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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164217
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】消しゴム
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20221020BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20221020BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B43L19/00 A
B32B7/022
B32B27/30 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069561
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(72)【発明者】
【氏名】青井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】小林 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】渡利 幸治
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA08A
4F100AH02A
4F100AH02B
4F100AK15A
4F100AK15B
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA04A
4F100CA04B
4F100CA30A
4F100CA30B
4F100GB90
4F100JK03
4F100JK12B
4F100JK13A
(57)【要約】
【課題】複数の層からなる消しゴムにおいて、消しゴムとしての機能を確保しつつ耐久性の向上を図る。
【解決手段】互いに処方が異なる第1及び第2の素材により形成された複数の層S1~S4、H1~2Dを積層してなる消しゴムE1において、隣接する層S1~S4、H1~2Dの一方に裂け目が入った際に層S1~S4、H1~2Dの境界面B近傍で破断の伝播が抑制されるとともに、隣接する層S1~S4、H1~2Dの境界面B近傍では層S1~S4、H1~2D同士が境界面Bに沿って剥離しないようにすべく隣接する層S1~S4、H1~2Dを形成する素材が互いに融解するように構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに処方が異なる素材により形成された複数の層を積層してなる消しゴムであって、
隣接する層の一方に裂け目が入った際に層の境界面近傍で破断の伝播が抑制されるとともに、隣接する層の境界面近傍では層同士が境界面に沿って剥離しないようにすべく隣接する層を形成する素材が互いに融解するように構成されている消しゴム。
【請求項2】
前記複数の層をそれぞれ形成する素材が硬度に影響する成分を含むものであって、前記複数の層のうち1つを形成する第1の素材に含まれる前記成分の割合が、前記複数の層のうち他の1つを形成する第2の素材に含まれる前記成分の割合よりも少ない請求項1記載の消しゴム。
【請求項3】
少なくとも一部に、前記第1の素材により形成された軟質層と、前記第2の素材により形成された硬質層とを積層してなる積層部位を有する請求項2記載の消しゴム。
【請求項4】
前記第1及び第2の素材がそれぞれ基材、可塑剤、添加剤を含むものであって、前記第1及び第2の素材の一方に含まれる可塑剤が、他方に含まれる可塑剤の成分を10重量%以下しか含んでいない請求項3記載の消しゴム。
【請求項5】
前記積層部位が5つ以上の層を有している請求項3又は4記載の消しゴム。
【請求項6】
外周面を形成し前記積層部位を包囲するとともに前記第1の素材により形成され前記軟質と一体をなす外周部位を有している請求項3、4または5記載の消しゴム。
【請求項7】
前記第2の素材により形成され、前記硬質層同士を一体に接続する接続部位を有している請求項6記載の消しゴム。
【請求項8】
前記境界面が表面に対して傾斜している請求項1、2、3、4又は5記載の消しゴム。
【請求項9】
最も内側にある層以外の層が、それぞれ内側に隣接する層を包囲する形状をなしている請求項1、2、3、4又は5記載の消しゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス、学校、家庭等で好適に用いられる消しゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消しゴムはその全体が同一の素材により形成されていることが多いが、このような消しゴムは、一部に裂け目が入る等の破断が発生すると、この破断が伝播して反対側に達することが多い。
