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  • 特開-ラップフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164221
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20221020BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08J5/18
B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069566
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 謙次
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD13
3E086BA02
3E086BB01
3E086BB85
3E086BB90
3E086CA02
3E086DA08
4F071AA24X
4F071AA25
4F071AA42
4F071AC10
4F071AF16Y
4F071AF20Y
4F071AF53
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】本発明は、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムに米飯がこびりつかないラップフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニリデン系樹脂を含有し、前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含有し、ラップフィルムの表面に対する水の接触角が、70°以上120°以下である、ラップフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂を含有し、
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含有し、
ラップフィルムの表面に対する水の接触角が、70°以上120°以下である、
ラップフィルム。
【請求項2】
MD方向の引張弾性率が250MPa~600MPaである、
請求項1に記載のラップフィルム。
【請求項3】
TD方向の引裂強度が2cN~6cNである、
請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項4】
厚みが6μm~18μmである、
請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂は、透明性、耐水性及びガスバリア性等の特性に優れているため、ラップフィルム等の食品包装用材料として使用されている。近年、食品包装用材料は、上記特性だけでなく、成形加工性及び熱安定性等の特性も向上させ、さらに高機能化させることが求められている。食品包装用材料を高機能化させる方法としては、例えば、可塑剤や熱安定剤等の添加剤を配合する方法が挙げられる。このような添加剤としては、例えば、ラップフィルムの色調変化を抑制するために、エポキシ化植物油が使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/029594号
【特許文献2】特開2014-15590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラップフィルムを用いて、例えば、おにぎりや寿司などの握り米飯を調理することは一般的に行われていることである。具体的には、例えば、ラップフィルムを広げ、その上に食塩を振り、米飯と具をその上にのせ、四方からラップフィルムで包み、ラップを握っておにぎりを調理する。このときラップフィルムを用いることで、おにぎりに直接触れることがないので衛生的であるという利点がある。また、塩化ビニリデン系ラップフィルムを用いると、耐熱性が高いため、ラップフィルムからポリマーなどが溶出することもなく、衛生的である。
【0005】
しかし、例えば、米飯は炊飯中に米の粘り成分が外側に滲み出てきており、粘り成分が乾燥することでこびりつきやすくなる性質があり、米の表面とラップフィルムの界面での水分が減少することで、ラップフィルムに米飯がこびりつくことがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムに米飯がこびりつかないラップフィルムを提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、塩化ビニリデン系樹脂を含有するラップフィルムにおいて、塩化ビニリデン系樹脂中の塩化ビニリデンの量を特定範囲とし、ラップフィルムの表面に対する水の接触角を特定範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
[1]
塩化ビニリデン系樹脂を含有し、
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含有し、
ラップフィルムの表面に対する水の接触角が、70°以上120°以下である、
ラップフィルム。
[2]
MD方向の引張弾性率が250MPa~600MPaである、
[1]に記載のラップフィルム。
[3]
TD方向の引裂強度が2cN~6cNである、
[1]又は[2]に記載のラップフィルム。
[4]
厚みが6μm~18μmである、
[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムに米飯がこびりつかないラップフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のラップフィルムの製造工程の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0013】
〔ラップフィルム〕
本実施形態のラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、前記塩化ビニリデン系樹脂が塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含有し、ラップフィルムの表面に対する水の接触角が、70°以上120°以下である。
【0014】
本実施形態のラップフィルムは、ラップフィルムの表面に対する水の接触角が、70°以上120°以下であることで、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムに米飯がこびりつかないという効果を奏する。
