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特開2022-164194温度監視システム及び電池監視システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164194
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】温度監視システム及び電池監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/36 20060101AFI20221020BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
G01K7/36 A
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069530
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100124028
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 公雄
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】鄭 暁光
(72)【発明者】
【氏名】薗田 不二夫
(72)【発明者】
【氏名】小松 裕
【テーマコード(参考)】
2F056
5H030
【Fターム(参考)】
2F056SA07
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF51
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】温度異常を検出するための配線数の増大を抑制し、対象物における温度異常の発生を速やかに検出できる温度監視システム及び電池監視システムを提供する。
【解決手段】温度監視システムは、2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて対象物の温度異常を検出する検出部とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、
前記2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて対象物の温度異常を検出する検出部とを含む、温度監視システム。
【請求項2】
前記検出部は、前記2本の導電線に交流信号を出力した状態で、前記インピーダンスを測定する測定部を含む、請求項1に記載の温度監視システム。
【請求項3】
前記検出部は、前記測定部により測定された前記インピーダンスと所定のしきい値とを比較することにより前記温度異常の検出の有無を判定する判定部をさらに含み、
前記判定部は、前記測定部により測定された前記インピーダンスが前記しきい値以下であることを受けて、前記温度異常を検出したと判定する、請求項2に記載の温度監視システム。
【請求項4】
前記交流信号は、正弦波である、請求項2又は請求項3に記載の温度監視システム。
【請求項5】
前記検出部により前記温度異常が検出されたことを受けて、前記温度異常を通知する通知部をさらに含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の温度監視システム。
【請求項6】
前記複数のインダクタ素子の各々は、前記温度異常と判定されるときの前記対象物の温度よりも低いキュリー温度を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の温度監視システム。
【請求項7】
前記複数のインダクタ素子の各々は、当該インダクタ素子のインダクタンス成分を生成する磁性部材及び導電性部材を含み、
前記磁性部材は、前記キュリー温度を有する、請求項6に記載の温度監視システム。
【請求項8】
前記キュリー温度は、70℃以上120℃以下の範囲にある、請求項6又は請求項7に記載の温度監視システム。
【請求項9】
前記キュリー温度は、80℃以上100℃以下の範囲にある、請求項8に記載の温度監視システム。
【請求項10】
前記複数のインダクタ素子の各々は、面実装素子であり、
前記2本の導電線の各々は、薄膜状であり、
前記2本の導電線と前記複数のインダクタ素子とはFPCの形態に形成される、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の温度監視システム。
【請求項11】
前記複数のインダクタ素子の各々は、Mn-Zn系フェライト又はNi-Zn系フェライトを含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の温度監視システム。
【請求項12】
2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、
前記2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて、複数の電池セルのうちのいずれかの温度異常を検出する検出部とを含み、
前記複数のインダクタ素子の各々は、前記複数の電池セルのうちの、対応する1つの電池セルからの発熱が当該インダクタ素子に伝達されるように配置される、電池監視システム。
【請求項13】
前記複数の電池セルにより構成される電池ユニットをさらに含む、請求項12に記載の電池監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温度監視システム及び電池監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラグインハイブリッド車(以下、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)という)又は電気自動車(以下、EV(Electric Vehicle)という)は二次電池(リチウムイオン電池等)を搭載している。複数の電池セル(二次電池)は直列接続されて電池モジュールを構成し、モータ等の駆動機構及び照明等の電装装置への電力を供給する。
【0003】
下記特許文献1には、複数の電池モジュールの各々に2つの温度センサを配置し、各電池モジュールを構成する電池セルの加熱状況を監視するように構成された電池モジュールが開示されている。また、下記特許文献2には、単電池(電池セル)を複数直列接続した組電池(電池パック)において、複数の単電池の中の一部に温度センサを配置し、単電池の温度が異常に上昇したことを早期に検出する電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-127324号公報
【特許文献2】特開2020-145060号公報
【特許文献3】国際公開第2016/104593号
【特許文献4】特開2001-33317号公報
