(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164346
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】電圧推定方法、電圧推定装置及び電圧推定プログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20221020BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221020BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20221020BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
H02J7/00 X
G01R31/382
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069776
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 直人
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA45
2G216CA07
2G216CB07
2G216CB35
2G216CB51
5G503AA01
5G503AA07
5G503BA03
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA11
5G503DA07
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5G503FA06
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5G503GD06
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5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】蓄電素子の電圧値を推定できる電圧推定方法、電圧推定装置及び電圧推定プログラムを提供する。
【解決手段】電圧推定方法は、蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得し、取得した前記SOC又は充電電気量と、前記切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得し、
取得した前記SOC又は充電電気量と、前記切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する
電圧推定方法。
【請求項2】
前記切り替わりの方向に基づいて選択される完全放電曲線又は完全充電曲線上の電圧値と、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値との差分に基づき、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する
請求項1に記載の電圧推定方法。
【請求項3】
前記第1時点において充電から放電に切り替わった際に選択される前記OCVプロファイルは、完全放電曲線に向けて接近し、前記第1時点において放電から充電に切り替わった際に選択される前記OCVプロファイルは、完全充電曲線に向けて接近する
請求項1又は請求項2に記載の電圧推定方法。
【請求項4】
前記OCVプロファイルに沿って複数の前記SOC又は充電電気量に対応して設定される、前記OCVプロファイルにおける傾きを示す複数の第1係数を用いて、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電圧推定方法。
【請求項5】
前記切り替わりの方向に基づいて選択される完全放電曲線又は完全充電曲線上の電圧値と、前記第1時点における前記蓄電素子の電圧値との差分よりも、前記第2時点におけるそれが小さくなるように、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を算出する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電圧推定方法。
【請求項6】
前記OCVプロファイルに沿って設定される、完全放電曲線又は完全充電曲線への接近の度合いを示す第2係数を用いて、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を算出する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電圧推定方法。
【請求項7】
前記OCVプロファイルに沿うように、複数の前記SOC又は充電電気量に対応して、複数の前記第2係数が設定されている
請求項6に記載の電圧推定方法。
【請求項8】
蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得する取得部と、
前記取得部が取得したSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する推定部と
を備える電圧推定装置。
【請求項9】
蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得し、
取得した前記SOC又は充電電気量と、前記切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する
処理をコンピュータに実行させるための電圧推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電素子の電圧推定方法、電圧推定装置及び電圧推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される二次電池等の蓄電素子におけるSOC(State of Charge )を推定する方法として、OCV法及び電流積算法が一般的に用いられている。
OCV法では、蓄電素子のOCV(Open Circuit Voltage)とSOCとの相関関係(SOC-OCV特性)を用い、電圧センサにより取得した蓄電素子の電圧値からSOCを推定する。電流積算法では、電流センサにより取得した蓄電素子の電流値から、充放電電気量、及び、初期(運転開始時)のSOCから増減したSOCを算出する。
【0003】
OCV法は、蓄電素子の端子電圧が分極の影響を受けていない時(蓄電素子の充放電が停止しているとみなせる時)のみ使えるのに対し、電流積算法は、蓄電素子の充放電の最中にもSOCを推定できる。電流積算法により、ほぼリアルタイムでSOCを把握できる。
【0004】
特許文献1は、満充電された状態から放電する際に得られる放電曲線と、完全放電された状態から充電する際に得られる充電曲線とが乖離する(ヒステリシスが存在する)二次電池について、SOCを推定する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
充放電の最中に電流積算法によりリアルタイムでSOCを把握できたとしても、ヒステリシスが存在する蓄電素子について、同様にリアルタイムで、OCVに相当する電圧値を把握することは、次の2つの理由から容易ではない。
(1)充放電の最中に電圧センサにより取得できる蓄電素子の電圧値は、分極の影響を受けており、OCVに相当する電圧値とは乖離していることが多い。そのため、電圧センサで取得した電圧値をOCVとみなすことはできない。
