(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164354
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】樹脂成形品の射出成形方法及び射出成形金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/44 20060101AFI20221020BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20221020BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B29C33/44
B29C45/26
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069793
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109680
【氏名又は名称】デック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】近兼 裕也
(72)【発明者】
【氏名】大内 正広
(72)【発明者】
【氏名】畠山 一樹
(72)【発明者】
【氏名】後岡 賢悟
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AD03
4F202AD08
4F202AD24
4F202AH18
4F202CA11
4F202CB12
4F202CB16
4F202CQ01
4F202CQ03
4F202CQ07
4F206AD03
4F206AD08
4F206AD24
4F206AH18
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB15
4F206JM04
(57)【要約】
【課題】樹脂成形品におけるインサート部材の位置精度を高める。
【解決手段】可動型103に、柱状部105bを有する位置決めピン105を、可動型103の可動型側第2成形面103bから突出可能に設け、インサート部材15に、位置決め孔19aを形成し、可動型103にインサート部材15を載置し、位置決めピン105を、可動型103の可動型側第2成形面103bから突出させてインサート部材15の位置決め孔19aに挿入することで、位置決めピン105の柱状部105bをインサート部材15の位置決め孔19aに嵌合させ、かつ固定型101及び可動型103を型締めした準備状態で、キャビティC内への樹脂の射出を開始する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成形型(103)及び第2成形型(101)とインサート部材(15,23)との間に形成されるキャビティ(C)内へ樹脂(R)を射出充填することにより、上記インサート部材(15,23)がインサートされた樹脂成形品(3,21)を成形する射出成形方法であって、
上記第1成形型(103)には、柱状部(105b)を有する位置決めピン(105)が、当該第1成形型(103)の成形面(103b,103d)から突出可能に設けられ、
上記インサート部材(15,23)には、位置決め孔(19a,23b)が形成され、
上記第1成形型(103)及び上記第2成形型(101)のいずれかに上記インサート部材(15,23)を載置し、上記位置決めピン(105)を、上記第1成形型(103)の成形面(103b,103d)から突出させて上記インサート部材(15,23) の位置決め孔(19a,23b)に挿入することで、上記位置決めピン(105)の柱状部(105b)を上記インサート部材(15,23)の位置決め孔(19a,23b)に嵌合させ、かつ上記第1成形型(103)及び上記第2成形型(101)を型締めした準備状態で、上記キャビティ(C)内への樹脂(R)の射出を開始することを特徴とする樹脂成形品の射出成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品の射出成形方法であって、
上記位置決めピン(105)の突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部(105a)が上記柱状部(105b)と連続して形成されていることを特徴とする樹脂成形品の射出成形方法。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂成形品の射出成形方法であって、
上記準備状態で、上記位置決めピン(105)の先細り部(105a)と、上記第2成形型(101)の成形面(101b,101c)とが間隔(D)を空けていることを特徴とする樹脂成形品の射出成形方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂成形品の射出成形方法において、
上記位置決めピン(105)は、突出方向及び反突出方向に進退可能に設けられ、