【特許文献5】国際公開第2009/088062号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても、温度センサの総数は電池セルの総数よりも少ないため、個々の電池セルの温度を直接監視できない。したがって、センサが配置されていない電池セルの温度が上昇した場合に、それを検出するのに時間がかかる問題がある。図1を参照して、具体的に説明する。温度センサが配置された電池セルから離隔した電池セルの温度が破線で示すように上昇し、時刻t1において、異常温度(通常の温度範囲を逸脱した高い温度)と判定するしきい値Tthを超えた場合を考える。この電池セルによる発熱は、その周囲の電池セルを介して温度センサに伝達される。温度センサにより検出される温度は、実線で示すように上昇する。時刻t1においては、温度センサの検出温度はしきい値Tthよりも低いので、発生した温度異常は検出されない。温度センサの検出温度が、時刻t2においてしきい値Tthを超えると、温度異常が検出される。
【0006】
このように、実際に電池セルにおいて温度異常が発生した時刻t1においては、温度センサまで熱が伝達されておらず、温度異常は検出できない。温度異常の発生時刻t1から温度センサによる検出時刻t2まで、遅延時間Δt(=t2-t1)がある。その間に、異常温度になった電池セルの温度は、しきい値Tthを超えた高温になる。
【0007】
各電池セルの温度を監視するためには、例えば図2に示すように、電池セル900a~900nの各々に、サーミスタ、熱電対又は白金温度計等の温度センサ902a~902nを配置することが考えられる。しかし、温度センサ902a~902nの各々と、温度センサにより電池セルの温度を検出する検出部904とを個別に結ぶ配線が必要となり、配線の本数が非常に多くなり、配線群906のために大きい空間が必要となる問題がある。また、費用が高くなり、現実的な解決策にはならない。
【0008】
したがって、本開示は、温度異常を検出するための配線数の増大を抑制し、対象物における温度異常の発生を速やかに検出できる温度監視システム及び電池監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある局面に係る温度監視システムは、2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて対象物の温度異常を検出する検出部とを含む。
【0010】
本開示の別の局面に係る電池監視システムは、2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて、複数の電池セルのうちのいずれかの温度異常を検出する検出部とを含み、複数のインダクタ素子の各々は、複数の電池セルのうちの、対応する1つの電池セルからの発熱が当該インダクタ素子に伝達されるように配置される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、温度異常を検出するための配線数の増大を抑制し、対象物における温度異常の発生を速やかに検出できる温度監視システム及び電池監視システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、従来の温度監視システムにおける温度異常が発生した電池セルの温度変化(破線)と温度センサの温度変化(実線)とを示すグラフである。
図2図2は、温度監視システムとして考えられる構成例を示すブロック図である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る温度監視システムの構成を示すブロック図である。
図4図4は、図3に示した温度監視システムの回路構成を示す図である。
図5図5は、図3に示した温度監視システムにおいて使用されるインダクタ素子の構成例を示す正面図である。
図6図6は、図3に示した構成において、1つの電池セルが異常温度になった状態の等価回路を示す回路図である。
図7図7は、図3に示した温度監視システム及び電池モジュールを搭載した車両を示すブロック図である。
図8図8は、図3に示した温度監視システムの動作を示すフローチャートである。
図9図9は、変形例に係る温度監視システムの構成を示すブロック図である。
図10図10は、図9に示した温度監視システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の実施形態の内容を列記して説明する。以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組合せてもよい。
【0014】
(1)本開示の第1の局面に係る温度監視システムは、2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて対象物の温度異常を検出する検出部とを含む。これにより、対象物における温度異常を検出するための配線数の増大を抑制し、温度異常の発生を速やかに検出できる。
【0015】
(2)好ましくは、検出部は、2本の導電線に交流信号を出力した状態で、インピーダンスを測定する測定部を含む。これにより、温度異常を容易に検出できる。即ち、交流信号を用いてインピーダンスを測定することにより、温度異常の発生の前後における大きい変化を観測できるので、温度異常の発生の検出が容易である。
【0016】
(3)より好ましくは、検出部は、測定部により測定されたインピーダンスと所定のしきい値とを比較することにより温度異常の検出の有無を判定する判定部をさらに含み、判定部は、測定部により測定されたインピーダンスがしきい値以下であることを受けて、温度異常を検出したと判定する。これにより、温度異常を容易に検出できる。
【0017】
(4)さらに好ましくは、交流信号は、正弦波である。これにより、インピーダンスを精度よく、安定して測定できる。
【0018】
(5)好ましくは、温度監視システムは、検出部により温度異常が検出されたことを受けて、温度異常を通知する通知部をさらに含む。これにより、温度異常が発生したことを知らせることができるので、人は速やかに退避等の行動を取ることができる。
【0019】
(6)より好ましくは、複数のインダクタ素子の各々は、温度異常と判定されるときの対象物の温度よりも低いキュリー温度を有する。これにより、異常発熱した対象物に配置されたインダクタ素子のインピーダンスを急激に減少させることができ、並列接続されたインダクタ素子全体のインピーダンスを急激に減少させることができる。したがって、対象物において温度異常が発生したことを確実且つ速やかに検出できる。
【0020】
(7)さらに好ましくは、複数のインダクタ素子の各々は、当該インダクタ素子のインダクタンス成分を生成する磁性部材及び導電性部材を含み、磁性部材は、キュリー温度を有する。これにより、対象物において温度異常が発生したことを確実且つ速やかに検出できる。
【0021】
(8)好ましくは、キュリー温度は、70℃以上120℃以下の範囲にある。これにより、温度異常が発生したことを確実且つ速やかに検出できる。
【0022】
(9)より好ましくは、キュリー温度は、80℃以上100℃以下の範囲にある。これにより、温度異常が発生したことをより確実且つ速やかに検出できる。
【0023】
(10)さらに好ましくは、複数のインダクタ素子の各々は、面実装素子であり、2本の導電線の各々は、薄膜状であり、2本の導電線と複数のインダクタ素子とはFPC(Flexible Printed Circuits)の形態に形成される。これにより、インダクタ素子を対象物に容易に配置できる。また、狭い空間にも配置できるので、車載電池に容易に適用できる。