(2)ヒステリシスが存在する蓄電素子について、電流積算法により把握しているSOCに基づいてSOC-OCV特性を参照すると、あるSOCに対し2つのOCVが存在する。そのため、適正なOCVを一意的に特定できない。
【0007】
本開示の目的は、蓄電素子の電圧値を推定できる電圧推定方法、電圧推定装置及び電圧推定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る電圧推定方法は、蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得し、取得した前記SOC又は充電電気量と、前記切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、蓄電素子のOCVに相当する電圧値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る推定装置が搭載される蓄電装置の構成例を示す斜視図である。
【
図4】推定データに記憶される情報の内容例を示す概念図である。
【
図5】LFP電池の放電時におけるSOC-OCVプロファイルを、放電開始SOC毎に示すグラフである。
【
図6】LFP電池の充電時におけるSOC-OCVプロファイルを、充電開始SOC毎に示すグラフである。
【
図7】OCVプロファイルの傾きの概念を示す概念図である。
【
図8】ヒステリシスOCVの推定方法を説明する説明図である。
【
図9】ヒステリシスOCVの推定方法を説明する説明図である。
【
図10】ヒステリシスOCVの推定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】第2実施形態におけるヒステリシスOCVの推定方法を説明する説明図である。
【
図12】第2実施形態におけるヒステリシスOCVの推定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電圧推定方法は、蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得し、取得した前記SOC又は充電電気量と、前記切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する。
【0012】
ここで、「充電と放電とが切り替わる」とは、充電から放電に切り替わる場合、及び、放電から充電に切り替わる場合、をその意味に含む。蓄電素子の運用の休止期間の前後で充電と放電とが切り替わる場合も、その意味に含む。
「切り替わりの方向」とは、充電から放電への切り替わり、及び、放電から充電への切り替わり、をその意味に含む。
「OCVプロファイル」とは、微小SOC変化量(横軸方向の変化量)に対するOCV変化量(縦軸方向の変化量)、すなわち傾きを意味する。OCVプロファイルは、蓄電素子を、完全放電状態から満充電状態まで低レートで充電した場合のSOC-OCV特性(完全充電曲線)と、満充電状態から完全放電状態まで低レートで放電した場合のSOC-OCV特性(完全放電曲線)との間の領域に存在する部分的なSOC-OCV特性である。
「SOC」とは、その時点における蓄電素子の充電状態であり、蓄電素子の満充電容量に対する残存容量の比率を意味する。
「充電電気量」とは、その時点で蓄電素子に充電されている電気量を意味し、単位Ah(アンペアアワー)で示される物理量であってもよい。
【0013】
本発明者は、OCV(開回路電圧)に相当する蓄電素子の電圧値を連続的に把握するために、充電と放電の切り替わりを検知するとともにその時点におけるSOCを取得することで、微小時間後の電圧値推定のためのOCVプロファイルが一意的に定まることを見出した。
ここで、「OCV」とは、蓄電素子を流れる電流量がゼロであり分極の影響を受けていない場合の電圧値に加え、蓄電素子を流れる電流量が閾値以下である場合、及び蓄電素子を流れる電流量が暗電流程度に小さい場合における蓄電素子の電圧値も、その意味に含む。
【0014】
上記構成のように、第1時点におけるSOCと切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って前記第1時点よりも後の第2時点における蓄電素子の電圧値を推定することで、充電及び/又は放電の最中にもOCVに相当する電圧値を把握できる。複雑な充放電を経た後でも、OCVに相当する電圧値を高精度に把握できる。これにより、蓄電素子の短期的な電圧特性・電力特性の予測、いわゆるSOF(State Of Function )の推定が可能となる。例えば、上位の制御装置からの、「T秒間にわたって所定電流の放電が可能か」という問いかけに対し、蓄電素子の管理装置(例えば、電池管理ユニット)が適正に応答することが可能となる。
【0015】
電圧推定方法は、切り替わりの方向に基づいて選択される完全放電曲線又は完全充電曲線上の電圧値と、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値との差分に基づき、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定してもよい。
【0016】
本発明者は、前記第1時点において充電から放電に切り替わった際に選択される前記OCVプロファイルは、完全放電曲線に向けて接近し、前記第1時点において放電から充電に切り替わった際に選択される前記OCVプロファイルは、完全充電曲線に向けて接近することを見出した。
ここで、「接近」とは、OCVプロファイルと、完全放電曲線又は完全充電曲線との間隔が狭くなり続ける場合(漸近する場合)のほか、間隔が時折広くなるが全体的に見るとOCVプロファイルが完全放電曲線又は完全充電曲線に近づいている場合も、その意味に含む。
【0017】
例えば、想定される複数の切り替わり点(完全放電曲線と完全充電曲線との間の領域にプロットされる様々なSOCに対応する複数の切り替わり点)から完全放電曲線又は完全充電曲線に向けて接近するOCVプロファイルを、予め実験等により求め、記憶しておく。第1時点におけるSOCと切り替わりの方向とに基づき、記憶されているOCVプロファイルの中から1つのOCVプロファイルを選択することで、その後の充電又は放電によるSOC変化(充電電気量変化)に伴う、微小時間後の電圧値変化を求めることができる。OCVプロファイルから得られる電圧値変化に基づき、完全放電曲線又は完全充電曲線上の電圧値と、第2時点における前記蓄電素子の電圧値との差分(ヒステリシス電圧)が求められる。切り替わりの方向に基づいて選択される完全放電曲線又は完全充電曲線を基準SOC-OCV特性とし、基準SOC-OCV特性にヒステリシス電圧を加味することで、基準SOC-OCV特性からの乖離を反映した電圧値を推定できる。
【0018】
電圧推定方法は、前記OCVプロファイルに沿って複数の前記SOC又は充電電気量に対応して設定される、前記OCVプロファイルにおける傾きを示す複数の第1係数を用いて、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定してもよい。
【0019】
上記構成によれば、予め設定される複数の第1係数を用いて、第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する。第1係数は、OCVプロファイルの傾き、すなわちSOC変化に対する微小時間後の電圧値変化を示す。第1係数を用いることで、OCVプロファイルに沿った電圧値変化を加味した電圧値を推定することができる。第1係数は、OCVプロファイルにおける複数のSOC又は充電電気量に応じて複数設定されるため、非線形に変化するOCVプロファイルを好適に模擬することができ、電圧値の推定精度が向上する。
