(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164283
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】パルス幅変調装置、飛行制御システム、パルス幅変調方法、パルス幅変調プログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221020BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069680
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA01
5H770DA03
5H770EA02
5H770EA25
5H770GA11
5H770HA02Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】PWMノイズの低減に好適なパルス幅変調装置を提供する。
【解決手段】パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置24は、パルス周期の指令を生成するパルス周期指令部45と、デューティ比の指令を生成するデューティ比指令部44と、パルス周期指令部45からの指令によるパルス周期において、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部46とを備え、パルス周期指令部45が指令として生成するパルス周期の長さが可変である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置であって、
パルス周期の指令を生成するパルス周期指令部と、
デューティ比の指令を生成するデューティ比指令部と、
前記パルス周期指令部からの指令によるパルス周期において、前記デューティ比指令部からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部と
を備え、
前記パルス周期指令部が指令として生成するパルス周期の長さが可変である
パルス幅変調装置。
【請求項2】
前記パルス周期指令部は、異なる長さの複数のパルス周期の中から一つのパルス周期を選択するパルス周期選択部を備える請求項1に記載のパルス幅変調装置。
【請求項3】
前記パルス周期選択部は、前記複数のパルス周期を規則的な順序で選択する請求項2に記載のパルス幅変調装置。
【請求項4】
前記パルス周期選択部は、前記複数のパルス周期を不規則的な順序で選択する請求項2に記載のパルス幅変調装置。
【請求項5】
前記パルス幅変調部は、前記パルス周期指令部からの指令によるパルス周期を最大値として計数するカウンタと、前記デューティ比指令部からの指令によるデューティ比に基づいてパルスの立上りと立下りの計数値を演算するパルス位置演算部とを備え、
前記カウンタが前記パルス周期指令部からの指令によるパルス周期に亘って前記最大値まで計数する際、計数値が前記立上りの計数値になった時にパルスが立ち上げられ、計数値が前記立下りの計数値になった時にパルスが立ち下げられる
請求項1から4のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項6】
前記パルス幅変調部が生成するパルスによって駆動されるインバータが生成した交流のアナログ値をデジタル値に変換するアナログデジタル変換部と、
前記インバータが生成すべき交流の指令をデジタル値として生成する電流指令部と
を更に備え、
前記デューティ比指令部は、前記アナログデジタル変換部および前記電流指令部からの両デジタル値の偏差に基づいてデューティ比の指令を生成し、
前記アナログデジタル変換部は、前記パルス周期指令部からの指令によるパルス周期と同期してデジタル値を生成する
請求項1から5のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項7】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置であって、
パルス周期におけるパルスの位置の指令を生成するパルス位置指令部と、
デューティ比の指令を生成するデューティ比指令部と、
前記パルス位置指令部からの指令による位置において、前記デューティ比指令部からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部と
を備え、
前記パルス位置指令部が指令として生成するパルスの位置が可変である
パルス幅変調装置。
【請求項8】
前記パルス位置指令部は、異なる複数のパルス位置の中から一つのパルス位置を選択するパルス位置選択部を備える請求項7に記載のパルス幅変調装置。
【請求項9】
前記パルス位置選択部は、前記複数のパルス位置を規則的な順序で選択する請求項8に記載のパルス幅変調装置。
【請求項10】
前記パルス位置選択部は、前記複数のパルス位置を不規則的な順序で選択する請求項8に記載のパルス幅変調装置。
【請求項11】
前記パルス幅変調部は、パルス周期を最大値として計数するカウンタと、前記パルス位置指令部からの指令によるパルスの位置および前記デューティ比指令部からの指令によるデューティ比に基づいてパルスの立上りと立下りの計数値を演算するパルス位置演算部とを備え、
前記カウンタがパルス周期に亘って前記最大値まで計数する際、計数値が前記立上りの計数値になった時にパルスが立ち上げられ、計数値が前記立下りの計数値になった時にパルスが立ち下げられる
請求項7から10のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項12】
前記パルス幅変調部は、前記デューティ比指令部からの指令によるデューティ比のパルスがパルス周期に収まるように、前記パルス位置指令部からの指令による位置を補正する請求項7から11のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項13】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置であって、
パルス周期中に最小値と最大値の間で振動する搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記最小値と前記最大値の間の任意の指令値を取得する指令値取得部と、
前記搬送波と前記指令値との交点に基づいてデューティ比の指令を生成するデューティ比生成部と、
パルス周期において、前記デューティ比生成部からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部と、
前記デューティ比の指令を生成する際、前記指令値に基づいて重み付けされた乱数値を当該指令値に加算する乱数値加算部と
を備えるパルス幅変調装置。
【請求項14】
前記乱数値加算部は、
乱数を生成する乱数生成部と、
前記指令値を前記乱数に乗算して前記乱数値を演算する重み付け部と
を備える請求項13に記載のパルス幅変調装置。
【請求項15】
前記パルス幅変調装置は、前記パルス幅変調部で生成されるパルスによって交流波を生成し、
前記乱数値加算部は、
乱数を生成する乱数生成部と、
前記交流波の振幅を前記乱数に乗算して前記乱数値を演算する重み付け部と
を備える請求項13に記載のパルス幅変調装置。
【請求項16】
前記乱数値が加算された前記指令値が前記最小値と前記最大値の間に収まるように前記乱数値を制限する乱数値制限部を更に備える請求項13から15のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項17】
前記指令値の最小値を前記搬送波の最小値より大きい値に制限し、前記指令値の最大値を前記搬送波の最大値より小さい値に制限する指令値制限部を更に備える請求項13から16のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項18】
前記パルス幅変調部が生成したパルスは交流を生成するインバータの駆動に用いられ、
前記インバータが生成した交流は、航空機に設けられるモータの駆動に用いられる
請求項1から17のいずれかに記載のパルス幅変調装置。
【請求項19】
請求項18に記載のパルス幅変調装置と、
前記モータによって駆動される前記航空機の舵面の位置を測定する舵面位置測定部と、
前記舵面の位置の指令を生成するフライトコントローラと
を備え、
前記パルス幅変調装置は、前記フライトコントローラからの前記位置の指令と、前記舵面位置測定部からの前記測定された位置の偏差に基づいてパルスを生成する
飛行制御システム。
【請求項20】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調方法であって、
パルス周期の指令を生成するパルス周期指令ステップと、
デューティ比の指令を生成するデューティ比指令ステップと、
前記パルス周期指令ステップの指令によるパルス周期において、前記デューティ比指令ステップの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調ステップと