【0024】
(11)好ましくは、複数のインダクタ素子の各々は、Mn-Zn系フェライト又はNi-Zn系フェライトを含む。これにより、温度異常の検出に適したインダクタ素子を生成できる。また、インダクタ素子を小型化でき、配置するための空間を低減できる。
【0025】
(12)本開示の第2の局面に係る電池監視システムは、2本の導電線の間に互いに並列接続された複数のインダクタ素子と、2本の導電線間のインピーダンスの変化に基づいて、複数の電池セルのうちのいずれかの温度異常を検出する検出部とを含み、複数のインダクタ素子の各々は、複数の電池セルのうちの、対応する1つの電池セルからの発熱が当該インダクタ素子に伝達されるように配置される。これにより、複数の電池セルの温度異常を検出するための配線数の増大を抑制し、温度異常の発生を速やかに検出できる。
【0026】
(13)好ましくは、電池監視システムは、複数の電池セルにより構成される電池ユニットをさらに含む。これにより、電池ユニットの温度異常を検出できる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下の実施形態においては、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0028】
(実施形態)
(構成)
図3を参照して本開示の実施形態に係る温度監視システム100は、複数のインダクタ素子102a~102nと、検出部104と、第1導電線106と、第2導電線108とを含む。インダクタ素子102a~102nは相互に並列接続され、第1導電線106及び第2導電線108の間に接続されている。インダクタ素子102a~102nの各々は、電池モジュール200を構成する電池セル200a~200nのうちの対応する電池セルに、直接又は所定の部材を介して、当接するように配置されている。したがって、電池セル200a~200nの各々による発熱は、対応するインダクタ素子102a~102nに伝達される。温度監視システム100及びその監視対象である電池モジュール200は、電池監視システムを構成する。
【0029】
電池セル200a~200nは、例えば、後述するように、PHEV又はEV等に車載される二次電池であり、例えば約200個の電池セルが相互に直列接続される。a~nの文字は電池セルを区別するために便宜上付したものであり、インダクタ素子の数を表すものではない。
【0030】
第1導電線106及び第2導電線108は、検出部104に接続されている。検出部104は、第1導電線106及び第2導電線108に交流信号sを供給し、第1導電線106及び第2導電線108間のインピーダンスを測定する。検出部104は、インピーダンス測定装置(LCRメータ、インピーダンスアナライザ等)として機能する。
【0031】
図4を参照して、検出部104は、測定部110及び判定部112を含む。測定部110は、判定部112からの指示を受けて、インピーダンスを測定する。測定部110は、例えば発振回路、電流測定回路及び電圧測定回路を含む。測定部110は、例えば、周波数fが一定の正弦波の交流信号sを第1導電線106及び第2導電線108に供給した状態で、第1導電線106及び第2導電線108間の電圧Vと、第1導電線106及び第2導電線108を流れる電流Iとを測定する。測定部110は、位相情報を含む測定値V及びIからZ=V/IによりインピーダンスZ(複素インピーダンス)を算出し、その絶対値|Z|を算出する。測定信号に周波数が一定の正弦波を用いることにより、インピーダンスを精度よく、安定して測定できる。特に断らない限りインピーダンスとは、複素インピーダンスZの絶対値|Z|を意味することとする。
【0032】
測定部110は、算出したインピーダンス|Z|を表す信号(例えば、デジタル値)を出力する。測定部110から出力されたインピーダンス|Z|は判定部112に入力される。判定部112は、入力されるインピーダンス|Z|を、所定のしきい値Zth(正の値)と比較し、判定結果を表す信号(例えば、デジタル値)を出力する。具体的には、判定部112は、入力されるインピーダンス|Z|がしきい値Zth以下であるか否かを判定し、しきい値Zth以下(|Z|≦Zth)であれば、温度異常の発生を表すデータ(例えば“1”)を判定結果として出力する。後述するように、いずれかの電池セルが異常温度になれば、並列接続されたインダクタ素子全体のインピーダンスは急激に減少し、しきい値Zth以下になる。判定部112は、インピーダンス|Z|がしきい値Zthよりも大きければ(|Z|>Zth)、正常状態(温度異常が発生していない状態)であることを表すデータ(例えば“0”)を判定結果として出力する。
【0033】
しきい値Zthは、例えば、実測により決定できる。即ち、所定の周波数fで、第1導電線106及び第2導電線108間のインピーダンスを、電池モジュール200の正常状態と、1つの電池セルが異常温度になった状態とにおいて実測し、それら2つの実測値の間の任意の値(例えば中間値)をしきい値Zthにできる。なお、測定誤差を考慮すれば、しきい値Zthを決定するための2つの実測値の各々は、複数回の測定値から決定された値(例えば、平均値、中間値等)であることが好ましい。
【0034】
判定部112から出力される判定結果は、電池モジュール200の状態を通知するために利用される。例えば、判定部112の判定結果は、液晶ディスプレイ等の表示装置に入力される。表示装置に温度異常の発生を表すデータが入力されると、表示装置は、温度異常を表す文字情報(メッセージ等)を提示する。判定部112の判定結果は、スピーカ等の音響装置に入力されてもよい。音響装置は、温度異常の発生を表すデータが入力されると、温度異常を表す音情報(音声アナウンス等)を提示する。表示装置及び音響装置は、温度監視システム100に含まれても、温度監視システム100の外部に配置されてもよい。
【0035】
インダクタ素子102a~102nの各々は、図4に回路記号で示したように、コア(磁心)を有するインダクタ素子である。インダクタ素子102a~102nの各々は、例えば図5に示すように、コアである断面H型の磁性部材114と、磁性部材114に巻回された導電部材116とを含む。
【0036】
磁性部材114には、例えば、酸化鉄(Fe)を主成分とする一般式(MO)(Fe(x+y=100(mol%)、MはCu、Zn、Mn、Mg、Ni又はLi等の金属元素)で表される複合酸化物であるフェライトを使用できる。磁性部材114は、一般式MFeで表される軟磁性のフェライト(ソフトフェライト)により形成されることが好ましい。具体的には、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト、又は、Mn-Cu-Zn系フェライト等を使用できる。インダクタ素子のインダクタンスは、導電部材116により形成されるコイルと磁性部材114の比透磁率とに依存する。磁性部材114の比透磁率μが大きいほどインダクタンスLは大きく、コイルの巻き数Nが大きいほどインダクタンスは大きくなる(L∝μ・N)。フェライトは、例えば数百以上の比透磁率を有する。
【0037】