【0020】
前記切り替わりの方向に基づいて選択される完全放電曲線又は完全充電曲線上の電圧値と、前記第1時点における前記蓄電素子の電圧値との差分よりも、前記第2時点におけるそれが小さくなるように、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を算出してもよい。
この計算手法は、システムからの出力値と目標値との偏差をフィードバックしつつ出力値を目標値に漸近させていくフィードバック制御から着想を得たものである。
【0021】
上記構成によれば、計算により微小時間後の電圧値変化を求めることで、実験により求めた複数のOCVプロファイルを記憶しておく場合に比べて、ハードウェアコストを抑制でき、蓄電池システムへの実装が容易になる。
【0022】
電圧推定方法は、前記OCVプロファイルに沿って設定される、完全放電曲線又は完全充電曲線への接近の度合いを示す第2係数を用いて、前記第2時点における前記蓄電素子の電圧値を算出してもよい。
ここで「第2係数」は、蓄電素子の電圧値と完全放電曲線上又は完全充電曲線上の電圧値との差分に乗じられて、微小時間後の電圧値変化を求めるために用いられてもよい。この係数は、フィードバック制御におけるゲインパラメータのような役割を果たす。
【0023】
上記構成によれば、第2係数を用いることにより、OCVプロファイルに沿って蓄電素子の電圧値が完全放電曲線又は完全充電曲線に接近するよう、蓄電素子の電圧値を好適に制御し、第2時点における蓄電素子の電圧値を適正に推定できる。
【0024】
電圧推定方法は、前記OCVプロファイルに沿うように、複数の前記SOC又は充電電気量に対応して、複数の前記第2係数が設定されてもよい。
【0025】
完全放電曲線及び完全充電曲線は、部分的に直線であることはあっても、全体としては傾きの異なる複数の線分からなる曲線である。そうした曲線に接近ないし漸近するOCVプロファイルも、全体としては傾きの異なる複数の線分からなる曲線であることが望ましい。
第1時点で選択されたOCVプロファイルは、再び切り替わりが無ければ、微小時間後も使われ続ける。OCVプロファイルは、完全放電曲線又は完全充電曲線に向けて、直線的に近づくのではなく、その後の充電又は放電によるSOC変化(充電電気量変化)に伴って曲線的に近づく。
【0026】
例として、正極にリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を含む活物質を用い、負極にグラファイトを含む活物質を用いた、いわゆる鉄系リチウムイオン電池(LFP電池)について説明する。LFP電池は、完全放電曲線及び完全充電曲線それぞれが、SOCの変化に応じOCVが比較的大きく変化する変化領域と、SOCが変化してもOCVがほとんど変化しないプラトー領域とを有している。
本発明者は、LFP電池におけるOCVプロファイルは、プラトー領域では完全放電曲線又は完全充電曲線にそれほど接近せず、OCVプロファイルと完全放電曲線又は完全充電曲線とがほぼ平行に延びることを見出した。
【0027】
上記計算手法のように、単一の第2係数(直線を示す)を用いる代わりに、OCVプロファイルに沿って複数のSOC又は充電電気量に対応して設定された、完全放電曲線又は完全充電曲線への接近の度合いを示す複数の第2係数を用いることで、第2時点における蓄電素子の電圧値をより適正に推定できる。
【0028】
蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得する取得部と、前記取得部が取得したSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する推定部とを備える。
【0029】
電圧推定プログラムは、蓄電素子の充電と放電とが切り替わる第1時点における前記蓄電素子のSOC又は充電電気量と、切り替わりの方向とを取得し、取得した前記SOC又は充電電気量と、前記切り替わりの方向とに基づいて選択されるOCVプロファイルに沿って、前記第1時点よりも後の第2時点における前記蓄電素子の電圧値を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【0030】
以下、本開示をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。実施の形態に係る蓄電素子は、SOC-OCV特性に充放電履歴によるヒステリシスを有する活物質を含む。
【0031】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る推定装置が搭載される蓄電装置1の構成例を示す斜視図、
図2は蓄電装置1の構成例を示す分解斜視図である。蓄電装置1は、例えばエンジン車両や、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、又はプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等に好適に搭載される、12V電源や48V電源である。蓄電装置1は、12V電源や48V電源といったいわゆる低電圧用途のものにかぎらず、車両駆動用電源や定置用電源といったいわゆる高電圧用途のものであってもよい。
【0032】
蓄電装置1は、推定装置2、複数の蓄電素子3からなる組電池30を収容する直方体状の収容ケース4aを有する。推定装置2は、例えば電池管理ユニット(BMU:Battery Management Unit )である。蓄電素子3は、リチウムイオン二次電池等の電池セルである。収容ケース4aには、複数のバスバー5、電流センサ7(
図5参照)なども収容される。
図1及び
図2では、4個の蓄電素子3を直列接続して構成した1個の組電池30が収容ケース4aに収容されている。
【0033】
収容ケース4aは合成樹脂製である。収容ケース4aは、ケース本体41と、ケース本体41の開口部を閉塞する蓋部42と、蓋部42の外面に設けられた収容部43と、収容部43を覆うカバー44と、中蓋45と、仕切り板46とを備える。中蓋45や仕切り板46は、設けられなくてもよい。ケース本体41の各仕切り板46の間に、蓄電素子3が挿入されている。
【0034】
中蓋45には、複数の金属製のバスバー5が載置されている。蓄電素子3の端子32が設けられている端子面付近に中蓋45が配置されて、隣り合う蓄電素子3の隣り合う端子32がバスバー5により接続され、蓄電素子3が直列に接続されている。
【0035】
収容部43は、箱状をなし、平面視における一長側面の中央部に、外側に突出した突出部43aを有する。蓋部42における突出部43aの両側には、鉛合金等の金属製で、極性が異なる一対の外部端子6,6が設けられている。収容部43には、平板状の回路基板である推定装置2が収容されている。推定装置2は、図示しない導電体を介して蓄電素子3と接続されている。推定装置2は、複数の蓄電素子3の状態を管理し、蓄電装置1の各部を制御する。
【0036】
蓄電素子3は、中空直方体状のケース31と、ケース31の一側面(端子面)に設けられた、極性が異なる一対の端子32,32とを備える。ケース31には、正極33a、セパレータ33b、及び負極33cを積層してなる電極体33と、図示しない電解質(電解液)とが封入されている。
【0037】
