(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164239
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】フレキシブル基板用の搬送治具
(51)【国際特許分類】
H05K 13/02 20060101AFI20221020BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H05K13/02 V
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069610
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000184735
【氏名又は名称】株式会社小森コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 千慧
(72)【発明者】
【氏名】池田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 眞吾
【テーマコード(参考)】
5E353
5F131
【Fターム(参考)】
5E353BC03
5E353GG30
5E353GG42
5E353NN12
5E353NN15
5E353QQ01
5E353QQ11
5F131AA23
5F131BA53
5F131CA32
5F131EA07
5F131EC32
5F131EC52
5F131EC53
5F131EC62
5F131EC64
5F131EC65
(57)【要約】
【課題】フレキシブル基板を保持する保持力を高く維持しながら繰り返し使用できるようにして低コスト化を図ることができるとともに、製品の歩留まりが高くなって高効率な生産を行うことが可能なフレキシブル基板用の搬送治具を提供する。
【解決手段】粘着性を有する固定台3にフレキシブル基板2を粘着して保持するフレキシブル基板用の搬送治具1である。固定台3は、フレキシブル基板2が粘着する凸部21と、フレキシブル基板2が粘着することがない凹部22とを備える。また、少なくとも1箇所の通気部26を有し、フレキシブル基板2の使用範囲外の部分を粘着保持する端部凸部23を備える。凹部22は、通気部26を経由して固定台3の外と通気可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性を有する固定台にフレキシブル基板を粘着して保持するフレキシブル基板用の搬送治具であって、
前記固定台は、前記フレキシブル基板が粘着する凸部と、
前記フレキシブル基板が粘着することがない凹部と、
少なくとも1箇所の通気部を有し、前記フレキシブル基板の使用範囲外の部分を粘着保持する端部凸部とを備え、
前記凹部は、前記フレキシブル基板が前記凸部および前記端部凸部に粘着されている状態において、前記通気部を経由して前記固定台の外と通気可能であることを特徴とするフレキシブル基板用の搬送治具。
【請求項2】
請求項1記載のフレキシブル基板用の搬送治具において、
前記凹部は、互いに連通する溝によって形成されているとともに、前記通気部を通って前記端部凸部の外に延びていることを特徴とするフレキシブル基板用の搬送治具。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のフレキシブル基板用の搬送治具において、
前記固定台は、平面視矩形状に形成され、
前記端部凸部は、前記固定台の辺と平行となる位置に設けられ、
前記通気部は、前記固定台の角または前記辺となる部分に設けられていることを特徴とするフレキシブル基板用の搬送治具。
【請求項4】
請求項1~請求項3のうち何れか1つに記載のフレキシブル基板用の搬送治具において、
前記固定台の前記フレキシブル基板と対向する粘着面の全域に対して、前記端部凸部を除いた前記凸部の面積比率は10%~60%であることを特徴とするフレキシブル基板用の搬送治具。
【請求項5】
請求項1~請求項4のうち何れか1つに記載のフレキシブル基板用の搬送治具において、
