(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164169
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】容器入り飲料に用いるための油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20221020BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20221020BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20221020BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20221020BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20221020BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20221020BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A23D9/00 514
A23F3/16
A23F5/24
A23L2/02 A
A23L2/02 E
A23L2/38 P
A23L2/00 T
A23D7/00 508
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069488
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 佑
(72)【発明者】
【氏名】東倉 誓哉
【テーマコード(参考)】
4B026
4B027
4B117
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC03
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DH05
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4B117LC03
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4B117LG08
4B117LK18
(57)【要約】
【課題】容器入り飲料に使用されても固形物の分離やオイルオフが少なく、風味や酸化安定性にも優れる、容器入り飲料に用いるための油脂組成物を提供すること。
【解決手段】ラウリン系油脂とパーム系油脂とを含むか、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む、容器入り飲料に用いるための油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン系油脂とパーム系油脂とを含むか、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む、容器入り飲料に用いるための油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂組成物中に、ラウリン系油脂とパーム系油脂との合計、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂が、50質量%以上含まれる、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂組成物中のラウリン系油脂とパーム系油脂との質量比、或いは前記エステル交換に用いられるラウリン系油脂とパーム系油脂の質量比が、20:80~80:20である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
ラウリン系油脂が、パーム核油及び/又はヤシ油である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
ラウリン系油脂及び/又はパーム系油脂を更に含む、請求項5に記載の油脂組成物。
【請求項7】
前記飲料が、コーヒー、果汁飲料、乳飲料、野菜系飲料、及び茶系飲料からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の油脂組成物を含む、容器入り飲料に用いるためのクリーム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の油脂組成物又は請求項8に記載のクリームを含む、容器入り飲料。
【請求項10】
缶コーヒーである、請求項9に記載の容器入り飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶コーヒーなどの容器入り飲料に用いるための油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コーヒーなどの飲料やコーヒーゼリーなどのデザート類に添加するためのクリームとして、植物性油脂を原料として製造される植物性ポーションクリーム(水中油型乳化物)が知られている。植物性ポーションクリームは生乳から得られる生クリームに比べて輸送・保存における乳化安定性に優れ、かつ比較的安価に製造されるという利点を有するためにその消費量は多い。この植物性ポーションクリームの製造では、通常、安定な乳化物を得るため、複数の乳化剤とリン酸塩、クエン酸塩等の安定剤を使用して調製される。植物性ポーションクリームの製造に用いられる油脂組成物には、冷凍保存後、使用時に解凍してもボテ・固化が生じにくい優れた冷凍・解凍安定性(凍結耐性ともいう)や、単独での保存を長期間可能とする高い酸化安定性などが求められている。
