(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164255
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20221020BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20221020BHJP
C07K 1/36 20060101ALI20221020BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20221020BHJP
C08F 22/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C07K1/14
C07K1/22
C07K1/36
C12N9/10
C08F22/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069637
(22)【出願日】2021-04-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山口 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】井之上 ゆき乃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征司
(72)【発明者】
【氏名】中山 亨
【テーマコード(参考)】
4B050
4H045
4J100
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050DD13
4B050FF02C
4B050FF14C
4B050FF16C
4B050LL01
4B050LL05
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA30
4H045DA89
4H045EA05
4H045EA20
4H045EA50
4H045GA01
4H045GA20
4H045GA26
4J100AA15P
4J100AB02P
4J100AJ09Q
4J100AJ10Q
4J100AS02P
4J100AS03P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA28
4J100JA50
4J100JA51
4J100JA53
(57)【要約】
【課題】タンパク質複合体が形成されている場合であっても、複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出し、膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体を抗体に結合させるタンパク質結合工程と、タンパク質結合工程によって抗体に結合した膜タンパク質複合体を、pHが6.0以上の条件下で溶出するタンパク質溶出工程と、タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体について、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って人工ポリマーを除去する人工ポリマー除去工程とを含む膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体を抗体に結合させるタンパク質結合工程と、
タンパク質結合工程によって抗体に結合した膜タンパク質複合体を、pHが6.0以上の条件下で溶出するタンパク質溶出工程と、
タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体について、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って人工ポリマーを除去する人工ポリマー除去工程と
を含む膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項2】
前記人工ポリマーが、両親媒性ポリマーである請求項1記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項3】
前記人工ポリマーが、マレイン酸に由来する単位を有するポリマーである請求項1記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項4】
前記人工ポリマーが、Poly(styrene-maleic acid)(SMA)又はPoly(diisobutylene-maleic acid)(DIBMA)である請求項1記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項5】
タンパク質溶出工程において、pHが9.0以上の条件下で膜タンパク質複合体を溶出する請求項1~4のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項6】
タンパク質溶出工程において、界面活性剤を用いて膜タンパク質複合体を溶出する請求項1~4のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項7】
前記膜タンパク質複合体が、一重膜由来の膜タンパク質複合体である請求項1~6のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項8】
前記一重膜がゴム粒子である請求項7記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項9】
前記膜タンパク質複合体が、プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含む請求項1~8のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項10】
前記膜タンパク質複合体が、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含む請求項1~9のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【請求項11】
前記膜タンパク質複合体が、Hevea属又はTaraxacum属に属する植物由来のシス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含む請求項1~10のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜から膜タンパク質を溶出する場合、従来から界面活性剤を用いた方法が盛んに行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、従来から広く行われている界面活性剤を用いたタンパク質の溶出方法では、膜上等でタンパク質複合体が形成されている場合、その構造が破壊され、個別のタンパク質に分かれて溶出されてしまうということが判明した。
