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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164154
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】診断支援システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20221020BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61B6/03 370Z
A61B6/03 360J
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069466
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昂彦
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA18
4C093CA35
4C093DA02
4C093DA03
4C093FB12
4C093FD03
4C093FD08
4C093FD09
4C093FD11
4C093FF13
4C093FF17
4C093FF19
4C093FF23
4C093FF28
4C093FF33
4C093FG04
4C093FG18
4C093FH03
4C093FH06
4C093FH07
4C093FH09
4C096AA01
4C096AB41
4C096AC04
4C096AD14
4C096AD24
4C096DC21
4C096DC22
(57)【要約】
【課題】患者の息苦しさを定量的に評価すること。
【解決手段】 実施形態に係る診断支援システムは、取得部と、算出部とを備える。取得部は、肺の医用画像に基づいて、肺の疾患位置の気管支に関する気管支情報と前記疾患位置の血管に関する血管情報とを取得する。算出部は、前記気管支情報と前記血管情報とに基づいて呼吸状態に関する指標を算出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺の医用画像に基づいて肺の疾患位置の気管支に関する気管支情報と前記疾患位置の血管に関する血管情報とを取得する取得部と、
前記気管支情報及び前記血管情報に基づいて呼吸状態に関する指標を算出する算出部と、
を備える、診断支援システム。
【請求項2】
前記指標を表示部に表示させる表示制御部をさらに備える、
請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項3】
前記医用画像は、X線画像、CT画像及びMR画像のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1または2に記載の診断支援システム。
【請求項4】
前記気管支情報は、疾患位置における気管支の本数及び前記気管支の太さを含む、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【請求項5】
前記血管情報は、疾患位置における血管の本数及び前記血管の血流量を含む、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【請求項6】
前記指標は、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合である、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【請求項7】
前記指標は、現在の酸素供給能力を示す値である、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【請求項8】
前記指標は、肺の疾患に起因する酸素供給能力の低下量である、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【請求項9】
前記算出部は、肺の疾患程度に関する情報に基づいて、前記指標を補正する、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【請求項10】
前記指標が生存に必要な条件を満たさない場合、ユーザに警告する警告部をさらに備える、
請求項1から9までのいずれか1項に記載の診断支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