交流信号sには、インダクタ素子102a~102n、第1導電線106及び第2導電線108により構成される回路の共鳴周波数よりも低い周波数fの信号を用いる。また、インダクタ素子102a~102nの各々の容量成分は、交流信号sの周波数fにおいてインピーダンスへの寄与は小さく、インダクタ素子102a~102nの各々のインピーダンス(複素数)は主としてインダクタンスL及び抵抗r(i=a~n)により表されるとする。そのとき、並列接続されたインダクタ素子102a~102n全体の複素インピーダンスZは式1により算出される。ω=2πfであり、Σはiに関する和の演算子であり、jは虚数単位(j=-1)である。
Z=(Σ(r+jωL-1-1 ・・・(式1)
【0038】
さらに、インダクタ素子102a~102nのインダクタンスL及び周波数fが、ωL>>r(ωLがrよりも十分に大きい(例えば10倍以上))の条件を満たしていれば、複素インピーダンスZは式2により算出できる。
Z=(Σ(jωL-1-1 ・・・(式2)
【0039】
電池セル200a~200nの少なくとも1つが異常発熱し、その状態が続くと、発熱は、対応するインダクタ素子に伝達され、そのインダクタ素子は高温になる。そのインダクタ素子(以下、高温インダクタ素子という)を構成するコアの温度は上昇し、そのコアのキュリー温度に近づき、やがてキュリー温度を超える。コアの温度がキュリー温度に近づくと、コアの比透磁率は急激に減少し、高温インダクタ素子のインダクタンスは急激に減少する。コアの温度がキュリー温度以上になると、コアは常磁性(比透磁率=1)になり、高温インダクタ素子のインダクタンスは、コアがない状態と同じ値(インダクタ素子を構成する電導線によるインダクタンス)になる。それに対して、高温インダクタ素子以外のインダクタ素子のコアの比透磁率は、通常の値(例えば数百以上)である。したがって、式2で表される複素インピーダンスZへの各インダクタ素子の寄与((jωL-1)は、高温インダクタ素子が最も大きくなり、インピーダンス|Z|は、高温インダクタ素子(コアが常磁性状態)のインピーダンスに近い値になる。
【0040】
即ち、電池セル200a~200nの少なくとも1つが異常発熱し、その状態が続くと、測定されるインピーダンスは、電池セル200a~200nのいずれにも温度異常が発生していない状態のインピーダンスと比較して、非常に小さい値になる。したがって、予めしきい値Zthを定めておき、上記したように、測定されたインピーダンスとしきい値Zthとを比較することにより、電池セル200a~200nのいずれかに温度異常が発生したか否かを判定できる。
【0041】
電池セル(例えば二次電池)の温度異常を検出するには、インダクタ素子102a~102nの各々のコアのキュリー温度は、電池セルが正常状態であると判定されるときの電池セルの温度よりも高く、電池セルが温度異常と判定されるときの電池セルの温度よりも低い温度であればよい。例えば、インダクタ素子102a~102nの各々のコアのキュリー温度は、70℃以上120℃以下の範囲であることが好ましい。このようなキュリー温度を有するコアを用いてインダクタ素子を形成することにより、電池セルの温度異常を精度よく速やかに検出できる。インダクタ素子102a~102nの各々のコアのキュリー温度は、80℃以上100℃以下の範囲であることがより好ましい。このようなキュリー温度を有するコアを用いてインダクタ素子を形成することにより、電池セルの温度異常をより精度よく速やかに検出できる。
【0042】
電子回路等に使用される通常のインダクタ素子に使用されるコアは、熱によるインダクタンスへの影響を抑制するために、キュリー温度が比較的高く設定されている(例えば、百数十℃以上)。しかし、コアを構成する材料の組成比の調整、添加物の混入、熱処理等により、コアのキュリー温度を、より低い温度(例えば、上記した80℃、70℃等)に調整できる。例えば、フェライトのキュリー温度Tc(℃)は、Tc=12.8×(x-(2/3)×z)-358(x及びzはそれぞれFe及びZnOのmol%)により算出される(特許文献3参照)。また、キュリー温度を任意に設定できる磁性材料(感温磁性体)が知られている。例えば、感温磁性体としてNi-Zn系フェライト等を用い、組成比を変更する、添加物を混入する等により、キュリー温度を44℃又は60℃に調整できる(特許文献4参照)。また、感温磁性体としてFe、CuO、ZnO及びMgOを含む磁性材料(フェライト)を用いて、組成比(mol%)を、Fe:CuO:ZnO:MgO=49:7:30:14とすることにより、キュリー温度を43℃に調整できる(特許文献5参照)。
【0043】
電池セルの異常発熱を、インダクタ素子のインダクタンスの低下として検出するには、電池セルの発熱がインダクタ素子に(特にコアに)速やかに伝達されるように、インダクタ素子が電池セルに対して配置されていることが好ましい。そのためには、インダクタ素子102a~102nは、対応する電池セル200a~200nに直接、又は、熱導電性の良好な部材を介して当接されることが好ましい。
【0044】
温度異常及びインダクタンスの変化に関して、より具体的に説明する。インダクタ素子102bが配置された電池セル200bが異常温度になり、インダクタ素子102bのコアの温度がキュリー温度以上になった状態の等価回路を図6に示す。便宜上、正常状態において、インダクタ素子102a~102nのインダクタンスは同じ値Lであり、インダクタ素子102a~102nの抵抗(直流)も同じ値rであるとして、図6の等価回路を示している。「同じ」とは、差が所定範囲内(例えば10%以内)であることを意味する。
【0045】
電池セル200bが異常温度になった状態においては、インダクタ素子102bのコアは常磁性になっておりインダクタ素子102bのインダクタンスは、インダクタ素子102a及び102c~102nのインダクタンスよりも非常に小さい値になっている。したがって、図6においては便宜上、インダクタ素子102bのインダクタンスを図示していないが、ゼロではない。検出部104により、インダクタンスL及び抵抗rの関係がωL>>rとなるような周波数f(ω=2πf)を用いて、インピーダンスが測定される場合、検出部104により測定されるインピーダンス|Z|(式1参照)は、図6に示した状態においては、インダクタ素子の抵抗rに近い値になる(但し|Z|<r)。したがって、抵抗r、又は、抵抗rよりも少し大きい値を、しきい値Zthとして用いることができる。
【0046】
例えば、L=1(μH)、r=0.02(Ω)の面実装インダクタ素子を使用する場合を考える。周波数f=1(MHz)でインピーダンスを測定するときには、正常状態におけるインピーダンスへの寄与は、インダクタンス成分(ωL=2π(Ω))の方が抵抗成分(r=0.02(Ω))よりも2桁以上大きい。なお、単位は、[H]=[Ω]・[秒]により換算される。より小さい周波数fを使用すれば、正常状態におけるインピーダンスへのインダクタンス成分及び抵抗成分の寄与は同程度になる。例えば、周波数f=1(kHz)でインピーダンスを測定するときには、正常状態におけるインピーダンスへの寄与は、抵抗成分(r=2×10-2(Ω))の方がインダクタンス成分(ωL=2π×10-3(Ω))よりも大きくなる。したがって、使用するインダクタ素子のインダクタンスL及び抵抗rに応じて、インピーダンスへの寄与に関して、インダクタンス成分の寄与が、抵抗成分の寄与よりも十分に大きくなるように、即ちωL>>rとなるように、適切な周波数を用いて測定することが好ましい。