本発明は、本発明者らが新たに見出した前記課題を解決し、タンパク質複合体が形成されている場合であっても、複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出し、膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、界面活性剤の代わりに人工ポリマーを用いることに想到した。
図1の通り、界面活性剤を用いた場合は、生体膜上の膜タンパク質複合体は、複合体の構造が破壊され、個別のタンパク質に分かれて溶出されてしまう。そのため、タンパク質間の関係性を明らかにすることが困難である。一方、界面活性剤の代わりに、人工ポリマー、特に、両親媒性ポリマーを用いた場合、膜の脂質ごと複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出できることが判明した。これは、界面活性剤に比べて、人工ポリマーの分子量が大きいため、複合体の構造を破壊することなく、複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出できるものと推測される。
【0005】
更に、本発明者らは、人工ポリマーを用いて膜タンパク質複合体を溶出した際に、溶出した膜タンパク質複合体を精製する方法について問題があることに直面した。
タンパク質を精製する場合、抗体を用いる場合が多いため、抗体を用いた精製、すなわち、抗体に特定のタンパク質のみを結合させ、その他のタンパク質と分離した後、抗体に結合した特定のタンパク質を溶出する方法について検討した。そして、抗体に結合したタンパク質を溶出する場合、酸性の溶液の使用が推奨されているが、人工ポリマーを用いた場合、酸性の溶液で溶出してもタンパク質の溶出が確認できなかった。
【0006】
この事実に直面した際、本発明者らは、当初、人工ポリマーを使用した場合には、抗体によりタンパク質の精製ができないものと考えていた。しかしながら、驚くべきことに、従来行われている酸性条件下ではなく、特定のpH以上の条件下(アルカリ条件下)で溶出することにより、タンパク質が溶出されることを発見した。これは、驚くべき発見である。
一方、アルカリ条件下で抗体からのタンパク質溶出を行ったところ、溶出自体は可能であるが、次工程で人工ポリマーの除去を行う際に、アルカリ条件下では除去効率が著しく低下するという新たな課題を見出した。
【0007】
そこで溶出後のタンパク質、人工ポリマーを含む溶液から、人工ポリマーを除去する工程においては、人工ポリマーが不安定化する酸性条件下で行うことで、効率的に人工ポリマーの除去を行えることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、前記知見等を見出すことにより完成したもので、人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体を抗体に結合させるタンパク質結合工程と、タンパク質結合工程によって抗体に結合した膜タンパク質複合体を、pHが6.0以上の条件下で溶出するタンパク質溶出工程と、タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体について、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って人工ポリマーを除去する人工ポリマー除去工程とを含む膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法に関する。
【0009】
前記人工ポリマーが、両親媒性ポリマーであることが好ましい。
【0010】
前記人工ポリマーが、マレイン酸に由来する単位を有するポリマーであることが好ましい。
【0011】
前記人工ポリマーが、Poly(styrene-maleic acid)(SMA)又はPoly(diisobutylene-maleic acid)(DIBMA)であることが好ましい。
【0012】
タンパク質溶出工程において、pHが9.0以上の条件下で膜タンパク質複合体を溶出することが好ましい。
【0013】
前記膜タンパク質複合体が、一重膜由来の膜タンパク質複合体であることが好ましい。
【0014】
前記一重膜がゴム粒子であることが好ましい。
【0015】
前記膜タンパク質複合体が、プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含むことが好ましい。
【0016】
前記膜タンパク質複合体が、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含むことが好ましい。
【0017】
前記膜タンパク質複合体が、Hevea属又はTaraxacum属に属する植物由来のシス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体を抗体に結合させるタンパク質結合工程と、タンパク質結合工程によって抗体に結合した膜タンパク質複合体を、pHが6.0以上の条件下で溶出するタンパク質溶出工程と、タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体について、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って人工ポリマーを除去する人工ポリマー除去工程とを含む膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法であるので、タンパク質複合体が形成されている場合であっても、複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出し、膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製できる。複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出することにより、関連性の高いタンパク質をまとめて複合体として溶出させることができ、更には、溶出された膜タンパク質複合体から個別にタンパク質を精製することも可能である。これにより、精製されたタンパク質が複数であれば、これらのタンパク質は膜上で複合体を形成していることが判明する。このように、本発明の手法であれば、例えば、膜上でどのタンパク質とどのタンパク質が複合体を形成しているか等の情報も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】界面活性剤を用いた場合、人工ポリマーを用いた場合のタンパク質等の溶出の様子の一例を模式的に示す図である。
【
図2】人工ポリマーを用いた場合のタンパク質等の溶出の様子の一例を模式的に示す図である。
【
図3】比較例1、実施例1、2の結果を示す図である。
【
図5】pH条件による違いを示す実験結果を示す図である。
【