肺の疾患の重症度を評価する方法として、肺疾患の病変の大きさや肺全体に対する病変の割合を用いる方法が一般的である。他の方法としては、肺の血管閉塞及び気道閉塞を非侵襲的に計測する方法や、肺の3次元的な換気分布を高精度に計測する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、上記のような方法では、患者の病気の進行度を指標化することはできるが、患者の息苦しさを定量的に評価することができない。このため、患者の呼吸困難の程度を把握することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-528116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、患者の息苦しさを定量的に評価することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る診断支援システムは、取得部と、算出部とを備える。取得部は、肺の医用画像に基づいて、肺の疾患位置の気管支に関する気管支情報と前記疾患位置の血管に関する血管情報とを取得する。算出部は、前記気管支情報と前記血管情報とに基づいて呼吸状態に関する指標を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態に係る診断支援システムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、肺の疾患を含むCT画像の一例を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る診断支援システムによる指標算出処理の処理手順を例示するフローチャートである。
図4図4は、第1の実施形態に係る診断支援システムにより表示される表示画面の一例を示す図である。
図5図5は、第1の実施形態の第1の変形例に係る診断支援システムにより表示される表示画面の一例を示す図である。
図6図6は、第1の実施形態の第2の変形例に係る診断支援システムにより表示される表示画面の一例を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態の第3の変形例に係る診断支援システムにより表示される表示画面の一例を示す図である。
図8図8は、第2の実施形態に係る診断支援システムの構成の一例を示す図である。
図9図9は、第2の実施形態に係る診断支援システムによる指標算出処理の処理手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、診断支援システムの実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、診断支援システム100の構成を示す図である。診断支援システム100は、ネットワーク200を介して、病院情報システム(Hospital Information System:以下、HISと呼ぶ)300、及び医用画像診断装置400と接続されている。
【0010】
ネットワーク200は、例えば、LAN(Local Area Network)である。なお、ネットワーク200への接続は、有線接続、及び無線接続を問わない。また、VPN(Virtual Private Network)等によりセキュリティが確保されるのであれば、接続される回線はLANに限定されない。インターネット等、公衆の通信回線に接続するようにしても構わない。
【0011】
HIS300は、例えば、病院等の医用施設に係る情報を管理する。HIS300では、電子医療記録(Electronic Medical Record:EMR)、個人の健康情報(Personal Health Record:PHR)等が記憶装置に記録されている。HIS300には、患者情報、医用画像等が記録されている。患者情報は、患者の名前、性別、年齢、国籍、既往歴、検査に関する情報、診察結果等を含む。
【0012】
医用画像診断装置400は、例えば、X線コンピュータ断層撮影装置(Computed Tomography:CT装置)、磁気共鳴イメージング装置(Magnetic Resonance Imaging:MRI装置)、超音波診断装置、X線診断装置等である。
【0013】
診断支援システム100は、ネットワーク200を介して、各種情報をHIS300及び医用画像診断装置400との間で送受信することができる。診断支援システム100は、肺の医用画像を取得し、取得した肺の医用画像に基づいて、肺の疾患位置の気管支に関する情報と、肺の疾患位置の血管に関する情報とを取得し、呼吸状態に関する指標を算出する。
【0014】
診断支援システム100は、診断支援装置10を備える。診断支援装置10は、メモリ11、通信インタフェース12、ディスプレイ13、入力インタフェース14及び処理回路15を備えている。なお、以下、診断支援装置10は、単一の装置にて複数の機能を実行するものとして説明するが、複数の機能を別々の装置が実行することにしても構わない。例えば、診断支援装置10が実行する各機能は、異なるコンソール装置又はワークステーション装置に分散して搭載されても構わない。
【0015】
メモリ11は、種々の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、集積回路等の記憶装置である。また、メモリ11は、HDDやSSD等以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体であってもよい。なお、メモリ11は、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。また、メモリ11の保存領域は、診断支援装置10内にあってもよいし、ネットワークで接続された外部記憶装置内にあってもよい。
【0016】
