(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164332
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】流動体の撹拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/90 20220101AFI20221020BHJP
【FI】
B01F7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069755
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
【テーマコード(参考)】
4G078
【Fターム(参考)】
4G078AA01
4G078AB01
4G078BA05
4G078BA09
4G078DA01
4G078DC10
4G078EA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】撹拌抵抗の大きな流動体の場合でも、流動体収容器内全体で良好な対流を生じさせて撹拌することが可能な流動体の撹拌装置を提供する。
【解決手段】流動体を収容する流動体収容器と、流動体収容器内に設置された略鉛直方向に伸長する回転軸と、回転軸に取り付けられ流動体収容器内で流動体を撹拌する第1撹拌ブレード14、第2撹拌ブレード16、第3撹拌ブレード18と、を有する撹拌装置において、撹拌ブレードは、回転軸の軸方向に所定間隔をおいて3段設けられており、各段の撹拌ブレードは、回転軸からの伸長方向の全長に亘り、回転面に対して所定の傾斜を有するブレード面40、42、44、46、48、50を有し、伸長方向の距離領域によってそれぞれブレード面の傾斜状態が異なる部分傾斜部32、33に分けられ、且つブレード面は隣合う部分傾斜部では互いに回転面に対する傾斜方向が逆方向に設定されていることを特徴とする撹拌装置である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体を収容する流動体収容器と、該流動体収容器内に設置された略鉛直方向に伸長する回転軸と、該回転軸に取り付けられ前記流動体収容器内で前記流動体を撹拌する撹拌ブレードと、を有する撹拌装置において、
前記撹拌ブレードは、
前記回転軸の軸方向に所定間隔をおいて複数段設けられており、
該各段の撹拌ブレードは、
前記回転軸からの伸長方向の全長に亘り、回転面に対して所定の傾斜を有するブレード面を有し、
前記伸長方向の距離領域によってそれぞれ前記ブレード面の傾斜状態が異なる部分傾斜部に分けられ、
且つ前記ブレード面は隣合う部分傾斜部では互いに前記回転面に対する傾斜方向が逆方向に設定されていることを特徴とする流動体の撹拌装置。
【請求項2】
前記各段の撹拌ブレードの部分傾斜部は、
前記回転軸からの所定距離までは、該撹拌ブレードの回転により前記ブレード面が前記流動体を下方に押し下げる方向に傾斜された第1部分傾斜部であり、該第1部分傾斜部より先端側の領域は、前記回転により前記流動体を上方に押し上げる方向に傾斜された第2部分傾斜部とされたことを特徴とする請求項1に記載の流動体の撹拌装置。
【請求項3】
前記撹拌ブレードの異なる傾斜の部分傾斜部の間には漸次傾斜角が変化している中間傾斜部が設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流動体の撹拌装置。
【請求項4】
前記部分傾斜部のブレード面の傾斜角度は、前記撹拌ブレードの各段ごと及び/又は前記回転軸からの距離によってそれぞれ任意に別途設定されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の流動体の撹拌装置。
【請求項5】
前記各段ごと及び前記回転軸からの距離毎に存在する前記部分傾斜部の前記伸長方向の長さは、それぞれ任意に別途設定されていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の流動体の撹拌装置。
