(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164257
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20221020BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20221020BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221020BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01L21/52 C
H01L25/04 C
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F7/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069640
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】榎本 真也
【テーマコード(参考)】
4K018
5F047
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BA04
4K018BB05
4K018BC09
4K018DA01
4K018DA21
4K018JA36
4K018KA32
4K018KA33
5F047AA17
5F047BA06
5F047BA14
5F047FA63
(57)【要約】
【課題】接合温度の低温化と界面破壊の発生防止とを両立できる半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の半導体装置の製造方法は、半導体ダイと基板電極とが、焼結された焼結シンター層で接合された半導体装置を製造する方法である。
そして、基板電極と、金属粒子を含む乾燥シンター層と、半導体ダイとが、この順で積層した積層体に、ギ酸水溶液を供給し、上記ギ酸水溶液中に上記金属粒子の一部を溶出させるギ酸水溶液供給工程と、上記ギ酸水溶液を蒸発・分解させ、ギ酸水溶液に溶出した金属成分由来の金属微粒子を析出させる熱分解工程と、上記金属粒子と上記金属成分由来の金属微粒子を含む乾燥シンター層を焼結し、半導体ダイと基板電極とを接合する焼結工程と、を備えることとしたため、接合温度の低温化と界面破壊の発生防止とを両立できる半導体装置の製造方法を提供することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ダイと基板電極とが、焼結された焼結シンター層で接合された半導体装置の製造方法であって、
基板電極と、金属粒子を含む乾燥シンター層と、半導体ダイとが、この順で積層した積層体に、ギ酸水溶液を供給し、上記ギ酸水溶液中に上記金属粒子の一部を溶出させるギ酸水溶液供給工程と、
上記ギ酸水溶液を蒸発・分解させ、ギ酸水溶液に溶出した金属成分由来の金属微粒子を析出させる熱分解工程と、
上記金属粒子と上記金属成分由来の金属微粒子を含む乾燥シンター層を焼結し、半導体ダイと基板電極とを接合する焼結工程と、
を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
上記ギ酸水溶液供給工程は、ギ酸水溶液の蒸気を供給する処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
上記ギ酸水溶液供給工程を、100℃未満で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
上記金属粒子の体積平均粒径が、0.1~1μmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
上記金属粒子が、銅粒子又はニッケル粒子であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つの項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
上記ギ酸水溶液供給工程前に、還元性ガスを供給する還元性ガス供給工程を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1つの項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に係り、更に詳細には、低温での焼結が可能な半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電力機器の小型化・高出力化に伴い、パワーモジュールを高耐熱化し、高温動作させることが重要となっている。そのパワーモジュールに使用される半導体ダイと基板電極の接合における高耐熱実装の一つとしてシンター接合がある。
【0003】
上記シンター結合は、粒径がマイクロサイズからナノサイズの銀や銅、ニッケルなどの金属粒子を溶剤中に分散させたペースト状のシンター材を接合面に付与し、これを焼結させる接合方法である。
【0004】
特許文献1には、ペースト状のシンター材中に、炭素数1~9の1価のカルボン酸を添加することで、銅粒子表面をコートしている長鎖アルキルカルボン酸と置き換わり、焼結時に長鎖アルキルカルボン酸が脱離し易くなるので、カルボン酸の分解温度が低くなって焼結温度を低温化できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記シンター材中の金属粒子は粒径が小さくなるほど体積当たりの表面積が広くなって活性になるので、低温での焼結が可能になる。
【0007】
しかしながら、粒径の小さな金属粒子は凝集し易く、これを含むシンター材は金属粒子の分散性が低下して焼結シンター層が不均一になり易く、半導体駆動時の熱応力により界面破壊が生じ易い。