メモリ11は、処理回路15によって実行されるプログラム、処理回路15の処理に用いられる各種データ等を記憶する。プログラムとしては、例えば、予めネットワーク又は非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体からコンピュータにインストールされ、処理回路15の各機能を当該コンピュータに実現させるプログラムが用いられる。なお、本明細書において扱う各種データは、典型的にはデジタルデータである。メモリ11は、記憶部の一例である。
【0017】
通信インタフェース12は、ネットワーク200を介して、PACS400及びHIS300や、その他の外部機器との通信を伝送制御するネットワークインタフェースである。
【0018】
ディスプレイ13は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ13は、処理回路15によって生成された医用情報や、操作者からの各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)等を出力する。例えば、ディスプレイ13は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。ディスプレイ13は、表示部の一例である。
【0019】
入力インタフェース14は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路15に出力する。例えば、入力インタフェース14は、医用情報の入力、各種コマンド信号の入力等を操作者から受け付ける。入力インタフェース14は、処理回路15の各種処理等を行うためのマウスやキーボード、トラックボール、スイッチボタン、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。入力インタフェース14は、処理回路15に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換し制御回路へと出力する。なお、本明細書において、入力インタフェースは、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路15へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェースの例に含まれる。入力インタフェース14は、入力部の一例である。
【0020】
処理回路15は、診断支援装置10全体の動作を制御する。処理回路15は、メモリ11内のプログラムを呼び出し実行することにより、取得機能151、算出機能152及び表示制御機能153を実行するプロセッサである。取得機能151、算出機能152及び表示制御機能153の各機能を実現する処理回路15は、それぞれ取得部、算出部、表示制御部の一例である。
【0021】
なお、図1においては、単一の処理回路15にて取得機能151、算出機能152及び表示制御機能153が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能を実現するものとしても構わない。また、取得機能151、算出機能152及び表示制御機能153は、それぞれ個別のハードウェア回路として実装してもよい。処理回路15が実行する各機能についての上記説明は、以下の各実施形態及び変形例でも同様である。
【0022】
また、診断支援装置10は単一のコンソールにて複数の機能を実行するものとして説明するが、複数の機能を別々の装置が実行することにしても構わない。例えば、処理回路15の機能は、異なる装置に分散して搭載されても構わない。
【0023】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、ASIC、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)等の回路を意味する。プロセッサはメモリ11に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、メモリ11にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。上記「プロセッサ」の説明は、以下の各実施形態及び変形例でも同様である。
【0024】
処理回路15は、取得機能151により、肺の医用画像を取得する。肺の医用画像は、肺を含む領域を撮影することにより取得された画像である。肺の医用画像は、2次元画像であってもよく、3次元画像であってもよい。肺の医用画像は、X線画像、CT画像及びMR画像等を含む。肺の医用画像は、超音波画像を含んでもよい。肺の医用画像として、肺の疾患(以下、肺疾患と呼ぶ)が表示された医用画像が用いられる。肺疾患は、例えば、気管支喘息、肺気腫等である。図2は、肺のCT画像の一例を示す図である。例えば、図2に示すように、例えばCT画像では、肺疾患が存在する領域Aは白く表示される。
【0025】
肺には、外部から酸素を供給する気管支と、酸素を体へ運ぶ血管が繋がっている。肺疾患が生じている位置では、気管支と血管の機能が低下する。処理回路15は、取得機能151により、肺の医用画像に基づいて、気管支に関する情報(以下、気管支情報と呼ぶ)と、血管に関する情報(以下、血管情報と呼ぶ)を取得する。気管支情報は、肺全体における気管支の本数、疾患位置における気管支の本数、各気管支の太さ等を含む。疾患位置における気管支の本数は、疾患部位に接続している気管支の本数である。血管情報は、肺全体における血管の本数、疾患位置における血管の本数、各血管の太さや血流量等を含む。疾患位置における血管の本数は、疾患部位に接続している血管の本数である。
