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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164223
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/54 20060101AFI20221020BHJP
   H01J 65/00 20060101ALI20221020BHJP
   H01J 61/16 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01J61/54 N
H01J65/00 B
H01J61/16 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069570
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 彰裕
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
【テーマコード(参考)】
5C015
【Fターム(参考)】
5C015PP04
5C015PP06
(57)【要約】
【課題】エキシマランプを紫外線光源とする紫外線照射装置において、始動性を向上させる。
【解決手段】紫外線照射装置は、放電用ガスが封入された放電容器を有するエキシマランプと、放電容器の長手方向に離間して配置され、放電容器の外面に接触する第1及び第2の電極体と、第1及び第2の電極体の何れか一方の電極体に接続されるとともに他方の電極体に向かって延びる始動補助電極と、始動補助電極と他方の電極体との間に介在する誘電体と、を有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電用ガスが封入された放電容器を有するエキシマランプと、
前記放電容器の長手方向に離間して配置され、前記放電容器の外面に接触する第1及び第2の電極体と、
前記第1及び第2の電極体の何れか一方の電極体に接続されるとともに他方の電極体に向かって延びる始動補助電極と、
前記始動補助電極と前記他方の電極体との間に介在する誘電体と、を有する紫外線照射装置。
【請求項2】
前記第1の電極体又は前記第2の電極体に凹部が形成されており、
前記誘電体は、前記凹部によって保持される、請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記エキシマランプは、長手方向と交差する方向に複数設けられ、
前記始動補助電極は、隣り合う前記エキシマランプの間に配置される、請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
前記誘電体は、一端が閉塞された筒形状をしており、前記始動補助電極の先端部を覆う、請求項1~3の何れか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
前記始動補助電極は、先端部が前記誘電体に押し当てられるように弾性を有する、請求項1~3の何れか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項6】
前記誘電体は、前記放電容器の長手方向に延びる板状であり、前記始動補助電極と前記他方の電極体により両面から挟まれている、請求項1~3の何れか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項7】
前記誘電体は、前記第1の電極体と前記第2の電極体に跨って配置される、請求項1~3の何れか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項8】
前記放電用ガスがハロゲンガスを含む、請求項1~3の何れか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項9】
前記放電用ガスがKr及びCl2の混合ガスである、請求項1~3の何れか1項に記載の紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置に関し、特に、エキシマランプを紫外線光源とする紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放電容器の外表面に一対の外部電極を対向して配置したエキシマランプが知られており、始動性を改善するため、放電容器の内面に導電性物質からなる始動補助電極を設けることが知られている(例えば下記特許文献1)。
【0003】
特許文献1において、外部電極には、その管軸方向の端部から放電容器の管軸方向に沿って延びる根元部と、該根元部の先端から放電容器の幅方向に延びる枝部と、からなる枝状電極が設けられ、始動補助電極は、外部電極の枝状電極の枝部の先端と放電容器を介して重なるように配置されている。この構成により、エキシマランプの始動時に、一方の外部電極に印加された高周波電流は一種のコンデンサ結合をした状態となって放電容器を構成する誘電体の壁を通じて他方の外部電極に高周波電流が流れ、放電が発生しやすくなり、始動性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-190676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図26に示すようなエキシマランプ90の長手方向に電極ブロック(91,92)を配置し、放電容器の外表面を電極ブロック(91,92)に接触させ、電極ブロック(91,92)間に高電圧を印加して放電させるエキシマランプ90において、上記の発想を適用し、始動補助電極93を放電容器の内面に配置すると、始動補助電極93付近に放電が集中してしまい、紫外光を放射する効率が下がる。
