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特開2022-164224量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法
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  • 特開-量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法 図1
  • 特開-量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法 図2
  • 特開-量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法 図3
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  • 特開-量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法 図6
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  • 特開-量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164224
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/533 20060101AFI20221020BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221020BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221020BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/11 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/18 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/08 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/01 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/075 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/045 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/165 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/14 20060101ALI20221020BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20221020BHJP
   C12N 15/33 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
G01N33/533
G01N21/64 F ZNA
G01N33/53 N
G01N33/569 G
C07K14/11
C07K14/18
C07K14/08
C07K14/01
C07K14/075
C07K14/045
C07K14/165
C07K14/14
C09K11/08 G
C12N15/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069571
(22)【出願日】2021-04-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】朴 龍洙
(72)【発明者】
【氏名】アキレッシュ バブ ガンガンボイア
【テーマコード(参考)】
2G043
4H001
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043CA05
2G043CA09
2G043DA02
2G043DA08
2G043DA09
2G043EA01
2G043LA01
2G043MA16
2G043NA01
2G043NA11
4H001CA01
4H001CC13
4H001XA16
4H001XA34
4H001XA48
4H001XA52
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045EA50
4H045EA53
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来技術の問題点を鑑みて、抗ウイルス抗体を高感度で、かつ簡便に検出するための複合体、キット及びこれらを用いた検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の複合体は、蛍光性量子ドットと、該量子ドットを内部に封入したウイルスカプシドタンパク質からなる殻とを含む、量子ドット/カプシドタンパク質複合体であり、本発明のキットは、本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体とウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子とを含む、ウイルスに対する抗体を検出するためのキットであり、本発明のウイルスに対する抗体を検出するための方法は、本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体又は本発明のキットを用いた方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光性量子ドットと、該量子ドットを内部に封入したウイルスカプシドタンパク質からなる殻とを含む、量子ドット/カプシドタンパク質複合体。
【請求項2】
前記ウイルスに対する抗体を検出するための、請求項1に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体。
【請求項3】
前記ウイルスが、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、コロナウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、及び日本脳炎ウイルスからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体を作製する方法であって、
蛍光性量子ドットを用意する工程と、
カプシドを形成していない遊離のウイルスカプシドタンパク質を用意する工程と、
前記カプシドタンパク質と前記量子ドットとを混合し、前記カプシドタンパク質の自己集合によって形成したカプシドタンパク質からなる殻の内部に、前記量子ドットを封入することによって、前記量子ドット/カプシドタンパク質複合体を得る工程と
を含む、方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体又は請求項4に記載の方法によって作製された量子ドット/カプシドタンパク質複合体と、
前記ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子と
を含む、前記ウイルスに対する抗体を検出するためのキット。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体、請求項4に記載の方法によって作製された量子ドット/カプシドタンパク質複合体、又は請求項5に記載のキットを用いた、前記ウイルスに対する抗体を検出するための方法。
【請求項7】
(1)前記ウイルスに対する抗体を含み得る試料に、前記量子ドット/カプシドタンパク質複合体を接触させ、前記抗体と前記量子ドット/カプシドタンパク質複合体におけるカプシドタンパク質と結合させ、第1の免疫複合体を形成させる工程と、
(2)前記第1の免疫複合体に、ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子を接触させ、前記第1の免疫複合体における前記抗体と前記磁性ナノ粒子とを結合させ、第2の免疫複合体を形成させる工程と、
(3)磁石を用いて、前記第2の免疫複合体を回収する工程と
(4)回収された前記第2の免疫複合体の蛍光強度を測定することによって、前記試料中の前記ウイルスに対する抗体を検出する工程と
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(5)前記ウイルスに対する抗体の標準対照品を用いて予め作成した検量線を参照に、前記ウイルスに対する抗体を含み得る試料中の前記ウイルスに対する抗体を定量する工程をさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が、量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び当該複合体による標的ウイルスに対する抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
E型肝炎はE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus、HEV)によって引き起こされる急性肝炎である。E型肝炎ウイルス(HEV)はエンベロープを持たないRNAウイルスであり、慢性肝炎症例が報告されている自己限定性の急性疾患を引き起こす。HEVは免疫不全患者に慢性感染を引き起こし、輸血感染性を有する。現在、E型肝炎の臨床診断によく使われるのは、HEVのRNA遺伝子を直接検出するRT-PCR法と、HEV感染後に体内で生産される抗体を検出する抗体ELISA法である。
【0003】
抗体ELISA法は、ウイルスのRNAを直接検出するRT-PCR法に比べて、検体の保存条件の影響が少なく、操作の簡便性、同時処理能力に優れるが、1次反応と2次反応を行う必要がある(すなわち、抗体の捕捉と標識の付与が同時にできない)こと、標識に用いる酵素や色素が時間経過で退色することなどの問題点がある。また、固体支持体上に固定化された抗原は、抗原の物理的変形をもたらし、ELISA等の特異的抗体の検出感度を妨害する。さらに、沈着した抗原の方向性が不明であるため、抗体抱合に必須のエピトープがマスクされることがある。
【0004】
一方、ナノ粒子及び生体材料複合体は、バイオセンシングに使用することができるいくつかの非常に有益な特性を示す(非特許文献1~3)。ウイルスカプシドは、その対称的構造、ナノスケールサイズ、及び容易な改変を伴う制御可能な自己組織化のために、ナノ生物学の分野において関心を集めている(非特許文献4及び5)。ウイルスカプシドのバイオ活性及びナノ粒子機能を統合したウイルスベースのナノ粒子は、セラノスティクス、バイオイメージング、バイオセンシング、及びナノ材料の高度合成のような多くの潜在的用途を有する、最近出現したバイオナノ材料である(非特許文献6~9)。無機ナノ粒子、タンパク質、核酸、及び小分子薬物のような種々の材料でカプセル化されたウイルスベースのナノ粒子が、新しい種類のナノ構造を作製するために開発された(非特許文献7、10~12)。
【0005】
カプセル化のための主要な技術は、関心のある物質(負荷物質)の存在下でのウイルス様粒子(VLP)の再組織化(再構築;リアセンブリ)である。最初に、VLPは、適切な緩衝液で処理することによってサブユニットオリゴマー(ビルディングブロック)に解離され、続いて、オリゴマーを負荷物質と混合し、緩衝液交換して、負荷物質をカプセル化するVLP再組織化を促進する(非特許文献13、14)。非特許文献15は、同様の自己集合技術を用いて、ブロムモザイクウイルスのカプシドに金ナノ粒子を封入した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Michalet, X., Pinaud, F.F., Bentolila, L.A., Tsay, J.M., Doose, S., Li, J.J., Sundaresan, G., Wu, A., Gambhir, S., Weiss, S., 2005.Science 307(5709), 538-544.
【非特許文献2】Tagit,O., De Ruiter, M., Brasch, M., Ma, Y., Cornelissen, J., 2017. RSC Adv. 7(60),38110-38118.
【非特許文献3】Yang,Y.-B., Tang, Y.-D., Hu, Y., Yu, F., Xiong, J.-Y., Sun, M.-X., Lyu, C., Peng,J.-M., Tian, Z.-J., Cai, X.-H., 2020. Nano Lett. 20(2), 1417-1427.