図6】非特異的抗体、特異的抗体による違いを示す実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法は、人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体を抗体に結合させるタンパク質結合工程と、タンパク質結合工程によって抗体に結合した膜タンパク質複合体を、pHが6.0以上の条件下で溶出するタンパク質溶出工程と、タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体について、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って人工ポリマーを除去する人工ポリマー除去工程とを含む。
なお、前記各工程は複数回行ってもよく、前記各工程の間に他の工程が行われてもよい。
【0021】
(タンパク質抽出工程)
まず、タンパク質抽出工程から説明する。
タンパク質抽出工程では、人工ポリマーを用いて膜から膜タンパク質複合体を溶出する。人工ポリマーを用いることにより、関連性の高いタンパク質をまとめて複合体の状態で膜タンパク質複合体を膜から溶出することが可能となる。
本明細書において、複合体の状態とは、二量体以上のホモ又はヘテロ多量体を形成するタンパク群と膜由来の脂質が結合している状態を意味する。
【0022】
人工ポリマーとしては、化学的に合成されたポリマー(重合体)であれば特に限定されないが、例えば、両親媒性ポリマーを好適に使用できる。また、直鎖状のポリマーが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
両親媒性ポリマーとしては、ポリマー内に親水性部位と疎水性部位の両方を有するポリマーであれば特に限定されず、例えば、疎水性モノマーと親水性モノマーがランダムに又はブロック的に重合したポリマー、親水性基、疎水性基を共に有するモノマーが重合したポリマー、疎水性の主鎖に親水性の側鎖が結合したポリマー、親水性の主鎖に疎水性の側鎖が結合したポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、疎水性モノマーと親水性モノマーがランダムに又はブロック的に重合したポリマーが好ましい。
【0023】
疎水性モノマーと親水性モノマーがランダムに又はブロック的に重合したポリマーとしては、例えば、Poly(styrene-maleic acid)(SMA、スチレンマレイン酸ポリマー)、Poly(diisobutylene-maleic acid)(DIBMA、ジイソブチレンマレイン酸ポリマー)、イソプレンマレイン酸ポリマー、ブタジエンマレイン酸ポリマー等のマレイン酸に由来する単位を有するポリマー;
スチレンフマル酸ポリマー、ジイソブチレンフマル酸ポリマー、イソプレンフマル酸ポリマー、ブタジエンフマル酸ポリマー等のフマル酸に由来する単位を有するポリマー;
スチレンシトラコン酸ポリマー、ジイソブチレンシトラコン酸ポリマー、イソプレンシトラコン酸ポリマー、ブタジエンシトラコン酸ポリマー等のシトラコン酸に由来する単位を有するポリマー;
スチレンメサコン酸ポリマー、ジイソブチレンメサコン酸ポリマー、イソプレンメサコン酸ポリマー、ブタジエンメサコン酸ポリマー等のメサコン酸に由来する単位を有するポリマー;
スチレンアコニット酸ポリマー、ジイソブチレンアコニット酸ポリマー、イソプレンアコニット酸ポリマー、ブタジエンアコニット酸ポリマー等のアコニット酸に由来する単位を有するポリマー;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、マレイン酸に由来する単位を有するポリマーが好ましく、Poly(styrene-maleic acid)(SMA)、Poly(diisobutylene-maleic acid)(DIBMA)がより好ましい。
【化1】
【0024】
人工ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3000以上、より好ましくは5000以上、更に好ましくは8000以上、特に好ましくは10000以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下、更に好ましくは30000以下、特に好ましくは15000以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる。特に、Mwが下限値以上の場合により好適に関連性の高いタンパク質をまとめて複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出することが可能となる。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0025】
膜としては、膜タンパク質複合体が存在している膜であれば特に限定されず、例えば、生体膜が挙げられる。生体膜としては、例えば、細胞膜、ミトコンドリア外膜、ミトコンドリア内膜、核膜、小胞体膜、ゴルジ体膜、リソソーム膜、シナプス小胞膜、エンドソーム膜、ペルオキシソーム膜等の二重膜(脂質二重膜);ゴム粒子、油滴(lipid droplet)等の一重膜(脂質一重膜);等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、一重膜が好ましく、ゴム粒子がより好ましい。すなわち、前記膜タンパク質複合体が、一重膜由来の膜タンパク質複合体であることが好ましく、ゴム粒子由来の膜タンパク質複合体であることがより好ましい。
【0026】
二重膜から人工ポリマーを用いてタンパク質の溶出を行う場合、
図2のように、膜の一部の溶出を行った場合であっても脂質の疎水性部分は膜の内部に存在するため、構造上の問題は生じないものと推測される。
一方、一重膜から人工ポリマーを用いてタンパク質の溶出を行う場合には、溶出した後、脂質の疎水性部分が表面に現れる可能性があるため、二重膜の場合とは異なり不安定化するのではないかと考えていた。しかしながら、実際は、一重膜から人工ポリマーを用いてタンパク質の溶出を行う場合であっても、懸念された不安定化は見られなかった。このような、一重膜から人工ポリマーを用いてタンパク質の溶出を行う場合であっても不安定化しないという発見は、当業者の予測を超える驚くべき発見である。
【0027】
膜タンパク質複合体とは、生体膜等の膜に付着している膜タンパク質であって、複数のタンパク質が会合して複合体を形成しているものを意味する。
ここで、本明細書において、膜にタンパク質が付着しているとは、タンパク質の全部又は一部が膜中に取り込まれる又は膜の膜構造に挿入される、といったことを意味するが、これに限らず、膜表面又は内部に局在する等の場合をも意味する。また更には、膜に結合しているタンパク質と複合体を形成し、複合体として膜上に存在する場合も膜に結合しているとの概念範囲に含まれる。
【0028】
膜タンパク質複合体を形成する膜タンパク質としては、例えば、膜に部分的に包含されているタンパク質、膜を貫通しているタンパク質(膜貫通型タンパク質)、又はこれら内在性膜タンパク質と一時的に結合しているタンパク質等が挙げられる。
【0029】