【0006】
また、放電容器に希ガスとハロゲンガスが封入される場合、ハロゲンガスは反応性が高く、導電性物質に吸収されてしまうため、放電容器内に始動補助電極を形成することが難しい。
【0007】
さらに、ハロゲンガスは電子親和力が大きく、放電容器にハロゲンガスが封入されたエキシマランプは始動しにくい傾向にあり、始動性の改善が求められる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑み、エキシマランプを紫外線光源とする紫外線照射装置において、始動性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る紫外線照射装置は、
放電用ガスが封入された放電容器を有するエキシマランプと、
前記放電容器の長手方向に離間して配置され、前記放電容器の外面に接触する第1及び第2の電極体と、
前記第1及び第2の電極体の何れか一方の電極体に接続されるとともに他方の電極体に向かって延びる始動補助電極と、
前記始動補助電極と前記他方の電極体との間に介在する誘電体と、を有する。
【0010】
この構成によれば、始動補助電極による大気放電の発光により、エキシマランプの放電容器内でのエキシマの励起が誘導されるため、エキシマランプの始動性が向上する。
【0011】
本明細書において「始動補助電極と他方の電極体との間に介在する」とは、単に両者の間に存在することを意味し、誘電体は、両者に接触していても、接触していなくてもよい。具体的には、誘電体は、始動補助電極と他方の電極体との間に存在し、始動補助電極と他方の電極体に接触していても、接触していなくてもよい。また、誘電体と、始動補助電極又は他方の電極体との間に別の部材が存在しても構わない。
【0012】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記第1の電極体又は前記第2の電極体に凹部が形成されており、
前記誘電体は、前記凹部によって保持される、という構成でもよい。
【0013】
この構成によれば、誘電体が凹部によって保持されるため、衝撃や振動に対して強くなる。
【0014】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記エキシマランプは、長手方向と交差する方向に複数設けられ、前記始動補助電極は、隣り合う前記エキシマランプの間に配置される、という構成でもよい。
【0015】
始動補助電極を挟んだ2つのエキシマランプの一方が点灯すれば、これをトリガとして他方も点灯するため、どちらか一方のエキシマランプを点灯すればよく、始動補助電極を隣り合うエキシマランプの間に配置することで始動補助電極による点灯補助の確率が上がる。
【0016】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記誘電体は、一端が閉塞された筒形状をしており、前記始動補助電極の先端部を覆う、という構成でもよい。
【0017】
この構成によれば、誘電体の表面での沿面放電が生じにくくなる。
【0018】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記始動補助電極は、先端部が前記誘電体に押し当てられるように弾性を有する、という構成でもよい。
【0019】
この構成によれば、誘電体が始動補助電極によって保持されるため、衝撃や振動に対して強くなる。
【0020】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記誘電体は、前記放電容器の長手方向に延びる板状であり、前記始動補助電極と前記他方の電極体により両面から挟まれている、という構成でもよい。
【0021】
この構成によれば、誘電体及び始動補助電極の構造をシンプルにできるため、製造しやすい。
【0022】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記誘電体は、前記第1の電極体と前記第2の電極体に跨って配置される、という構成でもよい。
【0023】
この構成によれば、誘電体が第1及び第2の電極体の両方によって保持されるため、衝撃や振動に対してより強くなる。
【0024】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記放電用ガスがハロゲンガスを含む、という構成でもよい。
【0025】
ハロゲンガスを含む放電用ガスが封入されたエキシマランプは始動しにくいため、始動性の改善のために始動補助電極を設けることが好ましい。
【0026】
本発明に係る紫外線照射装置において、前記放電用ガスがKr及びCl2の混合ガスである、という構成でもよい。
【0027】