【請求項6】
前記第1部分傾斜部の伸長方向長さL1は、前記撹拌部ブレードの全長をLとして、L1=L/√2であることを特徴とする請求項2に記載の流動体の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動体の撹拌装置、特に、流動体収容器内でのブレードの回転により流動体を撹拌する流動体の撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流動体、特に、撹拌する際の抵抗が比較的高いもの、さらに例えば、シャーベット状の流動体(水と氷粒子とが混在するもの)などに関しては、高い抵抗に抗して適切に撹拌を行い、且つ適正な混練状態を維持するということが求められる。
【0003】
例えば、シャーベット状の流動体の使用態様としては、長期間の使用により内部に堆積物が付着した上下水道などの管路に対して、この付着物を除去するために用いられる。
【0004】
すなわち、塩水中に微細な氷粒子を含むシャーベット状の流動体を管路内に加圧注入して流動体を移動させ、流動体中の氷粒子を管路内の堆積物に衝突させて堆積物を削り取り、それを流動体とともに管路内から排出している。化学薬品などを用いることのない安全性の高い管路内清浄が行われる。
【0005】
そして、この様な管路洗浄に用いるシャーベット状の流動体は、管路内の堆積部を削り取る効果を高めるために、塩水に対して固体である氷粒子の割合が高い流動体、すなわち、含氷率が70%以上のシャーベット状の流動体とすることが求められる。
【0006】
例えば、特許文献1では、製氷機により生成された氷粒子を、塩水が貯められた貯留タンク(流動体収容器)に投入し、貯留タンク内の撹拌装置により撹拌しながらシャーベット状の流動体が生成されている。そして、撹拌装置は、貯留タンクの上部に取り付けられた駆動装置とその回転軸に設けられた撹拌羽根とから構成され、撹拌羽根は、回転軸の上部、中間部及び下部に固定された棒状体(先端部は相互に棒状体で固定されている)の形態を有するものとなっている。
【0007】
しかし、特許文献1に開示されている撹拌装置では、流動体の撹拌抵抗が高い場合、例えば、シャーベット状の流動体の場合に、含氷率が高くなっている状況では、貯留タンク内の撹拌装置による撹拌に不具合が生じる恐れがある。すなわち、流動体の含氷率が高くなることで、塩水よりも比重の小さい氷粒子は、貯留タンクの上部で結晶化して大きな塊となり、撹拌羽根を回転させる駆動装置の負荷抵抗が高くなり、連続的で適切な撹拌ができないおそれが有る。また、撹拌羽根に結晶化した氷粒子が付着して、撹拌羽根と結晶化した氷粒子が共に回転する、いわゆる共回り現象が発生するおそれが有る。
【0008】
特許文献2に開示されている混練装置では、混練容器に対して内側撹拌手段と外側撹拌手段が設けられている。内側撹拌手段は、混練容器の中心に存在する螺旋状のスクリュであり、外側撹拌手段は、混練容器の内壁寄りの位置に配置された上下方向に延びるブレードであり、このブレードは、混練容器の内壁に沿ってスクリュの外側をスクリュと同軸でスクリュとは逆方向に回転する。そして、ブレードは混練容器のほぼ中間の高さ位置で回転方向に対する角度付けが変更されている。
【0009】
内側撹拌手段のスクリュは、回転することで混練容器中の材料を上方及び外側に推進流動させる。外側撹拌手段のブレードは、回転することで、ブレードの上側部分では混練材料を内側下方に、ブレードの下側部分では混錬材料を内側やや上方に流動させる。
【0010】
特許文献3に開示されている回転軸に取り付けられた撹拌ブレードは、回転軸から伸長方向の所定の2か所に、間隔を空けてそれぞれ翼が設けられている。それぞれの翼は、回転軸に垂直な回転面に対して反対方向に角度が付されている。すなわち、それぞれの翼は、撹拌ブレードが回転することによって撹拌対象物に対し逆の方向への力を加える。したがって、投入された撹拌対象物を逆方向に移動させて撹拌が行われる。また、回転軸の上下動機構が設けられおり、異なる深さ位置で上記方向の力を加えることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-159640号公報