【非特許文献4】Herbert,F.C., Brohlin, O.R., Galbraith, T., Benjamin, C., Reyes, C.A., Luzuriaga, M.A.,Shahrivarkevishahi, A., Gassensmith, J.J., 2020. Bioconjugate Chem. 31(5),1529-1536.
【非特許文献5】Sasaki,E., Dragoman, R.M., Mantri, S., Dirin, D.N., Kovalenko, M.V., Hilvert, D.,2020. ChemBioChem 21(1-2), 74-79.
【非特許文献6】Brasch,M., Putri, R.M., de Ruiter, M.V., Luque, D., Koay, M.S., Caston, J.R.,Cornelissen, J.J., 2017. J. Am. Chem. Soc. 139(4), 1512-1519.
【非特許文献7】Li, L.,Xu, C., Zhang, W., Secundo, F., Li, C., Zhang, Z.-P., Zhang, X.-E., Li, F.,2019a. Nano lett. 19(4), 2700-2706.
【非特許文献8】Liu,Z., Qiao, J., Niu, Z., Wang, Q., 2012. Chem. Soc. Rev. 41(18), 6178-6194.
【非特許文献9】Yan,D., Wang, B., Sun, S., Feng, X., Jin, Y., Yao, X., Cao, S., Guo, H., 2015. PloSone 10(9), e0138883.
【非特許文献10】Chen,C., Kwak, E.-S., Stein, B., Kao, C.C., Dragnea, B., 2005. J. Nanosci.Nanotechnol. 5(12), 2029-2033.
【非特許文献11】Dixit,S.K., Goicochea, N.L., Daniel, M.-C., Murali, A., Bronstein, L., De, M., Stein,B., Rotello, V.M., Kao, C.C., Dragnea, B., 2006. Nano Lett. 6(9), 1993-1999.
【非特許文献12】Li, T.C., Yoshimatsu, K., Yasuda, S.P., Arikawa, J., Koma, T., Kataoka, M., Ami, Y.,Suzaki, Y., Mai, L.T.Q., Hoa, N.T., 2011. J. Gen. Virol. 92(Pt 12), 2830.
【非特許文献13】Aniagyei,S.E., Kennedy, C.J., Stein, B., Willits, D.A., Douglas, T., Young, M.J., De,M., Rotello, V.M., Srisathiyanarayanan, D., Kao, C.C., 2009. Nano Lett. 9(1),393-398.
【非特許文献14】Brasch,M., Putri, R.M., de Ruiter, M.V., Luque, D., Koay, M.S., Caston, J.R.,Cornelissen, J.J., 2017. J. Am. Chem. Soc. 139(4), 1512-1519.
【非特許文献15】Dragnea,B., Chen, C., Kwak, E.-S., Stein, B., Kao, C.C., 2003. J. Am. Chem. Soc.125(21), 6374-6375.
【非特許文献16】Adegoke,O.; Nyokong, T.; Forbes, P. B., Structural and Optical Properties of AlloyedQuaternary CdSeTeS Core and CdSeTeS/ZnS Core-Shell Quantum Dots. J. AlloysCompd. 2015, 645, 443-449
【非特許文献17】Yang,D., Qiu, Z., Cui, W., Shen, Z., Liu, W., Hu, H., Jin, M., Li, J.-W., 2017.Nanotechnol. Lett. 9(12), 2119-2125
【非特許文献18】Robinson,D.A., Stevenson, K.J., 2013. J. Mater. Chem. A 1(43), 13443-13453.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の問題点を鑑みて、抗ウイルス抗体を高感度で、かつ簡便に検出するための複合体、キット及びこれらを用いた検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、既存の抗体検出方法の限界を克服するために、E型肝炎ウイルス様粒子(HEV-LP)を自己組織化する際、蛍光性量子ドットトをカプセル化した生体ナノ複合材料(QD@HEV-LP)を利用して、抗HEV抗体を標的抗体とした。さらに、標的抗体に結合できる磁気ナノ粒子(MNP)を用い、MNPと、抗HEV抗体が結合したQD@HEV-LPとの免疫複合体であるナノ複合体を形成させ、その蛍光強度が被検試料中の標的抗体の濃度に比例することを見出し、標的抗体の検出及び定量に成功した。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば以下のとおりである。
[1]
蛍光性量子ドットと、該量子ドットを内部に封入したウイルスカプシドタンパク質からなる殻とを含む、量子ドット/カプシドタンパク質複合体。
[2]
上記ウイルスに対する抗体を検出するための、[1]に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体。
[3]
上記ウイルスが、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、コロナウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、及び日本脳炎ウイルスからなる群より選択される、[1]又は[2]に記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体を作製する方法であって、
蛍光性量子ドットを用意する工程と、
カプシドを形成していない遊離のウイルスカプシドタンパク質を用意する工程と、
上記カプシドタンパク質と上記量子ドットとを混合し、上記カプシドタンパク質の自己集合によって形成したカプシドタンパク質からなる殻の内部に、上記量子ドットを封入することによって、上記量子ドット/カプシドタンパク質複合体を得る工程と
を含む、方法。
[5]
[1]~[3]のいずれかに記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体又は請求項4に記載の方法によって作製された量子ドット/カプシドタンパク質複合体と、
上記ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子と
を含む、上記ウイルスに対する抗体を検出するためのキット。
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載の量子ドット/カプシドタンパク質複合体、[4]に記載の方法によって作製された量子ドット/カプシドタンパク質複合体、又は[5]に記載のキットを用いた、上記ウイルスに対する抗体を検出するための方法。
[7]
(1)上記ウイルスに対する抗体を含み得る試料に、上記量子ドット/カプシドタンパク質複合体を接触させ、上記抗体と上記量子ドット/カプシドタンパク質複合体におけるカプシドタンパク質と結合させ、第1の免疫複合体を形成させる工程と、