エキシマランプにKr及びCl2の混合ガスである放電用ガスが封入されている場合、エキシマランプから出射される紫外線の主たる発光波長は222nm近傍である。これらの波長帯の紫外線は、高い殺菌性能が示されるため、特に殺菌用途に適した紫外線照射装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の紫外線照射装置の一利用態様を模式的に示す図面である。
図2】紫外線照射装置の外観の一例を模式的に示す斜視図である。
図3図2から、ケーシングの本体部と蓋部とを分解して表示した斜視図である。
図4図3から複数のエキシマランプ及び電極体を抽出して図示した模式的な斜視図である。
図5】エキシマランプと電極体の位置関係を説明するための模式的な図面であり、エキシマランプを+Z方向に見たときの模式的な平面図である。
図6】電極体を光取り出し面とは反対側から見たときの斜視図である。
図7】電極体を光取り出し面とは反対側から見たときの平面図である。
図8】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図である。
図9】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図である。
図10】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図11】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図12】別実施形態に係る電極体を模式的に示す三面図である。
図13】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図である。
図14】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び断面図である。
図15】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図16】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図17】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図18】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図19】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図である。
図20】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図及び側面図である。
図21】別実施形態に係る電極体を模式的に示す平面図である。
図22】別実施形態に係る始動補助電極及び誘電体を模式的に示す図である。
図23】別実施形態に係る始動補助電極及び誘電体を模式的に示す図である。
図24】別実施形態に係る始動補助電極及び誘電体を模式的に示す図である。
図25】比較例2に係る電極体を模式的に示す平面図である。
図26】従来技術に係る電極体を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る紫外線照射装置の各実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致していない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致していない。
【0030】
図1は、本発明に係る紫外線照射装置の一利用態様を模式的に示す図面である。図1では、紫外線照射装置1が筐体100に搭載されており、紫外線照射装置1の光取り出し面30から、照射対象領域40に対して紫外線L1が照射される様子が模式的に図示されている。
【0031】
図2は、紫外線照射装置1の外観の一例を模式的に示す斜視図である。図3は、図2から、紫外線照射装置1のケーシング2の本体部2aと蓋部2bとを分解した斜視図である。
【0032】
以下の各図では、紫外線L1の取り出し方向をX方向とし、X方向に直交する平面をYZ平面とした、X-Y-Z座標系を参照して説明される。より詳細には、図2以下の図面を参照して後述されるように、エキシマランプ10の管軸方向をY方向とし、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とする。
【0033】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0034】
図2及び図3に示すように、紫外線照射装置1は、一方の面に光取り出し面30が形成されたケーシング2を備える。ケーシング2は、本体部2aと蓋部2bとを備え、本体部2a内には、複数のエキシマランプ10と電極体(21,22)とが収容されている。本実施形態の例では、ケーシング2内に4本のエキシマランプ10が収容されている。なお、電極体(21,22)は、エキシマランプ10への通電が可能な形態が採用でき、例えば、エキシマランプ10の放電容器11に接触するようブロック体、板状体、網状体等の形態を用いることができる。
【0035】
図4は、図3から複数のエキシマランプ10及び電極体(21,22)を抽出して図示した斜視図である。また、図5は、エキシマランプ10と電極体(21,22)の位置関係を模式的に示す側面図である。