上記キャビティ(C)内への樹脂(R)の射出を開始してから終了するまでの間に、上記位置決めピン(105)を、上記準備状態における位置から反突出方向に向けて所定の後退位置まで後退させ、上記位置決めピン(105)の後退により形成される空間部(S)にも上記樹脂(R)を充填することを特徴とする樹脂成形品の射出成形方法。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成形品の射出成形方法において、
上記位置決めピン(105)の突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部(105a)が上記柱状部(105b)と連続して形成され、
上記後退位置で、上記位置決めピン(105)の柱状部(105b)を上記インサート部材(15,23)の位置決め孔(23b)から離脱させるとともに、上記先細り部(105a)全体を上記第1成形型(103)の成形面(103b,103d)から突出させることを特徴とする樹脂成形品の射出成形方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂成形品の射出成形方法において、
上記位置決めピン(105)は、突出方向及び反突出方向に進退可能に設けられ、
上記樹脂成形品(3,21)には、凹部(11a,21a)が形成され、
上記樹脂成形品(3,21)の離型前に、上記位置決めピン(105)を、上記樹脂成形品(3,21)の凹部(11a,21a)に係合することで上記樹脂成形品(3,21)の離型を妨げる位置から、上記第1成形型(103)の成形面(103b,103d)から突出しない非突出位置に後退させることにより、上記樹脂成形品(3,21)を離型できるようにすることを特徴とする樹脂成形品の射出成形方法。
【請求項7】
第1成形型(103)及び第2成形型(101)を備え、上記第1成形型(103)及び上記第2成形型(101)とインサート部材(15,23)との間に形成されるキャビティ(C)内へ樹脂(R)を射出充填することにより、上記インサート部材(15,23)がインサートされた樹脂成形品(3,21)を成形する射出成形金型であって、
上記第1成形型(103)には、柱状部(105b)を有する位置決めピン(105)が、当該第1成形型(103)の成形面(103b,103d)から突出可能に設けられ、当該位置決めピン(105)の突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部(105a)が上記柱状部(105b)と連続して形成されていることを特徴とする樹脂成形品の射出成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1成形型及び第2成形型とインサート部材との間に形成されるキャビティ内へ樹脂を射出充填することにより、上記インサート部材がインサートされた樹脂成形品を成形する射出成形方法及び射出成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1成形型及び第2成形型とインサート部材との間に形成されるキャビティ内へ樹脂を射出充填することにより、上記インサート部材がインサートされた樹脂成形品を成形する射出成形方法が開示されている。この射出成形方法では、第1成形型に支持部材を当該第1成形型の成形面から突出可能に設け、当該支持部材にインサート部材を載置した状態で、上記キャビティ内への樹脂の射出を開始するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、上記キャビティ内への樹脂の射出の開始時に、支持部材の突出方向と直交する方向へのインサート部材の移動が規制されないので、樹脂の射出圧によりインサート部材が支持部材の突出方向と直交する方向に動き、樹脂成形品におけるインサート部材の位置精度の悪化を招く虞がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂成形品におけるインサート部材の位置精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、第1成形型に設けた位置決めピンをインサート部材の位置決め孔に挿入できるようにしたことを特徴とする。
【0007】
具体的には、第1~第6の発明は、第1成形型及び第2成形型とインサート部材との間に形成されるキャビティ内へ樹脂を射出充填することにより、上記インサート部材がインサートされた樹脂成形品を成形する射出成形方法を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、第1の発明は、上記第1成形型には、柱状部を有する位置決めピンが、当該第1成形型の成形面から突出可能に設けられ、上記インサート部材には、位置決め孔が形成され、上記第1成形型及び上記第2成形型のいずれかに上記インサート部材を載置し、上記位置決めピンを、上記第1成形型の成形面から突出させて上記インサート部材の位置決め孔に挿入することで、上記位置決めピンの柱状部を上記インサート部材の位置決め孔に嵌合させ、かつ上記第1成形型及び上記第2成形型を型締めした準備状態で、上記キャビティ内への樹脂の射