【0003】
上述した破断の伝播を抑制し耐久性を向上させるための構成の一つとして、複数の層からなる消しゴムが種々知られている(例えば、引用文献1に記載のものを参照)。前記引用文献1記載のものは、それぞれ消しゴム母材により形成された2つの層の間にプラスチック薄材の層を介在させたものである。
【0004】
しかしながら、引用文献1記載の消しゴムにおいて、プラスチック薄材の層は消しゴムとして機能するものであるとは限られない。また、プラスチック薄材の層は、プラスチックを溶剤等によって希釈しておき消しゴム母材に噴霧、乾燥させる方法や予めフイルム状としておいたものを転写印刷する方法等により形成されるが、消しゴム母材の層とプラスチック薄材の層との接着強度によっては使用中に消しゴム母材の層がプラスチック薄材の層から剥離してしまう不具合が起こりうる。一方、消しゴム母材の層とプラスチック薄材の層との間に接着剤層を介在させた場合、接着剤層は消しゴムとして機能しないので消しゴムとしての性能が損なわれることがあり、また、消しゴム母材の層同士が強く接着されているので、消しゴム母材の層の一つが破断した際に破断が他の消しゴム母材の層に伝播する不具合も起こりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平07-032152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した点を踏まえ、複数の層からなる消しゴムにおいて、消しゴムとしての機能を確保しつつ耐久性の向上を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明に係る消しゴムは、互いに処方が異なる素材により形成された複数の層を積層してなる消しゴムであって、隣接する層の一方に裂け目が入った際に層の境界面近傍で破断の伝播が抑制されるとともに、隣接する層の境界面近傍では層同士が境界面に沿って剥離しないようにすべく隣接する層を形成する素材が互いに融解するように構成されているものである。
【0008】
なお、本発明において、「処方が異なる素材」とは、原料となる基材、可塑剤及び添加剤のいずれか若しくは全てが異なるもの、又は原料となる基材、可塑剤及び添加剤の配合割合が異なるものを全て含む概念である。なお、原料となる基材、可塑剤及び添加剤が添加剤の一種である着色料(染料又は顔料)以外同じであり、これらの配合割合も着色料に関するもの以外同じであるものは、本発明における「処方が異なる素材」に該当しない。
【0009】
請求項2記載の発明に係る消しゴムは、請求項1記載のものであって、前記複数の層をそれぞれ形成する素材が硬度に影響する成分を含むものであって、前記複数の層のうち1つを形成する第1の素材に含まれる前記成分の割合が、前記複数の層のうち他の1つを形成する第2の素材に含まれる前記成分の割合よりも少ないものである。
【0010】
なお、本発明において、「硬度に影響する成分」とは、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、酸化マグネシウム等、消しゴムの硬度を増すための添加剤として周知のものである。換言すれば、このような成分を多く添加することにより消しゴムの硬度を増す、さらに換言すればこのような成分を多く含む第2の素材により形成した層の裂けに対する耐性をこのような成分を少なく含む第1の素材により形成した層と比較して向上させるようなものである。
【0011】
請求項3記載の発明に係る消しゴムは、請求項2記載のものであって、少なくとも一部に、前記第1の素材により形成された軟質層と、前記第2の素材により形成された硬質層とを積層してなる積層部位を有するものである。
【0012】
なお、「少なくとも一部に積層部位を有する」とは、全体が積層部位であるものも含む概念である。
【0013】
請求項4記載の発明に係る消しゴムは、請求項3記載のものであって、前記第1及び第2の素材がそれぞれ基材、可塑剤、添加剤を含むものであって、前記第1及び第2の素材の一方に含まれる可塑剤が、他方に含まれる可塑剤の成分を10重量%以下しか含んでいないものである。
【0014】
請求項5記載の発明に係る消しゴムは、請求項3又は4記載のものであって、前記積層部位が5つ以上の層を有しているものである。
【0015】
請求項6記載の発明に係る消しゴムは、請求項3、4又は5記載のものであって、外周面を形成し前記積層部位を包囲するとともに前記第1の素材により形成され前記軟質と一体をなす外周部位を有しているものである。
【0016】
請求項7記載の発明に係る消しゴムは、請求項6記載のものであって、前記第2の素材により形成され、前記硬質層同士を一体に接続する接続部位を有しているものである。