【0036】
図4に示すように、本実施形態の紫外線照射装置1は、Z方向に離間して配置された4本のエキシマランプ10を備える。また、それぞれのエキシマランプ10の外表面の一部箇所に接触するように、2つの電極体(21,22)が配置されている。以下、電極体21を第1の電極体21、電極体22を第2の電極体22と称することもある。
【0037】
各エキシマランプ10は、Y方向を管軸方向とした放電容器11を有し、Y方向に離間した位置において、エキシマランプ10の放電容器11の外表面の一部が各電極体(21,22)に対して接触している。つまり、各電極体(21,22)は、いずれも各エキシマランプ10の放電容器11の外表面に接触しつつ、Z方向に関して各エキシマランプ10に跨るように配置されている。
【0038】
本実施形態における紫外線照射装置1は、上述したように、一対の電極体(21,22)を備えており、これらは相互にY方向に離間した位置に配置されている。電極体(21,22)は導電性の材料からなり、好ましくはエキシマランプ10から出射される紫外線に対する反射性を示す材料からなる。一例として、電極体(21,22)は、Al、Al合金、ステンレスなどで構成される。
【0039】
各電極体(21,22)の間に、例えば1kHz~5MHz程度の高周波の交流電圧が印加されると、各エキシマランプ10の放電容器11を介して、内部に封入された放電用ガス10Gに対して前記電圧が印加される。放電用ガス10Gのガス種としては、このような電圧が印加されると、ガス種を構成する原子が励起又はイオン化されることでエキシマ状態となった後、基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる材料であればよい。より具体的には、放電用ガス10Gとしては、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の一種又は複数種の希ガスであっても構わないし、フッ素(F)、塩素(Cl)、ヨウ素(I)、臭素(Br)等のハロゲンガスと前記希ガスとの混合ガスであっても構わない。
【0040】
一例として、放電用ガス10Gとしては、クリプトン(Kr)、塩素(Cl)及びアルゴン(Ar)の混合ガスとすることができる。なお、この場合、クリプトンと塩素は発光ガスとして機能し、アルゴンは緩衝ガスとして機能する。また、緩衝ガスとしては、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、ヘリウム(He)から選択される1以上の希ガスを用いることができる。
【0041】
Kr及びCl2の混合ガスを放電用ガス10Gとするエキシマランプ10は、ピーク波長が222nm近傍の紫外線を出射する。222nmを含む、190nm以上、235nm以下の波長帯の紫外線は、仮に人体の皮膚に対して照射されても、皮膚の角質層で吸収され、それよりも内側(基底層側)には進行しない。角質層に含まれる角質細胞は細胞としては死んだ状態であるため、例えば、波長254nmの紫外線が照射される場合のように、有棘層、顆粒層、真皮など、生きた細胞に吸収されてDNAが破壊されるというリスクがほとんど存在しない。
【0042】
そして、上記波長帯の紫外線は、照射対象物に対する殺菌効果が存在することが分かっている。従って、上記のような放電用ガスが封入されたエキシマランプを搭載した紫外線照射装置は、光殺菌作用を初めとする種々の用途への適用が想定され、幅広い利用場面が考えられる。
【0043】
図6は、ブロック状の電極体(21,22)を光取り出し面30とは反対側から見たときの斜視図である。また、図7は、電極体(21,22)を光取り出し面30とは反対側から見たときの平面図である。なお、図7において、後述する誘電体6は断面図で示されている。
【0044】
電極体(21,22)は同じ形状をしている。電極体(21,22)の-X側の面には、第1凹部23及び第2凹部24が形成されている。第1凹部23は、電極体(21,22)の+Y側の面から-Y方向に向かって延びている。また、第2凹部24は、電極体(21,22)の-Y側の面から+Y方向に向かって延びている。第1凹部23と第2凹部24は、Y方向に対向するように配置される。第1凹部23及び第2凹部24は、電極体(21,22)のZ方向中央部に形成されている。
【0045】
また、電極体(21,22)の-X側の面には、電源線7(図2参照)を接続するためのネジ穴25が形成されている。第1の電極体21のネジ穴25には高電圧側の電源線7が接続され、第2の電極体22のネジ穴25には低電圧側の電源線7が接続される。ただし、第1の電極体21のネジ穴25に低電圧側の電源線7が接続され、第2の電極体22のネジ穴25に高電圧側の電源線7が接続されても構わない。
【0046】
また、電極体(21,22)の+X側の面には、エキシマランプ10の放電容器11の外表面に接触する第3凹部26が形成されている。第3凹部26は、Z方向に等間隔に4つ設けられる。中央の2つの第3凹部26の間に第1凹部23及び第2凹部24が配置される。
【0047】
本実施形態の紫外線照射装置1は、始動補助電極5を備えている。始動補助電極5は、エキシマランプ10の始動を補助するために設置されている。始動補助電極5は、第1の電極体21に接続され、第2の電極体22に向かって延びている。本実施形態の始動補助電極5は、Y方向に延びている。