【0026】
処理回路15は、算出機能152により、気管支情報と血管情報とに基づいて、呼吸状態に関する指標を算出する。呼吸状態に関する指標は、患者の息苦しさの程度を示す指標である。言い換えると、呼吸状態に関する指標は、患者の呼吸困難の程度を示す指標である。呼吸状態に関する指標は、呼吸困難度と呼ばれてもよく、呼吸良好度と呼ばれてもよい。呼吸状態に関する指標は、通常時と現在の変化の度合いを示す数値であってもよく、肺の換気能力を示す酸素量であってもよく、息苦しさを複数の段階に分類した分類結果であってもよい。呼吸状態に関する指標として、例えば、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合が用いられる。この場合、呼吸状態に関する指標は、酸素供給率、又は酸素供給度などと呼ばれてもよい。呼吸状態に関する指標は、例えば、変化の度合いを示す数値、換気能力を示す酸素量、複数段階の分類結果、又は酸素供給能力に関する数式を使用して算出可能である。また、当該指標は、例えば、使用するパラメータに関する任意の名称で呼ばれてもよい。
【0027】
処理回路15は、表示制御機能153により、種々の情報をディスプレイ13に表示させる。例えば、処理回路15は、取得機能151により取得された医用画像、算出機能152により生成された呼吸状態に関する指標等をディスプレイ13に表示させる。
【0028】
なお、算出された呼吸状態に関する指標は、HIS300、医用画像診断装置400等にネットワーク200を介して出力されてもよい。
【0029】
次に、診断支援システム100により実行される指標算出処理の動作について説明する。指標算出処理とは、肺疾患を含む医用画像に基づいて呼吸状態に関する指標を算出する処理である。図3は、指標算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。図3では、一例として、肺の医用画像としてCT画像を用い、呼吸状態に関する指標として通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合を用いる場合を例に説明する。なお、以下で説明する各処理における処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り適宜変更可能である。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0030】
(指標算出処理)
(ステップS101)
処理回路15は、取得機能151により、肺疾患を有する患者のCT画像をHIS300から取得する。
【0031】
(ステップS102)
処理回路15は、取得機能151により、取得したCT画像に対してセグメンテーション処理を実行する。この際、処理回路15は、閾値処理により、CT値に基づいてCT画像の領域を、骨、肺、疾患部位、気管支、血管等の要素に分類する。例えば、気管支の領域を抽出する場合、空気ガスのCT値である-800から-1000の範囲の何れかの値のCT値を有する領域を、気管支領域として抽出する。また、造影血管の領域を抽出する場合、造影剤のCT値である+800から+1000の範囲のCT値を有する領域を、血管領域として抽出する。
【0032】
(ステップS103)
処理回路15は、取得機能151により、CT画像から肺疾患の位置(以下、疾患位置と呼ぶ)を特定する。疾患位置は、CT画像に関連付けられた付帯情報から取得してもよく、CT値に基づいて自動的に検出されてもよく、ユーザの入力により手動で設定されてもよい。
【0033】
(ステップS104)
処理回路15は、取得機能151により、CT画像に基づいて、気管支情報と血管情報とを取得する。気管支情報は、肺全体の気管支の本数、疾患位置における気管支の本数、各気管支の太さ等を含む。血管情報は、肺全体の血管の本数、疾患位置における血管の本数、各血管の血流量等を含む。血流量は、血管の太さ等に基づいて算出される。
【0034】
(ステップS105)
処理回路15は、算出機能152により、以下の式(1)を用いて、呼吸状態に関する指標として、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合を算出する。
【0035】
【数1】
【0036】
酸素供給能力は、体に供給できる酸素量である。酸素供給能力は、気管支を介して肺に供給される酸素量(以下、供給可能量と呼ぶ)と、血管を介して肺から受容できる酸素量(以下、受容可能量と呼ぶ)とに基づいて算出される。受容可能量は、血管の本数、各血管の血流量等を用いて算出される。供給可能量は、気管支の本数、各気管支の太さ等を用いて算出される。例えば、受容可能量が供給可能量よりも小さい場合、酸素供給能力は、受容可能量と等しくなる。一方、供給可能量が受容可能量よりも小さい場合、酸素供給能力は、供給可能量と等しくなる。
【0037】