前記膜タンパク質の具体例としては、例えば、受容体、チャンネル、トランスポーター、ポンプ、酵素等が挙げられる。前記膜タンパク質としては、機能の解明を行いたい膜タンパク質を対象とすればよいが、例えば、天然ゴムの生合成経路は不明な点が多いことから、天然ゴムの生合成が行われていることが予想されるゴム粒子に結合しているタンパク質を対象とすることが好ましい。特に、天然ゴムの生合成の中心的な役割を担っているとされるものの機能がまだ十分に解明されていないプレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質が好ましく、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質がより好ましく、Hevea属又はTaraxacum属に属する植物由来のシス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質が更に好ましい。すなわち、前記膜タンパク質複合体が、プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含むことが好ましく、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含むことがより好ましく、Hevea属又はTaraxacum属に属する植物由来のシス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含むことが更に好ましい。
【0030】
プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質には、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質、トランス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質が存在するが、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質が好ましい。
【0031】
プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質、シス型プレニルトランスフェラーゼ(CPT)familyに属するタンパク質は、その由来は特に制限されず、微生物由来であっても、動物由来であっても、植物由来であってもよいが、植物由来であることが好ましく、Hevea属、Sonchus属、Taraxacum属、及びParthenium属からなる群より選択される少なくとも1種の属に属する植物由来であることがより好ましく、Hevea属又はTaraxacum属に属する植物由来であることが更に好ましく、パラゴムノキ又はロシアンタンポポ由来であることが特に好ましく、最も好ましくは、パラゴムノキ由来であることである。
【0032】
前記植物としては、特に限定されず、例えば、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のHevea属;ノゲシ(Sonchus oleraceus)、オニノゲシ(Sonchus asper)、ハチジョウナ(Sonchus brachyotus)等のSonchus属;セイタカアワダチソウ(Solidago altissima)、アキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. asiatica)、ミヤマアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. leipcarpa)、キリガミネアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. leipcarpa f. paludosa)、オオアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. gigantea)、オオアワダチソウ(Solidago gigantea Ait. var. leiophylla Fernald)等のSolidago属;ヒマワリ(Helianthus annuus)、シロタエヒマワリ(Helianthus argophyllus)、ヘリアンサス・アトロルベンス(Helianthus atrorubens)、ヒメヒマワリ(Helianthus debilis)、コヒマワリ(Helianthus decapetalus)、ジャイアントサンフラワー(Helianthus giganteus)等のHelianthus属;タンポポ(Taraxacum)、エゾタンポポ(Taraxacum venustum H.Koidz)、シナノタンポポ(Taraxacum hondoense Nakai)、カントウタンポポ(Taraxacum platycarpum Dahlst)、カンサイタンポポ(Taraxacum japonicum)、セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale Weber)、ロシアンタンポポ(Taraxacum koksaghyz)、Taraxacum brevicorniculatum等のTaraxacum属;イチジク(Ficus carica)、インドゴムノキ(Ficus elastica)、オオイタビ(Ficus pumila L.)、イヌビワ(Ficus erecta Thumb.)、ホソバムクイヌビワ(Ficus ampelas Burm.f.)、コウトウイヌビワ(Ficus benguetensis Merr.)、ムクイヌビワ(Ficus irisana Elm.)、ガジュマル(Ficus microcarpa L.f.)、オオバイヌビワ(Ficus septica Burm.f.)、ベンガルボダイジュ(Ficus benghalensis)等のFicus属;グアユール(Parthenium argentatum)、アメリカブクリョウサイ(Parthenium hysterophorus)、ブタクサ(Parthenium hysterophorus)等のParthenium属;レタス(Lactuca sativa)、ベンガルボダイジュ、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)等が挙げられる。
【0033】
なお、本明細書において、プレニルトランスフェラーゼ(CPT)familyに属するタンパク質は、イソプレノイド化合物の鎖長を延長する反応を触媒する酵素である。
また、本明細書において、トランス型プレニルトランスフェラーゼ(CPT)familyに属するタンパク質は、イソプレノイド化合物の鎖長をtrans型に延長する反応を触媒する酵素である。
また、本明細書において、シス型プレニルトランスフェラーゼ(CPT)familyに属するタンパク質は、イソプレノイド化合物の鎖長をcis型に延長する反応を触媒する酵素である。
CPTfamilyに属するタンパク質の特徴としては、Cis IPPS domain(NCBI Accession No.cd00475)に含まれるアミノ酸配列を有することである。
【0034】
本明細書において、イソプレノイド化合物とは、イソプレン単位(C5H8)を有する化合物を意味する。また、cis型イソプレノイドは、イソプレン単位がシス型に結合したイソプレノイド化合物を有する化合物であり、例えば、cis-ファルネシル二リン酸、ウンデカプレニル二リン酸、天然ゴムなどが挙げられる。