を備え、
前記パルス周期指令ステップは、指令として生成するパルス周期の長さを変更するパルス周期変更ステップを備える
パルス幅変調方法。
【請求項21】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調プログラムであって、
パルス周期の指令を生成するパルス周期指令ステップと、
デューティ比の指令を生成するデューティ比指令ステップと、
前記パルス周期指令ステップの指令によるパルス周期において、前記デューティ比指令ステップの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調ステップと
をコンピュータに実行させ、
前記パルス周期指令ステップは、指令として生成するパルス周期の長さを変更するパルス周期変更ステップを備える
パルス幅変調プログラム。
【請求項22】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調方法であって、
パルス周期におけるパルスの位置の指令を生成するパルス位置指令ステップと、
デューティ比の指令を生成するデューティ比指令ステップと、
前記パルス位置指令ステップの指令による位置において、前記デューティ比指令ステップの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調ステップと
を備え、
前記パルス位置指令ステップは、指令として生成するパルスの位置を変更するパルス位置変更ステップを備える
パルス幅変調方法。
【請求項23】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調プログラムであって、
パルス周期におけるパルスの位置の指令を生成するパルス位置指令ステップと、
デューティ比の指令を生成するデューティ比指令ステップと、
前記パルス位置指令ステップの指令による位置において、前記デューティ比指令ステップの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調ステップと
をコンピュータに実行させ、
前記パルス位置指令ステップは、指令として生成するパルスの位置を変更するパルス位置変更ステップを備える
パルス幅変調プログラム。
【請求項24】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調方法であって、
パルス周期中に最小値と最大値の間で振動する搬送波を生成する搬送波生成ステップと、
前記最小値と前記最大値の間の任意の指令値を取得する指令値取得ステップと、
前記搬送波と前記指令値との交点に基づいてデューティ比の指令を生成するデューティ比生成ステップと、
パルス周期において、前記デューティ比生成ステップの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調ステップと、
前記デューティ比の指令を生成する際、前記指令値に基づいて重み付けされた乱数値を当該指令値に加算する乱数値加算ステップと
を備えるパルス幅変調方法。
【請求項25】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調プログラムであって、
パルス周期中に最小値と最大値の間で振動する搬送波を生成する搬送波生成ステップと、
前記最小値と前記最大値の間の任意の指令値を取得する指令値取得ステップと、
前記搬送波と前記指令値との交点に基づいてデューティ比の指令を生成するデューティ比生成ステップと、
パルス周期において、前記デューティ比生成ステップの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調ステップと、
前記デューティ比の指令を生成する際、前記指令値に基づいて重み付けされた乱数値を当該指令値に加算する乱数値加算ステップと
をコンピュータに実行させるパルス幅変調プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルス幅変調技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調(PWM:pulse width modulation)は、直流電力を交流電力に変換するインバータの駆動等に広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、PWM信号の生成時に発生する特定の周波数のノイズ(以下、PWMノイズともいう)を低減するために、各パルスのデューティ比の指令値に乱数値を加算する技術が開示されている。本発明者は独自に網羅的な検討を行った結果、PWMノイズの低減に好適な複数の技術を発明するに至った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、PWMノイズの低減に好適なパルス幅変調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様のパルス幅変調装置は、パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置であって、パルス周期の指令を生成するパルス周期指令部と、デューティ比の指令を生成するデューティ比指令部と、パルス周期指令部からの指令によるパルス周期において、デューティ比指令部からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部とを備える。パルス周期指令部が指令として生成するパルス周期の長さは可変である。この態様によれば、パルス周期の長さを変更することでPWMノイズを効果的に低減できる。
【0007】
本発明の第2の態様のパルス幅変調装置は、パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置であって、パルス周期におけるパルスの位置の指令を生成するパルス位置指令部と、デューティ比の指令を生成するデューティ比指令部と、パルス位置指令部からの指令による位置において、デューティ比指令部からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部とを備える。パルス位置指令部が指令として生成するパルスの位置は可変である。この態様によれば、パルス周期におけるパルスの位置を変更することでPWMノイズを効果的に低減できる。
【0008】
本発明の第3の態様のパルス幅変調装置は、パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させるパルス幅変調装置であって、パルス周期中に最小値と最大値の間で振動する搬送波を生成する搬送波生成部と、最小値と最大値の間の任意の指令値を取得する指令値取得部と、搬送波と指令値との交点に基づいてデューティ比の指令を生成するデューティ比生成部と、パルス周期において、デューティ比生成部からの指令によるデューティ比のパルスを生成するパルス幅変調部と、デューティ比の指令を生成する際、指令値に基づいて重み付けされた乱数値を当該指令値に加算する乱数値加算部とを備える。この態様によれば、デューティ比の指令値に基づいて重み付けされた乱数値を当該指令値に加算することでPWMノイズを効果的に低減できる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PWMノイズを効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】航空機に搭載されたモータ駆動制御システムの第1の例を模式的に示す図である。
【
図2】航空機に搭載されたモータ駆動制御システムの第2の例を模式的に示す図である。
【
図3】モータ駆動制御システムの機能ブロック図である。
【
図4】パルス周期とデューティ比を模式的に示す図である。
【
図5】パルス幅変調装置の第1の構成例を示す図である。
【
図6】各パルス周期に対するパルス位置の演算例を示す図である。
【
図7】セレクタにおけるパルス周期の選択例を示す図である。
【
図9】パルス幅変調装置の第2の構成例を示す図である。
【
図10】各パルス位置に対するパルス位置の演算例を示す図である。
【
図11】パルス幅変調装置の第3の構成例を示す図である。
【
図12】一般的なデューティ比の生成方法を説明する図である。
【
図13】第1の重み付け演算例による指令値のランダム化の例を模式的に示す図である。
【