【特許文献2】特許第3001387号公報
【特許文献3】特開昭49-122063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2の技術では、流動対象物はスクリュにより上方及び外側に推進流動され、ブレードにより主として下方及び内側に推進流動される。しかし、この構成は、2つの要素を逆方向に回転させるための駆動系(歯車などを容器の近傍に配置すること)が必要であり、構造が複雑なものとならざるを得ない。
【0013】
また、スクリュもブレードも流動対象物を比較的大きな塊として動かしているので、例えば、流動対象物が氷を含むシャーベットのようなもので有る場合に容器の深さ方向で同時に切る方向の動きがないことから、塊が生じる可能性が有る。
【0014】
また、特許文献3に開示された撹拌ブレードは、伸長方向の2か所に設けられた翼は間隔を置いて設けられており、両者の間には翼のない部分が存在する。したがって、対象物を撹拌した場合、この翼の不存在領域においては、撹拌の不十分な部分が生じることは否めない。また、回転軸に上下動が加えられても深さ方向全体で対象物を同時に動かすことはできないことから、やはり貯留容器全体での撹拌の不十分部分の解消は望まれない。例えば、高い含氷率のシャーベット状の流動体の様な撹拌抵抗の大きな流動体の場合は、滞留する部分が大きくなると考えられる。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、撹拌抵抗の大きな流動体の場合でも、流動体収容器内全体で良好な対流を生じさせて撹拌することが可能な流動体の撹拌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的の達成のため請求項1に記載の流動体の撹拌装置は、
流動体を収容する流動体収容器と、該流動体収容器内に設置された略鉛直方向に伸長する回転軸と、該回転軸に取り付けられ前記流動体収容器内で前記流動体を撹拌する撹拌ブレードと、を有する撹拌装置において、
前記撹拌ブレードは、前記回転軸の軸方向に所定間隔をおいて複数段設けられており、
該各段の撹拌ブレードは、前記回転軸からの伸長方向の全長に亘り、回転面に対して所定の傾斜を有するブレード面を有し、前記伸長方向の距離領域によってそれぞれ前記ブレード面の傾斜状態が異なる部分傾斜部に分けられ、且つ前記ブレード面は隣合う部分傾斜部では互いに前記回転面に対する傾斜方向が逆方向に設定されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、まず、撹拌ブレードが軸方向に複数段存在することから、収容器の深さ方向で、同時に複数段で流動体を回転方向に切るように混ぜることができる。そして、撹拌ブレードは、それぞれ、ブレード面の傾斜状態が異なる部分傾斜部に分けられている。すなわち、ブレード面は、各撹拌ブレードの伸長方向の全域に存在しているが、隣り合う部分傾斜部毎に逆方向の傾斜を有している。したがって、各段の各部分傾斜部は、流動体収容器内のそれぞれの深さ位置で同時に流動体(例えば、氷粒子を含むシャーベット状の流動体)をそれぞれ異なった方向に押すことができる。したがって、撹拌ブレードが回転駆動されると、対象流動体は、深さ方向及び半径方向に複数存在する部分傾斜部ごとにそのブレード面から異なる方向で押圧力を受け、特に、隣合う各部分傾斜部の境界部分では回転面に対して上下逆方向に押されて移動されることから、その部分では流動体は剪断方向の力も受け、収容器内全体でより複雑な混練が行われ、良好な撹拌状態が生まれ、流動体の均質性が維持される。
【0018】
請求項2に記載の流動体の撹拌装置は、請求項1に記載の流動体の撹拌装置において、