【0047】
なお、周波数f=1(kHz)としてインピーダンスを測定する場合、1つのインダクタ素子のコアの温度がキュリー温度を超えても、抵抗成分が存在することにより、インダクタ素子102a~102n全体のインピーダンスは、正常状態のインピーダンスから極端には減少しない。しかし、インダクタ素子102a~102n全体のインピーダンスは、正常状態のインピーダンスから減少するので、しきい値Zthを適切に設定しておけば、電池セルの温度異常を検出できる。例えば、上記したように、正常状態のインピーダンスと、1つの電池セルが異常温度になった場合のインピーダンスとを実測し、それら2つの実測値の間の任意の値をしきい値Zthとすればよい。
【0048】
(車両への搭載)
図7を参照して、図3に示した温度監視システム100及び電池モジュール200は、PHEV又はEV等の車両210に搭載され得る。上記したように、温度監視システム100を構成するインダクタ素子102a~102nの各々は、電池セル200a~200nのうちの対応する電池セルに配置されている。電池セル200a~200nは、二次電池である。電池セル200a~200nは、例えば、リチウムイオン電池又はニッケル水素電池等である。100~200個程度の電池セル200a~200nが直列接続されることにより、電池モジュール200は高電圧(例えば、直流300V)の電力を出力する。
【0049】
電池モジュール200は、車両210に搭載された各部に電力を供給する。即ち、電池モジュール200の出力電力は、インバータ212により交流電力に変換されて、モータ214を駆動するために使用される。また、電池モジュール200の出力電力は、電力変換器216により低電圧(例えば、直流12V)に変換されて、補機系負荷218に供給される。補機系負荷218は、エンジン及びモータ等を稼動するのに必要な付属機器であり、主としてセルモータ、オルタネータ、ラジエータクーリングファン等を含む。補機系負荷218は、照明、ワイパー駆動部、ナビゲーション装置、エアコン、ヒータ等を含んでもよい。なお、補機系負荷218には、鉛蓄電池等の低圧の二次電池(図示せず)からも電力が供給される。低圧の二次電池は、電池モジュール200の出力電力から電力変換器216により生成された低電圧により充電されてもよい。
【0050】
(動作)
図8を参照して、車両210に搭載された温度監視システム100の動作に関して説明する。図8に示した処理は、図4に示した判定部112により実行される。ここでは、判定部112がマイクロコンピュータにより実現されているとする。判定部112が図8に示した処理を実行するための所定のプログラムは、判定部112の内部のメモリに予め記憶されているとする。車両210において、電池モジュール200からの電力出力の開始を指示する操作(例えばイグニッションスイッチのオン)がなされたことを受けて、判定部112は、内部メモリからプログラムを読出して実行する。しきい値Zthも、判定部112の内部メモリに予め記憶されているとする。
【0051】
ステップ300において、判定部112は、並列接続されたインダクタ素子102a~102n全体のインピーダンスを取得する。具体的には、判定部112は測定部110に、インピーダンスの測定を指示する。これを受けて、測定部110は、所定の周波数fの交流信号sを出力し、第1導電線106及び第2導電線108間の電圧Vと第1導電線106及び第2導電線108を流れる電流Iとを測定する。さらに、測定部110は、|V/I|によりインピーダンス|Z|(インダクタ素子102a~102n全体のインピーダンス)を算出して判定部112に出力する。その後、制御はステップ302に移行する。
【0052】
ステップ302において、判定部112は、内部メモリからしきい値Zthを読出し、ステップ300により取得したインピーダンス|Z|がしきい値Zth以下であるか否かを判定する。インピーダンス|Z|がしきい値Zth以下である(|Z|≦Zth)と判定された場合、制御はステップ308に移行する。そうでなければ(|Z|>Zth)、制御はステップ304に移行する。
【0053】
ステップ304において、判定部112は、終了するか否かを判定する。終了すると判定された場合、本プログラムは終了する。そうでなければ、制御はステップ306に移行する。例えば、電池モジュール200からの電力出力の停止を指示する操作(例えばイグニッションスイッチのオフ)がなされたことを受けて、判定部112は本プログラムを終了すると判定する。
【0054】
ステップ306において、判定部112は、インピーダンスの測定を実行するタイミングになったか否かを判定する。測定を実行するタイミングになったと判定された場合、制御はステップ300に戻る。そうでなければ、制御はステップ304に戻る。例えば、インピーダンスの測定は一定の周期で実行される。その場合、判定部112は、インピーダンスの測定を前回実行してからの経過時間を算出し、経過時間が周期以上になったか否かを判定することにより、測定のタイミングになったか否かを判定する。経過時間の算出には、判定部112の動作クロックを用いても、検出部104の外部(時計等)から取得した時刻情報を用いてもよい。
【0055】
ステップ302の判定結果がYES(|Z|≦Zth)の場合、ステップ308において、判定部112は、判定結果として、測定対象物の温度異常を表す信号を検出部104の外部に出力する。例えば、判定結果を伝送する信号線を初期状態においてローレベルに設定しておき、判定部112から判定結果としてハイレベルの信号を出力する。その後、制御はステップ304に移行する。
【0056】
以上により、温度監視システム100は、所定のタイミングでインダクタ素子102a~102n全体のインピーダンスの測定を繰返し、電池セル200a~200nのいずれかに温度異常が発生した場合に生じるインピーダンスの減少により、速やかに温度異常を検出できる。したがって、温度異常が発生すれば、温度異常の発生を速やかに通知でき、温度異常に対処することが可能になる。例えば、車両210の走行中に車載された電池モジュール200に温度異常が発生した場合、車両210を路肩に停止させ搭乗者が安全に退避する時間を確保できる。
【0057】
上記では、温度異常が検出されたときにのみ、判定部112が判定結果を出力する場合を説明したが、インピーダンスを測定した結果、温度異常が検出さなかった場合にも、判定結果を出力してもよい。その場合、温度異常が検出されなかったときには、温度異常が検出されたときに出力される信号と異なる信号を出力すればよい。例えば、温度異常が検出されたときには、判定結果としてハイレベルの信号を出力し、温度異常が検出されなかったときには、判定結果としてローレベルの信号を出力すればよい。
【0058】
(効果)
上記したように、温度監視システム100は、並列接続されて第1導電線106及び第2導電線108の間に接続された複数のインダクタ素子102a~102nと、第1導電線106及び第2導電線108間のインピーダンスの変化に基づいて対象物(例えば電池モジュール200)の温度異常を検出する検出部104とを含む。これにより、対象物における温度異常を検出するための配線数の増大を抑制できる。また、対象物におけるにおける温度異常の発生を速やかに検出できる。