図14】第2の重み付け演算例による指令値のランダム化の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のパルス幅変調装置(以下、PWM装置ともいう)は、パルス周期におけるパルスのデューティ比を変化させる装置である。PWM装置の適用対象は特に限定されるものではないが、本実施形態では航空機に設けられるモータを駆動する交流を生成するインバータの駆動に用いられるPWM装置の例を説明する。航空機ではEMC(Electromagnetic Compatibility)または電磁両立性に関する基準が厳しく、PWMノイズを効果的に低減できる本実施形態の技術が有用である。特に、PWMノイズが特定の周波数に集中しないように分散させる本実施形態の技術を用いることで、EMCを構成するEMI(Electromagnetic Interference)または電磁妨害を低減でき、航空機の安全飛行を担保するための環境基準を満足できる。更に、本実施形態の技術によれば、EMIを低減するフィルタを小型化できるため、装置の軽量化や低コスト化を図ることができる。
【0013】
図1は、航空機に搭載されたモータ14を駆動するモータ駆動制御装置2と、それを含むモータ駆動制御システム1を、それらが適用される航空機の動翼100とともに模式的に示す。なお、モータ駆動制御装置2が適用される対象は動翼100駆動用のモータ14に限らず、航空機に搭載された他のモータ(例えば
図2に示すバックアップ用油圧ポンプ12駆動用のモータ14)に適用してもよい。また、モータ駆動制御装置2の駆動対象のモータは、航空機に限らない任意のシステムに搭載されたものでよい。なお、航空機の詳細な構成例は
図2において説明するため、
図1では簡略な説明に留める。
【0014】
図1の飛行制御システムは、フライトコントローラ3と、減算器25と、速度指令演算部26と、減算器27と、パルス幅変調装置24と、インバータ23と、モータ14と、減速機28と、動翼100を備える。フライトコントローラ3は、航空機の動翼100(エルロン、エレベータ、ラダー等)の位置の指令(位置指令)を生成する。ここで、動翼100の位置とは、エルロン、エレベータ、ラダー等の舵面の位置または角度(舵角)を意味する。減算器25は、フライトコントローラ3からの位置指令(舵角指令)と、測定された動翼100の位置(測定位置または測定舵角)の偏差を求める。ここで、動翼100の測定位置は、モータ14の回転を減速して動翼100を駆動する減速機28を構成するギヤの回転位置を測定する舵面位置測定部としてのロータリエンコーダやLVDT(Linear Variable Differential Transformer)等のセンサ281によって得られる。舵面位置測定部はモータ14の回転位置を直接的に測定するレゾルバ等のセンサ141でもよい。
【0015】
速度指令演算部26は、減算器25が演算した位置指令と測定位置の偏差に基づいて、モータ14の回転速度の指令(速度指令)を演算する。減算器27は、速度指令演算部26からの速度指令と、測定されたモータ14の回転速度(以下、測定速度)の偏差を求める。なお、本図では減算器25、速度指令演算部26、減算器27をフライトコントローラ3外の構成要素として示したが、これらの構成要素の一部または全部の機能をフライトコントローラ3に実装してもよい。
【0016】
パルス幅変調装置24は、減算器27が演算した速度指令と測定速度の偏差に基づいてモータ14の電流指令を演算し、当該電流指令に基づくパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する。PWM信号によって駆動されるインバータ23は、電流指令に応じた多相の交流電流を生成してモータ14を回転駆動する。
【0017】
図2は、航空機に搭載されたモータを駆動するモータ駆動制御装置2と、それを含むモータ駆動制御システム1を、それらが適用される機器の油圧回路とともに模式的に示す。
【0018】
図2の油圧回路に設けられるバックアップ用油圧ポンプ12は、航空機(図示せず)の動翼100を駆動するアクチュエータ13aに対して圧油を供給する電動式の油圧ポンプである。動翼100は操縦翼面であり、例えば、主翼に設けられるエルロン(補助翼)、水平尾翼に設けられる昇降舵(エレベータ)、垂直尾翼に設けられる方向舵(ラダー)等の舵面を構成する。動翼100は、フライトスポイラーやグランドスポイラー等のスポイラーまたはフラップ等によって構成してもよい。
【0019】
動翼100は固定翼に設けられる。例えば、動翼100がエレベータを構成する場合、固定翼としての水平尾翼に設けられる。動翼100は、複数(例えば2個)のアクチュエータ(13a、13b)によって駆動される。動翼100が設けられる固定翼の内部には、動翼100を駆動する複数のアクチュエータ(13a、13b)と、そのうち一つのアクチュエータ13aに対して圧油を供給するバックアップ用油圧ポンプ12が設置されている。
【0020】
各アクチュエータ(13a、13b)は、シリンダ15と、ピストン16aが設けられたロッド16を備える。シリンダ15内は、ピストン16aによって、連通しない二つの油室に区画される。アクチュエータ13aの各油室は、制御弁17aを介して第1機体側油圧源101およびリザーバ回路103と連通可能である。一方、アクチュエータ13bの各油室は、制御弁17bを介して第2機体側油圧源102およびリザーバ回路104と連通可能である。
【0021】
第1機体側油圧源101および第2機体側油圧源102は、図示しない機体側(機体の内部)に設置された圧油を供給する油圧ポンプであり、互いに独立した油圧系統の油圧源を構成する。第1および第2機体側油圧源(101、102)から供給される圧油によって、動翼100のアクチュエータ(13a、13b)や、その他のアクチュエータ(図示せず)が駆動される。
【0022】
リザーバ回路103は、制御弁17aを介してアクチュエータ13aの一方の油室から排出される油(作動油)が流入するタンク(図示せず)を有し、第1機体側油圧源101に連通する。また、リザーバ回路103と異なる油圧系統に属するリザーバ回路104は、制御弁17bを介してアクチュエータ13bの一方の油室から排出される油(作動油)が流入するタンク(図示せず)を有し、第1機体側油圧源101と異なる油圧系統に属する第2機体側油圧源102に連通する。リザーバ回路103に戻った油は、第1機体側油圧源101で昇圧され、アクチュエータ13aに再び供給される。リザーバ回路104に戻った油は、第2機体側油圧源102で昇圧され、アクチュエータ13bに再び供給される。
【0023】
制御弁17aは、第1機体側油圧源101に連通する供給通路101aおよびリザーバ回路103に連通する排出通路103aと、アクチュエータ13aの各油室の接続状態を切り替えるバルブ機構を構成する。制御弁17bは、第2機体側油圧源102に連通する供給通路102aおよびリザーバ回路104に連通する排出通路104aと、アクチュエータ13bの各油室の接続状態を切り替えるバルブ機構を構成する。制御弁17aは、例えば電磁切換弁として構成され、アクチュエータ13aの動作を制御するアクチュエータコントローラ11aからの指令に基づいて駆動される。制御弁17bは、例えば電磁切換弁として構成され、アクチュエータ13bの動作を制御するアクチュエータコントローラ11bからの指令に基づいて駆動される。
【0024】
アクチュエータコントローラ11aは、動翼100の動作を制御する上位のコンピュータとしてのフライトコントローラ3からの指令に基づいてアクチュエータ13aを制御する。アクチュエータコントローラ11bは、動翼100の動作を制御する上位のコンピュータとしてのフライトコントローラ3からの指令に基づいてアクチュエータ13bを制御する。
【0025】
制御弁17aは、アクチュエータコントローラ11aからの指令に基づいて、供給通路101aに連通されるアクチュエータ13aの油室と、排出通路103aに連通されるアクチュエータ13aの油室を切り替える。供給通路101aに連通されたアクチュエータ13aの一方の油室には圧油が供給され、排出通路103aに連通されたアクチュエータ13aの他方の油室からは油が排出される。このようなアクチュエータ13aの各油室の油の出入りによって、ピストン16aを備えるロッド16がシリンダ15に対して変位して動翼100を駆動する。制御弁17bの動作も同様である。
【0026】
バックアップ用油圧ポンプ12は、動翼100が設けられる固定翼(図示せず)の内部に配置され、動翼100を油圧で駆動するアクチュエータ13aに対して圧油を供給する。バックアップ用油圧ポンプ12は、吸込側が排出通路103aに連通し、吐出側が逆止弁19を介して供給通路101aに連通する。バックアップ用油圧ポンプ12は、第1機体側油圧源101の油圧ポンプの故障や油漏れ等によって圧油供給機能の喪失または低下が発生した時に、アクチュエータ13aに対して圧油を供給可能な油圧ポンプである。
【0027】