【0003】
他方、缶飲料やペットボトル飲料などの容器入り飲料の需要が非常に大きくなっており、これに伴って容器入り飲料に使用するクリームや油脂組成物の需要も大きくなっている。容器入り飲料に使用するクリームは、ポーションクリームとは異なり、飲料と混合された状態で容器内に長期間保存されることとなる。従って、保存期間中の酸化劣化の問題はもちろんのこと、飲料との混合により固形物の分離やオイルオフが発生しやすい。
【0004】
特許文献1には、長期間保存しても風味の劣化が生じにくいクリーム用油脂組成物として、ラウリン系油脂と液状油脂を含み且つ10℃のSFC値が2~40%である油脂組成物が提案されている。
特許文献2には、高温殺菌後および長期間の保存における浮遊物や沈殿物の発生が少なく、香味の劣化が生じにくい乳飲料を得るための油脂組成物として、植物油脂と特定の乳化剤を含む油脂組成物が提案されている。
特許文献3には、オイルリングや白色物の発生を低減するための密封容器飲料用の油脂組成物として、ヤシ油と綿実油(液状油)とを所定の割合で混合した油脂を含む、10℃のSFCが40%以下の油脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-274997号公報
【特許文献2】特開2005-341933号公報
【特許文献3】特開2007-166917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、クリームをポーションに入れて保管したときの風味や乳しょう分離の有無が評価されており、これは飲用時に添加するポーションクリームとしての評価に過ぎない。特許文献1には、油脂組成物を、ポーションクリームではなく容器入り飲料に使用するクリームに用いることが開示されておらず、その場合の効果も不明である。
特許文献2の組成物は、複数の特定の乳化剤を組み合わせて用いることによって乳化分離の問題を改善させるものであり、ヤシ油などの植物油脂は香味の観点から添加されているに過ぎない。
特許文献3の油脂組成物は、10℃のSFC値を下げるために全実施例において綿実油が高割合で用いられている。しかしながら、綿実油は不飽和脂肪酸であるリノール酸の割合が高いため、これを高割合で含むと酸化しやすく、保存安定性が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、保存・流通時に固形物の分離やオイルオフが発生しにくく、良好な風味を有し、且つ保存安定性にも優れる、容器入り飲料に用いるための油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意努力により、ラウリン系油脂とパーム系油脂との混合物又はエステル交換油脂を用いることにより、保存・流通時に固形物の分離やオイルオフが発生しにくく、良好な風味を有し、且つ保存安定性にも優れることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕 ラウリン系油脂とパーム系油脂とを含むか、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む、容器入り飲料に用いるための油脂組成物。
〔2〕 前記油脂組成物中に、ラウリン系油脂とパーム系油脂との合計、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂が、50質量%以上含まれる、〔1〕に記載の油脂組成物。
〔3〕 前記油脂組成物中のラウリン系油脂とパーム系油脂との質量比、或いは前記エステル交換に用いられるラウリン系油脂とパーム系油脂の質量比が、20:80~80:20である、〔1〕又は〔2〕に記載の油脂組成物。
〔4〕 ラウリン系油脂が、パーム核油及び/又はヤシ油である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の油脂組成物。
〔5〕 ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の油脂組成物。
〔6〕 ラウリン系油脂及び/又はパーム系油脂を更に含む、〔5〕に記載の油脂組成物。
〔7〕 前記飲料が、コーヒー、果汁飲料、乳飲料、野菜系飲料、及び茶系飲料からなる群から選択される、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の油脂組成物。
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の油脂組成物を含む、容器入り飲料に用いるためのクリーム。
〔9〕 〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の油脂組成物又は〔8〕に記載のクリームを含む、容器入り飲料。
〔10〕 缶コーヒーである、〔9〕に記載の容器入り飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の容器入り飲料に用いるための油脂組成物は、容器入り飲料に用いた場合に保存・流通時に固形物の分離やオイルオフが発生しにくく、良好な風味を有し、且つ保存安定性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
<<容器入り飲料に用いるための油脂組成物>>