前記各段の撹拌ブレードの部分傾斜部は、
前記回転軸からの所定距離までは、該撹拌ブレードの回転により前記ブレード面が前記流動体を下方に押し下げる方向に傾斜された第1部分傾斜部であり、該第1部分傾斜部より先端側の領域は、前記回転により前記流動体を上方に押し上げる方向に傾斜された第2部分傾斜部とされたことを特徴とする。
【0019】
この構成により、各段の撹拌ブレードの第1部分傾斜部では、流動体は、流動体収容器の下部方向に押し下げられ、第2部分傾斜部では、流動体は、流動体収容器の上部方向に押し上げられる。そして、この力は各段の撹拌ブレードで同時に流動体に加えられる。すなわち、流動体収容器の異なる深さ位置で同時に上記方向の力が流動体に加えられる。したがって、流動体は全体として、収容器内の回転軸に近い領域では下部方向に流れ、収容器の壁部に近い領域では上部方向に流れ、これにより収容器内での流動体の的確な対流を実現することができる。これにより、収容器内の流動体は、周囲から中心側に巻き込まれる対流により良好な撹拌が行われ、その状態が維持される。
【0020】
請求項3に記載の流動体の撹拌装置は、請求項1又は2に記載の流動体の撹拌装置において、
前記撹拌ブレードの異なる傾斜の部分傾斜部の間には漸次傾斜角が変化している中間傾斜部が設けられたことを特徴とする。
【0021】
この構成により、中間傾斜部では、隣り合う部分傾斜部のブレード面はなだらかに連続的にその傾斜が変化しており、回転時における流動体に対する撹拌ブレードの回転抵抗を減少させることができる。すなわち、隣り合う部分傾斜部の傾斜が漸次逆方向に変化していくので、境界部分である中間傾斜部では流動体の流れが生じ、より円滑に動かされる。これにより、撹拌ブレードの回転抵抗を抑制することが可能となる。したがって、隣合う部分傾斜部の境界部分で剪断力を生じさせるよりも、撹拌抵抗を小さくする方が望まれる様な対象流動体の場合に、この中間傾斜部の存在により回転抵抗の抑制が図られ、また、流動体の良好な撹拌、対流も維持される。
【0022】
請求項4に記載の流動体の撹拌装置は、請求項1~3の何れか1項に記載の流動体の撹拌装置において、
前記部分傾斜部のブレード面の傾斜角度は、前記撹拌ブレードの各段ごと及び/又は前記回転軸からの距離によってそれぞれ任意に別途設定されていることを特徴とする。
【0023】
この構成により、収容器内に存在する複数の部分傾斜部の撹拌ブレードの傾斜角度は、それぞれ必要に応じて異なる設定とすることができる。したがって、流動体の粘度や種類などに応じて、収容器内での良好な撹拌、対流を実現することが可能となっている。すなわち、各段毎に部分傾斜部の傾斜角度の設定を行うことで、収容器内の流動体が深さ方向で異なる撹拌抵抗を有しているような場合に、深さ方向でそれぞれ適切な撹拌の実行が達成される。例えば、シャーベット状流動体などにおいて、収容器の上部では塩水に浮く氷粒子が多量に存在し、収容器の下部では塩水が多量に存在するようなケースが想定される場合には、最上段の部分傾斜部の傾斜を小さく設定して、回転時の抵抗の抑制を優先し、それより下段の部分傾斜部の傾斜をそれよりも大きく取ることで、上方への押し上げ、下方への引き込み力の最適化を図ることができる。
【0024】
また、回転軸からの伸長方向の距離によって上記部分傾斜部の傾斜角度を変えること、例えば、下方への引張り力を発揮する回転軸側の部分傾斜部の傾斜を大きく設定し、上方へ押し上げる力を発揮する流動体収容器の壁側の部分傾斜部の傾斜を小さくするといった設定が可能となる。これにより、流動体収容器の軸寄りの位置に流動体の導入部が存する場合に、導入された流動体を迅速に下方に引き込むことが可能となり、撹拌の迅速性が図られる。
【0025】
請求項5に記載の流動体の撹拌装置は、請求項1~4の何れか1項に記載の流動体の撹拌装置において、
前記各段ごと及び前記回転軸からの距離毎に存在する前記部分傾斜部の前記伸長方向の長さは、それぞれ任意に別途設定されていることを特徴とする。