【0035】
次に、タンパク質抽出工程において、人工ポリマーを用いて膜から膜タンパク質複合体を溶出する方法について説明する。
【0036】
人工ポリマーを用いて膜から膜タンパク質複合体を溶出する方法としては、人工ポリマーを用いて膜から膜タンパク質複合体を溶出できる方法であれば特に限定されないが、例えば、溶液中で人工ポリマーと膜を接触させればよい。具体的には、溶液中で人工ポリマーと膜を混合すればよい。
【0037】
溶液のpHは、好ましくは6.0以上、更に好ましくは7.0以上であり、好ましくは10.0以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、pHは、25℃で測定される値である。
また、本明細書において、溶液のpHは、緩衝液を使用して調整すればよい。なお、使用する緩衝液は特に限定されない。
【0038】
混合中の溶液の温度は、好ましくは1℃以上、より好ましくは2℃以上であり、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0039】
混合時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、更に好ましくは30分以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは1時間以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0040】
溶液中の人工ポリマーの濃度は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは3.0g/L以上、更に好ましくは5.0g/L以上、特に好ましくは8.0g/L以上、最も好ましくは10.0g/L以上であり、好ましくは100g/L以下、より好ましくは80.0g/L以下、更に好ましくは50.0g/L以下、特に好ましくは30.0g/L以下、最も好ましくは15.0g/L以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0041】
タンパク質抽出工程では、溶液中で人工ポリマーと膜を混合した後、タンパク質溶液と膜を分離する。タンパク質溶液と膜を分離する方法としては、例えば、遠心分離、ろ過が挙げられる。そして、分離後の溶液をタンパク質溶液として次工程に供する。
【0042】
(タンパク精製用担体調製工程)
前記のとおり、前記手法では、複合体の状態で膜タンパク質複合体を溶出することにより、関連性の高いタンパク質をまとめて複合体として溶出させることができ、更には、溶出された膜タンパク質複合体から個別にタンパク質を精製することにより、精製されたタンパク質が複数であれば、これらのタンパク質は膜上で複合体を形成していることが判明する。このように、前記手法であれば、例えば、膜上でどのタンパク質とどのタンパク質が複合体を形成しているか等の情報も得られる。
従って、タンパク質抽出工程により得られたタンパク質溶液に含まれるタンパク質のうち、情報を得たいタンパク質を更に精製すればよい。
【0043】
具体的には、例えば、目的のタンパク質を精製可能なように、公知の手法に従って、タンパク精製用担体を作製すればよい。タンパク精製用担体の調製方法としては、特に限定されず、目的のタンパク質を決定すれば、当業者であれば容易に調製できる。
【0044】
具体的には、ビーズなどの担体に目的のタンパク質と特異的に結合が可能な抗体を結合させればよい。該抗体は、例えば、目的のタンパク質で血清を抗原処理することにより調製できる。
担体としては特に限定されず、例えば、アガロース系樹脂(アフィゲル(Affi-gel;登録商標)等)、メタクリレート系樹脂(トヨパール(TOYOPEARL;登録商標)等)、磁性ビーズ(ダイナビーズ(登録商標)等)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
(タンパク質結合工程)
タンパク質結合工程では、人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体を抗体に結合させる。これにより、人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体の中から、目的のタンパク質複合体を分離することができる。
具体的には、タンパク質抽出工程により得られたタンパク質溶液に含まれるタンパク質のうち、情報を得たいタンパク質を精製するためにタンパク精製用担体調製工程において調製した、情報を得たいタンパク質に対応した抗体が結合したタンパク精製用担体を用いて、人工ポリマーを用いて膜から溶出された膜タンパク質複合体の中から、情報を得たいタンパク質や情報を得たいタンパク質が含まれるタンパク質複合体を分離できる。
【0046】
タンパク質結合工程では、例えば、タンパク質抽出工程により得られたタンパク質溶液と、抗体が結合したタンパク精製用担体を混合すればよい。これにより、タンパク精製用担体に結合している抗体と特異的に結合が可能な目的のタンパク質や目的のタンパク質が含まれるタンパク質複合体は、タンパク精製用担体と結合する一方、他のタンパク質はタンパク精製用担体と結合しないため、目的のタンパク質や目的のタンパク質が含まれるタンパク質複合体と他のタンパク質を分離できる。
【0047】
溶液のpHは、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上、更に好ましくは7.0以上であり、好ましくは10.0以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0048】
混合中の溶液の温度は、好ましくは1℃以上、より好ましくは2℃以上であり、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0049】
混合時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、更に好ましくは30分以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0050】
タンパク質結合工程では、タンパク質抽出工程により得られたタンパク質溶液と、抗体が結合したタンパク精製用担体を混合した後、溶液をフロースルー画分として回収し、溶液と分離したタンパク精製用担体を次工程に供する。
なお、溶液とタンパク精製用担体を分離する方法としては、例えば、遠心分離、ろ過が挙げられる。
また、溶液と分離したタンパク精製用担体は、次工程に供する前に、必要に応じて、緩衝液等で洗浄を行ってもよい。
【0051】
(タンパク質溶出工程)
タンパク質溶出工程では、タンパク質結合工程によって抗体に結合した膜タンパク質複合体を、pHが6.0以上の条件下で溶出する。これにより、抗体に結合した膜タンパク質複合体をタンパク精製用担体から分離することができる。特にアルカリ性条件下で溶出することにより、効果がより好適に得られる傾向がある。これは、アルカリ性条件下で溶出することで人工ポリマーを安定化させた状態でタンパク質を溶出できるためと推測される。一方、酸性条件下ではタンパク質は溶出されない。これは、酸性条件下で溶出することで人工ポリマーが不溶化されてしまうためと推測される。
