(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016425
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】まな板
(51)【国際特許分類】
A47J 47/00 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
A47J47/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115326
(22)【出願日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2020119184
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593032983
【氏名又は名称】株式会社川▲崎▼合成樹脂
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 雄輔
【テーマコード(参考)】
4B066
【Fターム(参考)】
4B066AB01
4B066AB10
4B066CC12
(57)【要約】
【課題】包丁などの向きに拘わらず、荷重がかかった際に使用者に伝わる感触をできるだけ均等にする。
【解決手段】第1板部材10及び第2板部材20間の間隙部2に、中材30として、複数枚の段ボール31,32を、その波状部31a,32aの形成方向が交差するように積層して装填している。そのため、包丁などが、第1板部材10又は第2板部材20の表面にいずれの向きで接しても、段ボール31,32の変形の仕方が安定し、使用者に伝わる感触も、包丁等の向きやまな板の向き等に拘わらず安定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁部を備えた合成樹脂製の断面凹状の第1板部材及び第2板部材を有し、前記周壁部に取り囲まれた平面部の内面同士を対向させた状態で組み合わされ、
前記第1板部材及び第2板部材の各平面部の内面間の間隙部には中材が装填され、
前記中材として、複数枚の段ボールが、その波状部の形成方向が交差するように積層されて装填されていることを特徴とするまな板。
【請求項2】
前記段ボールがプラスチック段ボールである請求項1記載のまな板。
【請求項3】
前記段ボールが2枚であり、各波状部の形成方向が略直角に交差するように積層されている請求項1又は2記載のまな板。
【請求項4】
前記第1板部材及び第2部材は、前記平面部の内面同士を対向させた状態で組み合わせた際に、前記周壁部の外方に突出する突出部を有し、前記突出部の上下方向の一方側の面、他方側の面並びに外側面が、柔軟な合成樹脂製の縁部材で被覆されて一体化されている請求項1~3のいずれか1に記載のまな板。
【請求項5】
前記段ボールがリサイクル品である請求項1~4のいずれか1に記載のまな板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、まな板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、厚さ数mm程度の断面凹状のポリプロピレン製の上下板の内面同士を対向させ、両者の周壁部を接合させたまな板が開示されている。上下板の対向する内面間の間隙部には、中材として、段ボールを配設した実施例が記載されている。特許文献1に示されたようなまな板は、厚さが例えば10mm以上ある厚手の木製、合成樹脂製の板材からなるものと比較して、軽量で取り扱いやすいと共に、低コストで製造できるという利点がある。また、所定厚さの合成樹脂製の板材からなるものと比較した場合に、特許文献1の段ボールを中材として装填したものは、上下板が数mm程度と、荷重がかかるとたわむことが可能であり、また、段ボールがクッションとなるため、まな板に接触した包丁がはね返されるような感触が小さく、刃当たりがよくて食品が切れずにつながったまま残ってしまうようなことも少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されているように、このようなまな板において使用される中材は軽量でコストも低いことから段ボールが適しているが、この段ボールは、上下板間の間隙部の高さに応じた厚さのもの1枚であるのが通常である。