出を開始することを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る樹脂成形品の射出成形方法において、上記位置決めピンの突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部が上記柱状部と連続して形成されていることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第2の発明に係る樹脂成形品の射出成形方法において、上記準備状態で、上記位置決めピンの先細り部と、上記第2成形型の成形面とが間隔を空けていることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第1~第3の発明のいずれか1つに係る樹脂成形品の射出成形方法において、上記位置決めピンは、突出方向及び反突出方向に進退可能に設けられ、上記キャビティ内への樹脂の射出を開始してから終了するまでの間に、上記位置決めピンを、上記準備状態における位置から反突出方向に向けて所定の後退位置まで後退させ、上記位置決めピンの後退により形成される空間部にも上記樹脂を充填することを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第4の発明に係る樹脂成形品の射出成形方法において、上記位置決めピンの突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部が上記柱状部と連続して形成され、上記後退位置で、上記位置決めピンの柱状部を上記インサート部材の位置決め孔から離脱させるとともに、上記先細り部全体を上記第1成形型の成形面から突出させることを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第1~第5の発明のいずれか1つに係る樹脂成形品の射出成形方法において、上記位置決めピンは、突出方向及び反突出方向に進退可能に設けられ、上記樹脂成形品には、凹部が形成され、上記樹脂成形品の離型前に、上記位置決めピンを、上記樹脂成形品の凹部に係合することで上記樹脂成形品の離型を妨げる位置から、上記第1成形型の成形面から突出しない非突出位置に後退させることにより、上記樹脂成形品を離型できるようにすることを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第1成形型及び第2成形型を備え、上記第1成形型及び上記第2成形型とインサート部材との間に形成されるキャビティ内へ樹脂を射出充填することにより、上記インサート部材がインサートされた樹脂成形品を成形する射出成形金型であって、上記第1成形型には、柱状部を有する位置決めピンが、当該第1成形型の成形面から突出可能に設けられ、当該位置決めピンの突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部が上記柱状部と連続して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、キャビティ内への樹脂の射出の開始時に、樹脂の射出圧によってインサート部材が位置決めピンの突出方向と直交する方向に移動するのを位置決めピンが規制するので、樹脂成形品におけるインサート部材の位置精度を高められる。
【0016】
第2の発明によれば、位置決めピンの突出側端面を、インサート部材の位置決め孔の開口と同じ大きさ及び形状の平坦面にした場合に比べ、位置決めピンをインサート部材の位置決め孔に容易に挿入できる。
【0017】
第3の発明によれば、第2成形型の成形面が、位置決めピンの先細り部によって傷つけられないので、第2成形型の成形面に凹凸を設け、当該凹凸によって樹脂成形品の表面にシボ模様を形成することが可能になる。したがって、樹脂成形品のデザインの自由度を高められる。
【0018】
第4の発明によれば、準備状態において位置決めピンの突出側端部と第2成形型の成形面とが接近する場合でも、上記空間部に樹脂を充填することにより、樹脂成形品における位置決めピン対応箇所を厚くできる。したがって、樹脂成形品における位置決めピン対応箇所が薄過ぎることに起因してヒケ、艶ムラ、及び穴開きが樹脂成形品に生じるのを抑制できる。
【0019】
第5の発明によれば、後退位置で位置決めピンの柱状部をインサート部材の位置決め孔から離脱させるので、インサート部材の位置決め孔を樹脂で被覆できる。
【0020】
また、後退位置で位置決めピンの先細り部を上記第1成形型の成形面よりも後退させた場合に比べ、上記空間部に充填される樹脂により突起が形成されず、樹脂の使用量を削減して材料コストを抑えることができる。
【0021】
第6の発明によれば、キャビティ内への樹脂の射出の終了時における位置決めピンの位置を、樹脂成形品の離型を妨げる位置に設定できるので、樹脂成形品の形状の自由度を高められる。
【0022】