供給通路101aにおけるバックアップ用油圧ポンプ12の吐出側が接続する箇所の上流側(第1機体側油圧源101側)には、第1機体側油圧源101からアクチュエータ13aへの圧油の流れを許容し、その逆方向の油の流れを規制する逆止弁20が設けられる。排出通路103aにおけるバックアップ用油圧ポンプ12の吸込側が接続する箇所の下流側(リザーバ回路103側)には、アクチュエータ13aから排出された油の圧力が上昇した際にリザーバ回路103へ圧油を排出するリリーフ弁21が設けられる。リリーフ弁21には、バネが配置されたパイロット圧室が供給通路101aに連通するように設けられる。供給通路101aから供給される圧油の圧力が所定の圧力値より低下すると、パイロット圧油として供給通路101aからパイロット圧室に供給される圧油の圧力(パイロット圧)も所定の圧力値より低下し、排出通路103aがリリーフ弁21によって遮断される。第1機体側油圧源101の機能の喪失時または低下時には、逆止弁(19、20)およびリリーフ弁21によって、アクチュエータ13aから排出された油がリザーバ回路103に戻ることなくバックアップ用油圧ポンプ12で昇圧され、その圧油がアクチュエータ13aに再び供給される。
【0028】
モータ14は電動モータであり、連結されたバックアップ用油圧ポンプ12を駆動する。モータ14は同期モータでも非同期モータでもよいが、同期モータの場合はステータの回転磁界に対するロータの回転の遅れであるすべり(スリップ)が発生しないため効率が向上する。モータ14には回転速度(回転数)を検出する回転角センサ14aが設けられる。回転角センサ14aは、例えば、ロータリエンコーダ、レゾルバ、タコジェネレータ等によって構成される。
【0029】
続いて、モータ14の駆動および運転状態の制御を担うモータ駆動制御システム1およびモータ駆動制御装置2を説明する。
図3は、モータ駆動制御システム1およびモータ駆動制御装置2の機能ブロック図である。モータ駆動制御システム1は、フライトコントローラ3とモータ駆動制御装置2を備える。
【0030】
フライトコントローラ3は、動翼100の動作を制御するコンピュータであり、モータ駆動制御装置2に対して各種の制御信号を送信するコントローラである。モータ駆動制御装置2は、フライトコントローラ3からの制御信号に基づいて、モータ14の駆動および運転状態の制御を行う。フライトコントローラ3は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、メモリ、インターフェース等を備える。
【0031】
フライトコントローラ3には、圧力センサ(図示せず)で検出された第1機体側油圧源101の吐出圧力または供給通路101aを通過する圧油の圧力を示す圧力検知信号が入力される。この圧力検知信号に基づいて、フライトコントローラ3は、第1機体側油圧源101の機能の喪失または低下を検知する。
【0032】
フライトコントローラ3で第1機体側油圧源101の機能の喪失または低下が検知されると、その指令の下でモータ駆動制御装置2がモータ14を起動する。この結果、バックアップ用油圧ポンプ12が起動し、アクチュエータ13aに対する圧油の供給が開始する。バックアップ用油圧ポンプ12が起動した後は、航空機の飛行状態やアクチュエータ13aの動作状態に応じたフライトコントローラ3およびモータ駆動制御装置2の自動制御によって、モータ14の回転速度および出力トルクが最適に制御される。
【0033】
フライトコントローラ3は、第1機体側油圧源101の機能の喪失または低下のような突発的なトラブルの発生時に限らず、天候や気流の変動によって航空機の飛行状態が急激に変化する恐れがある時や、航空機の離陸時または着陸時にもモータ14を起動してもよい。このような航空機の飛行状態が不安定な時に、バックアップ用油圧ポンプ12を介してアクチュエータ13aへの圧油供給機能を増強できるため、突発的な飛行状態の変化に対しても余裕を持って対応できる。なお、第1機体側油圧源101の機能の喪失または低下は、このような航空機の飛行状態が不安定な時に特に発生しやすいが、モータ14およびバックアップ用油圧ポンプ12が既に起動しているため、航空機の飛行への悪影響を最小限に留めることができる。なお、着陸時にモータ14を起動させる典型的な例として、動翼100がグランドスポイラーである場合が挙げられる。
【0034】
図3に示されるように、モータ駆動制御装置2は、直流電源22、インバータ23、パルス幅変調装置24、速度指令演算部26を備える。直流電源22は、例えば、航空機の機体側に設置された交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換する整流器またはコンバータによって構成される。
【0035】
インバータ23は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子を備え、パルス幅変調装置24からのパルス幅変調信号(以下、PWM信号ともいう)に基づいて、直流電源22の直流電力を交流電力に変換してモータ14を駆動する。インバータ23とモータ14の間を流れる多相(例えば3相)の交流電流IU、IV、IWは、複数(例えば3個)の電流センサ30で測定されてパルス幅変調装置24におけるフィードバック制御に利用される。
【0036】
インバータ23のパルス幅変調制御(PWM制御)を行うパルス幅変調装置24は、電流指令部41と、減算器42と、アナログデジタル変換部431と、3相2相変換部432と、デューティ比指令部44と、パルス指令部45と、パルス幅変調部46を備える。
【0037】
電流指令部41は、速度指令演算部26からのモータ14の回転速度の指令を、モータ14の電流の指令に変換する。具体的には、電流指令部41は、モータ14のd軸およびq軸の直交2相の電流Id、Iqの指令(以下、電流指令ともいう)をデジタル値として生成する。なお、2相の電流を定義する2軸はd-q軸に限らずα-β軸やγ-δ軸でもよい。この電流指令部41は、インバータ23が生成すべき交流の指令をデジタル値として生成する。
【0038】
減算器42は、電流指令部41からの電流指令と、電流センサ30で測定された電流(以下、測定電流ともいう)を減算して、両デジタル値の偏差を求める。電流センサ30でアナログ値として測定された3相の交流電流IU、IV、IWは、アナログ値をデジタル値に変換するアナログデジタル変換部431(以下、AD変換部431ともいう)によってデジタル値に変換される。その後段に設けられるデジタル回路としての3相2相変換部432は、3相の測定電流IU、IV、IWを2相の測定電流Id、Iqに変換する。このように、アナログ値として測定された3相の測定電流IU、IV、IWが、デジタル値としての2相の測定電流Id、Iqに変換されて減算器42に提供される。
【0039】
デューティ比指令部44は、減算器42が演算した電流指令と測定電流の偏差に基づいて、パルス周期におけるパルスのデューティ比の指令を生成する。
図4は、パルス周期とデューティ比を模式的に示す。パルス周期は、デューティ比で指定されるパルスが生成される周期(時間)である。
図4の例では、二つの異なるパルス周期T1、T2を示している。パルス周期の長さは適宜設定できるが、例えばT1は20μs、T2は30μsである。デューティ比は各パルス周期においてパルスが占める割合である。
図4の例では、T1の四つのパルス周期においてデューティ比がそれぞれ25%、50%、75%、100%のパルスを示し、T2の二つのパルス周期においてデューティ比がそれぞれ50%、100%のパルスを示している。図から明らかなように、デューティ比が等しくても、パルス周期が異なれば、パルスが継続する時間は異なる。例えば、パルス周期T1(20μs)におけるデューティ比50%のパルスの継続時間は10μsであるのに対し、パルス周期T2(30μs)におけるデューティ比50%のパルスの継続時間は15μsである。
【0040】
デューティ比指令部44は、減算器42が演算した電流指令と測定電流の偏差に基づいてU、V、W各相のインバータ23に印加すべきパルスのデューティ比を演算するデューティ比演算部として、PID制御部441と2相3相変換部442を備える。PID制御部441は、減算器42が演算したd-q軸の2相の偏差が入力される比例制御要素(P)、積分制御要素(I)、微分制御要素(D)の少なくとも一つを含み、d-q軸の直交2相におけるパルスのデューティ比を演算する。2相3相変換部442は、PID制御部441が演算した2相のデューティ比を、U、V、Wの3相のデューティ比に変換する。
【0041】
パルス指令部45は、パルス周期の指令を生成するパルス周期指令部、および/または、パルス周期におけるパルスの位置の指令を生成するパルス位置指令部である。パルス幅変調部46は、パルス指令部45からの指令に基づいて、各パルス周期においてデューティ比指令部44からの指令によるデューティ比のパルスを生成する。
【0042】
以下、パルス指令部45がパルス周期指令部として機能する例と、パルス指令部45がパルス位置指令部として機能する例を個別に説明するが、パルス指令部45はパルス周期指令部とパルス位置指令部の機能を兼ね備えたものでもよい。後述するように、両機能ともPWMノイズが特定の周波数に集中しないように分散させることを主な目的とする。
【0043】
図5は、パルス幅変調装置24の第1の構成例として、パルス指令部45がパルス周期指令部として機能する場合の構成例を示す。パルス周期の指令を生成するパルス周期指令部45は、パルス周期の長さを可変とするための構成として、パルス周期格納部451と、セレクタ452と、計数値比較部453を備える。パルス幅変調部46は、パルス周期指令部45の指令に基づくパルス幅変調を行うための構成として、パルス位置演算部461と、カウンタ462と、パルス生成部463を備える。