前記端部凸部の幅は5mm~20mmであることを特徴とするフレキシブル基板用の搬送治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル基板を粘着により保持するフレキシブル基板用の搬送治具(キャリア)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPC(Flexible printed circuits)を始めとする薄板のフレキシブルプリント配線板(以下、単にフレキシブル基板という)の表面に電子部品等を接合する技術が開発されている。この種の技術を用いる分野、すなわちプリンテッドエレクトロニクス分野においては、薄型のフレキシブルデバイス又は有機半導体を印刷塗工することで得られる薄膜TFTや、有機エレクトロルミネッセンスなど、フレキシブル基板を用いたエレクトロニクス製品の検討が盛んに行われている。
【0003】
このエレクトロニクス製品を製造する工程としては、印刷・塗工・焼成・乾燥・部品実装接合・半田リフロー・ラミネートなど複数の工程がある。これらの工程は、合成樹脂製のフレキシブル基板を搬送治具に載置した状態で行われ、加熱冷却の繰り返しや高精度の微細加工(半田の印刷、穴あけ、レーザー加工等)が必要になる。
【0004】
このフレキシブル基板が上記の各種の工程を経ることにより、熱変形により部分的に搬送治具から浮いてフレキシブル基板表面の平滑性が損なわれることがある。また、フレキシブル基板を搬送治具に載置、保持させるときや、フレキシブル基板を搬送治具に吸着させる吸引装置から取り外すときなどに、フレキシブル基板が歪んだりする不良が発生する。
【0005】
また、搬送治具にフレキシブル基板を載置、固定するためには、再剥離可能な弱粘着剤が用いられることがある。この種の再剥離可能な弱粘着剤としては、特許文献1に記載されているように、アクリル系、シリコーン系、フッ素系の粘着剤などが知られている。これらの搬送治具や弱粘着剤は、リジット基板において以前より一般的に使用されている。
【0006】
近年においては、有機TFT(Thin Film Transistor)、有機EL(Electro Luminescence)、他のセンサー類などを製造するために、より一層大幅に高精度の微細加工などが必要な高度なフレキシブルデバイス基板が考案されている。この高度なフレキシブルデバイス基板は、耐熱性ポリイミドテープに補強や細工を加えたものを介して搬送治具に貼り付けられている。
【0007】
さらに、高精度の微細加工が必要な高度なフレキシブルデバイス基板を用いるデバイスの製造工程の中には、複数の加熱冷却の工程がある。この加熱冷却を含む工程で搬送治具の粘着力の変化や気泡の発生混入などが問題となってきた。気泡は、フレキシブルデバイス基板と搬送治具との間に生じ、フレキシブルデバイス基板と搬送治具との間の熱の伝達経路を遮るようになる。高度なフレキシブルデバイス基板を用いてデバイスを製造するにあたっては、銀などの導電性ペーストが印刷装置によって印刷されている。この導電性ペーストの乾燥焼成時に上述した気泡の存在が悪影響を及ぼすようになる。
【0008】
さらにまた、上記の高度なフレキシブルデバイス基板を含めて従来のフレキシブル基板においては、半田クラックや断線等のダメージを生じさせることなく短時間で容易に搬送治具(キャリア)から取り外すことが求められるため、例えば特許文献2に記載されているように、粘着層に均一な凹凸からなるパターニングを施すことも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-245323号公報
【特許文献2】特開2011-9384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示されている搬送治具のように粘着層に均一な凹凸を設けるのみでは、加熱、冷却が繰り返し行われると粘着力が低下して必要な保持力が失われてしまう。なお、これを解決するために粘着剤の粘着力を0.5~7N/20mm(0.625~8.75N/25mm)程度に上げることで保持力を確保しようとすると、加熱冷却により粘着力が変化し複数回の繰り返し利用ができなくなる。搬送治具が繰り返し利用できなくなると、製造されるデバイスの製造コストが高くなってしまう。なお、粘着力を高く保つにあたっては、フレキシブル基板と搬送治具との間に気泡が介在するようなことを避けなければならない。この理由は、気泡発生箇所で熱伝達が悪化し、フレキシブル基板に印刷されている銀などの導電性ペーストの乾燥焼成にムラが生じるからである。導電性ペーストの乾燥焼成にムラが生じると、デバイスの性能が不均一になり、歩留まりが悪化するようになる。