【0059】
上記したように、検出部104は、第1導電線106及び第2導電線108に交流信号sを出力した状態で、第1導電線106及び第2導電線108間のインピーダンスを測定する測定部110を含む。これにより、温度異常の発生を容易に検出できる。即ち、交流信号を用いてインピーダンスを測定することにより、温度異常の発生の前後における大きい変化を観測できるので、温度異常の発生の検出が容易である。
【0060】
上記したように、検出部104は、測定部110により測定されたインピーダンス|Z|としきい値Zthとを比較することにより温度異常の検出の有無を判定する判定部112をさらに含み、判定部112は、測定部110により測定されたインピーダンス|Z|がしきい値Zth以下であることを受けて、温度異常を検出したと判定する。これにより、温度異常を容易に検出できる。
【0061】
上記したように、インピーダンス測定に使用する交流信号sとして、正弦波を使用できる。これにより、インピーダンスを精度よく、安定して測定できる。
【0062】
上記したように、温度監視システム100は、検出部104により温度異常が検出されたことを受けて、温度異常を通知する通知部をさらに含んでいてもよい。これにより、温度異常が発生したことを知らせることができるので、人は速やかに退避等の行動を取ることができる。
【0063】
上記したように、複数のインダクタ素子102a~102nの各々は、温度異常と判定されるときの対象物(例えば電池モジュール200の電池セル)の温度よりも低いキュリー温度を有する。これにより、異常発熱した対象物に配置されたインダクタ素子のインピーダンスを急激に減少させることができ、並列接続された複数のインダクタ素子102a~102n全体のインピーダンスを急激に減少させることができる。したがって、対象物において温度異常が発生したことを確実且つ速やかに検出できる。
【0064】
上記したように、複数のインダクタ素子102a~102nの各々は、当該インダクタ素子のインダクタンス成分を生成する磁性部材114及び導電部材116を含み、磁性部材114は、温度異常と判定されるときの対象物(例えば電池モジュール200の電池セル)の温度よりも低いキュリー温度を有し得る。これにより、対象物において温度異常が発生したことを確実且つ速やかに検出できる。
【0065】
上記したように、複数のインダクタ素子102a~102nの各々に含まれる磁性部材114のキュリー温度は、70℃以上120℃以下の範囲にあり得る。これにより、対象物において温度異常が発生したことを確実且つ速やかに検出できる。また、複数のインダクタ素子102a~102nの各々の磁性部材114のキュリー温度は、80℃以上100℃以下の範囲にあってもよい。これにより、対象物において温度異常が発生したことをより確実且つ速やかに検出できる。
【0066】
上記したように、複数のインダクタ素子102a~102nの各々は、Mn-Zn系フェライト又はNi-Zn系フェライトを含み得る。これにより、電池セル200a~200nにおける温度異常の検出に適したインダクタ素子102a~102nを生成できる。また、インダクタ素子102a~102nを小型化でき、インダクタ素子102a~102nを配置するための空間を低減できる。
【0067】
上記したように、温度監視システム100は、並列接続されて第1導電線106及び第2導電線108の間に接続された複数のインダクタ素子102a~102nと、第1導電線106及び第2導電線108間のインピーダンスの変化に基づいて複数の電池セル200a~200nのうちのいずれかの温度異常を検出する検出部104とを含み、複数のインダクタ素子102a~102nの各々は、複数の電池セル200a~200nのうちの、対応する1つの電池セルからの発熱が当該インダクタ素子に伝達されるように配置され得る。これにより、複数の電池セル200a~200nにおける温度異常を検出するための配線数の増大を抑制できる。また、複数の電池セル200a~200nにおける温度異常の発生を速やかに検出できる。
【0068】
上記したように、電池監視システムは、複数の電池セル200a~200nにより構成される電池ユニット(電池モジュール200)をさらに含む。これにより、電池ユニットの温度異常を検出できる。
【0069】
(変形例)
上記では、電池ユニットが1つの電池モジュール200(電池セル200a~200n)により構成される場合を説明したがこれに限定されない。電池ユニットは複数の電池モジュールにより構成されてもよい。変形例に係る温度監視システムは、2つの電池モジュールにより構成される電池ユニットを監視対象とする。温度監視システム及びその対象である電池ユニットは、電池監視システムを構成する。
【0070】
図9を参照して、変形例に係る温度監視システム120は、複数のインダクタ素子102a~102n及び122a~122n、検出部124、切替部130、第1導電線106、第2導電線108、第3導電線126並びに第4導電線128を含む。図9に示した構成は、図3及び図4に示した構成において、複数のインダクタ素子122a~122n、第3導電線126、第4導電線128及び切替部130を追加し、検出部104を検出部124で代替したものである。図3図4及び図9において、同じ符号を付した構成要素は同じものを表し、同じ機能を有する。以下においては、重複説明を繰返さず、主として、図9に示した構成が図3及び図4に示した構成と異なる点に関して説明する。
【0071】
インダクタ素子122a~122nは相互に並列接続され、第3導電線126及び第4導電線128の間に接続されている。インダクタ素子122a~122nの各々は、電池モジュール240を構成する電池セル240a~240nのうちの対応する電池セルに、直接又は所定の部材を介して、当接するように配置されている。したがって、電池セル240a~240nの各々による発熱は、対応するインダクタ素子122a~122nに伝達される。温度監視システム120の監視対象である電池モジュール200及び240は、1つの電池ユニットを構成する。電池セル200a~200n及び220a~220nは、例えば、PHEV又はEV等に車載される二次電池であり、例えば相互に直列接続される。なお、電池モジュール200を構成する複数の電池セルの数と、電池モジュール240を構成する複数の電池セルの数とは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0072】
検出部124は、測定部110及び判定部132を含む。判定部132は、図4に示した判定部112と同様の機能に加えて、切替部130の切替スイッチを制御する機能を有する。第1導電線106、第2導電線108、第3導電線126及び第4導電線128は、切替部130を介して測定部110に接続されている。切替部130は、複数の切替スイッチを含む。切替スイッチは、第1導電線106及び第2導電線108が測定部110に接続された状態(第3導電線126及び第4導電線128は測定部110に非接続)と、第3導電線126及び第4導電線128が測定部110に接続された状態(第1導電線106及び第2導電線108は測定部110に非接続)とを交互に実現する。図9は、第1導電線106及び第2導電線108が測定部110に接続された状態(第3導電線126及び第4導電線128は測定部110に非接続)を示す。これにより、測定部110は、交流信号sを用いて、第1導電線106及び第2導電線108間のインピーダンス、並びに、第3導電線126及び第4導電線128間のインピーダンスを測定できる。