【0044】
パルス周期格納部451には、複数(図示の例では3個)の異なるパルス周期Cm1~Cm3が予め格納されている。各パルス周期の長さは適宜設定できるが、例えばCm1は20μs、Cm2は25μs、Cm3は15μsに対応する。後述するように、Cm1~Cm3はカウンタ462の最大計数値を与え、カウンタ462が最小値の0から最大値のCm1~Cm3にカウントアップする間に、対応するパルス周期が経過する。具体的には、カウンタ462が0からCm1にカウントアップする間に20μsが経過し、カウンタ462が0からCm2にカウントアップする間に25μsが経過し、カウンタ462が0からCm3にカウントアップする間に15μsが経過する。
【0045】
パルス周期選択部としてのセレクタ452は、パルス周期格納部451に格納された異なる長さの三つのパルス周期Cm1~Cm3の中から一つのパルス周期を選択する。セレクタ452が選択を行うタイミングは、計数値比較部453によって指定される。計数値比較部453は、カウンタ462の計数値を取得してセレクタ452によって現在選択されているパルス周期と比較し、カウンタ462の計数値が現在選択中のパルス周期に達したか否かを判定する。例えば、セレクタ452が現在Cm1を選択している場合、カウンタ462が最大計数値であるCm1に達すると、計数値比較部453はセレクタ452に対して新たなパルス周期の選択指令を発する。選択指令を受けたセレクタ452は、現在選択中のパルス周期Cm1から新たなパルス周期(Cm1~Cm3のいずれか一つ)に切り替える。具体例は後述するが、パルス周期の選択または切替えの順序は規則的でもよいし不規則的でもよい。パルス周期の選択または切替えの順序を規則的にすれば回路規模を削減でき、パルス周期の選択または切替えの順序を不規則的にすればPWMノイズが発生する箇所を更に分散させることができる。
【0046】
パルス位置演算部461は、セレクタ452で選択されたカウンタ462の最大計数値としてのパルス周期と、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比に基づいて、パルスの立上りと立下りに対応するカウンタ462の計数値を演算する。
図6は、各パルス周期Cm1~Cm3に対するパルス位置の演算例を示す。本図の横軸は時間を表し、縦軸はカウンタ462の計数値(カウンタ値)を表す。また、図示の例では、デューティ比指令部44からのデューティ比指令は、全てのパルス周期Cm1~Cm3で50%とした。
【0047】
セレクタ452でパルス周期Cm1が選択された場合、カウンタ462は20μsの間に0からCm1までカウントアップするが、パルス位置演算部461はデューティ比50%すなわち継続時間10μsのパルスの立上りに対応する計数値P1と立下りに対応する計数値N1を演算する。単純化のためにパルス周期Cm1におけるパルスの位置(重心)をパルス周期Cm1の中心とする。この時、パルスの中心に対応する計数値M1はCm1/2である。また、パルスのデューティ比(50%)に対応する計数値の幅D1もCm1/2(=Cm1×50%)である。これらに基づき、パルスの立上りに対応する計数値P1はM1-D1/2(=Cm1×1/4)と求められ、パルスの立下りに対応する計数値N1はM1+D1/2(=Cm1×3/4)と求められる。セレクタ452でパルス周期Cm2が選択された場合のパルスの立上り計数値P2(Cm2×1/4)と立下り計数値N2(Cm2×3/4)、セレクタ452でパルス周期Cm3が選択された場合のパルスの立上り計数値P3(Cm3×1/4)と立下り計数値N3(Cm3×3/4)も同様に求められる。
【0048】
カウンタ462は、セレクタ452で選択されたパルス周期Cm1~Cm3を最大値として計数する計数器である。カウンタ462の計数値は、最大計数値であるCm1~Cm3に達すると、計数値比較部453からのリセット指令に応じて0にリセットされる。すなわち、計数値比較部453は、カウンタ462の計数値をセレクタ452で現在選択中のパルス周期と比較し、カウンタ462が最大計数値としてのパルス周期に達したことを検知すると、カウンタ462に対して計数値のリセット指令を発する。
【0049】
なお、計数値比較部453が、カウンタ462に対してリセット指令を発するタイミングと、セレクタ452に対して新たなパルス周期の選択指令を発するタイミングは実質的に同一である。更に計数値比較部453は、実質的に同一のタイミングでAD変換部431にデータ取込指令を発する。これによって、パルス周期がCm1~Cm3の間で変動したとしても、AD変換部431はパルス周期と同期してデータ(3相の交流電流IU、IV、IWのアナログ値)を取り込んでデジタル値を生成できる。このように、パルス周期の切替えのタイミングを表す計数値比較部453からの指令をパルス幅変調装置24の各部(セレクタ452、カウンタ462、AD変換部431等)に与えることで、当該各部の同期が取れた安定動作を実現できる。
【0050】
パルス生成部463は、セレクタ452で選択されたパルス周期Cm1~Cm3において、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比のパルスを、パルス位置演算部461で演算された位置に生成する。具体的には、パルス生成部463は、
図6に示されるように、カウンタ462が0から最大計数値であるパルス周期Cm1~Cm3にカウントアップする際、計数値が立上りの計数値P1~P3になった時にパルスを立ち上げ(OFFからONに切り替え)、計数値が立下りの計数値N1~N3になった時にパルスを立ち下げる(ONからOFFに切り替える)。
【0051】
続いて、セレクタ452におけるパルス周期Cm1~Cm3の選択例を
図7に示す。なお、単純化のために本図の全てのパルスのデューティ比は50%とした。
図7(A)は、セレクタ452が、Cm1、Cm2、Cm3をこの順で周期的に選択する例である。「Cm」を除いて簡易的に表記すれば、1→2→3→1→2→3→1→2・・・の順でパルス周期が選択される。ここで、繰り返しの単位である「1→2→3」を(1,2,3)と表記すれば、
図7(A)の選択例では(1,2,3)の選択が周期的に繰り返される。
【0052】
図7(B)は、セレクタ452が、三つのパルス周期Cm1~Cm3を一組として、Cm1~Cm3の6通りの順列を周期的に選択する例である。上記の表記を用いると、(1,2,3)→(1,3,2)→(2,1,3)→(2,3,1)→(3,1,2)→(3,2,1)のように、Cm1~Cm3の全6通りの順列を順番に網羅するようにパルス周期が選択される。
【0053】
ここで、
図7(A)(B)の例では、三つのパルス周期Cm1~Cm3の和である60μsの1フレーム内で各パルス周期Cm1~Cm3が1回ずつ選択される。この場合、各フレームの間隔は60μsと一定であるため、AD変換部431は、パルス周期の切替えのタイミングを表すデータ取込指令を計数値比較部453から受け取らなくても、60μsのフレーム単位ではパルス幅変調部46と同期できる。このように、パルス幅変調装置24はフレーム単位で安定動作できる。すなわち、三つのパルス周期Cm1~Cm3を一つの大きな周期と捉えた場合に、その周期は固定されることになるため、パルス幅変調装置24の安定動作が実現される。ここで、
図7(B)の例では、各フレーム内での各パルス周期Cm1~Cm3の切替位置がフレーム毎に異なるため、AD変換部431のデータ取込タイミングに若干の誤差は生じるものの、パルス幅変調部46でのパルス生成に悪影響を及ぼすものではなく許容できる。このように、パルス周期Cm1~Cm3が規則的な順序で選択される
図7(A)(B)の例では、AD変換部431の同期のために計数値比較部453が発するデータ取込指令を省略してもよい。
【0054】
なお、このようなフレーム単位でパルス幅変調装置24が動作する場合、パルス周期Cm1~Cm3毎にカウンタ462をリセットする代わりに、フレーム毎(Cm1+Cm2+Cm3=60μs毎)にカウンタ462をリセットする構成としてもよい。パルス位置演算部461は、カウンタ462が0から最大計数値Cm1+Cm2+Cm3までカウントアップする間の三つのパルスの立上り位置P1~P3および立下り位置N1~N3を演算する(
図6に点線で模式的に示す)。
【0055】
また、パルス幅変調装置24がフレーム単位で動作する場合、フレームは固定長(60μs)に限らず可変長でもよい。例えば、フレーム長のバリエーションとして、60μsに加えて50μsと70μsを設ける。この時、各フレームにおける三つのパルス周期Cm1~Cm3の比率を一定とすれば、フレーム長を可変としたことによる演算量の増大を抑制できる。例えば、フレーム長が50μsの場合、元々20μsであったパルス周期Cm1は約16.7μs(20×50/60)となり、元々25μsであったパルス周期Cm2は約20.8μs(25×50/60)となり、元々15μsであったパルス周期Cm3は12.5μs(15×50/60)となる。