本発明の容器入り飲料に用いるための油脂組成物は、ラウリン系油脂とパーム系油脂とを含むか、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む、容器入り飲料に用いるための油脂組成物である。
なお、本発明の油脂組成物から容器入り飲料を作製する際には、後述するように油相部に乳脂肪を添加することができるが、本明細書及び特許請求の範囲において「油脂組成物」という場合には、特に断らない限り、植物性油脂(すなわち、乳脂肪、豚脂、牛脂等の動物性脂肪を除く油脂)からなる油脂組成物を意味する。
本明細書において、「コク味」とは、飲料を飲んだ時に感じる濃厚感を意味する。
【0012】
<混合物/エステル交換油脂>
本発明の油脂組成物は、ラウリン系油脂とパーム系油脂とを含むか、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む。好ましくは、ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む。
ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂とは、ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物をエステル交換して得られる油脂をいう。ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂は、ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物がエステル交換されるため、ラウリン系油脂とパーム系油脂との間でエステル交換が起こる。従って、ラウリン系油脂単独のエステル交換油脂とパーム系油脂単独のエステル交換油脂との混合物は、ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂には含まれない。
エステル交換は、当該技術分野で公知の方法を用いて行うことができる。例えば、非選択的エステル交換反応、選択型(指向型)エステル交換反応が挙げられる(参考文献:安田耕作、福永良一郎、松井宣也、渡辺正男、新版 油脂製品の知識、幸書房)。これらの中でも、非選択的エステル交換反応が好ましい。
前記油脂組成物中に含まれる、ラウリン系油脂とパーム系油脂との合計、或いはラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂の割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらにより好ましく、80質量%以上であることがさらにより好ましく、90質量%以上であることがさらにより好ましく、100質量%であることがさらにより好ましい。
また、油脂組成物中に含まれるラウリン系油脂とパーム系油脂との合計又はラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂の割合の上限値に特に制限はないが、100質量%であってもよく、95質量%であってもよく、90質量%であってもよく、80質量%であってもよい。
油脂組成物中のラウリン系油脂とパーム系油脂との質量比、或いはエステル交換に用いられるラウリン系油脂とパーム系油脂の質量比は、20:80~80:20であることが好ましく、20:80~70:30であることがより好ましく、20:80~60:40であることがさらにより好ましく、20:80~50:50であることがさらにより好ましく、30:70~50:50であることがさらにより好ましく、40:60であることが特に好ましい。
【0013】
<ラウリン系油脂>
本明細書及び特許請求の範囲において、ラウリン系油脂とは、構成脂肪酸としてラウリン酸を30質量%以上含む油脂の総称である。ラウリン系油脂は、構成脂肪酸としてラウリン酸を30~60質量%含むことが好ましく、35~55質量%含むことがより好ましい。
本発明において、ラウリン系油脂は、1種類のラウリン系油脂であってもよく、2種以上のラウリン系油脂の混合物であってもよい。
また、本明細書及び特許請求の範囲において、単に「ラウリン系油脂」というときは、エステル交換されていない1種又は2種以上のラウリン系油脂を意味する。1種又は2種以上のラウリン系油脂の間でエステル交換されたラウリン系油脂は、「エステル交換されたラウリン系油脂」と呼び、エステル交換されていない上記の「ラウリン系油脂」と区別する。
ラウリン系油脂の具体例としては、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、またはこれらの油脂の1種又は2種以上を混合したものが挙げられる。これらの中でも、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレインが好ましく、ヤシ油、パーム核油がより好ましく、ヤシ油が特に好ましい。
なお、パーム核オレインは、パーム核油を分別して得られる低融点画分の油脂である。パーム核ステアリンは、パーム核油を分別して得られる高融点画分の油脂である。
【0014】
油脂組成物がラウリン系油脂とパーム系油脂を含む場合、ラウリン系油脂は、油脂組成物中に、20~80質量%含まれることが好ましく、20~70質量%含まれることがより好ましく、20~60質量%含まれることがさらにより好ましく、20~50質量%含まれることがさらにより好ましく、30~50質量%含まれることがさらにより好ましく、40質量%含まれることがさらにより好ましい。