【0011】
本発明の目的は、フレキシブル基板を保持する保持力を高く維持しながら繰り返し使用できるようにして低コスト化を図ることができるとともに、製品の歩留まりが高くなって高効率な生産を行うことが可能なフレキシブル基板用の搬送治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明に係るフレキシブル基板用の搬送治具は、粘着性を有する固定台にフレキシブル基板を粘着して保持するフレキシブル基板用の搬送治具であって、前記固定台は、前記フレキシブル基板が粘着する凸部と、前記フレキシブル基板が粘着することがない凹部と、少なくとも1箇所の通気部を有し、前記フレキシブル基板の使用範囲外の部分を粘着保持する端部凸部とを備え、前記凹部は、前記フレキシブル基板が前記凸部および前記端部凸部に粘着されている状態において、前記通気部を経由して前記固定台の外と通気可能であるものである。
【0013】
本発明は、前記フレキシブル基板用の搬送治具において、前記凹部は、互いに連通する溝によって形成されているとともに、前記通気部を通って前記端部凸部の外に延びていてもよい。
【0014】
本発明は、前記フレキシブル基板用の搬送治具において、前記固定台は、平面視矩形状に形成され、前記端部凸部は、前記固定台の辺と平行となる位置に設けられ、前記通気部は、前記固定台の角または前記辺となる部分に設けられていてもよい。
【0015】
本発明は、前記フレキシブル基板用の搬送治具において、前記固定台の前記フレキシブル基板と対向する粘着面の全域に対して、前記端部凸部を除いた前記凸部の面積比率は10%~60%であってもよい。
【0016】
本発明は、前記フレキシブル基板用の搬送治具において、前記端部凸部の幅は5mm~20mmであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、端部凸部はフレキシブル基板の裏面に強固に密着する状態でフレキシブル基板を粘着保持することができる。このため、加熱冷却の繰り返しにより固定台の粘着力が低下したとしても、端部凸部でフレキシブル基板を保持することが可能になり、繰り返しの使用回数を増やすことができる。この端部凸部はフレキシブル基板の使用範囲外の幅狭い部分を粘着保持するから、半田クラックや断線等のダメージを生じさせることなく容易にフレキシブル基板を剥がすことができる。
【0018】
また、フレキシブル基板と凸部との間で生じた気泡は、凹部を通って固定台の外に排出される。このため、フレキシブル基板の使用範囲内の部分と固定台との間で熱伝達にムラが生じることがなく、フレキシブル基板を使用した製品の品質が一定になる。
したがって、フレキシブル基板を保持する保持力を高く維持しながら繰り返し使用できるようにして低コスト化を図ることができるとともに、製品の歩留まりが高くなって高効率な生産を行うことが可能なフレキシブル基板用の搬送治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係るフレキシブル基板用の搬送治具の平面図である。
【
図3】
図3は、フレキシブル基板上の電子デバイスの断面図である。
【
図4】
図4は、凸部と凹部の構成を示す平面図である。
【
図6】
図6は、凹部の幅が過度に広い場合の搬送治具の断面図である。
【
図7】
図7は、凸部の長さが過度に長い場合の搬送治具の断面図である。
【
図8】
図8は、凸部の面積比を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るフレキシブル基板用の搬送治具の一実施の形態を
図1~
図10を参照して詳細に説明する。
図1に示すフレキシブル基板用の搬送治具1(以下、単に搬送治具1という)は、フレキシブル基板2(
