(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164173
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】表面加工構造、表面加工シート、及びプロペラファン
(51)【国際特許分類】
F04D 29/38 20060101AFI20221020BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
F04D29/38 A
F04D29/38 C
F03D1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069498
(22)【出願日】2021-04-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】公文 ゆい
(72)【発明者】
【氏名】三角 勝
【テーマコード(参考)】
3H130
3H178
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB26
3H130AB52
3H130AC25
3H130BA61C
3H130CB01
3H130DA02Z
3H130DD01Z
3H130EB01C
3H130EB04C
3H130EC13C
3H130EC14C
3H130EC17C
3H178AA03
3H178AA40
3H178BB31
3H178CC03
(57)【要約】
【課題】流体が効率的に移動できる表面加工構造、表面加工シート、及びプロペラファンを提供する。
【解決手段】表面加工構造は、対象物の表面である対象面上に配置された立体物であり、前記対象面と平行な第一方向に並ぶ複数のブロックを備え、前記複数のブロックの各々は、前記第一方向の上流側から下流側に向かって、前記対象面からの距離が漸増するように延びる傾斜面を有し、前記複数のブロックが有する複数の前記傾斜面は、前記第一方向に延びる一つの線上に並ぶ。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面である対象面上に配置された立体物であり、前記対象面と平行な第一方向に並ぶ複数のブロックを備え、
前記複数のブロックの各々は、前記第一方向の上流側から下流側に向かって、前記対象面からの距離が漸増するように延びる傾斜面を有し、
前記複数のブロックが有する複数の前記傾斜面は、前記第一方向に延びる一つの線上に並ぶ、
表面加工構造。
【請求項2】
前記傾斜面の全体は、前記ブロックの前記第一方向の上流側に露出し、
前記傾斜面の前記第一方向の下流側端部は、前記ブロックのうちで前記対象面からの距離が最も大きい、
請求項1に記載の表面加工構造。
【請求項3】
前記複数のブロックのうちで前記第一方向に隣り合う二つのブロックは、上流側ブロック、及び前記上流側ブロックの下流側にある下流側ブロックであり、
前記下流側ブロックにおける前記傾斜面の前記第一方向の上流側端部は、前記上流側ブロックにおける前記第一方向の下流側端部よりも、前記対象面からの距離が小さい、
請求項1又は2に記載の表面加工構造。
【請求項4】
前記複数のブロックの各々は、前記傾斜面に設けられた複数の微小溝を有し、
前記複数の微小溝は、互いに間隔を空けて前記第一方向と直交する第二方向に並び、且つ前記第一方向の上流側から下流側に向かって延びる、
請求項1から3の何れかに記載の表面加工構造。
【請求項5】
前記複数の微小溝は、前記傾斜面における前記第一方向の上流側端部から下流側端部まで延びる、
請求項4に記載の表面加工構造。
【請求項6】
前記複数のブロックは、前記第一方向と前記第二方向とに並んで二次元配列され、
前記複数のブロックのうちで前記第二方向に隣り合う二つのブロックの間には、前記第二方向と交差する方向に延びる溝状の隙間が形成され、
前記複数の微小溝の各々における前記第二方向の幅は、前記隙間における前記第二方向の幅よりも小さい、
請求項4又は5に記載の表面加工構造。
【請求項7】
前記複数のブロックは、前記第一方向に連続して並ぶ複数の前記隙間が形成されるように配置され、
前記複数の隙間は、前記第一方向に延びる一つの空気流路を構成する、
請求項6に記載の表面加工構造。
【請求項8】
第二方向に並ぶ複数の第一の溝と、
前記第一の溝と平行に延び、前記第一の溝より狭く、且つ前記第一の溝より浅い第二の溝と、
を備え、
隣り合う前記第一の溝の間に、複数の前記第二の溝が整列する、
表面加工構造。
【請求項9】
前記第一の溝のアスペクト比は、前記第二の溝のアスペクト比よりも小さい、
請求項8に記載の表面加工構造。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の表面加工構造が、前記対象面上に設置可能な基材に設けられた表面加工シート。
【請求項11】
回転軸部と、前記回転軸部から外方に延びる翼とを備え、
請求項1から9の何れかに記載の表面加工構造は、前記翼の表面上に設けられ、
前記第一方向は、前記翼の前縁側から後縁側に向かう方向である、
プロペラファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面加工構造、表面加工シート、及びプロペラファンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物のもつ多彩な機能を模倣して利用する技術、いわゆるバイオミメティクス(biomimetics)に注目が集まっている。そして、そのような生体模倣技術を電気製品等に採用するモノづくりの一例としてネイチャーテクノロジー(登録商標)が知られている。
【0003】
回転可能な羽根の表面を加工する手法として、ディンプル加工が知られている。特許文献1が例示する発電機のように、風や流水などの流体を受けて回転する羽根を利用した装置では、回転する羽根にディンプルを設けることで、羽根の表面積を増加させると共に風の抵抗を強めて、羽根の回転を上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば送風機やファンのように、原動機の動力を受けた羽根の回転によって流体を移動させる装置では、回転する羽根にディンプルを設けると、流体を効率的に移動できないおそれがある。具体的には、ディンプルによって羽根の表面積が増加して流体の抵抗が強まることで、羽根の回転負荷が大きくなり、羽根の円滑な回転を妨げるおそれがある。また、羽根の回転時にディンプルが羽根の表面に乱気流を生じ、その乱気流が流体の一定方向への移動を妨げるおそれがある。
【0006】
本開示の一態様は、流体が効率的に移動できる表面加工構造、表面加工シート、及びプロペラファンを提供することを目的とする。なお、本開示の一態様は、蝶鱗粉や魚鱗の構造に着目した技術的思想を含んでいるため、バイオミメティクスに関係するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る表面加工構造は、対象物の表面である対象面上に配置された立体物であり、前記対象面と平行な第一方向に並ぶ複数のブロックを備え、前記複数のブロックの各々は、前記第一方向の上流側から下流側に向かって、前記対象面からの距離が漸増するように延びる傾斜面を有し、前記複数のブロックが有する複数の前記傾斜面は、前記第一方向に延びる一つの線上に並ぶ。