当該効果を奏するメカニズムは、明らかではないが、本発明者は以下のとおり推定している。本実施形態のラップフィルムは、ラップフィルムの表面に対する水の接触角が70°以上であることで、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、米の表面より滲み出てきた水がある程度の範囲は広がるものの厚みのある半球状の形で保持することができ、また、該水の接触角が120°以下であることで、保持した水が球状に近づくもののその場にとどめることができる。その結果、本実施形態のラップフィルムは、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムに米飯がこびりつかないと考えられる。
同様の観点から、本実施形態のラップフィルムは、ラップフィルムの表面に対する水の接触角が70°以上120°以下であることが好ましく、70°以上100°以下であることがより好ましい。
ラップフィルムの表面に対する水の接触角を前記範囲とする方法としては、特に限定されないが、ラップフィルムに含有させる添加剤の種類及び量を適宜調整する方法が挙げられる。
なお、本実施形態において、ラップフィルムの表面に対する水の接触角は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
(塩化ビニリデン系樹脂)
本実施形態に用いる塩化ビニリデン系樹脂としては、塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含むものであれば特に限定されず、塩化ビニリデンと重合可能な単量体とを含む塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0016】
塩化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル;メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸;アクリロニトリル;酢酸ビニル等が挙げられる。これら単量体は一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このなかでも、塩化ビニルがより好ましい。
【0017】
塩化ビニリデンの含有量は、塩化ビニリデン系樹脂の総量に対して、72mol%~93mol%であり、好ましくは75mol%~87mol%であり、より好ましくは79mol%~85mol%である。塩化ビニリデンの含有量が72mol%以上であることにより、塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が低く、ラップフィルムが軟らかくなる傾向にある。これにより、例えば、冬場等の低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けを低減できる。一方、塩化ビニリデンの含有量が93mol%以下であることにより、結晶性の大幅な上昇を抑制し、フィルム延伸時の成形加工性の悪化が抑制される傾向にある。
【0018】
塩化ビニリデンの含有量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置(400MHz以上)を用いて測定することができる。より具体的には、ラップフィルム0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解し、メタノール約30mLを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、真空乾燥し、塩化ビニリデン系樹脂の測定用サンプルを得る。そして、得られた測定用サンプルを重水素化テトラヒドロフランに5質量%になるように溶解させた後、この溶液を、測定雰囲気温度約27℃にてH-NMR測定する。得られたスペクトル中のテトラメチルシランを基準とした特有の化学シフトを用いて塩化ビニリデンの含有量を計算する。例えば、塩化ビニリデンと塩化ビニルの共重合体では、3.50~4.20ppm、2.80~3.50ppm、2.00~2.80ppmのピークを利用して計算する。
【0019】
また、塩化ビニリデン系樹脂において、塩化ビニリデンと重合可能な単量体の含有量は、好ましくは7~28mol%であり、より好ましくは13~25mol%であり、さらに好ましくは15~21mol%である。塩化ビニリデンと重合可能な単量体の含有量が上記範囲内であることにより、低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けが低減され、フィルム延伸時の成形加工性の悪化がより抑制される傾向にある。
【0020】
塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000~250,000であり、より好ましくは60,000~230,000であり、さらに好ましくは80,000~200,000である。塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることにより、ラップフィルムの機械強度がより向上する傾向にある。重量平均分子量が上記範囲内である塩化ビニリデン系樹脂は、例えば、塩化ビニリデンモノマーと塩化ビニルモノマーの仕込み比率や、重合開始剤の量、又は重合温度を制御することにより得ることができる。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0021】
塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは79質量%~96質量%である。塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、添加剤等による可塑化効果によって、溶融押し出しのシェアが小さくなるため異物の発生がより抑制される傾向にある。また、塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、フィルムが伸びやすくなるのを抑制でき、フィルムのカット性が一層向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、試料0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解し、メタノール約30mLを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、乾燥し、重量測定して得ることができる。