【0008】
したがって、上記金属粒子の粒径を小さくして接合温度の低温化することと界面破壊の発生防止とを両立させることは困難である。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは接合温度の低温化と界面破壊の発生防止とを両立できる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、金属粒子を含む乾燥したシンター層にギ酸水溶液を供給し、上記ギ酸水溶液を蒸発・分解させることで、上記ギ酸水溶液に溶出した金属成分が、上記金属粒子よりも微細な金属微粒子となって析出し、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の半導体装置の製造方法は、半導体ダイと基板電極とが、焼結されたシンター層で接合された半導体装置の製造方法である。
そして、基板電極と、金属粒子を含む乾燥シンター層と、半導体ダイとが、この順で積層した積層体に、ギ酸水溶液を供給し、上記ギ酸水溶液中に上記金属粒子の一部を溶出させるギ酸水溶液供給工程と、上記ギ酸水溶液を蒸発・分解させ、ギ酸水溶液に溶出した金属成分由来の金属微粒子を析出させる熱分解工程と、上記金属粒子と上記金属成分由来の金属微粒子を含む乾燥シンター層を焼結し、半導体ダイと基板電極とを接合する焼結工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属粒子を含む乾燥シンター層にギ酸水溶液を供給し、上記ギ酸水溶液を蒸発・分解させて、上記ギ酸水溶液に溶出した金属成分の金属微粒子を析出させることとしたため、接合温度の低温化と界面破壊の発生防止とを両立できる半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】半導体装置の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】加熱温度と各工程との関係を示すプロファイルである。
【
図3】ギ酸水溶液を供給する前の乾燥シンター層の状態を示す断面図である。
【
図4】ギ酸水溶液を供給した後の乾燥シンター層の状態を示す断面図である。
【
図5】焼結前の金属微粒子が析出した乾燥シンター層の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の半導体装置の製造方法について説明する。
上記製造方法は、半導体ダイと基板電極とが焼結シンター層で接合された半導体装置を製造する方法である。
【0015】
上記半導体装置1は、例えば、
図1に示すように、半導体ダイ2と基板電極4とで、焼結シンター層3を挟んだ構造をしており、半導体ダイ2と基板電極4とが焼結シンター層3で接合されている。
【0016】
上記基板電極4は、基板表面に焼結シンター層3が接合可能な、金や銀などの膜が形成された、銅などの金属で成る金属基板や、セラミック基板に銅電極などを形成したものを使用できる。
【0017】
また、上記半導体ダイ2は、焼結シンター層3と接続する面の最表面に金や銀などの表面電極21が形成されたInsulated Gate Bipolar Transistor(IGBT)、Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor(MOS-FET)などのパワー半導体を挙げることができる。
【0018】
本発明の製造方法は、ギ酸水溶液供給工程と、熱分解工程と、焼結工程と、を備え、必要に応じて、上記ギ酸水溶液供給工程の前に還元性ガス供給工程を有して成る。
【0019】
先ず、半導体装置の製造方法における加熱温度と各工程との関係について説明する。
加熱温度と各工程との関係を示すプロファイルを
図2に示す。
【0020】
図2中、(a)の過程は、溶剤を含有する湿潤シンター層を半導体ダイ2と基板電極4とで挟んだ積層体を加熱し、昇温させる過程である。
【0021】
なお、上記湿潤シンター層を、半導体ダイ2と基板電極4とで挟んだ積層体は、半導体ダイ2又は基板電極4に溶剤を含有するシンター材を塗布し、この溶剤を含有する湿潤シンター層を半導体ダイ2と基板電極4とで挟むことで形成できる。
【0022】
(b)の過程は、雰囲気中の温度を130℃~180℃の範囲で維持し、上記湿潤シンター層中の溶剤を乾燥させて乾燥シンター層5とする過程である。
【0023】
また、(b)の過程では、湿潤シンター層中の金属粒子が表面処理されている場合は、この表面処理剤が昇温に伴って脱離する。上記還元性ガス供給工程を設ける場合は、この(b)の過程で行う。
【0024】
上記溶剤は、シンター材に用いられる従来公知の溶剤であり、例えば、エチレングリコールなどのアルコール系有機溶媒である。
【0025】
(c)の過程は、ギ酸水溶液供給工程に向けて雰囲気の温度を降下させる過程であり、(d)は、ギ酸水溶液供給工程、(e)は、熱分解工程、(f)は、焼結工程であり、(g)は、焼結終了後室温まで降温させる過程であり、(h)で半導体装置の製造方法が完結する。
【0026】
上記各工程について詳細に説明する。
(ギ酸水溶液供給工程)
ギ酸水溶液供給工程は、半導体ダイ2と基板電極4とで乾燥シンター層5を挟んだ積層体にギ酸水溶液6を供給する工程である。ギ酸水溶液を供給する前の積層体の断面図を
図3に示す。
【0027】
ギ酸水溶液は、ギ酸水溶液を気化させたギ酸水溶液の蒸気や、ギ酸水溶液のミストとして供給することができる。
【0028】
ギ酸水溶液が気化したギ酸水溶液の蒸気であると、金属粒子51で形成された多孔質の乾燥シンター層5の内部まで浸透するので、厚さが薄い乾燥シンター層であっても、乾燥シンター層5の全体にギ酸水溶液を供給することができる。
【0029】