【0052】
具体的には、例えば、タンパク質結合工程により得られたタンパク精製用担体をpHが6.0以上(好ましくは8.0以上)の溶液中で撹拌すればよい。これにより、タンパク精製用担体に結合している目的のタンパク質や目的のタンパク質が含まれるタンパク質複合体をタンパク精製用担体から溶出することができる。
【0053】
溶液のpHは、好ましくは7.0以上、より好ましくは8.0以上、更に好ましくは9.0以上、特に好ましくは10.0以上、最も好ましくは10.5以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.5以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0054】
混合中の溶液の温度は、好ましくは1℃以上、より好ましくは2℃以上であり、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0055】
混合時間は、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下、更に好ましくは20分以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0056】
前記溶液は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤を含む場合は、目的のタンパク質や目的のタンパク質が含まれるタンパク質複合体と共に抗体も溶出される。また、界面活性剤を使用する場合は、アルカリ条件下ではなく、中性条件下であってもタンパク質の溶出が可能となる。また、界面活性剤を用いる場合は必要に応じて熱処理を行ってもよい。熱処理の条件としては、例えば、80~100℃、5~15分が挙げられる。
【0057】
界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系又はリン酸エステル系などの陰イオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系又はポリオキシアルキレンポリグルコシド系などの非イオン性界面活性剤;アミノ酸系、ベタイン系、イミダゾリン系又はアミンオキサイド系などの両性界面活性剤等が使用可能である。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、陰イオン性界面活性剤が好ましい。
【0058】
タンパク質溶出工程では、タンパク質結合工程により得られたタンパク精製用担体をpHが6.0以上の溶液中で撹拌した後、溶液とタンパク精製用担体を分離する。溶液とタンパク精製用担体を分離する方法としては、例えば、遠心分離、ろ過が挙げられる。そして、分離後の溶液をタンパク質溶出画分として次工程に供する。
【0059】
(人工ポリマー除去工程)
人工ポリマー除去工程では、タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体について、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って人工ポリマーを除去する。これにより、タンパク質溶出工程により溶出された膜タンパク質複合体から人工ポリマー、脂質を除去でき、更には、タンパク質の抽出の効率も向上し、タンパク質の検出が行いやすくなる。通常、この操作の際に、膜タンパク質複合体は、複合体の状態から各タンパク質が個別に存在する状態に変化する。これは、複合体の状態を維持することに寄与していた人工ポリマー、脂質が除去されたためと推測される。
【0060】
具体的には、例えば、タンパク質溶出工程で得られたタンパク質溶出画分溶液に対して、pHが7.0以下の条件下で溶媒抽出を行って、タンパク質と、人工ポリマー、脂質とを分離すればよい。
【0061】
抽出方法に関しては、抽出方法を限定しないが、エーテル抽出又は1価アルコール類/ハロゲン化炭化水素類抽出が好ましく、1価アルコール類/ハロゲン化炭化水素類抽出がより好ましく、メタノール/クロロホルム抽出が更に好ましい。
【0062】
溶液のpHは、好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上、更に好ましくは2.8以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0063】
混合中の溶液の温度は、好ましくは4℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0064】
抽出時間は特に限定されないが、例えば、5~10分である。
【0065】
人工ポリマー除去工程では、溶媒抽出を行った後、人工ポリマー、脂質が除去されたタンパク質を回収する。そして、得られたタンパク質を次工程に供する。
【0066】
(タンパク質検出工程)
タンパク質検出工程では、人工ポリマー除去工程により得られたタンパク質の検出を行う。これにより、人工ポリマー除去工程により得られたタンパク質の検出、同定を行うことが可能となる。
【0067】
タンパク質の検出は、特に限定されず、例えば、電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動法)、免疫化学的検出方法(例えば、ウェスタンブロット分析、ELISA、RIA)、タンパク質アレイ(例えば、平面およびビーズベースシステム)、クロマトグラフィー分離方法、活性アッセイ、質量分析法等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、電気泳動法が好ましく、SDS-PAGEがより好ましい。
【0068】
タンパク質検出工程により、タンパク質の定性分析を行うことにより、例えば、膜上でどのタンパク質とどのタンパク質が複合体を形成しているか等の情報が得られる。
【0069】
本発明の方法では、人工的に過剰発現されたタンパク質や精製しやすいようにタグ付けされたタンパク質だけではなく、天然のタンパク質であっても精製することが可能となる。すなわち、膜タンパク質複合体由来タンパク質としては、精製用のタグを有さないことが好ましく、ヒスチジンタグを有さないことがより好ましい。
【実施例0070】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0071】
〔ゴム粒子の調製〕
ゴム粒子は、5段階の遠心分離によってHeveaラテックスから調製した。Heveaラテックス900mLに、20mMのジチオスレイトール(DTT)を含む1M Tris緩衝液(pH7.5)100mLを添加し、ラテックス溶液を調製した。得られたラテックス溶液を、1000×g、2000×g、8000×g、20000×g、50000×gの異なる遠心速度で段階的に遠心分離した。遠心分離はいずれも4℃、45分で行った。分画したゴム粒子は1.5倍量の2mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100M Tris緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。