【0008】
本開示の一態様に係る表面加工シートは、前記表面加工構造が前記対象面上に設置可能な基材に設けられる。
【0009】
本開示の一態様に係るプロペラファンは、回転軸部と、前記回転軸部から外方に延びる翼とを備え、前記表面加工構造は、前記翼の表面上に設けられ、前記第一方向は、前記翼の前縁側から後縁側に向かう方向である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】プロペラファンを備えた扇風機の一部分解側面図である。
【
図2】プロペラファンを正面側から見た斜視図である。
【
図4A】
図3におけるB-B線矢視方向断面図である。
【
図5】表面加工シートを部分的に拡大した斜視図である。
【
図6】
図5に示す破線枠内を部分的に拡大した斜視図である。
【
図7B】
図6に示す破線枠内を部分的に拡大した斜視図である。
【
図8】表面加工シートを部分的に拡大した模式的な平面図である。
【
図9A】
図8に示す表面加工シートの模式的な正面図である。
【
図9B】
図8に示す表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図10A】第一変形例に係る表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図10B】第二変形例に係る表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図10C】第三変形例に係る表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図10D】第四変形例に係る表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図10E】第五変形例に係る表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図10F】第六変形例に係る表面加工シートの模式的な側面図である。
【
図11A】第七変形例に係る表面加工シートの模式的な平面図である。
【
図11B】第八変形例に係る表面加工シートの模式的な平面図である。
【
図11C】第九変形例に係る表面加工シートの模式的な平面図である。
【
図11D】第十変形例に係る表面加工シートの模式的な平面図である。
【
図12A】第十一変形例に係る表面加工シートの模式的な平面図である。
【
図12B】第十一変形例に係る表面加工シートの模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
[扇風機1]
扇風機1を説明する。
図1は、プロペラファン100を備えた扇風機1の一部分解側面図である。
図1に示すように、扇風機1は、前ガード2、後ガード3、本体部4、スタンド5、及びプロペラファン100を含む。本体部4は、スタンド5によって支持されており、内部に図示しない駆動モータが収容されている。本体部4の前面には、駆動モータの回転軸4Aが設けられている。プロペラファン100の回転軸部110(
図2等参照)が、スクリューキャップ6を用いて回転軸4Aに固定される。
【0013】
前ガード2及び後ガード3は、本体部4に固定されたプロペラファン100を囲うように設けられる。後ガード3は、プロペラファン100の背面側(負圧面側)を覆うように本体部4に、固定される。前ガード2は、プロペラファン100の正面側(正圧面側)を覆うように、後ガード3に固定される。スタンド5は、床面等に扇風機1を載置するために設けられ、本体部4を支持する。スタンド5の所定位置には、扇風機1のオン/オフや運転状態の切換え等を行なうための図示しない操作部が設けられている。スタンド5は、扇風機1の首ふり機能及び高さ調節機能を有してもよい。
【0014】
[プロペラファン100]
プロペラファン100を説明する。
図2は、プロペラファン100を正面側から見た斜視図である。
図3は、プロペラファン100の正面図である。
図2及び
図3に示すように、プロペラファン100は、回転軸部110及び複数の翼120を有する。回転軸部110は、プロペラファン100のボスハブであり、有底略円筒状の形状を有する。複数の翼120の各々は、滑らかに曲成された板状である。複数の翼120は、回転軸部110の外周面から、プロペラファン100の径方向外側へ向けて突出する。複数の翼120は、回転軸部110の周方向に沿って等間隔に並び、且つ互いに同一の形状である。本例のプロペラファン100は、7枚の翼120を有する。
【0015】
プロペラファン100は、上述した駆動モータに駆動されて、回転軸部110の軸線を回転中心として、正面視で反時計回り方向である回転方向Aに回転する。即ち複数の翼120が回転方向Aに回転する。これにより、プロペラファン100の背面側である吸込側から、プロペラファン100の正面側である噴出側に向けて空気が流れて、扇風機1の前方に向けて送風される。
【0016】
複数の翼120の詳細構造を説明する。
図4Aは、
図3におけるB-B線矢視方向断面図である。
図4Bは、翼120の前面125を部分的に拡大した図である。本例では、複数の翼120が互いに同じ形状であるため、一つの翼120について説明する。
図2~
図4Aに示すように、翼120は、前縁部121、後縁部122、及び周縁部123を含む。
【0017】
前縁部121は、翼120における回転方向Aの下流側にある端縁部である。前縁部121は、その径方向の中間部分が回転方向Aの上流側へ突出するように湾曲している。後縁部122は、翼120における回転方向Aの上流側にある端縁部である。後縁部122は、その径方向の中間部分が回転方向Aの上流側へ突出するように湾曲している。周縁部123は、翼120において回転方向Aに沿って延びる端縁部である。周縁部123は、前縁部121の径方向外側の端部と、後縁部122の径方向外側の端部とを結ぶ。翼120は全体として、径方向外側へ向かうに従って、前縁部121と後縁部122との距離が大きくなっている。
【0018】
プロペラファン100が回転方向Aに回転することにより、翼120では気流が前縁部121から後縁部122へ向かって流れる。翼120の前面125は、凹状に湾曲した正圧面である。翼120の背面126は、凸状に湾曲した負圧面である。上記の構成において、プロペラファン100が回転すると、前縁部121から翼120の翼面上へ流れ込む空気は、前縁部121から概ね周方向に流れ、後縁部122から流出する。
【0019】
プロペラファン100では、翼120の翼面である前面125及び背面126に、表面加工シート200が設置されている。本例では、前面125の略全面と背面126の略全面とに、表面加工シート200が夫々貼り付けられている。これに代えて、表面加工シート200は前面125及び背面126の一方に設置されてもよい。表面加工シート200は、前面125の一部に設置されてもよいし、背面126の一部に設置されてもよい。