【0022】
(添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、上述した塩化ビニリデン系樹脂以外に各種添加剤を含んでいてもよい。上述したとおり、例えば、各種添加剤を適宜調整することで、ラップフィルムの表面に対する水の接触角を、70°以上120°以下とすることができたり、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上したり、手触り感がより向上したりする。
以下各種添加剤について詳細に説明する。
【0023】
(ステアリン酸長鎖アルキルエステル)
本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、ステアリン酸長鎖アルキルエステルを含んでいてもよい。本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、ステアリン酸長鎖アルキルエステルを含むことで、ラップフィルムの表面に対する水の接触角を、70°以上120°以下とすることができる傾向にある。これは、理由は明らかでないが、ステアリン酸長鎖アルキルエステルのカルボニル基が適度に水とのなじみを発現するとともに、長鎖アルキル部分が撥水効果を有するためと考えられる。
【0024】
ステアリン酸長鎖アルキルエステルとしては特に限定されないが、アルキル基が4以上の飽和アルキル基または不飽和アルキル基のものが好ましく、具体的には、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸オクチルなどが挙げられる。
【0025】
ステアリン酸長鎖アルキルエステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、1質量%超10質量%以下であることが好ましい。ステアリン酸長鎖アルキルエステルの含有量が上記範囲内であることにより、ラップフィルム表面にブリードし、展伸することで所望の水の接触角が得られる。また、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、手触り感がより向上する傾向にある。
【0026】
(オレイン酸長鎖アルキルエステル)
本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、オレイン酸長鎖アルキルエステルを含んでいてもよい。本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、オレイン酸長鎖アルキルエステルを含むことで、ラップフィルムの表面に対する水の接触角を、70°以上120°以下とすることができる傾向にある。これは、理由は明らかでないが、オレイン酸長鎖アルキルエステルのカルボニル基が適度に水とのなじみを発現するとともに、長鎖アルキル部分が撥水効果を有するためと考えられる。
【0027】
オレイン酸長鎖アルキルエステルとしては特に限定されないが、アルキル基が4以上の飽和アルキル基または不飽和アルキル基のものが好ましく、具体的には、特に限定されないが、例えば、オレイン酸ブチル、オレイン酸ペンチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸オクチルなどが挙げられる。
【0028】
オレイン酸長鎖アルキルエステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、1質量%超10質量%以下であることが好ましい。オレイン酸長鎖アルキルエステルの含有量が上記範囲内であることにより、ラップフィルム表面にブリードし、展伸することで所望の水の接触角が得られる。また、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、手触り感がより向上する傾向にある。
【0029】
(モノアセチル化脂肪酸エステル)
本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、モノアセチル化脂肪酸エステルを含んでいてもよい。本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、モノアセチル化脂肪酸エステルを含むことで、ラップフィルムの表面に対する水の接触角を、70°以上120°以下とすることができる傾向にある。これは、理由は明らかでないが、モノアセチル化脂肪酸エステルの2つのカルボニル基が適度に水とのなじみを発現するとともに、脂肪酸の長鎖アルキル部分が撥水効果を有するためと考えられる。
【0030】
モノアセチル化脂肪酸エステルとしては特に限定されないが、O-アセチルヒドロキシ脂肪酸エステルが好ましい。O-アセチルヒドロキシ脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アセチル乳酸エチル、アセチル乳酸ブチル、アセチルヒドロキシ酪酸エチル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどが挙げられる。
【0031】
モノアセチル化脂肪酸エステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、1質量%超10質量%以下であることが好ましい。モノアセチル化脂肪酸エステルの含有量が上記範囲内であることにより、ラップフィルム表面にブリードし、展伸することで所望の水の接触角が得られる。また、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、手触り感がより向上する傾向にある。
【0032】
(水添ロジン誘導体)
本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、モノアセチル化脂肪酸エステルを含んでいてもよい。本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、水添ロジン誘導体を含むことで、ラップフィルムの表面に対する水の接触角が、70°以上120°以下とすることができる傾向にある。これは、理由は明らかでないが、水添ロジン誘導体が有するカルボニル基が適度に水とのなじみを発現するとともに、ロジンの6員環構造部分が撥水効果を有するためと考えられる。
【0033】