図2参照)を粘着して保持する固定台3を備えている。この実施の形態による固定台3は、平面視において矩形状に形成されており、
図2に示すように、板状の支持体4と、支持体4の上面に設けられた粘着層5とによって構成されている。
【0021】
フレキシブル基板2は、粘着層5の上面に重ねられて粘着されている。支持体4は、剛体からなる矩形の板によって形成されている。支持体4を形成する材料は、たとえばガラス、エポキシガラス(ガラエポ)、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮などである。粘着層5の説明は後述する。
【0022】
フレキシブル基板2は、3層以上の導電性回路や絶縁層を積層して電子デバイス6(
図3参照)を形成することができるものである。この種の電子デバイス6に用いられる導電性回路の一つの導体の幅は300μm以下である。フレキシブル基板2を形成する材料は、例えばPI(ポリイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)などである。
【0023】
このフレキシブル基板2を使用する電子デバイス6としては、例えば有機TFT素子、有機EL素子、センサー素子などである。
図3に示す電子デバイス6は、複数の機能層11~20を積層して形成されている。これらの機能層11~20は、有機EL素子を形成するもので、
図3において下から順に、無機蒸着によるハイバリヤ層11、ITOパターニングによる陽極(アノード)12、HIL(正孔注入層)13、HTL/IL(正孔輸送層)14、EML(発光層)15、ETL電子輸送層16、陰極(カソード)17、ハイバリヤ接着剤からなる封止剤18、無機蒸着によるハイバリヤ層19、封止フィルム20などによって構成されている。
【0024】
機能層11~20の総厚みは、全層合わせても0.2μm程度である。このような機能層11~20を形成するために、フレキシブル基板2は高い平坦度が必要になる。この実施の形態による固定台3の粘着層5は、フレキシブル基板2をこのような高い平坦度となるように粘着により保持できるように構成されている。
粘着層5は、再剥離可能な弱粘着剤によって支持体4の上面に層状に形成されている。このため、粘着層5は、平面視において支持体4と同一の矩形状に形成されている。弱粘着剤としては、アクリル系、シリコーン系、フッ素系の粘着剤を用いることができる。
【0025】
この実施の形態による粘着層5は、弱粘着剤からなるシートを支持体4の上面に貼り付けて構成され、固定台3の上面に粘着性をもたせている。粘着層5は、以下の3つの機能部を有している。
第1の機能部は、
図1中に矩形の固定台3に対して傾斜した正方形となるように形成された多数の凸部21である。第2の機能部は、
図1中に斜めの格子状に形成された凹部22である。第3の機能部は、平面視矩形となる固定台3の四つの辺となる部分にそれぞれ形成された端部凸部23である。フレキシブル基板2は、凸部21と端部凸部23とに粘着する。凹部22にフレキシブル基板2が粘着することはない。
【0026】
多数の凸部21は、上面が平坦に形成されている。粘着層5の粘着強度は、粘着層5の上面が平坦に形成されている場合(凸部21のみによって形成されている場合)、0.05~0.3(N/25mm) である。凸部21の上面の性状は平滑である。凸部21の上面が円錐形状や球状(凸曲面)では、後述する凹部22の容積が大きくなり、フレキシブル基板2の凸部21に接触する接触部と、凹部22と対向する非接触部とで熱伝導率に差が生じてしまい、銀などの導電性ペーストの伝導率にムラが生じてしまう。しかし、この実施の形態で示すように凸部21の上面が平坦であると、導電性ペーストの熱伝導にムラが生じ難くなり、品質が高い回路を形成することができる。
【0027】
図1に示す凸部21の上面の形状は、平面視において正方形である。粘着層5の一部を拡大した
図4に示すように、正方形の一辺の長さLは50μm~200μmである。
図4は、凹部22にハッチングを施して描いてある。多数の凸部21のうち、互いに隣り合う二つの凸部21,21は、凹部22を挟んで形成されている。