【0020】
図4Bに示すように、表面加工シート200は、翼120の前面125と面接触するように貼り付けられ、前面125に沿って延びる。本例では、前縁部121側から後縁部122側に向かう方向、つまり回転する翼120に対して空気を相対的に流す方向が、後述の第一方向に対応する。翼120における径方向が、後述の第二方向に対応する。
【0021】
[表面加工シート200]
表面加工シート200を説明する。
図5は、表面加工シート200を部分的に拡大した斜視図である。
図6は、
図5に示す破線枠内を部分的に拡大した斜視図である。以下では、
図5における上側、下側、左下側、右上側、左上側、右下側を、夫々、表面加工シート200の上側、下側、前側、後側、左側、右側と定義する。
図5の例は、表面加工シート200の一部であり、前後方向に2mm及び左右方向に2mmである。
図6では、複数のブロック500のうち、左前側にある一つのブロック500のみに微小溝520を図示している。
【0022】
図5及び
図6に示すように、表面加工シート200では、表面加工構造201が、対象物の表面である対象面上に設置可能な基材202に設けられている。以下では、翼120の前面125上に設置される表面加工シート200を説明するため、翼120が対象物であり、且つ前面125が対象面である。
【0023】
本例の表面加工シート200は、薄型軽量の可撓性シートである。具体的には、表面加工シート200の厚みは、2000μm未満であり、一例として100μm程度である。基材202は、対象面に接着又は溶着によって固定できる材質で形成されればよく、例えば、樹脂、ゴム及び金属からなる群より選択される少なくとも1種を含む。樹脂は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)及びウレタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。ゴムは、例えば、シリコンゴムを含む。金属は、例えば、アルミニウム及びステンレス鋼からなる群より選択される少なくとも1種を含む。基材202は、対象面の表面形状に合わせて変形可能な可撓性を有するため、対象面と隙間なく面接触できる。
【0024】
表面加工構造201は、複数のブロック500を有する。複数のブロック500は、対象物の表面である対象面上に配置された立体物であり、対象面と平行な第一方向に並ぶ。第一方向は、直線方向でもよいし、曲線方向でも良い。本例では、表面加工構造201が基材202上に形成されている。複数のブロック500は、基材202を介して対象面上に配置される。表面加工シート200の前後左右方向は、対象面の面方向と略平行をなす。表面加工シート200の上側は、対象面とは反対側を向く。表面加工シート200の下側は、対象面側を向く。
【0025】
複数のブロック500は、複数のブロック列501を構成する。複数のブロック列501の各々は、第一方向に並んだ二以上のブロック500からなる。複数のブロック列501は、第一方向と直交する第二方向に並んで配置されている。第二方向は、直線方向でもよいし、曲線方向でも良い。従って複数のブロック500は、基材202上において、第一方向及び第二方向に並んで二次元配列される。
【0026】
プロペラファン100では、表面加工シート200の前側が前縁部121側を向き、且つ表面加工シート200の後側が前縁部121側を向くように、翼120の前面125上に取り付けられる。そのため、
図5に示すように、表面加工シート200の後方向は、第一方向(
図4B参照)と平行である。表面加工シート200の左右方向は、第二方向と平行である。
【0027】
図4Aに示すように、本例の翼120の翼面は、前縁部121側から後縁部122側に向かって、翼120の正面側に湾曲している。従って、
図4B及び
図5に示すように、表面加工シート200の上方向及び下方向は、夫々、翼120の正面方向及び背面方向に対して傾斜している。具体的には、表面加工シート200の上方向は、翼120の正面方向に対して、第一方向の上流側に傾斜している。
【0028】
図6に示すように、複数のブロック500の各々は、第一方向の上流側から下流側に向かって、対象面からの距離が漸増するように延びる傾斜面510を有する。傾斜面510は、ブロック500のうちで上側を向く面の少なくとも一部である。本例では、ブロック500の上面全体が、後方に向かって上側に傾いた傾斜面510をなす。
【0029】
複数のブロック500が有する複数の傾斜面510は、第一方向に延びる一つの線V上に並ぶ。詳細には、複数のブロック列501の各々では、第一方向に延びる一つの線Vが、平面視でブロック列501を構成する全てのブロック500の傾斜面510を通る。線Vは、第一方向と平行に延びる仮想的な直線又は曲線である。
図6の例では、後方向へ直線状に延びる線Vが、平面視でブロック列501内の全ブロック500を通る。
【0030】
複数のブロック500の詳細構造を説明する。
図7Aは、一つのブロック500を拡大した斜視図である。
図7Bは、
図6に示す破線枠内を部分的に拡大した斜視図である。
図7Aでは、ブロック500に設けられた微小溝520の図示を省略している。
【0031】
複数のブロック500は、基材202上に形成できる材料で作製されればよく、基材202と同じ材料でも作製されてもよいし、基材202とは異なる材料で作製されてもよい。複数のブロック500は、射出成形等の成形により作製されてもよいし、フライス加工、レーザー加工、エッチング等の除去加工により作製されてもよい。本例では、基材202の上面にエッチングによる微細加工を行って、互いに同じ形状の複数のブロック500が作製される。以下では、一つのブロック500について説明する。
【0032】
傾斜面510は、翼120の回転時に前面125に流れ込む空気と接触して、第一方向に流れる気流を生じさせる機能を有する。
図7Aの例では、傾斜面510が空気をより長い距離に亘って第一方向に案内できるように、ブロック500は第一方向に長い直方体状である。傾斜面510は、第一方向の下流側に向かって高くなるように傾斜する平面である。
【0033】
傾斜面510は、前面125に流れ込む空気と十分に接触できるように、相対的に大きな面積を有する。表面加工シート200を平面視した場合に、表面加工シート200のうちで複数の傾斜面510の総面積が占める割合は、例えば全体の60%以上である。本例では、傾斜面510の第一方向の長さである奥行Dは、ブロック500の第一方向の最大長さと等しく、125μmである。傾斜面510の第二方向の長さである幅Wは、ブロック500の第二方向の最大長さと等しく、75μmである。
【0034】
傾斜面510は、第一方向における上流側端部511及び下流側端部512を含む。