通常時の酸素供給能力は、肺疾患を考慮せずに算出された値である。すなわち、通常時の酸素供給能力は、肺疾患がないと仮定した場合に体に供給できる酸素量の推定値である。通常時の酸素供給能力は、肺全体の酸素供給能力と等しくなる。肺全体の酸素供給能力は、肺全体の気管支情報と血管情報とを用いて算出される。
【0038】
現在の酸素供給能力は、肺の疾患位置では酸素を受容できないことを考慮して算出された値である。現在の酸素供給能力は、通常時の酸素供給能力から、疾患位置の酸素供給能力を除くことにより、算出される。疾患位置の酸素供給能力は、疾患位置における気管支情報及び血管情報に基づいて算出される。
【0039】
(ステップS106)
処理回路15は、表示制御機能153により、算出した呼吸状態に関する指標が表示された表示画面をディスプレイ13に表示させる。図4は、ディスプレイ13に表示される表示画面の一例を示す図である。図4の一例では、表示画面には、患者ID、患者氏名、年齢、性別、疾患名等とともに、呼吸状態に関する指標が表示されている。
【0040】
以下、本実施形態に係る診断支援システム100の効果について説明する。
【0041】
一般的に、肺の大きさや換気能力は患者によってさまざまである。息苦しさは、患者の心機能や血管の分布によっても大きく変化する。このため、患者の息苦しさの程度を判断するために病変の大きさだけを用いて指標化することは困難である。
【0042】
本実施形態に係る診断支援システム100は、肺の医用画像に基づいて、肺の疾患位置の気管支に関する気管支情報と、肺の疾患位置の血管に関する血管情報とを取得し、気管支情報と血管情報とに基づいて呼吸状態に関する指標を算出することができる。診断支援システム100は、算出した呼吸状態に関する指標をディスプレイ13に表示させることができる。
【0043】
上記構成により、本実施形態に係る診断支援システム100によれば、肺の疾患部位に位置する気管支に関する情報と肺の疾患部位に位置する血管に関する情報を用いることにより、気管支を介して肺に供給できる酸素量と、血管を介して肺から受容できる酸素量を考慮して、患者の息苦しさを指標化し、指標化困難であった呼吸困難度を定量的に評価することができる。医師等のユーザは、指標を確認することにより、息苦しさの程度を定量的に把握し、人工呼吸器を適切に運用することができる。
【0044】
また、医用画像は、X線画像、CT画像及びMR画像のうちの少なくとも1つを含むことができる。医用画像は、3次元画像であってもよく、2次元画像であってもよい。上記構成によれば、医用画像の静止画像を用いて、患者の息苦しさの程度を定量的に評価することができる。このため、動画を用いて患者の呼吸運動を把握することなく、患者の息苦しさの程度を定量的に評価することができる。
【0045】
また、気管支情報は、疾患位置における気管支の本数及び疾患位置における気管支の太さを含むことができる。また、血管情報は、疾患位置における血管の本数及び疾患位置における血管の血流量を含むことができる。
【0046】
肺の領域のうち、繋がっている気管支が多い部分には、多くの空気が供給される。このため、肺の疾患部位に位置する気管支の本数や気管支の太さを考慮することにより、気管支を介して肺に供給できる酸素量を精度よく推定することができる。また、肺の領域のうち、繋がっている血管が多い部分からは、多くの空気を受容できる。このため、肺の疾患部位に位置する血管の本数や血流量を考慮することにより、血管を介して肺から受容できる酸素量を精度よく推定することができる。
【0047】
また、本実施形態に係る診断支援システム100は、呼吸状態に関する指標として、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合を算出することができる。これにより、肺疾患がなかったときの酸素供給能力に対して、現在の酸素供給能力がどの程度の割合であるのかを定量的に把握することにより、患者が感じる息苦しさの程度をより正確に把握することができる。例えば、医師は、呼吸状態に関する指標が小さいほど、通常時よりも酸素供給能力が低下しているため、息苦しさの程度が大きいと判断することができる。
【0048】
また、通常時において酸素供給能力が低い患者は、酸素供給能力が低い状態でも息苦しさを感じていないため、現在の酸素供給能力のみを用いて息苦しさの程度を把握することが難しい。本実施形態に係る診断支援システム100によれば、このような患者に対しても、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合を用いることにより、正確に息苦しさの程度を把握することができる。
【0049】
(第1の実施形態の第1の変形例)
呼吸状態に関する指標として、現在の酸素供給能力を示す値[L]が用いられてもよい。この場合、第1の実施形態と同様に、現在の酸素供給能力は、通常時の酸素供給能力から、疾患位置の酸素供給能力を除くことにより、算出される。疾患位置の酸素供給能力は、疾患位置における気管支情報及び血管情報に基づいて算出される。
【0050】