第7の発明によれば、位置決めピンの柱状部を嵌合させる位置決め孔をインサート部材に形成した場合に、位置決めピンの突出側端部を柱状部で構成した場合に比べ、位置決めピンをインサート部材の位置決め孔に容易に挿入できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態1に係る射出成形方法により射出成形された樹脂成形品としてのインナパネルを備えた車両用バックドアの分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る射出成形方法において、準備状態を示す成形工程図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る射出成形方法において、キャビティ内に樹脂を射出充填した状態を示す成形工程図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る射出成形方法において、インナパネルを可動型から離型する直前の状態を示す成形工程図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る射出成形方法により射出成形された樹脂成形品としての板状部材の斜視図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1は、ハッチバック車の車体後端に設けられたドア開口を開閉する上下開閉式の車両用バックドア1を示す。
【0026】
バックドア1は、車内側に位置する樹脂成形品としてのインナパネル3と、車外側に位置する樹脂製のアウタパネル5と、図示しない窓パネルとを備える。
【0027】
インナパネル3は、アウタパネル5と対向する略板状の板部7を有する。板部7の上半部分には、車幅方向に延びる略矩形状の窓用の開口9が形成されている。インナパネル3の板部7の外周側の端縁には、アウタパネル5側に立ち上がる外側周壁部11が全周に亘って環状に設けられている。車幅方向両側の外側周壁部11の上半部の内周側の面には、
図2に示すように、反解放側に向けて徐々に幅狭となる円錐状の1対の凹部11aが上下方向に間隔を空けて形成されている。板部7の開口9側の端縁には、アウタパネル5側に立ち上がる開口側周壁部13が全周に亘って環状に設けられている。
【0028】
インナパネル3の上半部の車幅方向両端部には、
図3にも示す鉄製のインサート部材15が一体にインサートされている。車幅方向両側のインサート部材15は、左右対称の形状を有している。インサート部材15は、板面をインナパネル3の板部7の板厚方向に向けた板状の主板部17を有している。主板部17は、開口9の上端縁に沿って延びる第1板部17aと、第1板部17aの車幅方向外側の端部から車幅方向外側に向かって下方に傾斜して延びる第2板部17bと、第2板部17bの下端部(車幅方向外側の端部)から下方に向けて延びる第3板部17cとで平面視略への字状に形成されている。主板部17の第3板部17cの車幅方向外側の端縁には、板面を車幅方向に向けた突出板部19がアウタパネル5側に向けて突設されている。突出板部19には、断面円形状の1対の位置決め孔19aが上下方向に間隔を空けて貫通形成されている。各インサート部材15の主板部17の第3板部17cの車幅方向外側の端部と、突出板部19全体とが、インナパネル3の外側周壁部11に埋設され、突出板部19の位置決め孔19aは、外側周壁部11の凹部11aに対応する箇所に位置している。主板部17のアウタパネル5側の面は、アウタパネル5側に露出し、主板部17の反アウタパネル5側の面は、インナパネル3の板部7に接している。
【0029】
図4~6は、本発明の実施形態1に係る樹脂成形品の射出成形方法として、上述のように構成されたインナパネル3の射出成形方法を示す。
【0030】
成形に際し、
図4及び
図5に示すような射出成形金型100と、上記インサート部材15とを用意する。射出成形金型100は、第2成形型としての固定型101と、第1成形型としての可動型103とを備えている。
【0031】
固定型101は、インナパネル3の板部7の反アウタパネル5側の面を成形する固定型側第1成形面101aと、外側周壁部11の外周側の面を成形する固定型側第2成形面101bを有している。固定型側第1成形面101aは、略鉛直下方に向いている。一方、固定型側第2成形面101bは、略水平方向に向いている。
【0032】
可動型103は、インナパネル3の板部のアウタパネル5側の面を成形する可動型側第1成形面103aと、外側周壁部11の内周側の面を成形する可動型側第2成形面103bと、外側周壁部11の端面(アウタパネル5側の端面)を成形する可動型側第3成形面103cとを有している。可動型側第1成形面103a及び可動型側第3成形面103cは、略鉛直上方に向いている。一方、可動型側第2成形面103bは、略水平方向に向いている。
【0033】
可動型103には、可動型側第2成形面103bから突出可能な位置決めピン105と、位置決めピン105を反突出方向に付勢するバネ107と、位置決めピン105を突出方向及び反突出方向に進退させる図示しない駆動装置とが設けられている。したがって、位置決めピン105は、突出方向及び反突出方向に進退可能になっている。位置決めピン105の突出側端部には、突出方向に向かって徐々に細くなる円錐形の先細り部105aが形成されている。位置決めピン105の先細り部105aの反突出側には、円柱形状の柱状部105bが先細り部105aと連続して形成されている。