【0017】
請求項8記載の発明に係る消しゴムは、請求項1、2、3、4又は5記載のものであって、前記境界面が表面に対して傾斜しているものである。
【0018】
請求項9記載の発明に係る消しゴムは、請求項1、2、3、4又は5記載のものであって、最も内側にある層以外の層が、それぞれ内側に隣接する層を包囲する形状をなしているものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の層からなる消しゴムにおいて、消しゴムとしての機能を確保しつつ耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る消しゴムの全体斜視図。
図2】同実施形態に係る消しゴムの正面図。
図3】同実施形態に係る消しゴムの裂けに対する耐性を示す表。
図4】本発明の第2実施形態に係る消しゴムの全体斜視図。
図5】同実施形態に係る消しゴムの正面図。
図6】本発明の第3実施形態に係る消しゴムの全体斜視図。
図7】同実施形態に係る消しゴムの正面図。
図8】本発明の第4実施形態に係る消しゴムの全体斜視図。
図9】同実施形態に係る消しゴムの正面図。
図10】本発明の第5実施形態に係る消しゴムの全体斜視図。
図11】同実施形態に係る消しゴムの正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態(図1図3)>
本実施形態の消しゴムE1は、互いに処方が異なる第1及び第2の素材により形成された複数の層S1~S4、H1~H3を積層してなり、隣接する層S1~S4、H1~H3の一方に裂け目が入った際に層の境界面B近傍で破断の伝播が抑制されるとともに、隣接する層S1~S4、H1~H3の境界面B近傍では層S1~S4、H1~H3同士が境界面Bに沿って剥離しないようにすべく隣接する層S1~S4、H1~H3を形成する素材が互いに融解するように構成されているものである。
【0022】
より具体的には、図1及び図2に示すように、消しゴムE1は、第1の素材により形成された第1~第4の軟質層S1、S2、S3、S4と、第2の素材により形成された第1~第3の硬質層H1、H2、H3とを上下方向に交互に積層してなるもので、その全体が積層部位P1である。なお、本実施形態では、頂面E1a側から底面E1b側に向かって4つの軟質層S1、S2、S3、S4をそれぞれ「第1の軟質層S1」、「第2の軟質層S2」、「第3の軟質層S3」及び「第4の軟質層S4」と称し、これらを区別せず示す際には「軟質層S」と総称している。同様に、頂面E1a側から底面E1b側に向かって3つの硬質層H1、H2、H3をそれぞれ「第1の硬質層H1」、「第2の硬質層H2」及び「第3の硬質層H3」と称し、これらを区別せず示す際には「硬質層H2」と総称している。
【0023】
軟質層Sと硬質層Hとの境界面B近傍では前記第1及び第2の素材が互いに融解している。また、本実施形態では第1の軟質層S1の上面を消しゴムE1の頂面E1aとしており、第4の軟質層S4の下面を消しゴムE1の底面E1bとしている。換言すれば、頂面E1a及び底面E1bは、いずれもその全体が第1の素材により形成されている。なお、図面中において、硬質層Hにはパターン(薄く塗りつぶした部分)を付している。
【0024】
軟質層Sは、比較的軟質な第1の素材を薄板状に形成したものである。第1の素材は、例えば、基材としてポリ塩化ビニルを100重量部、可塑剤としてトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を14重量部及びアジピン酸ジオクチル(DOA)を124重量部、添加剤として充填材を53重量部及び安定剤を6重量部それぞれ配合したものである。なお、充填材中には、硬度を増すための成分として、重質炭酸カルシウムを53重量部中48重量部含んでいる。
【0025】
硬質層Hは、第1の素材と処方が異なる素材でありより硬質な第2の素材を薄板状に形成したものである。第2の素材は、例えば、基材としてポリ塩化ビニルを100重量部、可塑剤としてトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を120重量部、添加剤として充填材を131重量部及び添加剤として安定剤を6重量部それぞれ配合したものである。なお、充填材中には、硬度を増すための成分として、重質炭酸カルシウムを131重量部中126重量部含んでいる。
【0026】
従って、第1の素材に含まれる可塑剤は、第2の素材に含まれる可塑剤であるトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を可塑剤全体の30重量%以下、より具体的には約10重量%含んでいる。また、第2の素材は、第1の素材と比較して硬度に影響する成分を多く含んでいる。
【0027】