この実施の形態による凹部22は、粘着層5の上面にレーザー加工を施すことによって平面視格子状の溝となるように形成されている。詳述すると、凹部22は、粘着層5の上面に予め定めたエネルギーのレーザー光を照射し、粘着層5の上面の一部を部分的に除去することによって形成されている。なお、凹部22は、粘着層5をマシニング加工することにより設けてもよいし、印刷や塗工によるものでもよい。この実施の形態で示すようにレーザー加工によって凹部22を形成することにより、凸部21の上面に段差が生じ難く、凸部21の上面の平滑性を確保することができる。
【0028】
図5に示すように、凹部22の深さD、すなわち凸部21の高さは、約40μmである。また、凹部22の幅Wは、200μm以下である。
図1は、凹部22の形状を理解し易くなるように、凹部22どうしの間隔(凸部21の一辺の長さ)が実際より広くなるように描いてある。ここで、凹部22の幅Wの最大値と、上述した凸部21の一辺の長さLの最大値とについて、
図6と
図7とを用いて説明する。
図6と
図7とに示すフレキシブル基板2の上には、ナノ金属粒子を含む導電性ペースト24が塗布されている。ナノ金属粒子としては、銀を含むものを使用することができる。ここでは、導電性ペースト24を加熱、焼成するときの現象に基づいて幅Wと長さLの最大値を説明する。
【0029】
凹部22の幅Wが広い場合、すなわち凹部22の容積が大きい場合は、
図6に示すように、凹部22内の空気層が実質的に断熱層となり、フレキシブル基板2から粘着層5の凸部21を介して支持体4に至る第1の熱伝達経路Aと、フレキシブル基板2から凹部22内を経て支持体4に至る第2の熱伝達経路Bとで熱抵抗が著しく大きく異なるようになる。このような場合は、導電性ペースト24の乾燥焼成にムラが生じ、乾燥焼成を全域にわたって均等な品質で行うことができなくなる。導電性ペースト24がナノ金属粒子を含むものであると、凹部22の上の部分と凸部21の上の部分とで乾燥焼成結果に顕著な違いが現れる。
凹部22の幅Wが500μmを超えると顕著に悪化が見られるため、凹部22の幅Wは200μm以下が望ましい。
【0030】
凸部21の一辺の長さLが長い場合、言い換えれば凸部21の上面の面積が大きすぎる場合は、
図7に示すように、実質的に断熱層となる気泡25が凸部21とフレキシブル基板2との間に残存するようになる。例えば導電性ペースト24の乾燥焼成を行う工程を含めて加熱工程においては、フレキシブル基板2や粘着層5に含まれる水分やその他の揮発成分が加熱により蒸発あるいは気化する。
【0031】
この揮発成分の一部によりフレキシブル基板2と凸部21との間に気泡25が形成される。凸部21の面積が大き過ぎると、気泡25を外部に排出することができずに気泡25がフレキシブル基板2と凸部21との間に封入されるようになる。このように気泡25が残存していると、フレキシブル基板2から気泡25と凸部21とを経て支持体4に至る第3の熱伝達経路Cと、第1、第2の熱伝達経路A,Bとで熱抵抗がそれぞれ異なるようになり、例えば導電性ペースト24の乾燥焼成時にムラが生じる。
凸部21の一辺の長さLが500μmを超えると顕著に悪化が見られるため、凸部21の一辺の長さLは200μm以下が望ましい。
【0032】
凸部21の一辺の長さLと凹部22の幅Wは、所定の比率となるように設定されている。この実施の形態による粘着層5においては、粘着層5の上面(粘着面)の全域に対して、後述する端部凸部23を除いた凸部21の面積比率は10%~60%である。
図8(A)に凸部21の面積比率が約10%となる凸部21と凹部22を示す。
図8(B)に凸部21の面積比率が約45%となる凸部21と凹部22を示す。
図8(C)に凸部21の面積比率が約60%となる凸部21と凹部22を示す。
【0033】
第3の機能部となる端部凸部23は、その表面が平坦面となるように形成されているとともに、
図1に示すように、固定台3の各辺3a~3dに沿って延びる細い帯状に形成されている。
図1に示す端部凸部23は、固定台3の各辺3a~3dと対応する4箇所に設けられている。端部凸部23の長手方向の長さは、隣り合う端部凸部23とは所定の距離だけ離間する長さである。粘着層5の互いに隣り合う端部凸部23どうしの間は、上述した凸部21と凹部22とによって形成されている。