電極体33は、シート状の正極33aと、負極33cとを、2枚のシート状のセパレータ33bを介して重ね合わせ、これらを巻回(縦巻き又は横巻き)することにより構成されている。セパレータ33bは、多孔性の樹脂フィルムにより形成される。多孔性の樹脂フィルムとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂フィルムを使用できる。
【0038】
正極33aは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等からなる長尺帯状の正極基材の表面に、正極活物質層が形成された電極板である。正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能であり、且つ充放電の推移に応じてSOC-OCV特性がヒステリシスを有するものであれば、適宜公知の材料を使用できる。正極活物質としては、例えば、LiFePO4、Li(Mn1-xFex)PO4、Li2MnSiO4等のオリビン型構造を有する正極活物質が挙げられる。正極活物質層は、導電助剤、バインダ等を更に含んでもよい。
【0039】
負極33cは、例えば銅又は銅合金等からなる長尺帯状の負極基材の表面に、負極活物質層が形成された電極板である。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料であれば、適宜公知の材料を使用できる。負極活物質としては、例えば黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。負極活物質層は、バインダ、増粘剤等を更に含んでもよい。
【0040】
ケース31に封入される電解質は、従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用できる。例えば、電解質として、有機溶媒中に支持塩を含有させた電解質を使用できる。有機溶媒として、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒が用いられる。支持塩として、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩が好適に用いられる。電解質は、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0041】
上記では正極活物質にヒステリシスを有する材料を含む蓄電素子3の例を説明した。代替的に、蓄電素子3は、負極活物質にヒステリシスを有する材料を含んでもよい。ヒステリシスを有する負極活物質としては、例えばSi(ケイ素)系材料が挙げられる。
【0042】
図1及び
図2では、蓄電素子3の一例として、巻回型の電極体33を備える角型のリチウムイオン電池について説明した。代替的に、蓄電素子3は、円筒型リチウムイオン電池であってもよい。蓄電素子3は、積層型電極体を備えるリチウムイオン電池であってもよく、ラミネート型(パウチ型)リチウムイオン電池等であってもよい。更に、蓄電素子3は、固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池であってもよい。
【0043】
図3は、推定装置2の構成例を示すブロック図である。推定装置2は、蓄電素子3の電圧値及び蓄電素子3に流れる電流値を含む計測データを取得し、取得した計測データに基づき、蓄電素子3におけるヒステリシスを加味したOCVに相当する電圧値(以下、ヒステリシスOCVともいう)をリアルタイムで推定する。推定装置2を備える蓄電装置1は、車両ECU(Electronic Control Unit )8や、エンジン始動用のスターターモータ及び電装品等の負荷9に接続されている。推定装置2は、制御部21、記憶部22、電圧計測部23、入力部24、出力部25等を備える。
【0044】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える演算回路である。制御部21が備えるCPUは、ROMや記憶部22に格納された各種コンピュータプログラムを実行し、上述したハードウェア各部の動作を制御することによって、装置全体を本開示の推定装置として機能させる。制御部21は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0045】
記憶部22は、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置である。記憶部22には各種のコンピュータプログラム及びデータが記憶される。記憶部22に記憶されるコンピュータプログラムには、蓄電装置1の電圧値を推定するための電圧推定プログラム221が含まれる。記憶部22に記憶されるデータには、電圧推定プログラム221において用いられる推定データ222が含まれる。
【0046】
記憶部22に記憶されるコンピュータプログラムは、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供されてもよい。記録媒体Mは、CD-ROM、USBメモリ、SD(Secure Digital)カード等の可搬型メモリである。制御部21は、図示しない読取装置を用いて、記録媒体Mから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部22に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。
【0047】
電圧計測部23は、電圧検知線を介して蓄電素子3の両端に夫々接続されている。電圧計測部23は、各蓄電素子3の電圧値を所定時間間隔で計測することにより、各蓄電素子3の電圧や組電池の総電圧を取得する。制御部21は、電圧計測部23を通じて電圧値を取得する。
【0048】
入力部24は、電流センサ7を接続するためのインタフェースを備える。入力部24は、電流センサ7が所定時間間隔で計測した電流に関する信号を受け付ける。制御部21は、入力部24を通じて電流値を取得する。
【0049】
入力部24には更に、熱電対、サーミスタ等の温度センサが接続されてもよい。制御部21は、入力部24を通じて、温度センサにより計測された蓄電素子3ないし蓄電装置1の温度データを取得する。
【0050】
出力部25は、表示装置10を接続するためのインタフェースを備える。表示装置10の一例は、液晶ディスプレイ装置である。制御部21は、蓄電素子3の電圧値の推定結果が得られた場合、推定結果に基づく情報を出力部25から表示装置10へ出力する。表示装置10は、出力部25から出力される情報に基づき推定結果を表示する。
【0051】
代替的に、出力部25は、外部装置と通信する通信インタフェースを備えてもよい。出力部25に通信可能に接続される外部装置は、ユーザや管理者等が使用するパーソナルコンピュータ、スマートフォンなどの端末装置である。制御部21は、蓄電素子3におけるヒステリシスOCVの推定結果が得られた場合、推定結果に基づく情報を出力部25から端末装置へ送信する。端末装置は、出力部25より送信される情報を受信し、受信した情報に基づき自装置のディスプレイに推定結果を表示させる。推定装置2は、蓄電素子3におけるヒステリシスOCVの推定結果をユーザに報知するために、LEDランプやブザー等の報知部を備えてもよい。
【0052】
図4は、推定データ222に記憶される情報の内容例を示す概念図である。推定データ222は、蓄電素子3におけるヒステリシスOCVの推定処理に用いる情報を記憶している。推定データ222は、例えば充放電履歴データ、SOC-OCV特性及び傾きテーブルを含む。
【0053】