段ボールを被覆するポリプロピレン等を用いてなる上下板は、ある程度硬質であり、通常の使用時においては大きな違いはないが、大きな力を加える必要のある物をカットする場合などにおいて、まな板の方向により力をかけた際の感触に違いを感じる場合がある。すなわち、上下板は、特許文献1のように、厚さ数mm程度の断面凹状のポリプロピレン製のものであり、荷重によって上板が多少なりともたわむと共に、それに伴って段ボールに沈み込むような変形を生じる。それらのたわみや変形は通常は僅かであり、大きな違いはないものの、まな板に対する包丁の向きによっては、それらのたわみ量、変形量、あるいは変形の範囲等が若干ながら変化し、それが力をかけた際に使用者が受ける感触の違いとして伝わる場合がある。
【0005】
また、まな板は、通常、長方形で形成されており、その長辺側が使用者に対峙するように用いることが多いが、まな板に対する包丁の向きは、必ずしも一定では無く、長辺に対して直交する向きであったり、斜めになったり、あるいは、長辺と略平行な向きで使用したりする場合もある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、包丁などの向きに拘わらず、荷重がかかった際に使用者に伝わる感触をできるだけ均等にすることができるまな板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明においては、
周壁部を備えた合成樹脂製の断面凹状の第1板部材及び第2板部材を有し、前記周壁部に取り囲まれた平面部の内面同士を対向させた状態で組み合わされ、
前記第1板部材及び第2板部材の各平面部の内面間の間隙部には中材が装填され、
前記中材として、複数枚の段ボールが、その波状部の形成方向が交差するように積層されて装填されていることを特徴とするまな板を提供する。
【0008】
前記段ボールがプラスチック段ボールであることが好ましい。
前記段ボールが2枚であり、各波状部の形成方向が略直角に交差するように積層されていることが好ましい。
前記第1板部材及び第2部材は、前記平面部の内面同士を対向させた状態で組み合わせた際に、前記周壁部の外方に突出する突出部を有し、前記突出部の上下方向の一方側の面、他方側の面並びに外側面が、柔軟な合成樹脂製の縁部材で被覆されて一体化されていることが好ましい。
前記段ボールはリサイクル品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1板部材及び第2板部材間の間隙部に、中材として、複数枚の段ボールを、その波状部の形成方向が交差するように積層して装填している。仮に段ボールが1枚の場合、あるいは複数枚積層しても波状部の形成方向を同方向としている場合には、包丁などが、波状部の形成方向に沿って当接した場合と、波状部の形成方向に交差するように当接する場合とでは段ボールの変形の仕方が異なり、結果として第1板部材又は第2板部材のたわみ量やたわみ範囲が変化して使用者の手に伝わる感触が変化する。
【0010】
これに対し、本発明によれば、段ボールの波状部の形成方向が交差するように積層されているため、包丁などが、第1板部材又は第2板部材の表面にいずれの向きで接しても、段ボールの変形の仕方が安定し、使用者に伝わる感触も、包丁等の向き、まな板の向き、あるいは、まな板における包丁等の使用位置(まな板における食品の置く位置)等に拘わらず安定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態にかかるまな板の外観を示した斜視図である。
【
図4】
図4(a)は、第1板部材の構成を説明するための図であり、
図4(b)は、第2板部材の構成を説明する為の図である。
【
図5】
図5は、上記実施形態にかかるまな板における縁部材の固定の様子を示す要部断面図である。
【
図6】
図6は、試験例における試験の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1~
図5に示すように、本実施形態のまな板1は、第1板部材10、第2板部材20及び中材30を有して構成される。
【0013】
第1板部材10及び第2板部材20は、合成樹脂から形成される。合成樹脂は限定されるものではないが、例えばポリプロピレンやポリエチレンなどを挙げることができる。耐熱性が比較的高く、機械的強度に優れるポリプロピレンが好ましい。
【0014】
第1板部材10及び第2板部材20は、所定面積の平面部11,21と、その周囲から立ち上がる周壁部12,22とを備えた断面凹状に形成されている(