【0056】
図7(C)は、セレクタ452が、三つのパルス周期Cm1~Cm3を不規則的な順序で選択する例である。
図7(A)(B)の例と異なり一定間隔のフレームが存在しないため、AD変換部431の同期のために計数値比較部453からデータ取込指令を与えるのが好ましい。
【0057】
以上、選択対象のパルス周期Cm1~Cm3が予めパルス周期格納部451に格納されている例を説明したが、パルス周期指令部45は他の手段によってパルス周期の長さを可変としてもよい。例えば、パルス周期の生成のための各種のパルス周期生成情報に基づいて、パルス周期指令部45が自律的にリアルタイムで異なる長さのパルス周期を生成してもよい。パルス周期生成情報としては、基準周期、刻み幅、周期総数が例示され、これらはEEPROM等の取り外し可能なメモリに格納されてもよいし、パルス幅変調装置24の内蔵メモリに格納されてもよい。例えば、基準周期を20μs、刻み幅を1μs、周期総数を8とする。この場合、基準周期20μsを中心として、正負両方向に刻み幅1μsで合計8個のパルス周期が生成される。例えば、17μs(基準周期-3μs)、18μs(基準周期-2μs)、19μs(基準周期-1μs)、20μs(基準周期)、21μs(基準周期+1μs)、22μs(基準周期+2μs)、23μs(基準周期+3μs)、24μs(基準周期+4μs)の8個の異なる長さのパルス周期がパルス周期指令部45によって生成される。
【0058】
これらの8個のパルス周期を選択する順序は任意であるが、例えば乱数を利用して選択してもよい。具体的には、上記の8個のパルス周期に0~7の番号を予め割り当てておき、乱数生成器で生成された乱数を周期総数の8で割った余り(0~7)に応じて、8個のパルス周期の中から該当する番号のパルス周期を選択する。また、0~7の任意の数列を予め用意することで、または、0~7の任意の数列をパルス周期指令部45が自律的にリアルタイムで生成することで、その数列に従って0~7の番号のパルス周期を選択してもよい。
【0059】
以上の構成のパルス幅変調装置24によれば、パルス周期指令部45がパルス周期の長さを可変とすることでPWMノイズを効果的に低減できる。すなわち、パルス周期の長さが一定の場合、特定の周波数にPWMノイズが集中する可能性があるが、パルス周期の長さを可変とすることで、PWMノイズが発生する箇所を分散させることができるため、PWMノイズに対する耐性を高めることができる。また、パルス周期格納部451に予め格納されたパルス周期を選択することで、回路規模を削減できる。
【0060】
なお、パルス周期Cmの長さを可変とするパルス周期指令部45に加えてまたは代えて、
図8に示すPWMノイズ低減技術を用いてもよい。この例では一つのパルス周期Cmが8個の長さの等しい区間0~7に分割されている。このパルス周期Cmで生成すべきパルスのデューティ比の指令が50%の場合、8個の区間の50%に相当する4個の区間でパルスをONにすればよい。この時、乱数等を利用してパルスをONにする4個の区間を分散させることで、PWMノイズが特定の周波数に集中的に発生することを防止できる。このように、パルス周期を複数の区間に分割し、デューティ比指令部44からのデューティ比の指令を満たすためにパルスをONにする区間を乱数等によって分散させることで、PWMノイズに対する耐性を高めることができる。
【0061】
図9は、パルス幅変調装置24の第2の構成例として、パルス指令部45がパルス位置指令部として機能する場合の構成例を示す。なお、
図5の構成例と共通する構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。パルス周期格納部451に格納された一定のパルス周期Cmにおけるパルスの位置の指令を生成するパルス位置指令部45は、パルスの位置を可変とするための構成として、パルス位置格納部454と、セレクタ452と、計数値比較部453を備える。パルス幅変調部46は、パルス位置指令部45の指令に基づくパルス幅変調を行うための構成として、パルス位置演算部461と、カウンタ462と、パルス生成部463を備える。
【0062】
パルス位置格納部454には、複数(図示の例では3個)の異なるパルス位置M1~M3が予め格納されている。各パルス位置は最小値の0と最大値のCm(パルス周期)の間の任意の数として適宜設定できる。本実施形態では、Cmを20μs、M1を10μs、M2を10.1μs、M3を9.9μsとする。なお、
図6で説明したように、CmおよびM1~M3は厳密にはカウンタ462の計数値を表す。
【0063】
パルス位置選択部としてのセレクタ452は、パルス位置格納部454に格納された異なる三つのパルス位置M1~M3の中から一つのパルス位置を選択する。セレクタ452が選択を行うタイミングは、計数値比較部453によって指定される。計数値比較部453は、カウンタ462の計数値を取得して、パルス周期格納部451に格納されたパルス周期Cmと比較し、カウンタ462の計数値がパルス周期Cmに達したか否かを判定する。カウンタ462が最大計数値であるCmに達すると、計数値比較部453はセレクタ452に対して新たなパルス位置の選択指令を発する。選択指令を受けたセレクタ452は、現在選択中のパルス位置(M1~M3のいずれか一つ)から新たなパルス位置(M1~M3のいずれか一つ)に切り替える。
図7のパルス周期の選択例と同様に、パルス位置の選択または切替えの順序は規則的でもよいし不規則的でもよい。パルス位置の選択または切替えの順序を規則的にすれば回路規模を削減でき、パルス位置の選択または切替えの順序を不規則的にすればPWMノイズが発生する箇所を更に分散させることができる。
【0064】
パルス位置演算部461は、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3、パルス周期格納部451に格納されたパルス周期Cm、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比に基づいて、パルスの立上りと立下りに対応するカウンタ462の計数値を演算する。
図10は、各パルス位置M1~M3に対するパルス位置の演算例を示す。本図の横軸は時間を表し、縦軸はカウンタ462の計数値(カウンタ値)を表す。また、図示の例では、デューティ比指令部44からのデューティ比指令は、全てのパルス位置M1~M3について50%とした。なお、パルス周期Cmは全てのパルス位置M1~M3について一定値20μsである。
【0065】
セレクタ452でパルス位置M1(10μs)が選択された場合、パルス位置演算部461はパルス位置M1を中心(重心)とするデューティ比50%のパルスの立上りに対応する計数値P1と立下りに対応する計数値N1を演算する。この時、パルスのデューティ比(50%)に対応する計数値の幅DはCm/2(=Cm×50%)である。したがって、パルスの立上りに対応する計数値P1はM1-D/2と求められ、パルスの立下りに対応する計数値N1はM1+D/2と求められる。セレクタ452でパルス位置M2(10.1μs)が選択された場合のパルスの立上り計数値P2(M2-D/2)と立下り計数値N2(M2+D/2)、セレクタ452でパルス位置M3が選択された場合のパルスの立上り計数値P3(M3-D/2)と立下り計数値N3(M3+D/2)も同様に求められる。
図10ではそれぞれの場合の違いを強調するために横軸(時間軸)の寸法を誇張しているが、パルス位置M2のパルスはパルス位置M1のパルス(点線で示す)よりパルス周期Cm中で0.1μs遅れて(右側に)現われ、パルス位置M3のパルスはパルス位置M1のパルス(点線で示す)よりパルス周期Cm中で0.1μs早く(左側に)現われる。このように、パルスの幅(デューティ比)が同じ場合でもパルスの位置(重心)を可変とすることで、PWMノイズが特定の周波数に集中的に発生することを防止できる。
【0066】
カウンタ462は、パルス周期格納部451に格納されたパルス周期Cmを最大値として計数する計数器である。カウンタ462の計数値は、最大計数値であるCmに達すると、計数値比較部453からのリセット指令に応じて0にリセットされる。すなわち、計数値比較部453は、カウンタ462の計数値をパルス周期Cmと比較し、カウンタ462が最大計数値としてのパルス周期Cmに達したことを検知すると、カウンタ462に対して計数値のリセット指令を発する。なお、計数値比較部453が、カウンタ462に対してリセット指令を発するタイミングと、セレクタ452に対して新たなパルス位置の選択指令を発するタイミングは実質的に同一である。
【0067】
パルス生成部463は、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3において、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比のパルスを、パルス位置演算部461で演算された位置に生成する。具体的には、パルス生成部463は、