(2)上記第1の免疫複合体に、上記ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子を接触させ、上記第1の免疫複合体における上記抗体と上記磁性ナノ粒子とを結合させ、第2の免疫複合体を形成させる工程と、
(3)磁石を用いて、上記第2の免疫複合体を回収する工程と
(4)回収された上記第2の免疫複合体の蛍光強度を測定することによって、上記試料中の上記ウイルスに対する抗体を検出する工程と
を含む、[6]に記載の方法。
[8]
(5)上記ウイルスに対する抗体の標準対照品を用いて予め作成した検量線を参照に、上記ウイルスに対する抗体を含み得る試料中の上記ウイルスに対する抗体を定量する工程をさらに含む、[6]又は[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合体又はキットによれば、ウイルス様中空粒子(VLP)の内部に、優れた蛍光性を有する量子ドット(QD)を封じ込めることで、検出対象である抗体の捕捉工程のみで蛍光標識でき、蛍光強度による高感度で標的抗体を検出することができる。また、QDをVLPにカプセル化することで、QDの退色も遅らせる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の結果を示す図である。(a)はQD@HEV-LPの作製工程の概略図を示す。(b)はCdSeTeS QD、(c)はHEV-LP、(d)は解体されたHEV-LP、(e)はQD@HEV-LPのそれぞれのTEM画像を示す。
図2】実施例1の結果を示す図である。(a)はCdSeTeS QD、(b)はHEV-LP、(c)はQD@HEV-LPのぞれぞれの粒径分布を示す。
図3】実施例1における、CdSeTeS QD(実線)、HEV-LP(点線)、及びQD@HEV-LP(一点鎖線)の動的光散乱(DLS)を用いた、流体力学的直径の測定結果を示す。
図4】実施例1の結果を示す図である。(a)はCdSeTeS QDのXRD結果を示し、(b)はアミン-MNPのTEM画像を示す。
図5】実施例1における、発現され、精製されたHEV-LPのウェスタンブロット(a)、及び、(i)発現され、精製されたHEV-LP、(ii)解体されたHEV-LP、及び(iii)QD@HEV-LPのSDS-PAGE(b)の結果を示す。
図6】実施例1におけるCdSeTeS QD(QD)(一点鎖線)及びQD@HEV(実線)-LPの蛍光スペクトルを示す。
図7】実施例2における、HEV-LPに対するQD濃度の最適化条件の検討結果(a)、及び、抗IgG@MNPの濃度の最適化条件の検討結果(b)を示す。
図8】実施例2における、PBS中の異なる濃度の抗HEV抗体の存在下でのQD@HEV-LPの蛍光スペクトルの変化(a)、及び検量線(b)を示す。
図9】実施例2における、ヒト血清中の異なる濃度の抗HEV抗体の存在下でのQD@HEV-LPの蛍光スペクトルの変化(a)、及び検量線(b)を示す。
図10】実施例3における特異的選択性の検討結果を示す。
図11】実施例4における、G5HEVに感染したカニクイザルでの検出結果を示す。(a)はG5HEVに感染したカニクイザルの血清のQD@HEV-LPの蛍光強度の変化を示し、(b)はG5HEVに感染したカニクイザルの血清中の抗HEV抗体濃度と、糞便検体中のG5-HEV RNAコピー数との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<量子ドット/カプシドタンパク質複合体>
本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体は、蛍光性量子ドットと、該量子ドットを内部に封入したウイルスカプシドタンパク質からなる殻とを含む複合体である。
【0013】
蛍光性量子ドット(本明細書において、単に「量子ドット」又は「QD」という場合がある)は、蛍光性を有する量子ドットであれば特に限定されないが、蛍光性物質からなる量子ドットであってもよく、表面が蛍光性物質によってコーディングされた量子ドットであってもよい。ここで、蛍光性とは、UV等の特殊な光源下で蛍光を放つ性質を有することを意味する。蛍光性量子ドットは好ましくは、蛍光性物質からなる量子ドット、例えば、CdSeTeS、CdSeCdS、CdSeZnS、又はCdSeからなる量子ドットであることが好ましく、蛍光法検出に適した四元合金CdSeTeSからなる量子ドットであることがより好ましい。四元合金CdSeTeSからなる量子ドットの合成方法は、後述のとおりである。
【0014】
一実施形態において、量子ドットは粒子状であり、その平均粒径が1~15nmであってよく、例えば、1nm以上、2nm以上、若しくは3nm以上であってよく、又は、15nm以下、10nm以下、若しくは8nm以下であってよく、例えば、2~10nm、3~8nm、若しくは4~7nmであってよい。
【0015】
ウイルスカプシドタンパク質からなる殻は、ウイルスカプシドタンパク質の自己集合によって形成される。したがって、当該殻はウイルスカプシドと同様な構造を有すると考えられる。カプシドとはウイルスゲノムを取り囲むタンパク質(カプシドタンパク質)の殻を指し、その構造はウイルスの種類によって異なるが、立方対称性、ラセン対称性等の対称性構造であることが多く、非対称性のものがある。
【0016】
ここで、封入(カプセル化)とは、量子ドットをカプシドタンパク質からなる殻の内部に閉じ込めることを意味するが、量子ドットがカプシドタンパク質からなる殻の表面に存在する可能性も考えられる。本明細書において、量子ドットがカプシドタンパク質からなる殻の表面に存在すること、すなわち、量子ドットがカプシド構造に組み込まれることも、量子ドットがカプシドタンパク質からなる殻の内部に封入されることの一形態として含まれる。
【0017】
量子ドット/カプシドタンパク質複合体は、量子ドットを内部に含むことで、量子ドットを含まないカプシド構造よりも若干大きい(数%~10%程度大きい)粒径を有する。なお、ウイルスカプシドの粒径は、ウイルスの種類によって異なるが、一般的には10nm~300nm程度である。例えば、10nm以上、20nm以上、若しくは30nm以上であってよく、又は、300nm以下、200nm以下、100nm以下、若しくは50nm以下であってよく、例えば、10~200nm、15~150nm、若しくは20~50nmであってよい。
【0018】
また、カプシドタンパク質からなる殻に封入される量子ドットの量としても特に限定されないが、量子ドットの蛍光強度が強いため、少量でも高い感度を示すが、好ましくは、量子ドット:カプシドタンパク質の質量比は、100:1~1:10であってもよく、例えば20:1~1:5であってもよく、さらに、10:1~1:1であってもよく、5:1~2:1であってもよい。
【0019】
本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体は、ウイルスに対する抗体を検出するための複合体である。当該ウイルスは特に限定されないが、臨床検査において需要のあるウイルスであることが好ましい。例えば、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、コロナウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、及び日本脳炎ウイルスからなる群より選択される。
【0020】
ウイルスに対する抗体は、ウイルスの表面抗原に対する抗体を意味する。表面抗原としては、例えば、E型肝炎ウイルス(HEV)のGenogroup 1~7(G1~G7)、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)、ノロウイルスのGenogroup I及びGenogroup II等が挙げられる。ウイルスに対する抗体を含み得る被験試料は、特に限定されないが、例えばウイルスに感染した疑いのある動物(例えば、脊椎動物、特にヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、ネズミ)から採集される試料であってよい。検出対象であるウイルスに対する抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体又はそれらの機能的断片であってよい。また、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。