そして、処理回路15は、ステップS106の処理において、算出した呼吸状態に関する指標が表示された表示画面をディスプレイ13に表示させる。図5は、ディスプレイ13に表示される表示画面の一例を示す図である。医師は、患者が受容することができる酸素量の推定値を直接把握することにより、患者が感じる息苦しさの程度をより正確に把握することができる。例えば、医師は、呼吸状態に関する指標が小さいほど、現在の酸素供給能力が小さいため、息苦しさの程度が大きいと判断することができる。
【0051】
(第1の実施形態の第2の変形例)
また、呼吸状態に関する指標として、肺疾患に起因する酸素供給能力の低下量[L]が用いられてもよい。肺疾患に起因する酸素供給能力の低下量は、疾患位置の酸素供給能力に相当する。第1の実施形態と同様に、疾患位置の酸素供給能力は、疾患位置における気管支情報及び血管情報に基づいて算出される。
【0052】
医師は、呼吸状態に関する指標を確認することにより、呼吸状態に関する指標が大きいほど、肺疾患に起因して低下した酸素供給能力が大きいため、息苦しさの程度が大きいと判断することができる。
【0053】
(第1の実施形態の第3の変形例)
また、呼吸状態に関する指標として、呼吸困難の程度を既定の条件により複数の段階に分類した分類結果が用いられてもよい。この場合、例えば、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合の値に応じて、患者の息苦しさの程度を分類した複数の段階のいずれかに分類される。そして、分類された段階の名称が、呼吸状態に関する指標としてディスプレイ13に表示される。図6は、ディスプレイ13に表示される表示画面の一例を示す図である。
【0054】
医師は、予め決められた条件によって分類された分類結果を確認することにより、患者が感じる息苦しさの程度を直感的に把握することができる。
【0055】
(第1の実施形態の第4の変形例)
また、呼吸状態に関する指標を人工呼吸器のトリアージに利用することもできる。この場合、例えば、ディスプレイ13には、複数の患者について算出された分類結果が並べて表示される。図7は、ディスプレイ13に表示される表示画面の一例を示す図である。医師は、表示画面を確認することにより、複数の患者の息苦しさの程度を容易に比較することができ、これにより、適切な患者に人工呼吸器を適応することができる。
【0056】
また、呼吸状態に関する指標を、人工呼吸器を外すタイミングの判定に利用することもできる。例えば、呼吸状態に関する指標が所定の条件を満たした場合に、患者の酸素供給能力が十分に回復したと判断し、人工呼吸器を外すことを医師に推奨してもよい。また、肺疾患に対する治療を行う前の医用画像と、治療を行った後の医用画像との変化を検出し、検出結果に基づいて患者の酸素供給能力が十分に回復したかどうかを判断してもよい。
【0057】
また、人工呼吸器が適用されている患者の呼吸状態は、血中の酸素飽和度を計測するパルスオキシメータを用いて測定することもできる。この場合においても、呼吸状態に関する指標を利用することができる。例えば、同じ酸素飽和度の患者が複数いる場合に、呼吸状態に関する指標に基づいて、息苦しさの程度が低い患者から順に人工呼吸器を外すように医師に提案する画面を表示してもよい。
【0058】
(第1の実施形態の他の変形例)
また、疾患程度に関する情報に応じて、算出した呼吸状態に関する指標を補正してもよい。疾患程度に関する情報は、例えば、疾患の種類、病変の大きさ、医用画像における病変の色の濃さ、疾患の進行度等を含む。疾患程度に関する情報は、医用画像の画素値に基づいて推定されてもよく、医師の手入力により取得されてもよい。例えば、疾患程度が低い場合、疾患に起因する受容可能量の減少量は小さいと判断し、呼吸状態に関する指標を補正してもよい。
【0059】
また、肺の換気能力、肺の実質のCT値を用いて算出される肺の健康度、肺の大きさ、心機能、呼吸スピード、気管支の閉塞具合、血管の閉塞具合、病変の位置、病変の大血管からの距離、疾患が呼吸運動に与える影響、既往歴等に応じて、算出した呼吸状態に関する指標を補正してもよい。例えば、過去に喘息や気胸の治療を行ったことがある患者については、疾患により感じる息苦しさの程度が大きいと判断し、呼吸状態に関する指標を補正してもよい。
【0060】
また、現在の検査で取得した医用画像を、過去に取得した医用画像とともにディスプレイ13に表示してもよい。医師は、過去の画像と現在の画像を比較することにより、患者の息苦しさの程度をより正確に把握することができる。
【0061】
また、患者の予後をシミュレーションし、シミュレーション結果をディスプレイ13に表示してもよい。この場合、例えば、癌の進行具合、気管支や血管の閉塞具合、心機能や呼吸機能の低下具合、気管支を通って疾患が感染すること等を考慮して、予後の肺の医用画像をシミュレーションにより生成する。医師は、表示されたシミュレーション結果を確認することにより、患者が今後呼吸困難になりやすいかどうかについて把握することができる。
【0062】
上述したように、式(1)を用いて呼吸状態に関する指標を算出する場合、気管支を介して肺に供給される酸素量(供給可能量)と、血管を介して肺から受容できる酸素量(受容可能量)が、血管の本数、各血管の血流量、気管支の本数、各気管支の太さ等を用いて算出される。この際、供給可能量と受容可能量のうち一方として、予めメモリ11に格納された固定値を用いてもよい。この場合でも、疾患位置に供給できる酸素量と疾患位置から受容できる酸素量の少なくとも1つを考慮して、患者の息苦しさの程度を示す指標を定量的に求めることができる。