水添ロジン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、水添ロジン、水添ロジン酸グリセリル、水添ロジン酸ペンタエリスリチル、水添ロジン酸メチル、(水添ロジン/ジイソステアリン酸)グリセリル、トリ水添ロジン酸グリセリル、(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ペンタエリスリチル、部分水添ロジン酸メチルなどが挙げられる。これらの中で、水添ロジン酸メチルが好ましい。
【0034】
水添ロジン誘導体の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、1質量%超10質量%以下であることが好ましい。水添ロジン誘導体の含有量が上記範囲内であることにより、ラップフィルム表面にブリードし、展伸することで所望の水の接触角が得られる。また、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、手触り感がより向上する傾向にある。
【0035】
(トリエチレングリコールの脂肪酸ジエステル)
本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、モノアセチル化脂肪酸エステルを含んでいてもよい。本実施形態のラップフィルムは、添加剤として、トリエチレングリコールの脂肪酸ジエステルを含むことで、ラップフィルムの表面に対する水の接触角を、70°以上120°以下とすることができる傾向にある。これは、理由は明らかでないが、トリエチレングリコールの脂肪酸ジエステルが有するトリエチレングリコール部分が水とのなじみを発現するとともに、脂肪酸エステルの長鎖アルキル部分が撥水効果を有するためと考えられる。
【0036】
トリエチレングリコールの脂肪酸ジエステルとしては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレンジカプレート、トリエチレングリコールジステアレートなどが挙げられる。これらの中で、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレンジカプレートが好ましい。
【0037】
トリエチレングリコールの脂肪酸ジエステルの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、1質量%超10質量%以下であることが好ましい。トリエチレングリコールの脂肪酸ジエステルの含有量が上記範囲内であることにより、ラップフィルム表面にブリードし、展伸することで所望の水の接触角が得られる。また、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、手触り感がより向上する傾向にある。
【0038】
(その他の添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことができる。なお、クエン酸エステルが取り扱い性の点から好ましく、特にアセチルクエン酸トリブチルが好ましい。
【0039】
(クエン酸エステル)
クエン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、アセチルクエン酸トリ-n-(2-エチルヘキシル)などがある。
【0040】
これらのなかでも、アセチルクエン酸トリブチルが好ましい。このようなクエン酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、ラップフィルムに柔軟性を付与することで、密着性が向上するほか、手触り感がより向上する傾向にある。
【0041】
(二塩基酸エステル)
二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル;アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル;セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステルが挙げられる。
【0042】
これらのなかでも、脂肪族二塩基酸エステルが好ましく、セバシン酸ジブチルがより好ましい。このような二塩基酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、ラップフィルムに柔軟性を付与することで、密着性が向上するほか、手触り感がより向上する傾向にある。
【0043】
(アセチル化脂肪酸グリセライド)
アセチル化脂肪酸グリセライドとしては、特に制限されないが、例えば、アセチル化カプリル酸グリセライド、アセチル化カプリン酸グリセライド、アセチル化ラウリン酸グリセライド、アセチル化ミリスチン酸グリセライド、アセチル化パーム核油グリセライド、アセチル化ヤシ油グリセライド、アセチル化ヒマシ油グリセライド、アセチル化硬化ヒマシ油グリセライドが挙げられる。
【0044】
上記アセチル化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸のアセチル化モノグリセライド、脂肪酸のアセチル化ジグリセライド、脂肪酸のアセチル化トリグリセライドのいずれであってもよい。例えば、上記アセチル化ラウリン酸グリセライドには、ラウリン酸のアセチル化モノグリセライド、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライド(DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール)、ラウリン酸のアセチル化トリグリセライドが含まれる。このなかでも、アセチル化ラウリン酸グリセライドが好ましく、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライドがより好ましい。このような、アセチル化脂肪酸グリセライドを用いることにより、ラップフィルムに柔軟性を付与することで、密着性が向上するほか、手触り感がより向上する傾向にある。
【0045】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0046】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の合計含有量は、ラップフィルムの総量に対して、より優れた成形加工性の付与、及び添加剤高含有時のラップフィルムの過剰な密着性防止等の点から、3質量%~8質量%が好ましく、3.5質量%~7質量%がより好ましい。特に、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが、クエン酸エステルや二塩基酸エステルを3質量%以上含有する場合、塩化ビニリデン系樹脂の分子鎖の運動性が高くなるため、微結晶の形成や成長等の再配列が発生しやすく、高温下に晒されると物理的に劣化しやすくなり、また、フィルムが伸びやすくなるため切断刃がフィルムに食い込みにくくなり、カット性が低下する傾向にあるため、本発明の構成による効果が顕著である。