【0072】
〔タンパク質抽出工程〕(ゴム粒子から膜タンパク質複合体の溶かし出し)
Poly(diisobutylene-maleic acid)(DIBMA)(Mw=12,000、Cube Biotech社製)50mgに500μLの超純水を加え、10%DIBMA溶液を作製した。20%ゴム粒子溶液100μL、10%DIBMA溶液50μL、100mMTris-HCl Buffer(pH7.5)250μLを混ぜ(Total 400μL。DIBMA 終濃度12.5g/L)、4℃で一時間転倒混和を続けた。
溶出操作後、タンパク溶液とゴム粒子を分離するために、4℃で1,000,000×gで45分超遠心分離を行い、分離後の水層をタンパク溶液とした。
【0073】
〔タンパク精製用担体(タンパク精製用ビーズ)調製工程〕
タンパク質精製に用いるビーズは、Dynabeads Co-Immunoprecipitation Kit(株式会社ベリタス製)の説明書に従って、Dynabeads M-270 Epoxyに抗体をカップリングさせることで調製した。カップリングさせる抗体は、抗原処理を行う前のウサギ血清から精製した抗体(Pre抗体)とHRT1ペプチド(パラゴムノキ由来のシス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質)で抗原処理したウサギ血清から精製した抗体(HRT1抗体)を2種類用意し、それぞれをビーズに結合させた。(Pre抗体結合ビーズ、HRT1抗体結合ビーズ)
【0074】
〔タンパク質結合工程(タンパク精製(共免疫沈降))〕
先に作製した抗体結合ビーズ1.5mgに、ゴム粒子からタンパク質を溶かし出したタンパク溶液200μL、100mM Tris-HCl(pH7.5)200μLを加え、4℃で1時間転倒混和を行い、タンパク質と抗体を結合させた。
1時間の転倒混和後、水層をフロースルー画分として回収した。残った抗体結合ビーズは100mM Tris-HCl(pH7.5)400μLで3回洗浄した後、0.02%のTween20を含む100mM Tris-HCl(pH7.5)400μLで10分間転倒混和し、洗浄を行った。
【0075】
〔タンパク質溶出工程〕
(比較例1)
洗浄したビーズに50mM グリシンBuffer(pH2.8)60μLを添加し、4℃で10分間転倒混和した。混和後、水層をタンパク溶出画分とした。
(実施例1)
洗浄したビーズに500mM NH4OH(pH11.0)60μLを添加し、4℃で10分間転倒混和した。混和後、水層をタンパク溶出画分とした。
(実施例2)
洗浄したビーズに1×SDSサンプルBuffer(62.5mM Tris-HCl(pH6.8)、50mM Dithiothreitol(DTT)、2% Sodium dodecylsulphate(SDS)、5% スクロース、0.005% Bromophenol blue(BPB))60μLを添加し、98℃で10分熱処理を行った。熱処理後、水層をタンパク溶出画分とした。
【0076】
〔人工ポリマー除去工程〕
(比較例1)
溶出したタンパク溶液60μLに対して、人工ポリマーと脂質の除去を行うため。メタノール/クロロホルム抽出を行った。タンパク溶液60μLに240μL(サンプルの4倍量)の冷メタノール溶液を添加し、ボルテックスで混合した。更に、60μL(サンプルと同量)の冷クロロホルム溶液を添加し、ボルテックスで混合した。最後に、180μL(サンプルの3倍量)の冷超純水を添加し、ボルテックスで混合した。15,000×gで3分遠心分離することにより、二層分離させた後、水層(上層)を除いた。残った有機層(下層)とタンパク層に再度240μL(サンプルの4倍量)の冷メタノール溶液を加え、混和した。溶液は一度5,000×gで1分遠心した後、そのまま20,000×gで5分間遠心を行った。遠心後に有機層を除いた後、残ったタンパクペレットを完全に乾燥させた。乾燥させたタンパクペレットは30μLの1×SDSサンプルBufferに再溶解させた。前記処理はすべて18℃で行った。再溶解後、98℃で10分熱処理を行った。
(実施例1、2)
溶出したタンパク溶液に1M 酢酸Buffer(pH3.5)を加え、溶液を酸性化させた後メタノール/クロロホルム抽出を行った。なお、pHが異なる点以外メタノール/クロロホルム抽出は比較例1と同様の方法で行った。
【0077】
〔タンパク質検出工程(銀染色)〕
タンパクの検出は、SDS-PAGEによって確認した。分離ゲルは15%アクリルアミドゲルを使用した。タンパクの染色は、Sil-Best Stain One(ナカライテスク株式会社)を使用した銀染色で行った。結果を
図3に示した。
【0078】
比較例1では、溶出画分にPre抗体、HRT抗体で免疫沈降した場合のいずれもタンパク質の溶出が見られなかった(
図3(a))。一方で、実施例1ではPre抗体、HRT抗体で免疫沈降した場合のいずれでもタンパク質の溶出が見られた(
図3(b))。また、Pre抗体とHRT抗体で溶出されているタンパク質に違いが見られたことから、HRT抗体による共免疫沈降ができていると考えられる。また、実施例2でもPre抗体、HRT抗体で免疫沈降した場合のいずれでもタンパク質の溶出が見られた(
図3(c))。しかしながら、こちらの場合は精製に用いた抗体も一緒に溶出されてしまった。
【0079】
実施例1、実施例2ではPre抗体とHRT抗体で溶出されてくるタンパク質のパターンが異なっている。このことから抗体を用いて、任意のタンパク質を精製できていることが分かった。
また、溶出されるタンパク質は1種類では無く、2種類以上のタンパク質のバンドが確認できている。人工ポリマーによってタンパク質が個別に溶出された場合、検出されるバンドは1種類(HRTのみ)であるはずなので、複数のバンドが溶出されたことは、タンパク質を複合体の状態で溶出できていることが分かった。
これらのことから、ゴム粒子(一重膜)から人工ポリマーを用いて、タンパク質を複合体の状態で可溶化させ、抗体を用いて任意のタンパク質を含む複合体を精製できていることが分かった。
【0080】
比較例1について、更に検討した結果、pH2.8の条件下ではタンパク質がビーズから溶出されていないことも確認した。
【0081】
〔人工ポリマー除去工程におけるpHの影響(pHのメタノール/クロロホルム抽出効率比較実験)〕
(比較例2(アルカリ性条件))
前述のゴム粒子から溶かし出したタンパク質溶液50μLに500mM NH
4OH(pH11.0)150μLを添加し、ボルテックスで混ぜ、溶液のpHを11.0に調整した。
5分間静置した後、pHが異なる点以外メタノール/クロロホルム抽出は比較例1と同様の方法で行い、人工ポリマー、脂質の除去を行った。その後、SDS-PAGEでタンパク質の量を確認した。ゲルの染色は、Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色で行った。結果を
図4に示した。
(実施例3(酸性条件))
前述のゴム粒子から溶かし出したタンパク質溶液50μLに50mM グリシン-HCl Buffer(pH2.8)150μLを添加し、ボルテックスで混ぜ、溶液のpHを2.8に調整した。