図7Aの例では、傾斜面510は、傾斜面510の前端にある上流側端部511から、傾斜面510の後端にある下流側端部512まで、直線的に傾斜する平面である。従って傾斜面510の高さHは、上流側端部511で最小値Hminとなり、下流側端部512で最大値Hmaxとなる。つまり、対象面から傾斜面510までの距離は、上流側端部511で最小となり、下流側端部512で最大となる。本例では、最小値Hminは20μmであり、最大値Hmaxは50μmであるため、傾斜面510の高低差は30μmである。
【0035】
上流側端部511の高さHが小さいほど、第一方向の上流側からブロック500に流れ込む空気とブロック500の前面521との接触面積を小さくできる。本例では、上流側端部511の高さHが最小値Hminであるため、この接触面積を抑制して空気をスムーズに傾斜面510上に移動できる。
【0036】
ブロック500では、傾斜面510の高低差と奥行Dとによって、対象面に対する傾斜面510の傾斜角度αが定まる。傾斜角度αが大きいほど、傾斜面510上を移動する空気を対象面から高く離れた位置に移動できる一方、空気と傾斜面510との接触圧が大きくなり、空気の流速が低下するおそれがある。傾斜角度αが小さいほど、傾斜面510上を移動する空気の流速低下を抑制できる一方、空気を対象面から高く離れた位置に移動できないおそれがある。かかる観点から、傾斜角度αは6度~27度の範囲内であり、本例では13.5度程度である。
【0037】
なお、傾斜面510の面積、奥行D、幅Wは、上記の例示に限定されない。例えば、傾斜角度αは、上述した6度~27度の範囲に限定されず、少なくとも0度よりも大きく且つ45度よりも小さければよい。
【0038】
図7Bに示すように、複数のブロック500の各々は、傾斜面510に設けられた複数の微小溝520を有する。複数の微小溝520は、互いに間隔を空けて第一方向と直交する第二方向に並び、且つ第一方向の上流側から下流側に向かって延びる。複数の微小溝520は、微小溝520の内部に比較的遅い空気の流れによる空気層を形成する機能を有する。その結果、微小溝520の上部付近を通過する空気は、微小溝520の内部に形成される空気層の表面をすべるように通過できる。つまり複数の微小溝520は、傾斜面510に沿って流れる空気と傾斜面510との接触面積を抑制することで、傾斜面510上の気流に与える接触抵抗を低減し、気流をスムーズに流すために設けられる。
【0039】
本例では、複数の微小溝520は、傾斜面510における第一方向の上流側端部511から下流側端部512まで延びる。複数の微小溝520のうちで互いに隣り合う二つの微小溝520の間には、第一方向に延びるレール状の凸部530が形成される。従って傾斜面510では、複数の凸部530と複数の微小溝520とが交互に並ぶ。傾斜面510に流れ込む空気は、複数の凸部530の上面に沿って第一方向に流れる。本例では、複数の微小溝520が互いに同じ形状であるため、一つの微小溝520について説明する。
【0040】
微小溝520の第二方向の長さは幅W1である。幅W1が小さいほど、微小溝520の内部に空気層を形成しやすくなる一方、微小溝520の正確な作製が困難になり、且つ空気と傾斜面510との接触面積が大きくなる。幅W1が大きいほど、微小溝520の正確な作製が容易となる一方、微小溝520の内部に空気層を形成しにくくなり、微小溝520の上部付近を通過する空気が流入しやすくなる。微小溝520の内部に空気が流入すると、空気と微小溝520との接触面積に応じた摩擦抵抗が発生する。かかる観点から、微小溝520の幅W1は0.5μm~600μmの範囲内であり、本例では2μm程度である。
【0041】
微小溝520の上下方向の長さは深さTである。深さTが小さいほど、微小溝520の正確な作製が容易になる一方、微小溝520の上部付近を通過する空気が微小溝520内に流入しやすくなる。深さTが大きいほど、微小溝520内の空気層が深くなって空気層を形成しやすくなる一方、深くなりすぎると空気層が深い位置に形成され、微小溝520の上部が抵抗になると共に、微小溝520の正確な作製が困難となる。更に、深さTが大きい場合、凸部530の横幅に対する高さが大きくなるため、凸部530の剛性が小さくなり撓み易くなるおそれがある。凸部530が撓むと、微小溝520内の空気層を崩すおそれがある。かかる観点から、微小溝520の深さTは0.5μm~300μmの範囲内であり、本例では2μm程度である。
【0042】
複数の微小溝520の形成間隔であるピッチPは、互いに隣り合う二つの微小溝520間の距離であり、凸部530の第一方向の長さに等しい。ピッチPが大きいほど、複数の微小溝520の正確な作製が容易になる一方、傾斜面510に形成可能な微小溝520の数量が減るため、傾斜面510上の気流に与える接触抵抗が大きくなる。ピッチPが小さいほど、傾斜面510に形成可能な微小溝520の数量が増えるため、傾斜面510上の気流に与える接触抵抗が小さくなる一方、複数の微小溝520の正確な作製が困難になる。かかる観点から、微小溝520のピッチPは1μm~800μmの範囲内であり、本例では4.8μm程度である。
【0043】
なお、微小溝520の数量、幅W1、深さT、ピッチPは、上記の例示に限定されず、上述した範囲とは異なる値でもよい。複数の微小溝520は、傾斜面510の全体に亘って第一方向に延びる態様に限定されず、上流側端部511と下流側端部512との間の一部において第一方向に延びてもよい。
【0044】
複数のブロック500の配置関係を説明する。
図8は、表面加工シート200を部分的に拡大した模式的な平面図である。
図9Aは、
図8に示す表面加工シート200の模式的な正面図である。
図9Bは、
図8に示す表面加工シート200の模式的な側面図である。
図8の例では、四つのブロック列501が第二方向に並び、且つ各ブロック列501では四つのブロック500が第一方向に並ぶ。
【0045】
複数のブロック500の各々において、傾斜面510の全体は、ブロック500の第一方向の上流側に露出する。具体的には、
図8及び
図9Bの例において、複数のブロック500のうちで第一方向に隣り合う二つのブロック500を、上流側ブロック500A、及び上流側ブロック500Aの下流側にある下流側ブロック500Bとする。上流側ブロック500Aの後面522から視て、下流側ブロック500Bの傾斜面510の全体が、他の部材に遮られることなく露出する。
【0046】
更に、傾斜面510の第一方向の下流側端部512は、ブロック500のうちで対象面からの距離が最も大きい。つまり、傾斜面510の下流側端部512は、ブロック500のうちで最も高い位置にある。
【0047】
また、下流側ブロック500Bにおける傾斜面510の第一方向の上流側端部511は、上流側ブロック500Aにおける第一方向の下流側端部512よりも、対象面からの距離が小さい。つまり、下流側ブロック500Bの上流側端部511は、上流側ブロック500Aの下流側端部512よりも低い位置にある。
【0048】
複数のブロック列501の各々では、複数のブロック500のうちで第一方向に隣り合う二つのブロック500の間に、第一方向と交差する方向に延びる溝状の隙間540が形成されている。
図8及び
図9Bの例では、各ブロック列501において前後に隣り合う二つのブロック500の間に、第二方向に延びる隙間540が形成されている。