【0047】
(エポキシ化植物油)
本実施形態のラップフィルムは、エポキシ化植物油を含有してもよい。エポキシ化植物油は、塩化ビニリデン系樹脂押出加工用安定剤として作用し得る。エポキシ化植物油としては、特に限定されないが、一般的に、食用油脂をエポキシ化して製造されるものが挙げられる。具体的には、エポキシ化植物油は、例えば、エポキシ化大豆油(ESO)、エポキシ化アマニ油が挙げられる。これらのなかでも、エポキシ化大豆油が好ましい。このようなエポキシ化植物油を用いることにより、ラップフィルムの手触り感がより向上し、化粧箱からのフィルムの引出性もより向上する傾向にある。
【0048】
本実施形態におけるエポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは0.5質量%~3質量%であり、より好ましくは1質量%~2.5質量%であり、さらに好ましくは1質量%~2質量%である。エポキシ化植物油の含有量が0.5質量%以上であることにより、ラップフィルムの品質変化がより抑制される傾向にある。また、エポキシ化植物油の含有量が3質量%以下であることにより、ラップフィルムの色調変化がより抑制され、ブリードによるべたつきが抑制される傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、エポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの再沈濾液をNMRで分析して得ることができる。
【0049】
具体的には、サンプルを50mg秤量し、重溶媒(溶媒:重水素化テトラヒドロフラン、内部標準:テレフタル酸ジメチル、容量:0.7mL)に溶かし、400MHzプロトンNMR(積算回数:512回)測定し、8.05~8.11ppmの積分値に対する2.23~2.33ppmの積分値の比を積分比とし、絶対検量線法で定量値を計算することで、得ることができる。
積分比 = 積分値(2.23~2.33ppm)/積分値(8.05~8.11ppm)
【0050】
本実施形態のラップフィルムは、上記以外の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、上記以外の可塑剤、上記以外の安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)等のポリマー等が挙げられる。
【0051】
エポキシ化植物油以外の安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、2,5-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)ブロピオネート、及び4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等の酸化防止剤;ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2-エチル-ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤が挙げられる。安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0052】
耐候性向上剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、及び2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。耐候性向上剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0053】
染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。着色剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0054】
防曇剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。防曇剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0055】
抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。抗菌剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0056】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。滑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0057】
核剤としては、特に限定されないが、具体的には、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。核剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0058】
(ラップフィルムの厚み)
本実施形態のラップフィルムの厚みは、好ましくは6μm~18μmであり、より好ましくは9μm~12μmである。ラップフィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する。
【0059】
より具体的には、ラップフィルムの厚みが6μm以上であることにより、ラップフィルムのTD方向及びMD方向における引裂強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される傾向にある。また、ラップフィルムの厚みが6μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない傾向にある。そのため、巻回体からラップフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からラップフィルムが裂けるトラブルがより抑制される。
【0060】
一方、ラップフィルムの厚みが18μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でラップフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する傾向にある。また、ラップフィルムの厚みが18μm以下であることにより、ラップフィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する傾向にある。