【0021】
ウイルスに対する抗体の標準対照品は、公知の方法よって作製することができる。例えば、ウイルスの表面抗原における抗原タンパク質又は抗原性のあるペプチド断片をマウス、ウサギ、ヤギ等の動物に免疫して抗血清を採取したり、抗体を産生するハイブリドーマを作製したりすることによって、取得できる。また、市販品の抗体を利用してもよい。
【0022】
<量子ドット/カプシドタンパク質複合体の作製方法>
量子ドット/カプシドタンパク質複合体の作製方法は、蛍光性量子ドットを用意する工程と、カプシドを形成していない遊離のウイルスカプシドタンパク質を用意する工程と、カプシドタンパク質と量子ドットとを混合し、カプシドタンパク質の自己集合によって形成したカプシドタンパク質からなる殻の内部に、量子ドットを封入することによって、量子ドット/カプシドタンパク質複合体を得る工程とを含む。
【0023】
蛍光性量子ドットを用意する工程は、蛍光性を有しない物質からなる量子ドットを合成し、次に合成した量子ドットに蛍光性物質を結合させること、或いは、蛍光性物質からなる量子ドットを合成することを含んでよい。後者のほうが好ましく、また、蛍光性量子ドットが四元合金CdSeTeSからなる量子ドットであることが好ましい。以下、四元合金CdSeTeSからなる量子ドット(本明細書には「CdSeTeS QD」という場合がある)の合成方法について説明する。
【0024】
具体的には、本発明者らによる方法(非特許文献16)にしたがって、トリオクチルホスフィンオキシド(Trioctylphosphine oxide;TOPO)と1-オクタデセン(1-octadecene;ODE)を80℃に熱し、SeとTeをそれぞれ添加し、SeとTeのそれぞれの合成前駆体であるTrioctylphosphine selenide(TOPSe)とTrioctylphosphine telluride(TOPTe)を得る。オレイン酸とODEを280℃まで加熱し、CdCl・2.5HO及びTOPSeを添加しCdSe量子ドット(CdSe QD)を成長させる。その後、TOPTeを添加し、CdSeTe量子ドット(CdSeTe QD)を得てから、硫黄前駆体を添加し、CdSeTeS QDを得る。
【0025】
カプシドを形成していない遊離のウイルスカプシドタンパク質を用意する工程において、ウイルスカプシドを、ウイルスカプシドタンパク質を解体できる物質、例えばDithiothreitol(DTT)を使用してジスルフィド結合を還元することによって、カプシドを解体することを含んでもよい。当該ウイルスカプシドとしては、天然から採集したウイルス、培養したウイルス又は遺伝子工学的に合成されたウイルスを用いてもよい。カプシドを形成していない遊離のウイルスカプシドタンパク質はまた、当該ウイルスカプシドタンパク質を発現する核酸を用いて、形質添加し、宿主細胞において発現させ、精製することによって得ることができる。この際は、ウイルスカプシドタンパク質を、自己集合する前に、蛍光性量子ドットと混合させることが好ましい。或いは、蛍光性量子ドットと混合するまでに、ウイルスカプシドタンパク質を自己集合できない条件で、例えば、DTT及びグリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)を含む溶液で保存してもよい。ここでは、カプシドを形成していない遊離のウイルスカプシドタンパク質は、モノマーであることが好ましく、上記のDTTによって解体される場合、完全にモノマーまで解体されなくてもよい。
【0026】
量子ドット/カプシドタンパク質複合体を得る工程において、カプシドを形成していない遊離のカプシドタンパク質と量子ドットとを混合し、カプシドタンパク質の自己集合によって形成したカプシドタンパク質からなる殻の内部に、量子ドットを封入することによって、量子ドット/カプシドタンパク質複合体を得ることを含む。それによって、蛍光性を有する抗原(カプシドタンパク質)を得ることができる。また、カプシドタンパク質内に蛍光性量子ドットが存在するため、退色が抑えられ、優れた蛍光効率を有する。
【0027】
量子ドット/カプシドタンパク質複合体を得る工程において、カプシドタンパク質が自己集合できる条件で行うことが好ましい。このような条件として特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム又は塩化カルシウムなどの塩を添加することを挙げることができる。
【0028】
カプシド構造の形成は、例えば透過電子顕微鏡(TEM)によって確認することができる。量子ドット/カプシドタンパク質複合体の形成は、封入されていない量子ドットを洗浄によって除去したのち、例えば蛍光分光光度計によって確認することができる。また、量子ドット/カプシドタンパク質複合体の抗原性は、例えば当該カプシドタンパク質に対する抗体を用いたウェスタンブロット等によって確認することができる。
【0029】
<キット>
本発明のキットは、ウイルスに対する抗体を検出するためのキットであって、本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体と、該ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子とを含む。
【0030】
磁性ナノ粒子は、ウイルスカプシドタンパク質に対する特異的抗体が結合した磁気ナノ粒子であればよい。抗体が結合しやすくするため、磁性ナノ粒子を予め官能化することが好ましい。磁性ナノ粒子の官能化は、抗体を結合させるための官能基による修飾、例えばアシル化であることが好ましい。官能化した磁性ナノ粒子としては、例えば、アミン官能化磁性ナノ粒子、カルボキシル化磁性ナノ粒子などが挙げられる。
【0031】
磁性ナノ粒子としては、通常の磁石によって吸着分離できるほどの磁性を有しているものであればよく、例えばFe、Fe、CoFe等の磁性材料からなるナノスケールの粒子であってもよい。磁性ナノ粒子の粒子径は、3nm~50nmであればよく、例えば、3nm~20nm、又は3nm~10nmであってもよい。
【0032】
磁性ナノ粒子の作製は、既知の方法に従って行うことができる。また、磁性ナノ粒子のアミン化若しくはカルボキシル化、及びアミン化磁性なの粒子若しくはカルボキシル化磁性ナノ粒子への抗体の結合も既知の方法にしたがって行うことができる。例えば、非特許文献18に記載の方法、実施例に記載の方法が挙げられる。
【0033】
ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体は、特に限定されないが、ウイルスに対する抗体を産生した動物種の免疫グロブリンに対する抗体であり、ウイルスに対する抗体を産生した動物種と異なる動物種で産生したものであればよく、例えば、検出対象であるウイルスに対する抗体がヒト抗体(例えば、ヒトIgG)である場合、ヒトIgGに対する特異的抗体(抗ヒトIgG抗体)であればよい。当該抗体として、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体又はそれらの機能的断片であってよく、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の方法において、検出対象であるウイルスに対する抗体は、量子ドットの蛍光強度によって検出するため、ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体を標識する必要はない。
【0034】
ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体は、公知の方法により作製することができ、例えば、ウイルスに対する抗体がヒト抗体であり、ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体は抗ヒトIgG抗体である場合、ヒトIgGのプールでマウス、ウサギ又はヒツジなどの哺乳類動物を免疫することによって作製することができる。
【0035】
<検出方法>
本発明の検出方法は、本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体、本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体の作製方法によって作製された本発明の量子ドット/カプシドタンパク質複合体、又は本発明のキットを用いた、ウイルスに対する抗体を検出するための方法である。
【0036】
一実施形態において、検出方法が
(1)ウイルスに対する抗体を含み得る試料に、量子ドット/カプシドタンパク質複合体を接触させ、抗体と量子ドット/カプシドタンパク質複合体におけるカプシドタンパク質と結合させ、第1の免疫複合体を形成させる工程と、
(2)第1の免疫複合体に、ウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合した磁性ナノ粒子を接触させ、第1の免疫複合体における抗体と磁性ナノ粒子とを結合させ、第2の免疫複合体を形成させる工程と、
(3)磁石を用いて、第2の免疫複合体を回収する工程と
(4)回収された第2の免疫複合体の蛍光強度を測定することによって、試料中のウイルスに対する抗体を検出する工程と
を含む。
【0037】
工程(1)におけるウイルスに対する抗体を含み得る試料(被験試料)としては、抗体を含み得る試料であれば特に限定されず、例えば、ヒト又はヒト以外の動物から採取される、尿、便、血液(全血又は血清)、唾液、その他の体液、粘膜、毛髪、細胞、組織等を挙げることができる。第1の免疫複合体は、被験試料中に存在する抗体が、量子ドット/カプシドタンパク質複合体におけるカプシドタンパク質を特異的に認識し、結合することによって形成される免疫複合体。この第1の免疫複合体はまた蛍光性量子ドットを含むため、蛍光性を有する。
【0038】
工程(1)において、検出感度を高めるために、また、抗体量を正確に定量するために、ウイルスに対する抗体を含み得る試料に対して、予測される抗体量に対して、過剰量の量子ドット/カプシドタンパク質複合体を接触させることが好ましい。反応液中に過剰量の量子ドット/カプシドタンパク質複合体が存在していても、ウイルスに対する抗体が結合されていない複合体は、後述の工程(2)において、磁性ナノ粒子と結合することができず、磁気分離によって回収されないため、ノイズとはならない。
【0039】
工程(2)において、第2の免疫複合体は、第1の免疫複合体におけるウイルスに対する抗体に、磁性ナノ粒子におけるウイルスに対する抗体を特異的に認識する抗体が結合することによって形成される。工程(2)において、検出感度を高めるために、また、抗体量を正確に定量するために、予想される抗体量に対して、過剰量の磁性ナノ粒子を接触させることが好ましい。反応液中に過剰量の磁性ナノ粒子が存在した場合、後述の工程(3)では磁気分離によって回収されるものの、当該磁性ナノ粒子が検出対象であるウイルスに対する抗体を介して、量子ドット/カプシドタンパク質複合体に結合していないため、後述の工程(4)では検出されないため、ノイズとはならない。
【0040】
工程(1)及び工程(2)は、抗原抗体反応(免疫反応)ができる条件で行えばよく、反応温度、反応時間及び液体のpH等は当業者が適宜に最適化できる。工程(1)及び工程(2)によって、検出対象であるウイルスに対する抗体が、量子ドット/カプシドタンパク質複合体及び磁性ナノ粒子によってサンドイッチされる。このサンドイッチ免疫反応により、他の抗体による干渉があっても非常に高い検出特異性・抗体選択性を有する。また、得られた第2の免疫複合体は、磁性及び蛍光性を有するため、磁性によって第2の免疫複合体を分離でき、蛍光性によって当該免疫複合体を検出・定量できる。
【0041】
工程(3)において、磁石を用いて、磁気分離によって工程(2)で得られた第2の免疫複合体を回収する。上述のとおり、磁気によって回収されるのは、検出対象であるウイルスに対する抗体が結合された免疫複合体及び過剰量の磁性ナノ粒子であり、ウイルスに対する抗体が結合されない量子ドット/カプシドタンパク質複合体は回収されない。
【0042】
工程(4)において、回収された第2の免疫複合体の蛍光強度を測定することによって、試料中のウイルスに対する抗体を検出する。蛍光強度は、一般的な蛍光分光光度計によって測定することができる。このような蛍光分光光度計例えば、マイクロプレートリーダー(Infinite F500、Tecan、Mannedorf Switzerland)を挙げることができる。蛍光強度を測定する際に、必要に応じて純水又は緩衝液で希釈してもよい。本発明の検出方法は、実施例に実証されたように、抗体ELISA法に比べて2オーダー程度、検出感度が高い。
【0043】
一実施形態において、検出方法がさらに(5)ウイルスに対する抗体の標準対照品を用いて予め作成した検量線を参照に、ウイルスに対する抗体を含み得る試料(被験試料)中のウイルスに対する抗体を定量する工程をさらに含んでもよい。ここで、標準対照品とは、濃度が既知のウイルスに対する抗体を意味する。抗体の標準対照品は、上述のとおり、公知の方法よって作製することができる。得られた抗体濃度は、例えばELISAなどによって測定することができる。抗体の標準対照品はまた、濃度既知の市販品であってもよい。抗体の標準対照品を複数の濃度に希釈し、それぞれの濃度において測定される蛍光強度と、標準対照品の濃度と対応させて、検量線を作成することができる。検量線を用いて、検量線上又はその延長線上における、測定された蛍光強度に対応する抗体濃度は、被検試料中の抗体濃度として推定され得る。実施例に実証されたように、抗体ELISA法に比べて、操作の簡便性や同時処理能力に優れているうえ、定量性も抗体ELISA法に遜色しない。
【実施例0044】
<測定機器>
透過電子顕微鏡(TEM)画像は、100kVで動作するJEM-2100Fシステム(JEOL,Ltd.、日本)を用いて得た。
【0045】
動的光散乱(DLS)は、Malvern Zetasizerナノシリーズ Nano-ZS90システム(Malvern Inst. Ltd.、英国)を用いて行った。
【0046】
X線光電子分光(XPS)分析は、ESCA1600システム(ULVAC-PHI Inc.、日本)で、Al Kα X線源(1486.6eV)及び半球型アナライザーを用いて行った。
【0047】
基底状態電子吸収(UV/Vis)スペクトルは、フィルターベースのマルチモードマイクロプレートリーダー(Infinite F200M;TECAN,Ltd.、スイス)で記録した。
【0048】
粉末X線回折(XRD)分析は、Niフィルター及びCu-Kα源を有するRINT ULTIMA XRDシステム(Rigaku Co.、日本)を用いて行った。0.01°/ステップ及び10s/ポイントの走査速度で2θ=10~90°にわたってデータを収集した。
【0049】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)実験は、マイクロプレートリーダー(モデル680;Bio-Rad、米国)を用いて行った。
【0050】
〔実施例1 QD@HEV-LPの作製及び解析〕
<CdSeTeS量子ドットの合成>