図10に示されるように、カウンタ462が0から最大計数値であるパルス周期Cmにカウントアップする際、計数値が立上りの計数値P1~P3になった時にパルスを立ち上げ(OFFからONに切り替え)、計数値が立下りの計数値N1~N3になった時にパルスを立ち下げる(ONからOFFに切り替える)。
【0068】
セレクタ452におけるパルス位置M1~M3の選択は、
図7のパルス周期Cm1~Cm3の選択例と同様に行う。
図7(A)と同様に、セレクタ452はM1、M2、M3をこの順で周期的に選択してもよい。
図7(B)と同様に、セレクタ452は三つのパルス位置M1~M3を一組として、M1~M3の6通りの順列を周期的に選択してもよい。
図7(C)と同様に、セレクタ452は三つのパルス位置M1~M3を不規則的な順序で選択してもよい。
【0069】
以上、選択対象のパルス位置M1~M3が予めパルス位置格納部454に格納されている例を説明したが、パルス位置指令部45は他の手段によってパルス位置(重心)を可変としてもよい。例えば、パルス位置の生成のための各種のパルス位置生成情報に基づいて、パルス位置指令部45が自律的にリアルタイムで異なるパルス位置を生成してもよい。パルス位置生成情報としては、基準位置、刻み幅、位置総数が例示され、これらはEEPROM等の取り外し可能なメモリに格納されてもよいし、パルス幅変調装置24の内蔵メモリに格納されてもよい。例えば、基準位置を10μs、刻み幅を0.1μs、位置総数を8とする。この場合、基準位置10μsを中心として、正負両方向に刻み幅0.1μsで合計8個のパルス位置が生成される。例えば、9.7μs(基準位置-0.3μs)、9.8μs(基準位置-0.2μs)、9.9μs(基準位置-0.1μs)、10μs(基準位置)、10.1μs(基準位置+0.1μs)、10.2μs(基準位置+0.2μs)、10.3μs(基準位置+0.3μs)、10.4μs(基準位置+0.4μs)の8個の異なるパルス位置がパルス位置指令部45によって生成される。
【0070】
これらの8個のパルス位置を選択する順序は任意であるが、例えば乱数を利用して選択してもよい。具体的には、上記の8個のパルス位置に0~7の番号を予め割り当てておき、乱数生成器で生成された乱数を周期総数の8で割った余り(0~7)に応じて、8個のパルス位置の中から該当する番号のパルス位置を選択する。また、0~7の任意の数列を予め用意することで、または、0~7の任意の数列をパルス位置指令部45が自律的にリアルタイムで生成することで、その数列に従って0~7の番号のパルス位置を選択してもよい。
【0071】
以上の構成のパルス幅変調装置24によれば、パルス位置指令部45がパルス位置(重心)を可変とすることでPWMノイズを効果的に低減できる。すなわち、パルス位置が一定の場合、特定の周波数にPWMノイズが集中する可能性があるが、パルス位置を可変とすることで、PWMノイズが発生する箇所を分散させることができるため、PWMノイズに対する耐性を高められる。また、パルス位置格納部454に予め格納されたパルス位置を選択することで、回路規模を削減できる。
【0072】
なお、パルス位置を可変とするパルス位置指令部45と、
図8で説明したPWMノイズ低減技術を併用してもよい。
図8の技術ではデューティ比指令部44からのデューティ比の指令を満たす数の区間でパルスをONにする必要があるが、この時パルス位置指令部45からのパルス位置(重心)M1~M3の指令も満たすようにする。パルスの重心の指令が経時的に変わることで、パルス周期においてパルスがONになる区間が効果的に分散されるため、PWMノイズに対する耐性を更に高めることができる。
【0073】
なお、
図10のパルス生成の際、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3と、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比の関係によって、パルスがパルス周期をはみ出る可能性がある。例えば、図示のパルス周期が20μsおよびデューティ比が50%の場合、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3が5μsより小さいと、パルスの立上り位置P1~P3がカウンタ462の最小計数値である0より小さくなってしまう。同様に、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3が15μsより大きいと、パルスの立下り位置N1~N3がカウンタ462の最大計数値であるCmより大きくなってしまう。
【0074】
この状態ではパルス生成部463がパルス周期内でデューティ比指令を満たすパルスを適切に生成できないため、パルス位置演算部461はデューティ比指令部44からの指令によるデューティ比のパルスがパルス周期に収まるようにパルスの立上り位置P1~P3および立下り位置N1~N3を補正する。
【0075】
例えば、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3が2.5μsの場合、パルスの立上り位置P1~P3は-2.5μsとなり、パルスの立下り位置N1~N3は7.5μsとなる。この時、パルス位置演算部461は、パルスの立上り位置P1~P3が最小計数値の0より大きくなり、かつ、パルスの立下り位置N1~N3が最大計数値のCmより小さい状態が維持されるような任意の正のオフセット値によって補正する。例えば、パルスがパルス周期外にはみ出した量である2.5μsをオフセット量として、パルスの立上り位置P1~P3および立下り位置N1~N3に加算する。これによって、補正後のパルスの立上り位置P1~P3は0、立下り位置N1~N3は10μsとなって、0~20μsのパルス周期内でデューティ比50%(継続時間10μs)のパルスを適切に生成できる。
【0076】
同様に、セレクタ452で選択されたパルス位置M1~M3が17.5μsの場合、パルスの立上り位置P1~P3は12.5μsとなり、パルスの立下り位置N1~N3は22.5μsとなる。この時、パルス位置演算部461は、パルスの立下り位置N1~N3が最大計数値のCm(20μs)より小さくなり、かつ、パルスの立上り位置P1~P3が最小計数値の0より大きい状態が維持されるような任意の負のオフセット値によって補正する。例えば、パルスがパルス周期外にはみ出した量より大きい5μsをオフセット量として、パルスの立上り位置P1~P3および立下り位置N1~N3を減算する。これによって、補正後のパルスの立上り位置P1~P3は7.5μs、立下り位置N1~N3は17.5μsとなって、0~20μsのパルス周期内でデューティ比50%(継続時間10μs)のパルスを適切に生成できる。
【0077】
なお、上記のオフセット量は乱数を利用して生成してもよい。また、以上の例ではパルス幅変調部46に含まれるパルス位置演算部461がパルス位置の補正を行ったが、このような補正を行う機能をパルス位置指令部45に設けてもよい。この場合、パルス位置指令部45は、デューティ比指令部44からの指令によるデューティ比を参照して、パルス幅変調部46に提供するパルス位置M1~M3を直接的に補正する。
【0078】
図11は、パルス幅変調装置24の第3の構成例を示す。この構成例では、デューティ比指令部44がデューティ比の指令を生成する際、乱数を利用してデューティ比にランダム成分を加える。このための構成要素として、デューティ比指令部44は、指令値取得部51と、指令値制限部52と、乱数値加算部53と、乱数値制限部54と、加算器55と、搬送波生成部56と、デューティ比生成部57を備える。
【0079】
まず、
図12を参照して、一般的なデューティ比の生成方法を説明する。この動作には、
図11のデューティ比指令部44の構成要素のうち、指令値取得部51、搬送波生成部56、デューティ比生成部57のみが関与する。
図12は、指令値取得部51が取得する指令値(減算器42が演算した電流指令と測定電流の偏差)に応じてデューティ比生成部57が生成するデューティ比を模式的に示す。指令値取得部51が取得する指令値は、搬送波生成部56が生成する搬送波としての三角波に対する百分率(パーセント)で表される。三角波はパルス周期中に最小値と最大値の間で振動する三角形状の波であり、その最小値が-100%の指令値に対応し、その最大値が+100%の指令値に対応する。図示される(A)~(G)は、-100%~+100%の間の異なる指令値に対応する。なお、搬送波の形状は三角形状に限らず、例えば、正弦波状でもよいし台形状でもよい。
【0080】
デューティ比生成部57は、各パルス周期における指令値と三角波の交点に基づいてデューティ比の指令を生成する。図示されるように、指令値が-100%の(A)の場合はデューティ比が100%となり、指令値が-50%の(B)の場合はデューティ比が75%となり、指令値が-25%の(C)の場合はデューティ比が62.5%となり、指令値が0%の(D)の場合はデューティ比が50%となり、指令値が+25%の(E)の場合はデューティ比が37.5%となり、指令値が+50%の(F)の場合はデューティ比が25%となり、指令値が+100%の(G)の場合はデューティ比が0%となる。