【0061】
(引裂強度)
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、好ましくは2.0cN~6.0cNであり、より好ましくは2.0cN~4.0cNであり、さらに好ましくは2.2cN~3.0cNである。TD方向の引裂強度が2.0cN以上であることにより、特に巻回体からラップフィルムを引き出す際の裂けを低減でき、また、ラップフィルム使用時の意図しない裂けトラブルを抑制できる。一方、TD方向の引裂強度が6.0cN以下であることにより、化粧箱に付帯する切断刃でフィルムをTD方向にカットする際に裂きやすく、カット性が向上する。
【0062】
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、延伸速度、及びフィルムの厚み等によって調整することができる。特に限定されないが、例えば、TD方向の引裂強度はTD方向の延伸倍率を低くしたり、ラップフィルムを厚くすることによって、向上する傾向にあり、TD方向の延伸倍率を高くしたり、ラップフィルムを薄くすることによって、低下する傾向にある。なお、引裂強度は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0063】
(引張弾性率)
本実施形態のラップフィルムのMD方向の引張弾性率は、好ましくは250MPa~600MPaであり、より好ましくは300MPa~500MPaであり、さらに好ましくは350MPa~500MPaである。MD方向の引張弾性率が250MPa以上であることにより、切断刃でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延びを抑制でき、切断刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上する。一方、MD方向の引張弾性率が600MPa以下であることにより、フィルムが軟らかく、切断刃の形状に沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生するのを抑制できる傾向にある。その結果、巻回体からフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際、切断端面からフィルムが裂けるトラブルが発生するのを抑制できる傾向にある。
【0064】
本実施形態のラップフィルムのMD方向の引張弾性率は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、及び延伸速度等によって調整できる。特に限定されないが、例えば、MD方向の引張弾性率は、延伸倍率を高くしたり、添加剤量を低減することによって、向上する傾向にあり、延伸倍率を低くしたり、添加剤量を増加することによって、低下する傾向にある。なお、引張弾性率は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0065】
〔ラップフィルムの製造方法〕
本実施形態のラップフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含有する塩化ビニリデン系樹脂と、各種添加剤とを含む組成物を溶融押し出しして、フィルム状にする工程と、得られたフィルムをMD方向及びTD方向に延伸する工程と、を有する方法が挙げられる。以下、詳説する。
【0066】
(混合工程)
図1に、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図を示す。まず、混合機により、塩化ビニリデン系樹脂と、各種添加剤を混合して組成物を得る。この際、必要に応じて各種添加剤を混合してもよい。混合機は、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー又はヘンシェルミキサー等を用いることができる。得られた組成物は、1~30時間程度熟成させて次の工程に用いることが好ましい。
【0067】
(溶融押出工程)
次いで、得られた組成物を押出機1により溶融し、ダイ2のダイ口3から管状のフィルムを押出し、ソック4(パイルとも呼ぶ)を形成する。
【0068】
(冷却工程)
ソック4の内側にソック液5を注入し、ソック4の外側は冷水槽6の冷水に接触させる。これにより、ソック4は、内側と外側の両方から冷却され、ソック4を構成するフィルムは固化する。固化したソック4は、第1ピンチロール7により折り畳まれ、パリソン8を成形する。
【0069】
(延伸工程)
続いて、パリソン8の内側にエアを注入することにより、パリソン8を開口し、環状のフィルムを形成する。このとき、ソック4の内面に当たる部分に塗布されたソック液5はパリソン8の開口剤としての効果を発揮する。次いで、パリソン8は、開口した状態で、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン8の外側に付着した温水は、第2ピンチロール9にて搾り取られる。
【0070】
上記のようにして適温まで加熱されたパリソン8の内側にエアを注入してバブル10を成形する。このエアが内側からパリソンを押し広げることで、フィルムが延伸され、延伸フィルムが得られる。主にTD方向のフィルムの延伸は、エアの量により行われ、MD方向のフィルムの延伸は、第2ピンチロール9と第3ピンチロール11等を用いてフィルムの流れ方向に張力を掛けることにより行われる。
【0071】
第1ピンチロール7から第3ピンチロール11までの工程を延伸工程という。延伸速度を遅くするとパリソン8の延伸性が向上するため、従来のラップフィルムの製造方法においては、MD方向の延伸速度を0.08倍/秒以下に調整し、TD方向の延伸速度を3.0倍/秒以下に調整していた。これに対して、本実施形態のラップフィルムの製造方法では、MD方向及びTD方向の延伸倍率と、MD方向及びTD方向の延伸速度を所定の範囲に調整することが好ましい。
【0072】