【0048】
本実施形態の始動補助電極5は、ばね状の近位部分5aと棒状の遠位部分5bとで構成され、全体として弾性を有している。近位部分5aは、第1の電極体21と電気的に接続される。近位部分5aは、第1の電極体21の第1凹部23内に配置され、第1凹部23の-Y側の内壁23aに接触している。近位部分5aは、自身の弾性力によって第1凹部23の内壁23aに押し当てられている。
【0049】
なお、本実施形態の始動補助電極5は、ばね状の近位部分5aと棒状の遠位部分5bとで構成されているが、始動補助電極5の形状としては、これに限定されない。始動補助電極5の形状は、全体として柱状、棒状、薄板状などでもよい。また、始動補助電極5の遠位部分5bの形状も、棒状に限定されず、薄板状などでもよいが、遠位部分5bの先端部5cは尖っていることが好ましい。これにより、始動補助電極5の先端部5cに電界が集中するため、始動補助電極5の先端部5cにおいて放電がしやすくなる。
【0050】
始動補助電極5は、導電性を有する材料からなる。一例として、始動補助電極5は、アルミニウム、ステンレス、モリブデン、タングステンなどの金属で構成される。
【0051】
始動補助電極5と第2の電極体22との間には誘電体6が介在している。本実施形態の誘電体6は、一端が閉塞された筒形状をしている。より具体的には、誘電体6は、筒部6aと筒部6aの一端を閉塞する底部6bとを有する有底筒形状をしている。なお、筒部6aは円筒状に限定されず、角筒状等でもよい。また、底部6bは平面状に限定されず、半球面状等でもよい。
【0052】
誘電体6は、第1の電極体21の第1凹部23と第2の電極体22の第2凹部24によって保持される。誘電体6の筒部6aは、第1凹部23より僅かに小さく、底部6bは、第2凹部24より僅かに小さい。
【0053】
誘電体6は、始動補助電極5の先端部5cを覆うように配置される。始動補助電極5の先端部5cは、近位部分5aの弾性力によって誘電体6の底部6bに押し当てられている。
【0054】
誘電体6は、絶縁性が高く、機械的強度が高い材料、且つ紫外線の透過率が高い材料からなるのが好ましい。一例として、誘電体6は、石英ガラス、アルミナなどのセラミックス、PTFEなどの樹脂で構成される。
【0055】
紫外線照射装置1を稼働させると、不図示の電源から電源線7(図2参照)を介して、上述したように各電極体(21,22)の間に高周波電圧が印加される。これにより、各エキシマランプ10に封入された放電用ガス10Gには、放電容器11を介して前記高周波電圧が印加される。
【0056】
エキシマランプ10では、電極体(21,22)の間に高周波電圧を印加し、放電空間(放電容器11内)の絶縁性が破壊されることで、エキシマの発光が生じる。絶縁が破壊されると、nsオーダーでの放電、終了を繰り返し行い、これを高周波で行うことで、実質的に連続して点灯しているように見える。
【0057】
ところで、エキシマランプ10は、ハロゲンガスが封入されている場合、ハロゲンガスの電子親和力が高いため、電子を吸着してしまい、連続点灯でないと電流が流れにくい(電子が動きにくい)状態となってしまう。そのため、エキシマランプ10の始動性を向上させるためには、エキシマ発光の励起エネルギーに近いエネルギーを持った波長を放電空間に照射することが必要であり、これにより、放電空間でのエキシマの励起が誘導される(放電しやすくなる)。
【0058】
本実施形態の紫外線照射装置1では、電極体(21,22)の間に電圧が印加されるとともに、第1の電極体21に接続された始動補助電極5と第2の電極体22との間にも電圧が印加される。このとき、始動補助電極5と第2の電極体22との距離が、第1の電極体21と第2の電極体22との距離に比べて短いため、始動補助電極5と第2の電極体22との間の空間で低い電圧にて先に絶縁破壊して、大気中で誘電体バリア放電を起こす。これにより、始動補助電極5の先端部5cで紫外線を発する。このときの紫外線の波長帯は226~227nmを含む。
【0059】
始動補助電極5による大気放電の発光により、エキシマランプ10の放電空間でのエキシマの励起が誘導される(放電が生じる)。よって、エキシマランプ10は、電極体(21,22)を通じて放電用ガス10Gに電圧が印加された状態において、始動補助電極5による紫外線が入射されると、この光エネルギーをトリガとして短時間(例えば0秒~2秒以内)で点灯する。放電用ガス10Gとして、クリプトン(Kr)と塩素(Cl)を含む場合には、エキシマランプ10から出射される光は、ピーク波長が222nmの紫外線である。
【0060】
なお、エキシマランプ10の点灯後は、始動補助電極5もそのまま点灯を続けるが、そちらで使用される電力はごく僅かであるため、エキシマランプ10の照度には影響を与えない。さらに、エキシマランプ10の点灯後は、ランプ内部の放電が主体的となり、始動補助電極部5での大気放電が抑制される方向に働くため、より影響は小さなものとなる。
【0061】
また、始動補助電極5の特徴として、エキシマランプ10の点灯後は、電圧がエキシマランプ10にも分散されるため、始動補助電極5にかかる電圧は、始動時よりも低くなり、連続点灯中には始動補助電極5の負荷が小さくなるためトリガとして長寿命になる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0063】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0064】