蛍光性四元合金CdSeTeS量子ドット(CdSeTeS QD;以下、単に「QD」という場合がある)を合成し、使用した。具体的には、本発明者らによる方法(非特許文献16)にしたがって、トリオクチルホスフィンオキシド(Trioctylphosphine oxide;TOPO)と1-オクタデセン(1-octadecene;ODE)を80℃に熱し、SeとTeをそれぞれ添加し、SeとTeの反応前駆体であるTrioctylphosphine selenide(TOPSe)とTrioctylphosphine telluride(TOPTe)を得た。オレイン酸とODEを280℃まで加熱し、CdCl・2.5HO及びTOPSeを添加しCdSe量子ドット(CdSe QD)を成長させた。その後、TOPTeを添加し、CdSeTe量子ドット(CdSeTe QD)を得てから、硫黄前駆体を添加し、CdSeTeS QDを得た。
【0051】
<組換えバキュロウイルスの作製>
1986年に分離されたミャンマーの急性E型肝炎患者から遺伝子型1(G1)HEV株(GenBankアクセッション番号:DQ079624)をベースに、HEV-D13(5’-AAGGATCCATGGCGGTCGCTCCAGCCCATGACACCCCGCCAGT-3’;配列番号1)、及び、HEV-U14(5’-GGTCTAGACTATAACTCCCGAGTTTTACCCACCTTCATCTT-3’;配列番号2)のプライマーセットを用いて、ORF2によりコードされたN末端111アミノ酸欠失を有するDNA断片をPCRで増幅した。得られたPCR産物は、終止コドンの後のXbaI部位、開始コドンの前にBamHI部位をそれぞれ有した。PCR産物は、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen、ドイツ)を用いて精製し、TAクローニングベクターpCR2.1(Invitrogen、米国)にクローニングし、BamHI及びXbaIで消化し、バキュロウイルストランスファーベクターpVL1393(Pharmingen、米国)で連結して、プラスミドpVL5480/7126を得た。
【0052】
pVL5480/7126を、baculoGold(Pharmingen)及びリポフェクチン(GIBCO-BRL、米国)と用いて、Sf9昆虫細胞(理研セルバンク、日本)にトランスフェクションした。得られた組換え細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補足したTC-100培地(GIBCO-BRL)中で、26.5℃、0.26%トリプトセリン酸ブロス(Difco Laboratories、米国)で培養した。組換えバキュロウイルスをSf9細胞中で3回プラーク精製し、Ac5480/712657と同定した(非特許文献17)。
【0053】
<HEV-LPの発現及び精製>
Trichoplusia ni由来の細胞であるBTL-Tn5B1-4(Tn5)細胞株を、感染効率10で上記得られたAc5480/7126に感染させ、EX-CELL405培地(JRH Biosciences、米国)中、26.5℃で増殖させた。その後、Tn5細胞を感染後7日目に回収した。10,000×gで60分間の遠心分離により、無傷の細胞及び細胞片を除去した。次いで、上清を、Beckman SW32Tiローター中、100,000gで3時間遠心分離させることによって分離し、得られたペレットを、EX-CELL405培地中で一晩、4℃で再懸濁した。さらに、各試料4.5mLを2.1gのCsClと混合し、Beckman SW55Tiローターを用いて、100,000g、10℃で24時間遠心分離した。勾配を250μLアリコートに分割し、各画分を重量化して浮遊密度及び等密度値を概算した。CsClを分離するために、各画分をEX-CELL405培地で希釈し、Beckman TLA55ローター中、100,000gで2時間遠心分離した(非特許文献17)。
【0054】
<QD@HEV-LPの作製>
精製された50μgのHEV-LPを、50mMトリス-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1mM EGTA、及び20mMジチオスレイトール(DTT)を含有する180μlの緩衝液を使用して、ジスルフィド結合を還元することによって解体した。室温で30分間インキュベートした後、50mMトリス-HCl緩衝液(pH7.5)及び150mM NaCl中の1mg/mLのQDを200μL添加した。CaCl濃度を5mMまで上昇させ、解体されたHEV-LP調製物を1時間のインキュベーションし、HEV-LPカプシドタンパク質の自己集合によって、カプシドを再組織化(再構築)させ、QDを再組織化したHEV-LP中に封入した(カプセル化した)(図1 (a))。得られたQD/HEV-LP複合体(本明細書に「QD@HEV-LP」という)を超遠心によって精製し、10mM カリウム-MES緩衝液(pH6.2)に再懸濁した。ネガティブ染色後、各段階でQD@HEV-LP構造の発達を電子顕微鏡で確認した。
【0055】
カプセル化されていないQDを透析によって除去した。具体的には、試料を10kDa透析バッグに移し、透析バッグに緩衝液(40mM トリス-HCl、150mM NaCl、1mM CaCl2、pH7.4)を入れ、4℃で一晩撹拌した。次いで、透析バッグ中の溶液を回収し、20,000×g、4℃で1時間遠心分離して、QD@HEV-LPを沈殿させた。
【0056】
図1の(b)は合成したCdSeTeS QD、(c)は発現され、精製されたHEV-LP、(d)はDTTを使用して解体されたHEV-LP、(e)は再組織化によって作製されたQD@HEV-LPのそれぞれのTEM画像を示す。精製されたHEV-LP及び再組織化したQD@HEV-LPは、均一に分散した球状粒子を示した。これらの粒子の形態は、HEV天然粒子の形態と類似していた。このことから、HEV-LPの解体及び再組織による有意な形態学的差異は生じなかったことが分かった。
【0057】
TEM画像を分析した結果を図2に示す。合成されたCdSeTeS QDは球状で、粒径が3~8nm、平均粒径は5nmであった(図2 (a))。HEV-LPは形態的に均一で、粒径分布が狭く、平均直径が34nmであった(図2 (b))。QD@HEV-LPは形態的に均一であり、平均直径が36nmで、粒径分布が狭いことが分かった(図2 (c))。
【0058】
動的光散乱(DLS)分析では、CdSeTeS QD、HEV-LP、及びQD@HEV-LPの平均流体力学的直径が、それぞれ7.0nm、36.0nm、及び38.0nmであった(図3 (a)、(b)及び(c))。比較的狭い粒度分布は、TEMの結果と一致した。
【0059】
X線回折(XRD)を用いて、結晶の性質を解析したCdSeTeS QDの回折パターンは、QDが結晶性であることを示唆した(図4 (a))。24.7°、42.4°、及び50.4°の2θで、(111)、(220)、及び(311)結晶面の3つの特徴的なピークを示した。
【0060】
<アミン官能化磁性ナノ粒子の作製>
アミン官能化MNP(アミン-MNP)は、Robinsonら(非特許文献18)に記載された方法に従って、いくつかの変更を加えて合成された。エチレングリコール(10mL)中のNH12NH(2.2g)、KAc(0.78g)、及びFeCl・6H0(0.33g)の溶液をテフロンライニングオートクレーブに移し、180℃で5時間反応させた。次いで、沈殿したアミン-MNPをエタノール及び水(各3回)ですすいだ。
【0061】
アミン-MNPのTEM画像を図4 (b)に示す。これによれば、合成されたアミン官能化MNP(アミン-MNP)は球状で、粒径が15~20nmであった。
【0062】
<抗ウサギIgG抗体結合型MNPの調製>
EDC/NHS反応を用いて、抗ウサギIgG抗体結合アミン-MNPを調製した。PBS中のアミン-MNPを0.1M EDC(1-エチル-3-(-3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)と混合して、カルボン酸基をエステル-中間体形態に活性化し、過剰の0.4M NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)及び5.1μgのヤギ抗ウサギIgG抗体溶液と混合した。最後に、混合物を7℃で一晩撹拌した。抗ウサギIgG結合MNPを未反応化学物質の混合物から磁石を用いて磁気的に分離した。得られた抗ウサギIgG抗体結合MNP(抗IgG@MNP)を4℃で保存した。