【0034】
凹部22は、4つの端部凸部23によって囲まれた粘着層5の中央部から端部凸部23どうしの間を経由して端部凸部23の外まで延びる範囲に形成されている。このため、凹部22は、端部凸部23どうしの間を経由して固定台3の外と通気可能になるから、粘着層5の全域において密閉されることがない。この実施の形態による固定台3には、端部凸部23どうしの間となる4つの角部に、凹部22が実質的に通気路となる通気部26が形成されている。
【0035】
端部凸部23の長手方向とは直交する方向の幅Aは、フレキシブル基板2の使用範囲の広さに応じて変わり、5mm~20mmである。フレキシブル基板2の使用範囲とは、図示してはいないが、フレキシブル基板2の電子回路や部品搭載部が形成される範囲である。端部凸部23は、フレキシブル基板2の使用範囲外の部分を粘着保持するように形成されている。ここでいう「使用範囲外」とは、素子や配線がなく、基板として使用されることのない領域のことである。4つの端部凸部23の上面の総面積は、フレキシブル基板2の上面の面積の1%~10%である。
【0036】
このように構成された固定台3を使用してフレキシブル基板2を保持するにあたっては、フレキシブル基板2の使用範囲が端部凸部23より中央側に位置するように、フレキシブル基板2を固定台3の上に載せて粘着させる。端部凸部23の表面には凹部22が形成されていないから、端部凸部23はその上面の全域がフレキシブル基板2の裏面に密着する状態でフレキシブル基板2を粘着保持するようになる。
【0037】
このため、加熱冷却の繰り返しにより粘着層5の粘着力が低下したとしても、端部凸部23でフレキシブル基板2を保持することが可能になり、繰り返しの使用回数を増やすことができる。この端部凸部23の面積は、フレキシブル基板2の総面積の1%~10%であり、しかも、フレキシブル基板2の使用範囲外の幅狭い部分を粘着保持するから、全工程が終了した後にフレキシブル基板2を固定台3から剥がすときに、半田クラックや断線等のダメージを生じさせることなく容易に剥がすことができる。
【0038】
また、フレキシブル基板2と凸部21との間で生じた気泡25は、凹部22に入り、端部凸部23で囲まれた粘着層5の中央部から通気部26を通って固定台3の外に排出される。このため、フレキシブル基板2の使用範囲内の部分と固定台3との間で熱伝達にムラが生じることがなく、フレキシブル基板2を使用して製造した製品の品質が一定になる。
したがって、フレキシブル基板2を保持する保持力を高く維持しながら繰り返し使用できるようにして低コスト化を図ることができるとともに、製品の歩留まりが高くなって高効率な生産を行うことが可能なフレキシブル基板用の搬送治具を提供することができる。
【0039】
この実施の形態による凹部22は、互いに連通する多数の溝によって形成されている。また、凹部22は、通気部26を通って端部凸部23の外に延びている。このため、端部凸部23によって囲まれた粘着層5の中央部に加熱工程で生じた揮発成分が凹部22を通って端部凸部23の外に排出される。このため、フレキシブル基板2の使用範囲の全域においてフレキシブル基板2から固定台3への熱伝達が円滑に行われるから、より一層品質が高い電子デバイスを製造することができる。
【0040】
この実施の形態による固定台3は、平面視矩形状に形成されている。端部凸部23は、固定台3の四つの辺3a~3dとなる部分に設けられている。通気部26は、固定台3の角となる部分に設けられている。
このため、固定台3の熱膨張をフレキシブル基板2の使用範囲の全域に分散させることができるから、加熱冷却が繰り返されて固定台3とフレキシブル基板2とが繰り返し伸縮されたとしても、フレキシブル基板2に変形が生じることはない。
【0041】
この実施の形態においては、固定台3のフレキシブル基板2と対向する粘着面の全域に対して、端部凸部23を除いた凸部21の面積比率は10%~60%である。このため、粘着層5とフレキシブル基板2との熱膨張率の差に起因して加熱あるいは冷却工程でこれらの一方が他方に対して変位したとしても、凸部21が撓むようになって凸部21の上面がフレキシブル基板2に粘着した状態を保持することができる。