【0034】
そして、可動型103を下降させて射出成形金型100を型開きし、かつ位置決めピン105を可動型103の可動型側第2成形面103bから突出しない非突出位置に後退させた状態で、可動型103の可動型側第1成形面103aにインサート部材15を載置する。この状態で、
図4に示すように、インサート部材15の主板部17における突出板部19の反突出側の面が可動型103の可動型側第1成形面103aに当接し、突出板部19と可動型側第2成形面103bとが、間隔を空けて対向する。そして、駆動装置の駆動によって位置決めピン105をバネ107の付勢力に抗して進出させることにより、可動型103の可動型側第2成形面103bから突出させ、位置決めピン105の先細り部105aをインサート部材15の位置決め孔19aに挿入し、その後、位置決めピン105の柱状部105bをインサート部材15の位置決め孔19aに嵌合させる。これにより、インサート部材15を可動型103に対して位置決めピン105の突出方向と直交する方向に位置決めできる。このとき、位置決めピン105の突出側端部に、突出方向に向かって徐々に細くなる先細り部105aを設けているので、位置決めピン105の突出側端面を、インサート部材15の位置決め孔19aの開口と同じ大きさ及び形状の平坦面にした場合に比べ、位置決めピン105をインサート部材15の位置決め孔19aに容易に挿入できる。
【0035】
次いで、上述のようにインサート部材15を可動型103に対して位置決めした状態で、可動型103を上昇させて射出成形金型100を型締めすることにより、
図4に示すように、固定型101及び可動型103とインサート部材15との間にキャビティCを形成した準備状態とする。この準備状態で、位置決めピン105の先端、すなわち先細り部105aと、固定型101の固定型側第2成形面101bとは、互いに間隔Dを空けている。そして、この準備状態で、キャビティC内への樹脂Rの射出を開始する。このとき、位置決めピン105の柱状部105bがインサート部材15の位置決め孔19aに嵌合した状態で、インサート部材15が位置決めピン105の突出方向と直交する方向に移動するのを規制するので、インナパネル3におけるインサート部材15の位置精度を高められる。
【0036】
その後、キャビティC内への樹脂Rの射出が終了するまでの間に、
図5に示すように、駆動装置により位置決めピン105を上記準備状態における位置から反突出方向に向けて所定の後退位置まで後退させる。位置決めピン105は、当該後退位置において、柱状部105bをインサート部材15の位置決め孔19aから離脱させるとともに、先細り部105a全体を可動型103の可動型側第2成形面103bから突出させる。なお、位置決めピン105を上記後退位置に後退させるタイミングは、位置決めピン105の柱状部105bをインサート部材15の位置決め孔19aから離脱させてもインサート部材15が位置決めピン105の突出方向と直交する方向に移動しない程度に樹脂RがキャビティC内に射出されているタイミングである。そして、キャビティC内への樹脂Rの射出を引き続き行うことにより、位置決めピン105の後退により形成される空間部Sを含むキャビティC内全体に樹脂Rを射出充填し、キャビティC内への樹脂Rの射出を終了する。
【0037】
このように、位置決めピン105の後退により形成される空間部Sにも樹脂Rを充填するので、準備状態において位置決めピン105の突出側端部と固定型101の固定型側第2成形面101bとが接近する場合でも、インナパネル3における位置決めピン105対応箇所を厚くできる。したがって、インナパネル3における位置決めピン105対応箇所が薄過ぎることに起因してヒケ、艶ムラ、及び穴開きがインナパネル3に生じるのを抑制できる。
【0038】
また、上記後退位置で位置決めピン105の柱状部105bをインサート部材15の位置決め孔19aから離脱させるので、インサート部材15の位置決め孔19aを樹脂Rで被覆できる。
【0039】
また、後退位置で位置決めピン105の先細り部105aを可動型103の可動型側第2成形面103bよりも後退させた場合に比べ、空間部Sに充填される樹脂Rにより突起が形成されず、樹脂Rの使用量を削減して材料コストを抑えることができる。
【0040】
このように位置決めピン105を後退位置に後退させた状態で樹脂Rが固まり、インサート部材15がインサートされたインナパネル3が成形される。このとき、位置決めピン105の先細り部105aが、インナパネル3の車幅方向両側の外側周壁部11の内周側の面に形成された凹部11aに係合することで、インナパネル3の離型を妨げている。つまり、インナパネル3の凹部11aが、可動型103から取り外せない形状のアンダーカット部を構成している。
【0041】
その後、可動型103を下降させて型開きするとともに、
図6に示すように、位置決めピン105を駆動装置により可動型103の可動型側第2成形面103bから突出しない非突出位置にさらに後退させることにより、インナパネル3を離型できるようにし、インナパネル3を可動型103から上方(