ラウリン系油脂は、1種類のラウリン系油脂を単独で用いてもよく、2種類以上のラウリン系油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
油脂組成物が、ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む場合、油脂組成物はラウリン系油脂を更に含んでいてもよく含んでいなくてもよい。ラウリン系油脂を更に含む場合、油脂組成物中に占めるラウリン系油脂の割合は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらにより好ましく、25質量%以下であることがさらにより好ましく、20質量%以下であることがさらにより好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましく、5質量%以下であることがさらにより好ましく、3質量%以下であることがさらにより好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましい。下限値に特に制限はなく、0.1質量%であっても、0.5質量%であっても、1質量%であってもよく、10質量%であってもよい。
油脂組成物中に更に含まれていてもよいラウリン系油脂としては、上記ラウリン系油脂の例示と同様のものが挙げられる。これらの中でも、ヤシ油、パーム核油、及び/又はパーム核オレインが好ましく、ヤシ油及び/又はパーム核油がより好ましく、ヤシ油がさらにより好ましい。
【0016】
<パーム系油脂>
本明細書及び特許請求の範囲において、パーム系油脂とは、パームの果実由来の油脂の総称である。なお、パームの核由来の油脂であるパーム核油は、パーム系油脂には含まれない。パーム系油脂は、構成脂肪酸としてパルミチン酸を30質量%以上含むことが好ましく、30~80質量%含むことがより好ましく、30~60質量%含むことがさらにより好ましい。
また、本明細書及び特許請求の範囲において、単に「パーム系油脂」というときは、エステル交換されていない1種又は2種以上のパーム系油脂を意味する。1種又は2種以上のパーム系油脂の間でエステル交換されたパーム系油脂は、「エステル交換されたパーム系油脂」と呼び、エステル交換されていない上記の「パーム系油脂」と区別する。
パーム系油脂の具体例としては、パーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクション(パーム中融点部)、またはこれらの油脂の1種又は2種以上を混合したものが挙げられる。これらの中でも、パーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン、パームミッドフラクションが好ましく、パーム油、パームオレインがより好ましく、パーム油が特に好ましい。
パームオレインは、パーム油を分別して得られる低融点画分の油脂である。パームステアリンとは、パーム油を分別して得られる高融点画分の油脂である。パームダブルオレインは、パームオレインを更に分別して得られる低融点画分の油脂である。パームミッドフラクションは、パームオレインを更に分別して得られる高融点画分の油脂である。
【0017】
油脂組成物がラウリン系油脂とパーム系油脂を含む場合、パーム系油脂は、油脂組成物中に、20~80質量%含まれることが好ましく、30~80質量%含まれることがより好ましく、40~80質量%含まれることがさらにより好ましく、50~80質量%含まれることがさらにより好ましく、50~70質量%含まれることがさらにより好ましく、60質量%含まれることがさらにより好ましい。
パーム系油脂は、1種類のパーム系油脂を単独で用いてもよく、2種類以上のパーム系油脂を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
油脂組成物が、ラウリン系油脂とパーム系油脂の混合物のエステル交換油脂を含む場合、油脂組成物はパーム系油脂を更に含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。パーム系油脂を更に含む場合、油脂組成物中に占めるパーム系油脂の割合は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらにより好ましく、25質量%以下であることがさらにより好ましく、20質量%以下であることがさらにより好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましく、5質量%以下であることがさらにより好ましく、3質量%以下であることがさらにより好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましい。下限値に特に制限はなく、0.1質量%であっても、0.5質量%であっても、1質量%であってもよく、10質量%であってもよい。
油脂組成物中に更に含まれていてもよいパーム系油脂としては、上記パーム系油脂の例示と同様のものが挙げられる。これらの中でも、パーム油、パームオレイン及び/又はパームダブルオレインが好ましく、パームオレイン及び/又はパームダブルオレインがより好ましく、パームダブルオレインがさらにより好ましい。
【0019】
<液状油脂>
本明細書及び特許請求の範囲において、液状油脂は、構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を65質量%以上含む油脂を意味する。また、液状油脂は、好ましくは、20℃よりも低い融点を有する油脂である。