【0073】
インダクタ素子122a~122nの各々は、インダクタ素子102a~102nと同様に、コアを有するインダクタ素子である。インダクタ素子122a~122nのコアのキュリー温度は、インダクタ素子102a~102nのコアのキュリー温度と同じであることが好ましい。また、インダクタ素子122a~122nのインダクタンスは、インダクタ素子102a~102nのインダクタンスと同じであることが好ましい。これにより、後述するように、1種類の周波数fの交流信号sを用いてインピーダンスを測定し、1つのしきい値Zthを用いて電池モジュール200及び240における温度異常を検出できる。
【0074】
(動作)
図10を参照して、図9に示した温度監視システム120の動作に関して説明する。図9に示した温度監視システム120、電池モジュール200及び240は、図7と同様にPHEV又はEV等の車両に搭載される。図10に示したフローチャートは、図8に示したフローチャートにおいて、ステップ400及び402が追加され、ステップ308がステップ404で代替されたものである。以下においては、重複説明を繰返さず、主として、図10のフローチャートが、図8に示したフローチャートと異なる点に関して説明する。
【0075】
図10に示した処理は、検出部124を構成する判定部132により実行される。判定部132はマイクロコンピュータにより実現されているとする。判定部132が図10に示した処理を実行するための所定のプログラムは、判定部132の内部メモリに予め記憶されているとする。車両において、電池モジュール200及び240からの電力出力の開始を指示する操作がなされたことを受けて、判定部132は、内部メモリからプログラムを読出して実行する。しきい値Zthも、判定部132の内部メモリに予め記憶されているとする。
【0076】
ステップ400において、判定部132は、電池モジュール200に配置されたインダクタ素子102a~102n、及び、電池モジュール240に配置されたインダクタ素子122a~122nのいずれかを、インピーダンス測定の対象として決定する。具体的には、判定部132は、第1導電線106及び第2導電線108、並びに、第3導電線126及び第4導電線128のいずれかが、測定部110に接続されるように、切替部130の切替スイッチを制御する。後述するように、ステップ400は繰返し実行されるので、連続して同じ測定対象が選択されないように、測定対象を決定する。その後、制御はステップ300に移行する。
【0077】
ステップ300において、判定部132は、ステップ400で決定された複数のインダクタ素子全体のインピーダンス|Z|を、測定部110に測定させ、その値を取得する。続いて、ステップ302において、判定部132は、ステップ300により測定されたインピーダンス|Z|が、内部メモリから読出したしきい値Zth以下であるか否かを判定する。|Z|≦Zthと判定された場合、制御はステップ404に移行する。そうでなければ(|Z|>Zth)、制御はステップ402に移行する。
【0078】
ステップ402において、判定部132は、全ての測定対象に関して測定が完了したか否かを判定する。完了したと判定された場合、制御はステップ304に移行する。そうでなければ、制御はステップ400に戻る。ステップ400において、既に測定対象とした複数のインダクタ素子とは異なる、複数のインダクタ素子を測定対象として決定する。例えば、ステップ300を前回実行したときに、インダクタ素子102a~102n全体のインピーダンスを測定した場合、インダクタ素子122a~122n全体を新たな測定対象として決定する。これにより、複数の電池モジュールに配置されたインピーダンス素子の全てに関して、インピーダンスが測定される。
【0079】
その後、ステップ304及び306により、終了すると判定されるまで、所定のタイミングでインピーダンス測定が繰返される。
【0080】
ステップ302の判定結果がYES(|Z|≦Zth)の場合、ステップ404において、判定部132は、温度異常と、温度異常の電池セルを含む電池モジュールとを表す信号を、判定結果として検出部124の外部に出力する。例えば、判定結果を伝送する信号線を初期状態においてローレベルに設定しておき、判定部132から判定結果として、ハイレベルの信号と、それに続く所定期間内にハイレベル又はローレベルの信号を出力する(2ビットのデータを出力する)。例えば、ハイレベルの信号を出力し、それに続いてローレベルの信号を出力(“1”、“0”を順に出力)することにより、電池モジュール200に温度異常が発生したことを伝送する。また、ハイレベルの信号を出力し、それに続いてハイレベルの信号を出力(“1”、“1”を順に出力)することにより、電池モジュール240に温度異常が発生したことを伝送する。その後、制御はステップ402に移行する。
【0081】
以上により、1つの電池ユニットを構成する電池モジュール200及び240、具体的には電池セル200a~200n及び240a~240nのいずれかに温度異常が発生した場合、温度監視システム120は、速やかに温度異常を検出できる。したがって、温度異常が発生すると速やかに通知でき、温度異常に対処することが可能になる。例えば、車両の走行中に車載された電池モジュール200及び240に温度異常が発生した場合、車両を路肩に停止させ搭乗者が安全に退避する時間を確保できる。
【0082】
また、温度監視システム120は、温度異常の発生を検出した場合、複数の電池モジュールのうち、温度異常が発生した電池セルを含む電池モジュールを特定する情報を提供できるので、複数の電池モジュールを全て交換せずに、温度異常が発生した電池セルを含む電池モジュールのみを交換できる。したがって、修理費用を低減できる。
【0083】
上記では、インダクタ素子102a~102n及び122a~122nの各々に関して、インダクタンスが同じである場合を説明したが、これに限定されない。インダクタ素子122a~122nのインダクタンスは、インダクタ素子102a~102nのインダクタンスと異なっていてもよい。その場合には、それぞれに適した周波数の交流信号を用いてインピーダンスを測定し、それぞれに適したしきい値を用いて電池モジュール200及び240のそれぞれにおける温度異常を検出すればよい。
【0084】
上記では、2つの電池モジュールを監視対象とする場合を説明したが、3つ以上の電池モジュールを監視対象としてもよい。その場合、1回の測定タイミングにおいて、3つ以上の電池モジュールのインピーダンスを、重複することなく測定し、しきい値と比較すればよい。温度異常が発生したときに検出部(判定部)から出力する電池モジュールを特定する情報には、電池モジュールの数に対応するビット数のものを用いればよい。
【0085】