充放電履歴データは、電流センサ7により計測された電流値及び電圧計測部23により計測された電圧値を含む計測データを時系列順で記憶する。制御部21は、蓄電素子3の電流値及び電圧値を含む計測データを取得し、取得した計測データに基づく情報を充放電履歴データに格納する。このようにして、蓄電素子3の計測データの経時データを含む充放電履歴が蓄積される。SOC-OCV特性は、完全充電曲線及び完全放電曲線を含む。SOC-OCV特性は、関数式として格納されてもよい。
【0054】
傾きテーブルは、OCVプロファイルにおける所定区間毎の傾きを示すパラメータ(第1係数)である傾きKを格納する。傾きKは、SOC(通電電気量)の変化量に対するヒステリシスOCVの変化量の比を意味する。
図4の例において傾きテーブルは、放電時に参照すべきテーブルと、充電時に参照すべきテーブルとを記憶している。傾きテーブルには、SOCと、放電開始SOC又は充電開始SOC毎の傾きKとが関連付けて格納されている。傾きKは、SOCの所定間隔毎に、複数の切り替わりSOCに応じて複数記憶されている。代替的に、傾きKは、充電電気量の変化量に対するヒステリシスOCVの変化量であってもよい。
図4に示す傾きテーブルは、単に一例であり、この例に限定はされない。
【0055】
SOC-OCV特性及び傾きテーブルは、蓄電素子3の劣化を考慮し、所定の時間間隔で更新してもよい。制御部21は、例えば不図示の外部装置と通信することにより、予めSOC-OCV特性及び傾きテーブルを取得し、取得したSOC-OCV特性及び傾きテーブルを推定データ222に記憶する。
【0056】
図1~
図3は、推定装置2がBMUである例を示す。代替的に、推定装置2は、BMUと通信可能なセル監視ユニット(CMU:Cell Monitoring Unit)を含んでもよい。CMUのみが、
図2に示すように複数の蓄電素子3の付近に配置され、BMUは蓄電素子3から離れた場所に配置されてもよい。推定装置2は、CMU及び/又はBMUに加えて、蓄電素子3から離れた場所にあって、CMU又はBMUと通信接続されるサーバ装置や、ECUを含んでもよい。ヒステリシスOCVの推定を行う場所は限定されず、例えばサーバ装置やECUで行ってもよい。
【0057】
図1~
図3は、蓄電装置1として、リチウムイオン二次電池である蓄電素子3を備える車載用の低電圧電源を示す。代替的に、蓄電装置1は、定置用でもよく、具体的には、鉄道用回生電力貯蔵装置であってもよいし、太陽光発電システム等に併設される蓄電モジュールであってもよい。蓄電素子3は、ヒステリシス特性を有する他の二次電池や電気化学セルであってもよい。
【0058】
ここで、ヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子3のSOC-OCV特性及びOCVプロファイルについて、LFP電池(蓄電素子3)を例に挙げて詳しく説明する。
【0059】
図5は、LFP電池の放電時におけるSOC-OCVプロファイルを、放電開始SOC毎に示すグラフである。
図5の横軸はSOC(%)、縦軸はOCV(V)である。
図5中の曲線Cは、SOC0~100%の充電時のSOC-OCV特性(完全充電曲線)を示す。曲線Dは、SOC100~0%の放電時のSOC-OCV特性(完全放電曲線)を示す。曲線D1は、放電開始SOCが90%である場合の測定点を繋いだものである。ここで、放電開始SOCとは、蓄電素子3が充電された後に放電に切り替わった時点のSOCをいう。すなわち、曲線D1は、SOC90~0%の放電時のOCVプロファイルである。同様に、曲線D2、D3、D4、D5、D6、D7、D8はそれぞれ、放電開始SOCがそれぞれ70%、60%、40%、30%、20%、10%及び5%である場合の、放電時のOCVプロファイルである。
【0060】
図5から明らかなように、完全充電曲線(曲線C)と完全放電曲線(曲線D)とは異なり、曲線C及び曲線Dにおいて、同一SOCに対するOCVの差がある(ヒステリシスが存在する)。曲線C及び曲線Dはいずれも、単純な直線ではなく、傾き(変化量)の異なる複数の線分からなる曲線である。
【0061】
曲線C及び曲線Dの間に存在する各OCVプロファイルにおいて、測定点間の傾きはそれぞれ異なることから、各OCVプロファイルも曲線C及び曲線Dと同様に、傾きの異なる複数の線分からなる曲線であるといえる。また各OCVプロファイルは、その放電開始SOCに応じて異なるが、全ての放電開始SOCにおいて、放電の進行によるSOCの低下に伴い、曲線的に完全放電曲線(曲線D)に接近する。
【0062】
図6は、LFP電池の充電時におけるSOC-OCVプロファイルを、充電開始SOC毎に示すグラフである。
図6の横軸はSOC(%)、縦軸はOCV(V)である。
図6中の曲線C及び曲線Dはそれぞれ、完全充電曲線及び完全放電曲線を示す。曲線C1は、充電開始SOCが90%である場合の測定点を繋いだものである。ここで、充電開始SOCとは、蓄電素子3が放電された後に充電に切り替わった時点のSOCをいう。すなわち、曲線C1は、SOC90~100%の充電時のOCVプロファイルである。同様に、曲線C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8はそれぞれ、放電開始SOCがそれぞれ70%、60%、40%、30%、20%、10%及び5%である場合の、充電時のOCVプロファイルである。
【0063】
図6から明らかなように、放電時と同様、曲線C及び曲線Dの間に存在する各OCVプロファイルにおいて、測定点間の傾きはそれぞれ異なることから、充電時の各OCVプロファイルも傾きの異なる複数の線分からなる曲線であるといえる。また各OCVプロファイルは、その充電開始SOCに応じて異なるが、全ての充電開始SOCにおいて、充電の進行によるSOCの増加に伴い、曲線的に完全充電曲線(曲線C)に接近する。
【0064】
以上のように、完全充電曲線及び完全放電曲線の間には、切り替わりSOCに応じてプロファイルの異なる複数のOCVプロファイルが存在する。各OCVプロファイルはいずれも、充放電の進行に伴い、充放電履歴に応じたSOC-OCV特性(完全充電曲線又は完全放電曲線)に接近する。蓄電素子3の充放電履歴における切り替わり方向と、切り替わりSOCとを取得することで、微小時間後の電圧変化を推定するためのOCVプロファイルが一意に定まる。充放電履歴に応じたOCVプロファイルを使用することで、所定時点のヒステリシスOCVに対する微小時間後のヒステリシスOCVの変化量が推定できる。従って、ヒステリシスOCVの推定時点よりも前の所定時点におけるヒステリシスOCVと、所定時点から推定時点までのSOCの変化量とが既知であれば、OCVプロファイルを用いて求めたヒステリシスOCVの変化量から、推定時点におけるヒステリシスOCVを推定することができる。
【0065】
図7は、OCVプロファイルの傾きの概念を示す概念図である。本実施形態では、予め実験等により各OCVプロファイルの傾きKを求め、求めた傾きKを推定データ222の傾きテーブルに記憶しておく。傾きKは、SOCの所定間隔毎に、切り替わりSOC及び切り替わりの方向に応じて複数設定される。
図7に示すように、OCVプロファイルのSOCに応じて、複数の傾きKが設定される。
【0066】
例えば切り替わりの方向が充電から放電の場合、プラトー領域から変化領域に入ったところでは、完全放電曲線の変化が大きく、OCVプロファイルと完全放電曲線の間隔が開く(実験により、実際にこうなることが確認されている)。傾きKは、このような傾向を模擬できるよう設定されている。推定装置2は、蓄電素子3の充放電履歴に応じた傾きKを用いて、各時点におけるヒステリシスOCVを精度よく推定する。
【0067】
図8及び
図9は、ヒステリシスOCVの推定方法を説明する説明図である。以下、本実施形態におけるヒステリシスOCVの推定方法について、