したがって、フレキシブル基板2が高精度の微細加工などが必要な高度なフレキシブルデバイス基板であったとしても、複数の層を重ねた積層構造を高い精度で形成することが可能になる。
【0042】
この実施の形態による端部凸部23の幅は5mm~20mmである。このため、フレキシブル基板2を固定台3から剥がすときに電子回路や電子デバイスを損なうことなく容易に剥がすことができる。
【0043】
(凹部の変形例)
上述した実施の形態においては、凹部22を斜めの格子状に形成する例を示したが、凹部22は
図9(A),(B)に示すように形成することができる。
図9(A)に示す凹部22は、同図において上下方向に延びる複数の縦方向の溝22aと、左右方向に延びる複数の横方向の溝22bと、右下がりに延びる複数の第1の斜め方向の溝22cと、左下がりに延びる複数の第2の斜め方向の溝22dとによって構成されている。これらの4種類の溝22a~22dは、縦方向の溝22aと横方向の溝22bとが交差する位置で第1および第2の斜め方向の溝22c,22dが交差するように形成されている。
【0044】
図9(B)に示す凹部22は、同図において左右方向に延びる複数の横方向の溝22bと、右下がりに延びる複数の第1の斜め方向の溝22cと、左下がりに延びる複数の第2の斜め方向の溝22dとによって構成されている。第1の斜め方向の溝22cと、第2の斜め方向の溝22dは、横方向の溝22bと交差する位置で互いに交差するように形成されている。
凹部22を
図9(A),(B)に示すように形成しても、
図1に示す形態を採るときと同様に凸部21が撓んでフレキシブル基板2の変位に追従するから、高品質な電子デバイスを製造することができる。
【0045】
(端部凸部の変形例)
端部凸部は
図10(A)~(C)に示すように構成することができる。
図10(A)に示す端部凸部31は、平面視においてL字状に形成され、固定台3の1つの辺3a~3dに2つの端部凸部31,31が位置するように、固定台3の4つの辺3a~3dとなる部分に設けられている。詳述すると、この端部凸部31は、2つの辺31a,31bが固定台3の2つの辺に沿うとともに、角部31cが固定台3の角部の近傍に位置するように設けられている。この場合、固定台3には4つの端部凸部31が設けられ、これらの端部凸部31どうしの間に通気部26が設けられている。この通気部26は、固定台3の辺3a~3dとなる部分に設けられている。
【0046】
図10(B)に示す端部凸部32は、平面視においてL字状に形成され、固定台3の1つの角部と、この角部を挟んで並ぶ2つの辺(例えば辺3a,3b、辺3c,3d)とに沿って延びるように、固定台3の4つの辺3a~3dとなる部分に設けられている。この場合、固定台3には2つの端部凸部32が設けられ、これらの端部凸部32どうしの間に通気部26が設けられている。
【0047】
図10(C)に示す端部凸部33は、固定台3の1辺(図においては辺3d)に沿ってこの辺3dの一端部から他端部まで延びる第1の端部凸部33aと、固定台3の他の3辺3a~3cに沿ってコ字状に延びる第2の端部凸部33bとによって構成されている。この場合、第1の端部凸部33aの両端と、第2の端部凸部33bの両端との間の2箇所に通気部26が設けられている。
【0048】
図10(A)~(C)に示すように端部凸部31~33を構成したとしても、フレキシブル基板2を強固に粘着保持できるとともに、フレキシブル基板2を剥がすときには電子回路等を損なうことなく容易に剥がすことが可能になる。
図1~
図10(C)に示す端部凸部23,31~33は、通気部26が2箇所または4箇所に設けられるように構成されている。しかし、端部凸部23,31~33は、図示してはいないが、通気部26が1つだけ設けられるように固定台3の4辺3a~3dに沿って配設することができる。端部凸部23の形状としては、通気部が設けられていれば、図示した形状に限られるわけではない。
【符号の説明】
【0049】
1…フレキシブル基板用の搬送治具、3…固定台、2…フレキシブル基板、21…凸部、22…凹部、26…通気部、23,31~33…端部凸部、3a~3d…辺。