本発明の油脂組成物は、液状油脂を含んでいても含んでいなくてもよいが、含んでいないことが好ましい。
液状油脂を含む場合、油脂組成物中の液状油脂の割合は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましく、5質量%以下であることがさらにより好ましく、3質量%以下であることがさらにより好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0020】
液状油脂を含む場合、使用する液状油脂の具体例としては、ハイオレイック菜種油、菜種油、ハイオレイックヒマワリ油、ヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油、大豆油、コーン油、綿実油、紅花油、オリーブ油、またそれらを分別、配合、エステル交換等した油脂が挙げられる。これらの中でも、ハイオレイックナタネ油、菜種油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油が好ましく、ハイオレイックナタネ油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油がより好ましい。
【0021】
<その他の油脂>
本発明の油脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、ラウリン系油脂、パーム系油脂、液状油脂以外のその他の油脂を含んでいても含んでいなくてもよいが、その他の油脂を含んでいないことが好ましい。
その他の油脂を含む場合、その他の油脂は、油脂組成物の全質量に対して10質量%以下の割合で含まれることが好ましく、5質量%以下の割合で含まれることがより好ましく、2質量%以下の割合で含まれることがさらにより好ましい。下限値に特に制限はなく、0.01質量%であってもよく、0.1質量%であってもよい。
【0022】
<その他の任意成分>
本発明の油脂組成物は、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤などを含んでいてもよい。酸化防止剤としては、ビタミンE、ビタミンC、ローズマリー抽出物、茶抽出物、コケモモ抽出物等が挙げられる。
【0023】
<構成脂肪酸量>
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸中に占めるラウリン酸の割合が5~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、12~25質量%であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸中に占めるパルミチン酸の割合が10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸中に占めるステアリン酸の割合が0~15質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがより好ましく、0~6質量%であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらにより好ましく、20~35質量%であることがさらにより好ましく、23~33質量%であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸中に占めるリノール酸の割合が0~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、4~10質量%であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸中に占めるリノレン酸の割合が0~2質量%であることが好ましく、0~1質量%であることがより好ましく、0~0.5質量%であることがさらにより好ましい。
【0024】
<不飽和脂肪酸含量>
本発明の油脂組成物は、当該油脂組成物中に含まれる全油脂の構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸の割合が10~50質量%であることが好ましく、20~45質量%であることがより好ましく、25~40質量%であることがさらにより好ましく、30~40質量%であることがさらにより好ましい。
【0025】
<SFC>
本発明の油脂組成物は、10℃のSFCが、30以上であることが好ましく、35~60であることがより好ましく、38~50であることがさらにより好ましく、40~48であることがさらにより好ましく、42~46であることがさらにより好ましく、43~46であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、20℃のSFCが、3~30であることが好ましく、5~25であることがより好ましく、15~25であることがさらにより好ましい。
本発明の油脂組成物は、30℃のSFCが、0~15であることが好ましく、1~12であることがより好ましく、3~12であることがさらにより好ましく、5~10であることがさらにより好ましく、6~9であることがさらにより好ましい。
SFC(単位:%)は、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定することができる。即ち、各油脂組成物を60℃で30分保持し、完全に融解した後、0℃で30分保持して固化させる。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃に30分保持する。その後、各測定温度で30分保持した後、各油脂組成物のSFCを測定する。