【0026】
この構成により、請求項4の部分傾斜部の傾斜を変化させるという構成に対して、前記部分傾斜部の伸長方向の長さを変化させることで、同様の作用を得ることが可能となっている。すなわち、回転軸に近い領域での上方又は下方への流動体に対する付加圧力を大きく取る場合には、部分傾斜部の長さを外側に位置する部分傾斜部よりも長く取ることで、達成することができる。これにより、請求項4の流動体の撹拌装置と同様に、流動体の粘度や種類などに応じて、収容器内での良好な撹拌、対流を実現することが可能となっている。
【0027】
請求項6に記載の流動体の撹拌装置は、請求項2に記載の流動体の撹拌装置において、
前記第1部分傾斜部の伸長方向長さL1は、前記撹拌部ブレードの全長をLとして、L1=L/√2であることを特徴とする。
【0028】
この構成により、第1部分傾斜部により収容器の下部方向に押し込まれる流動体の体積と、第2部分傾斜部により収容器の上部方向に押し上げられる流動体の体積がほぼ等しくすることができる。したがって、流動体収容器内での流動体の動きに無理がなくなり、流動体の対流がより的確に実現され、良好に撹拌されて均質化が図られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の流動体の撹拌装置によれば、流動体収容器内の流動体に対し、撹拌ブレードの伸長方向の位置によって、さらに、回転軸の軸方向の領域によって、ブレード面からの異なる方向による押圧力を与えることができる。また、この動作が流動体収容器の深さ方向の複数の位置で同時に行われ、これにより、収容器内の流動体は、複雑に混練され、より均質な状態になり、またその状態が確保される。したがって、例えば、管理に困難の伴う含氷率の高いシャーベット状の流動体であっても、良好に撹拌され、その状態が維持されるので、これを用いた洗浄作業は高い品質が保証される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の流動体の撹拌装置の一実施の形態に係り概略断面図を示す。
【
図2】
図1の流動体収容器内の撹拌ブレードについての説明図を示す。
【
図5】
図4に示す撹拌ブレードの各ブレード面の断面側面図を示す。
【
図6】
図2に示す撹拌ブレードの内の第1撹拌ブレードの三面図を示す。
【
図7】
図2に示す撹拌ブレードの内の第2撹拌ブレードの三面図を示す。
【
図8】
図2に示す撹拌ブレードの内の第3撹拌ブレードの三面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の流動体の撹拌装置の一実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態での撹拌対象の流動体は、管路等の洗浄に使用する氷粒子と水とを有するシャーベット状の流動体を例として用いている。撹拌によって達成しようとする目標含氷率は、約80%である。
【0032】
図1は、本実施形態に係る撹拌装置の概略断面図である。流動体収容器10は、複数本の支柱24に支えられ、内部に撹拌回転部11を有する。撹拌回転部11は、収容器10の中心位置に鉛直方向に延びる回転軸12を有している。本実施の形態における撹拌ブレードは、回転軸12の軸方向に所定間隔を置いて3段に取り付けられている(撹拌ブレード14、16、18)。回転軸12には駆動用のモータ(図示していない)が接続され、撹拌ブレードを回転可能に構成されている。
【0033】
流動体収容器10の上部には、2台の製氷機28、28が載置されている。収容器10の上部に形成された氷粒子投入口26、26から、製氷機28で製氷された氷粒子が収容器10内に投入される。収容器10内には、5質量%程度の塩水が満たされており、上部から投入される氷粒子と混合しながら、含氷率80%のシャーベット状の流動体を目標として、撹拌ブレード14、16、18により塩水と氷粒子の混合、撹拌が行われる。
【0034】