【0049】
複数のブロック500のうちで第二方向に隣り合う二つのブロック500の間には、第二方向と交差する方向に延びる溝状の隙間550が形成されている。
図8及び
図9Aの例では、互いに隣り合う二つのブロック列501において、左側のブロック列501のブロック500と、右側のブロック列501のブロック500との間に、第一方向に延びる隙間550が形成されている。
【0050】
このように複数のブロック500では、第一方向に隣り合う二つのブロック500が隙間540を挟んで並び、且つ第二方向に隣り合う二つのブロック500が隙間550を挟んで並ぶ。このように複数のブロック500は互いに離隔しているため、例えば複数のブロック500を互いに繋がるように作製するよりも、複数のブロック500を基材202上に正確且つ容易に作製できる。
【0051】
図9Aに示すように、隙間550の第二方向の長さは幅W2である。隙間550は、第二方向に隣り合う二つのブロック500の間に空気層を形成する機能を有する。その結果、隙間550の上部付近を通過する空気は、隙間550に形成される空気層の表面をすべるように通過できる。つまり隙間550は、隙間550の上部付近を通過する空気と表面加工シート200との接触面積を抑制することで、隙間550上の気流に与える接触抵抗を低減し、気流をスムーズに流すために設けられる。
【0052】
幅W2が小さいほど、隙間550に空気層を形成しやすくなる一方、隙間550の正確な作製が困難になり、複数のブロック500を第二方向に並べて作製することが困難となる。幅W2が大きいほど、隙間550の正確な作製が容易となり、複数のブロック500を第二方向に並べて作製しやすい一方、隙間550に空気層を形成しにくくなり、隙間550の上部付近を通過する空気が流入しやすくなる。隙間550に空気が流入すると、空気と隙間550との接触面積に応じた摩擦抵抗が発生する。かかる観点から、隙間550の幅W2は10μm~600μmの範囲内であり、本例では20μm程度である。
【0053】
先述した複数の微小溝520の各々における第二方向の幅W1は、隙間550における第二方向の幅W2よりも小さい。ここで、表面加工シート200に流れ込む空気の流速は、例えばプロペラファン100の回転速度等によって異なる。微小溝520及び隙間550のような溝では、その溝に向かう空気の流速と溝の幅との関係が、その内部に空気層を効果的に形成できるか否かに影響する。溝の内部に空気層を効果的に形成できない場合、空気が溝の内部に流入して溝が空気の流れを妨げる抵抗となるおそれがある。
【0054】
例えば、表面加工シート200に流れ込む空気の流速幅を、低速域、中速域、高速域の三つに区分けしたとする。流れ込む空気の流速が低速域にある場合、相対的に幅が広い隙間550は、相対的に幅が狭い微小溝520よりも効果的に空気層を形成できる。流れ込む空気の流速が中速域にある場合、隙間550及び微小溝520は何れも効果的に空気層を形成できる。流れ込む空気の流速が高速域にある場合、微小溝520は隙間550よりも効果的に空気層を形成できる。つまり、表面加工シート200に流れ込む空気の流速が何れの速域にある場合でも、隙間550及び微小溝520の少なくとも一方によって効果的に空気層を形成できる。このような表面加工構造201によって、流れ込む空気の幅広い流速域に対して摩擦低減効果を発揮できる。
【0055】
低速域に効果的な隙間550のアスペクト比(深さHmaxに対する幅W2の大きさ)は、高速域に効果的な微細溝520のアスペクト比(深さTに対する幅W1の大きさ)よりも小さくてもよい。この場合、隙間550の表面積を、微細溝520の表面積に対して相対的に小さくすることができる。従って、高速域において隙間550に空気層が効果的に形成されない場合でも、隙間550の内部に流入する空気との接触面積を抑制して、隙間550が抵抗となってしまう場合の摩擦抵抗を抑制できる。
【0056】
本例では、複数のブロック500は、第一方向に連続して並ぶ複数の隙間550が形成されるように配置される。複数の隙間550は、第一方向に延びる一つの空気流路を構成する。具体的には、
図5及び
図8に示すように、複数のブロック500は基材202上で格子状に二次元配列されている。そのため、互いに隣り合う二つのブロック列501の間では、複数の隙間550が第一方向に連続して並んだ空気流路が形成される。この空気流路を流れる空気は、蛇行することなく第一方向へスムーズに流れる。
【0057】
図9Bに示すように、隙間540の第一方向の長さは幅W3である。後述するように、第一方向の上流側から表面加工シート200に流れ込む空気は、第一方向に並ぶ複数のブロック500の傾斜面510に沿って連続的に流れる。幅W3が大きいほど、複数のブロック500を第一方向に並べて作製しやすい。しかしながら、空気が上流側ブロック500Aの傾斜面510から下流側ブロック500Bの傾斜面510に流れる際に、その空気の一部が隙間540に流入して、気流の風量が落ちるおそれがある。
【0058】
一方、幅W3が小さいほど、複数のブロック500を作製する際に、互いに隣り合うブロック500が第一方向に繋がる可能性が高くなる。しかしながら、互いに隣り合うブロック500が第一方向に繋がっても、空気を第一方向に流す機能に大きな支障はない。かかる観点から、隙間540の幅W3は300μm以下の範囲内であり、本例では10μm程度である。
【0059】
表面加工シート200における空気の流れを説明する。先述したようにプロペラファン100が回転方向Aに回転すると、回転する翼120に対して相対的に移動する空気が、翼120の翼面上へ流れ込む。このとき空気は、回転方向Aの下流側にある前縁部121から、前面125及び背面126に流れ込む。以下、前面125における空気の流れを説明するが、背面126における空気の流れも同様である。
【0060】
図8に示すように、翼120の回転に伴って、表面加工シート200も回転方向Aに回転する。本例では、先述したように表面加工シート200の上方向は、翼120の正面方向に対して、第一方向の上流側である前側に傾斜している。従って、
図9Bに示すように、回転方向Aに回転する表面加工シート200は、その前側上方に向かって移動する。従って、前面125に流れ込む空気は、表面加工シート200に対して前側上方から近づくように相対的に移動する。
【0061】
この場合、空気が表面加工シート200において、以下のように第一方向の上流側から下流側に移動する。
図8に示すように、表面加工シート200において、表面加工シート200に向かう空気が、複数の主流ST1と複数の副流ST2とに分岐される。複数の主流ST1では、表面加工シート200に流れ込む空気の大部分が、平面視で表面加工シート200の大部分を占める複数のブロック500の上側を流れる。複数の副流ST2では、表面加工シート200に流れ込む空気の残りが、平面視で複数のブロック500の左右両側を流れる。したがって、表面加工シート200の上側では、主流ST1と副流ST2とが交互に繰り返して左右に並ぶように、流れ込んだ空気が第一方向に流れる。