図8を用いて具体的に説明する。
【0068】
図8は、切り替わりの方向が充電から放電であり、且つ切り替えSOC(放電開始SOC)が60%である場合の、推定時点tにおけるヒステリシスOCVの推定方法の例を説明する図である。推定時点t(第2時点)とは、通電方向が切り替わった時点(第1時点)よりも後の時点であり、且つ再び通電方向が切り替わるまでの間における任意の時点であってよい。以下では、ヒステリシスOCVをOCV
h、基準SOC-OCV特性(
図8の例では完全放電曲線)上にあるOCVをOCV
m、同一SOC値に対するOCV
hとOCV
mとの差分(ヒステリシス電圧)をΔOCVとする。
【0069】
図8の例において、ヒステリシスOCVの推定に使用する基準のSOC-OCV特性(基準SOC-OCV特性)は、切り替わり後の通電方向と同一の方向、すなわち放電側のSOC-OCV特性(完全放電曲線)である。
図8に示すように、OCV
h(t)は、完全放電曲線から得られるOCV
m(t)に、ΔOCV(t)を加算することで得られる。上述のように、切り替えSOCに応じたOCVプロファイルを選択することで、SOCの変化量に対するOCVの変化量が一意に定まるため、ΔOCV(t-1)に基づきΔOCV(t)を推定できる。
【0070】
例えばSOC(t)=59%であったとする。放電開始SOCが60%であり、且つ
図8中に示すように、傾きテーブルにSOC2%刻みで傾きKが記憶されている場合、SOC(t)が60%から58%に至るまでは、傾きK=0.0005を用いて、以下の式(1)によりΔOCV(t)を算出する。
ΔOCV(t)=ΔOCV(t-1)+K×ΔSOC(t)…(1)
すなわちK=0.0005の場合、ΔOCV(t)は以下の式(2)を用いて算出される。
ΔOCV(t)=ΔOCV(t-1)+0.0005×ΔSOC(t)…(2)
得られたΔOCV(t)から、推定時点tにおけるOCV
h(t)は以下の式(3)を用いて算出される。
OCV
h(t)=OCV
m(t)+ΔOCV(t)…(3)
【0071】
切り替わりの方向が放電から充電であった場合には、基準SOC-OCV特性を完全充電曲線とし、同様の手法により完全充電曲線とヒステリシスOCVとの差分を傾きKを用いて算出することで、ヒステリシスOCVが得られる。
【0072】
図9は、切り替わりの方向が充電から放電であり、且つ切り替えSOC(充電開始SOC)が60%である場合の、推定時点tにおけるヒステリシスOCVの推定方法の例を説明する図である。
図9の例において、ヒステリシスOCVの推定に使用する基準のSOC-OCV特性(基準SOC-OCV特性)は、充電側のSOC-OCV特性(完全充電曲線)である。
図9に示すように、OCV
h(t)は、完全充電曲線から得られるOCV
m(t)に、ΔOCV(t)を加算することで得られる。切り替わりの方向が充電から放電の場合に、ΔOCVは負の値となる。
【0073】
例えばSOC(t)=61%であったとする。充電開始SOCが60%であり、且つ
図9中に示すように、傾きテーブルにSOC2%刻みで傾きKが記憶されている場合、SOC(t)が60%から62%に至るまでは、傾きK=0.0024となる。傾きK=0.0024を用い、上記式(1)(3)により、推定時点tにおけるOCV
h(t)を算出する。
【0074】
図10は、ヒステリシスOCVの推定処理手順の一例を示すフローチャートである。推定装置2の制御部21は、電圧推定プログラム221に従って以下の処理を実行する。制御部21は、例えば所定の時間間隔で以下の処理を実行する。
【0075】
制御部21は、電圧計測部23及び入力部24を通じて、推定時点tにおける蓄電素子3の電圧値及び電流値を含む計測データを取得し、推定データ222の充放電履歴データに記憶する(ステップS11)。電流値は、例えば充電の場合には正の値であり、充電の場合には負の値となる。推定装置2が遠隔地に設置される場合、制御部21は、図示しない通信部を介した通信によって、蓄電素子3の計測データを受信する。
【0076】
制御部21は、取得した推定時点tにおける電流値に基づき、蓄電素子3が通電しているか否かを判定する(ステップS12)。電流値が閾値未満ないしゼロであることにより通電していないと判定した場合(ステップS12:NO)、制御部21は処理を終了する。代替的に、制御部21は処理をステップS12に戻し、通電するまで待機するものであってもよい。
【0077】
電流値がゼロでないことにより通電していると判定した場合(ステップS12:YES)、制御部21は、電流値の符号に基づき、蓄電素子3の通電方向を取得する(ステップS13)。
【0078】
制御部21は、推定時点tよりも前の基準時点t-1におけるOCVh(t-1)を取得する(ステップS14)。基準時点t-1は、例えば推定時点tと時系列的に直近する時点であってよい。OCVh(t-1)は、例えば基準時点t-1における計測データに基づき本推定手法を適用して求めることができる。代替的に、基準時点t-1が蓄電素子3の非通電時(例えば蓄電素子3を搭載する車両の停止時)であった場合、その時の蓄電素子の電圧値OCVh(t-1)はSOC-OCV特性上にあると推定できる。制御部21は、SOC-OCV特性を参照しSOC(t-1)に対応するOCVm(t-1)をOCVh(t-1)と特定してもよいし、その時の端子電圧を近似的にOCVとみなしてOCVh(t-1)と特定してもよい。
【0079】
制御部21は、充放電履歴データに基づき、推定時点tにおけるSOC(t)と、基準時点t-1から推定時点tまでの蓄電素子3におけるSOCの変化量ΔSOC(t)とを取得する(ステップS15)。SOC(t)の算出方法は限定されるものではない。一例として、SOC(t)は電流積算、拡張カルマンフィルタ等の公知の手法により算出できる。代替的に、制御部21は充電電気量を算出してもよい。
【0080】
制御部21は、蓄電素子3の通電方向が切り替わったか否かを判定する(ステップS16)。具体的には、制御部21は、推定時点tにおける電流値と、直近の通電電流値とを乗算した乗算値の正負を判定することにより、通電方向の切り替わりの有無を判定する。乗算値が正であることにより通電方向が切り替わっていないと判定した場合(ステップS16:NO)、制御部21は、ステップS13で取得した通電方向に対応する基準SOC-OCV特性を取得し(ステップS17)、ステップS20に処理を進める。具体的には、制御部21は、通電方向に基づき、通電方向に対応する基準SOC-OCV特性を選択する。制御部21は、推定データ222を参照し、選択した基準SOC-OCV特性を読み出す。代替的に、制御部21は、基準時点t-1において取得したSOC-OCV特性を継続的に用いてよい。
【0081】
乗算値が負であることにより通電方向が切り替わったと判定した場合(ステップS16:YES)、制御部21は、通電方向の切り替わり時点におけるSOC(切り替わりSOC)を取得する(ステップS18)。切り替わり時点がt-1の場合、切り替わりSOCはSOC(t-1)である。切り替わりSOCは、例えば電流積算、拡張カルマンフィルタ等の公知の手法により算出してよい。通電方向が切り替わった場合、ステップS13で取得した通電方向は切り替わり後の方向となる。例えば切り替わり後の方向が放電の場合、切り替わりの方向は充電から放電であり、切り替わりSOCは放電開始SOCとなる。
【0082】