なお、製氷機28については、詳細は省略するが、例えば冷凍回路、冷凍ドラム、オーガスクリュ等を備える。冷凍ドラムに注入された塩水を、冷凍回路で製氷し、冷凍ドラムの内周面に付着した氷は、オーガスクリュで掻き取られて下部に位置する収容器内に投入される。ここで、収容器10内の塩水は、混合、撹拌作業が行われている間、還流経路(図示していない)により、収容器10から製氷機28に還流される。
【0035】
以下、撹拌ブレードについて、
図2~
図5を用いて説明する。
図2は、
図1の撹拌ブレードのみを示した説明図であり、回転軸は省略されている。
図3は、
図2に示した撹拌ブレードの側面図である。
図4は、
図2に示した撹拌ブレードを分かり易く概念的に示したものであり、
図5は、
図4に示した撹拌ブレードの各ブレード面の断面側面図を示す。
【0036】
回転軸12の上部から下部に亘って、3つの撹拌ブレード14、16、18がほぼ等間隔で設けられている。以下、これら撹拌ブレードを第1撹拌ブレード14、第2撹拌ブレード16、第3撹拌ブレード18と称する。第1撹拌ブレード14と第2撹拌ブレード16の間には、整流のためのアイドラー20が設けられている。このアイドラー20は、回転軸12中心で自由回転できるように非固定で設けられている。
【0037】
各段の撹拌ブレード14、16、18は、回転軸12からの伸長方向の距離領域によってそれぞれブレード面の傾斜状態が異なる部分傾斜部32、33に分けられている。本実施の形態では、各撹拌ブレードの部分傾斜部は、回転軸12からの所定距離までは、撹拌ブレードの回転によりブレード面が流動体を下方に押し下げる方向に傾斜された第1部分傾斜部32であり、第1部分傾斜部32から伸長方向の先端部までは、回転により流動体を上方に押し上げる方向に傾斜された第2部分傾斜部33である。本実施の形態では、これらの第1及び第2の部分傾斜部32、33は、撹拌ブレード14、16、18それぞれで傾斜方向は共通するように設定されている。
【0038】
すなわち、第1撹拌ブレード14の第1部分傾斜部32のブレード面40は、回転により流動体を収容器10の下部方向に押し下げるように方向に傾斜が付され、第2部分傾斜部33のブレード面42は、流動体を収容器10の上部方向に押し上げるように傾斜が付されている。すなわち、連続して隣り合うブレード面40とブレード面42は互いに逆方向の傾斜を有している。
【0039】
そして、第2撹拌ブレード16の第1部分傾斜部32のブレード面44も回転により流動体を収容器10の下部方向に押し下げるように角度付けされ、第2部分傾斜部33のブレード面42は、流動体を収容器10の上部方向に押し上げるように角度付けされている。すなわち、ブレード面44とブレード面46は互いに逆方向の傾斜を有している。
【0040】
同じく、第3撹拌ブレード16の第1部分傾斜部32のブレード面48は、回転により流動体を収容器10の下部方向に押し下げるように角度付けされ、第2部分傾斜部33のブレード面50は、流動体を収容器10の上部方向に押し上げるように角度付けされている。すなわち、ブレード面48とブレード面50は互いに逆方向の傾斜を有している。
【0041】
ここで、第2撹拌ブレード16の各ブレード面44及び46の傾斜角度は、第1撹拌ブレード14の各ブレード面40及び42の傾斜角度よりもそれぞれ大きく設定されている。更に、第3撹拌ブレード18の各ブレード面48及び50の傾斜角度は、第1撹拌ブレード14の各ブレード面40及び42の傾斜角度と第3撹拌ブレード18の各ブレード面44及び46の傾斜角度との中間の大きさとされている。
【0042】
また、何れの撹拌ブレードにおいても、第1部分傾斜部32と第2部分傾斜部33との間は、漸次傾斜角が変化する中間傾斜部30が存在している。その箇所では両隣のブレード面はなだらかに連続的にその傾斜が変化している。すなわち、ブレード面40とブレード面42の間、ブレード面44とブレード面46の間、及びブレード面48とブレード面50の間では、両隣のブレード面の傾斜がなだらかに変化している。
【0043】