【0062】
図8及び
図9Bに示すように、複数の主流ST1は、複数のブロック列501の夫々に対応して形成される気流である。複数の主流ST1の各々では、対応するブロック列501を構成する二以上のブロック500の傾斜面510に沿って、空気が第一方向の上流側から下流側に流れる。具体的には、空気は上流側ブロック500Aの傾斜面510に沿って流れる際、上流側端部511から下流側に移動するに連れて、翼120の前面125から上側に離れる。
【0063】
各ブロック500の傾斜面510には、先述した複数の微小溝520が設けられている。傾斜面510は、複数の微小溝520が設けられている分、その外表面の面積が小さい。傾斜面510の外表面積は、実質的に複数の凸部530の上面の総面積に等しい。複数の微小溝520は、先述したように幅W1が極めて狭いため、その内部に空気が進入しにくい空気層が形成される。従って、傾斜面510上を流れる空気は、実質的に傾斜面510の外表面のみと接触するため、傾斜面510と空気との接触面積が抑制される。傾斜面510上の気流に与える接触抵抗が低減されて、主流ST1の流速低下を抑制できる。
【0064】
更に空気は、上流側ブロック500Aの下流側端部512を超えて下流側に流れ、下流側ブロック500Bの傾斜面510上に移動する。本例では、下流側ブロック500Bの傾斜面510の全体が上流側ブロック500A側へ露出し、且つ下流側端部512が上流側ブロック500Aのうちで最も高い。上流側ブロック500A及び下流側ブロック500Bの上側を連続して流れる気流は、上流側ブロック500Aの下流側端部512と下流側ブロック500Bの上流側端部511との高低差に起因して、下流側ブロック500Bの上流側端部511の上側付近に気流渦Eを生じる。
【0065】
これにより、上流側ブロック500Aの傾斜面510を流れる主流ST1は、上流側ブロック500Aの下流側端部512を超えると、気流渦Eの上側を滑るように流れて、下流側ブロック500Bの傾斜面510に移動する。即ち気流渦Eは、主流ST1が上流側ブロック500Aと下流側ブロック500Bとの隙間540に流入することを抑制するため、主流ST1に与える接触抵抗を抑制できる。
【0066】
また本例では、下流側ブロック500Bの上流側端部511は、上流側ブロック500Aの下流側端部512よりも、対象面からの距離が小さい。従って、上流側ブロック500Aの下流側端部512から流れ出る空気は、下流側ブロック500Bの上流側端部511に干渉することなく、下流側ブロック500Bの傾斜面510に移動しやすい。更に、上流側ブロック500Aと下流側ブロック500Bとの隙間540が極めて狭いため、上流側ブロック500Aから下流側ブロック500Bに流れる空気が、隙間540に流入することが抑制される。
【0067】
各ブロック列501では、空気が上述した移動を繰り返すことで、第一方向に並ぶ二以上のブロック500の傾斜面510を跳ねるように連続して移動する。空気は各傾斜面510において、上流側端部511から下流側端部512まで移動するのではなく、上流側端部511よりも下流側の位置から下流側端部512まで移動する。これにより、各傾斜面510における空気の第一方向の移動距離が抑制されるため、傾斜面510上の気流に与える接触抵抗が更に低減される。
【0068】
このように各ブロック列501では、傾斜面510上の気流に与える接触抵抗が相対的に小さいため、主流ST1がスムーズに第一方向に流れる。主流ST1は、上流側ブロック500Aから下流側ブロック500Bに流れる際に、気流渦Eの影響で流速の低下が抑制される。複数の主流ST1は、第一方向から逸れることが抑制されつつ、スムーズに且つ安定して流れる。
【0069】
図8及び
図9Aに示すように、複数の副流ST2は、平面視で複数のブロック列501の間に形成される気流である。複数の副流ST2の各々では、第一方向に並ぶ複数の隙間550の上部付近で形成される空気流路に沿って、空気が第一方向の上流側から下流側に流れる。副流ST2は、その左右両側を流れる二つの主流ST1に挟まれている。先述したように、隙間550は微小溝520よりも幅広であり、また隙間550では気流渦Eが生じないため、副流ST2と主流ST1とに流速差が生じる。つまり、副流ST2とその左右両側の主流ST1とは互いに流速が異なるため、副流ST2が第一方向から逸れることが抑制される。
【0070】
以上のことから、表面加工シート200では、複数の主流ST1及び副流ST2によって空気が第一方向に流れると共に、スパン方向である第二方向に異なる流速の分布が生じる。つまり、表面加工シート200上における層流境界層内に、相対的な低速層及び高速層が交互に並ぶ流速の縞が形成される。表面加工シート200上で第一方向に流れる気流の運動量が、スパン方向で拡散される。これにより、表面加工シート200上に一様流が流れる場合と比較して、乱流領域の成長を遅らせることができる。
【0071】
以上説明したように、上述した表面加工構造201を有する表面加工シート200では、複数の主流ST1及び副流ST2が第一方向へスムーズに且つ安定して移動できる。プロペラファン100は、複数の翼120に表面加工シート200が設けられることで、その回転時の空気抵抗が抑制されてスムーズに回転できると共に、より高速な風を第一方向に向けて正確に送風できる。
【0072】
[備考]
本開示は上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態に夫々開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。更に、各実施形態に夫々開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0073】
上記実施形態では、扇風機1のプロペラファン100に表面加工シート200を設ける場合を例示したが、表面加工シート200は流体である気体又は液体に接触する対象物の表面に設けられればよい。例えば、表面加工シート200をエアコンの室外機ファンに設けることで、省電力且つ静音で効率的に送風できる。また、表面加工シート200を排水又は排気用のホースの内面に設けることで、ホース内を流れる流体をスムーズに且つ所望の方向に流すことができる。
【0074】
上記実施形態では、表面加工シート200を対象面に設置することで、表面加工構造201を対象物に容易且つ正確に設けられることを例示した。これに代えて、プロペラファン100のような対象物の表面に、表面加工構造201を直接形成してもよい。複数のブロック500の少なくとも一つは、傾斜面510に複数の微小溝520が形成されなくてもよい。
【0075】
表面加工構造201は、各種態様を適用できる。例えば複数のブロック500の形状や配置は、以下のように各種変形が可能である。
図10A~
図10Fは、夫々、第一~第六変形例に係る表面加工シート200の模式的な側面図である。
図11A~
図11Dは、夫々、第七~第十変形例に係る表面加工シート200の模式的な平面図である。