具体的には、本実施形態に用いる延伸工程におけるMD方向及びTD方向の延伸倍率は、各々独立して、好ましくは4倍~6倍であり、より好ましくは4.1倍~5.6倍である。ここで、MD方向の延伸倍率は、パリソン8をMD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、図1においては、第1ピンチロール7の回転速度に対する第3ピンチロール11の回転速度の比によって算出することができる。TD方向の延伸倍率は、パリソン8をTD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、図1においては、パリソン8の幅の長さに対するダブルプライフィルム12の幅の長さの比によって算出することができる。MD方向の延伸倍率は、例えば、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の回転速度比により調整することができ、TD方向の延伸倍率は、例えば、パリソン8の延伸温度やバブル10の大きさで調整することができる。
【0073】
また、本実施形態の延伸工程におけるMD方向の延伸速度は、好ましくは0.09倍/秒~0.12倍/秒である。MD方向の平均延伸速度は、パリソンが第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間を通過する時間に対するMD方向への延伸倍率をいい、例えば、図1においては、第1ピンチロール7の回転速度、第3ピンチロール11の回転速度、及びパリソン8が第1ピンチロール7と第3ピンチロール11間を通過するのに要する時間によって算出することができる。MD方向の延伸速度は、例えば、第1ピンチロール7や第3ピンチロール11の回転速度、又は、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間の距離により、調整することができる。
【0074】
さらに、本実施形態の延伸工程におけるTD方向の延伸速度は、好ましくは3.1倍/秒~4.0倍/秒である。TD方向の平均延伸速度は、パリソン8がバブル10まで膨らむのに要する時間に対するTD方向への延伸倍率をいい、例えば、図1においては、パリソン8及びバブル10の静止画像を利用して測定した延伸長と第3ピンチロール11の回転速度から算出したTD方向の延伸に要する時間と、TD方向の延伸倍率から算出できる。TD方向の延伸速度は、例えば、第3ピンチロール11の回転速度により調整することができる。
【0075】
延伸温度は、特に限定されないが、好ましくは30℃~45℃である。
【0076】
上記延伸工程後、延伸フィルムは、第3ピンチロール11で折り畳まれ、ダブルプライフィルム12となる。ダブルプライフィルム12は、巻き取りロール13にて巻き取られる。
【0077】
(緩和工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、延伸直後のラップフィルムを緩和する緩和工程を有することが好ましい。ラップフィルムの製造方法において比較的一般に行われる緩和方法は、延伸後に赤外ヒーター等の熱を利用してフィルムを緩和させるものである。しかしながら、本実施形態においては、この緩和工程に代えて、第3ピンチロール11より巻き取りロール13の回転速度を遅くすることで、延伸フィルムを緩和させる方法を用いることが好ましい。これは、本実施形態において、従来の熱を利用した緩和方法を利用した場合、熱によりフィルムの裂けの原因である微結晶の形成・成長が起こるためである。
【0078】
第3ピンチロール11と巻き取りロール13を用いた緩和工程における緩和比率は、好ましくは7%~15%であり、より好ましくは9%~13%である。緩和比率が15%以下であることにより、第3ピンチロール11と巻き取りロール13間でフィルムの弛みの発生により、シワの発生をより抑制できる傾向にある。また、緩和比率が7%以上であることにより、ラップフィルムを十分に緩和させることができ、高温に晒された場合であっても、分子鎖の再配列が発生することができる。またこれにより、裂けトラブルを低減できる傾向にある。ここで、「緩和比率」とは、第3ピンチロール11と巻き取りロール13間でダブルプライフィルム12を収縮させた比率をいい、例えば図1の場合、第3ピンチロール11の回転速度に対する巻き取りロール13の比率を利用して算出できる。
【0079】
また、第3ピンチロール11と巻き取りロール13を用いた緩和工程の雰囲気温度は、好ましくは25℃~32℃である。雰囲気温度が上記範囲内であることにより、微結晶の形成・成長が抑制される傾向にある。
【0080】
(スリット工程)
上記のようにして巻き取られたラップフィルムは、スリットされて、1枚のラップフィルムになるように剥がしながら巻き取られ、一時的に1~3日間原反の状態で保管される。最終的には原反から紙管に巻き返され、化粧箱に詰められることで、化粧箱に収納されたラップフィルム巻回体が得られる。
【0081】
(保管工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、ラップフィルムをスリットした後、原反の状態で保管する保管工程を行ってもよい。保管温度は、好ましくは19℃以下であり、より好ましくは5℃~19℃であり、さらに好ましくは5℃~15℃である。また、保管時間は、好ましくは20時間~50時間であり、より好ましくは24時間~40時間である。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0083】
[塩化ビニリデンの含有量]
ラップフィルム中のポリ塩化ビニリデン系樹脂における塩化ビニリデンの含有量(比率)は、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置を用いて測定した塩化ビニリデン繰り返し単位の含有量から求めた。ラップフィルム0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解し、メタノール約30mLを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、真空乾燥し、塩化ビニリデン系樹脂の測定用サンプルを得た。そして、得られた測定用サンプルを5質量%になるように重水素化テトラヒドロフランに溶解させた溶液を、測定雰囲気温度約27℃にてH-NMR測定した。例えば、塩化ビニリデン(VDC)と塩化ビニル(VC)との共重合体に関しては、テトラメチルシランを基準とした共重合体の3.50~4.20ppm、2.80~3.50ppm、2.00~2.80ppmのピークを利用して塩化ビニリデンの繰り返し単位の含有量を計算し、その値を塩化ビニリデンの含有量とした。なお、他の共重合体に関しても、モノマー毎のピークを利用して繰り返し単位の含有量を計算することができる。
【0084】
[フィルムの厚み]
ダイヤルゲージ(テクロック社製)を利用し、23℃、50%RHの雰囲気中で、ラップフィルムの厚みの測定を行った。
【0085】
[引裂強度]