5分間静置した後、pHが異なる点以外メタノール/クロロホルム抽出は比較例1と同様の方法で行い、人工ポリマー、脂質の除去を行った。その後、SDS-PAGEでタンパク質の量を確認した。ゲルの染色は、Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色で行った。結果を
図4に示した。
【0082】
図4より、同じタンパク質溶液から、同様の操作を行ったにもかかわらず、酸性条件下(実施例3)ではタンパク質が検出された一方で、アルカリ条件下ではタンパク質がほとんど検出されなかった。このことから、溶液を酸性にすることが良いことが分かった。
【0083】
〔人工ポリマー除去工程におけるpHの影響(pHのメタノール/クロロホルム抽出効率比較実験(Buffer組成が同じでpHだけ違う場合))〕
先の比較実験ではpHの調製に用いる試薬が異なっているため、試薬組成による影響のおそれもあるため、緩衝液の組成を揃えて実験を行った。
(比較例3(アルカリ性条件))
前述のゴム粒子から溶かし出したタンパク質溶液25μLに200mM Trisi-酢酸Buffer(pH9.0)75μLを添加し、ボルテックスで混ぜ、溶液のpHを9.0に調整した。
5分間静置した後、pHが異なる点以外メタノール/クロロホルム抽出は比較例1と同様の方法で行い、人工ポリマー、脂質の除去を行った。その後、SDS-PAGEでタンパク質の量を確認した。ゲルの染色は、Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色で行った。結果を
図5に示した。
(実施例4(中性条件))
前述のゴム粒子から溶かし出したタンパク質溶液25μLに200mM Trisi-酢酸Buffer(pH7.0)75μLを添加し、ボルテックスで混ぜ、溶液のpHを7.0に調整した。
5分間静置した後、pHが異なる点以外メタノール/クロロホルム抽出は比較例1と同様の方法で行い、人工ポリマー、脂質の除去を行った。その後、SDS-PAGEでタンパク質の量を確認した。ゲルの染色は、Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色で行った。結果を
図5に示した。
(実施例5(酸性条件))
前述のゴム粒子から溶かし出したタンパク質溶液25μLに200mM Trisi-酢酸Buffer(pH3.0、4.0、5.0、6.0)75μLを添加し、ボルテックスで混ぜ、溶液のpHをそれぞれ3.0、4.0、5.0、6.0に調整した。
5分間静置した後、pHが異なる点以外メタノール/クロロホルム抽出は比較例1と同様の方法で行い、人工ポリマー、脂質の除去を行った。その後、SDS-PAGEでタンパク質の量を確認した。ゲルの染色は、Coomassie Brilliant Blue(CBB)染色で行った。結果を
図5に示した。
【0084】
図5より、酸性~中性条件下(pH3.0~7.0)で、メタノール/クロロホルム抽出を行った場合、タンパク質の量に変化はあまり見られない。一方で、アルカリ性条件下(pH9.0)ではタンパク質量の減少が確認された。これは、酸性条件下では人工ポリマーが不安定化するため、人工ポリマーと脂質、タンパクの複合体が壊れやすくなり、メタノール/クロロホルム抽出の効率が上昇したと考えられる。
【0085】
溶出画分において、目的タンパクを特異的に精製できているかの確認を、HRT抗体を用いたウエスタンブロットを行った。結果を
図6に示す。
Pre抗体から溶出したタンパク溶液とHRT抗体から溶出したタンパク溶液を15%アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEを行った後、Trans-Blot Turbo Transfer System(Bio Rad)を用いて、25V、1.0A、30分の条件でPVDF膜にタンパクを転写した。転写後、PVDF膜をPBS-で洗浄した後、PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal(TOYOBO)を用いて4℃で一晩ブロッキングを行った。
ブロッキング後、PBS-TでPVDF膜を洗浄した後、Can Get Signal Immunoreaction Enhancer Solution(TOYOBO)のSolution1 for primary antibody溶液5mLに1mg/mL HRT抗体溶液を2.5μL(2000倍希釈)を加えたものでPVDF膜を室温で10分浸透し、一次抗体反応を行った。一次抗体反応後、再度PBS-TでPVDF膜を洗浄し、余分な抗体を洗い流した。
洗浄後、Can Get Signal Immunoreaction Enhancer SolutionのSolution2 for secondary antibody5mLにH Anti-IgG(H+L Chain)(Rabbit)pAb-HRP Goat IgG抗体を0.5μL(10000倍希釈)を加えたものでPVDF膜を室温で10分浸透し、二次次抗体反応を行った。二次抗体反応後、再度PBS-TでPVDF膜を洗浄し、余分な抗体を洗い流した。
抗体の検出はAmersham ECL Primeウエスタンブロッティング検出試薬を用いて行い、二次抗体に結合している西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)による発光を感光フィルムで検出することで行った。
【0086】
図6より、HRT抗体から溶出したタンパク溶液の方でのみ、特異的なバンドが検出されていることから、特異的な抗体を使用することにより、目的に応じて任意のタンパク質を精製できることが分かった。
前記人工ポリマーが、Poly(styrene-maleic acid)(SMA)又はPoly(diisobutylene-maleic acid)(DIBMA)である請求項1記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
タンパク質溶出工程において、pHが9.0以上の条件下で膜タンパク質複合体を溶出する請求項1~4のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
前記膜タンパク質複合体が、プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含む請求項1~8のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
前記膜タンパク質複合体が、シス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含む請求項1~9のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。
前記膜タンパク質複合体が、Hevea属又はTaraxacum属に属する植物由来のシス型プレニルトランスフェラーゼfamilyに属するタンパク質を含む請求項1~10のいずれかに記載の膜タンパク質複合体由来タンパク質を精製する方法。