なお、実際には、これら第1及び硬質層1、2は、二色成形により同時に形成されるようになっている。
【0028】
そして、硬質層Hは、一方側に隣接する軟質層Sから他方側に隣接する軟質層Sへの破断の伝播を抑制する機能を有している。より具体的には、例えば底面E1bを形成する第4の軟質層S4が裂けた場合にその裂けが隣接する第3の硬質層H3に伝播しにくく、結果として第3の硬質層H3の一方側すなわち下方に隣接する第4の軟質層S4から他方側すなわち上方に隣接する第3の軟質層S3への破断の伝播が抑制されるようになっている。また、仮に第4の軟質層S4が裂けた場合にその裂けが隣接する第3の硬質層H3に伝播し、さらに隣接する第3の軟質層S3に伝播したとしても、その裂けは隣接する第2の硬質層H2、すなわち上下方向中央に位置する硬質層H2に伝播しにくく、裂けが消しゴムE1の上下方向中央を越えてさらに伝播することが抑制されるようになっている。
【0029】
ここで、この消しゴムE1を構成する第1及び第2の素材の特性について以下に述べる。
【0030】
第1の素材により構成した軟質層Sと第2の素材により構成した硬質層Hとを積層した実施例1の試料を用意し、軟質層Sの裂けが硬質層Hに伝播するか否かについての試験を以下のようにして行った。
【0031】
また、第3の素材により構成した軟質層と第2の素材により構成した硬質層とを積層した実施例2の試料、及び第4の素材により構成した軟質層と第2の素材により構成した硬質層とを積層した比較例1の試料を用意し、これらについても軟質層の裂けが硬質層に伝播するか否かについての試験を以下のようにして行った。
【0032】
実施例2の試料の軟質層を形成する第3の素材は、基材としてポリ塩化ビニルを100重量部、可塑剤としてトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を34重量部及びアジピン酸ジオクチル(DOA)を103重量部、添加剤として充填材を53重量部及び安定剤を6重量部それぞれ配合したものである。すなわち、第3の素材は、可塑剤中に、第2の素材の可塑剤として使用されているトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を全体の約25重量%含んでいる。
【0033】
比較例1の試料の軟質層を形成する第4の素材は、基材としてポリ塩化ビニルを100重量部、可塑剤としてトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を69重量部及びアジピン酸ジオクチル(DOA)を69重量部、添加剤として充填材を53重量部及び安定剤を6重量部それぞれ配合したものである。すなわち、第4の素材は、可塑剤中に、第2の素材の可塑剤として使用されているトリメリット酸トリオクチル(TOTM)を可塑剤全体の50重量%含んでいる。
【0034】
なお、第3及び第4の素材において、充填材中には、硬度を増すための成分として、重質炭酸カルシウムを53重量部中48重量部含んでいるが、重質炭酸カルシウムの含有率は第1の素材と同一であり、第2の素材におけるものよりも少ない。
【0035】
各試料は、いずれも幅20.5mm、高さ10.5mm、奥行き58.0mmの寸法を有し、それぞれ第1、第3又は第4の素材により形成された第1~第4の軟質層S1~S4と、それぞれ第2の素材により形成された第1~第3の硬質層H1~H3とを交互に積層させて形成した消しゴムである。そして、平均的な体格を有する成人男性が一方の手指により試料の奥行き方向両端を把持した状態で、他方の手の親指と人差し指により試料の奥行き方向中央を把持し試料の高さ方向に作用を加える、三点曲げ試験同様の方法で試料を湾曲させて底面E1bを構成する第4の軟質層S4を破断させ(裂き)、破断(裂け)が第3の硬質層H3に伝播しているか否かを調べた。
【0036】
試験結果は、図3に示す通りのものである。同図では、第4の軟質層S4の破断が第3の硬質層H3に、2回試験を行い全く伝播しなかったものを「せき止め効果○」、2回試験を行なったうち1回伝播したものを「せき止め効果△」、伝播したものを「せき止め効果×」として示している。
【0037】
このように、本実施形態に係る消しゴムE1の構成では、それぞれ異なる素材である第1及び第2の素材により形成された軟質層S1~S4及び硬質層H1~H3を交互に積層させてなる積層部位P1として全体を構成しているので、軟質層Sの破断が硬質層Hに伝播せず、消しゴムE1全体としての耐久性を確保することができる。その上で、軟質層Sと硬質層Hとの境界面B近傍では前記第1及び第2の素材が互いに融解しているので、消しゴムとしての使用中に軟質層Sと硬質層Hとが剥離せず、さらに軟質層S及び硬質層Hのいずれも消しゴムとして機能するので消しゴムとしての機能の低下を抑制することもできる。一方、それぞれ異なる素材である第3及び第2の素材により形成された軟質層S1~S4及び硬質層H1~H3を交互に積層させてなる積層部位P1として全体を構成した場合であっても、軟質層Sの破断が硬質層Hに伝播しにくく、消しゴムE1全体としての耐久性をある程度確保することができる。