[別実施形態]
(1)始動補助電極5と誘電体6の組み合わせとしては、上記の構成に限定されない。図8は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図である。この例では、始動補助電極5は、先端部が尖った棒状である。また、誘電体6は、XZ平面に平行な平板状である。なお、始動補助電極5と誘電体6は必ずしも接触している必要はなく、放電可能な程度の間隔を空けて配置されてもよい。
【0065】
(2)図9は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図である。この例では、始動補助電極5は、先端部が尖った棒状である。また、誘電体6は、有底筒形状である。ただし、この例では、図7に示す例と異なり、誘電体6は、第2の電極体22によってのみ保持される。
【0066】
(3)図10は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び側面図である。この例では、始動補助電極5は、第1の電極体21に電気的に接続されるとともに第2の電極体22に向かって延びる略棒状である。始動補助電極5の近位部分は、第1の電極体21へ向かって延びて接続されている。また、誘電体6は、有底筒形状であり、第1の電極体21及び第2の電極体22の表面に載置されている。
【0067】
(4)図11は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び側面図である。この例では、始動補助電極5は、側面視でU字状をしており、一部が第1の電極体21に接している。誘電体6は、Y方向に延びる板状であり、U字状の始動補助電極5に挟まれた形態となっている。また、誘電体6は、始動補助電極5と第2の電極体22により両面から挟まれている。
【0068】
(5)図12は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す三面図である。この例では、図11に示すものと同じ始動補助電極5が、第1の電極体21の+X側の面に接続されている。
【0069】
(6)図13は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図である。この例では、図11に示すものと同じ始動補助電極5及び誘電体6が、電極体(21,22)のZ方向の側面に配置されている。
【0070】
(7)図14は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び断面図である。この例では、図14の断面図のように、始動補助電極5及び誘電体6がエキシマランプ10と電極体(21,22)に挟まれている。また、始動補助電極5はコイルばね状を採用しても構わない。また、誘電体6は、有底筒形状をしていても構わない。
【0071】
(8)図15は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び側面図である。上記の実施形態においては、始動補助電極5が独立した部材として説明を行ったが、これに限定されない。図15に示すように、始動補助電極5は、第1の電極体21と一体に構成されてもよい。
【0072】
(9)図16は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び側面図である。この例においても、始動補助電極5は、第1の電極体21と一体に構成されている。始動補助電極5は、第1の電極体21の+Y側の面から突出して形成されている。
【0073】
(10)図17は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び側面図である。この例では、誘電体6は、両端が開放された筒形状である。
【0074】
(11)図18は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図及び側面図である。この例においても、誘電体6は、両端が開放された筒形状である。
【0075】
(12)図19は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図である。この例では、始動補助電極5が2つ設けられている。すなわち、第1の電極体21に接続されるとともに第2の電極体22に向かって延びる第1の始動補助電極51と、第2の電極体22に接続されるとともに第1の電極体21に向かって延びる第2の始動補助電極52とが設けられている。誘電体6は、第1の始動補助電極51と第2の電極体22との間に介在し、かつ第2の始動補助電極52と第1の電極体21との間に介在している。
【0076】