図4(a),(b)参照)。本実施形態では、いずれも平面視で長方形に形成されているが、これはあくまで一例であり、正方形、台形、楕円形、円形等、用途やデザインに応じて種々の形状とすることができる。
【0015】
図4(a),(b)に示したように、周壁部12,22には、それぞれ、外方に突出する突出部13,23が形成されている。本実施形態では、第1板部材10の周壁部12の突出部13は、一方の長辺1aと、一方の長辺1a寄りの両短辺1c,1dに形成され、第2板部材20の周壁部22の突出部23は、他方の長辺1bと、他方の長辺1b寄りの両短辺1c,1dに形成されている。すなわち、各突出部13,23は、第1板部材10及び第2板部材20の長手方向に沿った中心線Xを挟んだ対象位置に形成されている。
【0016】
第1板部材10及び第2板部材20は、各平面部11,21の内面11a,21aを向かい合わせた際に、各突出部13,23が中心線Xを挟んで対象位置となる向きで組み合わされる。これにより、まな板1のほぼ全周に亘って突出部13,23が存在することになる。第1板部材10及び第2板部材20をこのようにして組み合わせる際に容易に組み合わせすることができるよう、突出部13,23の形成されていない範囲の周壁部12,22には外方に突出する複数のガイド突起12e,22eが形成され、それに対応して、突出部13,23には、各ガイド突起12e,22eが係合するガイド溝部13e,23eが形成されている。従って、ガイド突起12e,22eがガイド溝部13e,23eに係合するようにすれば両者を容易に組み合わせることができる。
【0017】
第1板部材10及び第2板部材20を組み合わせ、全周に突出部13,23が存在する状態で、該突出部13,23の上下方向の一方側の面13a,23a、他方側の面13b,23b並びに外側面13c,23cの全てを被覆する縁部材40が設けられて一体化されている(
図5参照)。縁部材40は、熱可塑性エラストマー等の柔軟な合成樹脂から構成され、射出成形等によって突出部13,23に一体化される。縁部材40を熱可塑性エラストマーから構成することにより、まな板1を調理台上等に置いたときの滑り止め機能を果たす。
【0018】
中材30は、第1板部材10及び第2板部材20を組み合わせる際に、各平面部11,21の対向する内面11a,21a間の間隙部2に装填される。中材30は、複数枚(本実施形態では2枚)の段ボール(段ボールシート)31,32が用いられる。段ボール31,32は、紙製であってもよいが、プラスチック段ボールが、耐久性の点から好ましい。また、段ボール31,32は、省エネや環境保護の観点からリサイクル品を用いることが好ましい。
【0019】
段ボール31,32は、
図2(a),(b)及び
図5に示したように、間隙部2内に積層して配設されるが、その際に、上下のライナー31b,31b間又は32b,32b間に挟まれている各波状部31a,32aの形成方向が交差するように積層される。本実施形態では、一方の段ボール31は、波状部31aの各頂部31a1に沿った直線31cが長辺1a,1bに平行となるように形成されており、他方の段ボール32は、波状部32aの各頂部32a1に沿った直線32cが短辺1c,1dに平行となるように形成されている(
図2及び
図3参照)。これにより、2枚の段ボール31,32を積層した際には、波状部31a,32aの各頂部31a1,32a1に沿った直線31c,32cが略直角に交差することになる。なお、本明細書において、各波状部31a,32aの形成方向とは、波状部31a,32aの各頂部31a1,32a1に沿った直線31c,32cの方向のことである。
【0020】
本実施形態によれば、例えば、第1板部材10が上面となり、第2板部材20が下面となるように使用される。第1板部材10上に食品を載せ、包丁によりカットする。この際、本実施形態では、2枚の段ボール31,32を波状部31a,32aの形成方向が交差するように、好ましくは本実施形態のように略直角に交差するように配設しているため、包丁による荷重がかかった際の2枚の段ボール31,32の変形の仕方は、包丁の向きが一方の段ボール31の波状部31aの形成方向に沿った向きであっても、逆に他方の段ボール32の波状部32aの形成方向に沿った向きであってもほぼ同様となる。
【0021】