【0026】
<<クリーム>>
上述した油脂組成物はそのままコーヒーや紅茶等の飲料と混合・均質化して容器入り飲料とすることもできるが、下記のように水中油型乳化油脂組成物である、容器入り飲料に用いるためのクリーム(又はクリーム組成物)の製造に用いることもできる。
〔油相部〕
本発明のクリームは水相部と油相部からなり、油相部に上記本発明のクリーム用油脂組成物を含有することを特徴とする。
本発明において、油相部は、本発明のクリーム用油脂組成物に加えて、油脂として乳脂肪を更に含んでいてもよい。乳脂肪としてバターオイル、バター、生クリーム、牛乳等を由来とする乳脂肪が挙げられる。
【0027】
本発明のクリームの油相部には、上記油脂に加えて、親油性の乳化剤、着香料、着色料等を添加してもよい。乳化剤としては、例えばショ糖脂肪酸エステル、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等従来公知の乳化剤のうちHLBの低い乳化剤が例示でき、本発明においてはこれらのいずれを適宜組み合わせて使用してもよい。
本発明において、クリーム全質量に対する油相部質量が2~20質量%であることが好ましく、より好ましくは3~15%、更により好ましくは4~10%である。この範囲内であると、クリームとしての安定性が高く、容器入り飲料(缶やペットボトル入りのコーヒーや紅茶等)と混ぜ合わせることに適している。
【0028】
〔水相部〕
本発明のクリームの水相部は、水に、ショ糖脂肪酸エステル、脱脂粉乳や必要に応じて、クエン酸ナトリウム、トリポリりん酸ナトリウム、第二りん酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ヘキサメタりん酸ナトリウム、カラギナン等増粘多糖類などを添加してもよい。
【0029】
本発明のクリームの水相部は、更に、甘味や粘度の調節を目的として糖類を配合してもよい。糖類としては、例えば、水飴、粉飴、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース等が挙げられ、これは必要に応じ適宜組み合わせて配合される。
【0030】
<<クリームの製造方法>>
本発明の容器入り飲料に用いるためのクリームは、一般的な水中油型乳化油脂組成物の製造方法により製造できる。代表的な方法を述べると、油脂を含む油相部の材料を混合して溶解ないし分散させて油相部を調製する。乳化剤を使用する場合であって、乳化剤として親油性のものを用いる場合には、原料油脂の一部または全部に添加し溶解ないし分散させて油相部を調製する。次に、上述したショ糖脂肪酸エステルや脱脂粉乳などを水に添加して水相部を調製する。
【0031】
調製した油相部と水相部を60℃から80℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化後、ホモゲナイザーにて均質化し、バッチ式殺菌法、レトルト殺菌法、または間接加熱方式あるいは直接加熱方式によるUHT滅菌処理法にて滅菌し、再びホモゲナイザーにて均質化し冷却しエージングする。
【0032】
<<容器入り飲料>>
容器入り飲料は、油脂組成物と飲料等の原料を混合、または均質化し容器内に充填することで得ることができる。また、上記で得られたクリームと飲料を混合、または均質化した後に容器内に充填する、或いは上記で得られたクリームと飲料をそれぞれ容器内で混ざるように充填することにより、本発明の油脂組成物又はクリームを含む、容器入り飲料を得ることができる。クリーム及び飲料は必要に応じて加熱殺菌してもよい。
【0033】
本発明の油脂組成物又はクリームは、容器入り飲料に好適に用いることができる。容器入り飲料としては、密閉式容器に充填された飲料であることが好ましい。容器としては、缶、ペットボトル、瓶、紙パックなどが挙げられる。
飲料としては、コーヒー、果汁飲料、乳飲料、野菜系飲料、紅茶、緑茶(特に抹茶)やほうじ茶などの茶系飲料などが挙げられる。これらの中でも、コーヒー、茶系飲料が好ましく、コーヒー又は紅茶がより好ましく、コーヒーが特に好ましい。また、容器入り飲料としては、缶コーヒーが特に好ましい。
【実施例0034】
<油脂組成物の調製>
各実施例及び比較例について、表1に記載の油脂を含む油脂組成物を用意した。エステル交換油1~3は、表2に記載の通り、ヤシ油単独(エステル交換油1)、ヤシ油とパーム油(エステル交換油2)、又はパーム油単独(エステル交換油3)を、エステル交換反応容器に仕込み、0.05MPaまで減圧し、110℃まで加熱し、油脂に残存する水分を除去した。その後、90℃まで冷却し、減圧解除と同時に窒素を吹き込み、油脂と空気とが触れないようにしながらアルカリ触媒(ナトリウムメトキシド)を油脂に対して0.12質量%添加してエステル交換反応を開始した。反応開始から30分後、油脂と同量の水を加えてエステル交換反応を停止した。水洗後、反応生成物から減圧乾燥により水分を除去することにより得た。なお、本実施例において、特に断りのないかぎり、%は質量%を意味する。
【0035】
【0036】
【0037】
<<物性>>
各実施例又は比較例の油脂組成物の脂肪酸組成、SFCを、それぞれ下記の方法により測定した。
【0038】
<構成脂肪酸組成の分析>
基準油脂分析法(暫17-2007トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法))に準じて測定した。