図5は、本実施の形態の各ブレード面の傾斜状態を示す断面側面図(各ブレード面のVa-Va断面、Vb-Vb断面、Vc-Vc断面、Vd-Vd断面、Ve-Ve断面、Vf-Vf断面)である。これより、第1撹拌ブレード14のブレード面40とブレード面42とは逆方向に傾斜し、その傾斜角度は略同一であることが理解される。同様に、第2撹拌ブレード16のブレード面44と逆方向に傾斜するブレード面46の傾斜角度は略同一であり、第3撹拌ブレード18のブレード面48と逆方向に傾斜するブレード面50の傾斜角度は略同一である。
【0044】
図6、
図7、
図8は、それぞれ第1各撹拌ブレート14、第2撹拌ブレード16、第3撹拌ブレード18の三面図(正面図、平面図、側面図)を示す。ただし、回転軸12から伸長方向についてのみ示す。すなわち、各図(a)、は、各撹拌ブレードの平面図、各図(b)は、各撹拌ブレードの正面図、各図(c)は、各撹拌ブレードの側面図を示している。
【0045】
各撹拌ブレード14、16、18の上記の構成により、各段の各部分傾斜部(第1部分傾斜部32、第2部分傾斜部33)は、流動体収容器10内のそれぞれの深さ位置で同時に回転方向に切るように動き、且つ流動体をそれぞれ異なった方向に押すことができる。したがって、撹拌ブレード14、16、18が回転駆動されると、対象の流動体は、深さ方向及び半径方向の位置で複数存在する部分傾斜部ごとにそのブレード面から異なる方向で押圧力を受け、全体として複雑な混練が行われる。
【0046】
さらに、流動体は、第1部分傾斜部32、第2部分傾斜部33の上記傾斜設定により、収容器10内の回転軸12に近い領域では下部方向に流され、収容器10の壁部に近い領域では上部方向に流されるので、収容器10内全体としての対流が生起される。
【0047】
したがって、含氷率が高くなると撹拌抵抗が大きくなるシャーベット状の流動体等が撹拌対象となる場合に、シャーベット状の流動体の滞留が生じない様に的確な撹拌が可能となっている。
【0048】
また、各撹拌ブレード14、16、18の中間傾斜部30の存在により、その部分では、撹拌対象の流動体は他のブレード面よりは円滑に流され、撹拌ブレード14、16、18の回転時における流動体に対する撹拌ブレード14、16、18の回転抵抗を減少させることができる。この構成は、対象物が上記のシャーベット状の流動体の様な撹拌抵抗の高い流動体の場合において、含氷率が高い状態で有っても良好な撹拌ブレード14、16、18の回転を確保することができる。また、中間傾斜部30自体の部分でも、流動体に対するねじり力が生まれ、流動体の良好な撹拌、対流にも貢献する。
【0049】
また、収容器10内に存在する各段の撹拌ブレード14、16、18の部分傾斜部32、33の傾斜角を、段毎にそれぞれ異なる設定としたので、収容器10内での良好な撹拌、対流を実現することが可能となっている。すなわち、対象流動体がシャーベット状の流動体の場合において、収容器10の上部では塩水に浮く氷粒子が多量に存在し、収容器10の下部では塩水が多量に存在することが想定され、第1撹拌ブレード14の部分傾斜部32、33の傾斜を小さく設定して、回転時の抵抗の抑制を優先し、それより下段の第2撹拌ブレード16の部分傾斜部32、33の傾斜をそれよりも大きく取ることで、シャーベット状の流動体が存在する中央領域での下方への引き込み力を大きく取り、また、収容器10の内壁寄り位置での上方への押し上げ強めることで混練の的確化が図られている。そして、第1撹拌ブレード14と第2撹拌ブレード16のブレード面の中間の傾斜角に設定された第3撹拌ブレード18により、中央領域で適度に下方へ引き込み、また内壁領域で適度に上昇させ、対流を促進するように調整されている。
【0050】