上記乾燥シンター層の厚さは100~200μmであることが好ましい。
乾燥シンター層5を焼結した焼結シンター層3は、半導体ダイ2と基板電極4との熱膨張係数の差による応力を緩和するので、応力緩和の観点からは厚い方が好ましい。
【0030】
しかし、乾燥シンター層5の厚さがあまり厚くなると、後述する熱分解工程で発生するガスが乾燥シンター層5から抜けにくくなる。乾燥シンター層5の厚さが上記範囲内であることで、応力緩和とボイドの発生防止とを両立できる。
【0031】
ギ酸水溶液を供給する雰囲気の温度は、100℃未満であることが好ましい。100℃未満であれば、乾燥シンター層中に浸透したギ酸水溶液の蒸気が液化し、
図4に示すように、上記金属粒子51を濡らす。
【0032】
ギ酸水溶液を供給する雰囲気の温度の下限値は特に制限はないが、雰囲気の温度が低すぎると、ギ酸水溶液の蒸気の液化が促進されて乾燥シンター層5の内部まで浸透し難くなるので、90℃以上であることが好ましい。
【0033】
液化した乾燥シンター層中のギ酸水溶液6は、金属粒子51をその表面から溶解し、ギ酸水溶液6中に金属イオンが溶出する。
【0034】
ここで、ギ酸の沸点は、100.8℃であり水と沸点との差が小さい。したがって、ギ酸水溶液を加熱すると、水蒸気とギ酸の蒸気とが別々に発生するのではなく、水蒸気とギ酸の蒸気とがほぼ同時に発生するので、乾燥シンター層に供給されるギ酸水溶液中のギ酸濃度のブレを防止できる。
【0035】
また、ギ酸は、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸などの他の有機酸に比して酸解離定数(pKa )が小さく強い酸であるので短時間で金属イオンを溶出させることができる。
【0036】
上記ギ酸水溶液中のギ酸の濃度は、10質量%~30質量%であることが好ましい。
ギ酸濃度が上記範囲内であることで、金属イオンの溶出と、基板電極などの他の部材の腐食防止とを両立できる。
【0037】
また、金属イオンの溶出量は、ギ酸の濃度や乾燥シンター層5をギ酸水溶液6で濡らしている時間で調節することができ、乾燥シンター層5をギ酸水溶液6で濡らしている時間は、ギ酸の濃度や雰囲気の温度にもよるが、5~30分であることが好ましい。
【0038】
上記金属粒子51としては、銅粒子、ニッケル粒子を使用できる。
銅粒子及びニッケル粒子は、半導体ダイと基板電極とを強固に接合できるだけでなく、上記ギ酸水溶液に溶出するので、微細な銅微粒子やニッケル微粒子を析出させることができる。
【0039】
上記金属粒子51の体積平均粒径は、0.1~1μmであることが好ましい。この範囲であることで、熱分解工程で析出する金属微粒子52と相俟って、凝集防止と焼結温度の低温化とを両立できる。上記金属粒子は、酸化防止や分散性を向上させる表面処理がされていてもよい。
【0040】
(熱分解工程)
熱分解工程は、ギ酸水溶液供給工程の温度から乾燥シンター層5を焼結する温度まで昇温させる工程である。
この工程では、昇温に伴って乾燥シンター層5に供給したギ酸水溶液6が乾燥・熱分解して、ギ酸水溶液に溶出した金属イオンに由来する金属微粒子52が析出する。この金属微粒子52は、シンター材の金属粒子5よりも小さなナノサイズの金属微粒子である。上記金属微粒子52が析出した焼結前の積層体の断面図を
図5に示す。
【0041】
本発明においては、粒径が小さなナノサイズの金属微粒子を塗工するのではなく、比較的粒径が大きなサブマイクロサイズの金属粒子を塗工するので、金属粒子の凝集を防止でき、かつ粒径が小さな金属微粒子52が析出するので、低温での焼結が可能となる。
【0042】
また、ギ酸の熱分解は、以下の2つの経路により進行する。
HCOOH → CO + H2O ・・・式(1)
HCOOH → CO2 + H2 ・・・式(2)
【0043】
上記のように、ギ酸1molが分解することで生成するガスの量は2molであり、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸などの他の有機酸に比して少ない。
【0044】
したがって、ギ酸が熱分解することで生成するガスが乾燥シンター層5から抜けやすく、焼結後の焼結シンター層3にボイドが発生することを防止できる。
【0045】
(焼結工程)
焼結工程は、シンター材由来の粒径が比較的大きな金属粒子51と、ギ酸水溶液に溶出した金属イオンに由来する粒径が小さな金属微粒子52とを含む乾燥シンター層5を焼結して、焼結シンター層にする工程である。
【0046】
本発明においては、上記のように、乾燥シンター層がシンター材由来の金属粒子粒子51だけでなく、該金属粒子よりも粒径が小さなナノサイズの金属微粒子52をも含んでおり、体積当たりの表面積が大きく活性であるので、200~250℃の低温での焼結が可能である。
【0047】
そして、焼結シンター層3は、バルク金属を同じ強度を持つので、半導体ダイ2と基板電極4とを強固に接合でき、半導体駆動時に生じる熱応力による界面剥離を防止できる。
【0048】
(還元性ガス供給工程)
本発明の半導体装置の製造方法は、上記ギ酸水溶液供給工程前に、H2ガスなどの還元性ガスを供給する還元性ガス供給工程を設けることができる。
【0049】
この還元性ガス供給工程は、溶剤を含有する湿潤シンター層を加熱し、上記溶剤を揮発させ、また金属粒子表面の表面処理剤を脱離させるのと同時に同時に行う。
【0050】
還元性ガスを供給することで、シンター材中の金属粒子表面の酸化被膜を除去し、ギ酸水溶液に金属イオンが溶出し易くなる。
【0051】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 半導体装置
2 半導体ダイ
3 焼結シンター層
4 基板電極
5 乾燥シンター層
51 金属粒子
52 析出した金属微粒子
6 ギ酸水溶液