【0038】
また、本実施形態では、第1の素材に含まれる可塑剤は、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)を14重量部及びアジピン酸ジオクチル(DOA)を124重量部含むものであり、第2の素材中の可塑剤の成分であるトリメリット酸トリオクチル(TOTM)が可塑剤全体の10重量%しか含まれていない。また、第3の素材に含まれる可塑剤は、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)を34重量部及びアジピン酸ジオクチル(DOA)を103重量部含むものであり、第2の素材中の可塑剤の成分であるトリメリット酸トリオクチル(TOTM)が可塑剤全体の25重量%しか含まれていない。このことから、軟質層Sと硬質層Hとで素材の構成が近すぎず、軟質層Sと硬質層Hとの境界面B近傍での融解の度合いが大きくならないので、軟質層Sが裂けた際に裂けが境界面Bを越えて硬質層Hへ波及することを抑止できる。
【0039】
その上、本実施形態では、積層部位P1が5つ以上の層を有している、換言すれば硬質層Hを複数有している、より具体的には4つの軟質層S1、S2、S3、S4と3つの硬質層H1、H2、H3との合計7つの層を積層して形成されたものであるので、前述したように、消しゴムE1の上下方向中央を越えて反対側に裂けが伝播することが抑制されて、より効果的に消しゴムE1全体としての耐久性を確保することができる。
【0040】
<第2実施形態(図4図5)>
本実施形態の消しゴムE2は、図4及び図5に示すように、第1の素材により形成された軟質層S1~S4と第2の素材により形成された硬質層H1~H3とを上下方向に交互に積層してなる積層部位P1と、外周面を形成し積層部位P1を包囲する外周部位P2とを有している。ここで、第1及び第2の素材は、前述した第1実施形態の消しゴムE1におけるものと同一であるので詳細な説明は省略する。
【0041】
積層部位P1は、前述した第1実施形態の消しゴムE1におけるものと同様の構成を有しているので、詳細な説明は省略する。
【0042】
外周部位P2は、第1の素材により形成されており、積層部位P1の軟質層Sと一体をなしている。すなわち、この消しゴムE2の頂面E2a、底面E2b及び両側面E2cは、いずれもその全体が第1の素材により形成されている。
【0043】
このようなものであれば、本発明の最も主要な効果、すなわち消しゴムE2としての機能の低下を抑制しつつ、消しゴムE2全体としての耐久性を確保できるという効果以外に、以下のような効果を得ることもできる。
【0044】
すなわち、本実施形態の構成によれば、軟質層Sを全て外周部位P2により一体に接続し、硬質層Hの端縁を外周部位P2により被覆しているので、字消しを行う際の作用を硬質層Hの端縁が直接受けることがなく、層同士の剥離を効果的に抑制することができる。
【0045】
<第3実施形態(図6図7)>
本実施形態の消しゴムE3は、以下に示す点で第2実施形態の消しゴムE2と異なっており、その他の点では第2実施形態の消しゴムE2と同様の構成を有している。
【0046】
この消しゴムE3は、図6及び図7に示すように、第1の素材により形成された軟質層S1~S4と第2の素材により形成された硬質層H1~H3とを上下方向に交互に積層してなる左右の積層部位P11、P12と、外周面を形成し積層部位PS1、PS2を包囲する外周部位P2と、左右の積層部位PS1、PS2の間に設けられたものであって、第2の素材により形成され、硬質層H1~H3同士を一体に接続する接続部位P3とを有している。
【0047】
このようなものであれば、本発明の最も主要な効果、すなわち消しゴムとしての機能の低下を抑制しつつ、消しゴム全体としての耐久性を確保できるという効果以外に、以下のような効果を得ることもできる。
【0048】
すなわち、本実施形態の構成によれば、軟質層Sが全て外周部位P2により一体に接続されており、硬質層Hの端縁が外周部位P2により被覆されていることに加えて、硬質層Hが全て接続部位P3により一体に接続されているので、層同士の剥離をさらに効果的に抑制することができる。
【0049】
<第4実施形態(図8図9)>
本実施形態の消しゴムE4は、図8及び図9に示すように、その全体が、第1の素材により形成された軟質層S1~S4と第2の素材により形成された硬質層H1~H3とを交互に積層してなる積層部位である。なお、第1及び第2の部材は、前述した第1実施形態に係るものと同一である。
【0050】