上記では判定部112及び判定部132が、マイクロコンピュータにより実現される場合を説明したが、これに限定されない。判定部112及び判定部132は、CPUにより実現されても、ASIC等の専用ICにより実現されてもよい。測定部110は、インピーダンス測定用のIC(例えば、ANALOG DEVICES社のAD5933、AD5934等)を用いて実現されてもよい。また、インピーダンスの測定方法は任意である。ブリッジ法、共振法、I-V法、自動平衡ブリッジ法、RF I-V法又は反射係数法(ネットワーク解析法)等のいずれを用いてもよい。
【0086】
各インダクタ素子のコアのキュリー温度は、上記した値に限定されない。各インダクタ素子のコアのキュリー温度は、測定対象物が正常状態であると判定されるときの測定対象物の温度よりも高く、測定対象物の温度異常を検出できるように設定されていればよい。即ち、各インダクタ素子のコアのキュリー温度は、測定対象物が温度異常と判定されるときの測定対象物の温度よりも低い温度であればよい。
【0087】
インダクタ素子は、図5に示した構成及び形状のものに限定されない。対象物の温度が異常と判定される温度以下のキュリー温度を有する磁性部材のコアを有していればよく、その形状、構成及び大きさは任意である。
【0088】
2本の導電線と、それらの間に相互に並列接続された複数のインダクタ素子とは、FPCの形態に形成されてもよい。その場合、インダクタ素子には面実装素子を使用し、2本の導電線には、薄膜の導電性部材(銅箔等)を使用する。即ち、柔軟な電気絶縁部材(ポリイミド等の樹脂)のベースフィルムの表面に、2つの薄膜の導電性部材を配置(接着)し、それらの間に、数mm以下の大きさの面実装インダクタ素子を、相互に並列接続されるように配置する。FPCの形態に形成することにより、インダクタ素子を測定対象物に容易に配置できる。また、複数のインダクタ素子を狭い空間にも配置できるので、温度監視システムを車載電池にも容易に適用できる。
【0089】
上記では、インダクタ素子と、測定対象である電池セルとが同数である場合を説明したが、これに限定されない。インダクタ素子の数が電池セルの数よりも多くてもよく、少なくてもよい。インダクタ素子の数が電池セルの数よりも多い場合には、1つの電池セルに複数のインダクタ素子を配置すればよい。インダクタ素子の数が電池セルの数よりも少ない場合には、複数のインダクタ素子を例えば等間隔に配置すればよい。例えば、インダクタ素子を電池セルに1つ置き又は2つ置きに配置してもよい。インダクタ素子を、隣接する電池セルの間に配置してもよい。電池セルに温度異常が発生した場合、その電池セルに最も近いインダクタ素子のコアの温度が最初にキュリー温度を超えるので、温度異常の発生を比較的速やかに検出できる。
【0090】
上記では、測定対象である複数の電池セルが直列接続されて1つの電池モジュールを構成する場合を説明したが、これに限定されない。測定対象である複数の電池セルの接続は任意である。どのような接続形態であっても、電池モジュールを構成するいずれかの電池セルに温度異常が発生すれば、電池モジュールにおける温度異常として検出できる。
【0091】
上記では、インピーダンスの測定に正弦波を使用する場合を説明したが、これに限定されない。インピーダンスを正確に測定するためには、周波数が一定の正弦波を使用することが好ましい。しかし、コアの温度がキュリー温度を超えたときに生じるインピーダンスの急激な減少を観測できればよいので、インピーダンスの測定に使用する信号は交流信号であればよく、正弦波でなくてもよい。また、周波数に関しては、高精度に一定である必要はなく、ある程度の周波数のばらつきは許容される。
【0092】
上記では、複数のインダクタ素子が全て並列接続される場合を説明したが、これに限定されない。一部のインダクタ素子が直列接続されていてもよい。また、インダクタ素子が1つであってもよい。
【0093】
上記では、温度監視システムが、車載された二次電池の温度異常を検出する場合を説明したが、これに限定されない。温度異常が発生する可能性がある複数の構成要素を含むシステムであれば、温度監視システムの監視対象になり得る。例えば、太陽光発電システム若しくは燃料電池システム等により発電された電力、又は、商用電力を蓄える蓄電システムを構成する二次電池を監視対象としてもよい。また、温度監視システムは、複数のスイッチング電源を含むシステムにも適用され得る。スイッチング電源は、放熱環境が十分でない状態で連続運転すると温度異常が発生する可能性がある。したがって、複数のスイッチング電源の各々に、対応するインダクタ素子を配置すれば、上記と同様にしてスイッチング電源の温度異常を検出できる。また、対象物は1つであってもよい。1つの対象物が複数のインダクタ素子を配置できる大きさであれば、対象物(例えば、電気設備等)の部位毎に、温度異常を検出できる。また、1つのスイッチング電源において、当該電源の中の複数のパワー半導体デバイス(MOSFET等)の温度監視にも利用できる。例えば、各パワー半導体デバイスの背面に、インダクタ素子を配置すれば同時に、複数のデバイス温度を監視できる。
【0094】
上記では、監視対象に温度異常が発生したことを検出する場合を説明したが、これに限定されない。一時的に温度異常が発生しても、正常温度に復帰する場合もある。一方、温度異常が継続すれば、やがて制御不能な状態(熱暴走)に至る可能性が高い。したがって、しきい値Zthとしてより小さい値を用いて、通常温度を大きく逸脱し、熱暴走に近い高温状態になったこと、又は、熱暴走が発生したことを検出してもよい。
【0095】
以上、実施の形態を説明することにより本開示を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本開示は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本開示の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0096】
100、120 温度監視システム
102a、102b、102c、102n、122a、122b、122c、122n インダクタ素子
104、124、904 検出部
106 第1導電線
108 第2導電線
110 測定部
112、132 判定部
114 磁性部材
116 導電部材
126 第3導電線
128 第4導電線
130 切替部
200、240 電池モジュール
200a、200b、200c、200n、240a、240b、240c、240n、900a、900b、900c、900n 電池セル
210 車両
212 インバータ
214 モータ
216 電力変換器
218 補機系負荷
300、302、304、306、308、400、402、404 ステップ
902a、902b、902c、902n 温度センサ
906 配線群
s 交流信号
t1、t2 時刻
Tth しきい値
Δt 遅延時間
図1
図2
図3
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図5
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図8
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図10