ガスクロマトグラフィー装置は、(株)島津製作所製、Nexis GC-2030型を用いた。カラムは、SUPELCO社製、SP-2560を用いた。
その結果を表1に示す。
【0039】
<SFC>
各実施例又は比較例の油脂組成物の固体脂含量(SFC、単位は%)は、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定した。即ち、各油脂組成物を60℃で30分保持し、完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させた。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃で30分保持した。その後、各測定温度で30分保持した後、各油脂組成物のSFCを測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
<<評価>>
各実施例又は比較例の油脂組成物を用いて、以下の手順でコーヒー飲料を調製し、風味、外観(固形物の分離の有無、オイルオフの有無)を評価した。また、保存安定性(酸化安定性)の指標として、酸化難易度を評価した。
【0041】
<コーヒー飲料の調製>
下記表3に記載の割合で油相部と水相部を混合し、65℃で10分間予備乳化を行い、150kg/cm2で均質化した。その後、75℃にて15分間加熱殺菌し、5℃で1晩エージングし、第1液を得た。
次に、下記表4に記載の割合で混合し、75℃にて15分間加熱殺菌し、5℃で1晩保存し、第2液を得た。
第1液と第2液を1:1の割合で混合し、各実施例又は比較例の油脂組成物を含むコーヒー飲料を調製した。
【0042】
【0043】
【0044】
<風味評価>
各実施例又は比較例の油脂組成物を含むコーヒー飲料をパネラー5名により試飲し、各実施例又は比較例の油脂組成物を用いて調製されたクリームを入れたコーヒーにコク味が感じられるか、それともコク味が感じられず後味があっさりした味であるかを評価した。なお、風味評価は、コクを強く感じた実施例3の評価を5とし、最もコクが弱く後味もあっさりであった比較例4の評価を1として相対評価を行った。5名のパネラーの平均値を評価値とし、平均値が3.0以上を合格とした。その結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
<外観の評価>
各実施例又は比較例の油脂組成物を含むコーヒー飲料を120mLの瓶に100mL採取し、40℃で6時間温調後、3名のパネラーにより下記の基準に基づき外観(オイルオフ及び固形物の分離)の評価を行った。なお、オイルオフの評価は、オイルオフがほとんど見られなかった実施例3の評価を4とし、オイルオフが非常に多かった比較例3の評価を1として相対評価を行った。固形物の分離評価は、固形物の分離がほとんど見られなかった実施例3の評価を4とし、固形物の分離が非常に多かった比較例3の評価を1として相対評価を行った。3名のパネラーが各コーヒー飲料の外観を同時に観察し、その評価値を決定した。評価値3以上を合格とした。その結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
<酸化安定性(酸化難易度)>
本明細書において酸化安定性の指標として下記「酸化難易度」を用いた。
油脂組成物の不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)含量にそれぞれ特定の係数(オレイン酸…0.89、リノール酸…21、リノレン酸…39)を掛けた数値の和をその油脂組成物の酸化難易度とした(参考文献:福沢健治、寺尾純二、脂質過酸化実験法、廣川書店)。
『酸化難易度=オレイン酸含量×0.89+リノール酸含量×21+リノレン酸含量×39』
例…オレイン酸46.2%、リノール酸8.7%、リノレン酸0%の場合。
(0.89×46.2)+(21×8.7)+(39×0)=224
上記より求めた酸化難易度をもとに、以下のように酸化安定性を1~4の4段階で評価した。3以上を合格とした。その結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1に示す結果から明らかなように、油脂としてヤシ油のみを含む比較例1の油脂組成物や液状油脂(ハイオレイック菜種油)のみを含む比較例4の油脂組成物から製造されたクリームを含むコーヒーは、十分な風味が得られなかった。また、比較例4の油脂組成物は、酸化安定性が悪く、従って保存安定性にも劣ると評価した。パーム油のみを含む比較例2の油脂組成物から製造されたクリームを含むコーヒーは、固形物の分離が見られ、酸化安定性にも劣ると評価した。比較例3の油脂組成物から製造されたクリームを含むコーヒーは、風味や安定性の点では良好な結果を示したものの、飲料と混合してから6時間後の固形物の分離やオイルオフが多く発生し、容器入り飲料に使用しても保存・流通時に固形物の分離やオイルオフが発生してしまうという問題を有していた。従って、容器入り飲料に用いるための油脂組成物として適していなかった。
これに対し、実施例1~3の油脂組成物は、固形物の分離やオイルオフが少なく、コーヒーと混合したときの風味に優れ、安定性にも優れていた。従って、実施例1~3の油脂組成物は容器入り飲料に用いる油脂組成物として望ましいものであると判断した。
本発明の油脂組成物から製造される容器入り飲料は、保存・流通時に固形物の分離やオイルオフが少なく、風味や酸化安定性にも優れる。したがって、本発明は、産業上、極めて有用である。