また、本実施形態では、正面視中央に正面視菱形の第3の硬質層H3、その外側に正面視菱形の第3の軟質層S3、またさらに外側に正面視菱形の第2の硬質層H2を配してなる。ここで、第2の硬質層H2は、正面視した場合に外側の頂点が前面の各辺の中間点位置している。その上で、第2の硬質層H2の各辺の外側には第2の軟質層S2、そのまた外側には第1の硬質層H1を配してなる。そして、第1の硬質層H1の外側には第1の軟質層S1を配しており、第1の軟質層S1がこの消しゴムE4の角部E4eを形成している。すなわち、本実施形態では、軟質層Sと硬質層Hとの境界面Bは、消しゴムE4の頂面及び底面E4a、E4bに対して傾斜している。
【0051】
この消しゴムE4による消字作業は、角部E4eを筆記面に当てて平行に擦ることにより行われるが、その際に軟質層Sと硬質層Hとの境界面Bは筆記面と平行ないしそれに近い角度となる。
【0052】
このようなものであれば、本発明の最も主要な効果、すなわち消しゴムとしての機能の低下を抑制しつつ、消しゴム全体としての耐久性を確保できるという効果以外に、以下のような効果を得ることもできる。
【0053】
すなわち、本実施形態の構成によれば、消字作業の際に境界面Bを含む部位を筆記面に当てて擦ることは少なく、このことから、境界面Bが強い作用を受けて軟質層Sと硬質層Hとが剥離する不具合が起こりにくい。
【0054】
<第5実施形態(図10図11)>
本実施形態の消しゴムE5は、図10及び図11に示すように、その全体が、第1の素材により形成された軟質層Sと第2の素材により形成された硬質層Hとを交互に積層してなる積層部位P1である。なお、第1及び第2の部材は、前述した第1実施形態に係るものと同一である。
【0055】
また、本実施形態では、正面視中央に矩形状の第2の硬質層H2を配しており、その外側に矩形状の第2の軟質層S2、そのさらに外側に矩形状の第1の硬質層H1、またさらに外側に矩形状の第1の軟質層S1といったようにそれぞれ矩形状の軟質層S及び硬質層Hを交互に配してなる。そして、第1の軟質層S1の外周面が、消しゴムE5全体の外周面すなわち頂面E5a、底面E5b及び両側面E5cを形成している。
【0056】
このようなものであれば、本発明の最も主要な効果、すなわち消しゴムとしての機能の低下を抑制しつつ、消しゴムE5全体としての耐久性を確保できるという効果以外に、以下のような効果を得ることもできる。
【0057】
すなわち、本実施形態の構成によれば、初期の状態ではどの部位を筆記面に当てても第1の軟質層S1が筆記面に当たり、その内側に第1の硬質層H1が存在することとなるので、擦る際の作用を受けて剥離することなく、第1の軟質層S1が第1の硬質層H1によりサポートされるような構成を実現できる。
【0058】
なお、本発明は以上に述べた各実施形態に限らない。
【0059】
例えば、互いに処方が異なる3つ以上の素材によりそれぞれ形成された複数の層を積層してなる消しゴムに本発明を適用してもよい。また、処方が異なる複数の素材の組み合わせは、隣接する層の境界面近傍では層同士が境界面に沿って剥離しないようにすべく隣接する層を形成する素材を互いに融解させることができ、かつ隣接する層の一方に裂け目が入った際に境界面近傍で破断の伝播が抑制されるようにできるものであれば任意のものを採用してもよい。
【0060】
加えて、少なくとも一部に積層部位を有するものであれば、その他の部位の構成は任意に設定してもよい。例えば、前述したように、原料となる基材、可塑剤及び添加剤のいずれか若しくは全てが異なるものであってもよく、また、原料となる基材、可塑剤及び添加剤の一部または全部が共通でありそれらの配合割合が異なるものであってもよい。但し、基材が共通で一方の素材に含まれる可塑剤の成分に他方の素材に含まれる可塑剤の成分が30重量%以下しか含まれない、より望ましくは10重量%以下しか含まれない、あるいは全く含まれないものであれば、両素材を境界面付近で融合可能にしつつ破断の伝播を抑制できる構成を容易に実現できる。
【0061】
そして、原料となる基材、可塑剤及び添加剤は任意に選択してよい。特に、硬度に影響する成分としては、前述した実施形態において用いられた重質炭酸カルシウム以外に、軽質炭酸カルシウム、シリカ、酸化マグネシウム等、種々のものを採用してよい。
【0062】
その他、筒状のケースに収納する等、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変形してよい。
【符号の説明】
【0063】
E1~E5…消しゴム
S(S1~S4)…(第1~第4の)軟質層
H(H1~H3)…(第1~第3の)硬質層
B…境界面
P1…積層部位
P2…外周部位
P3…接続部位
図1
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