図6中矢印Xで示す方向)に取り出す。
【0042】
このように、インナパネル3の離型前に位置決めピン105を非突出位置に後退させるので、キャビティC内への樹脂Rの射出の終了時における位置決めピン105の位置を、インナパネル3の離型を妨げる位置に設定でき、インナパネル3の形状の自由度を高められる。
【0043】
したがって、本実施形態1によれば、準備状態で位置決めピン105の先細り部105aが固定型101の固定型側第2成形面101bに当たらず、固定型101の固定型側第2成形面101bが位置決めピン105の先細り部105aによって傷つけられないので、固定型側第2成形面101bに凹凸を設け、当該凹凸によってインナパネル3の表面(反アウタパネル5側の面)にシボ模様を形成することが可能になる。したがって、インナパネル3のデザインの自由度を高められる。
【0044】
また、樹脂Rの射出圧によるインサート部材15の移動を防止するために、固定型101及び可動型103でインサート部材15を挟持するようにした場合には、固定型101及び可動型103との当接によるインサート部材15の露出領域をインナパネル3の両面に設ける必要が生じる。これに対し、本実施形態1によれば、準備状態でインサート部材15を可動型103に載置するだけなので、可動型103との当接によるインサート部材15の露出領域を、インナパネル3の一方の面だけに設ければよく、インサート部材15の露出領域をインナパネル3の両面に設ける必要がないので、インナパネル3のデザインの自由度を高めることができる。
【0045】
また、可動型103との当接によるインサート部材15の露出領域を、インナパネル3の板部7のアウタパネル5側の非露出面に設けているので、インナパネル3の露出面(意匠面)に設けた場合に比べ、インナパネル3の外観見栄えを向上できる。
【0046】
(実施形態2)
図7及び
図8は、長方形板状の樹脂成形品としての板状部材21を示す。この板状部材21の表面(
図7及び
図8中下側の面)は平坦に形成されている。一方、板状部材21の裏面には、反解放側に向けて徐々に幅狭となる円錐状の1対の凹部21aが長手方向に間隔を空けて形成されている。
【0047】
板状部材21には、長方形板状の鉄製のインサート部材23が一体にインサートされている。インサート部材23の略中央部には、インサート部材23の長手方向に長い平面視長方形状の膨出部23aが形成されている。膨出部23aの先端面は、平坦になっている。インサート部材23の膨出部23aの長手方向両側にはそれぞれ、断面円形状の位置決め孔23bが膨出部23aとの間に間隔を空けて貫通形成されている。インサート部材23の膨出部23aの先端面は、板状部材21の裏側に露出する一方、インサート部材23の膨出部23aの先端面を除く部分は、板状部材21に埋設されている。
【0048】
図9及び
図10は、本発明の実施形態2に係る樹脂成形品の射出成形方法として、上述のように構成された板状部材21の射出成形方法を示す。
【0049】
固定型101は、板状部材21の表面を成形する表面用固定型側成形面101cと、板状部材21の外周端面のうち表面側の略半分の領域を成形する端面用固定型側成形面101dとを有している。表面用固定型側成形面101cは、略鉛直下方に向いている。一方、端面用固定型側成形面101dは、略水平方向に向いている。
【0050】
可動型103は、板状部材21の裏面を成形する裏面用可動型側成形面103dと、板状部材21の外周端面のうち裏面側の略半分の領域を成形する端面用可動型側成形面103eとを有している。裏面用可動型側成形面103dは、略鉛直上方に向いている。一方、端面用可動型側成形面103eは、略水平方向に向いている。
【0051】
可動型103は、1対の位置決めピン105と、1対のバネ107と、カムプレート109と、図示しない駆動装置とを備えている。
【0052】
1対の位置決めピン105は、裏面用可動型側成形面103dから突出可能に裏面用可動型側成形面103dの長手方向に互いに間隔を空けて設けられている。
【0053】
カムプレート109は、その上面を上記1対の位置決めピン105に下方(後退方向)から当接させている。カムプレート109の上面には、第1平坦面部109aと、第1平坦面部109aから位置決めピン105の並設方向(裏面用可動型側成形面103dの長手方向)一方(
図9及び
図10中左側)に間隔を空けて形成され、第1平坦面部109aよりも下方に位置する第2平坦面部109bと、第1平坦面部109aから第2平坦面部109bに向けて徐々に下方に傾斜する傾斜面部109cとでそれぞれ構成された2つの案内面部110が位置決めピン105の並設方向に間隔を空けて形成されている。
【0054】
カムプレート109は、図示しない駆動装置の駆動によって、第1のスライド位置(
図9における位置)と、第1のスライド位置よりも位置決めピン105の並設方向他方(
図9及び
図10中右側)の第2のスライド位置(
図10における位置)とにスライド可能である。
【0055】