図12Aは、第十一変形例に係る表面加工シート200の模式的な平面図である。
図12Bは、第十一変形例に係る表面加工シート200の模式的な正面図である。
【0076】
図10Aの第一変形例が示すように、各ブロック列501において第一方向に並ぶ二以上のブロック500は、互いに繋がってもよい。
図10Bの第二変形例が示すように、複数のブロック500の各々は、側面視で三角形状となるように、上流側端部511が基材202上に設けられてもよい。
図10Cの第三変形例が示すように、各ブロック列501において第一方向に並ぶ二以上のブロック500は、側面視で第一方向に連なる山型でもよい。
【0077】
図10Dの第四変形例が示すように、複数のブロック500の各々は、基材202上から、第一方向に沿って斜め上方に延びる板状でもよい。
図10Eの第五変形例が示すように、複数のブロック500の各々は、基材202上において側面視で円弧状又は放物線状に隆起した形状でもよい。
図10Fの第六変形例が示すように、複数のブロック500の各々では、傾斜面510が側面視で円弧状又は放物線状に湾曲してもよい。
【0078】
なお、第三~第五変形例(
図10C~
図10E参照)では、ブロック500の前端にある上流側端部511から、ブロック500の上端にある下流側端部512まで延びる傾斜面又は湾曲面が、傾斜面510として機能する。この場合、下流側端部512からブロック500の後端まで延びる傾斜面又は湾曲面が、ブロック500の後面522をなす。
【0079】
図11Aの第七変形例が示すように、複数のブロック500は千鳥状に配置されてもよい。本例では、複数のブロック500は、複数のブロック行502を構成する。複数のブロック行502の各々は、第二方向に並んだ二以上のブロック500からなる。複数のブロック行502は、第一方向に並んで配置されている。第一方向に隣り合う二つの複数のブロック行502のうち、一のブロック行502は他のブロック行502に対して、ブロック500の半個分、第二方向にずれている。
【0080】
上記実施形態と同様に、複数のブロック500が有する複数の傾斜面510は、第一方向に延びる一つの線V上に並ぶ。具体的には、
図11Aに示すように、一のブロック500の左側部分又は右側部分を通る線Vは、平面視で全てのブロック行502において、各ブロック行502に含まれるブロック500の右側部分又は左側部分を通る。つまり、平面視で線Vは、全てのブロック行502においてブロック500の傾斜面510を通る。
【0081】
表面加工シート200に向かう空気は、以下のように複数の主流ST1と複数の副流ST2とに分岐される。各ブロック500の左側部分又は右側部分に向かう空気は、夫々対応する線Vに沿って第一方向に流れる。このとき、空気が複数の傾斜面510に沿って連続して流れることで、複数の主流ST1を形成する。一方、それ以外の空気は、傾斜面510の中央部分と隙間550とを交互に経由して第一方向に流れる。先述したように、隙間550は微小溝520よりも幅広であり、また隙間550では気流渦Eが生じないため、主流ST1とは流速が異なる複数の副流ST2が形成される。
【0082】
第七変形例(
図11A参照)でも、上記実施形態と同様に、複数の主流ST1と複数の副流ST2とが第二方向に交互に並ぶため、表面加工シート200上で第一方向に流れる気流の運動量がスパン方向で拡散される。従って、複数の主流ST1及び副流ST2が第一方向へスムーズに且つ安定して移動できると共に、より高速な風を第一方向に向けて正確に送風できる。
【0083】
図11Bの第八変形例が示すように、複数のブロック500は、複数パターンの異なる形状であってもよいし、ランダムに配置してもよい。この場合、表面加工シート200では、第二方向の位置に応じて、線Vが通るブロック500の数量や範囲が異なる。空気が線Vに沿って流れる場合に、その線Vが通るブロック500の数量や範囲が大きいと、その空気がスムーズに流れることで主流ST1が形成される。一方、空気が線Vに沿って流れる場合に、その線Vが通るブロック500の数量や範囲が小さいと、主流ST1とは流速が異なる副流ST2が形成される。
【0084】
上記のように、複数のブロック500の形状パターンが異なったり、複数のブロック500をランダムに配置したりすると、複数の主流ST1と複数の副流ST2とが形成されると共に、主流ST1及び副流ST2の形成位置が第二方向にばらつく。従って、第八変形例(
図11B参照)でも、上記実施形態と同様に、複数の主流ST1及び副流ST2が第一方向へスムーズに且つ安定して移動できると共に、より高速な風を第一方向に向けて正確に送風できる。
【0085】
図11Cの第九変形例が示すように、第二方向に長い複数のブロック500が、第一方向に並ぶ一つのブロック列501を形成してもよい。この場合、表面加工シート200に向かう空気が、ブロック列501を構成する複数のブロック500の傾斜面510に沿って連続して流れることで、全体として主流ST1を形成する、従って、第九変形例(
図11C参照)でも、上記実施形態と同様に、より高速な風を第一方向に向けて正確に送風できる。
【0086】
図11Dの第十変形例が示すように、各ブロック列501を構成する二以上のブロック500が並ぶ第一方向は、曲線状に延びてもよい。つまり、各ブロック列501では、二以上のブロック500が、平面視で曲線状に連続して並んでもよい。この場合、各ブロック500は、その前側が第一方向の上流側を向き、その後側が第一方向の下流側を向くように配置されればよい。これにより、各ブロック500では、傾斜面510が第一方向に向かって上側に傾くように延び、且つ複数の微小溝520が実質的に第一方向と平行に且つ直線状に延びる。
【0087】
第十変形例(
図11D参照)でも、表面加工シート200に向かう空気は、複数の主流ST1と複数の副流ST2とに分岐されて第一方向に流れるため、上記実施形態と同様の作用を奏する。本例では、第一方向が曲線状であることに対応して、複数の主流ST1及び複数の副流ST2も曲線状に流れる。このように、表面加工構造201が空気を一定方向に流す機能を利用することで、所望の方向へ容易に送風できる。
【0088】
図12Aの第十一変形例が示すように、複数のブロック500の各々は平面視で菱形状でもよく、これらの菱形状のブロック500を格子状に配置してもよい。互いに隣り合う二つのブロック500の間には、第一方向及び第二方向に対して傾斜して延びる隙間560が形成される。
【0089】
この場合、表面加工シート200では、第二方向の位置に応じて、線Vが通るブロック500の数量が異なる。空気が線Vに沿って流れる場合に、その線Vがブロック500の左側部分又は右側部分を通ったほうが、その線Vがブロック500の中央部分を通るよりも、その空気が通るブロック500の数が多くなる。
【0090】
ここで、空気が一定距離を流れる場合、その空気が経由するブロック500の数が多いほど、以下の理由により空気の流速が大きくなる。空気が流れる一定距離におけるブロック500の数が多いほど、その一定距離内にある隙間560の数が多くなる。空気が隙間560を流れる際、その空気に接触抵抗が生じにくい。つまり隙間560を流れる空気は、その流速を低下させることなく移動しやすい。