【0063】
<ウサギ抗HEV-LP IgG抗体の作製>
日本白色ウサギを500μgのG3HEV-LPで免疫した。さらに、最初の注射の4週間後及び6週間後に、追加免疫注射(ブースター注射)を250μgのG3HEV-LPで行った。ブースター注射を含む全ての注射は、アジュバントを使用せずに投与した。最終注射の3週間後に免疫した動物から血液を採取し、プロテインGカラムで精製し、ウサギ抗HEV-LP IgG抗体を得た(非特許文献12)。なお、G3HEV-LPは、国立感染症研究所の李天成博士に分譲頂いた。
【0064】
<SDS-PAGE及びウェスタンブロットによるHEV-LPの検出>
上記精製されたCsCl勾配遠心の画分中のHEV-LPタンパク質をウェスタンブロット法及びSDS-PAGEにより確認した。HEV-LPタンパク質を5~20%e-Page(ATTO、日本)を用いてSDS-PAGEにより分離し、CBBで染色した。分離したタンパク質をニトロセルロース膜上に移し、ウェスタンブロッティングを行った。上記ニトロセルロース膜を、150mM NaClを含有する50mMトリス-HCl(pH7.4)中の5%スキムミルクでブロックし、次いで1:2,000希釈ウサギ抗HEV-LP IgG抗体とインキュベートした。ウサギIgG抗体の検出は、アルカリホスファターゼ結合親和性精製ヤギ抗ウサギIgG(H+L)(1:1000希釈)(ケミコン、米国)を用いて行った。塩化ニトロブルーテトラゾリウム及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸p-トルイジン塩を着色剤として使用した(Bio-Rad Laboratories、米国)。
【0065】
結果を図5に示す。(a)は発現され、精製されたHEV-LPのウェスタンブロットの結果を示し、(b)は(i)発現され、精製されたHEV-LP、(ii)解体されたHEV-LP、及び(iii)QD@HEV-LPのSDS-PAGEの結果を示す。ウェスタンブロッティングで使用したHEV特異的一次抗体に結合されたタンパク質は、全長HEV-LP(図5 (a))に対応し、SDS-PAGEで示される単一バンドは、精製が非常に効率的であったことを示す(図5 (b)の(i))。また、SDS-PAGEにより、QD@HEV-LPの調製工程において、上記HEV-LPと同様のバンドが得られたことが確認された(図5 (b)の(iii))。
【0066】
<QD@HEV-LPの蛍光発光スペクトル>
図6は、CdSeTeS QD(QD)及びQD@HEV-LPの蛍光スペクトル(UV/Visスペクトル)を示す。HEV-LPにおけるQDは、QDのみに対して約6~8nmの発光波長のシフトを示した。ウイルスカプシド中のQDのカプセル化は、有効屈折率の増加を誘導することが示唆された。
【0067】
〔実施例2 QD@HEV-LPによる抗HEV抗体の検出〕
<HEV-LPに対するQD濃度の最適化>
QD@HEV-LPの調製に使用されるQDの量は、一定量のHEV-LP(180μLの緩衝液に、50μgのHEV-LPを添加した)に対して最適化を検討した。その結果を図7 (a)に示す。0.5及び1mg/mL QD濃度の場合、蛍光強度は非常に良好だったが、1mg/mL以上ではほとんど飽和した。再組織化反応は、不完全に形成されたカプシドをほとんど含まず、いくつかのタンパク質/QD非晶質凝集を含み、その結果、蛍光強度が増加した。同様の現象が、金ナノ粒子を封入したVLPの形成において報告されており(非特許文献15)、金ナノ粒子(コア)が過剰である場合、不完全なタンパク質被覆(殻)が生じると考えられる。したがって、以下の実験においては、上記一定量のHEV-LPに対して、1mg/mLのQD濃度を選択して、QD@HEV-LPを調製した。
【0068】
<抗IgG@MNPの濃度の最適化>
抗IgG@MNPは、QD@HEV-LPに結合した全ての抗体と結合できず、偽陽性シグナルをもたらすことがある。したがって、抗IgG@MNP濃度の最適化もまた重要なパラメータである。180μLの緩衝液に、50μgのHEV-LP及び1mg/mLのQDを混合して得られたQD@HEV-LPに対して、異なる濃度のMNPを用いた。
【0069】
QD@HEV-LPを1ng/mLの抗HEV抗体と混合し、20分間インキュベートした後、抗IgG@MNPを上記溶液と混合し、さらに20分間インキュベートした。磁石を用いた磁気分離によって、抗IgG@MNP/抗HEV抗体/QD@HEV-LP複合体を捕捉し、分離した。次いで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で数回洗浄して、全ての未結合QD@HEV-LPを除去した。分離後、混合物を新鮮な100μL PBS緩衝液に再分散させ、蛍光分光計を用いて蛍光強度を測定した。
【0070】
その結果を図7 (b)に示す。図7 (b)によれば、多くの抗HEV抗体が含まれている場合、抗IgG@MNPの量が少ないと、例えば、1mg/mL以下の抗IgG@MNPの場合、十分な抗IgG@MNP/抗HEV抗体/QD@HEV-LP複合体が形成されず、蛍光強度が低下したことが分かった。一方、1.5mg/mL及び1.7mg/mLの多量の抗IgG@MNPが存在した場合、十分な抗IgG@MNP/抗HEV抗体/QD@HEV-LP複合体が形成され、蛍光強度が上昇した。また、過剰量の抗IgG@MNPが存在していても、検出結果を影響しないことも確認された。したがって、上記の条件において、1mg/mLの抗IgG@MNPを最適な条件とした。
【0071】
<抗HEV抗体検出の感度>
定量的測定は、上記蛍光分析バイオセンサーの感度を決定するための最適条件下で、緩衝液で希釈した、10-13g/ml、10-12g/ml、10-11g/ml、10-9g/ml、10-8g/ml、及び10-7g/ml、10-6g/mlの抗HEV抗体の濃度における蛍光強度を測定した。対照として、抗HEV抗体を添加しない(抗HEV抗体の濃度が0g/mlである)場合の蛍光強度も測定した。
【0072】
結果を図8に示し、図中の8本の曲線は、下から0~10-6g/mlの抗HEV抗体の濃度に対応する。(a)から分かるように、蛍光強度は、抗HEV抗体濃度の増加に比例して増加した。また、蛍光強度変化と抗HEV抗体濃度の対数値との間の直線関係(検量線)をプロットし、(b)に示す。検出限界を3σ/S(標的の最低濃度の標準偏差を検量線の傾きで割った値の3倍)から計算して0.6pg/mlと推定した。また、検量線は、相関係数(R2)が0.986であり、良好な直線性を示した。
【0073】
信頼性のある実際的なイムノアッセイを確立するために、一連の希釈抗HEV抗体濃度を生物学的ヒト血清マトリックス中に混入し、同様に蛍光強度を測定した。
【0074】
結果を図9に示し、図中の8本の曲線は、下から0~10-6g/mlの抗HEV抗体の濃度に対応する。(a)から分かるように、ヒト血清中に導入された抗HEV抗体の濃度の増加に比例して、蛍光強度の増加を示した。また、蛍光強度変化と抗HEV抗体濃度の対数値との間の直線関係(検量線)をプロットし、(b)に示す。検量線は、相関係数(R2)が0.973であり、良好な直線性を示した。
図8(b)の緩衝液中での検量線に比べて、血清中での検量線の傾きがわずかに平坦にシフトしたものの、抗HEV抗体検出の応答性の直線性は、血清マトリックスにおける抗体を検出するための高度なバイオセンサーの適用可能性を確認できた。検量線の傾きは平坦になり、LOD値は0.88pg/mlとなったものの、血清マトリックスにおける高いLODは、以前の報告に比べて遜色なかった。
【0075】
〔実施例3 抗体選択性の評価〕