カムプレート109は、第1のスライド位置で、第1平坦面部109aを位置決めピン105に当接させ、位置決めピン105の先細り部105a及び柱状部105bを、可動型103の裏面用可動型側成形面103dから突出させる。この状態からカムプレート109を第2のスライド位置に向かってスライドさせると、位置決めピン105が傾斜面部109cに案内されて下降(後退)する。カムプレート109が第2のスライド位置に達すると、第2平坦面部109bが位置決めピン105に当接する。この状態で、位置決めピン105の柱状部105bが、可動型103の裏面用可動型側成形面103dよりも後退し、先細り部105a全体だけが可動型103の裏面用可動型側成形面103dから突出している。
【0056】
本実施形態2では、
図9に示すように、準備状態で、カムプレート109を第1のスライド位置に配置する。この状態で、位置決めピン105の柱状部105bはインサート部材23の位置決め孔23bに嵌合する。また、位置決めピン105の先端、すなわち先細り部105aと、固定型101の表面用固定型側成形面101cとは、互いに間隔Dを空けている。
【0057】
また、準備状態でキャビティC内への樹脂Rの射出を開始した後、キャビティC内への樹脂Rの射出が終了するまでの間に、
図10に示すように、駆動装置によりカムプレート109を第2のスライド位置にスライドさせることにより、位置決めピン105を上記準備状態における位置から反突出方向に向かって所定の後退位置まで後退させる。
【0058】
本実施形態2では、位置決めピン105を上記後退位置に配置した状態で、位置決めピン105の先細り部105aが板状部材21の離型を妨げないので、板状部材21の離型前に、可動型103の裏面用可動型側成形面103dから突出しない非突出位置に位置決めピン105を後退させない。
【0059】
その他の板状部材21の射出成形金型100及び射出成形方法は、実施形態1と同様であるので、同一の構成箇所には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0060】
なお、上記実施形態1,2では、インサート部材15を鉄で構成したが、アルミニウムや真鍮等、他の金属で構成してもよい。
【0061】
また、上記実施形態1,2では、位置決めピン105の柱状部105bを円柱形状とし、先細り部105aを円錐形状としたが、柱状部105bを四角柱形状とし、先細り部105aを四角錐形状としてもよい。また、柱状部105bの断面を円及び四角以外の形状としてもよい。また、位置決めピン105の先細り部105aを錐体以外の形状としてもよい。例えば、位置決めピン105の先細り部105aを円錐台、角錐台等、截頭錐体の形状としてもよいし、先端に向かって徐々に幅狭となるように湾曲した形状としてもよい。
【0062】
また、上記実施形態1,2では、インサート部材15,23の位置決め孔19a,23bを断面円形状としたが、位置決めピン105の柱状部105bと嵌合可能な形状であれば、他の形状としてもよい。
【0063】
また、上記実施形態1,2では、インサート部材15,23の位置決め孔19a,23bを貫通孔としたが、有底の孔としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態1,2では、固定型101を可動型103の上方に配置し、準備状態でインサート部材15,23を可動型103に載置したが、可動型103を固定型101の上方に配置し、準備状態でインサート部材15,23を固定型101に載置するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態1,2では、位置決めピン105を可動型103に設けたが、固定型101に設け、固定型101の成形面から突出させてもよい。
【0066】
また、上記実施形態1,2では、可動型103にインサート部材15,23を載置した後に、位置決めピン105を進出させてインサート部材15,23の位置決め孔19a,23bに挿入したが、位置決めピン105を進出させた後に、位置決めピン105をインサート部材15,23の位置決め孔19a,23bに挿入してインサート部材15,23を可動型103に載置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、第1成形型及び第2成形型とインサート部材との間に形成されるキャビティ内へ樹脂を射出充填することにより、上記インサート部材がインサートされた樹脂成形品を成形する射出成形方法及び射出成形金型として有用である。
【符号の説明】
【0068】
3 インナパネル(樹脂成形品)
11a 凹部
15 インサート部材
19a 位置決め孔
21 板状部材(樹脂成形品)
21a 凹部
23 インサート部材
23b 位置決め孔
100 射出成形金型
101 固定型(第2成形型)
101b 固定型側第2成形面
101c 表面用固定型側成形面
103 可動型(第1成形型)
103b 可動型側第2成形面
103d 裏面用可動型側成形面
105 位置決めピン
105a 先細り部
105b 柱状部
C キャビティ
D 間隔
R 樹脂
S 空間部