ラップフィルムの引裂強度測定には軽荷重引裂試験機 D型(東洋精機製)を使用し、23℃、50%RHの雰囲気中にて引裂強度の測定を行った。ラップフィルムの引裂強度測定は、ラップフィルム1枚のみで行った。引裂方向のサンプル長さは63.5mmとし、サンプル幅は50.0mmとした。測定の際には、振り子を持ち上げてから止めた後、試験片を注意深くつまみ具に取り付け、スリットを入れる位置がフィルム幅の中央となるように、クランプをしっかりと締め付けた。その後、装置に取り付けられたナイフでフィルムにスリットを入れた。この際に、フィルムの切り込み長さが12.7mm±0.5mmになるよう、ナイフの刃位置を調整した。スリットを入れた後、振り子を注意深く解放し、試験片を引き裂くのに要した力の値を読み取った。当該読み取った値をTD方向の引裂強度とした。引裂線がスリットの延長線より10mm以上それた試験は除外し、代わりに追加の試験片の試験を行った。また、測定結果は小数点第2位の値を四捨五入した。サンプルを変えて計5回測定し、5回の平均値を測定値とした。
【0086】
[引張弾性率]
ラップフィルムの引張弾性率測定はオートグラフAG-IS(島津製作所製)を使用し、23℃、50%RHの雰囲気中にて評価した。5mm/分の引張速度、チャック間距離100mm、フィルム幅10mmの条件で2%伸長時の荷重を測定し、測定サンプルの断面積で割り返してから、50倍にしてMD方向の引張弾性率を測定した。測定の際には、試験機の軸に試験片のMD方向が一致するように、つかみ具に取り付けた。試験片は、滑りを防ぐために、かつ、試験中につかみ部分がずれないように、つかみ具で均等にしっかりと締めた。また、つかみ具間の圧力によって、試験片の割れ、及び、圧延が起きてはならない。また、測定結果は有効数字を2桁として、3桁目を四捨五入した。
【0087】
[接触角]
プレパラートに張り付けた試験用フィルムの表面に純水2.0μLの液滴を滴下し、着滴1秒後に、滴下した液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、試験用フィルム表面に対する角度から接触角を算出するθ/2法に従って測定する方法を用いてラップフィルムの表面に対する水の接触角を求めた。上記水の接触角の測定装置としては、協和界面科学社製 接触角計DM 701を用いて、23℃、50%RHの雰囲気中にて評価した。サンプルを変えて計5回測定し、5回の平均値を測定値とした。
【0088】
[手触り感(サラサラ感)]
ラップフィルムの手触り感(サラサラ感)の評価を実施した。評価者として、日常、食品包装用ラップフィルムを使用する100人を選出し、評価者の官能評価により評価した。評価者にはそれぞれ10点を与え、べたつきが感じられるものを0点、サラサラとした感じが得られるものを10点とし、評価者100人の平均点を算出した。この平均点を評価に用いた。なお、評価環境は23℃、相対湿度50%RHの雰囲気とした。
〔手触り感(サラサラ感)の評価基準〕
◎:8点以上:べたつきが全くなくサラサラと非常に良好なレベル。
〇:3点以上8点未満:べたつきが殆どなく良好なレベル。
×:3点未満:わずかにべたつきが感じられやや不快なレベル。
【0089】
[ごはんの付着量]
炊き立てのごはんをバットに取り出し、粗熱がとれたら、22cm幅長さ30cm程度のラップフィルム上に100g計量し、フィルムの端4方向からごはんを包みこみ、形を整えながら5回軽くにぎった。出来上がったおにぎりを23℃の部屋で3時間放置後、ラップフィルムを開いてごはん粒の付着状況を以下の基準で評価した。
〔ごはん付着評価基準〕
◎: ごはん粒が全く付着していない。
○: ごはん粒の付着数が10粒以内である。
×: ごはん粒の付着数が10粒超である。
【0090】
[実施例1]
重量平均分子量90,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン繰り返し単位が82mol%、塩化ビニル繰り返し単位が18mol%)に、アセチルクエン酸トリブチル(田岡化学工業(株))5.5質量%、エポキシ化大豆油(ニューサイザー510R、日本油脂(株))1.1質量%、ステアリン酸n-ブチル(エキセパールBS 花王製)1.0質量%をヘンシェルミキサーにて5分間混合した。混合後、24時間以上熟成して組成物を得た。
【0091】
得られた組成物を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイから溶融押出してソックを形成した。この際、環状ダイのスリット出口における溶融樹脂温度が170℃になるように押出機の加熱条件を調節し、環状に10kg/時間の押出速度で押出した。
【0092】
これをソック液と冷水槽で冷却した後、パリソンを開口してバブルを形成し、表1に示す延伸条件で、インフレーション延伸を行った。この際、MD方向は4.1倍に延伸し、TD方向は5.6倍に延伸して、筒状フィルム(バブル)を形成した。なお、延伸温度は35℃とした。
【0093】
得られた筒状フィルムをニップして扁平に折り畳んだ後、ピンチロールと巻き取りロールの速度比の制御によって、MD方向にフィルムを緩和(緩和比率10%)させ、ダブルプライフィルムの幅280mmの2枚重ねのフィルムを巻き取った。このフィルムを、220mmの幅にスリットし、1枚のフィルムに剥がしながら外径92mmの紙管に巻き直した。その後、外径36mm、長さ230mmの紙管に20m巻き取ることで、ラップフィルム(厚さ:11μm)の巻回体を得た。得られたラップフィルムの巻回体を15℃、30時間保管し、これを用いて上記方法により各評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0094】
[実施例2~8及び比較例1~3]
添加剤の種類及び量等を表1のとおり変更した以外は実施例1と同様にしてラップフィルムの巻回体を作製し、上記方法により各評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のラップフィルムは、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムに米飯がこびりつかないので、食品包装用等の用途として有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 押出機
2 ダイ
3 ダイ口
4 管状の塩化ビニリデン系共重合体組成物
5 ソック液(インフレーション成形用剥離剤)
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻き取りロール
図1