【0081】
続いて、乱数を利用してデューティ比にランダム成分を加えるための構成要素を説明する。指令値制限部52は、後述する乱数値加算部53が指令値にランダム成分を加えることによって、指令値が最小値の-100%より小さくなったり最大値の+100%より大きくなったりしないように、指令値の最小値を三角波の最小値(-100%)より大きい値に制限し、指令値の最大値を三角波の最大値(+100%)より小さい値に制限する。例えば、
図12の例において、指令値の最小値を-50%に、指令値の最大値を+50%に制限することで、(B)~(F)の-50%~+50%の指令値のみを許容し、-50%未満の(A)や+50%超の(G)の指令値を禁止する。指令値が-50%~+50%に制限されるため、最大で±50%のランダム成分を指令値に加えることができる。
【0082】
指令値制限部52が指令値を制限する方法は以下が例示される。第1の方法では、指令値取得部51が取得した-100%~+100%の指令値に対して制限係数を乗算することで指令値を制限する。例えば、指令値を-50%~+50%に制限したい場合は、制限係数として0.5を指令値に乗算する。第2の方法では、指令値取得部51が取得した指令値が制限範囲外である場合に限って制限係数を乗算する。例えば、指令値取得部51が取得した指令値が制限範囲内の-50%~+50%である場合は制限係数を乗算せず、指令値取得部51が取得した指令値が制限範囲外の-50%未満や+50%超の場合に0.5等の制限係数を乗算する。第1の方法または第2の方法において、制限係数の値は一律(例えば0.5)でもよいし指令値に応じて変えてもよい。第3の方法では、そもそも指令値取得部51が制限範囲外の指令値を生成しないように、指令値取得部51での演算処理を指令値制限部52によって動的または静的に制御する。
【0083】
なお、指令値制限部52による指令値の制限範囲は、-50%~+50%のように固定的なものに限らず、乱数値加算部53が生成した乱数値に応じて動的に変えてもよい。例えば、乱数値加算部53が生成した乱数値が指令値に換算して+20%の場合は指令値の制限範囲を-100%~+80%とすればよく、乱数値加算部53が生成した乱数値が指令値に換算して-35%の場合は指令値の制限範囲を-65%~+100%とすればよい。いずれの場合も、ランダム成分が加えられた後の指令値は-100%~+100%の適正範囲に収まる。
【0084】
乱数値加算部53は、デューティ比指令部44がデューティ比の指令を生成する際、指令値取得部51が取得した指令値に基づいて重み付けされた乱数値を加算器55によって当該指令値に加算する。指令値に乱数値を加算することでデューティ比生成部57が生成するデューティ比にランダム成分が加わるため、PWMノイズが特定の周波数に集中しないように分散させることができ、モータを安定的に駆動できる。なお、乱数値(またはその元となる乱数)としては、完全にランダムなものではなく、一定時間の平均値が実質的に0となるように正負に均等に現われるものを用いるのが好ましい。これによって、各時刻のデューティ比にはランダム成分が加わったとしても、一定時間の平均では電流指令部41からの電流指令に基づく適正なデューティ比を生成できる。乱数値加算部53は、乱数を生成する乱数生成部531と、乱数生成部531が生成した乱数に対して指令値取得部51が取得した指令値に基づく重み付け演算を施す重み付け部532を備える。
【0085】
重み付け部532の重み付け演算の第1の例では、指令値取得部51が取得した指令値が、乱数生成部531が生成した乱数に乗算されて、指令値に加算される乱数値が演算される。すなわち、乱数値=乱数×指令値、であり、乱数値が加算された後の指令値は、指令値+乱数値=指令値(1+乱数)、と表される。
【0086】
図13は、第1の重み付け演算例による指令値のランダム化の例を模式的に示す。横軸はパルス幅変調装置24およびインバータ23によって駆動されるモータ14の回転回数を表し、縦軸はデューティ比指令部44における指令値を表す。モータ14の1回転を1周期とする正弦波は、パルス幅変調装置24が生成するパルスによってインバータ23が生成する交流波を模式的に表す。この交流波を生成するために、指令値(正弦波指令値)は-50%~+50%の間で正弦波状に変化する(なお、
図12の例とは指令値の正負を逆転させている)。交流波の周囲に示される各ドット(点)は、各時刻の指令値に乱数値が加算されたものを模式的に示す。
【0087】
第1の重み付け演算例では各時刻の指令値によって乱数が重み付けされた乱数値を用いるため、指令値(絶対値)が大きい±50%付近では大きな乱数値が加算されて各ドットの交流波からの乖離が大きくなり、指令値(絶対値)が小さい0%付近では小さな乱数値が加算されて各ドットの交流波からの乖離が小さくなる。指令値が小さい時に大きな乱数値が加算されると、出力される交流波の形状が大きく歪む恐れがあるが、第1の重み付け演算例では指令値が小さい時の乱数値を小さくできるため、交流波の形状を適正に維持でき、モータ14を安定的に駆動できる。
【0088】
重み付け部532の重み付け演算の第2の例では、パルス幅変調部46が生成するパルスによってインバータ23が生成する交流波の振幅が、乱数生成部531が生成した乱数に乗算されて、指令値に加算される乱数値が演算される。すなわち、乱数値=乱数×交流波振幅、であり、乱数値が加算された後の指令値は、指令値+乱数値=指令値+乱数×交流波振幅、と表される。ここで、インバータ23が生成する交流波の振幅は、指令値取得部51が減算器42を介して電流指令部41から取得する電流指令に基づいて演算できるため、重み付け部532はインバータ23が生成する交流波の振幅を測定する必要はない。
【0089】
図14は、第2の重み付け演算例による指令値のランダム化の例を模式的に示す。図示の二つの正弦波は、指令値(正弦波指令値)が-50%~+50%の間で正弦波状に変化する際に生成される第1の交流波と、指令値(正弦波指令値)が-20%~+20%の間で正弦波状に変化する際に生成される第2の交流波である。ここで、第1の交流波の振幅をA1、第2の交流波の振幅をA2とすれば、図から明らかなようにA1>A2である。ここで、第1の交流波について指令値に加算される乱数値は乱数×A1であり、第2の交流波について指令値に加算される乱数値は乱数×A2である。このため、各交流波の周囲の各ドットの各交流波からの乖離は、振幅の大きい第1の交流波の方が振幅の小さい第2の交流波よりも大きくなる。交流波の振幅が小さい時に大きな乱数値が加算されると、出力される交流波の形状が大きく歪む恐れがあるが、第2の重み付け演算例では交流波の振幅が小さい時の乱数値を小さくできるため、交流波の形状を適正に維持でき、モータ14を安定的に駆動できる。なお、交流波の振幅(A1、A2)は、前パルス周期にインバータ23が出力した交流波の測定結果等に基づいて演算できる。
【0090】
乱数値制限部54は、乱数値加算部53が加算器55を介して乱数値を加算する際に、指令値が最小値の-100%より小さくなったり最大値の+100%より大きくなったりしないように乱数値を制限する。例えば、乱数値加算部53が生成した乱数値をR、加算器55に入力される指令値をIとし、I+Rの絶対値が100%を超えた場合、それが100%以内となるように乱数値制限部54が乱数値Rを補正する。これによって、乱数値が加算された後の指令値が常に-100%~+100%の適正範囲に収まる。なお、乱数値制限部54と前述の指令値制限部52は、乱数値が加算された指令値が最小値(-100%)と最大値(+100%)の間に収まるようにするという共通の目的を有するため、いずれか一方のみを設けてもよい。
【0091】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0092】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0093】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0094】
1 モータ駆動制御システム、2 モータ駆動制御装置、3 フライトコントローラ、14 モータ、22 直流電源、23 インバータ、24 パルス幅変調装置、41 電流指令部、42 減算器、44 デューティ比指令部、45 パルス指令部(パルス周期指令部/パルス位置指令部)、46 パルス幅変調部、51 指令値取得部、52 指令値制限部、53 乱数値加算部、54 乱数値制限部、55 加算器、56 搬送波生成部、57 デューティ比生成部、431 アナログデジタル変換部、451 パルス周期格納部、452 セレクタ、453 計数値比較部、454 パルス位置格納部、461 パルス位置演算部、462 カウンタ、463 パルス生成部、531 乱数生成部、532 重み付け部。