【0063】
供給可能量として固定値を用いる場合、処理回路15は、取得機能151により、メモリ11から供給可能量の固定値を取得し、算出機能152により、医用画像から取得した血管情報に基づいて受容可能量を算出する。この場合、固定値として、例えば、患者の年齢や性別に対応する一般的な人間の気管支の本数や気管支の太さに基づいて算出された供給可能量が用いられる。
【0064】
受容可能量として固定値を用いる場合、処理回路15は、取得機能151により、メモリ11から受容可能量の固定値を取得し、算出機能152により、医用画像から取得した気管支情報に基づいて供給可能量を算出する。この場合、固定値として、例えば、患者の年齢や性別に対応する一般的な人間の気管支の本数や気管支の太さに基づいて算出された受容可能量が用いられる。
【0065】
また、呼吸状態に関する指標の算出に機械学習モデルが用いられてもよい。この場合、医用画像の入力を受け付けて呼吸状態に関する指標を出力する機械学習モデルが用いられる。診断支援システム100は、CT画像等の医用画像を機械学習モデルに入力することにより、機械学習モデルに呼吸状態に関する指標を出力させる。そして、機械学習モデルの出力結果をディスプレイ13に表示する。
【0066】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態の構成を以下の通りに変形したものである。実施形態と同様の構成、動作、及び効果については、説明を省略する。本実施形態に係る診断支援システム100は、算出した呼吸状態に関する指標をディスプレイ13に表示する代わりに、呼吸状態に関する指標が生存に必要な条件を満たさない場合、ユーザに警告する。
【0067】
図8は、本実施形態の診断支援システム100の構成を示す図である。処理回路15は、第1の実施形態で説明した各機能に加えて、警告機能154を実行する。警告機能154を実現する処理回路15は、警告部の一例である。
【0068】
処理回路15は、警告機能154により、呼吸状態に関する指標が生存に必要な条件を満たさない場合、ユーザに警告する。ユーザに警告する方法としては、ディスプレイ13に警告文を表示する方法、ディスプレイ13にアイコンを表示する方法、音声により通知する方法等が挙げられる。
【0069】
例えば、呼吸状態に関する指標として、通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合や、現在の酸素供給能力を示す値を用いる場合、処理回路15は、呼吸状態に関する指標が所定の閾値よりも小さい場合、生存に必要な条件を満たさないと判断し、ユーザに警告する。閾値は、例えばメモリ11に予め格納されている。
【0070】
また、呼吸状態に関する指標として、肺の疾患に起因する酸素供給能力の低下量を用いる場合、処理回路15は、呼吸状態に関する指標が所定の閾値よりも大きい場合、生存に必要な条件を満たさないと判断し、ユーザに警告する。
【0071】
(指標算出処理)
次に、本実施形態の診断支援システム100により実行される指標算出処理の動作について説明する。図9は、本実施形態に係る指標算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。第1の実施形態と同様に、呼吸状態に関する指標として通常時の酸素供給能力に対する現在の酸素供給能力の割合を用いる場合について説明する。
【0072】
ステップS201-S205の処理は、それぞれ図3のステップS101-S105の処理と同様のため、説明を省略する。
【0073】
呼吸状態に関する指標を算出した後、処理回路15は、警告機能154により、算出した呼吸状態に関する指標が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS206)。呼吸状態に関する指標が閾値よりも大きい場合(ステップS206-No)、処理回路15は、生存に必要な条件を満たすと判断する。呼吸状態に関する指標が閾値以下である場合(ステップS206-Yes)、処理回路15は、生存に必要な条件を満たさないと判断し、人工呼吸器の使用を推奨することを警告するアイコンをディスプレイ13に表示する(ステップS207)。医師は、警告を確認することにより、人工呼吸器が必要か否かの判断を容易に行うことができる。
【0074】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、患者の息苦しさを定量的に評価することができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
100…診断支援システム
200…ネットワーク
300…病院情報システム(HIS)
400…医用画像診断装置
10…診断支援装置
11…メモリ
12…通信インタフェース
13…ディスプレイ
14…入力インタフェース
15…処理回路
151…取得機能
152…算出機能
153…表示制御機能
154…警告機能

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9