すなわち、従来のように段ボールが1枚で波状部の形成方向が一方向のみの場合、この形成方向に沿って包丁をまな板に当接した場合と、それに略直角に交わる方向に包丁を当接した場合とでは、段ボールの変形の仕方(圧縮に伴う変形の量や変形の範囲)が変わり、その結果、その上面を被覆する第1板部材10のたわみの仕方(たわみ量やたわむ範囲)が変わる。しかしながら、本実施形態のように、2枚の段ボール31,32の波状部31a,32aの形成方向が交差するように間隙部2内に配置することにより、包丁の向きに拘わらず、第1部材10の上面に当接して荷重がかかった際の段ボール31,32の変形の仕方に大きな差がなくなり、結果として、第1部材10のたわみの仕方も安定する。
【0022】
そのため、使用者の手に伝わる反力や刃当たりなどの感触としては、包丁の向きやまな板の向きによる差がほとんどなくなり、使い勝手がよくなる。また、包丁やまな板の向きによる使用感の違いが小さくなるため、まな板の形状の自由度も増し、デザイン性の向上にも寄与できる。
【0023】
(試験例)
1.試料
(a)~(c)の3種類の試料を積層して一つの試験片とした。各試験片は、いずれも長方形で平均幅(短辺に沿った長さ)が44mm、平均長さ(長辺に沿った長さ)が89mm、平均厚さが10mmであった。
(a):厚さ2mmの長方形のポリプロピレン製の板(PP板)(第1板部材10及び第2板部材20に相当)、
(b):厚さ3mmで、波状部の形成方向が短辺に沿っている長方形のプラスチック段ボール(縦目プラダン)
(c):厚さ3mmで、波状部の形成方向が長辺に沿っている長方形のプラスチック段ボール(横目プラダン)
【0024】
2.試験方法
「JIS K7171:2016 プラスチック一曲げ特性の求め方」を参考に、下記条件により3点曲げ試験を行い、結果を、同規格の「9 計算及び試験結果の表現」、「9.1 曲げ応力」により求める。
試験機器: (株) オリエンテック製 万能材料試験機UCT-500 ロードセル:1kN
試験環境:23℃、50%RH
試料の設置状況:
図6参照
支持台コーナーの半径:5mm、支点間距離:50mm
圧子の先端半径:5mm
試験速度:10mm/min、試験回数:5回(結果は平均値を有効数字3桁に丸める。)
試験片は、下から順に次のように重ねられている。
・試験片1:PP板、縦目プラダン、縦目プラダン、PP板
・試験片2:PP板、横目プラダン、横目プラダン、PP板
・試験片3:PP板、縦目プラダン、横目プラダン、PP板
【0025】
3.試験結果
・試験片1の曲げ応力:4.01MPa
・試験片2の曲げ応力:4.22MPa
・試験片3の曲げ応力:4.08MPa
【0026】
4.考察
試験結果より、縦目プラダンを2枚積層した試験片1は、圧子の先端の幅方向(
図6の奥行き方向)に波状部の形成方向が沿っているため、最も曲げ応力が小さく、横目プラダンを2枚積層した試験片2は、圧子の先端の幅方向(
図6の奥行き方向)に波状部の形成方向が直交しているため、最も曲げ応力が高かった。
一方、本実施形態である縦目プラダンと横目プラダンを積層した試験片3は、試験片1及び試験片2の間の値を示した。
【0027】
試験片1及び試験片2の結果から、段ボール31,32の波状部31a,32aの形成方向が同じ場合には、包丁の向きやまな板の向きにより、曲げ応力に差が生じ、使用時における包丁の向きやまな板の向きを一定にしないと、包丁がまな板に当接した際の荷重によっては、刃当たりなどの使用感に影響する可能性があることがわかる。
これに対し、本実施形態の試験片3は、縦目プラダンと横目プラダンの各波状部の形成方向が相互に直交しているため、圧子の向きが90度異なる場合でも曲げ応力は上記とほぼ同じになり、包丁やまな板の向きによる使用感の違いが小さくなることがわかる。
【0028】
なお、本発明のまな板は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、特許文献1に示したように、第1板部材10及び第2板部材20のいずれか少なくとも一方を透明又は半透明の素材から形成し、中材30に図柄や文字などの装飾を施したシートを介在させ、表面にそれらの装飾があらわれる構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 まな板
1a,1b 長辺
1c,1d 短辺
2 間隙部
10 第1板部材
11 平面部
11a 内面
12 周壁部
13 突出部
20 第1板部材
21 平面部
21a 内面
22 周壁部
23 突出部
30 中材
31,32 段ボール
31a,32a 波状部
40 縁部材