(13)図20は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す側面図である。この例では、始動補助電極5が2つ設けられている。すなわち、第1の電極体21に接続されるとともに第2の電極体22に向かって延びる第1の始動補助電極51と、第2の電極体22に接続されるとともに第1の電極体21に向かって延びる第2の始動補助電極52とが設けられている。誘電体6は、第1の始動補助電極51と第2の電極体22との間に介在し、かつ第1の始動補助電極51と第2の始動補助電極52の間に介在している。ここでは、第1の始動補助電極51の少なくとも一部が、筒状の誘電体6に収容されている。また、第1の始動補助電極51と第2の始動補助電極52の少なくとも何れかは、始動補助電極の先端部51c,52cが第1の電極体21と第2の電極体22の間に設けておくことが望ましい。また、誘電体6は、第1の始動補助電極51と第2の電極体22との間と、第1の始動補助電極51と第2の始動補助電極52との間にそれぞれ介在するよう、複数の誘電体6を用いることであっても良い。
【0077】
(14)図21は、別実施形態に係る電極体(21,22)を模式的に示す平面図である。この例では、誘電体6は、有底筒形状である。始動補助電極5は、第1の電極体21に接続されるとともに第2の電極体22に向かって延びている。始動補助電極5の先端部は、誘電体6の底部に押し当てられている。第2の電極体22に接続された始動補助コイル53は、誘電体6の底部側に巻き付けられている。
【0078】
(15)図22は、別実施形態に係る始動補助電極5と誘電体6を模式的に示す図である。この例では、始動補助電極5は、ばね状の近位部分5aとばね状の遠位部分5bとで構成されている。始動補助電極5は、一つのコイルばねで構成され、遠位部分5bのピッチは、近位部分5aのピッチよりも広くなっている。
【0079】
(16)図23は、別実施形態に係る始動補助電極5と誘電体6を模式的に示す図である。この例では、始動補助電極5は、図7に示す例と同様、ばね状の近位部分5aと棒状の遠位部分5bとで構成されている。一方、誘電体6は、図7に示す例と異なり、両端が閉塞された筒形状をしている。誘電体6の内部には、例えば、不活性ガスに窒素を混ぜたものが封入されるのが好ましい。また、始動性の更なる向上の観点から誘電体6の内部は負圧であるのが好ましい。
【0080】
(17)図24は、別実施形態に係る始動補助電極5と誘電体6を模式的に示す図である。この例では、誘電体6は、内部に空間が存在せず、始動補助電極5の遠位部分5bと密着している。
【0081】
(18)また、本発明に係る始動補助電極5は、その先端部が、エキシマランプ10の放電容器11と対面する位置に配置されることが望ましい。これにより、始動補助電極5の先端部で生じた紫外線が遮蔽されることなく、エキシマランプ10内の放電空間に到達しやすくなり、放電空間でのエキシマの励起が誘導されやすくなる(放電しやすくなる)。
【実施例0082】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。以下の仕様の紫外線照射装置を作製し、実施例とした。始動補助電極5と誘電体6は図9に示す形態とした。
【0083】
[放電容器]
材質=石英ガラス、外径=6mm、全長=60mm
[放電用ガス]
ガス圧:20kPa、ガス種:Cl,Krの混合ガス
[電極体]
材質=アルミニウム
長さ=60mm、電極間距離=6mm
[インバーター]
電圧:5kV、周波数:100kHz
[始動補助電極]
材質=アルミニウム
幅=1.5mm、厚み=0.1mm、長さ=25mm
[誘電体]
外形=3mm、内径=1.6mm、長さ=5mm
【0084】
上記の紫外線照射装置において、始動補助電極及び誘電体を設けないものを比較例1とした。また、上記の紫外線照射装置において、始動補助電極及び誘電体を設けない代わりに、図25に示すように、始動補助光源としてのLED8を設けたものを比較例2とした。LED8は、波長が275nmの紫外線を出射する。
【0085】
実施例等について、上記のインバーターの条件で電極体の間に電圧を印加して8500h点灯したエキシマランプにて始動性試験を実施した。各実施例等について10回ずつ始動性試験を実施し、電圧を印加してからエキシマランプが点灯するまでの時間(始動遅れ時間)の平均値で評価した。実施例の結果を表1に示し、比較例2の結果を表2に示す。なお、表1において、1s以内にてエキシマランプが点灯したものは0sとした。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
実施例では、表1のように、始動遅れ時間が平均1.1sであった。また、比較例1では、60sでもエキシマランプは点灯しなかった。また、比較例2では、表2のように、始動遅れ時間が平均45.9sであった。すなわち、本発明の紫外線照射装置は、始動性を大きく向上できた。
【符号の説明】
【0089】
1 :紫外線照射装置
5 :始動補助電極
5a :近位部分
5b :遠位部分
5c :先端部
6 :誘電体
6a :筒部
6b :底部
7 :電源線
8 :LED
10 :エキシマランプ
10G :放電用ガス
11 :放電容器
21 :第1の電極体
22 :第2の電極体
23 :第1凹部
23a :第1凹部の内壁
24 :第2凹部
26 :第3凹部
30 :光取り出し面
40 :照射対象領域
51 :第1の始動補助電極
52 :第2の始動補助電極
53 :始動補助コイル
100 :筐体
図1
図2
図3
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図5
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