また、本実施の形態では、各撹拌ブレード14、16、18の第1部分傾斜部32の傾斜角度と第2部分傾斜部33の傾斜角度は、向きが反対で大きさは同じに設定した例を示したが、種々変更することも可能である。例えば、下方への引張り力を発揮する回転軸12側の第1部分傾斜部32の傾斜角度をより大きく設定し、上方へ押し上げる力を発揮する流動体収容器10の内壁側の第2部分傾斜部の傾斜角度を小さく設定することも可能である。これにより、上述のように、流動体収容器10の回転軸12寄りの位置に流動体の導入部が存する場合に、特に、導入された流動体をより迅速に下方に引き込むことが可能となり、撹拌の迅速性が図られる。
【0051】
更に、本実施の形態では、3段の撹拌ブレード14、16、18の第1部分傾斜部32の伸長方向の長さ及び第2部分傾斜部33の伸長方向の長さは、各撹拌ブレードで略同一に設置したが、各撹拌ブレード毎にその長さを変化させることも可能である。すなわち、第1部分傾斜部32の伸長方向の長さと第2部分傾斜部33の伸長方向の長さを各段の撹拌ブレードで異なる長さ比率とするようなことが可能である。
【0052】
例えば、回転軸12に近い領域での流動体に対する下方への付加圧力を大きく取る場合には、第1部分傾斜部32の長さを外側に位置する第2部分傾斜部33の長さよりも長く取ることで、達成することができる。これにより、収容器10内での流動体の良好な撹拌、対流を実現することが可能となっている。
【0053】
本発明の流動体の撹拌装置の他の実施の形態として、
図2に示す第1から第3の撹拌ブレード14、16、18において、第1部分傾斜部32の伸長方向の長さL1を、第2部分傾斜部33を含めた撹拌ブレードの全長をLとした場合に、L1=L/√2に設定した。
【0054】
この構成により、第1部分傾斜部32により収容器10の下部方向に押し込まれる流動体の体積と、第2部分傾斜部33により収容器10の上部方向に押し上げられる流動体の体積がほぼ等しくなり、流動体収容器10内での流動体の動きに無理がなくなり、撹拌抵抗を良好に低下させるとことができると共に流動体の対流がより的確に実現され、良好に撹拌されて更なる均質化も図られる。
【0055】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、撹拌ブレードは第1から第3まで、3段の場合について示したが、これに限定されるものではなく、2段、さらに4段以上の設置にすることが可能であり、収容器10の大きさや撹拌する流動体の性質(粘度や質量等)に応じて適宜決めることができる。また、各撹拌ブレード14、16、18は、回転軸から伸長方向に2つの部分傾斜部を有する場合について示したが、これに拘らず、3つ以上の部分傾斜部を有しても良い。これについても撹拌する流動体の粘度や質量等に応じて適宜設定することができる。
【0056】
また、各撹拌ブレード14、16、18について、部分傾斜部の伸長方向の長さ、すなわち第1部分傾斜部32及び第2部分傾斜部33の伸長方向の長さは、第1から第3撹拌ブレードにおいて、略同一としたがこれに拘らないことは上述のとおりである。撹拌する流動体の粘度や質量等に応じて適宜設定することができる。
【0057】
また、対象流動体がシャーベット状のものである場合に、流動体収容器10の上部に製氷機28が載置されている場合について示したが、製氷機28の設置位置はその場所に限定されるものではなく、氷粒子が収容器10に的確に投入できれば、製氷機28は別の箇所に設置されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 流動体収容器
11 撹拌回転部
12 回転軸
14 第1撹拌ブレード
16 第2撹拌ブレード
18 第3撹拌ブレード
20 アイドラー
22 流動体取出し口
24 支柱
26 氷粒子投入口
28 製氷機
30 中間傾斜部
32 第1部分傾斜部
33 第2部分傾斜部
40 第1撹拌ブレードの第1部分傾斜部のブレード面
42 第1撹拌ブレードの第2部分傾斜部のブレード面
44 第2撹拌ブレードの第1部分傾斜部のブレード面
46 第2撹拌ブレードの第2部分傾斜部のブレード面
48 第3撹拌ブレードの第1部分傾斜部のブレード面
50 第3撹拌ブレードの第2部分傾斜部のブレード面