【0091】
第十一変形例(
図12A参照)では、ブロック500の左側部分又は右側部分を流れる空気によって複数の主流ST1が形成され、ブロック500の中央部分を流れる空気によって複数の副流ST2が形成される。上記実施形態と同様に、複数の主流ST1と複数の副流ST2とが第二方向に交互に並ぶ。そのため、複数の主流ST1及び副流ST2が第一方向へスムーズに且つ安定して移動できると共に、より高速な風を第一方向に向けて正確に送風できる。
【0092】
図12Bに示すように、ブロック500の傾斜面510では、複数の微小溝520が、正面視で下方に湾曲するように延び、且つ下方に向かって幅が狭くなる形状でもよい。複数の凸部530は、正面視で上方に湾曲するように延び、且つ上方に向かって幅が狭くなる形状でもよい。複数の凸部530は、第二方向の中心に近いほど、上方への突出高さが大きくてもよい。複数の凸部530の各々は、第一方向の下流側に向かって高さが大きくなる形状であればよい。このように傾斜面510を構成しても、上記実施形態と同様の傾斜面510と同様の機能を発揮できる。
【0093】
図12Bの例では、複数の凸部530の頂部は、表面粗さが相対的に小さい。複数の微小溝520の底部は、表面粗さが相対的に大きい。これにより、傾斜面510に流れ込む空気が、凸部530上を流れやすくすると共に、微小溝520内を流れにくくすることができる。なお、上記実施形態及び他の変形例も同様に、凸部530の表面粗さを相対的に小さくしてもよいし、微小溝520の表面粗さを相対的に大きくしてもよい。
【0094】
なお、上記実施形態では、微小溝520がブロック500の傾斜面510に設けられた場合を例示した。これに代えて、ブロック500は傾斜面510を有していなくてもよい。微小溝520は、ブロック500に設けられなくてもよい。例えば、表面加工構造201は、第二方向に並ぶ複数の第一の溝と、第一の溝と平行に延び、第一の溝より狭く、且つ第一の溝より浅い第二の溝とを備えてもよい。隣り合う第一の溝の間に、複数の第二の溝が整列してもよい。この場合、上記実施形態と同様に、第一の溝が隙間550と同様に機能し、且つ第二の溝が微小溝520と同様に機能するため、流れ込む空気の幅広い流速域に対して摩擦低減効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0095】
100 プロペラファン、110 回転軸部、120 翼、200 表面加工シート、201 表面加工構造、202 基材、500 ブロック、510 傾斜面、520 微小溝、511 上流側端部、512 下流側端部、550 隙間
【手続補正書】
【提出日】2021-09-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面である対象面上に配置された立体物であり、前記対象面と平行な第一方向に並ぶ複数のブロックを備え、
前記複数のブロックの各々は、前記第一方向の上流側から下流側に向かって、前記対象面からの距離が漸増するように延びる傾斜面を有し、
前記複数のブロックが有する複数の前記傾斜面は、前記第一方向に延びる一つの線上に並び、
前記複数のブロックの各々は、前記傾斜面に設けられた複数の微小溝を有し、
前記複数の微小溝は、互いに間隔を空けて前記第一方向と直交する第二方向に並び、且つ前記第一方向の上流側から下流側に向かって延び、
前記複数の微小溝は、前記傾斜面における前記第一方向の上流側端部から下流側端部まで同じ深さで延びる、
表面加工構造。
【請求項2】
前記傾斜面の全体は、前記ブロックの前記第一方向の上流側に露出し、
前記傾斜面の前記第一方向の下流側端部は、前記ブロックのうちで前記対象面からの距離が最も大きい、
請求項1に記載の表面加工構造。
【請求項3】
前記複数のブロックのうちで前記第一方向に隣り合う二つのブロックは、上流側ブロック、及び前記上流側ブロックの下流側にある下流側ブロックであり、
前記下流側ブロックにおける前記傾斜面の前記第一方向の上流側端部は、前記上流側ブロックにおける前記第一方向の下流側端部よりも、前記対象面からの距離が小さい、
請求項1又は2に記載の表面加工構造。
【請求項4】
前記複数のブロックは、前記第一方向と前記第二方向とに並んで二次元配列され、
前記複数のブロックのうちで前記第二方向に隣り合う二つのブロックの間には、前記第一方向に延びる溝状の隙間が形成され、
前記複数の微小溝の各々における前記第二方向の幅は、前記隙間における前記第二方向の幅よりも小さく、
前記複数のブロックは、前記隙間が前記第一方向に延びる一つの流体流路を構成するように配置され、
前記傾斜面に設けられた前記複数の微小溝と、前記流体流路とが、前記第二方向に沿って交互に並ぶように配置される、
請求項1から3の何れかに記載の表面加工構造。
【請求項5】
前記隙間の深さに対する幅の大きさを示すアスペクト比は、前記微小溝の深さに対する幅の大きさを示すアスペクト比よりも小さく、
前記幅は前記第二方向の長さであり、且つ前記深さは前記第一方向及び前記第二方向と直交な第三方向の長さである、
請求項4に記載の表面加工構造。
【請求項6】
対象物の表面である対象面上に配置された立体物であり、前記対象面と平行な第一方向と前記第一方向に直交する第二方向とに並ぶ複数のブロックを備え、
前記複数のブロックの各々は、前記第一方向の上流側から下流側に向かって、前記対象面からの距離が漸増するように延びる傾斜面を有し、
前記複数のブロックが有する複数の前記傾斜面は、前記第一方向に延びる一つの線上に並び、
前記複数のブロックの各々は、前記傾斜面に設けられた複数の微小溝を有し、
前記複数の微小溝は、互いに間隔を空けて前記第二方向に並び、且つ前記第一方向の上流側から下流側に向かって延び、
前記複数のブロックのうちで前記第二方向に隣り合う二つのブロックの間には、前記第一方向に延びる溝状の隙間が形成され、
前記複数の微小溝の各々における前記第二方向の幅は、前記隙間における前記第二方向の幅よりも小さく、
前記複数のブロックは、前記隙間が前記第一方向に延びる一つの流体流路を構成するように配置され、
前記傾斜面に設けられた前記複数の微小溝と、前記流体流路とが、前記第二方向に沿って交互に並ぶように配置される、
表面加工構造。
【請求項7】
前記隙間の深さに対する幅の大きさを示すアスペクト比は、前記微小溝の深さに対する幅の大きさを示すアスペクト比よりも小さく、
前記幅は前記第二方向の長さであり、且つ前記深さは前記第一方向及び前記第二方向と直交な第三方向の長さである、
請求項6に記載の表面加工構造。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の表面加工構造が、前記対象面上に設置可能な基材に設けられた表面加工シート。
【請求項9】
回転軸部と、前記回転軸部から外方に延びる翼とを備え、
請求項1から8の何れかに記載の表面加工構造は、前記翼の表面上に設けられ、
前記第一方向は、前記翼の前縁側から後縁側に向かう方向である、
プロペラファン。