抗HEV抗体検出のために開発された、上記QD@HEV-LPに基づく蛍光分析バイオセンサーの抗体選択性を評価した。ノロウイルス(NoV)、インフルエンザウイルス(ニューカレドニア/20/99;IFV)、白斑症候群ウイルス(WSSV)、チクングニアウイルス(CHIKV)、ジカウイルス(ZIKV)、SARS-CoV-2(CoV)のそれぞれの抗E1タンパク質抗体を干渉(陰性検体)として用いて、バイオセンサーの抗干渉効果と抗体選択性を検討した。
【0076】
QD@HEV-LPを、干渉のみ、又は、干渉+抗HEV抗体と反応させた。干渉+抗抗HEV抗体の場合は、100pg/mLの抗HEV抗体、及び10ng/mLの陰性検体(抗NoV抗体、抗IFV抗体、抗WSSV抗体、抗CHIKV抗体、又は抗ZIKV抗体)と混合し、20分間インキュベートした。その後、抗ウサギ-IgG結合MNPを上記の溶液と混合し、さらに20分でインキュベートした。干渉のみの場合は、抗ウサギ-IgG結合MNPを、10ng/mLの陰性検体(抗NoV抗体、抗IFV抗体、抗WSSV抗体、抗CHIKV抗体、又は抗ZIKV抗体)を混合させた。得られた抗ウサギ-IgG-MNP/抗HEV抗体/QD@HEV-LP複合体を磁気分離で分離し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で数回洗浄して、結合していないQD@HEV-LPを除去した。分離後、混合物を新鮮な100μLのPBS緩衝液に再分散させ、蛍光分光計を使用して蛍光強度を測定した。
【0077】
結果を図10に示す。図10から、干渉のみと、干渉+抗HEV抗体とでは、反応性(蛍光強度)の変化を示した。干渉+抗HEV抗体を含む試料に対して蛍光強度を示したが、干渉のみを含む陰性検体では特異的に抗HEV抗体を検出できなかった。磁気分離及び洗浄後、PBS緩衝液中にQD@HEV-LPは殆ど存在せず、蛍光強度のわずかな増加をもたらすに過ぎなかった。このことは、抗HEV抗体検出に対するQD@HEV-LPに基づく蛍光分析バイオセンサーの優れた特異性(抗体選択性)を証明した。
【0078】
〔実施例4 カニクイザルの接種及び検体採取〕
上記作製したバイオセンサーの性能を、G5HEV-LP感染カニクイザルで試験した。なお、生体材料G5HEV-LP及びカニクイサルに感染して収集した抗HEV抗体の検体は、国立感染症研究所の李天成博士に分譲頂いた。広域スペクトルRT-PCRによりHEV RNAに対して陰性であり、抗HEV抗体に対して陰性である10歳の雄性カニクイザルに、大腿静脈を通して1mLのG5HEV-LPを静脈内接種した。血清試料及び糞便試料は感染後68日まで採集した。血清試料は、5週間まで週に2回、次いで10週間まで週に1回採取し、抗G5HEV-LP IgG抗体を検出するために使用した。糞便試料を感染後35日まで毎日収集し、次いで毎週収集し、RT-PCRを用いてG5HEV RNAを検出するために使用した。
【0079】
結果を図11 (a)に示す。(a)に示すように、センサ(感染カニクイザルの血清試料の代わりに、PBSを用いたのに対する蛍光強度の変化は感染後7日目に始まった。これは、抗HEV IgG抗体が最初に感染後7日で誘導されたことを示唆した。確立した検量線を用いて、蛍光強度から抗HEV IgGの濃度を推定した。感染後7日目で抗HEV IgGの血清試料中の濃度が1.4pg/mlであった。その後、蛍光強度の変化はさらに増加し、感染後19日目で抗HEV IgG抗体の血清試料中の濃度が54.5pg/mlと推定され、次いで感染後25日目まで一定であった。抗HEV IgG抗体の血清試料中の濃度が、感染後25日以降にさらに増加し、感染後33日目で110pg/mlと推定され、感染後40日目以降に149pg/mlと推定され、プラトーに達した。
【0080】
また、G5HEV-LP(アクセッション番号:AB573435)感染カニクイザルのHEV RNA濃度を測定するために、感染後0~68日目で採取した糞便検体のRNAコピー数をRT-qPCR法により測定した。RNAは、MagNA Pure LC Total Nucleic Acid分離キット(Roche Applied Science、ドイツ)を備えたMagNA Pure LCSystemを用いて抽出した。G5HEV RNAコピー数を決定するために、7500 FASTリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、米国)とTaqMan Fast Virus 1ステップマスターミックス(Applied Biosystems)を使用してTaqManアッセイを行った。用いたプライマーセットは、フォワードプライマー:5’-CCATGGAGGCCCACCAGTT-3’(24-42番目ヌクレオチド;配列番号3)、及びリバースプライマー:5’-TCAGGGCGAAAGACCAGCTG-3’(185-204番目ヌクレオチド;配列番号4)であり、プローブとしては、5’末端にFAM(商標)蛍光色素(Applied Biosystems)、3’末端にTAMRA(商標)クエンチャー(Applied Biosystems)で修飾した5’-CCAACTCCGCCTTGGCGAATGC-3’(96-117番目ヌクレオチド;配列番号5)を用いた。ワンステップ定量RT-PCR(RT-qPCR)条件は、50°Cで5分間、95°Cで20秒間、続いて95°Cで3秒間、60°Cで30秒間の50サイクルである。キャップされたG5HEV RNAを10倍段階希釈した10~10コピーを標準として使用した。増幅データは、Sequence Detectorソフトウェアバージョン1.3(Applied Biosystems)を用いて収集及び解析した。
【0081】
結果を図11 (b)に示す。(b)に示すように、2~3週後に感染のピークがみられ、その後徐々に減少し、4週後には検出限界以下となった。G5HEV RNAは感染9日後で糞便検体中に2.66×10RNAコピー/ml検出され、感染20日後で1.54×10RNAコピー/mlのピークに達し、その後減少した。RNAコピー数は感染後30日目以降で検出限界以下となった。
【0082】
感染後0日目から68日目までの糞便中のHEV RNAコピー数と、件高強度によって推定された血清中の抗HEV IgG抗体濃度とを比較した結果を図11 (b)に示す。(b)によれば、19日目以降の血清中の抗HEV IgG抗体濃度の上昇直後に感染サルの感染を制御できることが明らかになった。IgGは感染後40日目まで増加し続け、その後も感染後68日目まで高レベルを維持した。その結果、HEV RNAコピー数に19日目以降減少に転じて、糞便試料中では感染後30日目後も検出されなかった。
【0083】
よって、開発された蛍光法を用いてHEV感染サルで検出した抗HEV IgG抗体濃度は、標準ELISA法(データ示さず)を用いて推定した濃度と良く一致し、開発した検出法による実際の被験試料に対する適用可能性を確認した。この新たに開発された方法は、蛍光ベースの簡便なスクリーニング方法であり、かつ、疑わしい感染の正確な診断のための有用であることが証明された。
【0084】
これらの結果は、QD@HEV-LPに基づく蛍光分析バイオセンサーは、強い抗干渉能力、高い精度、及び改善された感度を有することを強く実証した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
ウイルスのRNAを直接検出するRT-PCR法に比べて、従来の抗体ELISA法は検出感度に問題があったが、本発明の複合体及び検出方法によれば、pg/mlオーダーの抗HEV抗体を検出でき、またRT-PCR法又はELISA法による測定結果とも一致した。本発明の方法は、抗体ELISA法に比べて2オーダー程度、検出感度が高いほか、RT-PCR法に比べて検体の保存条件の影響が少なく、操作の簡便性や同時処理能力に優れているため、臨床における各種ウイルス感染の検出に好適に使用し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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