制御部21は、切り替わりの方向に基づき、OCV推定に用いる基準SOC-OCV特性を切り替える(ステップS19)。具体的には、制御部21は、ステップS13で取得した切り替わり後の通電方向に基づき、切り替わり後の通電方向に対応する基準SOC-OCV特性を選択する。制御部21は、推定データ222を参照し、選択した基準SOC-OCV特性を読み出すことにより、基準SOC-OCV特性を切り替える。制御部21は、例えば切り替わりの方向が放電から充電の場合、基準SOC-OCV特性を、充電側のSOC-OCV特性(完全充電曲線)から放電側のSOC-OCV特性(完全放電曲線)に切り替える。
【0083】
制御部21は、基準SOC-OCV特性に基づき、基準時点t-1におけるΔOCV(t-1)を取得する(ステップS20)。具体的には、制御部21は、取得した基準SOC-OCV特性(例えば完全放電曲線)に基づき、該基準SOC-OCV特性において、基準時点t-1におけるSOC(t-1)に対応するOCVm(t-1)を読み取る。制御部21は、読み取ったOCVm(t-1)と、ステップS14で取得したOCVh(t-1)との差分を算出することによりΔOCV(t-1)を取得する。SOC(t-1)は、例えば電流積算、拡張カルマンフィルタ等の公知の手法により算出してよい。
【0084】
制御部21は、ΔOCVの算出に用いるOCVプロファイルの傾きKを取得する(ステップS21)。具体的には、制御部21は、推定データ222の傾きテーブルを参照して、放電開始SOC及び推定時点tにおけるSOC(t)に応じた傾きKを読み出すことにより、傾きKを取得する。SOC(t)と、所定のSOC間隔で傾きKを記憶する傾きテーブルのSOCとが一致しない場合、制御部21は、SOC(t)が含まれるSOC区間に相当する傾きKを傾きテーブルから取得してもよく、傾きテーブルに基づく内挿計算によって傾きKを算出してもよい。
【0085】
制御部21は、取得したΔOCV(t-1)、ΔSOC(t)及び傾きKを上述の式(1)に代入し、当該式(1)の演算処理を実行することにより、推定時点tにおけるΔOCV(t)を算出する(ステップS22)。
【0086】
制御部21は、算出したΔOCV(t)と、基準SOC-OCV特性により特定されるOCVm(t)とに基づき、推定時点tにおけるOCVh(t)を取得し、取得したOCVh(t)を記憶部22に記憶する(ステップS23)。具体的には、制御部21は、基準SOC-OCV特性に基づき、該基準SOC-OCV特性において、推定時点tにおけるSOC(t)に対応するOCVm(t)を読み取る。制御部21は、読み取ったOCVm(t)と、算出したΔOCV(t)とを上述の式(3)に代入し、当該式(3)の演算処理を実行することにより、OCVh(t)を算出する。得られたOCVh(t)は、ヒステリシスを加味した推定時点tにおけるOCVに相当する電圧値である。
【0087】
制御部21は、ヒステリシスOCVの推定結果に基づく情報を表示装置10等に出力し(ステップS24)、一連の処理を終了する。代替的に、制御部21は、処理をステップS11に戻しループ処理を実行してもよい。
【0088】
上術の処理において、制御部21は、推定したOCVhとOCVmとがほぼ一致した場合、本手法によるOCVhの推定を一時的に中断してもよい。OCVプロファイルは、放電又は充電の進行に伴い基準SOC-OCV特性に接近する。通電方向の切り替わり後、本手法による推定を継続すると、OCVhとOCVmとがほぼ一致する場合がある。制御部21は、例えばOCVhとOCVmとの差分、又はΔOCVが所定値未満であるか否かを判定する。所定値未満であると判定した場合、制御部21は、判定時点以降、通電方向の切り替わりを検知するまで、OCVmをOCVhと推定する。これにより制御部21の演算負荷を低減できる。
【0089】
上述の処理において、制御部21は、検出データを取得する都度、その時点のヒステリシスOCVを推定してもよく、一定期間の検出データを記憶部22に記憶させた後、記憶部22から順次計測データを読み出して各時点のヒステリシスOCVを推定してもよい。制御部21は、所定のSOC間隔毎にヒステリシスOCVを推定してもよい。
【0090】
上記では、通電電気量としてSOCを用いる例を説明した。代替的に、推定装置2は通電電気量として充電電気量(Ah)を用いてヒステリシスOCVを推定してもよい。
【0091】
上記では、推定装置2の制御部21がSOCを算出する構成とした。代替的に、制御部21は、他のSOC算出装置により算出されたSOCを取得してよい。
【0092】
本実施形態によれば、ヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子3の充電及び/又は放電の最中において、蓄電素子3のOCVに相当する電圧値を高精度に推定できる。予め記憶する傾きKを用いて、基準となるSOC-OCV特性との乖離を示すΔOCVを算出することで、全てのSOC範囲において、任意の推定時点におけるOCVに相当する電圧値を精度よく推定する。蓄電素子3の充放電履歴に応じて、使用する基準SOC-OCV特性及び傾きKを変化させることで、OCVプロファイルの非線形変化を好適に反映したヒステリシスOCVを推定できる。さらに、リアルタイムで推定した電圧値を用いてSOF等を高精度に推定することが可能となる。
【0093】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第2係数を用いた計算手法によりOCVに相当する電圧値を推定する。以下では主に第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。第2実施形態における推定装置2は、記憶部22の推定データ222に制御パラメータ(第2係数)Kp、Ki及びKdを記憶している。
【0094】
図11は、第2実施形態におけるヒステリシスOCVの推定方法を説明する説明図である。本発明者は、ヒステリシスが存在する場合のOCVプロファイルが放電又は充電の進行に伴い、完全放電曲線又は完全充電曲線(基準SOC-OCV特性)に接近する点に着目した。同一SOCに対する基準SOC-OCV特性上のOCVと、ヒステリシスOCVとの差分(ΔOCV)をフィードバック制御における偏差ととらえることで、ヒステリシスOCVを推定できるとの発想を得た。
【0095】
フィードバック制御の一例であるPID(Proportional-Integral-Differential)制御とは、比例項P、積分項I及び微分項Dからなる3つの要素によって出力値を制御する制御方法である。比例項Pは、その時点における目標値から出力値を差し引いて得られる偏差に所定の比例ゲインKpを乗じて得られる。積分項Iは、その時点までの偏差を積分して得られる積分値に所定の積分ゲインKiを乗じて得られる。微分項Dは、その時点における偏差を微分して得られる微分値に所定の微分ゲインKdを乗じて得られる。これらの比例ゲインKp、積分ゲインKi及び微分ゲインKdが、PID制御の制御パラメータに相当する。
【0096】
本実施形態では、ヒステリシスOCVを出力値、基準SOC-OCV特性上のOCVを目標値、これらの差分(ΔOCV)を偏差とし、ヒステリシスOCVを基準SOC-OCV特性上のOCVに近づくようフィードバック制御する。すなわち、第1時点における偏差よりも、第1時点よりも後の第2時点における偏差が小さくなるようヒステリシスOCVを制御する。
【0097】
推定時点tのSOC(t)に対応するヒステリシスOCVをOCVh(t)、推定時点tのSOC(t)に対応する基準SOC-OCV特性上のOCVをOCVm(t)、ヒステリシスOCVと基準SOC-OCV特性上のOCVとの差分をΔOCV(t)とすると、これらの間には、以下の式(4)に示す関係式が成立する。
