は、既存柱Pに間接接合部M1を介して接合される。補強梁Q1は補強柱P1に溶接され、格子枠R1が既存柱Pおよび既存梁Qからなる既存構面に一体化されている。その間接接合部M1は、あと施工アンカー、頭付きスタッド、スパイラル筋が配置された領域を図示しない型枠で覆い、その中にプレミックス高流動無収縮モルタル、収縮低減型充填モルタルおよび高流動コンクリートを充填して形成される。
【0038】
格子枠R1が既存柱Pと既存梁Qとの外側に一体化されているので、二重平鋼交差ブレース機構10が、既存建物を外面から補強する。したがって、居住者やオフィスワーカを残したまま既存建物を補強することができる。もちろん、先に述べた視界阻害部の狭小化、端板2による構成部材の十分な耐力や構造的に十分な接合強度を保持させる結果となる。加えて、構成部材の小形化や軽量化の効果も発揮されることは言うまでもない。
【0039】
図7は、構面がRC造またはSRC造の既存柱P及び既存梁Qの内側に一体化されている溝形鋼製補強柱P2と溝形鋼製補強梁Q2からなる格子枠R2の場合の例である。すなわち、格子枠R2は既存柱P・既存梁Qの囲繞空間に配置されている。ちなみに、Mは間接接合部である。なお、格子枠R2の柱P2や梁Q2の小分け運搬を目して、格子枠R2のコーナ部にはメタルタッチのフランジ締結されるL形化部品R2CR(図中に影を施した部分を参照)が導入されている。その結果、柱P2や梁Q2は直線部分P2ST, Q2STのごとく短小化が図られている。
【0040】
構面が溝形鋼製補強柱P2と溝形鋼製補強梁Q2からなる格子枠R2であると、交差ブレース体10の工事が既存建物の中からだけででき、足場が不要だから道路や河川に面した建物にさえ工事を施すことができる。構成部材の細分化による部品の小形化や軽量化が図られているから、L形化部品R2CRも含め、ビル既設のエレベータで搬入することができる。なお、夜間での短時間の舗道利用は可能なことが多く、依然として他の部材より長い柱P2の直線部分P2STや梁Q2の直線部分Q2STおよびブレース体5は、小型クレーンにより窓から搬入すればよい。
【0041】
図8に示すように、H形鋼製の新設柱P,とH形鋼製の新設梁Q,からなる格子枠Rを構面とした例であり、H形鋼製新設柱Pの弱軸にブレースをつける場合が多い。交差ブレース体10は新設柱P,と新設梁Qとの内側に一体化され、すなわち、新設柱P,・新設梁Qの囲繞空間に配置されている。なお、新設柱PのH形鋼の弱軸にブレースをつける場合である。新設柱Pや新設梁Qに充てる鋼材の質や量は、機械加工や構築作業と同じく節約がなされ、新規建築費の大いなる低廉化が図られる。
【0042】
図9(a)は、同じく新設建物に適用された例で、新設柱PのH形鋼の強軸にブレースをつけた場合である。水平断面図のみ表されている。図9(b)も新設建物に適用された例で、新設柱Pは角形鋼管、丸形鋼管といった鋼管製とされている。この場合も水平断面図のみ表されている。
【符号の説明】
【0043】
1:平鋼、1a:第一平鋼、1b:第二平鋼、1c:第三平鋼、1d:第四平鋼、2, 2a, 2a, 2b, 2b, 2c、2c, 2d, 2d:端板、3:突き合せ溶接、4:ガセットプレート、4A:第一ガセットプレート、4B:第二ガセットプレート、4C:第三ガセットプレート、4D:第四ガセットプレート、5:ブレース体、5A:第一ブレース体、5B:第二ブレース体、6:高力ボルト、7, 7 D1, 7 D2:シムプレート、8, 8a1, 8c1, 8d1:発泡プラスチックボード、9, 9a1, 9c1, 9d1:構造用両面テープ、10:交差ブレース体、P:柱、P:既存柱、P1:H形鋼製補強柱、P2:溝形鋼製補強柱、P2ST:直線部分、P:H形鋼製または鋼管製の新設柱、Q:梁、Q:既存梁、Q1:H形鋼製補強梁、Q2:溝形鋼製補強梁、Q2ST:直線部分、Q:H形鋼製の新設梁、M1:間接接合部、M:間接接合部、R:構面、R1:格子枠、R:格子枠、R2CR:L形化部材、R:格子枠。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2021-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
構面が溝形鋼製補強柱P2と溝形鋼製補強梁Q2からなる格子枠R2であると、交差ブレース体10の工事が既存建物の中からだけででき、足場が不要だから道路や河川に面した建物にさえ工事を施すことができる。構成部材の細分化による部品の小形化や軽量化が図られているから、ガセットプレート溶接済みL形化部品R2CRも含め、ビル既設のエレベータで搬入することができる。なお、夜間での短時間の舗道利用は可能なことが多く、依然として他の部材より長い柱P2の直線部分P2STや梁Q2の直線部分Q2STおよび端板2が溶接された平鋼1は、小型クレーンにより窓から搬入すればよい。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
図8に示すように、H形鋼製の新設柱P,とH形鋼製の新設梁Q,からなる格子枠Rを構面とした例であり、H形鋼製新設柱Pの弱軸にブレースをつける場合が多い。交差ブレース体10は新設柱P,と新設梁Qとの内側に一体化され、すなわち、新設柱P,・新設梁Qの囲繞空間に配置されている。新設柱Pや新設梁Qに充てる鋼材の質や量は、機械加工や構築作業と同じく節約がなされ、新規建築費の大いなる低廉化が図られる。