OCVh(t)=OCVm(t)+ΔOCV(t)…(4)
ΔOCV(t)は(Kp×偏差)+(Ki×偏差の累積値)+(Kd×前回偏差との差)、Kp、Ki及びKdは制御パラメータ(第2係数)、偏差はOCVm(t-1)-OCVh(t-1)である。
【0098】
上記より、制御パラメータKp、Ki及びKdを予め設定することで、ヒステリシスOCVを計算により容易に算出するこができる。Kp、Ki及びKdは、OCVプロファイルに沿うように、切り替わりSOC及び切り替わり方向に応じて複数設定されてよい。
【0099】
Kp、Ki及びKdの設定方法は限定されるものではないが、例えば実験等により得られた切り替わりSOC毎のOCVデータと、計算によるヒステリシスOCVとが一致するよう設定してよい。代替的に、最小二乗法等の手法によりKp、Ki及びKdそれぞれを決定してもよい。Kp、Ki及びKdは、基準SOC-OCV特性の勾配が大きいときはΔOCVが大きく、基準SOC-OCV特性の勾配が小さいときはΔOCVが小さくなるよう設定されることが好ましい。制御部21は、例えば不図示の外部装置と通信することにより、予め制御パラメータKp、Ki及びKdを取得し、取得した制御パラメータKp、Ki及びKdを推定データ222に記憶する。
【0100】
上記では、Kp、Ki及びKdの3つからなる制御パラメータを用いて制御する例を説明した。代替的に、制御パラメータは、Kp、Ki及びKdから選択される1つ又は2つであってもよい。OCVhは、例えば比例項Pのみにより制御されてもよく、比例項Pと、積分項I及び/又は微分項Dとにより制御されてもよい。
【0101】
Kp、Ki及びKdは、切り替わりSOCに依存せず、全ての切り替わりSOCに共通のパラメータとして設定されてもよい。Kp、Ki及びKdは、切り替わり方向に依存せず、放電時及び充電時に共通のパラメータとして設定されてもよい。
【0102】
Kp、Ki及びKdは、基準SOC-OCV特性のプロファイルに応じて、同一の切り替わりSOCに対し複数設定されてもよい。例えば、基準SOC-OCV特性の形状(勾配の大きさ)に応じて、基準SOC-OCV特性を高勾配領域及び低勾配領域に区分する。高勾配領域におけるΔOCVの算出に使用するKp1、Ki1及びKd1と、低勾配領域におけるΔOCVの算出に使用するKp2、Ki2及びKd2が設定されてもよい。
【0103】
制御ヒステリシスOCVが基準SOC-OCV特性上のOCVに近づくように、基準SOC-OCV特性上のOCVと、ヒステリシスOCVとの差分(ΔOCV)を、制御パラメータ(第2係数)を用いてフィードバック制御するものであれば、その手法は限定されない。
【0104】
図12は、第2実施形態におけるヒステリシスOCVの推定処理手順の一例を示すフローチャートである。推定装置2の制御部21は、電圧推定プログラム221に従って以下の処理を実行する。制御部21は、例えば所定の時間間隔で以下の処理を実行する。代替的に、制御部21は、例えば所定のSOC間隔で以下の処理を実行してもよい。
【0105】
制御部21は、電圧計測部23及び入力部24を通じて、推定時点tにおける蓄電素子3の電圧値及び電流値を含む計測データを取得し、推定データ222の充放電履歴データに記憶する(ステップS31)。
【0106】
制御部21は、取得した推定時点tにおける電流値に基づき、蓄電素子3が通電しているか否かを判定する(ステップS32)。電流値が閾値未満ないしゼロであることにより通電していないと判定した場合(ステップS32:NO)、制御部21は処理を終了する。代替的に、制御部21は処理をステップS32に戻し、通電するまで待機するものであってもよい。
【0107】
電流値がゼロでないことにより通電していると判定した場合(ステップS32:YES)、制御部21は、電流値の符号に基づき、蓄電素子3の通電方向を取得する(ステップS33)。
【0108】
制御部21は、充放電履歴データに基づき、例えば電流積算、拡張カルマンフィルタ等の手法により、推定時点tにおけるSOC(t)を取得する(ステップS34)。
【0109】
制御部21は、蓄電素子3の通電方向が切り替わったか否かを判定する(ステップS35)。通電方向が切り替わっていないと判定した場合(ステップS35:NO)、制御部21は、推定データ222を参照し、ステップS33で取得した通電方向に対応する基準SOC-OCV特性を取得し(ステップS36)、ステップS39に処理を進める。
【0110】
通電方向が切り替わったと判定した場合(ステップS35:YES)、制御部21は、通電方向の切り替わり時点におけるSOC(切り替わりSOC)を取得する(ステップS37)。切り替わり時点がt-1の場合、切り替わりSOCはSOC(t-1)である。制御部21は、切り替わりの方向に基づき、OCV推定に用いる基準SOC-OCV特性を切り替える(ステップS38)。
【0111】
制御部21は、基準SOC-OCV特性に基づき、該基準SOC-OCV特性において、ステップS34で取得したSOC(t)に対応するOCVm(t)を読み取ることにより、SOC(t)に対応するOCVm(t)を取得する(ステップS39)。
【0112】
制御部21は、ΔOCVの算出に用いる制御パラメータKp、Ki及びKdを取得する(ステップS40)。具体的には、制御部21は、推定データ222を参照して、切り替わりSOC及び推定時点tにおけるSOC(t)に応じた制御パラメータKp、Ki及びKdを読み出すことにより、制御パラメータKp、Ki及びKdを取得する。
【0113】
制御部21は、取得した制御パラメータKp、Ki及びKdに基づき、ΔOCV(t)を算出する(ステップS41)。具体的には、制御部21は、例えば直近の時点t-1におけるOCVh(t-1)及びOCVm(t-1)を用いて、偏差を更新する。制御部21は、更新した偏差と、取得した制御パラメータKp、Ki及びKdとを用いて、ΔOCV(t)を算出する。
【0114】
制御部21は、算出したΔOCV(t)及びOCVm(t)に基づき、推定時点tにおけるOCVh(t)を取得し、取得したOCVh(t)を記憶部22に記憶する(ステップS42)。具体的には、制御部21は、基準SOC-OCV特性に基づき、該基準SOC-OCV特性において、推定時点tにおけるSOC(t)に対応するOCVm(t)を読み取る。制御部21は、読み取ったOCVm(t)と、算出したΔOCV(t)とを上述の式(4)に代入し、当該式(4)の演算処理を実行することにより、OCVh(t)を算出する。
【0115】
制御部21は、ヒステリシスOCVの推定結果に基づく情報を表示装置10等に出力し(ステップS43)、一連の処理を終了する。
【0116】
本実施形態によれば、完全放電曲線及び完全充電曲線と、予め設定される係数とを用いてより容易にヒステリシスOCVを算出できる。係数を記憶しておくことは、実験により求めた複数のOCVプロファイルを記憶しておく場合に比べて、ハードウェアコストを抑制でき、蓄電装置1への実装が容易になる。
【0117】
上記の各実施形態に示した例は、各実施形態に示した構成の全部又は一部を組み合わせて他の実施の形態を実現することが可能である。また上記の各実施形態に示したシーケンスは限定されるものではなく、各処理手順はその順序を変更して実行されてもよく、また並行して複数の処理が実行されてもよい。
【0118】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 蓄電装置
2 推定装置
21 制御部
22 記憶部
23 電圧計測部
24 入力部
25出力部
221 電圧推定プログラム
222 推定データ
M 記録媒体
3 蓄電素子